円舞曲シリーズ/さいとうちほ
257 名前:円舞曲シリーズ[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:00:53 ID:???
円舞曲シリーズ   さいとうちほ

1.円舞曲(ワルツ)は白いドレスで
2.ハネムーンはタイフーン        *ワルツ番外編その1
3.紫丁香夜想曲(ライラックノクターン)*ワルツ番外編その2
4.白木蘭円舞曲(マグノリアワルツ)  *ワルツ続編
5.月下香小夜曲(セレナーデ)     *マグノリアワルツ番外編

◎青樹湖都
ヒロイン。洋服屋の娘。ドレス作りが好き。

◎ウィリアム・サジット・アスター
英印ハーフで英国海軍将校。印独立派のスパイ活動をする。

◎鬼堂院将臣
海軍兵学校のエリートで鬼堂院男爵家次男。湖都の遠縁。

鬼堂院龍一・・・勘当された長男。貿易業に就く。
鬼堂院華子・・・長女。極度のブラコン。湖都の同級生。
鬼堂院男爵・・・鬼堂院家当主。海軍大将。

258 名前:円舞曲は白いドレスで1/3[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:02:12 ID:???
昭和10年5月。湖都は遠縁の幼馴染・将臣と婚約する。
親同士が決めた婚約で本人達の意思は無視なのだが、秀才で氷のような美貌を持つ将臣に幼少の
頃から密かに憧れていた湖都は、ときめきと不満、両方の気持ちを抱いていた。
その夜、龍一、華子と共に英国大使館の舞踏会に出席した湖都は、スパイ騒動に巻き込まれて
窮地を美青年・サジットに救われる。その彼こそ、スパイ活動をする英国将校だった。
怪我を負ったサジットを自宅に匿い、身の上話をするなどして急速に親しくなる2人。
別れ際、サジットは「また逢いたい」と言う。湖都も彼に惹かれており、逢いたいと思うた。
だがそんな時、湖都の父親が特高に目をつけられて暴力を受けてしまう。
結局、約束の時間を守れず、湖都が到着した時にはサジットの姿はなかった。

2ヶ月後、英国大使私邸でのパーティで2人は再会を果たした。
人目を忍んで抱き合い、口づけを交わす。抵抗しなければと思いながらも、ますます惹かれていく。
湖都は婚約者が居る身で、家族の為にもサジットを選べない。彼は別れを告げ、最後にもう1度
口づけをして去った。湖都は胸が潰れるような思いをするのだった。
行儀作法や花嫁としての心得を覚える為に湖都は鬼堂院家へ入った。
男爵には歓迎されるが、ドレス作りは反対だとミシンを送り返されてしまう。
客を10名集めたら認めてもいいと言われて張り切る湖都。
初めての客の紹介で、英国人女性・ダイアナのドレスを仕立てることになった。折り合いの悪い
華子の妨害を受けて服作りに難儀するが、意外にもそれまで冷たい態度だった将臣が協力する。
ダイアナは湖都の服を気に入り、2人目の客になってもらえたが、そこで偶然英国軍が仕掛けた
サジットへの罠に関する話を聞く。
湖都はダイアナの忘れ物を大使館へ届けに行き、その機会を利用して将校の住む建物へ忍び込む。
危険を知らせる手紙を持ってサジットの部屋へ入るが、その場で捕えられてしまう。
手紙は白紙だった。湖都が将臣を裏切っていると感じていた華子が中身をすり替えたのだ。
本物を将臣へ手渡し、裏切りの証拠だと説明した。だがそれよりも、将臣は英国軍内の騒動に
首を突っ込む湖都の行為が危険だと言う。
華子は、将臣が湖都に恋愛感情を抱いていると指摘する。

259 名前:円舞曲は白いドレスで2/3[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:02:54 ID:???
湖都への愛を初めて自覚した将臣はサジットと逢う。横浜港へ向かったと思われる彼女を助けに、
2人は一時的に行動を共にする。
何とか危機から脱出した湖都は、罠が仕掛けられた横浜港に到着していた。
湖都は再会したサジット達と協力して印独立派リーダーを助ける。軍に命を狙われたサジットは海へ
飛び込み、そのまま行方不明となる。
今度帰宅した時に結婚する、『父の』ではなく『自分の』意思で決めたと湖都の頬に口づけ、将臣は
兵学校へ戻っていった。頬に触れた彼の唇はとてもヒンヤリしていた。
湖都はサジットの生存を信じた。だが、龍一と訪れた外人墓地で彼の墓を発見する。
現実を突きつけられ、他のことを考えようとドレス作りに精を出した。湖都の客は10名になった。
2.26事件の起きた直後、湖都は将臣と結婚する。
自分で作ったウェディング・ドレスを着る夢も、サジットも諦めなければならなかった。
時を同じくして、横浜港に1人の男が降り立つ。上海の宝石商に扮したサジットだった。
初夜を過ごす為に湖都は横浜のホテルを訪れるが、将臣が突然体調を崩す。医者を呼びに部屋を
出た湖都の目の前にサジットが現れ、後を追ってきた将臣と乱闘騒ぎを起こす。
サジットは迎えに来ると湖都に告げてその場から逃走した。
今でも愛し合う2人を許せない将臣。騒動の取材を受け、『サジットが3月17日の日英親善パーティに
来るなら妻を譲る』と新聞に書かせる。

将臣には湖都と離婚する気もサジットへ渡す気もない。目的は会場へサジットを誘き出すことだ。
とことん自分を憎めと言う将臣に、湖都は戦う意思を見せる。戦って勝てば彼を憎まずに済む。
湖都は親善パーティ用に堂々と誇れるようなドレスを縫った。
パーティ当日。将臣の気が変わり、湖都は部屋に閉じ込められてしまう。その湖都を逃がしたのは
華子だった。暴走する将臣や家に縛られる湖都を見ていて、このままではどちらもダメになると
感じたのだ。湖都は華子に感謝して横浜にあるホテルへと急行する。
待ち構える英国軍や白い目で見る招待客。四面楚歌の中、湖都は胸を張ってサジットを待つ。
そこへ堂々と恐れることなくサジットが登場した。湖都の手を取って優雅にワルツを踊る。
物陰から銃で狙う将臣や余裕だと高を括っていた軍の目を盗み、2人は会場を抜け出した。

260 名前:円舞曲は白いドレスで3/3[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:03:45 ID:???
協力者達が横浜港で待っていた。乗船予定の上海行きの船は30分後に発つ。
追手の動きを警戒する2人の前に将臣が現れた。隙を見て湖都を捕え、銃を突きつける。
ボートにサジットを1人乗せ、湖都を置いてはいけないと言う彼に銃口を向けた。その将臣を制し、
湖都は自分を撃つよう命令した。
憧れていた相手に撃たれるなら幸せだと泣く湖都。将臣は彼女に口づけて愛を告白する。
そして、2人が行くのをもう止めなかった。

湖都が必要なんだと思っていたと話す龍一に、もう先は長くない身体だと将臣は打ち明ける。
彼女を縛りつけるわけにはいかないと諦めたのだ。海を眺める彼の目に光るものがあった。

【終わり】


【番外編 ハネムーンはタイフーン】
詐欺師に引っかかったらしく、湖都とサジットが乗った客船は何故かバンコク行きだった。
おまけにトランクは届かず1文なしになってしまう。2人は部屋を追い出される羽目に。
バンコクまでの10日間、何とか資金を作ろうと湖都は船内で出来る仕事を探す。そこで出逢った
イギリス人・ナイジェルにメイドの話を持ちかけられた。彼はサジットの腹違いの兄だった。
ナイジェルは内心弟に恨みや嫉妬心を抱き、カップルの仲を引き裂こうと企むが、サジットは
その誤解を解いて兄弟は和解する。
弟達のハネムーンの為に、とナイジェルは自分の部屋を提供するのだった。

261 名前:紫丁香夜想曲[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:05:04 ID:???
昭和12年、ハルピン。将臣は松花江で少女を拾い、顔見知りのロシア人医師へと託した。
将臣が消えた後、少女は即効性のある毒薬を作るよう医師に頼む。
同じ頃、将臣の上官・神大佐に、王女・麗香(リーシャン)が日本の華族との結婚式から逃走した
と報告が入っていた。将臣は大佐からその話を聞き、急いで少女の所へ戻る。
男2人と侍女・メイリンの遺体が上がったと伝えると、彼女は震える手で茶を飲もうとした。
ただならぬ様子に、将臣は彼女が茶に毒を仕込んだと気づいて取り上げる。
医師に作ってもらった薬だと分かり、その茶を一気に飲み干した。死にたがる者には眠り薬を、
死期が近い者には胃薬を寄越す、と苦笑する将臣。自分が眠る間に逃げるよう促した。
1年経った今でも駆け落ちした湖都の夢を見る。ライラックの香りが鼻腔をくすぐり、ピアノの音を
聞く……目覚めた将臣が見たのは、ノクターンを弾く髪を切った王女の姿だった。
行く所のない王女は少年に扮して将臣の使用人となる。彼女の存在は将臣に良い影響を与え、
彼女自身も楽しく毎日を過ごした。湖都と結婚した時の写真を見て、2人の時は『こと』と呼んで
ほしいと頼む彼女に、将臣は写真を返すよう言うだけだった。

先日死んだのは麗香王女の方だったと判明した。
街中に居たメイリンは一緒に働いていた仲間・佛格(フーゴ)と再会する。日本と戦おうと言う
彼から逃げ出すが、『メイリン』の名に反応した軍人に捕えられてしまう。
王女の為なら死ねると囮になったのに、彼女を守れず自分だけ生き延びてしまった……。
経緯を大佐に話した将臣は、麗香王女として翌晩結婚式を挙げる予定のメイリンを訪ねた。
彼女は部屋に居た全ての者に眠り薬を混ぜた茶を振舞い、ピアノでノクターンを弾いてみせる。
逢いに来てくれた将臣と2人きりになりたかったのだ。
将臣は逃げようと説得するが、彼女は今が幸せだと拒んだ。
そこへ佛格が現れて銃を放つ。弾は将臣を庇ったメイリンの腹部に命中した。
将臣は佛格に斬りかかり、必死でメイリンに呼びかける。今度こそ大好きな人を守れたと彼女は
笑顔を浮かべた。そして将臣に囁いて口づけると、そのまま息を引き取った。
「あたしのほんとの名前は…霧島こと──といいます…」
胸に抱きしめた彼女を思い、将臣は泣いた。

【終わり】

262 名前:白木蘭円舞曲1/3[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:06:37 ID:???
上海で結婚式を挙げた後、サジットは単独渡印し、湖都は小さな洋服店を営みながら帰りを待った。
友人の1人・シャーロットが、上海の英国社交界の知人を招いてパーティを開いた。彼女の協力を
受け、湖都はパーティで自作のドレスを展示する。
パーティでは龍一と再会した。あれから半年、将臣が海軍少尉になったと知る。持ち込まれる
縁談を、彼は「一生結婚するつもりはない」と全て断っていた。
また、そこで初めてサジットの父で印・総督のアスター卿と対面する。彼は息子と湖都の仲を認めて
おらず、しかも息子が独立運動に関わっていることに責任を感じて、総督の地位を退いていた。
卿の要求を拒否した湖都は英国軍司令部へ連行され、尋問中に倒れてしまう。彼女は妊娠していた。
翌年1937年(昭和12年)3月、長男・真(シン)が誕生する。
その頃将臣は、海軍情報部でサジット・湖都夫妻に接近するよう命令を受ける。印独立運動を後押し
して、英国に打撃を与えたいと上官は考えていた。任務を拒否し、最前線へ行きたいと将臣は望む。
8月、上海事変勃発。間もなく戻るはずのサジットを待って上海に留まる湖都を、アスター卿が
訪ねた。湖都が友人と上海脱出の相談をする隙に、「子供はインドで養育する」と置手紙を残して
真を連れ去ってしまう。
略奪で荒れ果てた店。息子を思いながらへたり込んでいると、その前に将臣とサジットが現れる。
初めて息子の存在を知ったサジットは、必ず父から取り戻すと約束する。
将臣は湖都と再会すれば逆上するかもしれないと考えていた。だが実際は、1年前と同等若しくは
それ以上の気持ちを抱いた。彼は任務を引き受け、2人と共にインドへ行くと決心する。

息子を返してほしければ、独立運動から手を引くこと。英国軍情報部大尉・シモンズが卿の意思を
伝えた。サジットは反英分子としてブラックリストに載っており、インド行きの船に乗っただけで
逮捕もある。
独立運動のリーダーと逢わせることを条件に、外交特権の特別パスを持つ将臣が同行を持ちかけた。
船では3人で1部屋が割り当てられた。将臣はサジットの居る前で今は湖都が大嫌いだと宣言して、
今回はあくまで任務を成功させて昇進するのが目的だと告げる。
独立運動や真の件で一時的に仲違いもするが、湖都とサジットは互いへの愛を確認し合う。

263 名前:白木蘭円舞曲2/3[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:08:42 ID:???
入国審査を何とかパスして、卿の別荘があるアーグラーへ到着。一行はタージ・マハルでネタージ
(指導者の意味)と顔を合わせる。
その夜、父子の問題にケリをつけたいと別荘に忍び込むサジットだったが、逢えたのも束の間、
卿は心臓発作で急死。後を追ってきたシモンズ率いる英国兵に捕まり、アラハバードにある英国軍
本部で激しい拷問を受ける。一方、サジットの帰りを待つ湖都の目の前で将臣が倒れた。
疲れが良くないと医者から注意を受け、湖都は将臣の身体の具合が悪いことを初めて知る。
ネタージの使いが2人を訪ねてきた。湖都はアラハバードへ乗り込み、シモンズと揉み合いになった
所を独立派メンバーを連れた将臣に助けられる。その際、サジットは母の住むシュリーナガルへ
行けと言い残し、シモンズと共に河へ落ちて行方不明になる。
将臣の任務は、独立運動視察および彼らと友好関係を結ぶこと。連中についていき、当分あちこちを
廻らなければならない。1ヶ月後に合流すると告げて将臣は発った。
湖都は案内を雇って単独でシュリーナガルを目指し、真の誘拐事件など色々あった末に、ようやく
家族との再会を果たす。

シュリーナガルに滞在中の家族3人は、穏やかで幸せなひとときを過ごしていた。そこへ、会合での
演説依頼にネタージがやって来る。サジットは話を受け、会合を無事に終えたら必ず運動から身を
引くと湖都に約束する。
だが当日、控え室に居た湖都とサジットをシモンズが狙っていた。銃撃されたサジットは、会場に
駆けつけた将臣に妻子を託し、そのまま命を落とす。
2週間後、湖都達は上海行きの船に居た。サジットの死を湖都はなかなか受け入れられない。
出逢いからわずか2年半。夫を失った苦しさに負けて死を選ぼうとする彼女を、死ぬのは許されない
ことだと思い止まらせたのは将臣だった。
5ヶ月ぶりの上海は日本軍の警備下で復興が始まっていた。何かに熱中していないと気が狂いそうで、
湖都自身と真が生きていく為にすぐにでも店を再開させたかった。
昇進が決まった将臣は、半年前まで居た満州国ハルピンでの諜報活動を命ぜられる。将臣の身体と
湖都との仲を心配する龍一には、死が近い自分が気持ちを打ち明けて、サジットの時と同じ苦しみを
彼女に味合わせるわけにはいかないと告げた。

264 名前:白木蘭円舞曲3/3[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:09:20 ID:???
友人達や真の存在、毎日無我夢中で働いたお蔭で湖都の心は少しずつ癒されていく。
そんなある日、涙を流す龍一の姿を見る。神大佐から将臣が倒れたと連絡が入ったのだった。病を
知るのは大佐と龍一だけ。彼は口止めの約束を破り、将臣は白血病で余命1年と話す。
宣告は2年前、湖都と将臣の結婚式の日。愛していたからこそ、サジットと共に行くのを許したのだ
と知らされた湖都は衝撃を受ける。龍一は軍から身を引くよう弟への説得を湖都に頼んだ。
真を龍一へ預け、湖都はハルピンへ。将臣の拒絶にもめげずに、看護婦見習いの職を得て働き出す。
絶対に彼が同意してくれると信じた。
仕事帰り、将臣の同僚と同車する湖都。男は彼女が将臣の元妻だと気づいており、捨てた男に相手に
されない女と侮辱して襲いかかる。彼女は危うく難を逃れるも、極寒の中に放り出されてしまう。
この件を知った将臣は「湖都は俺の妻だ!」と激怒し、彼女を探しに行った。
このまま死ねば楽になれるかもと1度は考えるが、気持ちを奮い立たせて湖都は歩き出す。そこへ、
彼女を探しに来た将臣が現れる。2人は夏に使われる狩り小屋へ行き、火をおこして冷え切った
身体を温めた。将臣は湖都に対する本心を打ち明け、もう近づかないと告げる。湖都は将臣が
必要だと必死に彼を引き止め、初めて2人は結ばれる。
パーティで正式に湖都を妻だと紹介した将臣は、彼女の為に一緒にワルツを踊った。
その後、将臣は退役する。サジットの時は無理だったが、湖都は今度こそ最後まで看取るつもり
だった。龍一は上海へ戻ってきた幸せそうな2人の姿を見て安堵する。
そして翌年2月、将臣は23歳でこの世を去った。

第二次世界大戦勃発。ワルツも貴族も軍人も、優雅な古き世界は崩壊する。
戦後復興が始まってから6年経過した東京。働きづめで倒れた湖都を見舞いに来た龍一と華子は、
長男・真と次男・和臣が喧嘩をする所に出くわす。父違いで兄ではない、と和臣が真に憎まれ口を
きいたのだ。一番近くで見てきた龍一が、湖都・サジット・将臣の関係について詳しく話してやる。
大人になろう、と仲直りした兄弟は母の部屋を覗き見た。
母と、彼ら家族を長い間見守ってきてくれた龍一の結婚を期待しながら。

【終わり】

265 名前:月下香小夜曲[sage] 投稿日:2006/10/11(水) 23:10:52 ID:???
1938年(昭和13年)、上海。退院した将臣を湖都と龍一が迎えに行った。
表面上は元気に見えるものの、病は手遅れなほどに進行している。安静を保ち、夜の生活も控える
よう注意を受ける。
香る花を好む将臣の為に、湖都は夏の夜に匂う花・月下香を部屋に飾っていた。彼と2人きりになる
(息子・真も居るが)のは久しぶりだった。
将臣は湖都を求めた。彼にとって大事なのは生きている実感──湖都に触れることなのである。
サジットを決して忘れてはいないが、今は将臣との生活が大事だ。痩せた白い肌を抱きしめる度、
もうすぐ命の灯が消えるかと思うと気が急く湖都。そんな時、妊娠が判明する。
男爵が華子を伴って上海を訪れた。憤慨する彼らは帰国するよう将臣に強く迫る。家に泥を塗り、
他の男の子供を産んだ女を嫁として再度迎えるわけにはいかないとの考えだった。
湖都は妊娠を言い出せない。
家族3人で写真館へ行った帰り、将臣は用事があると言って1人別れた。帰宅した湖都は置手紙を
見つける。これが帰国する最後の機会。父妹のことや湖都の将来を考えて、彼は別れを決断した。
港へ急ぎ、湖都は「子供が出来た」と叫ぶが届かない。何も知らずに帰国してしまった将臣に何通も
手紙を出すも、全て華子の所で止まっていた。拒絶されたと落ち込む湖都。
半年間上海を留守にしていた龍一が湖都を訪ね、切羽詰った時に何をしているのかと叱咤する。
何より怖いのは、離れたまま将臣が死ぬこと。目が覚めた湖都は、子供を抱いてもらいたい、と
龍一と共に帰国する。

将臣の逗留する伊豆へ向かう途中で陣痛が始まる。同じ頃、将臣は湖都の妊娠を初めて知り、
気づいてやれずに辛い思いをさせてしまったと熱を押して馬を走らせた。
覚悟したはずなのに湖都と暮らす内に死ぬのが怖くなっていき、これ以上一緒に居たら無様に
なるからとあの時は逃げた。執着する相手が居るからこんな思いをする。面倒なことではあるが
今の自分自身が好きだと、好きな相手で心を満たせば幸せに死ねる気がすると、再会した龍一に
彼は告白する。
湖都は無事男児を出産し、将臣と互いの手を取り合って微笑んだ。だが、将臣の体調が急変する。
彼は『和臣』と命名した我が子を胸に抱き、「ありがとう」と感謝して息を引き取った。

【終わり】