Papa told me/榛野なな恵
396 :マロン名無しさん :04/03/13 10:48 ID:???


主人公の的場知世(小学校高学年くらい?)は父子家庭で、作家である父親と暮らしている。
ストーリーとしては主に彼女達の生活を淡々と描いている。
とはいえ基本的に1話完結の性質故に知世の周りの色んな人が
主人公となり、知世は客観的に状況を見つめる目の役割をする事が多い。
世間とは少し外れた生き方や考え方を持った人達に
それでも良いんだとそっと肩を押してあげるような話。
知世はややファザコン気味だが、とても知的で自分の意見をしっかり持っている。
同級生たちと比べると精神的にかなり大人っぽい。
彼女曰く
『私たちはそれぞれ独立して「自由で創造的な父子家庭」を目指すのよ』
だそうだ。

237 名前:Papa told me 「シェル ブルー」 投稿日:04/09/18 22:43:53 ID:???
知世は小さな頃、デパートの前の横断歩道で『不思議の国のアリス』に出てきたドードー鳥を見かけた。


小等部高学年の乾鷹彦は学園きっての秀才で、クールビューティと誉れ高い。
彼は、まるで誇るように浮気話を話す、自分の事を後継者としてしか見ない議員の父を嫌っていた。
彼は考える。この世にはもういない――絶滅させられた動物について。
絶滅した鳥のその最後の一匹はどうやって死んだのだろう。
年老いて、病気で、老いて、他の動物に襲われ、それとも人間に撃たれて。
その人間は自分のした事の重大さを知らない。だから心も痛まない。
一匹の鳥が死ぬだけ。目に見えるのはそれだけだ。
でも一つの世界と時間が閉じられる。誰も気づかないうちに。
その事を考えるたび、鷹彦の胃は酷く痛んだ。

新聞部に所属する知世は、新聞に載せるコラムを鷹彦に頼む。
鷹彦はそれを受けるが、知世が何度催促してもなかなか書き上げてくれない。
ある日また知世が催促に行くと、鷹彦は雑誌の取材のために早退していた。

いつもは全員で顔を合わせる事すらないのに、取材のため乾家は白々しい笑顔を浮かべ、
一家団らんの写真を撮った。立ってるだけではつまらないからと、鷹彦と父はキャッチボールをする。
ボールが遠くへ飛んでいく。それを追って場を離れた鷹彦は胃の痛みを感じ倒れた。

238 名前:Papa told me 「グリーン プラネット」 投稿日:04/09/18 22:46:36 ID:???
鷹彦は胃潰瘍で入院した。その事で一方的に母を責める父に、鷹彦の姉の貞子は言う。
「お父サマ知ってる? キャッチボールと金属バットはお友達。
 でもお父サマは大丈夫。なぜなら、良いコのあの子が
 バットを振り下ろすその相手は自分自身だから」

鷹彦が胃潰瘍になったのは自分が催促したせいじゃないかと知世は思い、
まめに見舞いに行く。幸い鷹彦の胃潰瘍はそれほど酷くなく、薬で治る程度だった。
病室には『地上から消えた動物たち』という本があった。表紙はドードーだ。
不思議の国のアリスにだけ出てくる空想上の生き物ではなく、
実在する動物なんだと喜ぶ知世。鷹彦は、もう絶滅した動物だと説明する。
でも見た事があると知世が言うと、見間違えなんじゃないかと鷹彦は言う。
「でも見たよ。見ちゃいけない?」
鷹彦はその言葉に少し驚き、別にいけなくはない、本当だったらすごい事だと言う。
そうよね、と言って知世は笑顔を浮かべた。

胃潰瘍になったのは知世のせいではないと鷹彦は言う。
鷹彦の家庭事情を薄々知った知世に、それでも楽しかった頃もあったと鷹彦は言う。
あんな時はもう2度と戻ってこない。本当はわかっていた。
それでも、最後の鳥を殺す弾丸にはなりたくなかった。

ニホンオオカミ リョウコバト オオウミガラス
バーバリライオン ドードー モア
絶滅した動物たちを呼び戻す事はできない。
でも、世の中にはほんの少し、秘密の通路を知っている子いるらしい。
鷹彦は知世を見ながら思った。
時間のかなたから消えたはずの希望を連れ戻す路。
そこを歩けば鷹彦にも、何かを誰かを救える気がする。