夢の果て/北原文野
478 :未解決リストから :04/05/12 22:48 ID:???
『夢の果て』北原文野 早川文庫JA 全3巻
1985〜1991 WINGS掲載作品
【設定等】
宇宙開発、クローン等の研究が爛熟した頃、何らかの原因で大戦が勃発。西暦は不明。
地上は放射能に覆われ、地下に逃れた僅かの人々だけが生き残った…
それから数世紀の後、各地下都市で暮らす人々は、地下暦(アトラス暦)の開始を共同宣言。

【用語解説】
P(ピー) 「混乱させる者(perplexer=パープレクサー)の略語。超能力者。
ESP研究所で反乱を起こし、捕囚法が成立。Pである事が判明すると、通報後、警察のP課に捕囚され、しかるべき施設に収容される。
遺伝ではなく、ある日突然、能力が発現する事がある。

【人物紹介】
◆スロウ・ケアク
主人公の少年。7歳。父を亡くし、現在は母と弟との三人暮らし。
◆サモス・ケアク
スロウの弟。3歳。
◆ステラ・ケアク
スロウとサモスの母。中央病院の医療情報処理課に勤務。「ミセス・コンピュータ」と呼ばれ、その腕前は超一流。
◆ヤン・フューデン
中央病院の勤務医。ステラの亡夫とは大学時代からの親友。ステラに想いを寄せている。
 
登場人物が増えた際には、その都度紹介します。

481 :夢の果て :04/05/13 00:19 ID:???
第一部 ひとりトランプ

仕事を終えて処理課を出たステラは、ヤンが小さな女の子、アニーを連れている所に出会う。
アニーはP病棟へ移送されるのだという。その後、二人は食事へ。
ヤンは、以前にも怪我で入院していた子供がPであると判明し、移送後に突然の心臓発作で死亡したと話す。
子供の死因に不審を抱いたヤンは、ステラにアニーの記録の調査を依頼する。
ある日、公園の噴水でスロウとサモスを遊ばせていたステラは、噴水が次にどこから出てくるかが判る、と言うスロウに驚く。
急いで帰宅したステラが、「ママの考えている事を当ててみて」と言うと、スロウは言い当てる。
スロウがPであると悟ったステラは、他人には言うな、ときつく言い渡し、部屋に篭る。
コンピュータ(面倒なので以下PCと表記。本当はもっとデカイ)の前で途方に暮れていると、死亡通知の処理依頼メールが届く。
『アニー・マックグローさんは、心臓発作のため、亡くなりました』
翌朝、出勤したステラは、ヤンにアニーの事を報告する。
短期間に同じ事が重なり、Pは殺されているのではないかと言うヤンに、偶然だと笑いつつ、ステラは動揺する。
帰宅後、スロウを救う方法は無いものかと、アニーの死亡通知画面を前にステラは考え込む。
トランプには切札があるのに、と無意識に指でTrumpと画面に綴ると、PCが反応する。
『パスワード:Trump、了解。入院ファイルは以下の通り…』
画面にはアニーを含むP科患者のリストが表示され、ステラはP達が心臓発作と偽って処刑されている事を知る。
スロウだけを逃がしてもすぐに捕まってしまう、他人に殺されるぐらいなら自分が…とステラは考えるが、残されるサモスを思い、計画を練る。
「スロウに考えを読まれないためには、自分を暗示にかけなくては…」
【スロウ・サモス計画】
PC「スロウは学校に出かけたか?」と問え→私「出かけた」と答えたら→PC「計画を思い出せ」…
スロウが側にいる間、私はこの計画を忘れる。決行は明後日…
催眠術プログラム:1.2…
万一、スロウ計画が警察にばれた場合、サモスの未来のために…
 
孤独なプログラミング作業は、夜中まで続いた―――
続く

483 :夢の果て2 :04/05/13 01:18 ID:???
計画決行の日。
スロウを学校へ送り出したステラは、サモスにモニタ画面を見せる。
『これから君の名はダニエル。愛称はダニーだ。ダニエル、ダニエル、ダニエル…』
サモスを連れ、遊園地の人気アトラクション『ガラスの海』を訪れたステラは、彼を一人で船に乗せ、置き去りにして帰宅。
アトラクションを終えたサモスはステラを探している所を保護され、自分の名はダニエルだ、と係員に告げる。
スロウの帰宅で催眠術プログラムが起動し、ステラは光線銃を取る。
「お帰り、スロウ。ママも一緒にいってあげるからね…!」
光線はスロウのこめかみから頬をかすめ、肩を撃ち抜く。スロウはステラの考えを読む。
「お前がPだから…Pはいけない…殺されるくらいなら、私がこの手で…」
「サ…モス…は…」
スロウはどこかから走り去るステラの姿を(頭の中で)見る。
スロウが意識を失い、PCの音声が響く。
『以上。スロウ・サモス計画。記録スル?シナイ?』
「記録しない…強盗が入った…」泣きながら、ステラは自分のこめかみに銃を当てる。
「サモス、元気でね―――」
 
ステラは死亡、スロウは一命をとり止めたが、意識不明の重体となる。
スロウは中央病院に運ばれ、ヤンの看病を受けていた。
刑事の来訪にヤンは、生死は五分五分だと告げ、早く犯人を捕まえてくれと促す。
『先日のステラ親子事件は、心中未遂、もしくはPによる犯行と思われております。
尚、次男のサモス君は依然、行方不明です。ニュースを終わります』
第一部 終