ナツノクモ/篠房六郎
596 名前:ナツノクモ[sage] 投稿日:2005/06/16(木) 08:15:58 ID:???
前置きとして。
他の篠房六郎作品、空談師、
篠房六郎短編集の中の一編と世界観を完全かどうかは分かりませんが共有しています。

物語の舞台は『リネン』というネットゲーム運営会社が運営しているゲーム上。
(ゲームの固有名は不明、あまり物語性があるものではないようです)
種類としては『MMO』(今からの定義は引用ですが)
『数百人から数千人規模のプレーヤーが同時に1つのサーバーに接続してプレイするネットワークRPG。』
『MMORPGには基本的にゲームの「終わり」はなく、プレーヤーは(仮想世界なりの)日常生活や、
運営側が用意した突発的なイベントを楽しむというスタイルになっている。』

プレーヤーが操作するキャラクターのことを『外装』と呼びます。
外装のデザインは個々である程度設定できるようです、リネン以外の個人が作ったものをボードで動かすことも。
どういう条件で取得できるのかは分かりませんが『隠れ能力』と呼ばれるものを身につけた特異なステータスを持つ外装もあります。
外装が死亡状態の場合生き返る方法は2種、他者による回復とステータス低下と引き換えのその場での復活。
もし死亡状態のまま接続を切れば外装は数分で『消滅(ロスト)』してしまいます。
外装をロストさせる方法に『拷問』と呼ばれる物があり、
その方法はプレーヤーが諦めて接続を切るまで何度でも殺しつづけることです。

597 名前:ナツノクモ[sage] 投稿日:2005/06/16(木) 08:17:31 ID:???
サーバー上で用意されるゲームフィールドを『ボード』と呼びます。
ボードは3種類あると思われます。
リネン公式のもの、リネンに許可を取った『GM』(ゲーム管理者)がサーバーを用意し、データを受け取って設定したもの(GMが用意したものはそれぞれ特徴をつけてあり、そのボード上でのみの特色のある設定ができるようです)、
そしてリネンの許可外の不正規な物です。
ボードの機能に『ボックス』と呼ばれるものがあり、
これは個々のプレーヤーがある程度設定できる空間のようです。
個人と個人の対人戦闘など、その他の用途に使われます。
(練習モードなどがあり戦闘で死亡しない設定なども出来ます)
(正直あまり設定が語られないのですがもしかしたら自分のパソコンを簡易ボードにするものなのかも…)

補足で『廃人』元は後遺症激しい傷病者等のことですが最近ではネットゲームをやりすぎている人の揶揄、または賞賛などで使われます。
色々な定義があるでしょうが『ナツノクモ』上では主に現実世界では生活は破綻かうまく行ってない人、
のめりこんでるだけあってゲーム内では戦闘などが強いプレーヤーが多くでます。

598 名前:ナツノクモ[sage] 投稿日:2005/06/16(木) 08:20:20 ID:???

物語冒頭、三人組のプレーヤーがダンジョン深くを通信があった仲間のもとへ急いでいます。
最後の通信では『エンジン男が現れた』と言っていたそのプレーヤーは、
三人がついた時すでに死亡状態で接続が切れ、ロストするところでした。

三人組は外に戻り、話をはじめ、ロストさせられたプレーヤーが戻ってこないことを語ります。
曰く『エンジン男に消されるのは廃人のみ』『エンジン男にロストさせられたプレーヤーは戻ってこない』
外装を消されてもまた新しい外装を作ればいいだけのこと、なのに戻ってこないのは異様なことです。
今回消された仲間は戦闘が最強クラスの廃人プレーヤーだったそうです。

三人組の一人『セキ』は自分が慕う『師匠』に戦闘の手合わせの最中エンジン男のことを語ります。
話を聞いた師匠はエンジン男の対処法をセキに教えます。

『師匠』こそ作品の主人公『コイル』(名前がこの先変わりますが)彼は娘を見捨てたと語り、
ボード上でのカウンセリングを提唱する隻川教授にカウンセリングを受けています。
コイルは娘を見捨てたという思いから自罰的な思考を持っていて、
そのカウンセリングでセキを弟子にしたのは殺気を持った目をしていて
自分を存分に壊してくれるかと思ったからだと答えます。
隻川教授は心理学でいう『転移』(違う人物を特定の人物の代わりとして割り当てる事?)
をコイルとセキが起こしていて互いが互いの治療者になっているのでは?と語ります。

隼川教授はオンライン上で仮想の街、仮想の家族を演じさせるワークショップを運営していて、
そこでは多数のプレーヤー達が子どもという『設定』親という『設定』を持ちオフよりはるかに短い一日を過ごしています。
隼川教授はコイルに『なぜこのような活動をするのか?』と問われ、
散々旧版のゲームをプレイし、ネットの悪いところ、良いところを見てきて、
同時にそれに強く惹かれたことを語ります。
『オンライン、ネットとは言いえて妙』
『私達を繋いでいる関係性は蜘蛛の糸よりか細く弱い、
しかしそれでも通い合える何かがある、糸が支えられるものは小さい。
その糸の強さを調べるのが自分達がするべきこと』と答えます。

599 名前:ナツノクモ[sage] 投稿日:2005/06/16(木) 08:22:59 ID:???
(ワークショップは学術研究と臨床実験の場、この分野はまだまだ手探り)

会話中に教授に通信が入り同じゲームをしていた少年が人を三人殺した事件のが起こったと告げられます。

舞台は代わりセキ達の雑談でも17歳の少年の殺人の話が話題に上がります。
ニュースではゲームの影響という論調のようです。
プレーヤー達は遊び感覚で殺人を語り、プレイしている時間で殺すなら親をもう殺してると発言します。
それを聞いたセキは顔色を変え、場を一人離れて行きます。
去るセキを尻目に一人の男が現れ、話を聞きたいと輪に加わりました。
話を聞き去る男を見かけた仲間の女性プレーヤーは仲間に男のことを尋ねます。
仲間たちは自然に輪に入る奴でセキのことや色々聞いていった事を語ります。
女性プレーヤーはなぜ話したのか責め、凄く嫌な感じがしたといいます。

コイルとの手合わせの場にいつも通りに現れたセキに、
隼川教授に提案されたワークショップで開かれる祭りへの一緒の参加をテレながらもコイルは誘いますが、
転移を起こしているセキは『なんでいまさら親の顔なんてするんだよ!』と言葉をぶつけ、
自分はとっくにあんたを殺せる、今までわざと当てなかったんだ『俺はとっくの昔にバケモノだ』
と言葉を残しその場を去ります。
残されたコイルはただ立ち尽くすのみ…。


611 名前:ナツノクモ[sage] 投稿日:2005/06/16(木) 17:01:27 ID:???
場面は変わり隼川教授の部屋になり牛の帽子を被った女の外装のプレーヤーと会話している場面。
本名で呼ぼうとした隼川教授をさえぎり、ネット上では『ジージャ』の方が慣れているのでそう呼んで欲しいと頼みます。
初のカウンセリング予約のようでしたが今後の治療方針を決めようとする隼川教授の言葉をさえぎり、
ジージャはカウンセリングを受けるためでなく、他の用件で来たと語ります。
その用件とは教授が行っている活動の中に、ユニークで公に出来ないものがあること、
そしてその中に最強のPC(プレーヤーキャラ)を殺し屋として雇っていると聞いた事。
隼川教授は取り付く島なく自分の治療に興味がないなら他のカウンセラーを紹介します、
もっとも殺し屋の斡旋をしているところは知りませんが、と続けます。
ジージャはそれでも喰らいつき『自分達のボードは『クロエ』のものである』と言い、
隼川教授はハッとした様子で貴方達が?と尋ねます。
ジージャはさらに続け自分達のボードが今新聞やニュースで散々大騒ぎになっている事、
別に殺し屋が欲しいのではなく、自分達の身を守る力が欲しいのだと伝えます。
それでも教授は気を取り直し、突っぱねます。

612 名前:ナツノクモ[sage] 投稿日:2005/06/16(木) 17:03:09 ID:???
場面は変わり廃墟のフィールド上に座り込むコイルの前に、
あのセキのことを聞きにきていた眼鏡の男、クランクが尋ねてきます。
因縁浅からず、の様子で終始コイルは眼鏡の男を睨みつけます。
クランクは次の標的はコイルの弟子のセキであると伝え、
もしなんなら自分から隼川教授に仕事をなかった事にする様頼んでも良いといいます。
そのクランクを睨みつけながらコイルは『お前は俺を見て楽しんでいるだけだ』
確かにクランクならそれができ、全てを教え、選択の余地をわざと残したことを指摘し。
『その性分には反吐がでる』と吐き捨てます。
クランクは期日では後十日、後悔のないようにといい、去っていきました。

コイルはセキの仲間達にセキのことを聞いてまわることにし、
セキに思いを寄せ、心配する女性プレーヤー『トモ』にいつもセキがコイルの事ばかり話す事、
内容は憎まれ口ばかりなこと、一件以来コイルが現れなかった為、何度も何度もボックスに通っていた事、人を寄せ付けなかったセキが多分コイルと出会った頃から、
自分達を受け入れ始めてくれた事などを伝えます。

そのセキが一件以来塞ぎこみ、危険な階層を一人突っ走り、とり付かれたようにレアアイテムを探している事を語られたとき、
授業料と称してセキが置いていっていたレアアイテムが一件以来、居ない間に大量に増えている事をコイルは追想します。
トモは自分では駄目だという事に気づいていたと言い、コイルにセキのことを頼みます。

613 名前:ナツノクモ[sage] 投稿日:2005/06/16(木) 17:05:24 ID:???

コイルはボックスでセキを待つ間エンジン男の攻略法をセキに伝えている時のことを追想しています。
追想が終わりひざまずいたまま『忘れるなセキ…俺が前に言った事』と呟きます。

ボックスにセキが現れ、セキにコイルは
『今日が最後の手合わせ、俺と少しでも長く居たいなら、隠していた本気とやらで来い』と言い放ちます。
序盤それでも躊躇するセキをあっさり殴り飛ばし、本気でこないなら後十秒で終わらすとコイルは一喝します。
迷いを吹っ切ったセキの相手をしながらコイルは隼川教授との会話を思い出していました。

怒りのパッドという子ども向けプレイセラピーのことを隼川教授は話します。
紙パッドを用意しそれを子どもに与え、本気で腹が立っている物事を好きなだけ書きなぐらせ、
最後にそれを破り捨てるという手法である事、セラピーでは暴力的なものは避けられるが、
時として怒りをちゃんと対象化し、無害な方法で素直にぶつけさせる事が有効である事。
セキがコイルとの戦闘にそれほど拘るのはそれが彼の中でそれだけ重要なことであることの証拠、
手合わせにはそういうプレイセラピー的な効果があるのではないか?と語ります。

614 名前:ナツノクモ[sage] 投稿日:2005/06/16(木) 17:12:26 ID:???

ついに死闘の決着がつき、コイルの渾身の一撃にカウンターでコイルの外装の脇腹を突きぬくセキ、
コイルの外装は死亡状態になり血まみれになりながら崩れ落ちます。
(外装と戦闘システムの補足、外装のダメージにはピンポイントの急所攻撃による即死状態と、
体力を削りきった場合の死亡状態があります、その他アイテムや特殊武器による即死もあり)
それを見たセキは顔に両手を添え、血を吐くような叫びをあげます。
その中で『父さんは何も聞いてくれなかった』『父さんを傷つける事が俺にできるなんて思わなかった』
『傷つくわけなんかないのに、俺の下で血まみれになって丸くなるなんて、そんなこと違うんだ!』
『どうしたらいいんだ!』と叫ぶセキの前でコイルが身を起こします。
起き上がったコイルはお前の勝ちだ、参ったといい、唖然とするセキにお前が勝てば俺が消えるとでも思ったのか?と言います。
みっともないがその場で復活したといい。
『お前は十分強くなった、大丈夫だよお前なら、お前なら多分…』とセキを認める声をかけます。
それを見たセキは顔を床に伏せ、溢れる安堵の涙と叫びをボックス中に響かせるのでした。