砂漠に吹く風/明智抄
153 名前:「砂漠に吹く風」(1/7) 投稿日:04/06/21 20:58 ID:???
まず最初にこの話は「サンプルキティ」という作品の続編にあたり、この後「死神の惑星」と
いう作品に続きます。これらの作品全体は未だ完結しておらず、幾つもの謎が残されています。
時代設定は「サンプルキティ」が現代、「砂漠に吹く風」は人類が宇宙に進出、植民星を持ち
宇宙を飛び回ってる未来、「死神の惑星」は「砂漠に吹く風」より一世紀以上前の話ではあるけ
れどやはり宇宙に進出している時代の話になります。
また、この辺はまだ描かれていませんが、SF大会での作者インタビューによると、「サンプルキティ」
第二部主人公の好きな人への思いが呪いとなってこの世界を支配している為、この世界内で
はクローンできる人物は第二部主人公の思い人のみとなっているそうです。この人物と作品中
に出てくるクローン達は姿形は一緒なのは、この辺の設定との関係があるようですが、
詳しい事は判っていません。

以下本編。

アンダーソン財団が所有する「人材集団シロッコ」。これは「シロッコ」という一人の天才のクローン
達によって構成される人材派遣会社である。彼らはアンダーソン財団によって育成、管理されて
いる。クローン達には「シンクロ」という特殊能力があり、これによってお互いの知識や経験を受け
継いでいくのだが、同時に感情や記憶まで背負う事になる。結果、クローン達は世代を超えて
苦悩や悲しみを抱えこむ事となり、シンクロを行う度にそれらがどんどん増殖していくという状態に
あった。
その苦しみゆえに、シロッコ達の死因はほとんどが自殺。この話も一人のクローンの自殺から
始まる。

154 名前:「砂漠に吹く風」(2/7) 投稿日:04/06/21 20:59 ID:???
そのクローンの死体を見つめる一人のクローン。彼はシロッコの一番最初のクローンであり、また
この世でたった一人シンクロをする事が出来ないクローンであった。(以下クローン1)
だが、彼は死んだクローンの記憶を受け取る事は出来る。死んだクローンの記憶の中にはシロッコ
達をサイコノヴェルで救おうとしてる人物がいた。
サイコノヴェルとは人間の五感のみならず感情までも感じる事ができ、読者はサイコノヴェル作家の
作り上げたドラマを体験するという物。
シロッコ達を救おうとした人物は彼らをを救う物語を作りたいと思い、サイコノヴェルを出版して
いる会社に入社し、エージェントとして働いていた。
自殺したクローンの記憶からこの事を知ったクローン1は彼の元を訪れ、自分はシロッコ達を救える
物語を持っているが、サイコノヴェルを書く才能はない、作家を紹介してくれと頼む。彼が可能性
があるとしてあげた作家は力石ジョイ。それを聞いたクローン1は旅行に出たジョイが乗った宇宙船
に忍び込み、部屋付き仲居アンドロイドとして接触しようとする。

力石ジョイには秘密があった。それは彼がキャンセルベビーであった事。キャンセルベビーとは人工
子宮で育てられていた赤ん坊が何らかの事情により、親にキャンセルされた子供の事で、この場合、
移植用臓器として10才まで培養層で育てられる事になる。10才以上になった子供はサイコノヴェルに
よって幼児体験を与えられ社会に出る。力石ジョイは移植用臓器として利用されず、社会に出れた
子供だったが、病院側のミスで女性用の幼児体験を与えられていた。これゆえ彼が描くサイコ
ノヴェルのヒロインは彼自身でもあった。

部屋付き仲居アンドロイドとしてジョイに近づいたクローン1であったが、その挙動不審さから
ジョイに怪しまれていた。と、彼らが乗っている宇宙船が海賊船に襲われる。あっという間に船は
占拠され、ジョイの部屋にも海賊が押し入って来る。ジョイ絶体絶命のピンチ。
すると、クローン1は部屋を異質な状態に変え、海賊共を退治しジョイを救う。突然の展開に呆然
となるジョイに改めて自己紹介をしたクローン1は、彼にシロッコ達を救う物語を紡いで欲しい
と頼む。

155 名前:「砂漠に吹く風」(3/7) 投稿日:04/06/21 21:01 ID:???
クローン1は死者の記憶にしか入る事が出来ないのだが、ジョイはキャンセルベビーであった為か、
その心に入る事が出来た。しかし、今の状態のジョイではシロッコ達の物語を紡ぐ事は出来ない。
何故ならば、医療用ソフトはアンダーソン財団の独占市場であり、キャンセルベビー達にはアンダー
ソン財団が作ったサイコノヴェルによって、本来の記憶をブロックされ、財団に忠誠を誓わされてい
たのだ。クローン1の持つ物語を紡ぐにはこのブロックを自ら壊さなければならない。だがそれをす
れば自分の幸福な幼児体験を壊す事になる。それが例え偽物の記憶であっても大切な物であった
ジョイは迷う。が、クローン1の「そのままではジャングル・オービン(ライバル作家)には永遠に
敵わない」と言う言葉にブロックを壊す事に同意する。そして、クローン1はジョイの心に入り込み、
ジョイと共にブロックを壊そうとするのだった。

その頃、ジョイのライバル作家、ジャングル・オービンは「紫の海星」と呼ばれる惑星で、そこに
生息する「ふぉん」と言う魚に似た生物を釣ろうとしていた。
『仙獣ふぉんの住まう星』という本によると「ふぉん」とは仙獣であり、魚の状態の「ふぉん」は
幼生なのだという。「ふぉん」は成体は精神体で、この世界に散らばる死者の記憶を
集め身体に溜め込み、やがて紫の気体となり「紫の海星」の紫色の海となる。「ふぉん」が成体に
なるには生命エネルギーが必要。そこで幼生の「ふぉん」は棲んでいる沢の近くに来た者に
夢を見せ、もうこの世にはいない人の姿となり、生命エネルギーを奪う。この時まれに「ふぉん」
の意識を生命エネルギーを奪われた者の意識が乗っ取る事があり、それが出来た人間は風使いの
仙人になる事ができるという。風使いの仙人になった者は風を集め身体を作る。それは自由に形を
変えることができるのだ。また別の「ふぉん」にアクセスをしてその知識を得る事も可能になる。

オービンは子供の頃にこの本を読み、いつか「紫の海星」へ行き、死んだ母の腕に抱かれて死のう
と思っていた。そんな思い入れと共に釣りをしていたオービンに、同行していたガールフレンドが
ジョイが乗っていた宇宙船が海賊に襲われ、ジョイ自身は無酸素症で意識不明となって収容された
というニュースを聞かせる。


156 名前:「砂漠に吹く風」(4/7) 投稿日:04/06/21 21:03 ID:???
オービンはジョイをいじめていた。その理由は、ジョイの描いたサイコノヴェルのヒロインに
一目惚れし、勝手にジョイを女性と思っていたら、実は男だった為。
逆恨みで思いっきりいびり倒していたオービンだったがジョイが無酸素症と聞き、それではもう
サイコノヴェルは描けないだろうと、ジョイの物語のヒロインに思いを馳せる。すると彼の目の
前にはジョイの物語のヒロインそのままの女性がいた。それは「ふぉん」であった。オービンは
そのまま「ふぉん」に生命エネルギーを奪われ息絶える。

ジョイとクローン1はジョイの心の中にある世界にいた。そこは幼児体験プログラムによって作ら
れたジョイの子供時代の世界。親切な村人と暖かい家族がおり、ジョイは少女の姿をしていた。
二人は村の中で行く事を禁じられた森とその奥にある沼地へ向かう。そこにブロックがある
可能性が高いからだ。村人達の制止を振り切り、森の中を行く二人。ジョイはこの森には鬼が出る
という話を思い出し、それを恐れる。が、出てきたのはジャングル・オービンだった。

オービンは「ふぉん」に生命エネルギーを奪われたが、意識が残ったので風使いの仙人になれた
のだ。オービンはクローン1もまた風使いの仙人だと指摘する。クローン1が死者の記憶を受け取
る事が出来るのも、ジョイを海賊達から救った時に使った力も風使いであるためだった。
オービンがジョイの心の中に来たのは、オービンを襲った「ふぉん」がクローン1の記憶に
アクセスした為のようであった。
クローン1によると人間の意識が残っている場合はそのアクセスにも個人差があるとの事。
オービンはかなり特殊なようなので、しばらく自分達と同行しては?と提案。
三人でジョイのブロックを取り除きに出る事となる。


157 名前:「砂漠に吹く風」(5/7) 投稿日:04/06/21 21:04 ID:???
森の奥の沼地にたどり着いた一行。そこでジョイはサイコノヴェルで幸せな幼児体験を与えられる前
の事を思いだす。培養層の中でいつ移植用臓器として身体を刻まれるのかと怯えていた日々。
ジョイはその記憶と向き合い、偽の幼児体験と決別しようとするが、力及ばず地面の中に沈み込んで
しまう。
それをあっさり見捨てようとするクローン1。見かねたオービンがジョイの沈んだ場所に手を伸ばし
言う。
「この手をつかめジョイ!この腕が世界だ!後は皆まやかしだ!」
「培養層の赤ん坊が悪夢をみるはずがないだろう!」
「この腕をつかんでそしてよく思い出せ!お前の十年間の本当の
記憶を…!」
この時、ジョイのブロックは砕けた。

ジョイが気がつくと病室だった。そばに付いていたサイコノヴェル社の担当によって意識不明だった
事を告げられる。そこへ入ってくるジョイの物語のヒロインそっくりの少女。彼女はジョイの妹と
名乗りキャンセルされた兄を探していたというが、実はオービンが化けた姿だった。
担当が病室から出て行き、二人っきりになった時、ジョイはオービンに語る。培養層にいた10年間、
本当はずっとわくわく待っていたのだと。何が起こるのかと何をしようかと。
こうしてジョイはシロッコ達を救う物語を描く事になるのだった。

ジョイがシロッコを救う物語をサイコノヴェルとする為には、まずクローン1の持つ記憶を知らねば
ならない。それはジョイ自身がクローン1の記憶の追体験をするということ。
それはサイコノヴェルとは比較にならないほどリアルでオリジナルな生を見ていく物だった。
クローン1は判りやすくする為に、自分が紫の海から拾ってきた自分の保護者ロジャー・ノビトの
記憶から始め、それから自分の記憶へとたどっていこうという。
ここから、ロジャー・ノビト、オリジナルシロッコ、そしてクローン1の物語が始まる。

158 名前:「砂漠に吹く風」(6/7) 投稿日:04/06/21 21:06 ID:???
ロジャー少年は父のノビト博士と二人暮らし。ノビト博士には結婚が噂されていたエリスと言う若い
女性がいた。しかしエリスは別の男性の子供を身ごもる。しかも子供の父親とは結婚しないという。
エリスを慕っていたロジャーは相手の男性の事を聞くと、エリスはただ「私は砂漠の風に恋しちゃった
のよ」とだけ答えた。
それはともかく、ロジャーはエリスが無事子供を出産できるようにと、子供ながらも色々と奔走。
そんなある日、エリスは妊娠中毒で入院、それが悪化し亡くなってしまう。
ただ、子供だけはどうにか助かっていた。ノビト博士はその子供を養子に迎える。
その子こそ、オリジナルシロッコであった。
シロッコは何故かエリスに全然似ていなかった。が、エリスの忘れ形見のその子をロジャーは
可愛がる。また町中の人々もその天使のような容姿と天真爛漫さに魅かれ、町中の人気者となって
いった。
更に天才的な頭脳をもっていたシロッコは、幼くしてアカデミーでそれにふさわしい教育を受ける
事になる。
成長するごとにその頭脳と美貌に磨きがかかるシロッコ。しかもその天真爛漫さは損なわれる事なく
ロジャーはシロッコをますます大事に思うようになる。
やがて、ノビト博士が倒れ入院。ノビト博士の臓器はほとんどが人工臓器だった為、その微妙な
調整により身体に負担がかかっていた。それを聞いたシロッコはクローン臓器を移植する事を考え
アカデミーで研究する事にする。
けれどもアカデミーはクローン技術にあまり乗り気でなかった。シロッコは暇を見て研究を続けるが
なかなかはかどらず、そうこうしてるうちにノビト博士は再び倒れ、還らぬ人となる。
ノビト博士の葬儀の日、二人の前にレイフ・アンダーソンと名乗る人物が現れる。レイフはノビト
博士のいとこで、自分の母親とノビト博士の研究を書類操作で独り占めし、巨額の富を得ていた。
レイフを嫌うロジャー。しかし、シロッコは違った。レイフはシロッコに研究所と資金を提供する
から、クローン技術を開発しないかと持ちかけていたのだ。シロッコはレイフの話を受け、シロッコ
の身を案じたロジャーもまたその研究所で働く事となる。


159 名前:「砂漠に吹く風」(7/7) 投稿日:04/06/21 21:08 ID:???
二人にはニーナ・バースンという女性秘書がつき、クローン技術の開発は着々と進んでいく。
レイフはクローンを永遠の命を得る研究だと宣伝。それを神の冒涜とみなしたある宗教団体は
シロッコを糾弾。そして研究が大詰めにまで来た雨の日、シロッコは警備員とすり替わった何者かの
手により頭を打ち抜かれ、わずか17才で命を落とす。
シロッコの死を認められないロジャーは、シロッコの日記から人体クローニングの技術論を発見。
それを聞いたレイフはシロッコのクローンを作ろうと提案。ロジャーもまたシロッコと過ごした
日々を取り戻す為、クローンを作る事に同意する。


誕生したクローン1は見た目はオリジナルとそっくりであったが、わがままで天才児である事を鼻に
かけるような子供だった。
そんなクローン1を諌めるロジャーに対しても高圧的な態度を取り、周りの人々はそんな彼に嫌気が
差しながらも、ご機嫌をとる日々。
クローン1のこの態度は周りからの期待への反抗と、自分が大切にされる理由はクローンであるから
だと思っていた為だった。そして何かにつけオリジナルと自分を比較するロジャーの事は特に嫌って
いた。
そんなクローン1にニーナは世話係になりたいから、自分の家に来ないかと誘う。
ニーナには親しみを覚えていたクローン1は早速ニーナの家に移る。と、そこにはロジャーもいた。
ニーナとロジャーは結婚していたのだ。その夜、ニーナに抱きしめられ、彼女が他の誰かの
クローンとしてではなく自分自身を愛してくれている事を知ったクローン1。
ロジャーは嫌いなままだが、この家で自分自身のために生きようと決めた彼は、この日以降
ごく普通の子供の振りをし、周りの人々も天才だったのはオリジナルだけだと思うようになって
いった。

160 名前:「砂漠に吹く風」(8/7) 投稿日:04/06/21 21:09 ID:???
5年後、ひょんな事からロジャーとニーナにクローン1はやはり天才児だとばれる。
自分らしく生きる為に芝居をしていたと告白するクローン1にロジャーは芝居を続ける無意味さを
説き、「この家の中だけでも本来のお前らしく生きていい。お前はそのままで俺とニーナの大切な
シロッコだ」と言う。
こうしてクローン1は二人の前でだけは本来の自分のままで過ごせるようになり、幸せな生活が
訪れるかのように見えたがそれは違った。
やはりロジャーにとってのシロッコはオリジナルのシロッコしかいなかったのだ。
ロジャーは徐々に精神を病み、オリジナルとクローン1の区別がつかなくなっていった。
そしてクローン1が17才になった雨の日、ロジャーはクローン1を撃ち殺そうとする。
すぐに取り押さえられるロジャー。
そんなロジャーの姿を見、所詮身代わりでしかなかった事を思い知ったクローン1は一人旅立つの
だった。自分自身のオリジナルとなる為に─。


以上で「砂漠に吹く風」は終わっています。続編の「死神の惑
星」は旅立った後のクローン1の話です。
あと、おまけで風使いの仙人になったオービンがジョイに嫌がら
せして楽しむという話がつきます。

計算ミスってオーバーしてしまいました。
あと、色々はしょったり、説明を優先した為、前後してる部分があります。
判りにくかったらごめんなさい。