聞こえてくる声からして女のようだ。「隣の山本君は女が訪ねてくるようなタイプだっけ?」 気になったヒロシはドアを開けてみる。 隣室のドアの前に立っていたのはコートを着た背の高い女だった。 薄汚れた靴を履き、紙袋、ボストンバッグを持った髪の長い女。 女はヒロシが山本と大学が同じということを聞くと、再び隣室のドアを叩き始めた。 妙な女だなと思いつつヒロシは自室に戻りベッドにもぐる。 翌晩深夜、再び隣室のチャイムが鳴る。 ドアの前で外の様子を窺っていると今度は自室のチャイムが鳴る。 昨日の女だ。 ドアを開けると、女は隣人が絶対いるはずだから自分にも確認してくれという。 隣室前で声を掛けるが反応は無い。 やはり留守のようだと言うと今度は電話を貸してくれという。 剥げたマニキュア、伝線したストッキング・・・ 隣人は出ないのに女は何度も掛け直す。 今朝ずっと隣に掛かってきていた電話もこいつだったんだ・・・ 昨日の女だった。 部屋にポーチを置き忘れたという。 ポーチがあることを確認すると電話は切れる。 そして今度は隣室の電話が鳴り始めた。 翌日。 大学でバイト先のコンビニで知り合った女子高生ルミを見掛ける。 この機会にルミに告白しようとするヒロシに、大学事務局から呼び出しがかかる。 要件も名前も告げない、ヒロシ宛ての電話がしつこく掛かってくるという。 電話に出るとあの女だった。 いますぐに置き忘れたポーチを返してくれという。 ルミを待たせていたヒロシは帰る訳にもいかず、部屋の鍵の隠し場所を教え、部屋から持って帰るよう伝える。 1日ルミとデートして過ごしたヒロシ。告白しそびれて自己嫌悪に陥りながら帰宅する。 部屋に戻ると、壁に手紙が貼ってある。 小さい字でびっしり書き込まれたお礼の手紙だった。 テーブル上には便箋や消しゴムのカスがそのまま残っている。 くずかごに丸めた捨てられた便箋を見ると絵が描いてある。 少女漫画のキャラクターや目のたくさんある怪物が描かれている気味の悪い絵だった。 さらに床にはマニキュアの剥げた爪が落ちていた。 酔いつぶれた佐竹を抱えながら自宅アパート2Fに辿り着くとそこにはあの女がいた。 女は合鍵で部屋のドアを開けようとしていた。 自分の部屋の合鍵を持っていることに驚き声を荒げるヒロシ。 女はヒロシを突き飛ばしその場を逃げる。 ヒロシの声で目を覚ました佐竹は女を追い掛ける。 しかし距離が縮まらない。酔っているとはいえ足には自信があるのに。 息が上がり倒れ込む佐竹。 自宅にいたヒロシに女から電話が掛かってくる。 女は佐竹が自分を追い掛けてきたことをなじる。 女は更に言う。「自分たちはうまくやれるはず」「悪いのは他の連中だ」 その頃走り疲れた佐竹は公園で煙草を吸って休んでいた。 そこに突然女が走ってくる。 そして手に持った傘で佐竹に殴りかかってきた。 倒され出血した佐竹は逆上。空手の技で蹴りつける。 しかし急所を突いても怯まず泣きながら襲いかかってくる女に根負けし、佐竹は逆に逃げ出すはめになる。 自分を探しに来ていたヒロシを見つけた佐竹は、追ってくる女から逃げるよう叫ぶ。 訳も判らず逃げ始めたヒロシの背中に女の手が掛かる寸前、前方から眩しいライトに照らされる。 巡回中の警察官だった。 ヒロシはうしろを振り返るがそこには誰もいなかった。 交番で一連の事情を説明するヒロシ達。 しかし酒臭い2人の話は警官に信じてもらえなかった。 佐竹は言う。あの怒って泣きじゃくる顔はガキの顔だった。 小学生時代に自分たちがいじめていた田尻早苗ではないか。 「悪霊」と仇名され、発狂した顔に重なると言う。 もしかしたら隣室の山本はカモフラージュに過ぎず、最初からヒロシが目当てで近づいてきたのではないか・・・ その頃、恨みに思われていた事を知り罪悪感を感じていたヒロシの部屋に女が訪ねてくる。 玄関に招き入れ、尋ねるヒロシ。「お前は田尻なのか?・・・」 そこに佐竹から電話が掛かってくる。 女が部屋にいることを知った佐竹は言う。「それは田尻じゃない、全然知らない女だ!」 佐竹は鎌倉で田尻本人に会っていた。あの女とは全くの別人だった。 女はヒロシをみつめて無気味に笑っていた。 そこにルミがやってくる。 部屋にいる女を見て声を上げるルミ。 ずぶ濡れ、すり傷、切られたスカート。 ルミを見て女に襲われたことを察したヒロシは声を荒げる。 ヒロシは部屋を逃げようとする女を捕まえようとするが、女が刃物を持っていることを心配するルミに止められる。 窓伝いに部屋に忍び込むと、中は物が散乱していた。 「だれもいない」「わたしたちはうまくいく」 部屋の壁を埋め尽くす落書きを見て薄ら寒くなる。 手すりにつかまり自分の部屋に戻ろうとするとカーテンの隙間から女の荷物が見える。 自分の部屋にあの女がいる! 女はカーテンの後ろに隠れていた。目が合ったヒロシを部屋にひきずりこむ。 そして自分にした仕打ちを謝れと言う。「素直にならないと何をするかわからない」 やってみろと言うヒロシに女は襲いかかる。 持っていた懐中電灯で頭部を殴りつけるが女は動じない。「おまえは痛みを感じないのか?」 女は言う。「ホントの痛みを知っているか?地獄のような人生を送ってきた人が死ぬために手首を切った。 地獄からの解放感、死への期待、その先には幸福があるはず・・・」 「痛さよりも血の暖かさの方が彼女にとっては心地いいはずだわ・・・」 女の手首にはリストカットの痕があった。 「あたしたちはうまくいく・・・幸福が約束されているのなら痛みも苦しみも何でもないの」 女はナイフを取り出す。 身の危険を感じたヒロシは部屋の窓から飛び降り逃げる。 アパートから離れ、振り返ると自分の部屋から出火していた。 そして燃え盛る部屋の中にはあの女が立っていた。 飛び降りたときに膝を怪我をしていたため病院に搬送されたらしい。 看護婦からアパートが全焼したこと、負傷者はヒロシだけだったことを聞く。 あの炎の中から逃げたのか? 誰も女を見ていないというのに。 アイツはまだどこかで生きているのか・・・ 深夜。 アイツは俺にとりついている、必ずここにもやってくる・・・ そう考えたヒロシは病院内の公衆電話から佐竹に相談するが強迫観念だと言われてしまう。 ヒロシは病院を抜け出すことにする。 深夜の病院の誰もいない薄暗く長い廊下。 その先にのっぺらぼうの女の子が見える。胸の名札には「たじりさなえ」とある。 顔を覚えていないためにのっぺらぼうに見える強迫観念だと考え目を覚ます。 再びその方向を見ると誰もいない。 するとプーップーッと電話の音が。 「もしもしサチコさん?」「大丈夫、逃がしはしないわよ」「そう、あなたの思い通りよ」 通じていない電話と話す声が聞こえてくる。 そこにはあの女がいた。 力を振り絞りエレベーターに逃げ込むヒロシ。 1F待合室に辿り着き足を引き摺りながら出口を目指す。 そこにもう一台のエレベーターが下りてくる。 あの女が乗っていた。 ヒロシは待合室のベンチの下に隠れていた。 「森くん? 森くーん」女はヒロシを探してまわる。 女がいなくなったことを確認しヒロシはベンチから体を出す。 すると床には影が見える。 振り返ると女はすぐ後ろにいた。 女は手に注射器を持っている。 怪我をした膝を踏みつけられ逃げられなくなったヒロシ。 女はヒロシの上に馬乗りになる。 「頼む〜 やめてくれ〜」泣き叫ぶヒロシの首に針が刺さる。 懇願するヒロシに女は言った。 「何言ってんの?」 若い男が立っている。 後ろから主婦達の噂話が聞こえてくる。 「痴情のもつれだって。」 「でね、逃げるときに怪我をした学生が病院で女にヘンな注射をうたれて3日3晩苦しんで・・・」 「私が聞いた話だと、特殊な病原菌を注射されて狂乱状態に・・・」 若い男は大学で佐竹に森の話を聞こうとするが取り付く島も無い。 公園のベンチに1人座り男は考えていた。 「誰も本当のことを話してくれないのは誰も本当の事を知らないからなのか?」 向かいのベンチに気配を感じ顔を上げるとそこにはあの女が座っていた。 目を逸らす男に女は微笑みかける。 「・・・どこに隠れていたの?」「山本君?」 山本は回想していた。 「夜中に隣室を訪ねる音がしてドアを開けた。たったそれだけなのに・・・」 「あの火葬場のある道でさー」 「・・・のCDの死んだボーカルの声が・・・」 「・・・のCMには呪いが掛かっていて2回続けて見ると3日後に・・・」 「じゃあコレ知ってる?」 「ロングヘアーに紙袋の女がドアをさぁ・・・」 終わり 最終頁は、四つん這いになったサチコが住宅街をカサカサと音を立てて移動し、 どこかのチャイムがピンポーンと鳴るコマで終わってます。 でも誰が何してるのか結局どういう落ちなのかよく分からん 落ちについてはヒロシはどうなったかわからない、山本くんもどうなるかわからない。 最終頁については作者の意図が不明なんだけど 作品スレではストーカー・都市伝説の話だったのに 結局化け物だったということで台無しなんて意見が多かった。 質問 佐竹はなんで取り付く島もないの? >「もしもしサチコさん?」 これは誰の台詞? 何が現実で何が恐怖からくる妄想なのかよく分からない。 山本君は実際あの間どうしていたのかとか。 前者は、山本が興味本位で近付いてきたと思い語ろうとしなかった 佐竹はヒロシがどうなったかを知っているようだが読者には知らされない 後者はサチコさんのせりふ、1人で通じていない電話と会話していた ジョジョのトッピオみたいなもの こんな感じです。 >>99 この漫画は絵で表現している部分が多く主観的な解釈を入れると間違った情報を伝えることになるかと思い 避けてましたが、やはり表情等についても言及すべきでしたね。 病院以降のヒロシの話は妄想と現実がごっちゃに描かれています。 端折りましたが、ベンチ下から出てきたときに見た女は口が大きく裂けてました。 「何言ってるの?」と言うコマでは普通の口だったので妄想ということがわかるのですが。 山本くんは蛇に睨まれた蛙のように脂汗をかきながら下を向いて目を逸らしてます。 |