夏はまだこれからだし/望月花梨
270 名前:夏はまだこれからだし 1/2[sage] 投稿日:2005/11/04(金) 03:02:39 ID:???
中学二年の初夏。相宮ことアイミには好きな人がクラス内に二人いる。
一人目は隣の席の少年・サトー。彼は少し前まではヤンキーで、
授業中に教師に対して罵声を浴びせたり、校内で喫煙したりと恐れられていた。
しかしいきなり改心して、今では人畜無害なサワヤカ少年になっている。
時々前の仲間に呼び出されて暴力を奮われる事もあるようだが、
頭が良く話も面白いのですぐにクラスに溶け込んだ。

二人目は内気な少女・永末。暗くて存在感がなく前髪でいつも顔を隠している。
二年の始業式で、背の順に並んだアイミの後ろに永末がいた。
何気なく話しかけ「邪魔じゃない?」と永末の前髪を上げて見ると、
そこにはとてもキレイな目があった。前髪で隠されているが永末は美少女だったのだ。
彼女の美しさを知るのは自分だけ――一気に独占欲がわいた。
それからアイミは永末によく話しかけるようになり、内気な永末も心を許すようになった。

実はサトーも、始業式の日に偶然永末の素顔を見ており、
それから永末を意識しているという事をアイミは聞き、複雑な気分になった。


プールの授業。永末は水着に着替えるのがとても遅い。
しかし水着から制服に着替えるのは早い。水着を嫌いなのだろうか。
水泳に励むアイミたち。そこにシャッター音がした。
変質者が女子の水着姿を撮っていたのだ。怯えてアイミに抱きつく永末。
サトーはすぐに走り出し、変質者は捕まえられなかったがカメラを奪った。
きっとサトーは永末のために走ったのだろうと思うとアイミは少し淋しかった。

その一件から永末とサトーは急速に仲が良くなっていった。
アイミはもやもやした気分を抱え、永末にいつものように接する事ができない。
調理実習で怪我をしたアイミ。永末はすぐに応急処置してくれたが、
やはり変な態度を取ってしまう。アイミは保健委員のサトーと共に保健室に行く事に。
何故か「ごめんね」と小声で謝る永末。サトーの事で遠慮なんかしないでとアイミは思う。
永末もサトーが好きなのだろうとアイミは察し始めていたのだ。
だが、二人が付き合ってしまったら自分だけ置いて行かれそうで怖いとも思った。

271 名前:夏はまだこれからだし 2/2[sage] 投稿日:2005/11/04(金) 03:05:26 ID:???
真っ直ぐ保健室に行かず、教室でサトーに永末の話をふるアイミ。
「サトーが真面目になったのって永末のため…?」
「…そーだな多分。前のオレじゃ声もかけられなかったし」
サトーはいずれ告白するつもりだという。
「お前なんか絶対ムリだよ」「なんでだよ」口論になる二人。
そこへ、忘れたプリントを取りに永末がやってきた。
ちょうどいいからと告白するサトーに、永末は語り始める。
「…いいことおしえてあげようか。私のこといろいろ…きっとキライになるよ。
 私 小学5年生の時 学校の先生にいたずらされたの」
風が吹き、永末の前髪が持ち上げられる。永末は泣いていた。
なにも知らず先生に対して無防備でいた自分がバカだった、
いたずらをされた事よりもショックだった事があると永末は言う。

当時永末には付き合っている男の子がいた。
彼は先生との現場を目撃し、すぐに他の先生を呼びに行ってくれた。
後日、永末は、彼が他の生徒たちと面白可笑しく話しているところを見た。
「もうオレびびっちゃったよマジで! すげーもん見ちゃった」と。

永末が悪いわけではないのに皆が奇異の目で見てきた。新聞にも載り、逃げるように転校した。
「私……あそこにはいられなくなって…もう暗くたって目立たなくたって
 友達いなくたっていいから、もう誰にも見られたくない関わりたくないって
 そう思ったの…けど……」永末はアイミを見た後にサトーを見る。「…ごめんね」
それらの告白を聞いてもサトーは動じず、走り出そうとした永末を抱きしめた。
サトーの肩越しに永末と目があう。永末の手はサトーを抱き返すべきか躊躇していた。
(ここでわたしが睨んだり泣いたりしたら永末はサトーの手を振り払ってしまうかもしれない)
アイミは永末に笑顔を見せ、廊下をUターンしていった。

期末テストも終わり、サトーと付き合い始めた永末はどんどん明るく綺麗になっていった。
きっともう自己防衛の必要がないからだろう。色々な子が永末に話しかけた。
それでも永末はけしてアイミ以外に友達をつくろうとはしなかった。
今でもアイミは二人を見ると少しだけ胸が痛む。
(でも大丈夫 わたしはまだ若いし 夏はまだこれからだし)