紫堂恭子
オリスルートの銀の小枝/紫堂恭子
328 名前:オリスルートの銀の小枝 1/5 投稿日:05/01/07 05:03:15 ID:???
オリスルートは、二大国カラマスルートとラバンサラの間にある小国である。
対立する二国の折衝のため、両国の王子二人により建国されたこの国は、現在もその理念を継ぎ
種々の問題を解決する人材の育成に力を注いでいる。この国のシルヴァン学院はそのための学舎であり
卒業の証である金の樫の枝を模したブローチから、この学院出身のエージェントは「金枝の使者」と呼ばれる。
学院の生徒、美形ながら気配り上手で同性受けもいいフェンネル、官僚の家出身で生真面目なヴィンセンス、
そして、学科は最悪だが開けっ広げで誰とでも仲良くなれるアリアンの三人はある日、学院長から
「さる姫君を学院まで招く使者を務めてくれ」と言われ、見習い使者の印として銀の小枝のブローチを授けられる。
言われた通り湖を訪れるが、それらしき人物はいない。しかたなく湖のほとりで野宿した三人だが
夜中に、金髪と炎に絡まれる夢を見たアリアンが目を覚ますと、彼の身体は金髪の美少女に変わっていた。
フェンネルとヴィンセンスは話を聞いて「ロスマリン姫の伝説」を思い出す。ラバンサラの後宮から国を牛耳り
乱行の果てに火あぶりで殺され、墓がどこに立てられたかも忘れられた美姫の伝説。
これが「姫君を招く」ことだと推した三人は、女性化したアリアンを守って帰途に着く。
途中、アリアンは火を見てパニックを起こすようになり、旅路は困難の伴うものになるが
三人は助け合ってアリアンに宿るロスマリン姫の亡霊を鎮め、無事に学院に帰還した。
姫の亡霊を探す手掛りを求めていた学院長は、亡霊そのものを連れ帰った三人の無謀に驚きあきれつつ
姫の霊を霊廟に安置する。彼女自身も黒魔術に操られた被害者であり、その知識が必要とされていたのだ。
 
三人組の一人、フェンネルは、ラバンサラの魔術を継ぐ家系の出である。と言っても魔術師というわけではなく
凶悪な黒魔術の霊を封じるため、魔力に目覚める18歳になる前に結婚して子を設け
霊を封印しつづける家系なのだ。彼が学院に入ったのは、問題を先送りするだけの家のしきたりに疑問を持ち
黒魔術にまけない精神と知識を求めるためでもあった。
だが、18の誕生日を前に、彼の周囲にはロスマリン姫事件をはじめとして変事が続く。
学院長は彼に、学院の黒魔術に関する文献を授け、親友のヴィンセンスにも理解を促す。

329 名前:オリスルートの銀の小枝 2/5 投稿日:05/01/07 05:03:51 ID:???
ある夜、ロスマリン姫の霊が学院の教授達に警告を発した。彼女を操っていた黒魔術の悪霊
「仮面の王」の復活を感知したのだ。学院は「王」の過去の手口から、ラバンサラ後宮を警戒すると共に
カラマスルートの後宮にも調査のため、フェンネル、ヴィンセンス、そしてロスマリン姫の憑いたアリアンを派遣する。
おりしもカラマスルートでは、国王の退位を前に、王子に側室を世話しようと言う話が持ち上がり
王宮は揺れていた。ロスマリン姫の「黒魔術に操られるのは心に傷のある人、苦しみや悩みを抱える人」
という言葉を手掛りに、三人は現王の側室で、王子の側室選びを通じて権力を維持しようとする
エレンディラとバーベナの二人の妃、そして側室候補として召し出された少女フィオリナなどに狙いをしぼる。
女性化して王宮に入り込んだアリアンが、側室候補に選出されるハプニングも起きたりするが
それを利用しつつ調査は続く。だが、黒魔術に操られている人物はなかなか見つからない。
そんな折、フィオリナに惹かれ、彼女の前で自分を偽ることにアリアンが罪悪感を覚えたことで
ロスマリン姫の憑依の魔術が解けてしまい、行き場所を失ったロスマリン姫がヴィンセンスに憑いてしまった。
さらに、女性化したヴィンセンスを見た王子がその姿に一目惚れしてしまう。
他の側室候補が意外にあっさり引いていき、「黒魔術の被害者」候補が減っていく中、フェンネルは
王子の腹違いの弟、レグラス大佐に疑いの目を向けていた。
フェンネルの読みは当たっていた。レグラス大佐は忠実な臣下として振舞っていたが、その心の奥底に
後宮の権力争いで死んだ母親の恨みを引きずっていたのだ。その心の傷を突かれ「仮面の王」に操られた大佐は
ヴィンセンスと共にいた王子を襲撃する。駆け付けたフェンネルとアリアンは、王子に大佐を呼ぶよう促した。
弟を取り戻そうと「そなたが望むなら、国も王位も譲ろう」と言う王子、それこそ「王」の計略だった。
王子の発言を契約として、大佐を介して国を支配するという黒魔術の呪縛。だが、王子は「王」を一喝する。
王子が真に弟の身を案じていることを知り、大佐は自らに剣を突きたて呪縛を絶った。
「王」は逃走し、大佐は一命を取りとめて事件は終結した。
三人は、自分自身の意志で他人と結ぶ絆が、黒魔術を破る力を持つのだと感服する。

330 名前:オリスルートの銀の小枝 3/5 投稿日:05/01/07 05:04:30 ID:???
学院の新学期が来た。成績優秀で上級に進学したフェンネルとヴィンセンスは
「黒魔術対策のプロである『金枝の使者』オリアスの助手を務めよ」という課題を与えられた。
無論、魔術の専門家に同行する経験が彼らに役立つだろうという学院長の配慮である。
学院長が引き合わせた「使者」オリアス・フレイと共に、二人は「仮面の王」を追ってラバンサラ国境に向かう。
一方、学院に居残っていたアリアンは、謎の使い魔に襲われそうになったところを、ディアナ・オリアスと名乗る女性に
救われた。彼女が「金枝の使者オリアス」だと信じたアリアンは、学院長からフェンネルとヴィンセンスが
「オリアス・フレイと旅立った」と聞かされ、まさかオリアスの偽者が出たのかと二人を追って飛び出した。
フレイと二人に追いついたアリアンはディアナの話をするが、学院長の引き合わせで会ったフレイが偽者のはずはない。
ディアナの方が偽物ではないかとヴィンセンスは考えるが、なぜかフレイはその話題を避ける。
国境近くの遺跡で、フレイと三人は、遺跡を調査していたディアナと遭遇した。彼らに気付いたディアナは
フレイとごく親しげに口喧嘩を始める。フレイとディアナは「オリアス」の名を共有する二人組の「使者」だったのだ。
フレイとディアナは、白魔術の家系に繋がる幼馴染みでもあった。金枝の使者を志したフレイの後を追って
ディアナも学院に入り、使者となったのだが、フレイは未だに「ディアナ」をパートナーではなく庇護の対象として
見ている、とディアナはこぼす。

学院に帰らず国境までついてきたアリアンと共に、使者一行は近くの村に滞在する。
村では冬を控えた村祭りが始まり、冬の終わりを告げる「死の馬」の像が引き出されていた。
その夜、病気の子供の看護に駆り出されたフェンネルは、本物の「死の馬」が病気の子供を迎えに来たのに気付く。
子供を死なせたくない一心で、フェンネルは自分の力を使い、死の馬を村祭りの木馬像に封印してしまった。
死にかけていた子供は助かったものの、死の馬の力を封印した像が残された。
フレイはこの像を隠し、学院から回収係を回すよう手配するが、この騒ぎを「仮面の王」が察知したことに
誰も気がつかなかった…。

331 名前:オリスルートの銀の小枝 4/5 投稿日:05/01/07 05:05:00 ID:???
学院長の元に、調査を続けるオリアスからの凶報が届く。フェンネルが謎の失踪を遂げたのだ。
学院長は、アリアンにはこの報せを告げるまいと考えるが、その夜、アリアンの元に
フェンネルの幻が現れ「ロスマリン姫と一緒にファローの村へ来てくれ」と告げる。
その幻の不自然さに気付かぬまま、その身に姫の霊を憑かせて旅立ったアリアンだが
彼の前に、邪悪に歪んだ「死の馬」が現れ、姫の霊だけを引き剥がして連れ去ってしまう。

一方、フェンネルの行方を追うオリアス達とヴィンセンスは、西の城の城主、ラウル男爵に出会う。
人探しに協力を約束してくれた男爵だが、実は彼こそがフェンネルをさらった本人だった。
病弱な彼は、死神に扮して彼の元に現れた「仮面の王」と取引し、健康と美しい花嫁を貰う条件で
「王」の言うままにフェンネルを拉致監禁し、、街外れの遺跡の祭壇に彼を置き去りにする。
男爵と入れ替わりに現れた「王」は、さらってきたロスマリン姫をフェンネルに憑かせた上で
彼の記憶を奪い、花嫁として男爵に引き渡した。「花嫁」とフェンネルが同一人物とは知らぬまま
男爵は彼女に偽造された「思い出の品々」を見せ「君は私の婚約者、ユーレリアだよ」と教え込む。
健康さえ手に入るなら、花嫁など余禄でしかないと思っていた男爵だが、あまりに美しい「ユーレリア」に
彼は深く魅せられていた。だが、そんな男爵に「王」は、もうひとつの契約条件を突き付ける。すなわち
花嫁との最初の一夜を「王」に譲ること…。

調査を進めていたフレイは、国境の村の木馬像が消失していたことを知り「王」が死の馬の魔力を
使役していることに気付き、「王」がすでに陰謀を張り巡らせていることを察する。
一方で、アリアンと合流したヴィンセンスは、男爵の城で出会ったユーレリアにフェンネルの面影を見て
ユーレリアの正体がロスマリン姫の憑いたフェンネルではないかと推測するが
警戒心を強めた男爵や、「王」に阻まれて確認することはできない。
やがて、黒魔術の痕跡を追っていたフレイとディアナは、男爵が利用していた遺跡の祭壇に
魔術儀式の痕跡を見る。男爵の一族の中に、我欲から黒魔術の儀式を行い
封じられていた「王」を呼び出して破滅した者がいたのだ、と彼らは知った。

332 名前:オリスルートの銀の小枝 5/5 投稿日:05/01/07 05:05:42 ID:???
フレイとディアナは、送還の儀式を行い「王」を冥界に戻そうと試みる。
だが、「王」は、フレイがディアナを庇護対象と見ていることに気付き「儀式を強行するとこの女が死ぬぞ」と脅迫。
惑わされたフレイは儀式を中断してしまった。その間に、男爵とユーレリアの婚儀は終了する。
ユーレリアが、男爵の孤独を知って、彼に慈悲を注いでいるのだと知った男爵は、己の欲望を恥じて
彼女を解放しようとするが、「王」は男爵をもとの病人に戻すと、自ら男爵の姿に化けユーレリアを連れ去る。
アリアンとヴィンセンスが彼女を見つけたとき、すでに「王」は彼女の胎に宿っていた。
このまま子が生まれれば、その子は「王」に加え、ロスマリン姫とフェンネルの霊の力も所有する。
それを防ぐ方法は、生まれる前に母体もろとも殺すしかない。
ヴィンセンスは、親友としての責任故にユーレリア=フェンネルを殺す役割を引き受けるが
アリアンは、生きて希望を探そうと言ってヴィンセンスを止める。そのとき、死の床についていた男爵が声を上げた。
彼は、自らの死をもってユーレリアとの婚姻解消を宣言したのだ。結婚の誓いでユーレリアを縛っていた「王」は
ユーレリアからはじき出され、直後、ひしゃげ潰される。フェンネルに宿っていた黒魔術の霊がついに目覚めた。
「彼女」は、自分や「王」が、不幸な死の後も魔術に悪用され、世界を憎むに至った死者だと語り
周りのもの全てに復讐を遂げんと荒れ狂う。だが、ロスマリン姫がそれを止めた。
彼女は、憎しみや苦しみを無理に忘れるのではなく、自ら不幸にしがみつくのを止めようと説く。
姫と、意識を取り戻したフェンネルの説得によって、ついに「彼女」は鎮まり、フェンネルも元に戻る。
事件は終わった。「仮面の王」も、フェンネルに宿る「彼女」も封じられた。最後に、亡くなった男爵の墓前で
彼の冥福を祈るフェンネル達の前に、死の馬に導かれ昇天する男爵の姿が現れ、そして消えていった。

冬が開け、アリアン、ヴィンセンス、フェンネルの三人は今回の功により、史上最年少の
金枝の使者となる(ただし学科単位の足りないアリアンは当分、金枝を預かられる身の上だ)。
同じ席で、互いの理解を深めたフレイとディアナの婚約も発表される。
三人はこれから立派な「使者」になるに違いない。…まだまだ時間はかかるだろうけど。

333 名前:オリスルートの銀の小枝 投稿日:05/01/07 05:10:32 ID:???
作者:紫堂恭子 角川あすかコミックスDX 全4巻
この作者の作品としては、当スレで「辺境警備」「グラン=ローヴァ物語」がガイシュツですが
「小枝」はこれらの作品とはリンクしておらず、独自の世界観を構築しています。
作中では、魔術のことを「技(アート)」と呼び、黒魔術は「ブラック・アート」と称されます。