「手天童子」 <プロローグ> 両親の墓前に結婚を報告に来た柴夫婦と和尚の前に、突然二匹の巨大な鬼が現れた。 一体の鬼がが口にくわえた赤ん坊を、もう片方の鬼が狙っているのだ。 子供を守ってなんとか勝利した鬼は、柴夫婦に赤ん坊を授ける。 「十五年」 妻が赤ん坊を抱いた途端、皆の頭に直接テレパシーが響く。 「今日より十五年数えた日…迎えに来る…」 大きな風が吹き、二体の鬼は消えていた。 しかし妻の腕の中には、今の出来事が夢でない証が……。 後日柴は和尚に名付け親になってもらおうと訪れる。 柴に鬼の子らしいかっこいい名前をと言われ、大江山の酒呑童子の名を挙げるが、 「未成年で酒のみって名前はどうも…」と否定される。 「天の手によりさずかった童子(こども)ということで手天童子はどうじゃろう」 「柴手天童子か〜〜強そうでいーや」 「いや、柴の姓を名乗らすのはいかん、手天童子郎(しゅてんどう・じろう)としよう」 十五年経てば別れなければならぬ子に自分の姓を名乗らせては別れが辛くなる。 和尚の心遣いだった。 柴は妻と子郎を育てながら、鬼の伝説について調べるようになった。 鬼だけが彼の正体を知る手がかりだからだ。 ある日子郎を公園に連れて行くと、小さい彼の足元から大きな鬼の影が伸びていた…。 <十五年後> 子郎は15才となっていた。 美形の彼は、ろくに授業も聞いていないようなのにテストは満点。 スポーツも万能で人気者になってもおかしくはなかった。 だがまわりと交流を持とうとはしなかった。 自分がいつかは皆と別れなければならぬ身とわかっていたからだ。 ある日トラックの運転手が突然「殺せ」という声に操られ、下校途中の子郎を撥ね飛ばした。 トラックは大破、子郎はビルに叩きつけられるが無傷。 彼がぶつかったビルの壁は、大きな鬼の形にくぼんでいた…。 子郎の通う高校は、たちの悪い不良ども・結命党がはびこっていた。 廃校となった旧校舎に女生徒を連れ込んでは皆で弄んでいるのだ。 良家のお嬢・白鳥美雪は、ある日バスの中で結命党に絡まれたところを子郎に助けられる。 子郎に憧れていた美雪は嬉しかったものの、それでも冷たい彼の心が読めずに戸惑う。 翌日の放課後、子郎に話しかけようと彼がよく寄る公園へと向かうが、 途中で結命党にさらわれ旧校舎に連れ込まれてしまう。 美雪に我先にと襲い掛かる結命党を、盟主と名乗る鬼が制止した。 鬼は美雪の身体を舐めまわし、彼女の心と身体をコピーした。 彼女の心を占める子郎の正体を暴こうとする鬼の罠が、子郎を狙う…。 美雪の姿を借りた鬼は、積極的に子郎に接近する。 美雪の目に一瞬鬼を感じ、焦る子郎。 しかし結命党の影に怯えて力を貸して欲しいとすがる彼女を見て考えを改め、 彼女を守るため、学校の行き帰りに送ってあげると約束する…。 ある放課後、立ち寄った公園で、子郎は美雪にこの町を離れなければならない苦悩を語る。 「こんな話誰にもするつもりなかったのに…君にだと何となく話してしまう」 そんな帰り道、二人は結命党にからまれてる美人教師・種村を発見。 慌てて助けるべく旧校舎へと向かう二人。 子郎は旧校舎の二階へと駆け込む。そこには素裸に剥かれた先生がいた。 結命党は、人間を超えた存在となるために今まで罪を犯してきたと言う。 しかしまだ人間を超えられない…それで人間としての最悪の罪、殺人を犯そうというのだ。 結命党は鬼に操られ、子郎を殺すために先生をおとりに使ったのだ。 子郎は先生をかばおうとするが、すでに先生は盟主にとり付かれていた。 子郎を羽交い絞めにしながら首を絞め、自分ごと切り殺せと命ずる盟主。 次の瞬間、不良どもの刃が二人を突き、刺し、斬りつけた! 先生の身体が切り刻まれ、子郎をつかむ手や足がほどけた。…しかし子郎は無傷だった。 先生を利用したことを怒る子郎。 「俺を殺すなら殺せ!だが関係のないものを巻き込むのはやめろ! 鬼よ聞こえるか!俺の前に姿を現せ!」 「私ならいつでもお前の前にいたぞ…手天童子!」 美雪の姿を真似ていた盟主が現れ、子郎を殺せと命ずる。 怒る子郎の鬼の影が巨大な姿に膨れ上がり、皆を天井に押し付け重圧で押しつぶしてゆく。 そんな不良たちの姿に怯える子郎。 盟主はこの力が子郎のものではない、どこか異空間から送られてくる力と感知し、 校舎の壁内に力の及ばない異空間を作って、本物の美雪を餌に子郎を引き込んだ。 異空間で、子郎を惑わそうとする幻になんとか打ち勝ち、美雪と合流する子郎。 しかし盟主が幻ではない本物の鬼を使って子郎を食い殺させようとする。 ところがバリヤーが鬼を弾き飛ばし、一瞬のうちに粉砕した。 「思念のバリヤーではない!物質だ!…きさまは護鬼(ごき)!」 護鬼という半獣人型の鬼が身体を分散し、子郎を守るバリヤーとなっていたのだ。 盟主が鬼の姿に戻り、両手に刃を持って護鬼に襲い掛かる。 ……時を同じくして柴家。 少し飲んで遅い帰宅をした柴は、子郎の靴がないことに気付き、あの子らしくないと心配する。 台所に行くと、妻の京子が包丁を両手に持って必死に空を切っていた。 慌てて妻を止める柴。「鬼が子郎を奪いに来たらどうしようかと思って…」 護鬼が盟主を倒し、異次元空間から旧校舎に戻ってきた子郎と美雪。 気がつくと旧校舎は燃えていた。護鬼のしわざだ。 この奇怪な事件を世間から隠すためだろう。 事件後、美雪を避ける子郎。 「好きなのに…心配もさせてくれないの?」 冷たく立ち去る子郎。自宅の洗面所で鏡を見ながら一人呟く。 「白鳥さん、俺のこと好きだって…?俺が化け物に見込まれてる人間だって知ってるくせに… もうすぐ鬼に連れ去られるって知ってるくせによう……」 前髪をかき上げる。鏡にうつる二本の角。それはとても小さくはあったが。 「俺はもうすぐ人間ではなくなるんだ!!」 鏡を叩き割り、嘆く子郎。だんだん強くなる自分の力にも戸惑っていた…。 美雪の様子がおかしいと心配する兄・勇介。 ふられたと聞いてプレゼント作戦を提案し、心配になって影で様子を見ていたが、 プレゼントを叩きはらわれ、泣いて去ってゆく妹を見て怒りが爆発、子郎に殴りかかる。 が、ボクシング部の勇介が本気で殴ったのに子郎は無傷。 「妹さんは僕のまきぞえで死ぬところでした。あなたも僕に関わらないことです…」 いつのまにかドーベルマンの群れに囲まれている二人。 「駄目だ……もうあなたを巻き込んだらしい」 襲い掛かってきた犬に腕を切られる子郎。もう護鬼はバリヤーになっていないようだ。 子郎は今まで誰にも見せたことのなかった鬼の力を解放し犬を殴り殺す。 背後に迫る一匹を、勇介が叩き飛ばした。 「なるほど妹の恋人にはふさわしくねえやつだ。だがよ、俺の親友にはふさわしいぜ」 男と生まれたからには一度は大冒険がしたかったと言う勇介。 冒険行特別急行列車のキップを生まれながらに持ってると羨ましがり、一枚分けてくれとせがんでくる。 「でも……片道切符かもしれませんよ…それにグリーン車じゃない」 「あたりまえだ……冒険列車にグリーン車なんぞあるわけない」 「僕も僕の冒険列車に一緒に乗ってくれる友達が欲しかった…」 笛の合図で去ってゆく犬たち。 「さーて、キップをちょーらい」おどけて右手を差し出す勇介。 「見えますか? これですよ…」握手を交わす二人。 子郎にとって初めての友人だった。 ドーベルマンをけしかけた人間の正体がわかった。前に子郎の学校にいた教師・鬼谷だ。 鬼谷は在学中から子郎に探りを入れてきているようで、薄気味悪い存在であったが…。 勇介は子郎の冒険列車に乗りたいという屈強な仲間を連れてきた。その中には美雪もいた。 柴は頼もしい仲間だと喜ぶが、 「君たちだけではなく家族・友人をも巻き込む恐れもある。覚悟はあるか」と釘を刺す。 「もちろんそのつもりさ……妹もね」 鬼谷のいる寺に乗り込む勇介たち。仲間の一人をやられて怒る子郎の身体が光に包まれる。 「手天童子は目覚められた!とうとう来たのです旅立ちの時が!」 それを見ていた護鬼が言う。十五年目までもう時間がない…。 美雪と子郎の母・京子が鬼谷らにさらわれた。皆は決戦を前にそれぞれ意志を固める。 実は彼等の家系は代々手天童子を守るために命をかけていたのだ。 鬼谷の寺に向かう道のりにはたくさんの敵が待ち伏せていて、勇介をはじめ大半の仲間が命を落としてしまう。 たどり着いた寺にはさらなる強敵が子郎たちを襲う。 そこに稲妻と共に現れた巨大な鬼。「あの鬼こそ赤ん坊の子郎をくわえてきた鬼だぞ!」 戦鬼というその鬼は、次々敵を倒してゆく。 戦いを見守る子郎たちの前に護鬼が現れた。「あの日から数えて今日がちょうど十五年目になるのです」 「どこへ連れて行かれる?」 「鬼獄界(おんごくかい)です。鬼獄界とは、高次元空間に突然発生した鬼の世界です。 無の世界から突然生じ、少しずつ広がり、大きな世界を形成しているのです」 手天童子に親はなく、ある日突然赤ん坊の姿で発生したという。 護鬼も戦鬼もそのままの姿で突然発生したのだと。 餌としようと襲い掛かる鬼どもの前に、突然現れた護鬼。 彼は本能で赤ん坊を守るために自分が存在すると知っていた。 護鬼も戦鬼も自分が何者かはわからない、子郎を鬼獄界に連れてゆけば何かがわかるかもしれないと言う…。 劣勢となった敵の大将が、京子の命を鬼どものあがめる大暗黒死夜邪来に捧げようと邪来像の前に押し付けた。 ところが刺し殺そうとした京子の顔が、なぜか邪来像と同じだった。 驚き戸惑う大将は、護鬼に倒された。 美雪は柴に助けられ、子郎が母と再会し手を取り合おうとした瞬間、戦鬼が子郎を連れ去った! 「子郎〜〜〜っ!!」泣き叫ぶ京子。 美雪は自分も連れて行けとせがみ、護鬼と共に姿を消す。 残された柴夫婦。京子は鬼を憎むあまりに精神が崩壊し、精神病院に入院することとなる。 ショックを受けた時のことで一杯になり、他のことが考えられない状態だと院長は言う…。 異世界に連れて行かれた子郎と美雪。 三次元世界のあらゆる世界に通じる空間が現れては消えてゆく不思議な世界。 鬼獄界に通じる空間から鬼どもが飛び出し、そのはずみで美雪・護鬼・戦鬼はどこかの世界へ飛ばされた。 子郎もどこか知らない空間へと吸い込まれ、宇宙空間にただ漂っていた…。 <西暦2100年・未来世界> 宇宙船ガルファードは、太陽系外宇宙の調査のため多数の学者を乗せて旅に出ていた。 謎の宇宙船を見つけ調査に出る隊員たち。その中には宇宙服を着た鬼の死体があった。 船中に響き渡る「戦え」と言う声に支配され、調査隊員同士が戦ってしまう。 そんな危機的状況に、大きな光が飛んできた。 子郎だった。子郎は宇宙船を浄化して、乗組員の怨霊も消滅させた。 子郎は助けを求めるテレパシーを感知し、助けに現れたという。 そして自分を地球に連れて行って欲しいと頼んだ。 百年もの長い旅で宇宙のあらゆるエネルギーを取り込み、比較対象がなく巨大化していた子郎だったが、 自在にエネルギーを放出し元の大きさに戻った。 <現代・日本> 柴家では死んだ勇介の仲間の妹・ユウを引き取っていた。 柴の若い頃の写真を見て自分の先祖にそっくりと不思議がるユウ。 その先祖の絵は、なんと護鬼だった……。 <平安末期・日本> 羅生門近くを馬に乗っていた男の前に現れた和装の美女・美雪。 道に迷い難儀していると言う美雪の影は鬼だった。 「おのれ京を騒がす羅生門の鬼!この渡辺綱が退治してくれようぞ!」 逃げる美女を追って羅生門へと飛び込んだ彼に、護鬼が襲い掛かる…。 「腕を少し切られたよ、かすり傷だったがな」 「渡辺綱とか言ってたわね…どっかで聞いたような名だわ」 護鬼と戦鬼と美雪は平安時代の日本に流され、子郎に居場所を知らせるためにこんなことをしていたのだ。 <西暦2100年・未来世界> 宇宙船ガルファードでは、謎の宇宙船を調査して鬼の星があることを突き止める。 そして子郎の身体の検査の結果が出た。 手から光のエネルギーを出し剣にすることができる身体。 宇宙空間を漂っても死ぬことのない身体。 百年も宇宙をさまよいながら年をとらない身体…。 子郎の身体はまったく人間と同じだった。だが人間ではない、人間のイミテーションだった。 光のエネルギーが何らかの意志により人間形を形成しているのだ。 意志を持ったエネルギーなのだという答えに戸惑う子郎。 だが医師は「作ったものの強い愛情を感じる」と言う。 これから行く鬼の星でその答えがわかるかもしれない…。 <現代・日本> 京子の入院する病院に呼び出された柴は、院長に驚くべき光景を見せられる。 柴夫妻が画学生だったと知り、京子に絵を描かせようと油絵の具とキャンバスを与えたのだが、 壁に絵を描き始めたのだという。 病室の壁一面には異様な鬼の地獄絵図が描かれていた。 「鬼よ…私から子郎をとりあげた鬼よ…報いを受けるのだ…お前たちは苦しむためにこの世に生を受けたのだ」 泣き、笑い、ただ絵を描き続ける京子を誰も止めることはできなかった…。 <西暦2100年・未来世界> 宇宙船ガルファードは鬼の星へとたどり着いた。 地球とよく似たその星には破壊しつくされた都市があった。 子郎を含む調査隊は宙に浮かぶ謎の円盤を発見した。 円盤から浮かび出る異星人の映像、それは鬼の星を滅ぼした異星人のメッセージだった。 「この星は恐ろしい星だった。この星の文明は戦いによって発達し殺戮によって磨かれた邪悪な文明だったのだ。 この星が他の天体に進出しようとした時、我々はこの星を滅ぼす決意をした……」 邪悪ゆえに滅ぼされたこの星の奥地に、なぜか大暗黒死夜邪来像があった。 そして子郎は、その像に母の顔がついていることに気付き深いショックを受ける…。 美雪たちがどうしているか思い悩む子郎に、宇宙船のクルーの女性がアドバイスをしてくれた。 「あたしがその人だったら…あなたと連絡をとるために自分の居場所を知らせようとするわね。 鬼を使って事件を起こすわ。できればあなたの名も出してね」 「では……大江山の酒呑童子の伝説は!?」 「文字は関係ないんじゃないの?本当は手天童子のつもりで名乗っていても聞いた人が勝手に漢字をあてたのよ」 渡辺綱の羅生門の話を聞いて、「美雪と護鬼だ!」と気付く子郎。 「平安時代か……それがわかっていても俺にはそこに行く方法がない。 鬼獄界やあらゆる時代に通じるあの空間に、何度も行こうとしたが駄目だった」 「もし行く方法があったらどうするね?」 突然、博士が会話に加わってきた。 「普通のものなら無理だがね。あるいは君なら時を越えられるかもしれん」 <現代・日本> 苦しむ鬼たちの夢にうなされる柴。 「壁に描かれた鬼が泣いている…何とかしなければ鬼がかわいそうだ」 京子はあいかわらず絵を描き続けていた。 「子郎…子郎、早くいらっしゃい…おかあさんはここにいます。 ここよ子郎、ここよ子郎、子郎あなたはここへ来るのよ」 病院の壁には、巨大な鬼の上にしつらえた台座に座った京子の姿があった……。 病室のカーテンを開け、光を入れる柴。 京子はまぶしさに驚いて絵筆を取り落としてしまう。 自分にも絵を描かせてくれとそれを手に取り、朝日を受けて輝く壁に向かい始めた。 「…どうだ、いい絵だろう………」 朝日に輝く病室に描き出されたのは、天使の顔を持つ赤ん坊の姿だった……。 <西暦2100年・未来世界> 22世紀の地球。 そこにはかつて地球を救ったという、全身サイボーグと化した戦士がいた。 その戦士に限り、身体のあらゆる改造が許されているらしい。 子郎の前に現れた戦士は、かつて子郎に倒された敵の息子だと言い、突然核兵器を使用し、 あたり一面を消し去った。 迎えに来たタイムマシンのスタッフは子郎に早く時を越えて逃げて欲しいという。 あいつも追ってくるのではと心配する子郎。しかし戦士には時は越えられないと言う。 過去に送ることができるのは物質だけ、生物は死んでしまい、物質も変形したり変質したりする。 光のエネルギー体である子郎だけが無事に過去にたどり着けるのだ。 <現代・日本> 赤ん坊の絵を描いてから、京子は毎日赤ん坊の絵を見ているという。 柴が病室に入ると、京子は再び絵筆を取っていた。 「このままでは赤ちゃんが鬼に食べられてしまうわ…赤ちゃんを守る人がそばにいなくてはいけないの」 京子は若い頃の柴の顔を描いていた。 「なるほど…この男なら一生懸命赤ちゃんを守るだろうな…しかしちょっと頼りないなー。 もっと強そうにしないと鬼に勝てんぞ」 その柴の一言に、京子は絵の顔にくまどり状の線を加える。驚愕する柴。護鬼にそっくりだ…。 数時間後、京子は護鬼と戦鬼を描き上げていた。 「戦鬼はとにかく護鬼は…京子は護鬼と会ったことがないはずだ。 子郎の話だけでこれほどそっくりに描けるはずがない…」 <西暦2100年・未来世界> タイムマシンで時を越える子郎。 その直後、戦士アイアンカイザーが突入し、自分も同じ時代に行かせろと言ってきた。 「君を同じ時代に送ることはできる、しかしそれが君の身体にどんな影響を与えるか予測できない」 「構わぬ!生命などいらん!わしの人生の目的は手天童子を倒すことだけだ!」 『やつが童子を追って平安時代に行くのも決められたさだめのような気がする…』 <平安末期・日本> 京へと向かう子郎は、山でいきなり熊に襲われ、がけ下へ放り込む。 それを見ていた源頼光に鬼退治に共に来るように命じられた。 「名は俺がつけてやる。坂の上から熊と転がってきたから坂田金時というのはどうだ」 「坂田金時………俺が金時?」 頼光四天王の一人として、鬼退治に参加することになる…。 <現代・日本> 病院からの帰り道、柴は考え込んでいた。 「事件の始まりが15年前でなく今だったとしたら…それも京子の病室から始まっているとしたら… 何もかも京子の閉ざされた精神から始まっているとしたら……」 ある日突然現れた鬼獄界。赤ん坊の姿で現れた童子。 童子を守るために生まれたことを本能で知っていた護鬼。 どの時代の誰に赤ん坊を託すかも定められていたという戦鬼。 「鬼獄界の謎がとけたぞ!京子の肉体は病室にあっても精神はこの病院にはない! 戻ってくる……二人とも戻ってくるぞ!」 <平安末期・日本> 夜の川で身を清める美雪。 その前に鎧を着た男の影が現れた。 「大江山の鬼と関わりのある者か?鬼を退治に来た俺の名は坂田金時…またの名を手天童子郎!」 再会を喜び抱き合う二人の前に、時空を超えてアイアンカイザーが現れた! しかし無理があったのか何度も爆発が起こり、燃えさかる鬼の首となって襲い掛かってきた。 執念が彼の姿を変えたのだった。 逃げる子郎と美雪の前に討伐隊が現れる。 「これはまさしく酒呑童子の首!やったな金時! 首だけになっても飛び回るとは恐ろしき執念!さすが大江山の鬼!」 戦鬼が助太刀に入るが子郎は止める。 「俺と戦わねば死んでも死に切れんやつなんだ!」 頼光に正体を明かし、アイアンカイザーと決着をつけようと告げる子郎。 炎に包まれた黒鬼の首からいくつも火花が散った…それは復讐の鬼アイアンカイザーの涙だった。 光の力で勝利する子郎。 「もう大江山の鬼は現れますまい…」 <鬼獄界> 鬼獄界へと向かう子郎たち。 「これが星なのか?」 くずれた壁のような、少しずつ成長する不思議な星。 この内側だけに鬼が存在するという。 鬼獄界を作ったという大暗黒死夜邪来に会うため、鬼たちを倒してゆく…。 <現代・日本> 早朝、柴はハンマーを手に病院へと向かった。 「院長、ここに私のサインの入った小切手があります。金額は好きなだけ書いてください。 その代わり私がこれからやることを黙って見逃してください…考えあってのことなのです」 「柴さん、ハンマーなど持ち出して何をするつもりです!!」 「帰ってこい京子……帰ってこい、子郎!」 病室の壁をハンマーで叩き始める…。 <鬼獄界> 「地震だ!鬼が慌てふためいている!」 「鬼獄界には今まで地震などなかったからです!大きな異変が鬼獄界におき始めています!」 柴が病室の壁を叩くたびに、鬼獄界も内部から打ち砕かれたように破壊されてゆく。 <現代・日本> 崩れる病室に驚いて駆けつけた医師たちが柴を止めようとするが、院長は制止する。 柴に考えがあってのことと知り、訳は後で聞くと許しをくれた。 医師たちにベッドを動かしてもらい、隣室の患者を避難させ、本格的に破壊を始める柴。 「京子の心が生みし鬼獄界よ…今滅びの時がきたのだ!鬼獄の鬼とは怨みの心、 つまり「怨獄界」なのだ!そして鬼とは……怨みを持った人の心が現象化した時の姿なのだ! 子郎を鬼にうばいさられた京子の怨念の世界怨獄界よ!この壁画と共に滅びるのだ!」 <鬼獄界> 地震に戸惑う鬼たちを斬りながら邪神殿へと向かう子郎たち。 「きたぞ!大暗黒死夜邪来!俺が手天童子だ!」 「子郎〜〜〜っ!!」 「そ……その声は……」 大暗黒死夜邪来のもとへ走り出す子郎。 「待っていたわ子郎…あなたの来る日を」 涙を流す邪来の顔は………「かあさん!」 大きな邪来が崩れ落ち、台座に座った母が現れた。 「なぜかあさんが邪来なんだ!?」 「子郎……この鬼獄界は私が作ったのです。私はお前を預かったその日から15年間、 毎日お前が連れて行かれる日を恐れて生きてきました。 鬼に渡したくない…その気持ちだけで生きてきました。しかし鬼は私の手からあなたを奪っていったのです! 私は怨みました。鬼を呪いました。私は恨みの心で一杯になり正気ではいられなくなりました。 そして精神病院に入れられたのです。 ある日私は病室の壁に絵を描き始めました。憎い鬼が殺しあう姿を描くことによって怨みを晴らしていたのです。 絵は予想外の影響を与え、別の次元空間に作用したのです…それが鬼獄界なのです。 なんという皮肉でしょう…あなたをこれほど苦しめた鬼獄界を作ったのが私だとは…。 この星に気付いた私はやがてあなたがここに来ると思い壁に自分の姿を描き込みました。 そして自分の心の一部を鬼獄界に運んだのです」 「では……僕はどうして鬼獄界に生まれたのです?」 「とうさんです。私を慰めようと私の心を救おうとあなたの赤ちゃんの時の姿を描き込んだのです。 あなたはとうさんが…いえ、愛の心が作り上げたのです! あなたの誕生に気付いた私は、私が行くまでに鬼に食べられるのではと焦りました。 それで病室にいる私に赤ちゃんを守る鬼を描かせました……護鬼です。 私のイメージ通りに赤ちゃんを守る護鬼を見て私には事件のすべてがわかったのです。 私は急いで戦鬼を描きました…ある使命を持たせて。 赤ちゃんを15年前の私たちに預けること…そして15年後に私の手から奪うこと… すべて私の心から起こったことなのです」 護鬼と戦鬼にお礼を言い、美雪に兄を死なせてしまったことを詫び、病室の崩壊と共に母と鬼獄界は消えてゆく…。 <現代・日本> すべての壁画を叩き壊した柴。 「あなた……子郎が、子郎が帰ってきます…」 「京子!俺がわかるのか?帰ってきたのだな京子…」 <エピローグ> 鬼獄界の残骸の上に立つ子郎たち。 子郎は護鬼に今後のことを尋ねるが、護鬼はこの姿では童子とは一緒にいられないと言う。 「角なら僕だって……あっ!ない!」 「童子…あなたを描いたのはとうさんです。あなたに角をつけると思いますか? 自分が鬼ではないかと思い悩み、不安感から角を生やしてしまったのでしょう」 護鬼は自分の姿に誇りを持っていた。一人の傷ついた女性…京子の願いをかなえたことにも。 「私は平安の世に行き、あの時代の女性と結婚して静かに暮らします。 私の子孫はずっと日本人として生き続けるのです。 そして20世紀のある日わが子孫たちは…手天童子を守るために集まるのです!」 子郎のもとに集まった仲間は、皆、護鬼の子孫だったのだ…! 戦鬼は生き残った鬼たちと地球文明とはぶつからない時代の宇宙へ行くと言う。 「かあさんを許してやってくれ…」 「許す?なぜだ…童子の母は私の母でもある…鬼たちの母でもあるのだ… 童子のように美しくはなく優しい心もなく愛されてもいない!しかし母だ!愛している!」 子郎は未来世界で見た鬼たちの末路を憂いながら、鬼たちに別れを告げた…。 車を走らす柴夫婦。 「子郎はどこへ帰ってくるのだろうか…?」 「もう決めてあります。やはりあの子とはじめてあった場所に…。あの子は私たちの本当の子供だったんですね…」 「そうだな…子供のいない私たち夫婦の、心が生んだ子供だった! もうあの子は手天童子郎ではない!柴子郎だ!」 陽光さす墓地にたたずむ美雪と子郎。 夫婦に気付いて笑顔で走り出す。母と抱き合い再会を喜び、四人でゆっくり歩き出す…。 |