にんじん大好き!/松本洋子
「にんじん大好き!」※

*注*この作品にのみハートマークの代用として「v」を使用させていただきます。
原作の味を生かしたいがための苦慮の策と思ってください_| ̄|○|||
同じ理由でひらがな多用ですスマソ

小学生のたかしは、今夜もにんじんを残して母親に怒られた。
「好きキライしてると大きくなれないわよ」
「おいおい、なにもキライなものを無理に食べさせなくたって…」
「PTAで先生にイヤミ言われるのは私なんですからね。
…ほら!都合が悪くなるとすぐそうやって新聞を広げる」
止めに入った父親もやり込められてしまう。
居心地の悪い食卓。たかしはテーブルにつっぷして涙ぐむ。「にんじんなんか大っきらいだ」
寝る前に、たかしは神様にお願いする。
「にんじんが好きになるようにしてください、お願いします……!」

翌日。たかしはテーブルの上に並ぶにんじんの山に呆然とする。
「どうしたの?早くかけなさい。今夜はたかしちゃんの好きなハンバーグよ」
『ハンバーグ!?これが!?ママのいじわる、にんじんだらけじゃないかーーっ』
大きさはまちまち、でもどう見ても生のままの葉っぱつきにんじんだ。とても食べられやしない。
「お腹でも痛いの?違う?変な子ねえ」
たかしはテーブルにつっぷして、母の言葉にただ首を横に振った。
「うん、今日のハンバーグはうまいな」
父の言葉にがばっと顔を上げる。『ハンバーグ!?このにんじんが??』
「ママ……これ、ほんとにハンバーグなの?」
「見ればわかるでしょ。早く食べなさい」
やはりにんじんを食べながら母は平然と答える。
フォークで切って突き刺してみる。…やっぱりどう見てもにんじんだ。
えーい、と勇気を出して食べてみた。

『ハンバーグの味だっっ』

他のにんじんも食べてみる。
『これもパンだ!』
ふしぎだなあ、にんじんなのにほかの味がするなんて。でもこんなにんじんなら好きだなv
神様がお願いをきいてくれたんだ!
でも…これじゃ食べてみるまでなんなのかわかんないや。

学校から帰ったたかしの目の前に出されたにんじん。
『チョコレートケーキだっv』
ふしぎふしぎ。食べ物がみんなにんじんに見えるのにいろんな味がする。
まるであてっこゲームみたいだ。ぼくだけのひ・み・つv

『きょうはなにかなー』
出されたにんじんをひとかじり。
???
なんなのかわかんないなあ。でもちょっと甘くておいしいや。
「あらっ、たかしちゃん。にんじん食べてるじゃない、えらいわ」
『じゃあこれ、ほんもののにんじん!?ぼくにんじんが食べられるようになったんだ!』
神さまありがとう、とたかしは大喜び。

そんなある日。
たかしは世界のグルメ番組を観た。
「これムカデじゃないですかー」「サソリもいるー」と騒ぐ女性芸能人。
「ちゃんとしたお料理なんですよ」と司会者はたしなめる。
「いやー、こうしてみると食べられない動物なんてないみたいですねー」
「そうです、偏見でものを言ってはいけないんですよ」
たかしにはムカデもサソリも、にんじんにしか見えなかった――。

通学路を歩くたかし。おばさんがにんじんを散歩させている。
塀の上で「フギャー」「ニャーッ」とケンカしあうにんじん。
木の上でさえずるにんじんたち。
たかしはベッドの中で考える。
『あのにんじんはどんな味なのかな。もしかしたらハンバーグよりおいしいのかもしれない』

「………ちゃん、たかしちゃん朝ごはんですよ」
母の声にぼんやりと目覚めるたかし。
「んーー……ごはん?」
目の前に大きなにんじんがあった。さっそくかぶりつく。
『おいしいっっ』
はじめてだこんなの。こんなおいしいものがあったんだ!

「んー、おなかいっぱい。おっはよーパパママ」
たかしはまだぼんやりしながら階段を降りて台所のドアを開けた。
『にんじんが………新聞よんでる』
食卓で、大きなにんじんが新聞を読んでいた。

「おはようたかし」
にんじんの姿がぼやけ、新聞を読んでいる父親の姿に変わった。
「どうした?ママは?」


たかしの部屋には、身体中食い破られて眼球や内臓を引きずり出された、
変わり果てた姿の母親が横たわっていた――。