金田一少年の事件簿 雪影村殺人事件/原作:天樹征丸 漫画:さとうふみや
509 名前:雪影村殺人事件 登場人物 投稿日:04/08/05 21:45 ID:???
・金田一一(きんだいち・はじめ)
 名探偵金田一耕介の孫。祖父譲りの推理力で数々の難事件を解く。

・葉多野春奈(はたの・はるな)
 いつも校庭の片隅で絵を書いている、大人しく穏やかな少女。

・魚住響四郎(うおずみ・きょうしろう)
 船乗りの父を持ち、プロを目指してギターを弾いていた。

・太刀川都(たちかわ・みやこ)
 一とは母親が学生時代からの親友。

・島津匠(しまづ・たくみ)
 中学時代野球部に所属していた。豪球の持ち主。

・蓮沼綾花(はすぬま・あやか)
 明るく活発な性格。中学時代テニス部に所属していた。

・立石直也(たていし・なおや)
 中学時代、野球部で島津とバッテリーを組んでいた。

・社冬美(やしろ・ふゆみ)
 頭が良いが、固い所がある。綾花と仲が良い。

510 名前:雪影村殺人事件 1 投稿日:04/08/05 21:48 ID:???
 中学一年生の時、金田一一は、東北の小さな村に嫁いだ母親の親友を訪ねて、雪影村に二週間滞在した。
そこで知り合った者たちと、一はタイムカプセルを埋めた。五年経ったら開けるという約束で。
ある日タイムカプセルを一緒に埋めた仲間の島津から電話がかかってきた。
仲間の一人、春奈が死んだのだという。昨日の朝早く海岸で、手首を切って自殺した。

 葬式に出るために雪影村に行くと魚住に会った。ギターのプロを目指していた魚住の手は
女のようにスラリとして繊細だったが、漁師の父の仕事を手伝いギターをする事も無くなり、
すっかりと無骨な船乗りの手へと変わっていた。春奈の家には既に島津、綾花、立石、都が集まっていた。
遅れてやって来た冬美は、以前は地味な姿をしていたのに、垢抜けた美人へと変貌していた。
遅れた理由は、おそろいの数珠を探していたためだという。
「修学旅行の時、お寺で記念にって7人で買ったんだ。ほんのシャレのつもりだったのに…
 まさかこんな形で使うなんて…」都は悲しそうに数珠を見せながら言った。
村の古くからのしきたりに従い、春奈の葬儀が始まった。死装束を着た春奈の亡骸の上には、
三本の矢が置かれた。『上送りの矢』と呼ばれ、山の神,海の神,雪の神を表し、
死者の魂はこの村を治める三つの神に連れられあの世へ飛び立つのだという。
明日の朝まで春奈の死体は寺に安置される。明後日は、春奈も楽しみにしていた桜雪祭が行われる。

 本当に自殺だったのかと聞く一に、遺書は残っていたが、その内容が誰にもわからなかったと皆は言う。
『うれしい色だったはずが 許されない色だったなんて もうだめ 死ぬしかない』
遺書には涙で滲んだ後があり、筆跡は確かに春奈の物だった。
春奈は絵が好きだったので『色』というのは絵の具の事ではないかと魚住は言う。

 綾花と冬美は葬式の帰りに言う。「あんなことで死ぬなんて!バカよ!あの子」と冬美。
「あたし見ちゃったんだ。あの子が変なの買ってる所…」綾花は冬美にその事を説明する。
「あの子…あたしたちの作り話真に受けて…生きていけないって…」綾花は怯える。
「あの子が勝手に勘違いして死んだだけよ!別にあたしたちのせいじゃないわ!」
それを影で聞いていたある人物は、拳を硬く握り締め震えた。

516 名前:雪影村殺人事件 2 投稿日:04/08/06 11:09 ID:???
 雪影村には300年以上も昔から、4月の21日から25日にかけての五日間、
朝6時頃に最後の雪が降る。雪は一時間ほどで溶けて水になる。
「300年続いてる名残雪か。それって不思議だな」という一に都は、
「でしょ?だからこの村では古くから山の神海の神と共に雪の神も崇められてるんだ」
と説明する。都は推理小説が好きで、自身も推理作家を目指していると言う。

 二人は島津と立石が桜雪祭の準備をしている所を見つける。
練習ばかりの野球部も祭の日は休みなのかと訊ねると、高校の野球部は廃部になり、
二人はもう野球をしていないのだという。「ま、部が続いても俺はもう出来ないんだけどな」島津はつぶやく。
そこへ冬美と綾花がやって来る。今年のミス桜雪祭に選ばれた冬美は巫女姿だ。
寂れる一方の村から出て、東京に行ってタレントスクールに入るのが夢だと冬美は言う。
そこへ魚住もやって来る。春菜の棺から上送りの矢が消えたと魚住は報告した。

 翌日、タイムカプセルを掘りに八人は中学校の校庭に集まる。冬美と魚住はまだ来ていない。
雪はもう降ってきていて、すぐに積もるだろう。6人で先に掘ろうと向かう。そこへ魚住が到着。
校庭には既に足跡がついていた。冬美が先に来ていたのだろうか?
足跡の先には、白いコートを着て倒れている冬美がいた。首には上送りの矢が刺さっていた。
足跡は冬美のものしかなく、しかもこんな飾り矢では遠くから飛ばす事もできない。不可能犯罪だ。

 刑事は自殺だという。首の後ろの急所を矢に刺されて自殺なんておかしいと一は言うが、
現場の状況では自殺以外考えられないと言われる。都も、あれは殺人だと主張する。

 冬美に自殺する理由があるか、殺されるような理由があるかを知りに、一と都は冬美の家へ行く。
冬美の母は、春菜が自殺してから冬美は酷く落ち込んだ様子で、
「あたしのせいだわ…」といって泣いている所を見かけたことがあるという。

 春菜が生まれる前に両親は離婚し、春菜は父の顔を知らずに育った。
都は春菜とその父が話している所を見た事があるのだという。長身の父の右頬には不気味な大傷があった。


539 名前:雪影村殺人事件 3[sage] 投稿日:04/08/08 14:02 ID:???
 次に一と都は春菜の家に行く。そこで立石と遭遇。三人は春菜の遺書を見せてほしいと
春菜の母に頼む。以前に魚住にも同じ事を言われたと母は言う。
『今井龍矢様』と遺書の封筒に書かれていた。今井龍矢とは、春菜の父の名だ。
春菜は母に隠れて父と手紙のやり取りをしていた。遺書は父に出すつもりでそのままにしていたようだ。
父を慕って書いた文というよりは、まるで怒っているような、つっけんどんな文体だと一は思う。
 葬式の名簿をこっそり見ると、中には今井龍矢の名があった。
しかし、一が今井龍矢は葬式に出たのかと訊ねると、来ていないと春菜の母は答えた。

 雪影村の者たちは大きな港のある岬町へと次々に去っていく。都達が通う雪影高校も時期に廃校になる。
島津の義父の会社は港と関係なく羽振りが良いと魚住は言う。
去年の桜雪祭の頃、 魚住はふらりと一ヶ月ばかり村から消えた。
戻ってきた魚住はギターをやめると言い出し、 父の仕事を手伝うようになった。その理由は誰も知らない。
五年の間に皆変わったと驚く一に、 自分が野球を止めたのは肩を痛めてしまったからだと島津は言う。肩より上に腕が上がらないのだ。

 冬美の葬式に行くと、名簿に『今井龍矢』の名があった。しかしそれらしき人物は見当たらない。
冬美の母は、春菜の葬式の次の日に、縁側に干してあった冬美の靴が盗まれたと言う。

 春菜の葬式に今井龍矢は来たのではないかと訊ねる一に、春菜の母は同姓同名の別人だと答える。
この地方には今井姓の者が多いのだ。翌日、綾花が死んだという知らせが届く。冬美と同じく矢を刺されていた。
現場は中学のテニス部の部室で、綾花は電球を替えようと来ていた。何かを探したような形跡があったが、
電球は替えられておらず、懐中電灯を使ったようだった。綾花の葬式の日、皆の揃いの数珠が何者かに盗まれていた。

 一は海岸に雪が積もっていない事を不思議に思い、釣りをしている男性に訊ねる。
「そんなの中学生の理科の問題だぞ」一はその言葉で冬美が殺害された時のトリックに気づく。
男性の釣り箱には『今井龍矢』と書かれていた。春菜の父かと訊ねると、違うと男性は答える。
男性は以前に春菜の近所に住んでいた事があった。話を聞いていくうち、一は事件の真相に気づく。

続く

549 名前:雪影村殺人事件 4[sage] 投稿日:04/08/10 00:46 ID:???
 一は校庭に犯人を呼び出し、自首してくれと訴えかける。
しらを切る犯人に、一は数珠玉を見せる。
綾花が殺されたテニス部の部室の床の割れ目にあった物だ。
犯人は綾花殺害時にもみあいになって持っていた数珠をばらまいてしまったのだ。
もしこれを警察に発見されたら、一人だけ数珠を持っていない者が真っ先に疑われる。
そこで犯人は考えた。自分の物だけでなく、皆の数珠もなくなればいいと。そのために数珠は盗まれたのだ。
だからといってその数珠玉が自分の物だという証拠はないと犯人は言う。
しかし一にはもう全てがわかっていた。
数珠玉を拾う時、犯人は懐中電灯を使った形跡がある。
電球を替えて電気をつけて探した方がよっぽど見つけやすいのに。 犯人は電球を替える事ができなかった。
何故ならば、犯人には利き腕を使う事が出来なかったからだ。
「天井に直接つけられた電灯の傘を外す作業は、 両手を使わなければとても出来ない。
  まして利き腕でもない左手一本では。そうだろ?島津!」
利き腕を肩から上に上げられない島津こそが犯人だ。

 辺りにはいつのまにか雪が降り始めていた。
皆と一緒にいたのにあの足跡をつけられる筈がないと、島津は言う。
「島津、後ろを見てみろ」一の言葉に振り向くと、
積もったばかりの雪にいつのまにか足跡が浮かび上がっていた。
海岸に雪が積もらないのは、海岸の砂に塩分が含まれるからだ。
雪国では庭先に雪が積もらないよう塩をまく習慣がある。
この東北の村に生まれ育った島津はそれをよく知っていた。
島津は冬美の靴を盗むと、箱にその形の穴をあけた。
その穴に網を張り箱の中に塩を入れ、冬美を殺害する前に、
あたかも冬美が校庭に向かい歩いたかのように塩を降る。
後は、皆がくる時間よりも早く冬美を校庭に呼び出し殺害すればいいだけだ。
雪は警察がくる前には溶けて水になり、 塩も溶けて流れていく。証拠は残らない。一は言う。
「お前がガキの頃に離別した親父さんに会ったよ。春菜の父親と同姓同名の…」

550 名前:雪影村殺人事件 5 [sage] 投稿日:04/08/10 00:49 ID:???
 肩を壊して絶望していた島津を、恋仲にあった春菜は励ました。
春菜の貸してくれた本の影響で、島津は推理小説を書き始めた。
足跡のトリックは、島津が書いた小説に出てきたものだった。

 冬美と綾花も島津に恋をしていた。二人は島津と春菜の仲に気づき、嫉妬し、
父親が同姓同名である事を利用し『近親相姦の許されない仲だ』と嘘をついた。
「『うれしい事』が『許されない事』に変わる――あの言い回しで気づいたよ。春菜はお前の子供を身篭ってたんだろう?」
島津はそうだと認め、涙を流して地面にうずくまった。

 春菜の葬式の帰り、島津は冬美と綾花の会話で、春菜の自殺の理由を知った。
「冬美、あたし見ちゃったんだ。あの子が変な物買ってる所…薬局で妊娠検査薬買ってたの」
綾花の言葉に島津は驚愕した。その時まで、春菜が子供を身ごもっている事すら知らなかった。
妊娠検査薬は、妊娠しているとリトマス試験紙のように色が変わる。
『うれしい色、許されない色』それは妊娠検査薬を指していた。

 春菜は死ぬ前日島津の家へやって来て、アルバムを見せてほしいと頼んだ。
島津は深く考えずに見せた。 トイレにいって帰ってきた頃には、春菜は消えていた。
開き放したアルバムの中には、近所づきあいで幼い島津を抱いた春菜の父の写真があった。
自分と島津が血のつながった兄妹だと言われ、混乱していた春菜を追い詰めたのは島津だった。


 島津はポケットの中から最後の上送りの矢を取り出す。自らを罰するため島津は死のうとする。
そこへ野球のボールが飛んできて、上送りの矢は地面に落ちた。ボールが飛んできた方向には、立石達がいた。
立石は春菜と島津が付き合っている事を知っていた。そして、島津が冬美達を殺した犯人だと悟っていた。
「生きててもしょうがないなんて考えないでくれ!! 俺も立石も魚住も都も…
 お前がどんな奴だって、生きてて欲しいってそう思ってるんだからさ…」
今年最後の名残雪はいつの間にか雨に変わり、薄く積もった淡雪が溶けていくその様に、
一は五年前の同じ日の思い出を重ねていた。あの日この儚い淡雪の中で無邪気にはしゃいでいた皆。
それは大人になる痛みを知る前の、ほんの短い幻だったのかもしれない。
島津はその日のうちに自首した。