狐女/山岸涼子山岸凉子
210 名前:狐女 1 投稿日:04/06/29 23:17 ID:???
貧しい老夫婦のもとで、母親だという女性の写真を見ながら育った九歳の理(まさる)。
老夫婦の死後、F県の旧家の隠し子である理は九耀(くよう)家で暮らす事になる。
その家の主であり、理の父である征二郎は亡くなっており、そこには征二郎の妻と、
35歳も歳の離れた長兄・征一、一つ年上の姪・美央子、中学生の甥・稔がいた。
明るい美央子は理を連れて外に遊びに行くが、そこに近所の子供たちが来て、
ナマっちろい奴だな、イナリ屋敷にまた化け物が増えたと騒いだ。
稔が来て子供が逃げた後、理は『異形神社』を見つける。イギョウではなくイナリと読むのだという。
異形神社は九耀の敷地内にあり、そのためイナリ屋敷と呼ばれているのだろう。
そこへ派手な格好の女が来る。稔と美央子は彼女を見て逃げていく。
あんた誰?見かけない子ね。あたしこのお社のキツネ女はおかしな事を言った。

美央子に見せられたアルバムには、幼い頃から写真で見た母親が写っていた。
その女性の名は百合だという。九耀家でお手伝いをしていて、美央子が幼い頃に辞めた。
もっと面白い事をしよう。ここじゃだめ、薄暗いところじゃないと面白くない
理はそう言って美央子を押入れの中に連れ込む。しばらくして、着衣の乱れた美央子が飛び出した。

征一たちの話から、キツネと名乗った女が聖子(まさこ)という名だという事、
征二郎と妾との間の娘だという事を知る。征二郎は多数の妾を持っていた。
自分と同じ立場の聖子に、同病相哀れむような気持ちで理は話し掛ける。
記憶にすらない自分の母の百合。会いたいわけではないが、百合の事が知りたいと言う。
同じ立場にいるためか、そっけない態度を取るばかりの聖子がまるで昔から知っている人のように思える。
あたし子供とは友情を結ばない主義よ。帰って また来てもいい?
だめよ!ベタベタした子は特に嫌い!理は九耀家へと帰った。

理はその夜、夢を見た。青白い狐火の中、狐の尻尾が見えた。その先には聖子が。
理が触れると、聖子の顔は突如狐にかわりベタベタした子は嫌いだよ!と叫んだ。

211 名前:狐女 2 投稿日:04/06/29 23:19 ID:???
目が覚めた。どうしようもない気分、何もかもメチャクチャになればいい。
そこへ美央子が通りかかる。押入れの中でしたような事はしない、
自分は暗い所が好きだから、一緒に土蔵の中で遊ぼうと持ちかける。
美央子は怯えながらも素直についてきた。

征二郎の妻は、土蔵の中の声に気づく。

い、いや!いやだってば理ちゃん!さ、寒い うるさい静かにしろ
やめてやめて!冷たい 黙れと言っているのが聞こえないのか!

土蔵の中には全裸の美央子と、ホウキを持った理がいた。
その光景に、征二郎の妻は過去を思い出す。過去にもこんな光景を見た。
泣く美央子は服を着せられ連れて行かれる。征二郎の妻は怒りながら言う。
お前はお前の父親と…母親と同じだ!子供に何を言うのかと止める征一を振り払い、
この子の顔をごらん!子供じゃないよ!と叫ぶ。理は笑う。
親父は女なら誰にでも手を出したんだね。たった一人を除いては。
あんたにはお義理の征一ひとりだものね。わかったよ。あんたはお義理だよ
征二郎の妻はその言葉に我を失う。その顔が、理には狐のように見えた。

212 名前:狐女 3 投稿日:04/06/29 23:22 ID:???
出ておいき!人でなし!お前は犬畜生にも劣るんだ!
お前は父親と娘との間に生まれた畜生以下の子なんだよ!
お前はあのキツネつきの聖子と夫との間の子なんだ!化け物!
理は呆然とする。

嘘だ。だって……僕のお母さんは、お手伝いの百合って…
百合には莫大な金を払ってお前をこの村から連れ出してもらったのだよ!
二度と二度と見たくなかった!汚らわしい!お前は人間じゃない!どこへでもお行き!
父娘でつるんで生まれた子だ!皆が笑うわ!誰もお前を人間扱いしない!
理が生まれる前、征二郎と聖子が裸で土蔵の中にいるのを、征二郎の妻は見たのだ。


征二郎の妻は鞄と、大金を放り投げる。
お前はうちの子じゃない。いいや、人間の誰の子でもないんだからね。
お前の母親はここから一歩も出しゃしないが、お前はとっとと出ておいき!
理はその言葉に涙を流すわけでもなく、冷静に地面の金を拾って、聖子のもとへ走っていく。
あんたが僕のお母さんだって。あんたが僕を産んだの?すぐわからなかった?
聖子は男といちゃつきながら、子供なんて産んだ事はない、気味悪いと笑う。
理はその村を離れ、一人で電車に乗り、どこかへ行く。その顔はとても子供の物とは思えなかった。




あの社から飛んできたのかな
僕の胸に狐火がともってる
青白くて冷たいな