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502 名前:PLUTO 1 投稿日:04/11/07 07:59:06 ID:???
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燃え盛るスイスの山の中、一人の白衣の老人が救急隊の制止を振り切り火の中を駆ける。
木は根こそぎ倒され、火災により美しかった山にはその片鱗も見られない。
「モンブラン! 私のモンブラン!!」
白衣の老人の叫びに返答はない。さらに山を駆け、丘を越えた所にそれは転がっていた。
世界でも有数の高性能ロボット・モンブラン。白衣の老人の目に飛び込んできたのは、その残骸だった。
―――場面は変わってドイツ。ベッドの上で眠るユーロポールの警部、ゲジヒト。
悪夢にでもうなされたのか、酷く寝覚めの悪い朝を迎える。
妻との朝食を迎えるとTVから件のモンブランが殺害されたと言うニュース。
ゲジヒトもその事件を担当していたらしく、そのバラバラの残骸を思い出し眉をひそめる。
そこに職場からの電話。朝食も取らず、そのまま事件の現場へと向かう。
殺されたのはロボット法擁護団体の幹部・ランケ。まるで竜巻でも通ったかの様に部屋は破壊されていた。
検証をしていた警部は酷い荒れ様で何が紛失しているのか調べるのも大変だ、と愚痴るが、
ゲジヒトは一瞬で物盗りの犯行ではなく、ただ部屋は破壊されただけだと言い当てる。
遺体にはまるで角を模したかの様に2本の鉄の棒。ゲジヒトは何か思い出し怪訝そうな顔を浮かべる。
そこに一本の通信。不審人物が検問を無理矢理突破したらしい。
現場に駆けつけると破壊された巡査ロボットの残骸。
ゲジヒトは周囲の制止も聞かず、単独で行動し廃墟ビルまで犯人を追いつめる。
出てきたのは鉄パイプを持った麻薬中毒の男。
どうやら男は麻薬による逮捕を恐れて検問を突破しただけで今回の殺人事件には関係はないらしい。
男は抵抗して凶器でゲジヒトを殴打するがビクともしない。ついには銃口を突きつけられ悲鳴を上げる。
ゲジヒトはゆっくりと男に麻酔銃を突きつけ勧告する。
「安心しろ。私はロボットだ。人間を撃てる様にはできていない。」
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503 名前:PLUTO 2 投稿日:04/11/07 08:06:24 ID:dD2dXNZ2
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結局、殺人事件の真犯人は見つからない。しかし、ゲジヒトには一つ気にかかる事があった。
署内にてゲジヒトは警部達にある映像を見せる。モンブラン殺害現場に残されていたモンブランの首。
その映像に凍りつく警部達。モンブランの首には同様に角を模した二本の鉄の棒が付けられていた。
ランケ殺害との類似。角に模した鉄の棒。二つの事件は一気に同一犯の可能性が高まった。
しかし大声で二つの事件の関連性を否定する警部。
ロボット法により、ロボットは人間を傷つける事は出来ない。そういう風に作られている。
しかし、モンブランの様な頑丈なロボットを破壊できる人間はいない。
そして擁護団体幹部殺人事件の部屋からは被害者以外の痕跡はない。
同一犯だと言うなら、犯人は『人間を殺す事が出来るロボット』。
翌日。ゲジヒトは破壊された巡査ロボット・ロビーの残骸からメモリーチップを探し出す。
数時間後、ロビーの遺族である妻(ロボット)の元を訪れる。
「出過ぎた真似かもしれませんが形見にでも。」
そう言ってメモリーチップを差し出すゲジヒトにロビーの妻は「主人の記憶が見たい」と懇願する。
ゲジヒトは言われるままにロビーのメモリーチップをロビーの妻の頭部にはめ込む。
亡き主人の記憶にうち震えるロビーの妻。ふと、ある映像に気付く。
ロビーが殺される瞬間の映像。ロビーの妻はスクリーンにその映像を映し出す。
殺害される一瞬。遠くにあるビルが映しだされる。そこには黒い影。
そこは例の殺人事件が行われたビル。ビルとビルの間を異常な高さで飛ぶ、人影。
死の間際、ロビーはとっさにその影を識別し、分析していた。その結果は。
「これ、ロボットじゃないわ。人間よ。」
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504 名前:PLUTO 3 投稿日:04/11/07 08:07:16 ID:dD2dXNZ2
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翌日、ゲジヒトはあるロボットに会う為、人工知能矯正キャンプを訪れた。
そのロボットはブラウ1589号。八年前、唯一、人間を殺害したロボット。
ハイテク警備に囲まれなおも周りをバリケードが囲む異様な部屋。そこにブラウは今も生きていた。
ロボットでありながら人を殺し、しかも人工知能には一切の異常がなかったと言う。
今もなお、人はブラウを恐れ、胸に刺さった槍を抜くだけで絶命するブラウに止めが刺せない。
さらにハイテク警備に無意味なバリケード。ブラウは人の滑稽さをあざ笑う。
ブラウはしきりにゲジヒトにメモリーチップの交換を薦めるがゲジヒトは相手をしない。
簡潔に今回の事件についての質問を投げかける。
モンブランの遺体写真を見せられたブラウは角はローマ神話の死神「プルートゥ」を模した物だと推測する。
「プルートゥ」その言葉の持つ不気味な気配にゲジヒトも思わずつられてつぶやく。
しかしそれ以上の情報も得られないと悟ったゲジヒトは話を早々に切り上げ部屋から去ろうとする。
そんなゲジヒトにブラウは言う。
「君には分かっているだろう?この犯人はまだまだ事件を繰り返す。
あと6人だ。大量破壊兵器にもなりうる世界の最高技術の集められたロボット。君も含めて、だ。」
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505 名前:PLUTO 4 投稿日:04/11/07 08:08:32 ID:dD2dXNZ2
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場面は変わってスコットランド。
世界的に有名な盲目の作曲家・ダンカンの所に一体の全身ケープに身を包んだ執事ロボットが派遣される。
その名はノース2号。元軍隊出身で中央アジア紛争では何体ものロボットを破壊してきたらしい。
ダンカンは言う。 「お前らロボットは偽物だ。本物の振りをしても所詮は偽物だ。」
昔ほど作曲が上手くいかないダンカンはノース2号にその鬱積をぶつけ気を紛らわす。
しかしそれでも新しい曲は出来ない。苛立つダンカンは寝ている際うなされるようにある音階を口ずさむ。
それを聞いたノース2号はダンカンにその音階を伝えようとするがダンカンは一向に耳を貸さない。
それでも怒鳴るダンカンを無視するようにピアノに触り続けるノース2号。
「出て行け。お前のようなロボットに用はない。」
「・・ピアノを。ピアノを弾けるようになりたいのです。」
「貴様のような武器にピアノなど弾けるものか!
お前には戦場がお似合いだ! それはお前のような破壊兵器が触るものじゃない!」
そう怒鳴るダンカンにノースは振り向きもせずに一心にピアノを弾く。
「だから弾けるようになりたいのです。もう、戦場には行きたくないから。」
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506 名前:PLUTO 5 投稿日:04/11/07 08:10:17 ID:dD2dXNZ2
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一向にピアノを弾くのを止めないノースにダンカンはついに自分の見ている悪夢について語りだす。
貧しい農家で産まれたダンカンは病弱だった。父は物心がつく前に死んでしまった。
母は美しかった。みずぼらしい姿でも街に出れば男達が振り返った。
ある日街の成金が母に近づいた。そして、母も金に目がくらんだ。
ダンカンは英国の寄宿学校に入れられ、それ以降母から連絡はなかった。
そんなある日、持病が悪化し、いくつもの病院をたらい回しにされたが容態は一向に良くならない。
ついに自分は死ぬのだ。そう思った時、ある日本人の医者が現れた。
正確には医者ではなく”モグリの医者”だった。(明言はされないが黒衣を纏う事からBJだと推測できる)
その男は見事に手術を成功させ、ダンカンの命を救った。だが、代わりに視力は次第に弱くなっていった。
ダンカンは視力のある残り少ない時間で必死に音楽の勉強をし、ついには音楽家としての名声を手に入れた。
それから数年後、母の死が知らされた。母は成金の正妻ではなく、死ぬ時もひとりぼっちだったそうだ。
子を捨てた報い。ダンカンは笑う。
「母さん。あんたが捨てたあの故郷の風景。あの素晴らしい風景を音楽にしてやる。
本当に人間が捨てちゃいけないものは何なのか、教えてあげるよ!!」
ひとしきり独白が済んだダンカンは怒鳴り散らすようにノース2号を追い出す。
翌日、広すぎる庭でただ一人、ダンカンは一人では何も出来ない自らをあざけ笑う。
ピアノを弾くダンカン。しかしやはり上手くいかない。狂ったようにピアノに斧を打ち込もうとした瞬間。
「ダンカン様、ただ今戻りました。」
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507 名前:PLUTO 6 投稿日:04/11/07 08:13:08 ID:dD2dXNZ2
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「出て行けと言っただろう!」
「ダンカン様の故郷で歌を採取してきました。そして見つけました。
ダンカン様が寝言で歌ってらっしゃるあの歌を。」
「もう止めろ! これ以上私の悪夢に入り込むな! 人間には忘れてしまいたいものがあるんだ!」
「ダンカン様の夢は悪夢ではありません。私の夢のような、削除したいものではありません。
おっしゃる通り私は兵器です。仲間も何万体も破壊しました。それを人工知能がリピートするのです。
ダンカン様の故郷である老人に出会いました。その老人は民謡に詳しくあの曲を知っていました。
そしてその曲の素晴らしい歌い手がいた事も教えてくれました。あなたのお母様です。
お母様は重い病気を患うあなたを捨てたのではありません。
あなたの病気を治す為、あの大富豪に近づいたのです。
だからあなたを手術したモグリの医者への莫大な謝礼を払う事も出来た。あなたは捨てられたのではない。
術後もお母様はあなたの憎しみを知り、手を差し伸べる事が出来なかった。老人が言っていました。
故郷の大地に沈む夕陽を眺めながらあなた方親子は手をつないで、この曲を歌っていたと。」
ノースの口からある民謡が流れていく。ダンカンの盲目の目に一つの風景が浮かぶ。
いつも、思い描いていたあの故郷の風景に。手をつなぎ、一緒に歌う親子の姿。
「申し訳ありません。機械の歌で。あなたの夢は悪夢ではない。私の夢とは違う。」
「・・ノース2号。お前はもう戦場に行かなくていい。ピアノの練習をしよう。」
「・・・はい。」
そしてそれから幾月もの時が流れる。毎日のピアノの練習。二人は共に楽しく日々を過ごす。
そしてある日、ついにダンカンは曲を完成させ、ノースを呼び寄せる。
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508 名前:PLUTO 7 投稿日:04/11/07 08:14:41 ID:dD2dXNZ2
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「ノース。ついに曲が完成した。聴いてくれ。」
「はい、是非聴かせていただきたいのですが今は。」
「ん?どうした?」
「数日前のスイスのニュース、お聞きになりましたか?」
「スイスのモンブランとかいうロボットが竜巻に巻き込まれた大破したっていう、あれか?」
「100kmほど先で竜巻が起きました。何か、脅威が近づいています。すぐ戻ります。」
ノース2号はケープを脱ぎ捨て、自らの体のあちこちの搭載された兵器をむき出しにし、
遠い空に渦巻く竜巻。そこを目がめて一気に飛び去る。
暗雲の中、雷とともに不気味に響く轟音。しかし、盲目のダンカンの目には何も見えない。
次の瞬間、暗雲の中から爆音が。次の瞬間、大気いっぱいに鳴り響く、あの故郷の民謡。
「・・・ノース2号が。 ノース2号が歌っている。」
暗雲は晴れ、雲の中から出てきた黒煙。落ちていく、ノース2号の残骸。
しかし、ダンカンには見えない。歌を携えて。落ちていく。
ダンカンは歌を聴きながらテラスのイスに腰掛ける。
「・・そんな所で歌ってないで早く帰っておいで。ノース2号。ピアノの練習の時間だよ。」
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509 名前:PLUTO 8 投稿日:04/11/07 08:16:14 ID:dD2dXNZ2
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場面は変わって、トルコのロボット相撲の会場。
無数の照明を浴び巨大なロボットがぶつかり合う。敵を一瞬のうちにたたき落とし、
高らかに勝鬨を上げる936戦無敗の最強のロボット力士、ブランドー。
ゲジヒトはブラウの助言通り、世界でも有数の高性能ロボの元を訪ねていた。
そして、今回はブランドー。しかし、ブランドーはゲジヒトの忠告に耳を貸さない。
それどころかもし敵が現れたら共に中央アジア戦争で戦った親友のモンブランの敵を討つとまで豪語する。
説得に失敗し、仕方なくゲジヒトはトルコを後にする。
―――そして。雨の中、傘をさし歩くゲジヒト。
その横をサッカボールを蹴りながら走っていく子供達。
そしてその向こうから先ほどの子供達と同じように石を蹴りながら歩いてくる雨がっぱを着た少年が一人。
石は街路樹に入り,少年は手を伸ばし石を探るが見つからない。代わりにカタツムリを見つけ拾い上げる。
その少年に近寄り、話かけるゲジヒト。
少年はようやくゲジヒトの存在に気付き、カタツムリを街路樹に戻す。
「元の所へ帰すのかい?」
「うん。」
「君が・・・アトム君だね?」
「はい。」
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510 名前:PLUTO 投稿日:04/11/07 08:24:33 ID:dD2dXNZ2
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とりあえずここで1巻は終了。よく広告などで見かける男はアトムではなく、ゲジヒトです。
鉄腕アトムの「地上最大のロボット」を元に作られていますが根幹部分以外は全てオリジナルなようです。
手塚治虫のシンプルなロボットのデザインをまるで本当にいても不思議ではないような浦沢式デザインに変換しているのは秀逸です。
特にアトムなどは実際一度原作と見比べてみる事を御勧めします。
追記;これから細かい設定が出るのかもしれませんが、ブラウは「鉄腕アトム」のエピソード、青騎士に出てくるロボではないかと言う噂もあります。
ブラックジャックといい、こういう遊び?も多々あるので手塚作品を読み直してみるのも良いかもしれません。
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511 名前:マロン名無しさん 投稿日:04/11/07 15:38:02 ID:???
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あれって相撲かなあ
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512 名前:マロン名無しさん 投稿日:04/11/07 17:53:43 ID:???
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原作のブランドは「ロボット力士」と名乗ってるし
リングアウト即敗北ルールだから、とりあえず相撲でいいのではないかと。
(『地上最大の〜』以外の)原作では「ロボッティング」などとも呼んでいましたが。
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