天使禁猟区/由貴香織里
403 名前:天使禁猟区 1[sage] 投稿日:2005/05/17(火) 09:51:35 ID:???
【物質界(アッシャー)編  ACT.1 電気仕掛けの天使】
男子高校生の無道刹那は両親の別居によって離れて暮らしている実の妹・紗羅に恋心を抱いている。
彼は幼い頃から他の人全てが怪我を負ったような状況でも一人だけ無傷でいて、その事で母から気味悪がられていた。
また、いつの頃からか、人の血を見るとひどい眠気に襲われるという謎の持病を持つようになった。
それらの事を知るのは、信頼する先輩である吉良朔耶だけだった。
そんな刹那を見ている二人の人物。銀色の髪と褐色の肌を持つ彼らは邪鬼(イヴィル)だ。
一人はゲヘナ王の第14子でドラゴンマスターの九雷。もう一人はそのいとこでオカマのアラクネ。
彼らが物質界にきた目的はただ一つ。かつて邪鬼に味方し
天に反旗を翻した咎で堕天使の烙印を押され
肉体と精神を引き裂かれ、罪が消えるまで物質界に転生され続けているという
美しき女天使・アレクシエルの生まれ変わりを探す事だ。それこそが刹那だった。

紗羅の通うカトリック女子校での友人・斉木翠雀は強い霊能力を持っていた。
ある日彼女は街を歩いていて謎の男――上級天使のカタンにフロッピーを渡される。
「これを貴方にたくすのは全てあの方のため…かつて天上で最も輝いていたロシエル様の御身のため…」
そこへ現れた刹那は「あんな危ない奴と関わるな」と翠雀をその場から連れ出す。
カタンは刹那の顔にロシエルの…そしてロシエルの双子の姉であるアレクシエルの面影を見る。
刹那にほのかな恋心を抱いた翠雀は、帰ってから『天使禁猟区』と題された先ほどのフロッピーを見る。
開いた途端翠雀が今までに受けた中傷などの酷い体験が頭の中に飛び込んできた。
泣き出す翠雀に、パソコンの中から囁きかける声が聞こえた。
パソコンの中の人は翠雀をラピスラズリと呼び、君は特別な存在なのだと言った。
そして、自らをANGEL(天使)と名乗った。

刹那・紗羅・翠雀がいる場所へ、九雷はカタンに当てるつもりで誤って攻撃を仕掛けてしまう。
刹那がとっさに紗羅をかばった瞬間、刹那の体から謎の波動が出て傷は一切できなかった。
しかし、攻撃によって割れたガラスをまともに全身に浴びた翠雀は、体中に傷を負い、
目の中にも大量のガラスが刺さったため失明した。
最後に見たのは刹那が紗羅だけをかばう姿だった――

416 名前:天使禁猟区 2[sage] 投稿日:2005/05/18(水) 20:22:52 ID:???
翠雀は失明した事と、刹那が紗羅の事しか考えず、紗羅だけをかばった事に一人で泣く。
パソコンの中の人が翠雀の頭に直接アクセスする。
「君ヲイジメル子ガイルナラ僕ガ消シテアゲルヨ」翠雀は紗羅の名を告げた。

刹那のクラスメートの松野が、謎の人物にもらった『天使禁猟区』というパソコンゲームを
やっている最中に頭を破裂させて死んだ。翠雀がもらっていたものだと同じだと気づき、
刹那は心配して翠雀宅へと走る。そこには見舞いに来ていた紗羅もいた。
何故か翠雀の両親は眠っており、翠雀は部屋から出てこない。二人は開けてくれとドアを叩く。
翠雀はパソコンの中の人と会話中だった。中の人は翠雀の目を治し、紗羅を消すと言う。
それを信じ、翠雀は中の人がいう通りの呪文を唱える。所変わってどこかのビルの屋上にいるカタン。
「主よお許しを。私はもうロシエル様についていくしかないのです。
 例えこの身が禁じられた暗黒魔術で堕ちようとも、私は彼の御方の封印を解く!」
彼は東京の人工電気の熱量を全てエナジーに変換し、それを全てロシエルに捧げた。
東京に大規模の停電が起こった。

気づくと翠雀の目は治っており、目の前に刹那に似た顔の美しい天使――ロシエルが現れた。
ロシエルは翠雀のおかげで目覚める事が出来たと感謝を述べると、体中から電気コードを伸ばして翠雀に巻きついた。
「君のデータと残りの霊力を吸収させてよラピスラズリ。他の皆も逝ったから寂しくないよ」
翠雀以外の『天使禁猟区』を使っていた人々は既に松野と同じく死んでいた。
刹那がようやく翠雀の部屋に入ると、そこには自分と同じ顔をした天使がいた。
初対面であるにも関わらず彼がロシエルという名だと刹那は何故かわかってしまう。
「僕を忘れた何て言わせないよアレクシエル。ほら…僕のこの顔と君はそっくりだろ…姉さん…」
ロシエルは血まみれの顔で笑いかけ、電気コードを刹那にも巻きつかせた。
刹那は必死で抵抗し、気づくと翠雀の部屋の前にいた。
扉はあけるとロシエルはもうおらず、翠雀だけがいた。
翠雀は「天使さまのおかげで目が見えるようになった」と笑う。
実はそれは、翠雀の姿をコピーして成り代わったロシエルだが、刹那たちは気づかない。

417 名前:天使禁猟区 3[sage] 投稿日:2005/05/18(水) 20:26:56 ID:???
夜道の中紗羅を家まで送っていく刹那。
そこに現れた同じ男子校の不良が二人に絡む。
刹那は不良を殴りまくる。停電のため街は暗く、血が見えないため眠気も起こらない。
「もうやめて!死んじゃうよ!」紗羅の言葉に刹那は我に返った。
紗羅と母の家の前で、紗羅は刹那が喧嘩のなかでつけた傷をなめる。
それを見つけた母は刹那を無視して紗羅を家に引き込む。
母は刹那の紗羅への思いに勘付いていたのだ。

カタンは、一刻も早く神性界(アツイルト/天界第一階層)に帰ってくれとロシエルに頼む。
アレクシエルによってロシエルが封印されている間に、神性界は神の力が圧縮され悪魔の力が活発になる
惑星十字路列(グランドクロス)が近づき、神は力を溜めるために長い眠りについた。
神なき今神性界は上級天使の権力争いと独裁が続き、
地上を導くための天使が階級性や差別に振り回される最悪な状況になっている。
今の天上を救えるのは『有機天使アレクシエル』と対をなし、
かつて天上で最高の位置にいた『無機天使ロシエル』しかいない。
カタン他数名の天使たちは、地上に降りてはいけないという規則を破り、
人間の命を犠牲にしてまでもロシエルを復活させたのだ。
しかし、ロシエルはアレクシエルの生まれ変わりらしき刹那を観察するためしばらく地上に留まると言った。

刹那に絡んだ不良・洋司は紗羅と同じ制服の女――翠雀(中身ロシエル)に絡む。
ロシエルは簡単に洋司に体を許すと、口写しに洋司に自分の細胞を飲み込ませる。
そうする事で、相手を自分の意のままの傀儡人形にする事ができるのだ。
洋司は体中からコードを飛び出させた化け物となった。
「とってもいい感じだ…もうすぐやわらかい肉を食わせてあげるからね」

ロシエルは翠雀の体で紗羅を呼び出し、洋司を通して不良たちに拉致らせ、刹那を呼び出した。
影で覗き見ていた九雷は、ロシエルから、確かに聖なる光を発しているのに、なにか恐ろしいものを感じた。
紗羅を開放しろと訴え掛ける刹那に、コードだらけの化け物になった洋司が襲い掛かる。紗羅は気を失う。
洋司に捕まれ刹那の腕がちぎれる。コードが腹を貫く。九雷は助けにいこうとするが、
極限状態で刹那がアレクシエルとしての力に目覚めるかもしれないとアラクネに止められる。

418 名前:天使禁猟区 4[sage] 投稿日:2005/05/18(水) 20:29:24 ID:???
しかし刹那がどれだけボロボロになってもアレクシエルは目覚めない。
紗羅という存在が『無道刹那』の意識を維持させているのだ。
ロシエルはアレクシエルを目覚めさせるため、紗羅に危害を加えようとする。
すると、六枚羽を持つ男とも女とも似つかない目も眩むように美しい精神体が現れた。
それは、太古の昔失われた宇宙魔術を自在に操れるという聖隠者(アダムカダモン)のセラフィタだった。
その精神体の放つ光の前ではロシエルの力が消える。
ロシエルはカタンの手引きによってその場から逃げた。
逆に、その光の力で刹那の体の傷は癒え、ちぎれた腕も治った。
九雷は、これで刹那がアレクシエルの生まれ変わりだと確定されたと言う。
「アレクシエルなんて知らない。今の俺には関係ない。お前も国に帰れ」
「俺の国はもうない。お前ら天使と人間に滅ぼされたんや」九雷は涙を流した。


九雷はゲヘナ皇家一の剣の使い手で皇位継承権があったが、手のつけられぬ乱暴者だからと追放された。
その頃、物質界では環境汚染が進み、崩れたバランスは表裏一体であるゲヘナ皇国まで汚していた。
弱体化した隙をついて天使軍は平和条約を破りゲヘナを襲撃し、九雷が戻った時には辺りは死体の山だった。
九雷は天使に見つかり殺されそうになった。それを救ったのがアレクシエルだった。
父王は九雷を追放する際、ピアスを渡した。それは三姉妹の龍が封印された秘宝だった。
天界の不審な動きを察知していた父王は、追放と言う名目で九雷を逃がし未来を託していたのだった。
「神も悪魔もない理想郷をつくろうって言ってくれとったのに…
 こんな風に見捨てるぐらいならなんであの血の海の中で野垂れ死ににさせてくれへんかったんや!」
九雷は泣き叫び怒鳴り、刹那を追い出す。

ゲヘナ皇国に戻った九雷が、死にかけた少年を救おうとした瞬間、現れた数人の天使によって少年は殺された。
「よく見りゃこいつ…一応女じゃないかよ。こいつはいいや」
泣き震える九雷を天使たちが蹂躙しようとした瞬間、何者かが彼らを斬り殺した。
「情けないこれが天使の姿かね。こいつらと悪魔とどう違う? 綺麗事並べ立てないだけまだ魔物の方が純真だ。
 立てるか小鬼。私は有機天使アレクシエル。たった今より神に反旗を翻す!」
それがアレクシエルとの出会いだった。

419 名前:天使禁猟区 5[sage] 投稿日:2005/05/18(水) 20:32:12 ID:???
それから九雷はアレクシエルに近づくために、夢中で剣術や魔術に励んだ。
アレクシエルの手には戦う相手によって属性を自在に変える
伝説の神剣・七支刀御魂剣(ナナツサヤノミタマノツルギ)がいつも光っていた。
しかしロシエルを封印するため奴に突き立てられた神剣は砕け散り、
アレクシエルも相打ちとなり天使軍の手に落ちた――



刹那が紗羅を連れて去った後の現場に、吉良が現れる。
吉良は話を全て聞いていたらしい。
アラクネは吉良を殺し、九雷と共にその場を去る。
二人が去った後、吉良は生き返った。
「だいぶ再生に時間がかかるようになってきたな。この体もそろそろ限界かね。
 刹那を渡すわけにはいかねーよ。なにしろあいつは、生まれる前から俺の女だからな」

気を失ったままの紗羅を母の家に連れ帰り、刹那は紗羅にキスをする。そこに母親がやってくる。
母は刹那を殴り叱咤し、お前はあの子をそんなに不幸にしたいのかと泣き叫んだ。
「こんな事許されるはずないじゃない! もうすぐ夫との離婚が成立して
 紗羅の苗字が変わるけどあんたたちは他人になるわけじゃない!
 たとえその血を全て抜き取って入れ替えたってそれは変わらない!
 あんたたちは一生実の兄妹なのよ!」
目覚めた紗羅はそれらの話を全て聞いた上で、
「お母さんいいの…私もずっと前からお兄ちゃんが一番…好きだもん…!」と言う。
母の言う通り紗羅を不幸にするだけだとわかっている刹那は、わざと紗羅をなじった。
傷ついた紗羅が飛び出した後で刹那は母に言う。
「あいつにはもう会わねーよ。でもそれは紗羅のためだ!あんたなんかに言われたせいじゃねえ!」
刹那は涙を流しながら家から飛び出し、先輩の吉良のもとへ行く。
吉良は父親を罵倒しながら家から出るところだった。
紗羅の事を話す刹那に「お前は溺れるように人を愛するな」と吉良は言う。
刹那は「先輩は女をとっかえひっかえしたり親を罵倒したりしてわざと愛を遠ざけようとしている」と言った。
「俺はオヤジに愛される資格がないんだ。世の中にはどんなに思っていても打ち明ける事さえ出来ない事がある。
 口に出してしまったら全てが終わる。どんなにそばにいても、だましつづけるしかない事も…」

420 名前:天使禁猟区 6[sage] 投稿日:2005/05/18(水) 20:34:38 ID:???
落ち込む紗羅のもとへ、翠雀の姿をしたロシエルがやってくる。
この前の拉致騒ぎは刹那もグルになってやったおふざけで、
自分にべったりしてくる妹が邪魔だといわれて手伝っただけだとロシエルは言う。
そんなの嘘だと叫ぶ紗羅をロシエルは気絶させ、紗羅のデータを取る。
「一体どうなされたというのです最近のあなたのなさり様は…」
そう問うカタンにロシエルは、口移しに自分の細胞を飲み込ませようとした。
カタンは咄嗟に吐き出す。ロシエルは他の天使たちにも自分の細胞を飲み込ませ、
次々と操り人形を作っていったのだという。
そんな事をしなくても皆ロシエルに忠誠を誓っていたのにとカタンは言う。
「双子の姉にまで裏切られた僕になにを信じろって言うのさ…!
 僕はね自分への愛か恐怖しか信じないんだよ。だから君も僕に完全に服従するか、
 僕を受入れて同化するかどっちかにしてよ。そう…父親の言う事は聞くもんだよ」
復活したロシエルが以前とは違うおかしな態度をとる事にカタンは疑問を感じた。
しかし、今の天界を立て直せるのはロシエルだけだ。

神剣を持ったアレクシエルはロシエルを完全に殺す事も出来たはず。
しかし彼女は何故かロシエルを生かし、封印するだけにした。
アレクシエルは復活したら、今度こそ完全にロシエルを殺してしまうかもしれない…
まだ刹那がただの人間であるうちに、自分の手で刹那を殺そうとカタンは決意する。



432 名前:天使禁猟区 7[sage] 投稿日:2005/05/21(土) 14:20:17 ID:???
【物質界(アッシャー)編  ACT.2 クライング・ゲーム】
洋司の不良仲間の加藤は薬の売人からドラッグを買っていた。
新しい薬があると言われ飲んだ途端、加藤の意識が消える。
薬の売人の正体はロシエルだった。
飲み込んだものは、ロシエルの細胞――

刹那からの罵倒に悲しむ紗羅に、母はいい話≠する。
紗羅はそれを聞き、すぐにでも会わなければと刹那のもとへと走った。

気まずい思いで刹那が紗羅に対峙すると、紗羅はキスをしてくれと言った。
泣きすがりつく紗羅にキスをしようとするが、違和感を感じ途中でやめる。
そこへ、もう一人紗羅が現れる。キスしかけた相手は姿を変えたロシエルだったのだ。
ロシエルは翠雀を殺したと言う。今までの翠雀の豹変はそのためかと紗羅は思う。
口移しに刹那に細胞を飲ませる事に失敗したロシエルは消え去る。
あれはなんだと問う紗羅を、巻き込みたくない一心で刹那は口を閉ざし冷たく接する。
その態度に涙を流しながら紗羅は、母と共にイギリスに留学する事を告げた。
もう二度と会えなくなるから良いに来た、しかし迷惑ならもういいと紗羅は駆けていった。

刹那と紗羅のそれぞれの学校で、刹那と紗羅(中身ロシエル)がキスをしかけるところの写真が貼られていた。
それを撮ったのは、ロシエルに操られた加藤だ。
紗羅はシスターに写真の事を問い詰められる。母は、刹那が悪戯につくった合成写真かなにかだと言った。
「汝 地獄に落ちたくなければ罪を犯した片手を切り捨てその体で天国へ行くがいい」
シスターは聖書にあるその言葉を出す。それに対し紗羅は、汚れた部分を捨てねばならないのなら、
刹那をなによりも愛しく思うこの心臓を抜き出さなければ天国へ行けないと言った。
寝顔に刹那がキスをしようとした時、紗羅は本当は起きていた。
しかし刹那にキスをされたいがために寝たふりをしていた。
「ずっと兄貴が好きで…この感情がなくなったらそれはもう私じゃないんです。
 この汚れた心臓と共に地獄に堕ちます!お兄ちゃんと堕ちる地獄なら…怖くない…!」

龍の三姉妹の長女で予知能力のある翡翠(ジェイド)は近くアレクシエルが完全覚醒し、
アレクシエルの覚醒による強い波動は周囲のものを都市ごと破壊し、刹那をも消滅させると九雷に言う。
刹那などアレクシエルの復活に比べたら些細な事だと言いつつも、九雷の心は揺れた。

433 名前:天使禁猟区 8[sage] 投稿日:2005/05/21(土) 14:23:57 ID:???
紗羅と刹那のキスシーンの写真は男子校中に貼られ、当然噂の的となった。
逃れるように刹那は耳をふさぐ。昔吉良に無理矢理つけられたピアスのある耳が痛んだ。
食堂で加藤(中身ロシエル)は刹那をからかう。殴りかかった刹那は返り討ちにされた。
外へ出る刹那。そこへ、屋上からキス写真が大量にばらまかれた。
「見るな!見るな〜!」狂ったように叫び、写真を回収しようとする刹那に吉良は、
みっともない真似はやめろと冷たく言った。刹那をなじった者たちは誰も刹那の立場には立っていない。
ただお利口な道徳観念を振り回しただけだ。正しくなくても、お前はお前の愛を貫けと吉良は言った。

加藤は吉良の前で口から大量の電気コードを吐き出した。
一瞬加藤の意識が戻るがすぐにロシエルが現れ、吉良の服を破った。
吉良の胸には血の跡があった。それは遠い昔についたロシエルの血だ。
その血によって吉良は不死身の体を手に入れた。
だが血の力は弱まりつつリあり、やがては吉良は死に絶えるだろう。
血をやるかわりに味方についてあれ≠渡せとロシエルは言う。
「あれはもう俺の手にはない。とっくに真の主人である刹那のもとへいってる」
ロシエルは怒り、吉良を殺す。そこへ刹那がやってきた。
吉良の流す血を見て眠気を感じるが、刹那は意志でそれを振り払う。その途端ピアスが砕け散った。
首にかけている、かつて吉良にもらった石のペンダントが変形し、剣の形となった。
「あれは間違いなく…アレクシエル様の神剣 七支刀御魂剣や!」覗き見ていた九雷は驚く。
刹那の背には三枚の翼が生え、姿は刹那のままだが、アレクシエルの意識が目覚めた。

アレクシエルはロシエルを斬りつける。しかし、寸前でロシエルは加藤の体から出て、
加藤だけが重症を負った。これでまたその体は血に汚れたと嘲笑いながらロシエルは消え去る。
死にたくないと泣く加藤にアレクシエルは冥道を開き照らした。加藤は温かい光に涙しながら絶命。
ロシエルに毒された加藤の魂を浄化し、最初から救うためにアレクシエルは剣を奮ったのだった。
九雷は喜ぶが、アレクシエルはすぐに消え刹那がまた表に現れた。
ピアスには刹那が人殺しをしないために戦意喪失するよう封印がかけられていると九雷は言う。
七支刀もピアスも渡したのは吉良だ。振り向くと、先ほど死んだはずの吉良が無傷で居た。

434 名前:天使禁猟区 9[sage] 投稿日:2005/05/21(土) 14:26:05 ID:???
前の大戦の時にロシエルの返り血を浴びて不死身になったと吉良は説明する。
「この俺が人間ごときに情がわくなど有り得ない」
刹那に対する今までの態度は全て演技で、刹那に近づいたのもアレクシエルの生まれ変わりだからというだけに過ぎなかった。
悲しみと怒りで涙を流す刹那から強い波動が溢れる。その波動に反応する三人の謎の人物。
泣きながら去って行く刹那。それを追う九雷。後に残されたアラクネは、吉良に再び危害を加えようとする。
すると吉良は自らの体を切り裂いた。吉良の血を媒介にして一本の刀が現れた。
その刀で吉良はアラクネを追い詰めるが、とどめをささない。それは感情を持っている印だとアラクネは言う。
認めない吉良を置いてアラクネもその場から立ち去る。吉良は加藤の死体を校舎裏に埋めた。

刹那を追いかけ車に轢かれそうになった九雷を刹那はかばう。刹那の波動により車が吹っ飛ぶ。
「女ってのは守ってもらってこそ綺麗にも優しくもなれるんだぞ。男のふりなんかしてんじゃねえ。
 そして自分を守ってくれる男を早く見つけるこった。俺は…紗羅を…もう二度と守れねえけどな…」
刹那はそういって涙を流し九雷を抱きしめると、すぐにまた走り去った。
かつてアレクシエルも同じような事を言って九雷は抱きしめた。
その時はただ温かくて気持ちが良かったのに、刹那からの抱擁はひどく切ないものに感じられた。

紗羅は遠くへ行く。吉良は自分じゃなくアレクシエルを見ている。学校にも行けない。
全てに絶望した刹那は廃工場で手首を切ろうとするが、通りすがりの盲目の神父に助けられる。
彼は、自分はかつてアダム・カダモンを見た事がありその輝きによって視力を失ったという。
そして首筋にある大きな傷を見せた。刹那は驚くが、神父は全部嘘だと笑った。
首の傷はただの事故の跡。しかし、夢かもしれないがアダム・カダモンには確かに会ったと言う。
それはただの夢だと刹那の言葉に「そうかもしれません。それでも私は信じてるんですよ」
と彼は言った。刹那が振り向くと神父は消えていた。
神父の正体は座天使長(グレート・トロウンズ)のザフィケルだった。
彼の弟子である金髪碧眼の少年ラジエルはザフィケルを見つけると、
無断で人間界に降りるのは重大な違反だからすぐ帰って下さいと言った。


435 名前:天使禁猟区 10[sage] 投稿日:2005/05/21(土) 14:29:28 ID:???
地上での騒ぎがばれないようにカタンが張った結界が破られた。何者かが地上に降りたのだ。
これではいずれロシエルが復活した事も、そのために人間の命が犠牲になった事も上にばれてしまう。
天界に戻り何事も無かったかのように元の勤務につけとロシエルは命令する。
代わりはロシエルに熱をあげている士官候補生のキリエがやるという。

翠雀は死んだのに親はなにも騒がない。ただ不登校になったというだけの扱いだ。
本当に翠雀が死んだのかを確かめるためにも紗羅は翠雀の家へ行く。
そこには、大量のコードに体を捕らわれ、頭の半分をパソコンの画面にめり込ませた翠雀父の姿があった。
おかしくなった翠雀母も自らパソコンに向かいコードに潰される。
それを眺めるキリエの姿。キリエが翠雀を操作しているのだ。
九雷はそれを止めようとするが、もし紗羅が死ねば刹那はどうなるだろうかと思い躊躇した。
その間にも蠢き続けるコードは紗羅を捕える。
「殺してもいいよ翠雀…!あたしにはもうこんな事くらいしかしてあげられないもん…」
紗羅はそう涙を流しコードに頬擦りする。
憎しみと殺意の残像でしかなかったはずの翠雀は正気を取り戻す。
キリエは直接紗羅を攻撃しようとする。我に返った九雷はキリエを攻撃する。
燃えるキリエは何者かの手によってその場から消えた。
翠雀は紗羅からコードを解くと、今までもこれからもずっと紗羅が好きだからと言い残し消えていった。
紗羅は、ロンドンで学校を出てから母の決めた婚約者と結婚すると九雷に告げた。
お前は刹那を残して一人で幸せになる気かと言う九雷の問いに紗羅は
兄と一緒に居られないのに幸せになんて一生なれるわけがないと言った。

キリエを助けたのはカタンだった。実戦経験の無い士官候補生のキリエに地上での行動は危険すぎる。
しかしキリエはカタンに耳を傾けない。ロシエルは最初からキリエを捨て駒扱いしているのではとカタンは危惧した。

刹那は学校に行った。誰もが受け入れるわけではなかったが、刹那を支えてくれる友人たちがいた。
事態は何も好転していないが、身近すぎて気付けなかった優しさを実感しただけで、刹那は救われた。

校舎裏からは加藤の死体が発見された。加藤の不良仲間たちは事情聴取を受け、
食堂で加藤(中身ロシエル)にコテンパにされた刹那が加藤を殺したのではないかと証言した。

441 名前:天使禁猟区 11[sage] 投稿日:2005/05/22(日) 10:50:02 ID:???
【物質界(アッシャー)編  ACT.3 推定有罪】
11年前吉良朔耶と母は事故にあった。母は死に、かばわれた朔耶も重傷を負った。
死にかけの朔耶に話し掛ける謎の発光体があった。発光体は朔耶を生き伸ばさせる代わりに、
自分がある目的を果たす間までその体を貸してくれと持ちかけた。
何年かしたら朔耶はまた死んでしまう。妻と子を失い、父は二度悲しんでしまう。
発光体に朔耶は、体を貸す条件を二つ言う。自分の代わりに沢山本を読み勉強して欲しいと、
そして、また自分が死んだ時に父が悲しまないよう、父に嫌われ憎まれるようになってくれと。
その発光体には――吉良には朔耶の父への遠回りな愛情が理解できなかった。
しかし、朔耶の体を借り同化しているうちに朔耶の感情をも吸収し、
吉良はいつしか人間を、刹那を、そして父を愛するようになった。
だからこそ父を無下に扱った。しかし、父は叱りながらもけして吉良朔耶≠憎んだりはしてくれなかった。

空港に行く前に紗羅は、昔刹那が夜店で買ってくれた指輪を九雷に渡した。
九雷がつけてみてもそれはサイズが大きすぎて落ちてしまう。これが似合うのは紗羅だ――
加藤の事で刹那は警察に捕まりそうになる。九雷は指輪を刹那に手渡し、
これを早く紗羅に返して呼び止めろと言った。刹那は警察を振り切り空港へ走った。
一緒に逃げようと言う刹那の胸元へ、母に謝罪してから紗羅は飛び込んだ。
刹那は紗羅の左手薬指に指輪をはめさせると、二人で電車に乗り旅立った。
警察や無道母が追いかけようとする。かく乱させるために吉良は爆竹を投げ込むと、
血を媒介にして出した日本刀を片手に「俺が加藤を殺した」と刹那をかばうため警察に自主をした。


セラフィムという最高の肩書きを与えられながらも見掛けも中身も幼児のメタトロンは、
ロシエルが血まみれの地球を掲げて「これがお前達の死に様だ」と高らかに笑う姿を夢に見た。
メタトロン付きで覆面をした宰相セヴォフタルタは、そんな夢など気にせずに、
もうすぐ時間だから早くいつもの薬を飲んでくださいと言った。
「サンダルフォンだ。ぼくのおとうとのしんじゃったサンダルフォンが
 うまれてこなくてくやしくて ぼくにへんなゆめをみせるんだ」とメタトロンは泣き出た。

442 名前:天使禁猟区 12[sage] 投稿日:2005/05/22(日) 10:52:09 ID:???
メタトロンは元智天使長(グレートケルビム)のジブリールに会わせてくれないと薬を飲まないと言った。
美しい女天使ジブリールは心を閉ざし、いまでは生き人形のようになっている。
母性を見出しているのかメタトロンはジブリールに執心だ。
現れたザフィケルはあんなに愛らしいメタトロンを厳しく躾すぎではないかと笑顔で言う。
「アレクシエルやロシエルとあれも同類だ。創生神が創りあげた忌まわしき化け物だ」
神なき今天界の頂点に立つのは七大天使の一人でセラフィムのメタトロン。
しかし実質的にはメタトロンの宰相で同じく七大天使のセヴォフタルタが実験を握っている。
セヴォフタルタは恐怖政治で天界を治めている。表面上は内乱も沈静化している様に見えるが、
内に溜まった不満はどれだけのものか計り知れない。それに、顔も見せない独裁者など疑惑の的だった。

アラクネは人間たちを失神させ、吉良の刀を取り返し、事情聴取を受けていた吉良のもとへ行く。
その日本刀――不知火は吉良の前世からの付き合いだ。
アレクシエルは刹那に生まれ変わる前にも幾度も転生を遂げた。
生まれ変わりは全て、精神的にも肉体的にも酷く傷つけられた末の非業の死を迎えた。
それこそが天界がプログラムした、堕天使の最高刑だった。
刹那の一つ前のアレクシエルの転生した姿は、遊郭の若い遊女だった。
遊女は落ちぶれた武士の出である少年と隠れ忍ぶ危険な仲だった。
二人は意を決し駆け落ちをするが、追っ手によって少年は斬り殺された。
悲しみに遊女はアストラル力を爆発させ、遊郭の若旦那を殺してしまった。
吉良は朔耶の時と同じように、願いを叶える替わりに少年の体を借り遊女の後を追った。
あの人を愛してるといってくれ。そして、俺の手であの人を安らかにしてやってくれ…
遊女は若旦那を殺した咎で今までと同じように無残な最期を遂げてしまうだろう。
少年の願いを叶えるためにも、悲劇を繰り返さないためにも…吉良は刀を手に持った。
「お前は優しい奴だ。殺っておくれ。今まで誰も私のために、神の運命に逆らってはくれなかった…!」
遊女の姿のままアレクシエルはそう言い、吉良は刀を振り下ろした。
少年の体から抜け出て元の霊体に戻った吉良に、少年の刀の不知火はついていくと言った。
不知火は高僧千人以上の血を吸い自ら意志を持つ霊剣となっていたのだ。
吉良はいつでも呼び出せるよう、不知火を自分の血に封印したのだった。

443 名前:天使禁猟区 13[sage] 投稿日:2005/05/22(日) 10:54:25 ID:???
刹那と紗羅ははじめての契りを交わした。
ロシエルはその様子を見て悶絶した。
「何故姉さんは僕を苦しめるんだ…!」

紗羅はもう後戻りできないのだと涙を流す。「なのに、何故こんなに幸せなの…?」
刹那は今までの事件の顛末と自分の前世の話をする。この状況では信じざるを得ない。
束の間の幸せの時を過ごす二人にキリエは攻撃を仕掛けようとするが、
他の人間も巻き添えになってしまうとカタンに止められる。
ロシエルの寵愛を受ける自分に嫉妬し、邪魔をしているだけじゃないかと憤るキリエに
「私はロシエル様の子供なのですよ」とカタンは言った。

恋愛が禁じられた天界で子を成すなど禁忌中の禁忌。有り得ないと言うキリエにカタンは説明する。
天界には階級性からすら忘れられた最下位天使・精霊天使(グリゴール)がいる。
古の時代、人間とほぼ変わらぬ肉体を持ち地上での労働を任されたグリゴールは誘惑に弱く、
人間と子を成しそれが多くの悪魔を産む結果になり、神の怒りを買い精神だけの存在にされた。
カタンはかつてグリゴールであったと言う。
グリゴールは姿こそ見えないが常に空気中に無限に散っていて、
一般天使たちが力を使うたびにその命を消費された。
たとえどんなに下らない事で使われようと、命儚き彼らはただ一度の仕事で死んでいった。
彼らはあらかじめ知能を抑えられたために自らの運命を嘆く事は無かったが、
無残につけられた傷は間違いなく痛むのだった。
感情や知能の低いグリゴールの中にも物を考える変わり者は時々いた。それがかつてのカタンだった。
なんのために生まれたのだと悲しむカタンの前に現れたロシエルはその問いに答え、カタンに体を与えた。
「名前がいるね。導きたる者=cカタンにしよう。私に会いたければ神性界のエテメナンキにくるがいい」
カタンは自分に奇跡を与えてくれたロシエルに再開するため狂ったように勉強し功績をあげ、神性界へ行った。
人間で言えば25、26歳ほどの外見のまばゆいばかりの美しさを持つロシエルにカタンは忠誠を誓った。

444 名前:天使禁猟区 14[sage] 投稿日:2005/05/22(日) 10:57:17 ID:???
現在16、17歳ほどの外見のロシエルが数百年も前の頃に20代の外見をしていたのはおかしいとキリエは言い、
たとえどんなにロシエルとカタンの絆が強かろうと自分はただ愛する者に仕えるだけだと宣言した。
恋愛が禁忌とされる天上界において、女は堕落を誘う不浄な存在という扱いだった。
体を武器にした堕落した女天使もいたが、キリエはただひたすらに努力した。
優秀なキリエに嫉妬し下劣な言葉を浴びせる男天使もいたが、キリエは耐えつづけた。
その反動か、高貴な存在であるロシエルが自分を愛していると言った時の喜びは例え様がなかった。
ロシエルからの愛を失ったらキリエはもう生きてはいけない。

吉良に面会しに来た父は、息子の罪は自分の罪だ、罪を償い二人で生きていこうと言う。
吉良父はこれから北海道に行かなければならないが、すぐに帰ってくるという。
「前にも言ったろう?俺は本当の朔耶じゃない。証拠を見せてやるよ」
吉良は鏡を割って破片で自分を傷つける。傷はつけてもつけてもすぐに消えていく。
「気持ち悪いだろ?おぞましいだろ?あんたを11年間も騙してきた俺を憎めばいい!北海道でもどこへでも行け!」
近い日に刹那の覚醒によって東京が崩壊する事を吉良は知っていた。
その崩壊に巻き込ませないために父を遠くへ行かそうとしていた。

加藤殺しの犯人として吉良が捕まった事を知り、刹那達は東京へ戻る事を決意する。
東京への帰路の途中、人間のふりをしたキリエが近づいた。
キリエは刹那を殺そうとし、かばった紗羅が重傷を負った。
刹那が昔買ってくれた、赤いガラスのついた指輪が衝撃で壊れる。
「あの指輪じゃないと…だめ…なのに…!」紗羅は涙を流しながら絶命した。
刹那の発する、悲しみによる恐ろしい量のアストラル力が周囲のものを破壊する。
キリエの体も壊れていく。カタンは助けようとするが、キリエは情けは受けないと拒む。
「まだわからないのですか!ロシエル様は最初から貴方を捨石にするつもりだったんです!」
キリエをそれを認めず「うそよ」と泣き叫びながら死んでいった。
最期までキリエを救おうとしたカタンもまた、刹那のアストラル力を受け体の半分が崩れた。
刹那が首につけていた石のペンダントに亀裂が入る。同時に、吉良の体から大量の血が溢れた。
東京は、崩壊していった―――

447 名前:天使禁猟区 15[sage] 投稿日:2005/05/23(月) 08:43:52 ID:???
【物質界(アッシャー)編  ACT.4 GOOD-BYE-MOTHER】
吉良父は北海道へ行かず東京に残り、東京崩壊と共に重傷を負った。
「このまま行ったらもうお前と…息子と会えない気がしてな。
 お前はどんなに私に反抗していてもいつも目の奥で辛そうだった。
 ずっとお父さんはわかっていたよ…私に助けを求めていたんだろう?」
吉良はいつしか日常の心地よさに慣れきり、周りを騙す苦痛に耐えれなくなってきていた。
人間になりたいと願って止まなかった。死に行く父に向かい吉良は涙を流す。
そこへ正気を取り戻した刹那が紗羅を抱えてやってくる。刹那は吉良の正体を思い出した。

七支刀は何万人もの命を奪ったために自ら血を求める意志を持つ魔剣になり、そのために封印された。
その剣の持ち主は全て発狂し、時にはその剣で自らの命を絶った。使いこなせたのはアレクシエルだけだった。
そして、その剣の魂はアレクシエルの転生した姿を探して人間界を彷徨うになった――それが吉良だ。

本体である石が破壊された事によって吉良も重傷を負った。刹那が石を治そうとした瞬間、セラフィタが現れた。
人間のふりをした化け物である吉良は今に必ず災いを呼ぶ。このまま殺せとセラフィタは言う。
セラフィタは天地創造の館(エテメナンキ)に人知れず幽閉されている。今のセラフィタは幽体だ。
東京が崩壊する前、紗羅の死んだ直後に地球の時間を固定するから、その間に自分を救出しに来てくれとセラフィタは言う。
創造神は地球をリセットしようとしており、セラフィタはそれに反したために幽閉されたのだという。
何故紗羅が死んだ直後なのか、紗羅が死ぬ前に戻してくれと刹那は言うが、紗羅の死は必要なものだと言われる。
紗羅の死がなければ刹那が死んでいたし、また怒りと悲しみによる刹那の完全覚醒もなかったのだ。
早く七支刀を殺せといわれるが、刹那は逆に石を修復し吉良を回復させた。
「俺の助けたい世界は俺にとっての吉良先輩がいる世界だ」
そして、紗羅のいる世界もでもある。紗羅の魂は今星幽界(ヘイディーズ)にあるという。
刹那は星幽界に行き紗羅の魂を連れ戻すと宣言する。吉良や九雷も流石に驚く。

448 名前:天使禁猟区 16[sage] 投稿日:2005/05/23(月) 08:45:45 ID:???
「俺はアレクシエル様みてーにお利口じゃねーからさ、あきらめ悪いんだよ。
 危険だから不可能だからって仲間や恋人を切り捨てたるなんてマネはできねーんだよ」
アレクシエルにも成し得なかった事を、刹那にはできるかもしれないとセラフィタは期待をかける。
七支刀を心臓に刺せば、七日の間刹那は仮死状態になり、その魂は星幽界へと行ける。
しかし七日が経ったり、胸に刺した剣が外れれば刹那は本当に死んでしまう。
危険はあるが、紗羅を生き返らせるための道は他にない。刹那は七支刀を胸に刺した。


カタンは半身を失いながらもロシエルに救われ生きていた。しかし今にも死にそうな状態だ。
アレクシエル覚醒の場に行くなんて自殺行為だ何故行ったと責めながらロシエルはカタンに鞭を奮う。
「キリエがあまりにも一途で…あなたにも一秒でも長く笑いかけてもらおうと
 必死な姿を見ていて……昔の私を思い出したのでしょう」
飲めばすぐに体が戻ると、ロシエルは自分の細胞をカタンの口元に寄せる。カタンは弾けたように笑った。
「とうとう私を殺しておしまいになるのですねロシエル様…!
 これを飲めば体は再生しても徐々に意識が侵食され最後には貴方の命令しかきかないただのロボットになる…
 本来の私は消え、あなたはあなたに無償の忠誠を誓う男を永遠に失うのです…!
 高貴なるロシエル様…誰よりも美しく誰よりも輝いて…そして誰よりも可哀相な…ロシエル様…」
最後まで抵抗するカタンの口に、ロシエルは無理矢理細胞を突っ込む。
幾本ものコードが伸び、それが凝縮され、カタンの体を再生した。
「美しい…? 何も知らないくせに。僕はね、神の排泄物なんだよカタン……
 お前はそんな僕の手の中から生まれたたった一つの綺麗なもの。
 懸命に慕ってくれるお前が可愛くて、お前だけは僕のようになってほしくなかった。
 なのにお前のこの手…こんなにも人間どもの血で汚れて…お前が悪いんだよカタン。
 お前があの時天上に帰っていれば…お前にこんな事しなくてすんだのに…」
ロシエルは涙を流しカタンにすがりついた。

449 名前:天使禁猟区 登場人物紹介[sage] 投稿日:2005/05/23(月) 08:47:24 ID:???
・無道刹那
 有機天使アレクシエルの生まれ変わりの男子高校生。
 実妹・紗羅を愛し、紗羅を甦らせるため星幽界へ向う。

・無道紗羅
 実兄の刹那を愛する。刹那をかばって死亡。

・アレクシエル
 ロシエルと共にかつて天使の中で最高の位置に立っていたが、
 邪鬼に味方し天に反旗を翻した咎で堕天された。
 神剣七支刀御魂剣を扱う最強の女戦士。

・ロシエル
 アレクシエルの双子の弟で無機天使。
 アレクシエルに執心する。

・吉良朔夜
 意志を持った神剣七支刀御魂剣の魂そのもの。
 アレクシエルを探して人間界を彷徨い、11年前に死亡した少年吉良朔夜から体を借りる。

・九雷
 ゲヘナ皇家の第14子で三姉妹の龍を操るドラゴンマスター。
 剣術の腕はかなりのもの。アレクシエルに心酔する。
 ゲヘナを滅ぼした原因である人間と天使を憎むが、
 刹那に恋心のようなものを抱くようになる。

・アラクネ
 九雷のいとこでオカマ。九雷の良き理解者。

・カタン
 ロシエルを慕う。死亡する寸前にロシエルの細胞を飲み込むが……
顔見世程度のキャラなどは次回。

482 名前:天使禁猟区 17[sage] 投稿日:2005/05/27(金) 09:49:49 ID:???
【星幽界編 ACT.1仮面の少女】
地球の動きが停止した事は天上界でも騒ぎになっていた。
事件の中心人物である無道刹那は覚醒と同時にそのショックで死んだのではないかと噂されていた。
そこへロシエルが現れ、刹那が天使も悪魔も入れぬ人間の魂の聖域・星幽界に行った事を告げる。
星幽界に入れる天使は元七大天使であった屍天使ウリエルだけだ。
人々はロシエルを敬い賞賛する。しかしロシエルの心は晴れない。カタンはいまだ目覚めないのだ。
カタンの体を入れた棺の中では、無数のコードが蠢いている。カタンをつくった頃の力と、
今のロシエルの力はあまりに質が違いすぎ、二つの力が反発しあっているのだ。
このまま適合できなければ、カタンは死に絶えるだろう。
カタンは智天使代行のドビエルの部下という立場にあった。
セヴォフタルタは、ロシエルの復活をさせたカタンの罪はお前にもあるとドビエルを責め、
ロシエル殺害を暗に強制した。ドビエルは首を縦に振った。

上級霊の結晶体で星幽界の指導者である閻羅王は、紗羅の魂はもう自分の監視下にはなく
星幽界の中心の泉に植える宇宙樹(ユグドラシル)の根元に住む地獄門の鍵守人・ウリエルが紗羅の魂を連れ去ったという。
死者は星幽界で修行し霊格をあげ、その成果によって地獄行きか楽園行きかを定められる。
ウリエルはその地獄行きの門番であり、星幽界で最も恐れられる処刑人だ。
紗羅の魂は地獄に落ちるほど罪深い少女の魂≠ニして宇宙樹の生贄にするという。
その罪とは、実兄と結ばれた事である。紗羅を救うため刹那は宇宙樹へと向う。
閻羅王がつけた道案内人は、アレクシエルが殺した加藤だった。
刹那の前世のいざこざに巻込まれ死んだ加藤は刹那を恨んでも仕方がない。
しかし加藤はどうせ目的があって生きていたわけではないし、
過ぎた事はいいいじゃんなどとふざけた態度をとり、死んだ奴を生き返らせるなんて無理だ、
諦めて自分のようにいつでも適当に流していれば死んだって平気だと言った。
「俺はやってもいないうちから諦めるぐらいなら戦って傷ついたほうがマシだ。
 それに死ぬのが怖くないだって?あんたは息を引き取る前、死にたくないって言ったじゃないか!」

483 名前:天使禁猟区 18[sage] 投稿日:2005/05/27(金) 09:52:54 ID:???
反論しかけた加藤はその場から駆け去る。
浄化されたはずのロシエルのコードはいまだに加藤の体を蝕んでいる。
精神体だけの存在になっている加藤の弱い心が、ロシエルを恐れる心が幻覚を見せているのだ。
そして荒みきった魂はいくら修行しても霊格など上がる素振りもなく、このままでは加藤は地獄行きだ。
閻羅王は、刹那を殺せば楽園行きにしてくれると言った。
「俺はしれっとした顔で裏切るのも裏切られるのもなれっこなんだよ」加藤はそれを承諾した。
一人でいる加藤の元に、星幽界を彷徨う亡者が襲い掛かる。閻羅王より与えられた霊波を隠すためのコートも、
亡者を倒すための武器も刹那のもとに置いてきた。絶体絶命の時、追いかけてきた刹那がそれを救った。
刹那は加藤の真似をし「過ぎた事はもういーじゃん。先に進もう」と言った。


メタトロンはセヴォフタルタに走りより「おうたをうたって。うささんがいってたよ、むかしはよくうたってたって」とせがむ。
「……うさぎさんに伝えて下さい。私はもう歌えないんです。みんな…忘れてしまったんですよ…」
セヴォフタルタはそう言い、歌の代わりにメタトロンを抱きかかえ手を握った。
メタトロンの片手にはうさぎのぬいぐるみがにぎられていた。

メイド姿の少女は侵入者≠フ気配に苛立つご主人様のために侵入者を退治しようと決意した。
彼女は亡者にペルソナを被せ、亡者を意のままに操り侵入者に向けた。
喧嘩しつつも仲良く(?)進む刹那と加藤。
襲ってきた亡者を刹那は逆に浄化させ成仏させた。後には謎の仮面だけが残った。
その仮面が加藤の顔に吸い付くように消えた気がしたが、深く気にせず二人は先に進んだ。

ドビエルの部下はロシエルの城に侵入した。ロシエルは謎の棺を城に運び込んだという情報がある。
なにか弱みにならないかと調べに棺の中を覗き込んだ侵入者たちは、中から飛び出してきた蠢くコードに体を絡めとられた。
「食欲が出てきたのはいいけど、ちょっとお行儀が悪いなんじゃないかな?」
気付いたロシエルは棺にそう話し掛けるが返事はない。ただコードがロシエルの体にすりよるだけだった。
「今度はもっと若く柔らかい生餌をあげよう…」



506 名前:天使禁猟区 19[sage] 投稿日:2005/05/30(月) 09:12:59 ID:???
【星幽界編 ACT.2大地の天使Uriel】
現在、七大天使の中で更に上の位置にたつ四大天使はみな問題がある。
火の天使ミカエルは荒くれ者の問題児、水の天使ジブリールは心を閉ざし人形状態、
風の天使ラファエルは十戒を堂々と破り女にうつつを抜かし、土の天使ウリエルは星幽界へ失踪した。
ウリエルははアレクシエルを堕天させた張本人であり、人知れずアレクシエルを愛していた。
愛する者を追いやった苦しみでウリエルは失踪したのだった。

ペルソナに操られた加藤は刹那を殺そうとするが、意識を取り戻しペルソナを外そうとした。
しかし顔にはりついたペルソナは外れない。そこへ紗羅と同じ顔をしたメイド姿の少女が現れた。
ペルソナを操るメイドを倒せばいいかもしれないが、紗羅なのかもしれない少女に手をかけられない。

十字杖で亡者を倒す事によりその力を吸収し、亡者の邪念までも吸い取り闇に犯された加藤は、
人の邪念に吸い寄せられるペルソナには格好の餌だった。
刹那には邪念を浄化する力があるので無事だ。
また、閻羅王により渡されたコートは、霊波を遮断するどころか逆に亡者を引き寄せる仕組みになっていた。
閻羅王は最初から加藤も刹那も潰す気だったのだ。
自我を失いかける加藤。しかし、刹那の呼びかけによって意識を戻し、十字杖を自らの胸に刺し自害した。
地球で死ぬ寸前、本当は、加藤は何も生まず何も残さず、虫けらのように死んでいくのを恐れていた。
「いいかうぬぼれんなお前のためなんかじゃねえ。こうすりゃお前一人ぐらいは俺≠ェいた事を忘れられないだろ」
そう言い残し加藤は消滅した。お前なんかが紗羅のわけがないと、刹那はメイドを攻撃する。
しかし大地の守護でメイド少女は大した怪我を負わなかった。
だが、少女の顔が剥がれ、ロボットのような断面が現れた。
そこへ巨大なドラゴンが現れた。ドラゴンには長身の男が乗っている。ウリエルだ。
「眠れる死者を呼び覚まし、俺のドールに恥をかかせた。覚悟はいいか愚かなる侵入者よ」
ウリエルは大鎌を使い刹那に襲い掛かる。ウリエルは地面や木すらも操るが、
大地の守護のない空中で刹那は留めを刺そうとした瞬間、ウリエルの顔がわれた。
彼は、過酷な処刑人としての仕事を全うするために自らペルソナをつけ、逆にペルソナに操られていたのだった。

507 名前:天使禁猟区 20[sage] 投稿日:2005/05/30(月) 09:18:10 ID:???
大地の色をした黒みのある羽を持つウリエルは、声を持たず刹那の脳に直接話しかける。
彼は大地の力により自分と刹那の傷を治すと、勝手に動き回りすぎたために活動停止したドールを抱え、
消滅した加藤を甦らせるからついてこいと宇宙樹へ招いた。
ドールは硬質化した植物でつくられた生命体に近い機械人形。かつてはただ形だけの物だった。
地球の動きが停止した日に、人間のための冥界に何故か天使の魂が迷い込んできた。
地球のほうからやって来た彼女は酷く傷つき、恋に破れた痛みを抱え泣いていた――キリエだ。
あまりに哀れなその姿に同情したウリエルは、彼女の魂をドールに移植したのだった。
生まれたばかりの赤子のようなドールは、ウリエルに忠誠を誓い動き回るようになった。
問題のある行動もするが、今回の一件で少しは人の感情も理解できるようになっただろうとウリエルは言う。
ドールの顔が紗羅に似ているのは、顔をつくる時紗羅をモデルにしたからだ。
その紗羅は今、至高天にいる。元々ウリエルが生贄の名目で紗羅を連れ去ったのも頼まれたからだった。
紗羅を至高天へ連れて行ったのはザフィケルだ。天と地の大戦において猛将として恐れられた男だが、
天地大戦後の失明と同時に何故か悟り済ました聖人のようになった謎の人物だ。
話を聞き、ザフィケルがかつて地球で会った神父だと刹那は気づく。

ロシエルは自分の細胞を他者に与える事によって新しい負≠ニしての生命を与える事が出来る。
彼と対を成すアレクシエルの生まれ変わりである刹那もまた、その細胞を与える事によって
ロシエルとは逆の意味での生を与える事が出来るだろうとウリエルは言う。
刹那は加藤が自害した瞬間に無意識に時間魔法を使い、加藤の魂を消滅寸前で固定していた。
加藤は今固定された時間の中で、過去の最も辛い頃の記憶を眺めさせられている。
ウリエルは刹那を加藤の精神世界に送り込み、加藤を甦らせよといった。

508 名前:天使禁猟区 21[sage] 投稿日:2005/05/30(月) 09:22:23 ID:???
加藤の下の名前は故という。早く死ぬようにと父がつけた名前だ。
幼い頃の加藤はそれも知らず父に懐いていた。しかし父はいつも加藤と姉の冴とを差別した。
加藤は姉が父からもらったオルゴールを盗み、埋めた。
数年後加藤は知る。何故自分が父に憎まれているか。それは加藤が母の不義の子供だからだ。

ある日冴が結婚する事になったと聞いた。加藤はかつて埋めたオルゴールを掘り起こし冴に渡した。
長い月日の間にそのオルゴールの事を忘れていた冴は、盗んだものじゃないかと怪訝な顔をした。
いいから受け取れと加藤は言い、口論のうちに冴は加藤が不義の子供である事を言ってしまう。
「知ってて今までいい姉貴ヅラしてたのかよ。そうだよ俺は母さんの忌まわしい過去の産物だ!
 だからなにしたって不思議じゃねーよな!」加藤は冴の服を引き裂いた。
冴の悲鳴に父が駆けてきて加藤を殴った。乱闘の中で、オルゴールは壊れた。
加藤には本当に姉を犯す気などなかった。とっくに壊れている家族に知らぬふりした冴を傷つけたいと思ったのだ。
「姉貴は自分のしている事が俺を傷つけているなんて知らなかった。ただ浅はかで優しい女だった。
 親父の付けた名前は見事に効いたよ。俺は17で死んだ。俺は現実に背を向けないと生きられない弱い人間だ!」
加藤の魂は大量の電気コードに縛められてその場から動けなくなっていた。
辛い過去を持ちながらも負けずに生きていたあんたは十分強いと刹那は否定する。
「覚えてないか?あんたが死んだ時だってあんたは自分の力で冥道を進んでいったじゃないか。
 俺はただ道を照らしただけ。本当に弱い奴はそれすら見つけられないんだ。その呪縛も解けるはず」
コードから開放された加藤の魂を刹那は地球へと連れて行く。
地球と共に動きを停止した冴は夫と上手くいっているのだろう、とても美しかった。
その傍らには、修理されたオルゴールと家族の集合写真があった。
壊れてしまっているとわかっていても、それでも繋ぎとめておきたいと冴は思ったのだ。
「世界中の奴が俺を忘れてしまっても、あんたが17で死んだ馬鹿な弟の事を、時々思い出して悲しんでくれれば…
 あんたの胸に刺さった小さな刺になれるなら、それだけで俺はやっと死んでいける」
加藤は姉の頬に手を添えて最後の別れを告げると、刹那の羽を口にし、復活した。

509 名前:天使禁猟区 22[sage] 投稿日:2005/05/30(月) 09:26:38 ID:???
貧民街に住む堕天使の少女・ティアイエル(ティアラ)は謎の爺に腹いっぱい食わせてやると言われついて行く。
しかしついた先では、逆に自分達がコードだらけの化け物の餌にされる事になった。
「あたしは綺麗に食べてね。食べ残しは嫌だからね。怖くないよ、あたしもお兄ちゃんと同じだから」
動じずにティアラは言う。彼女は人の心を読む能力を持っていた。
そのため皆から嫌われ地下共同墓地に閉じ込められた。
飢えで死にかけるティアラに死体が話し掛けた「自分を食べて生き延びろ」と。
ティアラは死体を食べた。しばらくして発見され救出された彼女は
天使喰いと罵られ堕天使の烙印を押され、貧民街に捨てられた。
そこですらティアイエルは迫害され毎日石を投げられていた。
カタンは棺の中からコードを伸ばし、ティアラをなでた。
優しさと良心がカタンの中に残っていて、しかし体は血肉を求め、
その事でカタンが悩んでいる事にティアラは気づいた。
昔に戻りたいとカタンは切に願っていた。
何故生餌を食べないと怒るロシエルに、ティアラは言う。
「彼がこんな姿になったのはあなたのせい。彼の中の良心と貴方への忠誠心が戦っているせい。
 道は二つ、良心を捨てあなたと共に修羅の道を歩むか、あなたを捨て今までの罪を償い正しき道を歩むかよ」
生意気だ、とロシエルはティアラに攻撃をするが、棺から出てきた大量のコードがそれをかばう。
お前なんてもういらないとロシエルはカタンを罵倒して出て行くが、その言葉は嘘だとティアラにはわかっていた。

ウリエルは地獄の入口まで刹那たちを連れてくる。ここでは幾人もの罪人たちがウリエルにより始末された。
「今日裁かれる罪人は私だ。アレク…今回は私がお前に裁かれる番だ」ウリエルは大鎌を刹那に渡した。
刹那の前世たちが非業の死を遂げていったのは、ウリエルが生まれつき持つ言霊咒法と呼ばれる呪いをかけたためだった。
屍天使の役目としてやったとはいえ、ウリエルが最愛の人を刑に架けた事に変わりはない。
ウリエルは自分を責め、自ら声帯を引きちぎったのだった。
「あなたの想い人に私は適うべくもなかったのだから…私は狂いはじめていたんだ。
 さあ、殺しやすくなったろう! 私を君の手で裁き早く殺してくれ!」
アレクシエルの想い人とは誰だと刹那は訊ねる。
「君の想い人は…天使が決して愛してはならない方だ…!」

510 名前:天使禁猟区 23[sage] 投稿日:2005/05/30(月) 09:32:01 ID:???
【星幽界編 ACT.3残酷な絆】
アレクシエルが愛したのは創生神だ。それを知ってか知らずか神はアレクシエルをないがしろにし、
ロシエルばかりに愛を注いだ。全てはそこから狂い始めた。早く殺せとウリエルは言う。
「すぎたことはもーいいじゃんやっちまったもんはしょーがねーもん」
シリアスなウリエルに対し、刹那は加藤の真似をしてふざけて言った。
前世の記憶などないから恨もうにも恨み様がないし、
声帯をちぎるほどに苦しんだウリエルをこれ以上責める必要はない。
過去の女よりも、今傍にいるドールを大切にしろと刹那は言った。

紗羅の居場所が別だと知ったからには、タイムリミットが近づいているし早く体に戻らなくてはならない。
しかし星幽界は転生した魂以外の脱走を防止するため入口はあっても出口はない。
全ての制御管理を麻痺させるほどの何かが起これば出口を開かせる事は出来るかもしれないが…
閻羅王のもとへ向う刹那にウリエルはドラゴンを――廃竜(ニドヘッグ)を渡す。
「どうやらお前は廃竜が長い間待っていた待ち人らしいからな」刹那と加藤は廃竜に乗った。


ドビエルの部下たちがロシエルの城に襲撃を仕掛ける。カタンとティアラも標的になる。
ティアラは撃たれ、光の国にいくための不殺を破りカタンはドビエルの部下達を殺してしまう。
「あーあ、やっちゃったねカタン。でもあたし最初からわかってたよあんたがあの人を選ぶ事。
 でも、二人ならなんとかなるかもしれないって、もしかしたらって…そう思っちゃって…
 あたし今度こそ神様に会えるかな? そしたら…今度こそ答えてくれるかな…」
神様 私達を愛してる?¢ァ絶えたティアラにカタンは涙を流した。
一方、ロシエルにドビエルが襲い掛かるが、どんな武器を使ってもロシエルは死なない。
セラフィタしか使えないといわれる時間魔法を使い、ロシエルは細菌兵器さえ死滅させる。
「殺せると思った?僕にさえ殺し方のわからないこの体を…!」
ドビエルはまた兵器を飛ばす。それをカタンが跳ね飛ばした。
ティアラの死によってカタンは修羅の道を歩む事を決めたのだった。
瀕死のドビエルは死を恐れ生かせてくれと懇願し、ロシエルの細胞を口にした。
ティアイエルも甦らせようかとロシエルは持ちかける。
「いいえ…やめておきましょう。可哀相です…残酷です…あまりにも」

511 名前:天使禁猟区 24[sage] 投稿日:2005/05/30(月) 09:34:09 ID:???
片翼ずつを分け合って生まれた双子の邪鬼・ノイズ(女)とボイス(男)。
ボイスは忠誠以上の感情を九雷に持ち、刹那の事を良く思ってはいなかった。
刹那の胸に刺さる七支刀を抜けば、刹那はこのまま死ぬ。
ボイスは刹那の胸元へ手を伸ばした。それを朔夜が止める。
しかし弾みでボイスは七支刀は抜いてしまった――

刹那の死体にすがりつく九雷。ボイスは牢に謹慎させられている。
ノイズがやってくるが、何故か硫黄の香りを漂わせ話し方もいつもと違う。
「お前はノイズやないな!何者や!」九雷が叫ぶとノイズのふりをしていた者は、
顔を白塗りにしたピエロのような姿を現し、目にも止まらぬ動作で周りの者を次々と殺した。
魔界の大貴族、魔神級(グレートディーモンクラス)の力の持ち主だ。
「地獄の最下層子宮(シオウル)より…我が王ルシファー様の命を受け参上しました。
 わたしくしはただの道化者…いかれ帽子屋とでもお呼び下さい」
悪魔族の末裔でありながら邪鬼は神龍を崇め地獄との国交を絶った。
その奢りこそが天界の付け入る隙を招いた。今こそルシファーに忠誠を誓えと帽子屋は迫る。
偉大な父王の名にかけゲヘナは守る、けして地獄の手先にはならないと九雷は拒絶した。
「今度お会いする時は色良い御返事を。では第二幕でお会いしましょう」
帽子屋はそう言い残し影の中に消えていった。目覚めたノイズの左手には、謎の紋章が残されていた。

どこ?ここはどこ?
ラジエルは最近謎の白昼夢ばかり見る。
訊ねかけるのは少女の声で、何故か水のイメージがある。
神出鬼没ですぐふらふらするザフィケルを探していたラジエルは、
ザフィケルの部屋で隠し扉を見つける。
その中には、顔だけの美しい女性の彫像と、人間の――紗羅の魂があった。
人間の魂をコレクションする趣味でもあったんですかとラジエルはザフィケルに問い詰める。
「彼女は地上より至高天に迷い込んだ珍しい霊体です。
 身元が判明するまでここで保管していたんですよ。
 下手に最高会に報告すれば白衣軍団の研究材料にされるでしょう?
 彼らのマッドサイエンティストぶりは君が身を持って知っているはず」
不用意に上司を疑った自分をラジエルは恥じるが、ザフィケルは不問に付した。
眠りつづける紗羅の魂は、刹那の名を呼び続けていた。

512 名前:天使禁猟区 25[sage] 投稿日:2005/05/30(月) 09:34:57 ID:???
セヴォフタルタの前にドビエルが現れる。しかし彼は外見こそ以前と変わらないが、
中身は得体の知れない化け物へと変異していた。
「魔の恐怖に飲み込まれたくなければ、自らが魔になればいい」
ドビエルはそう言い残しセヴォフタルタの前から姿を消した。

星幽界を出るために霊が大量に封印されている坩堝≠加藤は十字杖で壊す。
宇宙樹から離れたために皮膚がぼろぼろになった廃竜に乗り、刹那は坩堝の上にいる加藤を迎えに来た。
しかし、十字杖の最大の力を引き出したために加藤は死にかけ、自分を置いて逃げろと刹那に言う。
尚も加藤を救おうとする刹那を乗せ、廃竜は星幽界から離れていった。
「救世士?泣いているのですか?」廃竜はそう訊ねかけた。


513 名前:マロン名無しさん[] 投稿日:2005/05/30(月) 18:17:24 ID:H+BgP3kt
なんで刹那が救世主?

514 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/31(火) 09:48:17 ID:???
地球を救う予定だから

523 名前:天使禁猟区 26[sage] 投稿日:2005/06/07(火) 22:57:55 ID:???
【星幽界編 ACT.4降臨】
廃竜はかつて天使だった。彼には密かにある女天使を愛していた記憶だけが残っている。
女天使――ライラは青みのある黒髪に理知的な瞳、額に逆十字の傷跡を持っている。
ある日、優秀すぎたライラは妬みを買い集団暴行を受け、それに抵抗し逆に相手を傷つけてしまった。
潔癖なライラにそれは受入れ難い事実で、彼女は助けに入ったかつての廃竜をも告発し、
事件に関わる者全てを無にする事で自分を守った。
廃竜はその時処刑され魂だけの存在となり、ウリエルに体を与えられた。
刹那は、復讐しろとでもいいたいのかと訊ねるが、廃竜は否定する。
「もしも彼女に出会えたら、私は最後の瞬間でさえも君を恨んでなどいなかったと、
 あなたは少しも汚れてなんかいない、もう苦しむ必要はないのだと、伝えて下さい。
 彼女は私を確かに愛していたし…今もどこかで苦しんでいるのです…」
廃竜は自らの鱗を刹那に託す。やがて、冥道の終りが見えてきた。
アストラル力の弱い廃竜は、宇宙樹の保護によりその形を保っており、
そこから離れすぎたために消滅した。

刹那の体が死んでしまったためか、何故か刹那の意識は、九雷によって保存されている
アレクシエルの体の中に目覚めてしまった。刹那はそれに気付かずまたすぐに眠りに落ちた。


いかれ帽子屋は謎の影に向かい、九雷をあなたの花嫁にすると告げる。
「彼女さえ手中に収めれば自然霊である神龍の妖力と、救世使と呼ばれるあの少年も手に入れられる。
 黒の大魔道書(グラン・グリモアール)に名を連ねし悪魔としてこのいかれ帽子屋…
 いえ、地獄の七君主(サタン)ベリアルは我が王ルシファー様に永遠の忠誠を誓います」
謎の影は、地獄を統べる魔王・ルシファーだった。



653 名前:天使禁猟区 [sage] 投稿日:2005/06/20(月) 09:59:19 ID:???
・ウリエル
 四大天使の一人で土を守護する屍天使。
 言霊咒法という他者の輪廻を捻じ曲げる能力を生まれつき持っており、
 愛するアレクシエルに言霊咒法をかけた自分を責め、自ら声帯を引きちぎった。
 星幽界に失踪してからは地獄門の鍵守人となる。

・ドール
 紗羅をモデルにした顔を持ち、キリエの魂を有する。
 何故かメイド姿で、ウリエルを御主人様として敬愛している。

・ティアイエル
 他人の心を読む能力を持つ。
 堕天使の烙印を押され貧民街に捨てられたところをカタンの餌にされそうになる。
 カタンと共に罪を償い光の国を目指そうとするが、ドビエルの部下によって殺される。

・加藤故
 不義の子としての父からの扱いによって非行にはしった不良少年。
 地球で刹那の前世のいざこざに巻き込まれ死亡。
 星幽界でも刹那をかばって魂が消滅。
 ウリエルによって甦るが、刹那のたまにまた死ぬ。

654 名前:天使禁猟区 27[sage] 投稿日:2005/06/20(月) 10:02:16 ID:???
【地獄(ジャハンナ)編 ACT.1烈火の天使】
刹那の夢の中に現れたセラフィタは天界や地獄の説明をする。
地球をはさんで上に天界、下に地獄がそれぞれ七層ずつある。
『神性界(アツイルト)』 天界最上層。そのどこかにセラフィタが幽閉されている。
『創造界(ベリアー)』  天界の上から二番目の層。
『形成界(イエツイラー)』天界の上から三番目〜最下層までを指す。
            一般・上級天使の住居、天使の牢獄、スラムなどがその層ごとにある。
            紗羅の魂を持つザフィケルはそのどこかにいる。
セラフィタは説明を途中で切り上げる。何者かが――赤い目をした人物が覗いているのだ。
「あれは兎の目。今のあなたが捕まったら太刀打ちできない。夢の中は子供のテリトリーなのだから…」
目を覚ました刹那は自分がアレクシエルの体に宿っている事に気付き驚くが、
加藤に影響されたためか深く悩まず、元の体に戻る方法を模索しはじめた。
(ちなみに現在地は九雷たち邪鬼の住処のアナグラ)
刹那は目覚めた時何かの種子のようなものを握っていた。廃竜にもらった鱗だ。
廃竜の体はウリエルがつくった植物を硬化させた物なため、刹那が現世に戻った事で元の姿に戻ったのだろう。
刹那は、アレクシエルの身につけているロケット状のピアスの中に種子を入れた。

以前ベリアルが現れてから体調の悪くなったノイズ。
彼女の口を門にして現れたベリアルはそれを目撃した邪鬼の少女を殺害した。
ベリアルは、体を生き返らせたければ力天使長(グレートヴァーチューズ)のラファエルに頼めと言う。
刹那はラファエルを拉致して本体を生き返らせようと決意する。

特異能力≠持つラジエルはかつて最高会下の研究所に強制的に送り込まれた。
そこでラジエルは連日薬を投与され、細胞を採取され、脳を覗かれ、屈辱的な検査を受けた。
特異能力者の末路は、精神崩壊した後にホルマリン漬けにされるという悲惨なものだった。
それを救ったのは、当時研究所の非道な行いを監視する役割についていたザフィケルだった。
能力のためなのか、ラジエルは紗羅の魂と感応し、紗羅の感情が自然とラジエルに流れ込んでくる。
眠りつづける紗羅を呼び覚ます事がラジエルにはできるかもしれない。
ラジエルは、あの少女にもう一度会わせてくれとザフィケルに頼んだ。

655 名前:天使禁猟区 28[sage] 投稿日:2005/06/20(月) 10:04:11 ID:???
わざわざ刹那を危険な天界に行かせなくても、
甦りの方法は他にもあるとベリアルは九雷に言い、
その方法を教えて欲しければ、花嫁として子宮まで来いと誘いかけた。
それはルシファーの花嫁として、という意味だったが
九雷はベリアルからプロポーズされたと一瞬思い違う。
「それは無理ですよ。わたくし男じゃありませんし」
外見からベリアルを男だと思っていた九雷は驚く。
しかし言われてみればベリアルの容姿は中性的でどちらともいえない。
性別や階級や種族や戒律や道徳など意味の無い事だからどちらでもかまわないとベリアルは言った。
ベリアルはかつて地上で、人間達をそそのかし彼らを戒律や道徳から解放した。
交じり合い殺し合い奪い合い、それでも都は栄えたのだった。
それを聞き、ベリアルが七大君主の一人だと九雷は気付きベリアルの名を呼ぼうとする。
「わたくしはただのいかれ帽子屋。その名で呼んでもいいのはあの方だけ。
 良いお返事を待っています。我らの姫君」ベリアルはそう言い残して消えた。

荒くれ者の天使ミカエルは常に争いを求めていた。
彼は、最強の戦士アレクシエルの生まれ変わりの刹那が動き回っている事を知り、
刹那と殺し合いたいと望んでいた。その時に向け力を貯めるために、
霊的磁場が強い東京へとミカエルは降り立った。

656 名前:天使禁猟区 29[sage] 投稿日:2005/06/20(月) 10:05:19 ID:???
邪鬼の少女が殺された事にアナグラの人々は憤る。
操られたノイズは刹那がやったと、以前は味方をしていたとはいえ
何百年もの間転生され続けているうちに刹那は天界に懐柔されたのだと言う。
人々は腹いせに刹那の本体を殺そうと群がり、本体の腐敗を止めていた魔方陣を壊した。
七支刀を持ちそれを止めに行く刹那。
一人でも傷つければそれこそが裏切りの証拠だと、
ノイズは自分を切ってみろと挑発する。
刹那は七支刀を納め、皆の説得にかかる。
しかし尚も興奮している人々。影で見ていたベリアルは魔術によりそのうちの一人を殺す。
人々は刹那が殺したと勘違いをし凶器を持って襲い掛かろうとした。
九雷は彼らから刹那を守り、本体を持って逃げろと叫ぶ。

「俺がお前の体から剣を抜いたのが元もとのはじまりや。それにノイズは俺の姉やし…」
そう言ってボイスは刹那を助け、九雷の所有する竜に刹那を乗せる。
ひとまずはアナグラから離れ、刹那の本体を保管しなければならない。
ボイスの力は弱いが、東京でならその土地の持つ強い霊的磁場が助けてくれるはずだ。
二人は地球へと向かった。

657 名前:天使禁猟区 30[sage] 投稿日:2005/06/20(月) 10:07:24 ID:???
【地獄編 ACT.2邂逅】
本体を保存し終わった刹那の前にミカエルが現れる。
刹那は彼を見て「思ったよりも小さい」と口に出してしまう。
彼に対して『身長』と『彼の兄』の話をしてはいけないという決まりを刹那は知るわけも無かったのだ。
襲い掛かるミカエル。
戦う理由はないはずだと説得する刹那の腹をミカエルは容赦なく炎の剣で貫く。
ミカエルはとどめを刺そうとする。かばったボイスは左腕を失った。
絶体絶命の状況で自我をなくし闘争本能のみになる刹那。
そこへミカエルの悪友のラファエルが現れる。
刹那とミカの強大な力により時が止まったはずの地球にも影響が出始めている。
これ以上の争いはよせとラファエルは言うが、刹那は既に話を聞ける状況ではなかった。

天界の現状を憂う男はセヴォフタルタを暗殺しよとし、彼の素顔を見てしまう。
セヴィーは男の背中に針を刺す。それにより男は声を出す事ができなくなり、
また無理に出そうとすると四肢が破裂するようになった。
「もっとも…この顔を見た後では口もきけないだろうが」
男は逃げ続け、ジブリールの保管されている園までたどり着く。
ジブリールは水の力により男をその場から逃げ出させた。
「この肉人形が!生ける屍となってまでも要らぬ思念を残しおって!」
セヴィーはジブリールを殴りつける。人形状態のジブリールは何の反応もしない。
彼女がそのようになってしまったのは、セヴィ-が彼女の首筋に刺した針のせいだった。

メタトロンはウサギのぬいぐるみに、ジブリールに会いに行こうと誘われる。
ウサギに言われて不思議な空間を抜けると、すぐそこにジブリールの園があった。
そこにはメタトロンと同じ髪の色をした男がいた。人格はウサギと同じようだ。
ウサギ男はジブリールの首に刺された針を抜いてくれと頼む。
「君はジブリールが好きなんだろう?
 僕はセヴォフタルタでもいいんだけど…」
ウサ男に言われるままメタトロンは針を抜いた。

658 名前:天使禁猟区 31[sage] 投稿日:2005/06/20(月) 10:09:33 ID:???
ザフィケルの元で保管されていた紗羅の霊体が姿を消した。
奴の書いたシナリオだ。影で糸を引いていたのはあの男だったのだ。
 少女の体がどこにあろうと関係ない。奴の手の中に器があったのだから
ザフィケルはセヴィーの企みに気付くが既に遅かった。

刹那たちの前に紗羅の霊体が現れた。刹那は正気に戻る。涙を流しながら紗羅は
やめて。みんな死んでしまう…あたしみたいに≠ニ言いすぐに消えた。
その直後の天界。長く眠りについていたジブリールが目覚めた。しかし様子がおかしい。
事態に気付いたセヴィーがジブリールに近づく。ジブリールはこう名乗った。
「あたし…紗羅…無道紗羅…」

ミカエルは半ば強制的にラファエルに撤退させられる。
「奴と戦って妙に嫌な気分になったりしなかった?」
ラファエルはそう問う。何を隠しているとミカエルは問い詰めるがラファエルは口を閉ざした。
残された刹那は、出血多量のボイスに輸血をさせるため、
本体を地球に保管させたままボイスを抱えアナグラへ戻る。
ボイスを助けてくれと頼む刹那。城門を開けさせるために
お前がボイスの腕を切ったのではと人々は怪しみ石を投げる。
刹那はその攻撃からボイスをかばいながら土下座して頼み込む。
そこへ一族の長しか見る事が出来ないと言われる神龍三姉妹のうちの末妹・瑪瑙(アガット)が現れる。
「仲間を殺す気ですか!己の心で真実と嘘を見極める事すら出来ないのですか。早く城門をお開けなさい!」
その言葉で二人は中に入れられる。ボイスの輸血手術がはじめられるが、血が足りない。
ノイズに輸血を求めようと腕を引っ張ると、刹那の聖なる波動に拒絶反応を出し魔物が現れた。
以前ベリアルがノイズにつけたアザは魔物招喚の紋章だったのだ。
刹那は魔物を殺し、それによってようやくノイズは正気に戻った。
それらの様子を覗き見るベリアルは、全く動じずに独り言を言う。
「悪魔の刻印の紋章とは本来、見えない場所につけるもの」

659 名前:天使禁猟区 32[sage] 投稿日:2005/06/20(月) 10:11:29 ID:???
九雷のもとに訪れるベリアル。男女どちらか相変わらずわからないと九雷は言い、
ベリアルは服を脱いで見せる。ベリアルの右足には蝶の刺青があった。
「古来より蝶はその美しい擬態により見る者を死の淵へと迷わせる。
 しかしお前のその淫らな蝶は誰にでも羽を広げるらしいな」
かつてベリアルがまだ力天使の地位にいたころ魔王はそう言った。
その時の魔王の軽蔑しきった目を見てマゾっ気のあるベリアルは
彼に一生ついて行こうと誓ったのだという。
ベリアルは箱を渡してくる。その中には生き返りの妙薬が入っており、
その箱を開けたと同時に子宮への洞穴が開くのだ。
つまり薬を使う時は九雷が地獄へ行く時でもあるのだ。

ボイスは手術が終わるとすぐに刹那の体をアナグラの元の場所に保管し直し、
ミカエルに左手の敵討ちをしに行こうと刹那に言う。ボイスの左手には今義手がつけられている。
そこへ以前殺したはずの魔物が現れる。その魔物は不死のためすぐに甦っていたのだ。
九雷は魔物の頭を鳥篭に入れ部屋に置いた。魔物は地獄に嫁に来いと説得してくる。
はじめは断固拒絶していた九雷だが、少しずつ気持ちは傾いてきていた。

紗羅(体ジブリール)は永の眠りの後遺症か視覚を失っていた。
それを治すためにラファエルは招かれるが、既に紗羅は脱走した後だった。
何故他人の体に宿っているのかわからず混乱する紗羅は目も見えないまま
闇雲に走り回り、ジブリールを探しにきていたラファエルとぶつかった。

660 名前:天使禁猟区 33[sage] 投稿日:2005/06/20(月) 10:13:41 ID:???
【地獄編 ACT.3窖の最下の花嫁たち】
貴方はいずれ美しくなりその姿は刹那をも虜にするだろうとベリアルはいい、
一時的に九雷を成長させる。成長した九雷の姿は見違えるような美女だ。
暗闇の中九雷は刹那に会いに行くが、こんな姿で刹那を誘惑しようとするなんて
まるで売女ではないかと恥じ泣いた。そして自分の刹那への思いをはっきりと自覚し、
刹那のためにも魔王の嫁になろうと決意した。出て行く寸前九雷は訊ねる。
「お前は自分が幸せになるのと、自分の大事な人が幸せになるのとどっちを選ぶ?」
「決まってんだろ?みんなで幸せになる!これだ!」刹那はそう答えた。
刹那の部屋から出た九雷は吉良が大量の血を流している事に気づく。
ロシエルの返り血の効力が薄れてきて、以前のように傷が再生しなくなったのだ。
「吉良朔夜の体はようやく自然の摂理によって土に返り安息を得る。
 そしてこの俺は再び精神体になり七支刀に戻る。ただそれだけだ」
しかしそうなったらもう吉良は語る事も自らの意思で動く事もできないのだ。

七大君主の一人であるアスモデウス公爵は、
九雷に渡した生き返りの薬は、死して腐敗してもひたすら甦りつづける
生ける屍をつくるだけのまがいものでないかと言う。
「別に構わないんですよ。餌が本物であろうがどうだろうが魚が釣れさえすれば」
ベリアルは大量の死体――前王妃――たちに向かい「新しい仲間が増えますよ」と挨拶をした。

天界へと向う刹那にこの箱を渡してくれと九雷はアラクネに頼む。
先の戦争で皇家の者は自分以外全て殺されたと思った時、
奇跡的に一人生き残ったアラクネに出会えた事が本当に嬉しかった、
お前が一緒にいてくれたから生きて行けたと九雷は泣きながら言う。
九雷の態度にどうしたんだと心配しながらアラクネは言う。
「あんた一人でも生き残っていたと知って嬉しかったのはあんただけじゃないのよ。それを忘れないで」


671 名前:天使禁猟区 34[sage] 投稿日:2005/06/21(火) 21:40:19 ID:???
ラファエルは紗羅が救世使の妹だと気づき、興味を持ち保護した。
上級天使のジブリールの体にただの人間の魂が入り込めるわけがなく、
紗羅は会話の端々に時折人間では知りえないはずの事を口に出す。
何かがおかしいとラファエルは思う。紗羅は今までの出来事を聞かされ、
刹那を生き返らせてくれないかと頼む。その代わりに服を脱げとラファエルは要求する。
女を個人として見ずどこかで憎んでいるからそんな事を言えるのだと紗羅は言う。
そこへミカエルが建物を壊しながら豪快に乱入してきた。

出発しようとする刹那とボイス。ノイズは母の形見の指輪をボイスに渡した。
アラクネも箱を刹那に渡す。中には魔王の紋章のついた壷が入っていた。
嫌な予感がし、これを渡した九雷の身を案じる刹那。手分けして九雷を探す。
九雷を探して走り回るボイス。その途中で魔王を信仰するための祭壇を見つける。
アナグラに誰か裏切り者がいたのだ。突如、ボイスに何者かが襲い掛かる。
謎の人物にボイスは応戦するが、切り刻まれ重傷を負った。

かつて戦争の後、ボイスは知った顔の死体のなかを姉と二人で彷徨い歩いた。
身分違いのボイスたちにも分け隔てなく接してくれた九雷の笑顔は何よりも彼らを救った。
この笑顔を守りつづけようとボイスは誓ったのだった。
ボイスは九雷の事を思いながら、とどめを刺され絶命した。

謎の人物はボイスの死体から形見の指輪を抜き取った。
「一人だけ生き残ったのは奇跡だって?奇跡なんて望んだって起きやしない。
 生き残った理由なんてそいつがスパイだからに決まってるでしょ?」
指輪を手に持ちアラクネは言った。そのはだけた胸元には魔王の紋章があった。


アラクネはボイスが何者かに殺されたと刹那に報告する。
九雷の部屋から見つかった魔物の首は、壷の中の薬と引き換えに九雷は嫁に行ったと告げる。
ともかく今は薬を飲むべきだと説得するアラクネ。ボイスの死に泣いていたノイズは、
ボイスを甦らせるために壷を奪いボイスの亡骸の口に薬を流し込もうとする。
不完全な薬とはいえ、ボイスの意識が戻ってしまえばアラクネの裏切りがばれてしまう。
アラクネは壷を割り阻止する。抗議したノイズはアラクネの胸元を一瞬見てしまった。

672 名前:天使禁猟区 35[sage] 投稿日:2005/06/21(火) 21:45:16 ID:???
もめる二人に刹那は、薬が使えなくなった事で契約は無効になった、
地獄に行き九雷を救出すると言い出した。ついていくと言うアラクネとボイス。
三人は頭だけの魔物を道案内人として連れ地獄に行った。

残された朔夜は刹那の本体からピアスが一つなくなっている事に気づいた。
皆の前では平気なふりをしていたが朔夜の体はもう限界だった。
死にかける朔夜。そこに現れたベリアルは何故か朔夜の体を回復させる。
何故だと朔夜は問うが、ベリアルは何も答えずに消えた。


地獄に連れていかれた九雷はベリアルにより美しく着飾られていた。
地獄には魔王の地位と命を狙う反魔王派が数多くいる。
それに地獄の中には酷く残虐な性質の者や、見ただけで命を奪う者まで危険な人物が数多くいる。
それらから守るため九雷は特殊な次元の中に置かれている。
無断で一歩外に出ると地獄のどこに放り出されるかはわからない。
閉じ込められている九雷は退屈していた。思い出すのは刹那の事ばかりだ。
刹那の本体からこっそり取ったピアスを眺める九雷。
このままずっと刹那に未練を持っていてはいけないと思いピアスを窓から投げたが、
やはり思い切れずにピアスを取ろうとし窓から落ちどこかに投げ出された。
そこには鎖に縛められた巨大な怪獣のような悪魔がいた。
その姿を見た途端に九雷の胸が痛んだ。見る者の命を奪う悪魔とはこれの事だったのだ。
しかし、刹那のピアスが不思議な光を発し、その守りにより一命を取り留めた。
怪獣――アバドンは生まれながらに背負った見る者の命を奪ってしまう力のために、
地下に監禁されているという。自分は呪われた化け物だとアバドンは嘆く。
あいつ≠ヘアバドンのもとへ生き物をつれてきては殺させ、アバドンに罪悪感を植え付け楽しんでいた。
「一緒にここから逃げようや!俺魔王の嫁さんになるために来たんや!女王様の権限でどうにかしたる!」
そう言った途端アバドンはその巨大な手で九雷を抱き上げると「ママ好キ」といって頬擦りしはじめた。
わけがわからないながらアバドンの世話をする九雷。
突然「アイツが来タ」と言ってアバドンは抜け穴に九雷を放り投げた。
そこから迷路のような道を歩く九雷は、黒蛇を首に巻いた美しい女公爵アスタロテに会った。


130 名前:天使禁猟区 36[sage] 投稿日:2005/07/07(木) 03:07:52 ID:???
【地獄編 ACT.4地獄帝国】
もしもアスタロテが反魔王派だったら無事では済まないと警戒する九雷に
アスタロテは優しく微笑み、腹の中にいるという赤ん坊の心音を聞かせる。
悪魔とは思えないその態度に九雷は安心する。
九雷は魔王の999人目の花嫁で、
アバドンは魔王の数多くいる子供のうちの一人であり九雷の継子なのだとアスタロテは言い、
魔王の嫁になどならず、ずっとここにいて生まれてくる子供の友達になってくれと頼んでくる。
九雷は断り出ていこうとするが、ここは無限に増殖する迷宮となっているから
1度入ったら2度と出る事はできないとアスタロテに言われる。
この迷宮をつくったのはアスタロテの兄のアスタロト。
彼は出来の悪い妹を恥じ憎んでおり、彼女を人前に晒さないために迷宮をつくったのだ。
じゃあお腹の子供の父親は…?°纓汲ヘ疑問に思う。
突然、アステロテは兄がやってくると叫び、九雷を箱の中に隠すため押し込めた。
「なんだその腹は!浅ましい女だ恥を知れ」すぐにヒステリックな男の怒鳴り声が響き、
なにかが破裂するような音がした。「あっああ…私の赤ちゃん…また潰した!」
耐えきれず飛び出した九雷は、アスタロテそっくりの男の姿を見る。
兄妹は双子だったのだ。アスタロトは九雷を失神させると、高らかに笑った。
その笑い声を聞いたアバドンは九雷の危機を知った。



地獄についた刹那とノイズに、アラクネが突如襲い掛かる。
誰よりも九雷の傍にいたお前が何故裏切るのだと刹那は叫ぶ。
「誰よりも憎んでいたからこそ誰よりも慈しむ事が出来たのよ。
 選ばれし者≠ノはわからないでしょうね」
そう言い残しアラクネは消えた。ノイズと刹那は九雷を探して歩き回り、
ベリアルとアラクネに捕まった。ノイズは人質として取られ、
一定の時間がきたら大量の針が飛び出す椅子に縛り付けられた。
その時間が経つ前に、どこかに消えてしまった九雷を探せとベリアルは言う。
ルーレットにより、刹那は淫欲の業を担うアスモデウス公爵のもとへ行く事になった。
「どうして悪魔の手先に…姫様の従兄弟なのに…!」アラクネに向かい叫ぶノイズ。
「正しくは、彼は姫君の兄にあたるのですよ」ベリアルは微笑みながら言った。 続く

520 名前:天使禁猟区 37[sage] 投稿日:2005/07/28(木) 02:55:23 ID:???
(所変わって紗羅・ラファエル・ミカエルのいる天界)
救世使の妹の魂が何故ジブリールの体に入っているのだと不思議がるミカエルにラファエルは仮説を言う。
紗羅は元々ジブリールだったのだと、つまり生まれ変わりなのだろうと。
かつて、セヴィーの冷徹な政策にジブリールは真っ向から歯向かっていた。
そして地上では吉良によりアレクシエルの転生プログラムが壊されていた。
セヴィーは邪魔者であるジブリールの魂を強制的にアレクシエルのそばに転生させ、
監視役にさせていたのだ。ジブリールの魂を持ち水の守護を持つ紗羅は、
本人にジブリールという意識はなくともただ刹那のそばにいるだけで監視の役割を果たせていたのだった。
自分は監視役なんかではないただ傍にいたかっただけだと紗羅は泣いた。
その弱弱しい姿を見て、確かに今の紗羅はジブリールとは別の人間だとラファエルは思う。
そこへ、刹那の顔をした謎の男が刹那の本体を盗み地球へやって来て、
地球を探索していたミカエルの部下を攻撃したという情報が入る。
怒りながら地球へ向かうミカエルについてきた紗羅とラファエル。
そこには、謎の男と共にウリエルがいた。
謎の男は自らの顔を剥ぐ。その下からは加藤の顔が現れた。
ウリエルによって加藤は硬質化した植物でつくられた体を得て蘇っていたのだ。
その体はいまだ不定形で、顔を変えることすら容易だ。
加藤がミカエルの部下にちょっかいを出したのは、ミカエルと共に
ラファエルも呼び出し刹那の本体の蘇生をさせるためだ。
ウリエルは結界をはり、ラファエルらを逃げられないようにした。
出たいのならば刹那を生き返らせろという事だ。



(所変わって地獄の九雷)
アスタロトは九雷が持っているピアスに闇に属す力がが込められていると言う。
刹那の持ち物であったピアスに何故闇の力が?九雷は疑問に思う。
アルタロトは蘇りの薬はまがいものだと教えると、九雷を殺そうとした。
その瞬間、アスタロトの体は女へ――アスタロテへと変化した。
わけのわからない九雷の手を引きながらアスタロテは説明をする。

521 名前:天使禁猟区 38[sage] 投稿日:2005/07/28(木) 02:56:42 ID:???
神は両性具有で正の力も負の力も使いこなすアダム・カダモンを創り出そうとしている。
しかし成功したのはセラフィタのみ。その後の試みは新たなるクリチャーを生み出すばかりだった。
元々はただの双子であった兄妹は実験体にされ、妹の精神は兄の体に移植された。
しかし二つの精神が統合される事はなく、病んでいく兄は虐殺に興じるようになった。
兄はなによりも神を憎みながら人々を殺め続け、やがて妹共々堕天したのだった。
その際、雄と雌の双頭の蛇を媒介にして術をほどこし、体が兄の時は白蛇に妹の魂を封印し、
妹の時は蛇は黒色へと変化し兄の魂が封印された。
説明を終えると、アスタロテは蛇のように体を変形させ「私の新しい赤ちゃんになって」と九雷を飲みこもうとしてきた。
前にアスタロテの腹の中にいた赤ん坊というのも、彼女に飲みこまれた人だったのかと九雷は悟る。
飲みこまれそうになった瞬間、アバドンが現れアスタロテを倒した。
アバドンの手からは大量の血があふれている。九雷を助けにくるために鎖に縛られた手を食いちぎったのだ。
「赤ちゃん…あなたも私を拒むの?人前に出る事をお兄様に禁じられいつも一人…
 ずっと…永遠に愛してあげるのに…何故…お兄様…」
涙を流すアスタロテを置いて九雷とアバドンはその場を去る。
アスタロテは最後の力で蛇にかけられた術を解き、自らの命を失いながらも兄を守った。
目覚めたアスタロト。「馬鹿な女だ。俺の方はあいつの死などなんとも思っちゃいないのに…」
そこに現れたベリアルは、それなら何故あなたほどの力の持ち主が魔力で強制的に妹を引き離さなかったのだと聞く。
アルタロトは高笑いをあげながらも、涙を流した。


(所変わってアスモデウス公爵のところにいった刹那)
色々もめたものの、反魔王派のアスモは魔王の結婚式の妨害を手伝ってくれるという。
それは「憎く愛しい蝶」への嫌がらせでもあるらしい。
刹那はアスモの謙譲品と称して式にもぐりこむ事になった。
実は九雷は、魔王の力に飲みこまれ滅びつつある地獄を治めるための生贄なのだとアスモは言った。


(所かわって吉良)
吉良は七支刀を通して伝わってくる地獄の大気に既視感を感じる。
それを確かめるために吉良も地獄へと向かう。

522 名前:天使禁猟区 39[sage] 投稿日:2005/07/28(木) 02:59:41 ID:???
アバドンと共にさまよう九雷。どこに行けば良いのかすらわからない。
そこへアラクネが現れる。彼の裏切りを知らない九雷は駆けより、鞭で打たれた。
助けようとしたアバドンも打たれる。
魔王に忠誠を誓っているアラクネには、力の属性が同じなためにアバドンの力は通じない。
薬をかがせられ意識が朦朧とした九雷にアラクネは物語を聞かせる。

かつてゲヘナ皇家では新たなドラゴンマスター――次の王の誕生が待ち望まれていた。
そこへ占者たちが口をそろえて予言したのだという。「次に生まれる皇子こそが次期王だ」と。
生まれた皇子は選ばれし者として世俗から引き離されて育った。
それは世継ぎの命を狙う天使軍の暗殺を避けるためだと言われていた。
しかしある日天使軍の暗殺者が皇子たちを襲う。皇子とその忠実な家来は瀕死の重傷を負った。
現場にやってきた皇家の者たちは、皇子を見下ろしながら言う。
「天使軍が狙っていると言うのは本当だったのか。王の計画は上手くいった。
 真実のお告げの次期王が九雷姫だと悟られぬよう当の皇子さえ騙して替え玉にして姫を守るとは」
秘密保持のために瀕死の者たちを残し屋敷には火が放たれた。
「運命の皇子だと信じて仕えてきたのに…俺が信じていたものがニセモノだったなんて…!」
炎の中、そう叫ぶ家来を皇子は殺した。血と憎悪の匂いに惹かれてやって来たベリアルは
忠誠を誓わせるかわりに皇子を救った。皇子は九雷の従兄のアラクネを殺し成り代わり、
女装癖のあるうつけ者のふりをして髪を伸ばし化粧をし素顔を隠した。
そして天使軍に情報を流し、憎い王たちを皆殺しにした。

「あんたに会えて嬉しかったのは本当よ。あんたを利用して手なずければ残った民の信頼を得られる。やっと王になれる」
アラクネは涙を流す九雷をベリアルに引き渡した。
ベリアルは薬が効いたままの九雷を着飾らせると、九雷の前で服を脱いだ。
そこに現れたのは男でも女でもない体だ。
天使とは無性で生まれてきて、後に男や女へと体が変化していく。
神の運命に従う事を嫌ったベリアルは体が女へと変化していくのを薬によって止めたのだ。

523 名前:天使禁猟区 40[sage] 投稿日:2005/07/28(木) 03:01:58 ID:???
九雷の花嫁の儀式が始まろうとした時、アバドンが乱入し場は騒然となった。
それを裏から眺めるアラクネのもとへ、ボロボロの姿をしたノイズが襲いかかる。
アラクネは神龍を呼び出そうとする。
「無駄ちゃいますか。あんたはその欲望を遂げるために手を血まみれにした王位簒奪者!
 その汚れた魂を誇り高い守り神が認めるはずないやろ!
 あんたが本当は何者だろうとかまわない。
でも私たちは仲間やったはずやろ?その信頼を裏切ってはいけなかったんや!」
その姿がボイスと重なり、アラクネはまともに攻撃を受けた。
何故神龍を呼び出さなかったと問うノイズに、自分では神龍は従わなかったとアラクネは言う。
アラクネは形見の指輪と神龍が封印されたピアスを渡す。
「これからはあたしのかわりにあんたが九雷を守って」
椅子の装置を壊したのは自分を救うためだったのかとノイズは気付いた。

アバドンが暴れすぎたせいで式が行われようとしていた宮殿は崩れ始めていた。
奈落の底へと落ちていきそうになる九雷。刹那がとっさに助ける。
壁に突き刺した七支刀に掴まる二人は、向かい側の壁に巨大な顔のようなものがある事に気付く。
それは吉良と同じ顔をしていた。

続く


ただでさえ巻数があるのに短くまとめられない。
話の複雑さに加えて、話が色んなキャラの視点で同時進行していくものだからややこしいです。
わからないところがあったらすみません。

562 名前:天使禁猟区 41[sage] 投稿日:2005/07/29(金) 04:14:49 ID:???
【地獄編 ACT.5 Sacrifice】
ベリアルは足場をつくり刹那と九雷を降りさせる。
「それこそが地獄の王ルシファー猊下の現在の姿。
 ここは儀式の行われる祭場の終着点ゴルゴタの間。
 聖なる999人目の花嫁が身を投じれば儀式は完成します」
かつてルシファーたちが天界より逃げ延びた先はひどく劣悪な土地だった。
それを変えるためにルシファーは自らの体を大地に根付かせた。
しかし何千年か前に突然現れた黒衣の男が魔王の魂を奪っていった。
「しばしの安らぎを得るがよいルシフェル」男はそう言った。
ルシフェルとはルシファーが天界にいた頃の名だ。
魂をなくした魔王の体は暴走し、今まさに地獄は崩壊しようとしている。
他人と交わった事のない純真な体の者が生贄となる事でしか暴走は収まらない。
このまま放置しても刹那を含めた皆が死ぬだけだと、九雷は自ら生贄になろうとする。
しかし、そこへ現れたアラクネはベリアルを剣で貫き胸の刻印に封じられた魔物を返却すると、
自分が生贄になると言い出した。生贄は清らかな若い体であれば男でもかまわないのだ。
アラクネはノイズによる大怪我をかかえ身を投じようとする。やめろと叫ぶ九雷。
「言ったでしょう。あたしはあんたの従兄のアラクネなんかじゃない。
 あれはただの家族ごっこよ。仲間のふり愛してるふり…
 ずっとずっと長い事あんたを欺くための演技だったのよ…!
 ただ…それが…あまりにも楽しく幸せなごっこ遊びだっただけ…
 あっちが夢で…九雷の従兄だというのが現実ではないのかと…
 ……こんなにも願ってしまっていたなんて…!」
アラクネは奈落の底へと落ちていく。ゴルゴタの間が崩れ始める。
ベリアルは魔術により刹那と九雷を逃がす。
「さようなら姫君。貴方はわたくしの聖域でした」
ベリアルは清らかな体ではないため生贄になる資格がなかったが、
崩壊にまきこまれる事によって地獄=ルシファーと同化できるなら本望だとその場に留まった。
しかし寸前でアスモデウスに助けられてしまった。

途中で刹那とはぐれた九雷が目覚めると、傍にはノイズがいた。
逃げる最中で意識を失った九雷を守るようにしてアバドンは死んでいた。
自分の為に血を流した多くの人に涙しながら、自分も仲間も全て守れるほどに強くなろうと九雷は決意した。

563 名前:天使禁猟区 42[sage] 投稿日:2005/07/29(金) 04:17:27 ID:???
メタトロンの夢の中から、メタトロンと同じ髪をした謎の男が地球の様子を見ている。
現在地球ではラファエルが刹那を行きかえらせようとしている最中だ。
男は巨大な手を地球に突っ込み遊び半分に妨害をしようとするが、元の体に目覚めた刹那に反撃され巨大な手を消した。
巨大な手が入り込んだ事で磁場が狂い始めた。紗羅・ラファエル・ミカエルは撤退した。

(刹那が完全に目覚めるちょっと前の地獄)
アレクシエルは地獄にやって来た吉良を殺そうとするが気付かれて失敗する。
剣に封印される前の記憶がない吉良に、お前はかつてルシファーだったのだとアレクシエルは告げる。
遠い昔、まだ正常だった頃のロシエルは「もしもの時は自分を殺してくれ」とアレクシエルに頼んだ。
弟の願いを叶え、そして自分と弟にかけられた呪い≠解くためにもアレクシエルはそれを承諾した。
しかし、いざその時になってもアレクシエルには最愛の弟を殺す事が出来なかった。
自分には弟を憎む事も殺す事ができない。ならば刹那に託そうとアレクシエルは刹那の意識の底で眠っていた。
吉良を殺そうとしたのは、吉良がいずれ魔王として目覚め刹那の敵となる事を予感したからだった。
刹那の心音の音が聞こえ始めた。アレクシエルの体は再び屍と化した。

刹那は当初の目的である紗羅の魂奪還のために天界に行く事を再び決意した。



【至高天 形成界(イエツィラー)編 ACT.1兎狩り】
インプロパチャイルド――あるまじき子供たち
天使は姦淫を犯す事が禁じられ、その証である子供たちはそう呼ばれていた。
天使同士の子供はその濃すぎる血故にまともに生まれてくる確率は低い。
異常に白い肌と赤い目を持つ者が生まれやすい事から兎とも称されている。
社会見学のため調査隊として、ならず者たちが多く住むといわれる最下層シャマイム≠ヨ訪れたラジエルは、
Iチャイルドのあまりの多さに驚く。泣きながら連行されていく子供を見ると心が痛むが、
この悲惨な状況を根底から叩き直すためには仕方のない事なのだと自分を納得させる。
突如ラジエルに少女が襲いかかる。もつれあう二人は巨大な穴に落ちた。
翼が片方しかなく飛べない少女を抱えラジエルは着地した。
ここには片翼どころか羽一枚すらない天使と認められない天使たちが多くいるのだ。

565 名前:天使禁猟区 43[sage] 投稿日:2005/07/29(金) 04:25:30 ID:???
少女――シャトは自分を救ったラジエルへの敵対心をなくし、
自分をかばって着地したためについたラジエルの傷を治療するために隠れ家に連れて行く。
そこには大量のIチャイルドがいた。子供たちの親は既に極刑になったという。
「生まれながらに罪があるなんてばかげてる。
 奴らはただこの子たちを兎に見立てて狩りを楽しんでいるだけだ」シャトは言う。
他の調査員が探しにきてIチャイルドたちが捕まらないようラジエルは帰る事になった。
天界の政策の全てを否定するわけではないが、Iチャイルドたちの事情を知ったラジエルは
次にくる時はなにか君たちに貢献できるような事をしたいとシャトに言った。

ラジエルはシャマイムの貧しい人々のための救援物資をセヴィーに頼んだ。
それらをシャトのところへも持っていく。
シャトは何故はじめラジエルを襲ったのかを話し出した。
調査隊の大多数の者たちは兎≠スちが逆らえないのをいい事に
「気取るんじゃない出来損ないでも少しは俺たちの役に立て」と兎≠ノ好き放題をしていた。
ラジエルもその一人なのかとシャトは恐れて先に攻撃をしかけたのだった。
「おかしいだろ 狂ってるだろ。上の連中は愛し合う事を最大の禁忌にしているのに
 影では愛のない行為を強いているなんて」泣くシャトに触れようとして寸前でラジエルは手を止める。
「本当だ…何故なんだろ?何故好きな人に触れる事が罪なんだろう…?」

また来るという約束を交わし出ていくラジエル。シャトは支給されたケーキにナイフを刺した。
その瞬間、爆発が起きた。ラジエルが後にした家が粉々に吹き飛ぶ。
そしてシャマイム中に次々と爆発が起こった。支給品に爆弾が仕掛けられていたのだ。
爆発により怪我を負ったラジエルの元に、シャトの生首が吹っ飛んできた。


その大規模な爆発によりシャマイムは壊滅状態。これからも死者は増えつづけていくだろう。
支給品に爆弾を仕込んだセヴィーに「あなたを告発する」とラジエルは言う。
しかしラジエル一人が騒いだところで最高権力者の前ではどうにもならない。
セヴィーはまだ生きている者もいるのにコンクリートを流しこみシャマイムを埋めてしまうと言った。
「奴らは天界の汚点だ。浄化するにはいい機会だ」


17 名前:天使禁猟区 44[sage] 投稿日:2005/08/01(月) 02:07:13 ID:???
怒りで襲いかかろうとするラジエルをセヴィーは跳ね飛ばすと、
シャマイム爆破を手引きしした者だと偽り連行させようとした。
そこへザフィケルが飛びこみ、自分に免じてどうかお慈悲をと土下座をした。
それでは自分が犯人だと認めるようなものだと訴えるラジエルの頬をザフィケルは叩く。
「あの大惨事を招いたのは君です。援助品として君が申請したケーキやおもちゃの数々…
 誰でなくともIチャイルドのためだとわかります。あそこに罪深き子供たちが隠れているのだと!
 なのに君は不用意にも最高会にあの地へ入る大義名分を与えてしまった。
 彼らのためにいい事をしていると自己満足に浸りながら、君の愚かさがあの子達を惨殺したのです!」
冤罪は免れたが、ラジエルはその場に泣き崩れた。

ラジエルはザフィケルのもとへ訪れる。
「僕一人があんなところでわめいたって犯人に仕立て上げられ処刑されるのがオチだった…
 でも…あの時僕はあの方に頭を下げるより、潔白を叫びながら殺された方がどんなにか良かった!
 座天使長の名をこれ以上傷つけないためにも僕はここから出ていきます」
それほど決心が強いのなら面白いものを見せてあげよう、それからでも遅くはないと
言いながらザフィケルは服を脱いだ。ザフィケルの胸元には堕天使の烙印が押されていた。
一度堕天した者が上級天使になれるわけがない。どういう事ですかとラジエルは問う。
「知りたいでしょう本当の事を。見せてあげましょう、君の能力ならばたやすい事です」
そう言われ、ラジエルはザフィケルの胸の烙印に手を伸ばした。

ラジエルの頭の中にかつてのザフィケルの姿が浮かぶ。
ザフィケルはアナエルという女天使と密かに愛し合う一方で、
彼女の止める声も聞かずに兎狩りに精を出し虐殺を楽しみ、
アナエルの友人のライラにちょっかいをかけたりしていた。
「貴方の目はなんの真実も映し出さないのね…
 こうして触れ合っているだけでわかればいいのに…!
 貴方が見捨ててしまったこの世界にもまだ何かが残っている事を…」
最高会から命令されて行っている悪魔の研究≠ニさえ称される
プロジェクトに恐れを抱き始めていたアナエルは時折ザフィケルにそう言った。
しかしザフィケルが行動を改める事はなかった。

18 名前:天使禁猟区 45[sage] 投稿日:2005/08/01(月) 02:09:41 ID:???
ザフィケルは極秘任務としてある叛乱軍を制圧する事になった。
ターゲットは赤髪を逆立てた若い女。彼女は言葉が不自由だ。
薄闇の中、言葉にならないわめき声をあげながら銃をこちらに向ける女。
ためらう事無くザフィケルは彼女を殺した。
その途端女は座っていた椅子ごと倒れた。
女からカツラが落ち美しい金髪があらわになった。彼女はアナエルだったのだ。
直後、叛乱軍の住処が何者かに爆破された。


「アナエルは叛乱組織に拉致されていた。それを根城ごと爆破するなどもってのほか。
 お前の部下も一人として生き残らなかった。この責任はお前の死をもって償ってもらう。
 自害しろザフィケル。もうこれ以上座天使長の名を汚さぬよう。2度と転生の道など辿れぬよう」
アナエルが拉致されていたなど聞いておらず、爆弾を仕掛けたのもザフィケルではなかった。
ザフィケルが踏み込んだ時には既に叛乱軍は何者かに制圧されていたのだ。
アナエルを暗闇で別人に見せるための赤いカツラ、濃い化粧。
天使軍用の見なれた手錠を紐で無理矢理手にくくりつけ、
そして首には声を失わせるための一本の針が刺されていた。
全てはザフィケルを失脚させるためのセヴィーの策略だった。
だがそれはもうどうでもよかった。
暗闇とはいえ愛する者を見分ける事の出来なかった自分をザフィケルはなにより憎んだ。
「もとより転生の道など望んではいない…!こんな世になんの未練があるか。
 我が死に様を見届けるがいい神の奴隷共!!」ザフィケルは自らの首を刃物で刺した。
激痛で唸り声をあげるザフィケルのもとに強い光を持つ何者かが一瞬姿を現した。
その光を浴びた途端ザフィケルの首の傷は癒え、命を取り留めた代りに失明した。
それが後にも先にもザフィケルがはじめて見たセラフィタの姿だった。
その場にいた最高会の長老は正気を失い、全ての実権はセヴィフォタルタへと渡った。
彼は証人や資料が全て失われたこの事件をもみ消し、
代りにザフィケルに服従を迫り自らの手でザフィケルに刻印を刻んだ。
「この痛みを覚えておけ。お前は私のものだ」

アナエルは『サンダルフォン』と呼ばれるプロジェクトに参加していた。
それはメタトロンの死産した双子の弟と同じ名だ。

19 名前:天使禁猟区 46[sage] 投稿日:2005/08/01(月) 02:12:55 ID:???
アナエルはそのプロジェクトを恐れ、密かに叛乱組織と通じていた。
失明後のザフィケルはアナエルの意志を継ぎ叛乱組織の影の頭目となった。
全てを明かされたラジエルは、腐敗した天界に立ち向かおうとするザフィケルにより一層の忠誠を誓った。
「それでは…貴方に重大な任務を託します」

(ところ変わって元の体に戻った刹那)
九雷は刹那の体から取ったピアスは地獄でなくしてしまった。
その事を謝ると、ピアスは吉良にもらった物でまだ二つ残っているからいいと刹那は言った。
ウリエルがラファエルを呼び出せたのは、密かに連絡を取り合っているザフィケルからの
情報もあっての物なのだという。ウリエルは刹那がザフィケルと連絡を取れるように
通信機を渡して再び幽界へ帰っていった。加藤は刹那のもとに残った。
しばらくしてザフィケルからの連絡がきた。使いの者をよこすとの事だ。

ザフィケルの命令により刹那のもとへ訪れたラジエル。
通信装置により刹那とザフィケルは対峙する。
現在、天界で紗羅は裁判にかけられ処刑されようとしている。
『地水火風』を司る四大天使は一人でも亡くなると自然界の理は崩れ世界は乱れる。
ただし裁判により定められた死刑ならば、死の前に四大天使の力を他者に明渡す事ができる。
セヴィフォタルタは元素界を壊さずに合法的に紗羅を消そうとしているのだ。
紗羅を救うために、ラジエルがアナグラへ来る時に使った魔方陣から天界に行こうとする刹那。
しかしこの魔方陣は一人があと一回使うので精一杯だ。
刹那が使ったらラジエルが帰れなくなってしまう。ラジエルは反対する。
しかしザフィケルは、自分を信頼してもらうための人質としてラジエルを預ける、
ラジエルを残してこちらに来いと刹那に言う。
天界でライラに会えるかもしれないからと、幽界で廃竜に渡された種を手に刹那は魔方陣に入った。

(所変わってセヴィーに幽閉されている紗羅)
幽閉されてから、紗羅には聖巫女(シスター)がお付きとして常に傍にいる。
上級天使は身の回りの世話をさせるために、許可を取りグリゴールに肉体を与えている。
お付きの少女はその一人で元グリゴールなため、名前がない。
少女がよく紗羅に持ってくる、月の光を吸って咲く花・月神草(ムーンリル)から取り、
紗羅は少女にリルと名づけた。

347 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:01:42 ID:???
途中で終わってるようなので、形成界編・月華夜から続きを書きます。
前の方が書いたように相変わらず長い上にころころ視点は変わるわ複線だらけだわで
あまり簡潔にまとめられなくてすいません。

[至高天 形成界編 月華夜(つきはなのよる)]

天使達の首都・形成界ラキアへの転移途中、刹那はロシエルの残像を目にする。
卵の中の大きな顔、涙をこぼしながら口の中に通されたパイプ、それを食べる天使の胎児…
折りかなさるように倒れている人影、そして卵の前にはロシエルがてぐすねを引いている…。
ザフィケルと紗羅の声で幻覚の中から何とか目的地へ抜け出すが転送機から漏れた瘴気が
刹那の足に絡み、コートを引き千切る。ここは危険だから移動しようというザフィケル。
紗羅の居場所はわかっているが、その前にやってもらう事があると。
ロシエルは千切りとったコートの切れ端を見て薄ら笑っていた。
裏切者がこんな近くにいたなんて、おもしろい。
ダーリンあてに回線を繋ぐよう、誰かを繋いだ鎖を持ちながらカタンに指示を出す。

正体がバレないよう髪を黒く染め変装した刹那に、アニマ・ムンディの集会に出席してもらうと言うザフィケル。
紗羅が気になって仕方がないが取引は取引。渋々演説を引き受ける事に。
一方、刹那が近くまで来ていると感じ取っていた紗羅はセヴィーの言葉でそれが真実だと知る。
さっきのは夢ではなかったと。喜ぶ紗羅に罪の意識、恥じ入る心もないのかと怒るセヴィー。
「助けに来たなどとふざけるな、お前をここから出すものか。
救世使とてのこのこ来ようものなら共に切り刻んでくれる!」
愛された事がないからわからないのか、愛されたいのなら愛していると自分からぶつけなければ何も壊せない。
みんなそうやって傷つきながら愛を勝ち取るもの。
戦う事も拒絶したそんな人の言葉には負けないと紗羅は怯えるリルを庇いながら気丈に言い返した。
そうは言ったものの彼は本気で紗羅をここに閉じ込め、刹那も捕えるつもりだろう。そして殺すつもりだ。
どうしたらいいと考えた結果、彼女はこれしかないと決意する。
「自分たちが入れ替わるゲームをしよう…」

348 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:06:27 ID:???
取り替えっこ、おもしろそうだと笑うリル。ルールは簡単、着ている物を交換してお互いになりきって生活するだけ。
互いに成りすまし、誰にもバレないように。初めに見つかった方の負けだからなるべく顔を隠して喋らないように。
リルは服はともかくその長い髪がベールで隠れるかと心配する。
そんなのなんでもない、と、紗羅はリルの制止も聞かず髪を切り落とした。
服を替え、紗羅に見えるかと聞くリル。見えるが喋ったら一発だと、紗羅は笑う。
入れ替わって自分一人逃げるということは、何も知らないリルを利用する事。
(でも時間がない…どんな方法でも今は構っていられない!)
リルは尊敬していたあのジブリール様とゲームが出来るなんて夢みたいだと言う。
罪悪感を感じながらも「誰か来ても絶対に喋ってはいけない」と言って紗羅は部屋を出た。
広い屋敷の中出口を探して歩く彼女を衛兵の男が襲う。
「昨日の分もたっぷり可愛がってやる。何の力も使えない『杭打ち(ステイカー)』が俺たちの役に立てるのだからありがたく思え」
その言葉にリルが何をされようとしていたのかを知った紗羅は力を使って弾き飛ばす。
あわやジブリールだとバレそうになったその時、行商の女性が助けてくれた。
気絶した男からマスターキーを取り出し縛り上げ、味方だと笑う女性は同僚だともう一人の男性・アフを紹介する。
女性は裏口へと案内しながら事情を説明する。
石売りをしているといろいろと噂を聞く、ジブリールが鬼のセヴィーに閉じ込められているという話も。
自分たちは恩がある、下層の天使の生活を良くしようと自ら働きかけてくれた天使などジブリールくらいだ。
下じゃそれをジャマに思ったセヴィーが秘密裏に亡き者にしようとしたのだともっぱらの噂だったのだ。
とりあえず助かったがみんながジブリールと呼ぶ事を申し訳ないと思う紗羅。
ついでにさっきの男が言っていた「杭打ち」について質問する。
シスターや、堕天使を改造して戦う事しか知らない戦闘使を創る時に行われる手術の一つがそれだ。
脳の中にミクロな針状の機器を埋め込んで機能をマヒさせ余計な事を考えないようにさせるもの。
リルの様な非力な者に何故そんなマネができるのか…これが本当に天使の住む楽園なのか、
ここの連中はみんな狂っていると紗羅は憤る。

349 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:07:28 ID:???
天の車(メルカバ)の中で紗羅を閉じ込めているセヴィーの居場所を確認する刹那。
情報によるとこの上の第4天マコノムの彼の領地内のどこからしい。
そうこうする内にラキア最果ての地、戦で死んだ天使の鎮魂のために創られたという魂の墓地「メギドの丘」へ。
一面の野原の中に、組織の秘密基地となっている慰霊碑以外は何もない。
だが夜になるとムーンリルの花が一斉に咲き、道に迷った霊がその光を頼りにここへ帰ると言われている。
着替えを始めた刹那は服の中から例の種入りのピアスを発見し、目的の一つを思い出す。
ザフィケルはもしかすると自分の知っているライラかもしれないが、彼女に会う事はかなり難しいと言う。
以前、友人アナエルの頼みで彼女の失踪理由を調査した事があるのだが、彼女の存在は天使名簿から消されてしまっていた。
彼女達の行っていた研究自体シークレットであった上、彼女の巻き込まれた事件は事の真偽さえ定かではない。
彼女を襲ったとされる他の研究員の裁判記録さえ残っていないのだ。
文字通り闇から闇へと葬られたあの事件と、彼女の生死を知るためには事件をもみ消した
宰相セヴォフタルタに聞くしかない。
ライラはアナエルと同じく知りすぎてしまったが故に消されたのだろう。
何しろ彼女の行っていた研究は「サンダルフォン」と「メタトロン」を産み出すためのもの。
メタトロンの後見人と言う名目でのし上がった彼にはその秘密を知る者は邪魔者にすぎなかったのだから…
なんてやつだと思いつつも演説の準備は進む。豪奢な衣装に膨大なカンペ。
要は皆の希望通りの救世使を演じればいいのだが刹那には当然無理。自分の言葉で語りかけはじめる。
そのカリスマ性に拍手喝采の聴衆。そんな中刹那はエアバイクをふんだくって逃げ出した!
追いついてきたザフィケルに24時間以内には戻るから安心しろと言う。
ただしその時は紗羅も一緒だ! 呆れつつもザフィケルは思う。
(あの子は不思議な魅力を持っている…稚拙な言葉でも魂を感じられる。
セヴォフタルタでもアレクシエルでもない、新しいタイプの指導者。人を引付ける力。
だがまだ足りない、あの救世使はまだ大事な事に気付いていない…)

350 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:09:48 ID:???
マコノムへ続く門でエアバイクを乗り捨て上に行きそうな荷物に侵入する刹那。
そしてその後ろでラキアへ行こうとしている紗羅一行。互いに何かを感じ、まさに振り返ろうとする。
先に振り返った紗羅が刹那の姿を見つけ、切れ切れにその名を呼ぶ。
が…刹那が振り返ろうとしたその瞬間、カーゴの扉は閉まり発車してしまった。紗羅は必死に刹那を呼ぶがもう遅い。
刹那は超快速の重力に耐える事に必死で、誰かが呼んだような気がした事には構っていられなかった。
紗羅は自分を迎えに来てくれた事を悟り、上に戻らなければと焦る。
そんな彼女を宥めようとする行商の女性は、うっかりジブリールの名を出してしまった。
気が付いた警備兵は絶対に逃がすなと銃を撃ち始める。そこへアフが口から衝撃波を繰り出し何とか逃亡に成功する。
アフは珍しい変異亜種(アイオーン)、天使同士の間にできたIチャイルドの生き残り。
Iチャイルドのほとんどはまともに育ちはしない。その証拠にアフは体の成長だけ異様に早く視力は極端に弱い。
生まれつき肌は真っ白だし翼には羽がないし体毛も一切ない…だが、時として未知の強力な能力を持った者が現れる。
「アフ(怒りの天使)」のように…彼らをアイオーンと言うのだ。
一方無事に宰相の領地に到着した刹那は、そこでセヴィーと対面し、紗羅が先程までこの場所にいた事を知る。
セヴィーは紗羅が逃げ出した事を聞いて、彼女の身代わりとなったリルのいる部屋へと向かう。
ジブリールの行方を尋ねるセヴィー。だがリルは何も答えない。
お前の脳を解析すれば済む話だと激昂するセヴィーに、いてもたってもいられなくなった刹那は七支刀を解放する!
だがその背後に見えた光景…気味の悪い、化け物のような…
七支刀ははじかれ、地獄ではそれを感知した吉良が冷や汗を流していた。  
セヴィーの背後に見えたたくさんの目と、はじき返された七支刀に慄く刹那。
そしてセヴィーはそれが刹那であることに気付く。まんまとエサにひっかかってくれた…。
だが捕えようとしたその瞬間、爆発音とともに停電が起こる。
それに乗じて刹那はリルを連れて逃げようとするが、彼女は紗羅を信じて待つために刹那を拒んだ。
逃がすなと命令するセヴィーは何かを踏みつける。それは、アレクシエルのピアスだった。

351 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:10:49 ID:???
無事に脱出し、屋敷に爆弾を仕掛けたと聞かされて驚く紗羅。
そこへ水の守りの力を感じて慕ってきた雲クジラが誘導するようにやってきた。
ジブリールは水の守護天使、こんなにもみんなに大事に思われている。だが今の自分は…
思い悩む紗羅の視線の先に、出迎えてくれている人物…ザフィケルが現れる。
紗羅は彼が死後の自分の魂を閉じ込めていた本人だと確認し、目覚めのために呼び続けてくれたラジエルの行方を尋ねる。
彼は既に救世使に献上したと言う。彼の眠れる能力は必ずや役に立つだろうから。
それはアフと同じ系統樹を持つ「気」、あの子もアイオーンだからか…紗羅の問いにザフィケルは答えない。
この時のためにあの子を拾い上げ育てて来た、だからこれでいいとだけ言う。たとえ二度と会えなくても…
あの子を愛しているのにか、と紗羅は言う。あの子は力になりたいと思っていたはずなのに、何故?
だが昔の貴女だって己の犠牲を顧みない勇敢な女性だったと言うザフィケル。
かつて果敢にも正面からセヴィーの政策に反発し戦ってきた。だがそんなのは知らない、
今は無道紗羅でしかないのだから自分以外の運命なんて背負えない。
どうして好きな人に会いたいと思って行動する事がいけないのか、刹那だって自分に会いたがってくれている。
自分達が二人で幸せになるのが罪だと言うのか…だがそれを卑怯な物言いだと切り捨てるザフィケル。
今の紗羅は罪悪感を自分の中で必死に正当化させようとしているようにしか見えない。
愛する人と一緒にいたいと願う事は当然で、総てを投げうって愛に生きるのも滅びるのも自由。
けれどそれに犠牲が生じるならば、誰も傷つけずにいられないなら、その傷口を直視し自覚すべきだ。
ザフィケルの言葉にリルを思い出し涙を流す紗羅。
刹那のためなんかではなく、逃げ出すために、自分のエゴのために利用した。踏みにじった。
あの男のした事と何の違いがあるというのか!

352 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:11:45 ID:???
救世使が転送機を使って逃げた事を報告されるセヴィー。
だがそれはセヴィーが来た時のままなので、行き先はそのまま、研究所(ラボ)…ホワイト・ルーム。
余計なものを見られる前に捕獲しろ、そして相変わらず口を割らないリルを殺せと言うセヴィー。
研究所へは侵入者が向かった事を報せる電信が入る。
宰相もそちらへ向かっている、くれぐれも「揺り籠」に近付けてはならない、と。
その部屋には、頭部や上半身だけをコードで繋がれた、培養ポッドが…。
それは至高天向上の為の必要不可欠な研究の大事なサンプルだと言う。
より完璧な遺伝子を得る為、科学の、至高天の発展の為多少の犠牲は止むを得ない。
またも感じるあの吐き気、頭の中に直接捻りこんでくる悲痛な叫び…
彼らが生きている事を知った刹那。針だらけのその顔で、自分を見ている事にも…!
どうして命を弄ぶのか…なぜ天使(なかま)にこんな事ができるのか…

 天使だからできるんだよ

その時聞こえてきた声と、赤ん坊の泣き声。そこには巨大な…カプセル状の物体、揺り籠が。
この中に赤ん坊がいると感じる刹那。自分が来たときからずっと、ここから見ていたのだと…
そこへようやく登場した警備兵。刹那は第二天ラキアへ続く大空気口の金網を銃で撃ち壊し入り込む。
何とか地上へ登りかけた刹那を見下ろすのは、セヴォフタルタ。
このまま落ちれば門を通らずラキアへ辿り付くが、五体はバラバラで顔の見分けもつかないだろう…
そしてセヴィーは落し物だとアレクシエルのピアスを示す。
ライラの行方を問うが逆にその話の出所がついザフィケルから聞いたものだと口にしてしまう刹那。
セヴィーはその名に低く笑う。刹那の手に杖先を突き刺し、踏みつける。

353 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:13:18 ID:???
ライラ…彼女があの中のどのポッドの臓器になったのか、自分にもわからないのは本当だと…
その言葉に衝撃を受ける刹那。だから廃竜は彼女が死んでいないと言ったのか!?
許せないと言う刹那に総ては歪みを正すため、一点のシミもないただ白い世界のためだと語るセヴィー。
服従を迫る彼にセヴィーの杖を逆に握って飛び上がった刹那は、銃床でセヴィーの冠を砕いた。
これが答えだと中指を立てて雲クジラの背に乗り刹那は去っていった。
(だが逃げられると本気で思っているのか、ザフィケル…!)

落ち込む紗羅と不適に笑うザフィケル。
その時窓の外一面に、雲クジラの大群が…!そしてその背に乗る刹那の姿が見える。
刹那を迎えに行かなければ、貴方のように目的の為に大事なものを切り捨てるなんてできないと言う紗羅。
切り捨てたわけではない、胸の奥深くに仕舞いこんで抱いていくだけ…
二人を責めているわけではない、それが決めた道なら後悔しない様にすればいいと言うザフィケル。
思う道を思うがままに…決して後悔しないように。帰り道を間違えないように…。
二人はメギドの丘で再会する。抱き合って喜び合うのも束の間、転移してきたメルカバからセヴィーが。
驚く刹那たち、その時地面が揺れ、小型のメルカバがあらわれた。こちらはザフィケル。
二人はそのメルカバに向け走り出した。セヴィーの兵が後方から紗羅に向け銃を撃ってくるのを雲クジラが庇い、
その傍に撃たれた雲クジラが落ちてくる。
そして、雲が晴れる…月の光が辺りを照らした。


貴女には傷つけた者の傷口を見る勇気がありますか?


月の光を浴びて一斉に花を咲かせるムーンリル。
辺りに咲き誇るその花に、紗羅は一緒には行けないと涙をこぼした。

354 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:15:08 ID:???
驚く刹那に残ると言う紗羅。もう前のように何もかも投げ出すことはできない。
ザフィケルに止められたまま必死に呼びかける刹那だが、紗羅の背後にはどんどんと兵が近づいてくる。
「気付いてあげて。刹那のまわりで傷つき涙を流している刹那を大事に思う人達に。
 大好きよ刹那…真の救世使となったら迎えに来てね」

そして紗羅の元にたどり着いた兵は刹那にも銃を向ける。
だが紗羅は自分をセヴィーの元に連れて行くのが先だとそれを止めた。
ただし、自分の身代わりになったシスター見習いを解放するのが条件だ。
だが紗羅の想いが理解できない刹那。ザフィケルを振り切り、連行されていく紗羅の元へ走り出す。


 ああ若き救世使よ 貴方のその過信と愚かさが 貴方に欠けている物が何なのか
 この身を以って教える事になろうとは


白い制服の撃った銃撃から刹那を庇ったのは、ザフィケルだった。
彼は刹那だけをメルカバに乗せ、行けと絶叫する。彼には成すべき事があるはずだと。
そしてザフィケルを置いて、メルカバは出発した…。

355 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:17:03 ID:???
[至高天 形成界編 悠久の中空回廊] 

刹那の足元にはザフィケルの砕けた眼鏡が落ちていた。
最大加速で追手をぶっちぎると指示を出す、行商人だった女性。
このまま自分達だけ逃げるのか、お前らのボスなのにザフィケルを見捨てるのかと刹那は訴えかける。
しかし命令でなければ誰がお前のような無責任な救世使を助けるものかと逆に責められ、ようやく自らの
浅はかな行動のツケを思い知らされる。

連行されてきた紗羅とザフィケル。セヴィーは無道紗羅として生を受けていた間の実の兄との不貞の嫌疑について
裁判を受けてもらうと告げた。そしてリルの独房へ案内される紗羅。彼女は騙した自分をきっと憎んでいるに違いない。
しかし拷問を受けたボロボロの体で「おかえりなさい…サラ様…」と微笑むリルに改めて紗羅は涙を流す。

窖への転送機の目前でついに追手に追いつかれた刹那達。応戦するもアフや行商人の女性は撃たれてしまう。
「私達の死が一体何を残すのかよく見ておけ」と女性は敵もろとも自爆する。
一面に起こる大爆発。その影響を受けながらも、刹那の転移は完了した。
転送機の側ではクライとノイズが眠りながらも待っていた。
心配するクライの様子に紗羅の言葉を思い出し、刹那は謝意を告げる。
謝って済む事ではない、彼女達が身を以って教えようとした真実。
紗羅やザフィケル…これからその責任を取らなければならない。すべては自分の招いた結果だから…!
ラジエルは壊れたザフィケルの眼鏡を手に、告げられた事実に震えだす。

それで一人、おめおめと生きて帰ってきたというのか…
多くの同志の命を犠牲にして、ザフィケルを見捨てて…
それでも救世使か、そんな卑怯者が願いを託した救世使だなんて、
そんな奴のために死にもの狂いで戦ってきたのか。

涙を流し訴えるラジエルの言葉に刹那は言い返すことができない。
本当に救世使なのか…一体何を救ってくれると言うのか。そんな救世使は認めない、心底軽蔑する。
「無道刹那…!! 僕はお前を許さない…!!」
誰の手も借りない、信用しない。自らの手でザフィケルを救い出す!
ラジエルは走り去ってしまい、どうやって償えばいいのかと刹那はただ頭を抱えた。

356 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:18:45 ID:???
形成界 第五天マティ最大の収監施設として名高い中空回廊。
脱出不可能な孤島の監獄島…それは、湖の上に浮かぶ浮遊城のようだった。
かつてアレクシエルの天使の結晶を邪鬼族の襲撃で奪われた時に
責任を取って辞職した前権天使長の時代よりも警備は強化されている。
ジブリールは責任を持って監視するとセヴィーに約束する、眼帯をつけた現権天使長サリエル。
紗羅が収監された塔を眺め、次は例の部屋へと望むセヴィー。
その時その胸から音楽が聞こえだす…それは救世使の落としたピアスから聞こえていた。
セヴィーはそのピアスを紗羅のいる塔の方へ投げ捨てると、さっさとザフィケルの房へ案内しろと告げた。
同じ頃ザフィケルは羽を拘束具で戒められ、拷問を受けていた。
それは気を失う事すら許されない、永遠の責め苦…。

クライが持ってきた食事も受け取ろうとせず閉じこもっている刹那。
何でも出来ると思い上がり、たくさんの命を犠牲にした。自分には救世使の、指導者の資格なんかないと落ち込む。
そんな刹那を吉良と加藤が手荒く諭す。
みんなを信頼し頼るべき、お前を待っているのだから。望んでお前の側にいるのだから…。
好き好んでお前の側にいるみんなに、もっと優しくしてやれと…。
その言葉に今までの事を思い出す刹那。
そう、今すべき事は自分の失態を悔いる事ではない。彼らの命懸けの努力を無駄にしないために今出来る事を考える…
真の救世使になるために何が必要なのか、どうすべきなのか、みんなで一緒に歩いていかなければならなかったのだ。
そして天界へラジエルを連れ戻しに行く事を決意する。
もちろん一人で勝手に行くとはもう言わない、転送機はもう使えないし手段も定かではないが…
もし手があるなら、助けて欲しい。もう一つだけわがままを聞いて欲しい。刹那は頭を下げる。

357 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:19:45 ID:???
それに吉良と加藤、そしてクライが賛同するが、彼女にお前も自分と一緒で自覚を持つべきだと刹那は言う。
クライには他の仕事を頼みたい、考えていた事…地獄と手を組む気はないかと。
どう考えても窖の邪鬼の残党だけではあの一糸乱れぬ天使軍に太刀打ちできない。信念や団結力の問題ではない。
だったらいっそ敵の敵は味方という事で悪魔と同盟を結び天界を討つ。
だが考えさせてほしいというクライはふとある事を思い出した。
いろいろありすぎて忘れていたが…あの地獄の底で見た魔王ルシファーの顔…!
まさか…?! クライは振り返って吉良を見た。



牢獄の内側と外側で対峙するザフィケルとセヴィー。
両脇に設置された房の扉からは、羽落としを終えて正気を失った罪人が騒ぐ姿が見える。
羽落としは天使の象徴である羽を切り落とす屈辱的で残酷な極刑。
翼はアンテナの様に意志とアストラル力を変換させる媒体であると同時に、
外界のあらゆる細菌類から体を守る防波堤でもある。
つまりその羽をなくすという事は、全く力を使えないばかりか大気中の有害な菌や微生物に体を侵食される事と同じ。
腐り果てていく身体の苦痛…やがては醜い肉塊と化し、最後は脳に至る。
生きながら朽ちて彷徨う異形の者と化すのだ。
「見えぬが故の恐怖というものもあるだろう…誇り高きお前がこの様な惨めな姿に、哀れな事だ。
だがそう簡単に殺すわけにはいかない…それが、自分を裏切り続けたお前にふさわしい罰だ」
何故、そこまで自分に執着し、憎むのか。切れ切れに問いかけるザフィケル。
「お前が…彼女を汚したから。お前がアナエルを堕落させたんだ。ザフィケル」
セヴィーの言葉に、ザフィケルは悔しげに唇を噛んだ。

358 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:20:35 ID:???
元主天使STだったアナエル。青い瞳と輝ける黄金の髪。
誰もを魅了せずにはおかなかったその美貌をと才能を持った彼女は
研究チームの指揮官に任命され、上級天使としての前途は輝かしいものだったはずだ。
ザフィケルさえ、現れなければ…
彼女は悪名轟く座天使長とのスキャンダルに塗れた。
あの美しかった両の羽根をもぎったのはお前なのだから私にその羽根を奪われても文句はないだろうとセヴィーは告げる。
ザフィケルは既に死んだ事になっている。統主を欠いたアニマ・ムンディの残党を一掃する事など造作もない。
神が目覚めたならその所業を見て必ず神罰が下るとこぼすザフィケル。
だがその様子をセヴィーはあざ笑い衝撃の事実を口にする。
神はもういない…正確には、住居である最上階のエテメナンキごと行方不明。
次の天地大戦の為に永の眠りについているというのは、最高会が展開を手中にする為に発表した詭弁なのだ。
そう、我々はとうの昔に神に見捨てられていたのだ。
代わりに聖人アダム・カダモンが神によって隠されたエテメナンキより奇跡を起こし地球を助けた。
エテメナンキはアダム・カダモンを幽閉したまま最上界のどこかに姿を消している!
セヴィーは二人でアダム・カダモンを手中にし、新たなる創世記を作り上げよう。そのためならば
一度だけ生き残るチャンスをやってもいいと言う。
「貴方は…何もわかってはいない…両の光を失った私のこの目よりもさらに…何も見えてはいない…!
貴方のその業が貴方の顔を醜くさせているのに気付かない」
拒絶するザフィケルの言葉に、激昂するセヴィー。
「何故、かつて最も勇敢で猛将と恐れられた誇り高きお前がこんな姿を晒すのか、何故自分を苦しめるのか…
お前は以前と少しも変わっていない…その冷たい瞳には何も映そうとはせず、私を永遠に拒み続ける…」
セヴィーはザフィケルにくちづけると、その首をかき抱いた。
だが今度はそうはいかない 烙印を押し手足を縛め鎖に繋いでも
それでも私の手の中から飛び立とうというのなら、お前の羽根をもぎってやろう。
「お前が私を堕落させたんだ…!!」
ザフィケルは悟った。セヴィーの仮面の下の素顔を。
その心の時間が…あの悪夢の夜から止まってしまっている事を…

359 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:22:15 ID:???
ザフィケルを救うために単身マティへ乗り込むラジエル。同じ目的でアニマ・ムンディに協力を願い出る刹那。
応じた元座天使長の副官だったアニマ・ムンディの女性からザフィケルの居場所と、近く彼が羽落としにされる事を聞く。
しかし彼はこうなる事を予測し、覚悟して指令を残していったのだ。
「私の身に何があろうとも決して私を助けに来てはいけない」
「私の身自身がこの勝利の妨げになろうものなら私は自ら命を断つ」
「何人たりともこの命に背く事は許されない」と…。
その様はまるで、自分を罰して欲しいかのような、死に急いでいるような…
命令がなければすぐにでも助けに行く。だがそれでは獄中で耐えているザフィケルの意志を無駄にしてしまう。
ならばやはり自分達が行くしかないと言う刹那。ザフィケルの部下でも何でもないのだから、命令など関係ない。
信頼を裏切った借りは返す。今さらの言葉などしらじらしく響くだけだろうが…
もう一切迷惑はかけない、自分達だけでやるべき事をやる。
再び刹那を信じたメンバーは救済を彼に託す。そしてメカニック担当のリウェトという天使が戦闘用メルカバを貸してくれた。
ただし、条件として加藤を内部構造の解体。マッドサイエンティストの彼は極めて有機体に近い精巧な人工生命体の
加藤にかなりの興味を持ったようだ。速攻で加藤を売る刹那と吉良。
吉良の助けで中空回廊に刹那が向かっている頃、セヴィーが見守る中でザフィケルの羽落としの儀が始まろうとしていた…。
(やはり足がここへ向いてしまった、だがもうこれで弱い心につき動かされることはない。最後だ。
これでまた一つ、過去を、己の存在を脅かすものがこの世から消える。
この大いなる野望を貫くために、ザフィケルの死が必要なのだ…)
ギロチンの刃が落ちる、その瞬間を見ようとせずに背を向けるセヴィー。そこに、ザフィケルが声をかけた。
「お前の選んだ道だ 最後までしっかりと見届けよ セヴォフタルタ
 いや…
       ラ イ ラ  」

360 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:23:34 ID:???
「ライラ 額の傷なんて気にする事ないわ。貴方はとても素敵な人よ ライラ 私の大切なお友達…」
アナエルはそう言ってくれていた。
ザフィケルには彼女に近づかないように忠告したが、強引にくちづけられてしまう。
「私を愛しているからこそ、二人を引き裂きたいのだろう
親友という仮面の下でアナエルを妬む心を押し殺してきたんだろう
誰よりも側にいる自分より何もかも優れたアナエルを」

自分がそんな感情に突き動かされるはずがないと気丈に振舞うライラ。だが、部屋に戻ると、そこには…!

 こんな事、あるはずがない――

あんな女はいなかった、あんな奴は存在しない。あんな忌わしい事があるはずがない…
錯乱するセヴィーを心配する羽切りの執行人達。だが、彼らの手がいつかのようにその髪を掴む…

 ジャア 消シテアゲル
 ――君ヲイジメル物ミンナ潰シテアゲル――

響いた謎の声と共に、羽切りの執行人達の頭が弾け飛んだ。
力なく頽れるセヴィー…ずり落ちた冠の下から現れた額には、逆十字の形をした、古傷…
血塗れの部屋の中、セヴィーは一人、力なく笑った。
壊れた監視カメラの先で、サリエルはその謎の光景に呆然としていた。

361 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:24:33 ID:???
いつかセヴィーの背後に見た物の存在を感じとる刹那。全身が総毛だって震えが止まらない。
そんな中、刹那は乗り込んできたラジエルの姿を垣間見、すっかり変わってしまった彼の様子に冷や汗を流す。
今の彼はどんな手段でも取りかねない…。
時は一刻を争う…最下層へと二人は急ぐ。また『招かれざる客』を迎えるため、サリエルも下へ向かう。
通風孔を抜けて最下層に出た吉良と刹那。この先がザフィケルのいる特別房のはず。
数々の惨たらしい死体が散乱する中、現れたラジエルが何をしにきたのかと刹那に銃口を向ける。
そこへ一際大きく聞こえてくる悲鳴と、何かを齧るような、舐めるような音。
腐った身体で他の囚人の血を舐めるように這い蹲っていたのは…誰あろう、ザフィケルだった。
ショックを受けるラジエル、既に遅かったのだ。自分がわかるだろうとラジエルは手を差し伸べる。
仲間の所へ共に帰ろう。きっと良くなる、元通りになると――
だが無常にもラジエルの肩に、ザフィケルが食いつく。
ラジエルを止めようとする刹那だが、彼は肩を齧られ続けられながら撃たないでくれと背後で銃を構える吉良に懇願する。
しかしさらにその背後から飛んできた杖のような物がザフィケルの右胸を貫いた。
剣先に仕込んだ毒性のウィルスが腐敗した細胞を収縮させて全身に回れば死が訪れる…
言いながら銃を構え現れたのはサリエルだ。
暴徒が制御室まで破壊したらしい、まもなくこの中空回廊は強酸の海に崩れ落ち、跡形もなく消えるだろう。
刹那が救世使と知ったサリエルは、沈むのはこの島だけでジブリールの収監された孤高離宮は離れた浮島にあると告げる。
このまま中空回廊ごと心中したくなければ武器を捨てておとなしく投降しろと言う。
どのみちザフィケルは元には戻らない。彼の腐敗は既に脳に達している。死して亡者(グール)となる運命。
刹那は星幽界にいた亡者が羽を切られた天使の成れの果てだということを知った。

362 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:26:17 ID:???
彼にはもう、ラジエルは自分以外の生き物…餌にしか感じられないのだ…
伸ばされたザフィケルの腕をとり…どうぞ食べてくださいとラジエルは涙を流した。
ラジエルは特異能力たる他人の意識体と同調しそのアストラル力を無差別に増幅・放出する力と…
力を使った時になるIチャイルドの如き赤い瞳をひた隠しにし、憎しみさえ抱いて生きてきた。
そして士官学校でその力を放出し…政府の研究所で研究対象にされてしまったのだ。
あの地獄の様な日々から救ってくれたのは全てザフィケルだから。
憎んでいたはずの力の使い方を教えてくれ、その能力を誇りにせよと教えてくれたのも…
全部ザフィケルの恩に報いるためだから、最後くらい役に立って死にたいと。


子供の肉を喰わなければ、と迫るザフィケル。
だが、その触れた頬…いつか、触った、顔…


その時一際大きな爆発音と共に天井が崩れだす。今がチャンスだと、刹那は七支刀を解放させサリエルに斬りかかるが
解放されたサリエルの持つ邪眼の力で操られてしまう。
何故か邪眼の効かない吉良が不知火を突きつけるが、その顔を見てサリエルは驚く。
まさか、以前ロシエルが言ったミカエルの「招かれざる客」とは貴方の事かと。
だが…サリエルの右目を、ザフィケルが貫いた。そう、彼は目が見えないのだ…!

363 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:27:49 ID:???
[天使禁猟区 至高天 形成界編 告解]

誰が助けに来いなどと言ったのか。自分が捕まった事で孤立するだろう彼と組織を橋渡しするはずが
何のためにラジエルを窖にやったのか。
ウイルスのために一時的に脳が活性化したのと、ラジエルに触れられた事で正気を取り戻したザフィケルの激が飛んだ。
しかしこれはこうしていられるのも束の間…また再び食いかかるに違いない。
その時は唯一の亡者の急所である心臓を貫くようラジエルに指示をする。
そして事の原因は自分だと詫びる刹那にザフィケルは全て自分が仕組んだ事だと言った。
救世使としての自覚を持ってもらうため、わざと反感を買う言動で刹那一人を暴走させ、失態を演じさせた。
折角戻ってきた無道紗羅を説得して自らセヴィーの元へ投降させたのも、
最愛の恋人が敵の手にあれば彼女を取り戻すまで、セヴィーを憎み死に物狂いで戦ってくれるであろうから…
今まで聖人顔の裏で数々の非道な行いを繰り返してきた。それは全て聖人アダム・カダモンに再び出会うため
昔と何一つ変われない、目の光を失っても心に見える光などありはしない、あの頃のままだとザフィケルは思う。


アナエルはあの時、ザフィケルの子を身篭っていた。
ザフィケルは自分の中で何かが変わるのを感じていた、だから彼女の申し出を受け入れ次の任務を最後に軍を抜ける約束をしたのだ。
だが、除隊許可が降りるかどうかという重大任務だったはずの仕事は彼らの罠だった。
最高会がこの汚れた手の知りすぎた男をただで手離せるわけもなく、アナエルごと闇に葬られてしまった…
あれがセヴォフタルタの策略かどうかはもう、知る術もない。
アナエルの亡骸を抱きながら、ザフィケルは子供の事を思い出す。
彼女の屍からまだ形も成さぬ胎児を取り出し、施設に侵入してそれを人工羊水へ入れたが既に子供は死んでいた。
だが…子供ももう、死んでしまっていた…
ラジエルには、死んでしまった子を重ねていたのかもしれないと言う。
今日までこの灰色の天国を憂う聖職者を演じてきたのも、あの日自刃で血の海に消える運命であった自分を奇跡の力で生きながらえさせ、
こんな姿になってまでもなおも重い枷をはめ続けるあの方に恨み言を言うため。
ザフィケルは何故あの時見殺しにしてくれなかったと虚空に向かって叫んだ。

364 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:30:04 ID:???
崩れ行く中空回廊、そこへ突っ込むリウェトのメルカバ。
刹那達の足場も次々に崩れていくが、そこにアダム・カダモン…セラフィタが光臨する。
周りの時間が止まり…中空回廊は一時その姿をとどめた。
セラフィタは優しくザフィケルに語り掛ける。
「貴方の望みはもう叶っている…今こそ心を開いて真実を見つめる時。その時その瞳に映る物は何なのか…」


ザフィケルの記憶に見えてくる映像。
アナエルの子供を人工羊水に移した後、ザフィケルは警備兵に見つかりその場から逃げ出していた。
だが…その後で胎児は息を吹き返し、警備兵が呼んだドクターのおかげで無事に生きることができたのだ。
それこそ運命と言うべき数々の偶然を経て、その子供は成長し、またも運命の巡りあいをする事となる。
既に望む物を手に入れていたというのに、それがあまりにも身近にありすぎて気付かなかっただけ。
悲しみが深すぎて…優しい穏やかな時間に身を委ねるのを恐れていただけ…
今、どんな真実が見えるのか。ザフィケルの目に、光が満ちる――!


そこにいたのはアナエル…ではなく、金の髪と、青い瞳を持つ…ラジエルだった。
何故今まで気付かなかったのか…いや、この子が本当にそうであろうとなかろうと、どちらでも構わない。
目が見えるのかと手を差し伸べたラジエルを抱きしめるザフィケル。
約束してほしい、もう二度と激情に流され我を忘れた行動をとらないと…救世使を信じ、時には助言し良き理解者となる事を。
座天使長ザフィケルの名のもとに、候補生ラジエルを今より「世界の魂(アニマ・ムンディ)」の統主に任命する!
その言葉に、涙を流しながらも使命を全うする事を誓い、敬礼するラジエル。
そこでザフィケルの正気は途切れ…身体は醜く変貌し、ラジエルに襲い掛かる。
心配する刹那に、手を触れるなと言うラジエル。
正確に、その心臓を撃ち貫く――他の誰でもない…君の手で…
ザフィケルは満足そうな笑みを浮かべ、その場に崩れていった。

「この方は私の手で…私の… …ですから…」

365 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:33:20 ID:???
そして時が動き出し、光が消えていく。
セラフィタはこれ以上自分の力は使えない、見つかってしまうと言う。
一刻も早く自分のもとへ来て欲しいと刹那に願う、このままでは本当に自分の力が封印されてしまうと。
最高会も…そして地獄も、セラフィタの存在に気付きエテメナンキを探しはじめているのだから。
そうなれば地球の時間が動き出してしまう…
そして彼は消えてしまった。その波動が、天界にいるはずなのに前より弱い事を感じとった刹那。
見つかるとは、一体誰に…?

そこへやってきた加藤、ラジエルと…4人、リウェトの待機するメルカバへと急ぐ。
中空回廊が沈んで行く…ザフィケルとの記憶を思い出し、ラジエルはただ涙を流した…

ラジエルは天界に残ると言う。地下から活動し、常に連絡を取り合う方が刹那の役にも立つだろうと。
刹那とラジエルは空っぽの墓標を前にしていた。
遺体を中空回廊へ置いてきて良かったのかと訊く刹那に、心はもうあそこにはなかったと答えるラジエル。
迎えに来ていたのだという、マリン・ブルーの瞳の金髪の、とても美しい方が…
いや、もしかすると今までもずっといたのかもしれない。
確かに彼は自分の憎しみを利用したかもしれないと思う刹那。
だがラジエルも自分も…本当の事をわかっている。
自殺しようとした刹那にかつて投げかけた厳しい言葉の裏の本当の意味。決して甘やかさず強く生きる道を示してくれた。
あれが真実だったからこそ、今刹那も生きているし、紗羅も従ったのだ。
ラジエルはあのアダム・カダモンが見せた映像を見たのだろうかと刹那は思う。ザフィケルの、子供の事を…
そういえばザフィケルの最後の時、「この方は私の…」何だと言ったのかと問う。
「私の…大切な…恩師ですから」と、ラジエルは答えた。


366 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/03/31(土) 23:34:40 ID:???
一方ロシエルの元に、サリエルからの手紙が届いていた。
それは彼が自身の身に万が一の事が起こった時にだけロシエルの手元に届くようにしていたもの。
ザフィケルの羽落としの際に記録されていたあの謎の光景を映したディスク。
それを手にしてロシエルは笑う。
「君の皮膚の内側から…ジワジワと優しく狂わせてあげる…!
 楽しみだね…セヴィー…
 君を喰いつくすその瞬間まで待っててね…もう…すぐだから…!」




天使禁猟区・至高天 形成界編/おわり

創造界編へと続きます。

425 名前:天使禁猟区[age] 投稿日:2007/04/14(土) 23:23:54 ID:???
[至高天 創造界編 天地大動]

通信会議で中空回廊の一件をメンバーと話し合っているセヴィー。
救世使は根城と言うべき窖に戻るだろうと答えた所でロシエルが現れる。
「窖には天使の結晶がある事も知っているはず…もしかして、一人占めしようとしていたのか。
行方不明中のエテメナンキを開く鍵が僕とアレクシエルにあると知って…」
隠していた内容をその口からあっさりと暴露され、セヴィーは焦った。
創世神が隠れる前、対なるロシエルとアレクシエルの心と体に刻み込まれた封印。
ロシエル一人でも意味がなく、死んでいるアレクシエルの体だけでもダメ。
彼女を甦らせる方法は唯一つ、体を手中にし、生まれ変わりの無道刹那を殺す事…
神がこの世にいないという事実に我々を意のままにしていたのかと色めき立つ会議のメンバー。
怒ったセヴィーは背後の部下に、境界警備隊最高責任者…ミカエルを呼ぶように指示を出した。
そしてロシエルは、鬼のいぬ間に欲しいものをいただきにいこうかと笑う…。

アレクシエルの天使の結晶に祈りを捧げるクライ。最近体調が悪いようだ。
だがその時…クライの脳裏に未来視の龍・翡翠が何かを告げようとしている姿が映る。
何が起こったのか…しかし、クライの意識はそこで途切れて行く…。
どうやら微熱が続くのは病気ではなく、クライの体が子供から女性へと変わる準備に入ったのだと言う。
だから今は気の流れが狂い、神龍とは連絡が取れない。それゆえ代々龍上主には女は向かなかったのだが…
クライは自分が大人の女になるという事実をただぼんやりと想っていた。
ずっと女にはなりたくない、いつかアレクシエルを守れる強い奴になりたいと思っていた自分が…

426 名前:天使禁猟区[age] 投稿日:2007/04/14(土) 23:26:39 ID:???
結界を抜け窖を目指す刹那達をミカエルは次々に攻撃する。
だが彼は吉良の姿を認めると、羽を収めてその場を去ってしまった。
「何故あいつがこんな所に」と震えが止まらないミカエル。
だから救世使に近づくなと言っていたのかと、その怒りをラファエルに向けた。
全員離脱していくその様子に、なんだか知らないが助かったと刹那たちは安堵した。
窖には無事着いた。が、やけに静か過ぎる。
刹那は何かを感じてその部屋…アレクシエルが安置されている場所へと急いだ。
扉を開く…セヴィーが足留めにもなりゃしないと言う言葉。
そこには、数々の邪鬼の死体の中、アレクシエルの体を抱くロシエルの姿があった。


何もかも知っていたなとラファエルに怒りをぶつけるミカエルにラファエルは語りだす。
かつてアレクシエルが封印を解き、今は救世使が引き継いだあの魔剣・七支刀御魂剣は、魔王ルシファーの魂を宿した物だと。
かつてミカエルの兄として天界で栄華を極め――そして堕天使の王として天界を裏切った闇の指導者…
それがどうした事か何千年か前、秘密裏に天界に捕らえられ魔剣へ封じられたという。理由はわからない。
だが今や人と剣の姿に別れ救世使と共に戦っているということは、ミカエルの耳に入れるわけにはいかないと思った。
またあの時のように壊れていくのを見たくなかったから。
そして二人の会話を聞いてしまった副官のバービエルに、ラファエルは他言無用だと言い含める。
魔王の本体は地獄を支え続けているが、抜殻だ。だが現在ルシファーの魂を持つ人間が死ねば…
おそらく魔王の本体も崩れ落ち、支えを失った地獄は大地ごと崩壊して天と地のバランスが狂う。
どんな天変地異が起こるのかは、わからない。


吉良が突然胸から血を流した。"あいつ"が来ている事を感じとった吉良は、
心配する加藤に不知火を託し「人間ごっこはもう終り。それでも楽しかった」と去る。
そして無事だったクライ達を連れロシエルによって既に痛めつけられていた刹那の元へ…。

427 名前:天使禁猟区[age] 投稿日:2007/04/14(土) 23:27:37 ID:???
圧倒的な力で二人をいたぶるロシエル。彼は刹那を殺せばお前が狂おしいほど慕うアレクシエルは甦ると唆す。
「この世に創り出された使命を、絶対悪として産み出された意味を思い出せ…。
どうしたって人間の感情などわかりはしない、アレクシエルが欲しいならその人間を殺してみせろ!」
部屋に辿りついた加藤が、それを止めようと声をあげる…
「悪いな、刹那。俺はこの暗き太古の怨念と、あの女への思いを断ち切らなきゃならねぇんだ」
吉良は自らの体ごと、背後のロシエルを刺し貫いた。

 俺は 人間になりたかったわけじゃない
 ただ 吉良朔夜でありたかっただけだとしたら――?

貫かれた体…ロシエルは"ルシファー"へ怒りをぶつけるが、そのまま七支刀で左肩から右の腰にかけ斜めに切断されてしまう。
「…俺が死んでも…やってけるな?」
息も絶え絶えに言う吉良だったが、半身を失っても尚死なず一瞬で再生したロシエルによって四肢をバラバラにされてしまう。
砕け散る七支刀の水晶…嘘だと叫ぶ刹那の眼前、吉良の頭の残骸を踏みつける足。
攻撃はやまず刹那の左の翼も引き千切られた。
痛みに呻く刹那に、自分が憎いかと声をかけるロシエル。
憎いと激昂する刹那の右目に指を突き立てたロシエルは、その目で見てもまだ自分が死なない事がわからないのかと言う。
四肢をバラバラにして炎で焼こうが、首を切り落とそうが死なない…死ねないのだ!
あの時、自分が狂う前ならまだ間に合ったかもしれないのに殺してはくれなかったと訴える。
「僕の永劫の地獄よりも人間供の未来を選んだくせに!!」
そして…魔王ルシファーの魂を持った者の死によって、地獄に根を張っていたルシファーの本体が崩壊が始まった。
「殺しに来てもらおうじゃないか…エテメナンキに…僕と君を産んだ…アダム・カダモンが待っているよ…」
ロシエルはカタンと共に、アレクシエルの体を持ってその場から転移して消えていった。
刹那はなすすべもなく、白くなる意識と降りしきる瓦礫の中、ロシエルの名を呼ぶしかなかった。

裁判の準備のため兵士に連行される紗羅。
その耳にどこからか女の歌声が入る。
…それは、いつかセヴィーが投げ捨てたアレクシエルのピアスからこぼれた、
発芽した廃竜の種子から聞こえていた…

428 名前:天使禁猟区[age] 投稿日:2007/04/14(土) 23:29:12 ID:???
一方刹那は、片羽が千切られ片方の目が潰されたひどい有様で拘束され、ミカエルと対面していた。
刹那は変な発光体に守られ、窖からここ天界へ飛ばされてきたのだと説明される。
魔王の体の支えを失った地獄は全壊を防ぐため最終手段に出た。
サタンは魔王の本体を捨て、天界と地獄を結んでいた楔を切り七層の大地ごと大転移を行い、天界に体当たりをしたのだ。
天界と地獄の大地は不自然な形に融合し、地獄の上2層と天界の下2層が砕けて大被害を受けた。
おかげで今は天界と地獄の境界線を作り、侵入してくる悪魔を捕まえるのに大忙しだと言う。
最高会はアレクシエルの体を取り戻してきた事で大騒ぎらしい。
これでまたロシエル派は株を上げ、セヴィー側はアセってジブリールの裁判を早めたそうだ。
ロシエルを敵視するセヴィーにすれば四大元素の後見人の座は大きいだろうと言うミカエル。
だからこそさっさとジブリールを極刑にしてその力を手に入れたがっている。ロシエルを潰すためにも。
そして地獄で吉良がロシエルに殺されたと聞きミカエルは言う。
「天界最大の汚点叛逆者ルシフェル…あいつを粛清するのは誰でもないこの俺だ!
 この双子の弟ミカエルの手で…今度こそ…!」
最高会よりの御召しでルシフェルが御前天使の筆頭に選ばれた日の事を思い出すミカエル。
前途は洋洋、誰も敵う者はなく、人望も厚く指導者としての資質を兼ね備え、そのカリスマ的な輝きは他の天使を遥かに凌駕した。
二人が生まれる時 最高会の長老は視えぬ目で未来を視たという。

 生まれ落つ二人の皇子(みこ) 一方は光の使い 一方は闇の使い
 闇の皇子はやがて自分の闇に全てを取り込み 万物の世界を混沌へと誘い
 この世を滅ぼす永遠の敵対者となりましょう

幼い頃のミカエルは、その災いの星は自分の事だと思っていた。

429 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:30:30 ID:???
同じ遺伝子を持ちながら極端に成長の遅いミカエルとどんどん天賦の才能を開花させていく兄。
初めは兄の後を追っていくばかりだったが、次第にあまりにも出来の違う兄に対し反発していく様になった。
そして勃発した天と地が分かつ初めての神と叛逆天使達との戦い、第一次天地大戦。
堕天使軍の長元熾天使ルシフェルは自らを闇の王ルシファーと名乗り、
ミカエルは能天使を率いて自ら志願し、決戦の大地へと赴いた。
果てしなく続く死闘、幾千もの天使たちの命が散っていく中、最後のミカエルとルシファーの直接対決。
誰も手を出すな、こいつだけは自分の手で倒し、裏切った真実を暴いてやると向かっていくミカエル。
今、兄は一体どんな顔をしているのだろう。今まで下だと思っていた弟に切りつけられ、
生まれて初めてであろうその屈辱の顔は…
…だが、彼はやはり、いつもと同じ様に笑っていた…。
それでも自分は勝ったのだと自らに言い聞かせるように言うミカエルを「相手の圧倒的な力の前に屈した俺と同じ負け犬だ」と
一笑する刹那。激昂したミカエルは部下・カマエルに命じ刹那を殺そうとする。
それを阻止したのは刹那を「主」と呼ぶ奇妙な女だった。



その頃紗羅の裁判を画策するセヴィーは、バービエルを人質にとりラファエルに協力を迫っていた。
裁判前のジブリールに面会し、精神安定剤だと偽って薬を飲ませるだけでいい。…余計な口を利けなくするだけのものだ。
ラファエルは彼女の様子を思い起こしていた…。

430 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:33:14 ID:???
[至高天 創造界編 異端審判(ホーリーインキジション)] 

その女は、手が4本あり金属のような光沢を放っていた。
彼女は刹那が足から抜き取った破片に手を伸ばす…
だが不気味に思った刹那が自分に触れるなと言うと、そこで動きは止まる。
そしてカマエルが彼女を撃つ。
彼の体は幾多の戦争の影響で半分以上が作り物、あの程度の攻撃では死なないのだ。
彼女はカマエルを睨みつけながらも黙って銃撃を受けていた。
機械のようなぎこちない動きを見せる彼女に大丈夫なのか、何故逃げないのか声をかける刹那。
だが、先程刹那が動くなと命じたからだと答える彼女。
そういうことか、と…刹那は、自らの閉じ込められた檻を破壊するように命じた。
その傷が一瞬で癒える…彼女が檻を破壊すると、刹那はカマエルをやるよう命じ、一人逃げ出した。

刹那に言われた負け犬という台詞を思い出し、一人反論するミカエル。
兄に勝った、そう思っていないと壊れてしまう。あの時みたいに――
決戦の後、魔王軍は地獄の大地へと退却し、ミカエルは天地大戦で一番の英雄となった。
だが、あいつの笑顔が、敗北感が悪夢となって襲いくる。
狂って暴走し、近づく者全て焼き尽くしたミカエル。みんな恐れて近づこうとはしなかった。
なのに、何も恐れずただ一人、真っ直ぐ近づいてきたのは…ラファエルだった。
気を抜けば骨まで一瞬で燃え尽きてしまうのに。そんな態度はおくびにも出さず、慰めも、叱咤もなく…
頭に触れたラファエル、制御できない自身の炎。焼けていくラファエルの手…
自身が兄の呪縛から逃れなければ、勝ったと思わないうちは、何度戦っても勝てないと言うラファエル。
みんな、自分を置いて行ってしまう…自分を裏切って…!

431 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:34:41 ID:???
一閃。
熱気は消えていった。どこにも行かないとラファエルは言った。
誰もルシファーを理解できないし、その心には住めない。
それが悔しければもっと強くなって嫌でも忘れられないようにすればいい。
まだ始まったばかりなのだから…
泣きながら焼けた顔を治せと怒鳴るミカエルに、煙草の火を貸してくれないかと笑っていた。
変な奴だと思いながらも、ラファエルに救われたのだった。
そして、救世使に対する怒りの正体を思い悩むミカエルの元へ、刹那が逃亡したとの連絡が入った。


裁判前の健康診断だという名目で会いに来たラファエルを快く迎える紗羅。
ラファエルは脈拍が速いからとセヴィーから渡された薬を精神安定剤だと言って渡す。
バービエルは責任感の強い軍人女性、手足の自由がきく拘束状態ならば自害の恐れがあるからだ。
だから急がなければ…。
しかし嬉しさのあまり紗羅が涙をこぼす。
色々あって気が張っていたから、優しくされて気が緩んだらしい。
礼を述べ、ラファエルを本当はシャイで優しい人だと評する。何も答えずそのまま去るラファエル。
彼はセヴィーから裁判中に余計な邪魔が入らぬよう
ミカエルの隊と合流して地獄との国境を悪魔の侵略から防ぐ任務を与えられていた。

――任務に背けば反逆罪でラファエルの手も後ろに回る、という訳だ。

そして何も知らない紗羅は疑うことなく薬に口をつけ、
緊張した面持ちで裁判所へ足を踏み入れた。


432 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:36:39 ID:???
襲い掛かる能天使に力が使えない刹那は銃で応戦し、それをあの奇妙な女が庇う。
遥か昔より自分に刷り込まれた命令、存在理由はアレクシエルを守る事だと言う彼女。

例え彼がこの小さな赤い鉱石の破片となろうとも…

そう言って刹那の傷口から取り出された七支刀の破片にくちづける。
それが長き時彼と共に生きてきた自分に残された唯一の記憶、例え彼の魂が離れようとも
その思いはこの細胞一つ一つに刻まれている。そう言うと彼女は光を放ち七支刀へと姿を変えた。
「天に封じられた魔の神剣七支刀は 地球上にはない第五番目の元素エーテルを合成した超自然物質。
 この世で最も固く 知能を持つ鉱石で作った無二の剣に、驚異的な生命力を持つ凶悪なるある堕天使の魂を移植したシロモノだ
 俺の炎の剣と並ぶと噂に聞いたソレがまさか…かつての俺の兄・魔王ルシファーの魂を封じ込めてあったとは…驚きだがな」
そこへ講釈を垂れながら現れたのはミカエルだった。
その剣は魔王ルシファーだった男の魂がなくなった後も必死で奴の思いだけを残し、
お前を護るために存在している七支刀の抜け殻だと評するミカエル。
だがこれからは奴の精神力は使えない、お前自身がそれを制御し同化すれば今まで以上の力を発動させる事も可能だと。
しかしそれそれはルシファー以上の逸材だったらの話…
天界中を震え上がらせたあの大叛乱の首謀者、最大の裏切り者 悪の根源となった男。
それがアレクシエル如き女一人に心奪われ、何があったかは知らないが剣の姿になり下がり
死の瞬間までそいつを護ろうとしていたなど笑える話。
どうしたって納得はできないと刹那に向かっていくミカエル。
それはお前が兄貴を誰よりも好きだからだと、七支刀を構えた刹那が言う。
ミカエルの剣は弾かれ、刹那がマウントポジションを取った。
自分が子供の姿をしているのはそのせいだとミカエルはようやく悟った。
兄に認めて欲しい心、ここにいると知って欲しいと甘えた心が、成長を止めていたのだ…

433 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:37:56 ID:???
その時、腹に響くような重い鐘の音が鳴り響く。裁判が始まる…!
水の天使ジブリールにかけられた嫌疑、救世使との不義の関係について。
前代未聞の公開天上裁判を知らせる鐘の音。
その様子は総ての階級の天使達に全国規模で流されるとミカエルが説明する。
裁判がどこで行われるのか教えて欲しいと願う刹那。
殺されると念を押しながらも、必死な様子の刹那にミカエルはとうとう折れた。



メタトロンに眠れないのかと尋ねるお付きの杭打ちシスター。
やはりセヴィーの薬を飲んだ方がいいのではないのか、頼まれて量を減らしてきたが
その余りがたくさんあると言う。だが心ここにない様子でメタトロンは呟く。
「水も、火も、土も、風も動く。ライラは必死になっている、自分を見逃す程に。
メタトロンの好きなジブリール…」
不審な様子に確認しようとしたシスターの腕の中、白目をむいて倒れこむメタトロン。
彼女はドクターを呼ぶために駆け出しながら、白い制服の親衛隊に彼のことを頼んだ。
メタトロンは息をしていない…確認する彼の前でうさぎの人形が手から落ちた。
訝る親衛隊の背後に、メタトロンが飛び上がる。
人形からは、幾多の眼球や爪、牙や赤ん坊の手のような物を持った肉塊が這い出し彼を襲った!
数分後、ドクターを連れシスターが部屋へと戻ると、そこにメタトロンの姿はなく、ボロボロになった
うさぎのぬいぐるみと絶命した籠の中の鳥が残っているだけだった。
メタトロンは親衛隊の男に手を引かれ、どこかへ歩いて行った…。

434 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/14(土) 23:39:57 ID:???
ジブリールの裁判が行われる場所を聞いてどうするというのか。
わざわざ自分からセヴィーの手に落ちていくつもりか。
それでも教えて欲しいとミカエルに縋る刹那は、右目が酷く痛むのを感じた。
ロシエルにやられたその目は毒を吸い出さなければ失明するかもしれないと宣告される。
それでも行くのか、自分の目一コくらい女のためなら惜しくないのかと…
なお願う刹那にお前達そういうところはそっくりだと言ったミカエルは、
この上のマコノムの中心部にある裁きの城だと答えを与えた。
だがどうやって行くつもりか、今の警備は前の比ではなく強化されているからまた門を突破するつもりなら無駄だ。
お前にも兄への譲れない思いがあるように、自分にも譲れない大事なものがあると刹那は言った。
例え殺されようと、右目を失おうとも、たとえ無謀な賭けであろうとも…。


四大天使のジブリールが裁かれるという前代未聞のこの事態。
あまつさえ上級裁判には御前天使の全員出席が決まりなのに誰一人として現れない。
今回、最高会に任命された裁判長は古き使いとされる黄道十二宮の天秤宮ズリエル。
傍聴の天使達の雑談の中、ここは公の場だから、
セヴィーも卑怯なマネはできないだろうと必死で自分を励ます紗羅。
だが、開廷と共に現れた裁判長はセヴィーであった。
ズリエルは急病の為欠席、宰相セヴォフタルタが代行するとの事。
出席していたロシエルはこれが墓穴にならなければいいと大笑いし、
来てよかっただろうと供をしていたカタンに同意を求める。
これでジブリールの命は宰相に握られたも同然…傍聴席は騒がしくなる。
どうあっても自分を有罪にする気なのだと紗羅は青くなる。
聖なる書物の上に手を置き、神の御名において真実のみを述べる事を誓うよう指示される。
だが喉が何かおかしい。 それでも途切れ途切れに紗羅は宣誓する。

435 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:33:20 ID:???
被告ジブリールは自ら志願して地上に人間として転生し、
無道刹那――アレクシエルの魂を持つ少年の妹となり彼の守護天使となった。
何故自分からその四大天使の位を捨て、アレクシエルの魂の近くに行く事を希望したのか。
読み上げられたその文に愕然とする紗羅。
天地大戦前、ジブリールは常から有機天使アレクシエルの思想に同調し、
事ある毎に熾天使最高会に意見していた。そして幾度も下級天使の元へ降り、その思想を説いて回った。
だから同志アレクシエルに同情し、自分の意志で無道刹那の監視人を買って出たのだろうと…


反論しようとした紗羅だが、声が出ない事に気がつく。
しかし無情にも上告文は更に読み上げられていく。
無道刹那の妹、紗羅として地上で転生してから自ら傾倒していた同志の魂に惹かれ、
人間としては実の血の繋がりのあった兄妹でありながらあろう事か無道刹那に惹かれていったのだと…
何故こんな大事な時に声が出ないのか。紗羅は裁判前の診断を思い出し
その時ラファエルにもらった薬のせいで声が出ないのだと悟る。
異議があるならば何かを言うようにと促される紗羅。これは最後のチャンス、反論するなら今しかない。
「さぁ!お答え下さいジブリール様!!」


その頃ラファエルは監視の白い制服を野郎は嫌いだと振り払いながら任務へ急いでいた。
問題はバービエル、彼女がいつ行動に移すかが大問題だ。
その時警備室に鳴り響く警報…例の女が監視カメラを壊したのだと。
急いで部屋へと向かった警備兵が見たもの…それは、自害したバービエルの姿だった。
彼女の指輪は指に密着して外せないタイプのものだったが、その中に毒が仕込んであったらしい。
このことは内密に処置をし、ラファエルの耳には入れない事にする。急いでセヴィーに連絡をしなければ…
しかし監視カメラはどうやって壊したのだろう?

436 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:36:51 ID:???
一応病室で蘇生措置を施すために運ぼうと、監視カメラを見つめるもう一人を呼ぶ警備員。
その背後で…バービエルは指輪から針状のものを伸ばすと一人の胸を貫いた。
そう、全ては自作自演。自ら傷つけた足を晒し、その血で毒を飲んだように見せかけたのだ。
彼がその痴態に目を奪われた隙をついて膝蹴りを食らわし、鍵を奪って手錠を外す。
追っ手に肉弾戦で応戦しながら、バービエルは逃亡を開始した。


息を切らせて瓦礫の山を進む刹那。羽がないから傷は治らないしアストラル力も使えない。
満身創痍状態だ。悪魔に襲われあわやという時にミカエルが助けに入る。
それでも兄貴の認めた男か、どれ程の男か見せてもらうまで救世使とは認めないと言う。
だが勘違いするな。自分は自分だけの味方、誰の命令も聞かない。
裁判所へ向かうのは兄妹のように身近な存在である元素天使を得体の知れない覆面男に
好き勝手にされるのは気に食わないからだとツンデレなミカエル。
二人はメルカバに乗り込むが、刹那の突然右目が痛みだし蹲る。腐食が顔中に広がっていたのだ。
しかしそこから何かが見える。裁判所…たくさんの人々、セヴィー、そして紗羅。
以前東京でウロチョロしていた天使…カタン。彼が「ロシエル」と呼びかけた事で、
刹那はそれがロシエルの視点だと気付いた。
そこで追いつめられ責め立てられる彼女の様を指をくわえて見ていろと笑うロシエル。
黙っている事は不利益にしかならないと言われるが、口元を押さえ何も言わない紗羅。
様子が変だと刹那は訝るが…

裁判は続く。ここに彼女に大変詳しい方からの信用の置ける証言をお目にかけたいと示された立体映像。
地上より採取した無道紗羅の遺体――最高会よりの依頼で精密検査をした結果、妊娠している事が判明。
DNA鑑定では間違いなく近親者との間の子供、99.7%の確率で無道刹那の子であると言える――

437 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:39:01 ID:???
それがラファエルの証言だった。紗羅と刹那は衝撃を受け…傍聴席も騒がしくなる。
ラファエルまでもが…セヴィーは何としてもジブリールを死刑にする気でいるのだ。
天界最高位の医師の証言、しかも被告人とは深い絆で結ばれているはずの四大天使。
何か申し立てる事はないのか、沈黙で答えしは事実に相違ないと、
自分の犯した過ちを認めると言うのかと責め立てるセヴィー。


ジブリールよ さあ この衆人環視の中
お前の正義とやらを聞かせてもらおうではないか
訴える事が出来るというのなら やってみるがいい――


バカな自分にも解る事が一つだけあると…紗羅は涙を流しながらセヴィーを指差した。
許さない、どこまでも汚い手で陥れると言うのなら告発する。
セヴィーはその様子を一笑に付すと、被告人はお疲れのようだからしばらく休廷とすると告げた。
再開は20分後…刹那はもどかしい想いを抱え届かぬ手を伸ばす。


気絶した警備兵…開く扉。
ここはどこかと訊くメタトロンに見えるだろうと答える白い制服の男。
『かつて僕と君の眠っていた場所…棺桶の如き出る事の許されなかった胎内容器…揺り籠だ…』
「ぼく あれがこわいよ サンダルフォン…」

438 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:40:50 ID:???
ラファエルの元にバービエルから通信が入り、脱出した事が判明した。
自分の存在が上官の障害にならぬ最善の方を考えて行動するのが副官の常。
毒を飲むのはそれらが全て断たれた時の最終手段だ。
それに自分以外の誰がラファエルの女性関係を監視できるのか、そこの女にもキス以外は許さない。
ハートマーク付きの宣言に、ラファエルの膝に乗った女性がひきつった。
信号を出すのですぐに落ち合おうと確認しあう二人。
だが白い制服がラファエルに銃をつきつける。副官の元へ行くのは立派な軍規違反。セヴィーの命に背く事。
そうなれば四大天使の位は剥奪、ジブリールの二の舞となって裁かれ極刑の目に遭ってしまう。
バカでもわかる図式、人質が戻ってもこれ以上彼女に関わって痛い目に合うなど正気の沙汰じゃない。

だが、あの娘だけが――

ラファエルは男に攻撃を加えた。何故かと問われ、何故だろうかと返す。
宰相直属の白い制服をぶっ殺し、セヴィーを敵に回してまで、何をしようとしているのか…

無事ラファエルと落ち合ったバービエル。だが本当は判断に苦しんだと言う。
ラファエルが宰相に逆らわないつもりならこのまま人質でいた方がいいのかと。
でもこうして来たという事はバービエルの勘が当たったという事。ラファエルにも女心が通じたと。
ただ"彼女"を放っておけないだけだと言うラファエルに、それが何故かと問い返すバービエル。
ラファエルのしようとしている事は叛逆行為、セヴィーと天界全体を敵に回さんとする重大な賭け。
そうまでしてジブリールを助けたい理由…同じ四大元素で生まれた時の仲間だからか?
だがラファエルはそれを否定する。彼女を助けたいのは古くからの友人だからではなく…彼女が無道紗羅だからだ。
真摯な気持ちで紗羅を助けたいと言うラファエルに「よく言えました」と慈愛に満ちた顔で微笑むバービエル。
自ら逃走に利用した車を彼に与えると、後の事は全部引き受けたという。
力天使STには自分から告げておく。去るも残るも自由だと。
したい様にすればいい、バービエルはどこへなりとも供をするから…!

439 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:42:42 ID:???
あまりにもジブリールに不利な証拠ばかりが揃っているこの裁判。
だが彼女は反論しないからやはり事実なのか、誇り高き四大元素の御前天使が…
しかしジブリールの様子はおかしい。傍聴席も異変を感じとっていた。
そして裁判が再開される。
ラファエルまでもが紗羅を騙し薬を飲ませて口封じをした今、一人の味方もいない。
紗羅の本体まで地球から回収し、あんな扱いや、証言まで…二人の子供だという胎児まで…
もう命のないホルマリン漬けの赤ちゃん。あれは本当に二人の子供だろうか。
だが何も考えられない紗羅。
これが最後の審議、これ以上黙秘を続けるのなら全ての罪を認めた事になるとセヴィーは告げる。
ラファエルは軍人なのだからセヴィーの命なら断れないはず。
彼を恨むのは筋違い、自分が勝手に期待しただけ。
この天界でただ一人、味方をしてくれたなんて思い上がってしまっただけ…
黙ったまま沈んでいる紗羅に勝ち誇ったようにセヴィーは言葉を浴びせる。
四大元素ともあろう者が人間界の仮の姿とはいえ実の兄と歪んだ愛情関係を持ち、
その罪の証を作り出そうとしていたと認めると…異議はないのかと!
「異議はある」
突然、そこに闖入者が。開廷中だと警備兵に止められながらも扉を開けて入ってきたのはラファエルだ。
命令をきかなかったのかと慄くセヴィー。
何故ここに彼がいるのか、これもセヴィーの罠なのかと思う紗羅。
だがいつもバッチリ決めているラファエルとは違って、髪はバサバサ服もあちこち汚れて別人のよう…
そして、ラファエルは突然紗羅にキスをした!
刹那やセヴィー、聴衆の驚く中、彼の手がその喉に触れ治癒の淡い光が灯る――
「やめてよ!! このスケベ!」
紗羅はラファエルの頬を平手で殴り、そして自分の声が戻った事を悟った。

440 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:45:11 ID:???
だがこの様な厳格な場での禁を犯す行為、これだけの証人の前で言い逃れは出来ないと
ラファエルが責め立てられる。四大天使も地に落ちたものだとこれ幸いと告げるセヴィー。
しかし紗羅は実の兄である刹那と愛し合ったのは神に誓って本当だと毅然と言い返す。
昔は何とかこの気持ちを殺そうとがんばった、この思いは禁じられた異常な事だとわかっていた。
それでも好きだという気持ちは消せなかった。でも後悔はしていない、自分は幸せだ。
恥知らずと反論するセヴィーに、好きな人に好きだと伝える事すら許されない、
愛さえないこの天国に育った神の為に生きる貴方達にはわからないと返す紗羅。
全ての感情を殺してまで清く正しくただ神の決めた戒律の上を転がってゆく、
不自然で可哀相な人形達…貴方たちはおもちゃの兵隊。
「そして…お可哀相なセヴォフタルタ様…」
その言葉に激昂するセヴィー。
紗羅は震えを隠すようにラファエルの服を握りしめ、言葉を続けた。
そんなにしてまで自分の仮面の下の真実を隠したいのか…この大観衆の前でセヴィーを訴える!
今、自分はジブリールではなく無道紗羅としての記憶しか持っていない。
それは刹那を好きで、その思いが自分を紗羅でいさせているのだと信じている。
だがかつてジブリールが人間として刹那の守護天使となり紗羅として転生したのは
決して当人の意志ではない。全てはセヴィーの企みだ!
その様な世迷言で侮辱する発言は許さぬと激昂するセヴィーに、ラファエルが写真を示す。
長い眠りから目覚めたジブリールの首筋にあった針の跡。分析して調べれば、
それが宰相殿お得意の神経針の跡だとはすぐ解る事。
ラファエルが裏切る…セヴィーは今の発言を記録から削除し、裁判中継を中止するよう命令を出した。
そして衛兵に、命令違反と公衆の面前での淫らな行為による罪でラファエルを拘束するようにと。
卑怯者と罵る紗羅、不敵な笑みでなされるがままのラファエル。
傍聴席の天使は正統な裁判ならどんな発言も記録すべきだ、
放送を続けこの事態を全天使に説明すべきだといきり立つ。
モニターを眺める群集も、その様子に釘付けだ。

441 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:49:10 ID:???
そして裁判所内に走る衝撃…そこに現れたのはフードを被った長身の男が放ったものだった。
彼はこの裁判は無効だと言う。偽証や偽裁判長が横行しては宣誓の意味がない。
席から降りた男は、上告文を読み上げていたフェリエルにこれまでの代行を労い、フードをはずした。
「私は正統なる司法官 裁きの天使四大元素ウリエル」
ロシエルの目を通し、刹那も星幽界にいるはずのウリエルの存在に驚きを隠せない。
おもしろくなってきただろうとロシエルは笑う。
(実は裁判前に彼はウリエルが入廷するのを見破っていたのだが、面白いからと黙っていた)
そしてウリエルは1枚の書類を示して見せた。
「天界司法全書によれば
 「裁判長は天使名簿に正式登録されし第一階級以上の最高司法官資格を有する者から選抜されるべし」
 ――とあります
 神聖な裁判を汚す者よ 天使名簿に名前のない貴方は一体何者なのか? セヴォフタルタ」
周りがきなくさくなってきたのでしばらく通信を断ち、地下に潜ると言っていたザフィケル。
彼は自分の運命を察知していたようだった。
ウリエルに託された、彼の組織が長年かけて調査した血と泪の結晶――独裁者の失墜のための極秘データ。
そしてそれは同時に彼の最期の形見となった。
ザフィケルがその生涯の全てをかけて貫いた志――そしてそれは今ウリエル自身の悲願でもある。


ウリエルの言葉に汗を流すセヴィー。自分の名が天使名簿にないというのはどういう事かと問う。
正しくは"貴方の名"がないのだと言うウリエル。
確かにセヴォフタルタという天使は何億というデータの中に一人だけ存在している。
彼は目立たないながらもST候補生の一人となり、第一次天地大戦ではそれなりの戦果を上げていた。
だがその大戦で全滅となった戦いでの唯一人の生き残りとなり、その時に顔と体を負傷、
治療不可能な程のその傷を隠すようになった…
だが本当にその傷のために素顔を隠しているのか、という疑問が生まれる。
生還後のセヴィーは見る間に頭角を現し、熾天使となりついにはメタトロンの宰相となりこの天界の副王となった。

442 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:52:52 ID:???
まるで以前とは別人のような出世ぶりだが、大戦前の素性を知る者も語る物もいない。
何故ならかつてのセヴィーの過去を知るものは皆ことごとく危険な任務を与えられ死亡しているのだから――
セヴィーの素顔を知るものはこの世には誰もいない。調べれば調べるほど、関わった者の不審な死にぶち当たる。
以前のデータを消して回ったのが今のセヴィーならその意味するところは一つ。
本物のセヴォフタルタではないのだ。
大戦の時に死んだセヴォフタルタの名を騙る偽者ならば亡霊に名などあるはずがない。
――この裁判は無効だ!

ウリエルの証言に、中継を止めてはならないと命令する責任者。
これは重大な事実、全天使に真実を伝えなければ。
躊躇する作業員に対して彼は、責任は全て持つと堂々と宣言した。

騒がしくなる裁判所内。ラファエルは警備兵を振りほどき、ウリエルが肉声を発している事に気付く。
かつて彼が密かに愛していたアレクシエルを裁いた、呪言の力をも持つその声。
自責の念に耐え切れず自ら声帯を引きちぎったはずなのに…。
何を考えているのかわからない奴だが、これで前回の貸しはチャラにしてもいいと思った。

長い事無断でその座を放棄してきたウリエルの言葉にどれ程の信憑性があるかと言うセヴィー。
自分が死んだセヴィーの偽者だという証拠はあるのかと反論する。
そこでウリエルは立体映像を写し出し、その男を知っているかと問うた。
傍聴席の者は誰も彼を知らず、またセヴィーもそんな男は見たこともないと答える。
その映像は一片の奥歯のDNAより復元した歯の持ち主。
つまりセヴィーが知らぬと答えたその男こそが本物のセヴォフタルタだ!
言い逃れできなくなったセヴィーに追い討ちをかけるように紗羅が言葉を浴びせる。
ラファエルを脅して偽証させたり、紗羅に裁判で声を出せないよう薬を飲ませた事も、
みんなの前で告白してみろと。 激昂したセヴィーが攻撃を加える、それを庇ったのはラファエルだ。
そして傍聴席からも人々がなだれ込み、紗羅…ジブリールを庇う。
見苦しい真似は止めろとセヴィーに盾突く彼ら。

443 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:55:01 ID:???
勝手なマネをするとお前達も捕えると脅しかける警備兵の銃を押さえ込むラファエル。
彼女がさっき言っていた言葉を聞いていなかったのか、
それとも…本当に自分で考える事もできないおもちゃの兵隊に成り下がったのか。
ジブリール…無道紗羅の言葉に嘘偽りを感じたか。真実を見つける心も失った人形だったのかと呼びかける。
傍聴席の心はひとつになり、皆がラファエルとジブリールを解放し真実を告げろと糾弾する。
セヴィーは未だ映像が天界中に配信され続けている事に気付き慄いた。

ロシエルは笑いながら君の罪深い恋人を見ろと言う。
こんな状況だからこそ芽生える思いもあるとは思わないか、
少なくともラファエルは彼にしては珍しく本気だと…
このまま自分の右目で黙って見ていろと笑うロシエルに、お前の思い通りにはさせないと言う刹那。
七支刀を振りかざし、右目を抉る事でやっとロシエルの呪縛から逃れられた。
心配するミカエルに出発すると言う刹那。もう遊んでいる暇はないのだ。


所内の天使達の怒号か飛び、セヴィーは頭を抱える。
何とか言ったらどうか、その目は俺達が怖いとでも言うのか…甦る記憶。
だがこんな場面に出会ったことなんて一度もない。
抗議してみればいい、あの自慢の声で。
こんな事が自分の身に起こるわけがない…あの女が自分なのだろうか。
もう歌なんか歌えないようにしてやる、悲鳴すらもあげられないように…締め上げられる、首…

揺り籠が開かれていく…とうとう5番目の封印が解かれた。

ミカエルのメルカバは警告を受けていた。
戦闘メルカバ禁止区域に侵入している、これ以上聖域の上空侵犯を続ければ警法により撃墜すると。
だがやるとなったら徹底的にやると彼も覚悟を決めていた。

響く警告音。震えるメタトロンの手をとり次の封印解除へ導く、白い制服の男。
ここから自分を出してくれたらジブリールは君にあげる、自分はセヴィーが欲しいのだと言う。
だから二人で分けよう、自分達は双子の兄弟なのだから…!
メタトロンはサンダルフォンの名を呼び涙をこぼした。

444 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 00:56:31 ID:???
警報が鳴り響く中ついに揺り籠が、開く…

 此彼に行き 雷光いず 恐ろしかりしその面 燦然と無数の遍く目あり
 その黄金色の玉の如し生物に手足はなく 6枚の輝ける羽を頭部より生やし

 ああ災いだ 災いだ

ミカエルが裁きの城へ突っ込む。
セヴィーは糾弾され続ける事に、あの女は自分ではないと恐慌に陥った。

  胎  動

開かれる目、腕…羽から飛び散る針。


 やっと見付けたよ――ライラ
 僕を産んでくれる美しい人


赤ん坊の泣き声が響き渡り、裁判所が大爆発を起こした。


瓦礫の中、一体何が起こったのかと身を起こすセヴィー。
落ちた冠に、マスクも外れていることに気付く。
そこへ訪れたのは、刹那。セヴィーの姿を見て、驚いた様子を見せる。
「…あんた…まさ…か…!」



477 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:43:32 ID:???
消して 真っ白にして  ライラを 殺して

ポッドの中の肉塊に伸ばされる、血だらけの腕…

[至高天 創造界編 白ノ世界]

おててつないで、と無垢な笑顔で笑いかけてきたメタトロン。
だがもう歌えない。あの頃の様に真っ白な心で天を称える事も出来ない。
あの頃の声はもう失われてしまった。歌を歌えない籠の鳥は羽根をむしられ追放されるだけ。
白い世界…歪みもなく一点の曇りもない、ただ真っ白な世界…

そこにいるのがセヴィーだと気付いた刹那。
その顔には、額に逆十字の傷、そして頬には天界における犯罪者の証として烙印があった。
その時セヴィーの顎から何かが落ちた。落ちた機械は変声機だろうか。
それは掠れてはいるが女の声…まさか本当に…
「あんた…ライラ…?」
頭を抱え、その名はやめろと恐慌に陥る…。

 烙印を――汚された女には背信の証を!!

押された焼印、何故自分を避けるのかとライラに迫る男。君を好きだと言ったからかと…
だが…その女は消したのだ!!



478 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:44:54 ID:???
友達のアナエルの身を心配する風でいて実はいつもザフィケルを見ている、
それに気付くべきで目を背けてはいけないと言う男。
神に背く感情であろうと天使達の気持ちは止められない。自分も、君への気持ちが止められないと。
だがライラにとって大事なのはサンダルフォンだけだ。
双子のメタトロンには体があっても力はなく、時折サンダルフォンの脳波を受け取るだけ。
片やサンダルフォンには力があっても体がない。
きっとこの肉と眼球の塊から完璧な肉体と力を持った御子を作り出してみせる…。
その努力が報われ新参者だがライラはサンダルフォンの研究チームのチーフに任命された。
滞っていた研究も、ライラが来て飛躍的に躍進した。怠慢な研究員は人員削減のため切り捨てていく。
しかしお前のせいだと、切り捨てられた研究員達がライラに襲いかかった。
抵抗するライラの首を締め上げる彼ら。
「何とか言ってみろ、サンダルフォンに子守唄を歌ってやるその声で…!」
そしてようやく助けに来たのはライラに好意を持つ男…星幽界で廃竜となっても彼女を思い続けた彼だった。
「お前達がクビになったのはエリート所員ということを笠に着てやりたい放題をし、いい加減な仕事をしたツケだ。
自分達の無能を彼女のせいにするな!さあ わかったら早くその汚い手を離すんだ!このブタ野郎!」
うつろな意識でそれを聞いていたライラ。汚いブタ野郎…その通りだ。
ではその薄汚いブタの手に堕ちた自分は何か…
例え合意がなくとも禁を犯した女は「魔王の妻(リリス)」の烙印を押され下層に落とされる運命――
ライラの喉が潰された事を悟った彼は、こんな事なら避けられていても側を離れるのではなかったと後悔する。
人知れぬ地にこのまま2人で逃げよう、これ以上君を悲惨な目に遭わせるわけにはいかないと訴える。

だが本当に自分を汚したのは、乱したのは、土足でズカズカと入り込んだのは、この男――


479 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:46:21 ID:???
裁判…あの男が処刑されても何も感じない。あの夜を知る者はこの世から消え去ればいい。
そして頬に罪人の証の烙印を押され、ライラは消えた。そんな汚れた女はこの世にいない。
自分はライラなんかじゃない…。あの女を知る者も乱す者も、何もかもこの世から消滅したのだから…
その呟きに、消えないと返す刹那。消したつもりでも必ず残る何かがあると。
愛も憎しみも人の心に残り、生きている者を苦しめたり救ったりする。人の思いだけは決して消えたりはしない…
刹那は廃竜の思い…「もう苦しんでほしくない」「今も変らず心の平安を願っている」その事を伝える。
どうしてそんな姿で独裁者を演じているのかはわからない。
でも彼は恨んでないと言っていた…そして昔のライラは確かに彼を愛していたし、彼は変らず今も愛していると…
ばかな事を、と吐き捨てるセヴィー…ライラ。
自分を死刑にした女を恨んでいないと? この私があの男を愛していたと?
その背後に、突然あらわれた白い制服。だがその感じは、あの時の…!

男の放つ波動に弾き飛ばされた刹那は、瓦礫の中気絶した紗羅を発見する。
瓦礫が崩れる…だが刹那の伸ばした腕は、目の痛みに一瞬気をとられた瞬間、届かなかった。
彼女を救ったのはラファエルだ。

紗羅を抱えて飛び去ろうとする彼にどこへ連れて行くつもりだと怒鳴りつける刹那。
破壊神(=ミカエル)と来てくれたおかげで裁判はめちゃくちゃ。
もう少しでセヴィーを完璧に落とせるかもはずだったのにと言うラファエル。
全国の天使にはアピールできたかもしれないが、無効裁判に殴りこんでのウリエルの告発もまた法的には無効に近い。
ほとぼりが冷めて彼女の身の安全がわかるまで隠れるしかない、と。
だがそれは自分の役目で紗羅は自分の女、小さい頃からずっと守ってきたのだと返す刹那。
ずっと一緒にいて、喜びも悲しみも二人で乗り越えてきた。紗羅が愛しているのは自分だけだ!
「…"今は"… …だろ? これからは彼女は俺が守る」
刹那は許さないと怒鳴りながらも、紗羅を連れ去るラファエルを追うことは物理的にできなかった。

480 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:48:34 ID:???
>>478
すみません。478の後が少し抜けていました。


ライラは彼の持ち込んだナイフで、彼の胸を突き刺す。
そしてやっと現れた警備員を前にこの男が私を汚したのだとライラは訴える。絶望に彼女の名を呟く男…
ライラは警備員が止めるのも聞かずに駆け出した。
あの男…ザフィケルもいつか消さなければいけない。自分の心を犯す汚れた者達を全て消す!
ライラはサンダルフォンへ願う。お前が本当に全能の力を持つのなら助けて欲しい。世界を綺麗にするために。
だから一番汚い物も消さなくては。…ライラを消さなくては…!
答えは返った。ライラをこの世から消してあげると――


481 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:49:53 ID:???
そんな最中でも相変わらずウマの合わないミカエルとウリエル。しかしバカなやり取りをしている間もない。
白い制服の軍団が、この裁判に関わった者全ての身柄を一時拘束する、と集まってきたのだ。
そこに響き渡る、セヴィーの声…救世使と四大天使全員を見つけ次第逮捕せよ、と。
勿論それは白い制服に取り付いたサンダルフォンが変声機で命じたもの。彼は「やっと捕まえた」と愛しそうに
ライラを抱え連れて行く…。その光景をロシエルは楽しそうに物陰から見ているのだった。
女の事は後だととりあえずメルカバで逃げ出す一行。
何故あの時紗羅に手が届かなかったのか…迎えに来たのに、約束通り助けに来たのに…歯噛みする刹那。



紗羅が目を覚ますとそこにはラファエルがいた。
ラファエルは事の顛末を話し、子供もヤラセだったと告白。
そして地上から密かに持ち出した紗羅の死体を見せ反魂の術を施してくれた。
無事元の体に戻った紗羅はどんなに感謝しても語りつくせないと頭を下げる。
あの時、薬を飲まされたと知り映像のラファエルを見たとき、この世で一人ぼっちなのだと思った。
でも仕方のない事だとも…セヴィーの力は絶対でラファエルの立場が危ない事は想像がついたからだ。
それなのに来てくれた…セヴィーに追われる身になってまで。そして元の体にも戻してくれた…
ただキス一つの貸しがあったのを思い出してもらいに帰っただけだとそっけなく告げるラファエル。
いくら君でもそんなカッコでひっつかれたら変な気を起こすと軽口をたたく。
それに怒った紗羅の指に壊れた指輪をみつけたラファエル。
こんな安物はずしてもっといい物をプレゼントしようかと言うが…紗羅は精一杯それを拒絶した。
それは初めて刹那がくれたもの…
そういえば、気を失っている間確かに刹那の声を聞いた。もしかしたら助けには来なかっただろうか?
だがその問いに、救世使など来なかった、とラファエルは冷たく答えた。
気のせいだったのだろうか…だがきっといつか来てくれる、その日を信じている。
紗羅はただ祈るようにそれだけを想っていた。


482 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:51:59 ID:???
紗羅を連れ去ったラファエルを許さないと思いながらも、刹那は右目の義眼手術を受けていた。
だがもがれた片羽は…一度失った天使の羽は元へは戻らない。片羽さえあれば繋ぎ合わせることもできようが。
大分体力が低下しているのでしばらくは残った片羽もアストラル波に戻して安静にするしかない…
という話をウリエルから聞かされていたミカエルだが、そんな事はどうでもいい。
付いて来いと言うから付いて来たらそこは叛乱組織の真ん中だった事についてご立腹なのだ。
ウリエルは今は亡きザフィケルの遺志を継ぎ、白い政界の打倒を目指し「世界の魂」に協力しているのだった。
予定では彼の合図で待機していた組織の者が裁きの城を占領し、セヴィーを人質にとる手筈だったのだが…
計画が丸つぶれだと言う彼に、文句は行きたがった救世使に言えと怒るミカエル。
そしてもちろんこれはウリエル自身の意志。いつまでも逃げていてはいけないと、アレクシエル…刹那に教わったから。
ミカエルもそうだろう、と確認するものの照れ隠しに誤魔化されてしまう。
そしていろいろ吹っ切れたというウリエルは喉元をさらして見せた。文明の利器に頼る事にしたと言う。
喉のわずかな振動を感知して以前と変わらぬ声を再現する変声機…数値を調整すればどんな声でも自由自在のシロモノ。
それがセヴィーのしていた物と同じだと刹那は気付く。
あの裁判で押さえつけられていた民衆が心を一つにしている。
世論を味方につけた今、セヴィーを討ち取るこの絶好のチャンスを逃す手はないと言うラジエル。
創造界第6天「ゼブル」の白の館に侵入し、大熾天使付宰相セヴォフタルタを拘束…または討ち取る!
ミカエルは真の敵は悪魔軍だけだから静観すると言い、
刹那もライラの顛末を確かめるため「世界の魂」に同行する事を決意した。

 
突然いなくなったメタトロンは、いつの間にか戻ってきたが眠ったまま。
そのまま起きる気配もない…シスターはセヴィーに飲ませるように言われていた薬を、
嫌がっていても飲ませるべきだったのかと思う。
その時隣の部屋から物音が…彼女は薬を隠した箱を取り落とした。

483 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:53:32 ID:???
ライラは自分がいつの間にか部屋に戻っている事を不思議に思っていた。
ドアを開き、その姿と素顔に驚くシスターと…彼女の足元に散らばる薬…
それを見、あの薬を飲ませなかったというのかと激昂するライラ。
必死に謝罪するシスターだったが、そのままライラは彼女の息の根を止めた。
「あいつが起きてしまったら…」
その呟きに、背後に迫るものがある。水の音と、針の刺さった影…
君が刺した針が痛い、抜いて欲しいとサンダルフォンがライラに迫る。
悲鳴をあげてうずくまるライラだったが、大声で笑いながら謝罪する白い制服に入ったままのサンダルフォン。
針など目覚めた時にみんな取ってしまった。
このシスターのおかげで少しずつ表に出ることができたから。
彼女の隠したあの薬こそメタトロンの中からサンダルフォンが出てくるのを押さえる為の物。
メタトロンと違い実体を持てなかったサンダルフォンは彼の意識を介してしか
この世に接触できない。ライラに実体を封印されてしまったから…
だから夢を通して少しずつメタトロンに語りかけるしかなかった。
あの時願いを叶えてあげたのに、ひどい話だ…。
自らの存在を消して完全なる別人になり過去を葬る為、体の骨格を薬で男性の様に変え
完璧なまでに独裁者へと変貌していったライラ。
だが全てを手に入れるとサンダルフォンが恐ろしくなった。
だから第七の封印を持って揺り籠にサンダルフォンを閉じ込め、
彼の与えてくれた力でその体にいくつもの封じ針を打ったのだ。
だが本当に恐ろしかったのは、サンダルフォンを封印したのは…
自分を利用しているだけ、あの男達と同じだと知ったからだとライラは訴える。
誤解していると笑ったサンダルフォンは何故かメタトロンを連れてきた。
"アレ"は自分と同じ遺伝子を持っていないとダメだし、
この体でもメタトロンの今の体でも意味がないと言う。
慄くライラの目の前で、白い制服の体は溶けメタトロンの体へ吸収されていき、
成人男性のそれに近く変貌していた。
何をするのかと怯えるライラに、子供を創るのだと言う。
もうメタトロンの体を通さなくても生きていける自分専用の体を。
自分の血を引いた魂のない器を。

484 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:54:42 ID:???
「僕を産むのは君でなくちゃあ!」
あくまでも明るいその言葉に、ただ衝撃を受けるライラ。
「僕はあの男達とは違うよ 僕は僕なりに 君を愛しているんだよ ライラ」
君は逃げる 僕は追う 捕まえる――
逃げないで 愛しい貴女 呪う様に 愛してあげる ずっとずっと
「この体中の眼で見詰めていてあげるから」
悲鳴をあげるライラ。そして彼女に覆いかぶさるサンダルフォン…。




あれっきり裁判中継が流れる気配はない。民衆には何が起こっているのかはわからなかった。
だがラファエルや、この天界を憂いて姿を消していたウリエルでさえ戻ってきた。今こそ決起する時…!

そこで何をしているのかと、誰かが近づいてくる。
動けるのならば自分を助けろ、崖の上に自分の部隊がいるから…
頭部に怪我を負ったその男が問う…お前には、何故顔がない…?

うなされて目が覚めた男。またあの夢だ。自分の顔はきちんとこの様についている。
それに自分にああ言った男の顔はまぎれもなく自分の顔。一体あの夢はなんなのか…。
苦悩する男は天使軍の一部隊の隊長。
彼は窖の被害調査に行って崖から落ち、記憶の全てを失っていた…。
病み上がりの体を圧し、彼は叛乱軍狩りに出ると部下達に命令を下した。

485 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:55:48 ID:???
どこかで泣いているメタトロン。サンダルフォンはこうして時々意地悪をするのだ。
ここへ閉じ込められている間は、あいつがメタトロンの体で悪さをしている時。
ここはとても暗くて寂しくて、セヴィーも誰も助けてくれない…
そこでメタトロンはかつて優しくしてくれたジブリールに会おうと駆け出した。
辿りついた光の先、いつかのように椅子に座したままのジブリールに必死に呼びかけるメタトロン。
だが彼女はもう眠ってしまった…と、そこへ紗羅が現れる。
彼女に、ジブリールがいつ起きるのか問うメタトロン。だがそれは彼女にもわからない。
紗羅の魂がジブリールの体から抜けた直後に切ったはずの髪も元に戻ったし、
力も甦り裁判の為に付けられた拘束具も砕け散った。
結局、紗羅が入っている間のジブリールはやはりジブリールではなく、紗羅だったという事だ。
メタトロンはよくわからないながらも、それじゃあやはり自分は一人ぼっちなのだと言う。
神様もちっとも願いを聞いてくれない、誰も自分のそばにはいてくれない…
「本当にあなたは一人ぼっち?よく考えて…いつも君を心配してくれる人がいないか…」
その言葉にメタトロンはある一人の事を思い出す。
だっていつも叱る、忙しそうで…でも、手袋をしていたが眠れない時はずっと手を握っててくれる…
本当にいつも忙しいのに呼べばいつも駆けつけてくれる。眠るまで頭を撫でてくれる。
あの手の暖かさを感じるととても安心して眠ってしまう…あの手の暖かさが、大好き…
やはり一人ではないからその人の所へ帰るようすすめる紗羅。きっと心配していると。
そしてその人に本当の気持ちを伝えればいい。ずっと抱いていて欲しい、寂しいと…言わなければなにも伝わらない。
その言葉を受け、メタトロンは笑顔で紗羅の頬にキスをした。
「ジブリールと…セヴィーのつぎに…すきだよ「サラ」が」
そして…消えていった。
あの子がセヴィーと言った事に驚きを隠せない紗羅。そこへラファエルがやって来る。
あれこそがセヴィーの最高の切り札、現大熾天使長メタトロン。
ジブリールを慕い、精神体となって迷い込んできたらしい。
あの子がこの天界の王者だという事に紗羅は二重の驚きを示す。

486 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 18:56:52 ID:???
貨物船に偽装したままセヴィーの城へ向かう刹那とウリエルを含めた「世界の魂」のメルカバ。
空中警邏隊に見つかりそうになったその時、あの隊長が刹那に目を止めた。
こいつを見ていると何か思い出せそうで思い出せない…既視感はこんなにも感じるのに。
彼が判断に迷う中、ついに刹那の正体がお尋ね者の救世使だとバレてしまう。
大手柄だと喜ぶ部下に、銃を取り出そうとするラジエル。
だが、その部下の体を背後から一刀両断したのは他ならぬ隊長だった。
その他の警邏隊メンバーも姿を現したウリエルに次々倒されていく。
隊長に向け銃を構える「世界の魂」のメンバー。だが刹那がそれを止める。
彼の持っている刀は、不知火…!? まさか、彼は…!
「よくここまで辿り付けたな、教え子よ。自分の本当の顔は思い出したか?」
ウリエルに諭され、彼は…加藤は全てを思い出す。
あの隊長は、顔を、全てを忘れた加藤の前に現れた瀕死の男を模した姿。あの後すぐに死んだのだ。
その姿をしたまま吉良の残した刀を持ち歩き…天使達に発見されたのだった。
刹那は感極まり、ただ加藤に抱きついた。

ベッドの上で目覚めたメタトロンはセヴィーを探す。
扉を開いたメタトロンは、暗くてよく見えないがそこにいるのはセヴィーだと判断する。
ちゃんと自分の気持ちを伝える…サラに言われた事を思い出し、たどたどしく言葉を紡ぐメタトロン。
セヴィーが好き…怒るし、忙しいけど…自分を見てくれるセヴィーの目や、触ってくれる手が好き。
ずっと抱っこしていてほしい。
そう言って、メタトロンがセヴィーに触れようとする…彼の小さな手が、髪を撫でる。
半裸状態で放心していたライラは思い出した。
漆黒だった君の髪がすっかり真っ白になったと、その髪にくちづけてきたサンダルフォンを…!
悲鳴を上げこれ以上自分に触るなと恐慌するライラ。
叫ぶ彼女の尋常ならざる様子に、シスターが二人部屋を訪れる。
うち一人はセヴィーを落ち着かせようとし、もう一人はメタトロンを連れ出す。
やっぱり自分が嫌いなのか、悪い子だからなのか…メタトロンは泣きながら連れて行かれてしまう。
残ったシスターはすごい汗だと声をかけた。その声…

487 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:03:28 ID:???
「それで君は何を得たのか、理想の世界を創り上げるために鬼になり、
そのためにはどんな犠牲も厭わなかったのに…そんな思いまでしてもう自分を偽るのは止めるんだ。
もう隠すことは何もないはず、あの時本当に助けて欲しかったのは誰か…」
優しく声をかけるザフィケルに、ライラはただ抱きついた。
だが彼は一変して不気味に笑う。何が汚れなき白い世界か…
その体は、彼の最期の時と同じく腐り果てていた。
両羽を奪い、自分を生きながらの腐る野獣に変えた貴方が…今さら自分になら自ら足を広げて身を投げ出すというのか?
「君は今も昔も――ただの堕落した弱い女でしかないんだよ セヴォフタルタ」
彼は――ロシエル。衝撃に目を見開くライラ。別れを告げて彼女にくちづけるロシエル。
「僕のの勝ちだね…楽しかったよ…君と遊ぶのは。
君の創った神経質な有刺鉄線の天国は自分の目にも美しかった。
でも安心していい、君の願いは半分だけ叶えてあげる。
この世界の全てを真っ白に変えてあげるから――」

その頃あんな戦争ごっこには付き合っていられない、と刹那とは別れていたミカエル。
部下のカマエルとの通信中、不意に悪寒を抱く。
その源、空をゆく機影…カマエルの呼びかけにも答えず、冷や汗を流してそれを見上げていた。

まずウリエルと共に別働隊が主戦力と見せかけ正面攻撃、敵をひきつけその隙に手薄の城内に統主の船が潜入する。
刹那はその隊へ合流…「世界の魂」の作戦会議、だが加藤がこれだからお前らには任せられないと文句をつける。
彼は自ら刹那の顔に化けて囮になり、敵の目をひきつけてやるとの事。
加藤の体を心配する刹那だが、ウリエルに宇宙樹の生命力を分けてもらったから平気だと言われてしまう。
それからあの崩壊の時…クライと、ノイズははぐれてそれっきりだと言う加藤。
大岩が雨の様に降る中、不知火で防いでいたが無駄だった。これは吉良が置いていったもの。
まるでこうなる事をわかっていた様に、自分の形見のように置いていった…
ふざけるなと加藤は思う。この目で見てもまだ信じられない、今にも笑いながら憎まれ口きいて現れるようで…
その思いは、刹那も同じだった。

488 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:05:51 ID:???
セヴィーの城の天使軍は加藤とウリエル率いるダミー隊に攻撃を集中させる。
その隙に、本体は警備の手薄になった南側付近へ向い、「白の館」へと突っ込んだ。
何としてもセヴォフタルタを拘束し、メタトロンを保護するように、とラジエルが命じる。
が、その瞬間 館内に響く衝撃――七支刀がそれに共鳴している、何事が起こったのか…
とにかく進んだ彼らが見たものは、一面に広がる警備員達の死体――
続く扉はずっと開いていて、人の声…歌声が聞こえてきていた。
罠かもしれないと思いながらも、この事態の理由を知らずに引き返すわけにもいかない。
そこで見たもの…生首をかき抱き、ぼんやりと歌うライラの姿。
それがセヴォフタルタだと知り騒ぐ「世界の魂」のメンバー。女ではないのかと…
だが静かにしろと彼らを諌めたのは他ならぬ彼女だ。
赤ちゃんが起きてしまう、この子は怒るととても怖い。うるさくするとお腹を喰い破って出てくるかもしれない…
今もお腹の中から見ている、自分の事、みんなの事…真っ赤なたくさんの目で見張っている…
刹那はそれが、やはり"あの"ライラであるのだという事を確信した。
セヴィーを拘束しようとするラジエル。
だが…天界を恐怖政治で押さえつけたあの独裁者はもう、どこにもいない…と刹那は彼を諌める。
その瞬間、感じる霊気…殺気でさえない凍りつくような感触。悪意の塊のようなもの。
さすがの七支刀も彼の前では恐れをなしている様だと、背後から声をかけてきたのはロシエルだ。
感謝してほしいくらいだ、こいつの試運転とはいえこの城を一瞬で落としてあげたのだからと言う。
それとも今度は君達が彼と遊んでくれるのか…
ロシエルを肩に乗せた、黒衣の人物が、白い制服の死体を抱えて立っていた。
これはお前の仕業か、そこの化物を使ったのか…セヴィーを狂わせたのも…そうロシエルに叫びかける刹那。
礼を言う必要はない、君らの為にやったわけではないと言うロシエル。
彼がお腹をすかせていたからだと傍らの黒衣の人物を指し示す。
「ホラごらんよ。また新しいエサがやって来た。喰い散らかしておやりよ…」

489 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:07:48 ID:???
ウリエル達の隊は敵の動きに統一性が欠けている事を不審に思っていた。
敵艦内でも「白の館」本部と交信しようと必死だった。
だが交信は途絶え続け…このままでは叛乱軍に押されたまま。
そして敵の援軍があらわれる。その機影は、ロシエルの武装親衛隊を意味する黒の羽十字章。
ロシエルという言葉に反応した加藤は、ウリエルの制止を聞かず一人、中へと侵入。
その光景に慄く。だがその死体の山は刹那達にやられた感じとは違う、この空気。
剣が共鳴して頭が割れそうな…加藤はそれを知っている…!

その目がまだ治らないのかと刹那に言うロシエル。
アレクシエルの治癒力があればそんなのたちどころに治してみせるのに。
最も、羽を片方奪われては有機天使の威厳も形無し。天使の象徴でもある翼をとられる屈辱…
大した救世使を掲げているものだと皮肉るロシエルに、
同胞にそれ以上の侮辱は許さないと銃を向けるのメンバー・ヴァシル。
刹那がそれを止めるが、もう遅い…ヴァシルはあっさりと黒衣の男に殺されてしまう。
あまつさえ、そこへ駆け込んできた黒の羽十字章の部隊。ロシエルは刹那達を捕えるよう命じる。
「この城の者を全滅させ、宰相セヴォフタルタを発狂させるに至らしめ、大熾天使長の暗殺を企てた、
救世使「無道刹那」と叛逆者の集団「世界の魂」を!」
ロシエルは最初から刹那たちを罠にはめ、罪を着せる気でいたのだ。
怒りのままロシエルに向かっていく刹那。だが黒衣の男が刹那を襲う!
貫かれたその体…だが、それは寸でのところで刹那を庇い、入れ替わっていた加藤だった。
ひっかかりやがってと低く笑う加藤がその男に切りかかる。しかし…
「お前のその体は…創り物の藁人形だったな…」
斬られた仮面が落ちる…その下から現れた、傷一つない吉良の顔…。
「その不知火では主人の体を傷つける事は出来ない。亡者は死霊らしく土に還れ」
吉良の顔をした黒衣の男は加藤の体を切り裂く。その様子に高笑いするロシエル。
そこへ、やっと壁を突破してきたウリエル。退くために助けに来たのだ。
ラジエルは連行されようとするセヴィーに目を止め、
銃を構えるが…ロシエルが笑う中悔しさにその銃を下ろすしかなかった。
あんな物を殺してもザフィケルは喜びはしない…!

490 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:09:20 ID:???
あの感じ…あの船は確かに「白の館」へ向かっていた。
あの悪寒を知っていると思うミカエル。
確かめなければならない、この目で…
雑魚を蹴散らし、白の館を映像でとらえたミカエルはあの船を発見する。
そこにいる人物を拡大して映し…彼はその姿に衝撃を受ける…!


彼を"ルシファ"と呼んで促すロシエル。
刹那は「世界の魂」に急かされながら、ただその姿が信じられず…
去って行く彼の背に呼びかけるしかできなかった。
これは夢ではないのか。ロシエルの手で殺されたはずの彼が…
ロシエルの味方となって、自分の目の前で加藤を切りつけるなど…!

ミカエルから話を聞き、間違いないのか確認するラファエル。
自分があいつを見間違うわけがない、見上げてきたあの冷たい灰色の目は確かに兄だった!
吉良朔夜として救世使の側にいたあの男がロシエルに与してルシファーとして復活した…
何を考えているのかと激昂するミカエル。
そしてその話を聞いてしまった紗羅。あの先輩が刹那を裏切るわけがないと言う。
(ロシエル…またあいつの所為なのね…!?)
そこへ駆け込んでくるリル。
たった今、至高天全土に向けてロシエルが重大発表をするという映像がTVで流れたのだ。

ラジエルも、あれは亡くなったはずの吉良だと証言する。でも何故ロシエルと共にいるのか…
甦った事は不思議ではないと言うウリエル。
彼が真実ルシファーの魂を持つのならば…四大天使やロシエルを含む御前天使の魂は不滅に近いからだ。
たとえ肉体が滅び去ろうとも魂が朽ちる事はない。定められた符号が合えば再生させる事は可能。
ロシエルは何らかの方法でそれを手に入れ、意図的に彼を再生させ…
自分の都合のいいように「ルシファー」を創り出したのではないか。
例えば魔王としての力はそのままに、ただ「人間」だった頃の記憶を封じているとか…
その言葉に喜びを見せる刹那。
吉良朔夜としての記憶を失っているのなら、またそれを思い出させれば元に戻るかもしれない。

491 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:11:10 ID:???
だがそれを否定し、満身創痍の加藤が現れる。
「あいつは何もかも知っていた、記憶なんか失ってはいない…!
全部わかってて本気で俺を殺そうと…!」
――少しも笑っていない あの冷たい無機質な灰色の瞳――
悔しげに吐き出す加藤の言葉を、刹那は黙って見つめることしかできない。
その時突然、周辺のスクリーンのスイッチが自動的にオンになった。
至高天全土に流される映像…セヴォフタルタ亡き今、無機天使ロシエルが最高司令として就任すると…!

『誇り高き我が同胞よ 心して聞くがよい。まず先の天界裁判であきらかとなった事件…
宰相セヴォフタルタはニセモノであり、かつてライラと呼ばれた堕天使であった事が判明した。
私はセヴォフタルタの宰相降任を宣告に「白の館」へ向かったが
すでにそこは叛乱組織「世界の魂」によって侵略されその惨状は目を覆う有様…!
彼らの目的であったセヴォフタルタは彼らによって拷問に合い…精神に異常をきたしていたのです。
私は直ちに精鋭部隊を召集し、見事「世界の魂」よりメタトロンを奪回、
セヴォフタルタを保護してテロリストどもを制圧した』

その発表に唖然とするラジエル。刹那も歯噛みしてそれを眺める。
民衆からは四大天使と救世使が逮捕されていないようだが、彼らを取り逃がして
「世界の魂」を制圧したといえるのかと疑問が出る。
そこへ、この男が証拠だとロシエルが引き出したのは…ルシファーに殺されたはずの、同士ヴァシル。
彼は自らを「世界の魂」の統主と名乗り、ザフィケルの遺志を継ぎこの世の浄化の為に
天界を手中にせんがため戦ってきたと言う。そして拘束を解きロシエルに襲い掛かる。
天界は我が組織の物、お前の様な古き血の使いなど目障りなだけだと…!
そんな彼を背後から真っ二つにするルシファーの姿。その様子にただロシエルを称える民衆。
これからも邪悪なる者から天界をお守りくださいますように…

『約束しよう 私の愛しい者達よ
何度災厄がこの世に降り注ぎ神が我らを試そうとも
私は天上の道標となり我らの楽園の栄華のために悪しき魂を屠っていこう』


492 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:12:24 ID:???
死人さえも操り、まんまと「世界の魂」を悪者に仕立てたロシエルに怒りの収まらない面々。
何故ラジエルがいるのにヴァシルを統主と偽ったのか…説得力に欠けるからだとウリエルが言う。
「世界の魂」を悪の組織とアピールし、自分を天界を救った英雄にするために…ヴァシルの様な屈強な男を必要とした。
おそらくロシエルはセヴィーにとどめを刺す好機を、政権を手に入れるこの瞬間を虎視眈々と狙っていたのだ。
ザフィケルの…死んでいった同志達の理想をこんな風に踏みにじるなど許せないと激昂するラジエル。
だがあれはやはり先輩だったと呆ける刹那。ロシエルはわざと自分に見せていたのだ…!

ロシエルにルシファーをそばに置くのは危険だと進言するカタン。
あの男は創世神に成り代わろうと刃を向けた男。魔王に魅せられし者は自らの暗黒面に落ち、
その深淵に引き摺られると言うが…彼の瞳は、その深淵そのもの…
だが余計な心配だとロシエルは右手を示し、ルシファーはそこに恭しく口付ける。
お休みの時間だと言われ素直に去って行く…
この血水晶がある限り、彼の魂は主に従うしかないと服の下に仕込んだものを見せるロシエル。
剣だった間、彼がアレクシエルの虜だったように…
だが相手はかつての天地大戦の引き金となった大魔王。
手綱を握るのは核弾頭を扱うような危険な賭けでは…?

血水晶のたった一片の欠片を手に、一体どうなっているのか困惑する刹那。
一人たたずむ加藤を発見し、彼も落ち込んでいるのかと声をかけようとするが…
壁を殴り、涙を零しながら悔しがる彼にかける言葉はない。
ただロシエルが許せない、必ず先輩を正気に戻し、お前を殺してやると決意を新たにするのだった。


一方であの騒ぎの中、捕らえられていたライラはかつて自分が幽閉した
ジブリールと同じ孤高離宮に幽閉されていた。
窓は最上階の一つのみ、力を封じられた塔内では飛んで逃げる事もできない。
蔦の絡みついた小さな牢獄の中、腹に手をのせたままぼんやりと椅子に座すライラ。
あれがかつて栄華を極めた宰相セヴォフタルタの姿とは、誰が想像しえたろう。

493 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:14:12 ID:???
姿はすっかり元の女性のそれになり、髪はかつてのように短く切られ、白いワンピースとショールに身を包み、
頬の烙印にはガーゼが貼られている。そして気になる事はあの腹の子、誰の子かもわからないが異常に成長が早い…。
そこに、窓の外から歌が聞こえてきた。かつて自身が投げ捨てたアレクシエルのピアス。
そこに入っていた種が成長し、蔦となり歌っている。
それはライラ自身の声。まだ全てを信じていた頃、自分の歌った…
『そう これは「哀しみの賛美歌(キリエ・レイソン)」 これは僕の記憶の中の初めての君の歌声…
 礼拝堂で一人 その木漏れ陽の中唄う君の姿に 僕は目が離せなかった…ライラ…』
蔦に手を伸ばそうとしたライラの前に、窓から廃竜だった男が現れる…。
ライラは声ならぬ声で、貴方を愛した事などなかったと告げた。
貴方の私を見る目はいつも一途すぎて私を怯えさせるだけだった、と。
『わかっていた。僕はライラを守れなかったし、座天使長のように危険な魅力を持っているでもない。
だが君が知らないだけで、君は本当に禁欲的で美しい天使だった。今も昔も…。
無実の罪で羽落としとなり、魂は未練がましく彷徨って廃竜という姿を借りようとも…伝えたいばかりにやってきた。
あの男たちでさえ、それゆえライラに激しいいらだちを感じて行動してしまったのだと。
ただそれだけを伝えたかった…。だがこれ以上は入れないし、君に触れる事は叶わないから…』
彼はライラに背を向けるようにして窓辺に座る。

貴方を死刑にした自分に恨み言を言いに来たのではなかったの?…何故入れないの?

『自分も君を壊した者の一人だから、君の中であの男達と自分が同じ存在になってしまうのなら…
もう君を壊したくない。僕にはもう君を攫って飛べる翼もないし…』
男の背は、切り落とされた羽の痕が痛々しく残るのみ。

494 名前:天使禁猟区[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 19:16:10 ID:???
それを目の当たりにしたライラは、涙をこぼしてただ彼の背に抱きついた。
彼女を優しく抱きとめる、廃竜だった男…ショールと幾枚かの羽根を残して、彼女は落ちていった。

真っ白い世界はどんなところか、自分も連れて行ってくれるのか…そう、無邪気に問いかけてきたメタトロン。
だが探していたものはここにあった…

 ああ ここだったんだ
 私の探していた ただ 羽根だけが舞い散る
 白い 白い 真っ白の世界は…


「羽根を真っ赤に染めた ――白い鳥が一羽 逃げちゃった…」
自分の胎児ごと潰れたが、まあいい。
代わりの女はいくらでもいる、と呟き血だらけの羽根を握りつぶすメタトロンの体のサンダルフォン。
例えば…メタトロンのお気に入りのジブリールは今眠っているから、サンダルフォンが体にいる間彼が会ったあの子…
そう――「サラ」に、あの子に僕の体を産んでもらおう…

「サラ」…「ムドウサラ」に、決めた…


天使禁猟区・至高天 創造界編/おわり

至高天 神性界編へと続きます。次で最終章です。