夢やしきへようこそ/さちみりほ
100 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/06(水) 14:24:54 ID:???
那智・・・妖怪たちと見世物一座を営み、日本中を廻っている。座員たちからは「兄さん(あにさん)」と呼ばれ慕われている片目の鬼。
勇太・・・かつて那智に拾われた人間の捨て子。気のいい妖怪の座員たちの中で育つ。
市松(いちま)・・・ただの人形だったが、長い時間を経て妖怪に変化し(というよりは生身になりつつある)、勇太に恋心を持つ
見世物小屋「夢やしき」の座員たち・・・ろくろ首とか三つ目小僧とか色々

注意・物凄くうろ覚えなので多少違っている所があるかもしれません。
それと、この漫画は勇太視点になったり那智視点になったり話ごとに時間の軸が異なったりするので、
勇太篇と兄さん篇の二つに分けてみました。

勇太篇
勇太は赤子の時分捨てられていたのを那智に拾われ、那智の引き連れる妖怪たちの中で育つ。
彼らは普段、本物の妖怪であると言うことを利用して見世物をしながら生計を立てている。
旅の途中で様々な妖怪たちと出会いながら成長してゆく勇太。
しかし、ある時市松がその本性を見られたことから人間たちに一座の者たちが本物の妖怪である事がばれ、その時、勇太と仲の良くなっていた一人の人間の子供が村の寺から妖怪を退治するための灰を持ち出す。
子供はその灰で市松を退治しようとするが、市松をそれからかばった勇太の方が、逆に砂となって消えてしまう。
実は勇太は拾われたときには既に死んでいて、那智がそれを甦らせていたのだった。
勇太の死に沈む座員たち。
那智も今回ばかりは甦らす事は無理かもしれないと言う。
市松は勇太が死んだのは自分のせいだと泣き、勇太が生き返るのなら自分の手も足も全部やると言う。那智は昔から本物の人間になりたがっていた市松に、長いこと時間をかけてようやく人間の姿になってきたのにそれを全部失ってもいいのかと問う。
数年後、勇太は大学生となっていた。あの勘違いで勇太のために妖怪を退治しようとした少年も今や青年となり、勇太とは兄弟として暮らしている。那智が、勇太たちの記憶を書き換えたのだ。
幸せに暮らす勇太だが、見世物のお囃子の音を聞くと、何故か胸が痛くなる。
途中、通りすがった見世物一座を振り向く勇太。
その荷車には古びた大きな人形が積まれていた。終わり

103 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/06(水) 16:06:12 ID:???
ちなみに勇太篇は明治〜大正時代の話。

那智・・・鬼たちの総大将であり、それらを率いて人間たちを殺すのを楽しんでいる。
八楯姫(やたてひめ)・・・那智の実の姉。心優しく美しい鬼だが、鬼と人間たちとの争いの末、人間に殺されてしまう。
すずな・・・干ばつの中、逞しく生きる少女。那智は次第にその生き様に感化されてゆく。
清白(すずしろ)・・・すずなの兄で、賢い。途中で裏切ると見せかけて良い人。
夜智・・・那智の血を貰って鬼となった人間。八楯が死ぬ直接の原因となった那智を憎んでいる。

104 名前:夢やしきへようこそ[長くなった] 投稿日:2005/07/06(水) 16:12:32 ID:???
那智篇
古代、角を持って生まれたがために神の国を追い出された二人の姉弟がいた。
小舟に乗って、人間たちの国へと辿り着いた二人は、人間たちの中で暮らすことになった。
優しく美しい八楯を慕う人間たちだったが、それとは逆に乱暴者の那智を怖れ、忌み嫌っていた。
そんな中、一人の人間が八楯を襲おうとする。それを防いだ那智だが、その際
姉が顔にやけどを負ってしまった。やけどは治ったものの、それ以来人間たちを憎むようになる那智。
時は流れ、鬼たちは誰が人間を最も殺せるかということで競っていた。
そこへふらりと現れた那智が天を指差すと、雨が止んだ。そしてそれきり雨は降らなくなり、大飢饉の
ために大勢の人間が死んだ。そこで鬼たちは彼こそが鬼の総大将になるにふさわしいと認めたのだった。
ところが、日照りの続く中でも逞しく生きる人間たちがいた。
那智はそれを不思議に思い、そこを訪れ、すずなという少女と出会う。すずなたちは願いを叶えるという
竜の玉の伝説を信じ込んで、民を顧みない領主の労役や重税から逃れるために、
山の中に砦を作り、細々と暮らしていた。
那智はその村人たちを一人でまとめているすずなの兄の清白に興味を持ち、砦に居座る。
しかしその領主が攻めてきたことにより大半の村人が死亡。清白は行方不明となったがその後は裏切り者として敵として登場、しかしそれは全て村の皆を助けるためだった。その計画は結局失敗し、
ずなや村人たちも矢に射抜かれて死亡する。
実は那智は領主の探し続けていた竜を己の右目に封じることで天候を操っていたのだが、
それを自ら抉り出すことで人間たちに雨を返した。
洪水が起こり、領主たちは死亡、武士や村人たちの死体の中に、
すずなの着ていた着物の布切れを見て、那智は涙を流すのだった。
その間、鬼を憎む人間たちによって鬼と人との戦が起こっており、
かつて人間だったが那智によって鬼となった夜智は慕っている八楯を懸命に守ろうとするが、結局人間によって八楯は殺され、自信も瀕死となる。戻ってきた優しくなった那智は
瀕死の夜智を死んだと勘違いして埋葬したのだが、実は夜智は生きていて、
八楯を守らず、しかも自分を生き埋めにしたと思って那智を怨む。
そして、時折色々な妖怪たちとのエピソードや夜智のちょっかいがある勇太篇に続く。

105 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/06(水) 16:16:06 ID:???
大体ストーリーはこんな流れです。
申し訳ないことにここまで書いておきながら最終巻は見逃してしまったので分かりません。
勇太篇の最後に終わりあるのは、時間軸が行ったり来たりするのでまとめやすくするためであり、
別に最終回ではありません。
どなたかラストを知っている方、補完してくれると嬉しいです。


118 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:32:58 ID:???
明治末。
「夢やしき」はお化けを出し物にした旅芸一座。
そのお化けたちは、作り物だという建前だが、実は本物の妖怪たちである。
一座の中で唯一人間の勇太は、赤子のころに拾われ、皆に愛されて育った。
一座は、ある村に小屋をかけることになったが、そこで勇太は村の子供たちに「本物の妖怪」と疑いをかけられる。
勇太は村の子供と喧嘩になるが、やがてその中のガキ大将格である杉作と親しくなっていく。
だが、他の子供たちは、勇太と一緒にいた生き人形・市松の異様さを感じ取り、寺から護摩焚きの灰を貰い、杉作にも手渡そうとする。
だが、そのころにはすっかり勇太と友達になっていた杉作は相手にしない。
その後、市松が村の子の飼っている犬に襲われ、逆に噛み殺してしまうという事件が発生。
それを目撃した杉作は、市松に向かって灰を投げかけるが、灰は市松をかばおうとした勇太にかかり、勇太は消滅してしまう。
実は、勇太は拾われたときに既に死んでいたのだ。
それを一座の座長である「兄さん」が反魂術で生き返らせ、皆で育ててきたのだった。
嘆き哀しむ一座の中で、市松は自分のすべてと引き換えに勇太を生き返らせて欲しいと懇願する。
兄さんはそれを聞き入れ、勇太から自分たちの記憶を消し去り、杉作の弟として村に置いて行くことにした。

119 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:34:00 ID:???
この後も1話完結型で物語は続きます。
一座にいた頃の勇太の話、一座の面々の過去話、ゲストキャラを主人公とした話など。

そのほとんどが独立した話として読めるような形式です。
その中に全体を通して一つの流れがあり、それは夢やしきの座長で元は鬼大将であった「兄さん」こと那智王の物語となっています。


那智王:冷酷な総大将。普段は西国に住まう。
夜刀王:元人間。死にかけていたところに那智に血を与えられ鬼となる。
     髪と肌の色以外は那智にそっくりな容貌を持つ。
八楯姫:美しく慈悲深い鬼姫。東国鬼を統括する。

120 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:36:02 ID:???
目覚めたばかりの鬼には、それまでの記憶が一切無かった。
八楯のもとに預けられた彼は、夜刀ヶ池の主としての地位を与えられ、東国鬼の仲間として迎えられる。
その鬼、夜刀王は最初、八楯姫になれなれしいということで、他の鬼たちに反感を抱かれていた。
夜刀のほうも、そんな鬼たちに反発するような態度をとっていたが、八楯のとりなしもあり、酒を酌み交わすうちに、双方とも友として受け入れるようになっていく。
そんな折、西国から総大将である那智がやってきた。
いつものように遠慮なく八楯の館へやってきた夜刀は、そこで初めて那智と出会う。
前々から顔のことで何やら言われ続けていた夜刀は、那智との対面で、総大将に似ているために自分の顔を恐れられていたことを知る。
夜刀は冷酷な那智に反発と恐怖を抱き、また自分の慕う八楯と親しい素振りを見せられ、那智への反感を強めていく。
当時は人間たちの鬼狩りがさかんになっていた時代だった。
東国鬼は人間たちの襲撃に遭い、八楯と夜刀は西国へと落ち延びる。
那智は生き残った鬼たちを焚きつけ、人間と争わせた。
皆が戦いに熱狂する中、八楯だけは人間たちへの復讐は鬼の滅びにつながると危惧していた。
初めは乗り気でなかった夜刀も、復讐心や嗜虐心にとらわれ、戦いに狂奔していく。
那智は直接手を出さず、その様を見物して楽しんでいたが、双方の被害が大きくなった頃合を見計らって、雨を止めてしまう。
飢饉により人間たちは次々と倒れていったが、鬼たちも同様に飢えと疫病に苛まれていった。

121 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:40:09 ID:???
鬼たちが次第に数を減らしていく中、行方知れずとなっていた那智が帰ってくる。
八楯はこのような事態を招くとわかりながら、那智を止められなかったことを自分の罪だと感じ、那智を殺そうとする。
だが、それを受け入れようとする那智を結局殺すことが出来ず、八楯は那智をかき抱く。
「この罪深いたった一人の弟が こんなにも こんなにも愛おしい…!」
それを偶然聞いていた夜刀は、たとえ顔が同じでも八楯の目が那智だけに向けられていると知って、深い絶望感に囚われる。
静かな生活の中、わずかに残っていた鬼たちも死に、残るは、那智、夜刀、八楯の3人のみとなった。
那智は、3人がかたまっているのは危険だと考え、夜刀に八楯を託し、東国へ戻るように告げる。
道中、八楯を峠に残して水を汲みに行った夜刀は、自分が鬼大将の身代わりになれば、八楯が那智と静かに暮らせるのではと考えていた。
まさにその時、夜刀は水鏡を通して、人間の大軍が那智のもとへ向かっていることを知る。
夜刀は那智に危険を知らせるが、那智は自分で「最後の一匹」の居場所を知らせたと返す。
夜刀は急いで那智のもとへ引き返すが、そこで見たものは、那智に先んじて人間たちに名乗りを上げた八楯の姿だった。

その後、那智は首をとられた八楯の亡骸を葬り、また、深手を負った夜刀を封印して、その場を去る。
那智が、時代に取り残された妖怪たちを集め始めるのは、幕末からとなる。

もう一人の生き残り、夜刀が傷を癒し再び目覚めるのは、封印されてから400年後。
夜刀は八楯を失った悲しみと恨みを那智にぶつけ、その命を狙うようになる。

122 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:46:35 ID:???
古代篇

神代の昔、生まれたばかり(といっても外見年齢は16〜7歳)の姉弟が、天照の手によって下界に流された。
異形の印を持って生まれた子、いずれ大きな災いをもたらす者というのが、その理由だった。
何も持たず小船に乗せられ大海に流された2人だったが、さまざまな困難に襲われつつも、辺境の島に流れ着く。
島の住民は2人を高天原から来た鬼神として敬い、迎え入れる。
姉姫はその村に残り、「八楯山の花織姫」と呼ばれ幸せに暮らしていった。
弟のほうは行方をくらまし、時折姉のもとへ贈り物を置いていくばかりで姿を見せようとしない。
弟はあちこちを旅していたが、やがて紀の滝のある一帯に住まうようになる。
その地の名から「那智の君」と呼ばれるようになった弟は、須佐之男の軍に入った。
手柄を立てれば高天原へ戻るよう取り計らうと約束されてのことだが、須佐之男は天照がそれを聞き入れることはないと知っていた。
須佐之男は承知の上で那智の力を利用しようとしたのである。
しかし那智の力は須佐之男の予想をはるかに上回っていた。
那智の報復を恐れた須佐之男は、姉を手に入れれば那智も自分に手を出せまいと考え、八楯を手篭めにしようとする。
八楯は抵抗し、はずみで倒れてしまった灯の火に顔を焼かれ、失明してしまう。
それを知った那智は、八楯の制止も聞かず、須佐之男を追っていく。

123 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:50:39 ID:???
須佐之男は兄の月読によって岩戸に匿われ、神将に警護されていたが、那智はそれを容易く破る。
追い詰められた須佐之男は、八楯と那智の角の秘密を話してしまう。
異形の印である角は、実は天照によってつけられたものだった。
イザナギから天地は男女神に治めさせるべきと告げられた天照は、自分が位を追われることを恐れて、八楯たちを高天原から追放したのだ。
そのことを那智に責められた天照は、命乞いをするものの結局殺されてしまう。
天照と引き換えに、八楯の顔の傷は消え、目も元通り見えるようになった。
那智は八楯を次代の天照にしようと迎えに行くが、八楯は地上で生きることを選び、村の者たちのもとへ戻ろうとする。
そこへ神将の生き残りの1人が毒槍を投じた。
那智は八楯をかばう形で槍を背に受ける。
死にゆく那智を抱きしめ、八楯は悲鳴をあげる。
その瞬間、世界は崩壊した。

124 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:52:46 ID:???
ここに到ってようやく八楯は自分が強大な力を持っていたこと、天照が真に恐れていたものは八楯の持つ力であったことに気づく。
那智を抱いたまま、ひとり取り残された八楯の前に月読が現れる。
月読は語る。
那智は姉の力に、そしてその力が弟を守るためだけに無意識に発揮されることに気づいていたのだろう、と。
だからこそ那智は八楯から離れたのだ。八楯に力を使わせないために。
八楯はそれを聞いて泣き伏し、自分の命と引き換えにすべてを戻して欲しいと願い出るが、それは無理だと返される。
神々の寿命はその者の力に比例するので、八楯ほどの力を持つ者の命を奪うことはできないというのだ。
八楯は、それならこの力のすべてを黄泉路に封じて欲しいと懇願する。
月読はそれを容れ、八楯の力、そして月読自身と姉の天照の命にかえて時間を戻すことを、イザナミに申し入れる。

八楯の願いどおり、この世は元に戻った。
ただ、太陽神は代替わりし、また、須佐之男は高天原での騒動はすべて自分に責任があると言い、自ら下界に下ったという。
八楯の傷と目も、時間と同時に戻ってしまった。
那智は再び旅に出ようとする。
送りに出た八楯は弟に向かって言う。
時が戻ったので傷も戻ってしまいました。でももう他の人の目はいりませんよ。
いつかあなたがその力を良いほうに高め、他の人の光を奪わずに治してくださるというのなら喜んで受けますけれど。
その後も八楯は平和な村で幸せに暮らした。
那智が仲間の鬼たちを連れて戻ってきたのは、それから数十年後のことだった。

古代篇 了

125 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:54:41 ID:???
那智は姉の八楯を喜ばせるために、領地を増やし、一族を栄えさせ、その頂点に姉を据えるといったことを成し遂げてきた。
夜刀もまた「姉の望むような弟」として、那智から八楯へ贈られた者だった。
しかし、那智がよかれと思ってなすことは、姉を憂えさせるばかり。
八楯を本当に悲しませていたのは、姉を愛するあまり、自分自身を含めて誰も愛そうとしなかった弟の心のありようだったのだ。
那智はいつからかそれに気づきはしたが、結局何も出来ぬままに八楯を失ってしまう。
だが、姉の手を求めるばかりだった那智の孤独な心も、さまざまな人間との出会いや「夢やしき」一座との暮らし、そして我が子の様に愛し育てた勇太の存在により、次第に変わっていく。

それぞれ人間や妖怪と交流しながらも、小競り合いを続ける夜刀と那智。
その中で、夜刀は徐々に自分の力が満ち、いずれは那智を超える力を持つだろうことを感じ取る。
那智もまた同様のことを感じ、「自分を殺しにくるもう一人の自分」として夜刀の訪れを待つようになる。

その2人が本格的に戦うことになったのは、大正時代のことだった。
しかし、戦いのさなか、夜刀の攻撃を前にして、那智は自ら守りを解いてしまう。
そのまま那智は、行方も生死もわからなくなってしまった。
別行動をとっていた夢やしき一座は、座長である兄さんの身を案じ、その帰りを待ちながら旅を続けていく。

126 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:56:15 ID:???
一方、人間たちのもとに残された勇太は、豪農・桜木家の次男坊として成長していった。
しかし、高校に入ったころから、術が解けかかり体調を崩すようになる。
自分はもう長くないと感じる勇太だったが、那智や夢やしきの者に助けられ、無事生き延びる。
やがて帝大を主席で卒業、大企業に就職するが、自分の力は評価されたものの、労働者への待遇のひどさ、改善を訴えても聞き入れられない状況に失望し、退職する。
その後、結婚し男児誕生。勇太は子煩悩な父となった。
大企業の要職を捨て、田舎へ帰っても家業を手伝うこともしない勇太を、周りは変わり者だと言ったが、母と妻はそんな彼を優しく見守っていた。
ある日、陸軍に入っていた兄・杉作から手紙が届く。
家業のことで自分に遠慮は不要、細君と家を盛り立てて欲しい、というその手紙を読んで、勇太は涙を流す。
勇太が昔から抱いていた違和感に、次男だからという以上に兄への遠慮があったことに、兄は気づいていたのだった。
その後、勇太は家業を継ぎ、数年後に太平洋戦争のため出征。
それからは勇太は直接登場せず、勇太の息子・勇太郎視点で戦中戦後の出来事が語られる。

127 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 01:57:33 ID:???
戦争も末期に差し掛かった頃。
富豪の令嬢・杏子にかくまわれていた夜刀は、那智が生きていることに気づく。
杏子が引き留めるのも振り切って那智のもとへ行く夜刀。
那智と夜刀は再び対面するが、先の一戦で双方とも力のほとんどを失っていた。
残った力で那智を殺そうとする夜刀。
静かに死を待つ那智。
そこへ空襲にもかまわず、夜刀を探しにきた杏子が現れる。
杏子は2人の前で大火傷を負い、さらにその身をもって機銃から夜刀をかばい、重傷を負う。
那智は米軍機を破壊し、夜刀に早く行けと告げる。
夜刀は杏子を抱えてその場を去ったが、すでに傷を治すほどの力すら残っておらず、杏子は夜刀の腕の中で息を引き取る。
焼け跡の中、生き延びた人間、その後も生き続けようとする人間たちの様子を見やりながら、言葉を交わす那智と夜刀。
夜刀は言う。
「わしらは子供や」
自分の好きなものだけを求め、それ以外を顧みず、失ってからその愚かさに気づき、あわてて善人のふりをしたがる。
何百何千年生きていようと、自分たちはそんな子供のままだ、と。
夜刀にはもう那智を殺せるだけの力は残っていなかった。
また死に損なったがそのくらいの計算違いは我慢しろ、もう二度と会うこともないだろうと言い置き、夜刀は那智の前を去ろうとする。
那智は去り行く夜刀に問い掛ける。
「…人間に戻りたいか?」
夜刀は答える。
「まさか」
あんな面倒くさいもん、一回やったら充分やで…。

128 名前:夢やしきへようこそ[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 02:03:19 ID:???
勇太の息子、勇太郎も空襲のため、目の前で教師や級友を失っていた。
その後まもなく伯父・杉作の戦死の報が届き、終戦を迎え、そして父・勇太はいまだ戦地から戻ってこない。
ある日、勇太郎は一人の男に出会う。
男の視線の先には、お化けの格好をして技を披露する芸人たちの姿。
昔はあの中にいたという男に、勇太郎は戻らないのかと問う。
男は、自分は体を駄目にしたので戻っても足手まといにしかならないと答える。
勇太郎はなぜそれでは駄目なのかとつぶやく。
「俺、戻ってきて欲しで!」
そう叫ぶ勇太郎の中に、男―――那智王はかつての勇太の姿を見た。
片足を失った友人のこと、戦地でどんなことになったか知れない父のことを思って泣く勇太郎に、那智は遠く離れた地で懸命に生き続けようとする勇太の姿を見せる。
勇太郎がふと気がついたときには、那智はもうどこにもいなかった。
父・勇太が帰ってきたのは、この4年後のことである。

ラストは現代。
遊園地でお化け屋敷の呼び込みをする夢やしき一座。
一時離れ離れになっていた座員も戻り、妖力を失っていた市松も復活。
そして、座長の那智の姿もその中にある。
かつての仲間たちが皆揃って客を迎え、大団円。