ムーン・ライティング/三原順
288 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:04/06/01 17:59 ID:???
121の、三原順「ムーン・ライティング」やります。

最初に断っておきますが、短くまとめようと努力した結果、
面白さが激減してしまいました。
実際に読んでみると、豚になったトマスがかわいいです
(見た目と性格にギャップがありすぎて)。
登場人物のセリフも笑えるものが多いです。
が、とりあえず粗筋だけ。

289 名前:ムーン・ライティング 1[sage] 投稿日:04/06/01 18:05 ID:???
ダドリー・デビッド・トレヴァー(D・D)は学生時代の友人トマス・リブナーから
手紙で助けを求められた。あのときの約束がまだ効力をもっているなら、と。
少年時代、トマスはD・Dにだけ、彼の祖父が狼男だと打ち明けていた。
D・Dはただの空想だと思っていたのだが、のせられやすい性格のため、
トマスが変身したら匿ってやると約束したのだ。

トマスから来るなと言われた、月が1/4に欠けた夜、D・Dはトマスのもとを訪ねる。
しかし、そこにいたのは、ガウンを着てタバコを銜えた豚。
愕然とするD・Dに、豚は、再会を祝して乾杯しようと言って酒を勧める。

翌日、目を覚ましたD・Dは人間のトマスと10年ぶりに再会。
一人では耐えられそうもないというトマスのため、しばらく滞在することにする。
トマスは「ムーン・ライティング」というレストランを経営していて、
上弦の半月から下弦の半月まで営業し、残りの半月は人里から離れた場所にある
レストラン兼自宅に籠もって過ごしていた。
彼から、彼の父は半月に猪に変身したこと、父の死後、1/4の月が上空にある間
豚に変身するようになったことを聞かされる。
しかし、その話を聞いていたD・Dの脳裏に浮かんだのは、料理された豚の姿。
空腹だったD・Dは火のついたタバコを握り締める。

トマスは養豚場を経営するロビンスから豚泥棒と疑われていた。
ロビンスが飼っている豚のスザンナが、月の細い時期に決まって荒れ、
脱走を繰り返してはトマスのところへ行こうとするからだ。
彼は行方不明の豚がトマスのところにいるに違いないと思っていたが、証拠はない。

トマスはロビンスとスザンナを葬り去りたいと考えていた。
D・Dはしばらくこの地を離れてみてはどうかと勧めるが、レストランで成功して
いるトマスは取り合おうとしない。

290 名前:ムーン・ライティング 2[sage] 投稿日:04/06/01 18:06 ID:???
レストランが休業期間に入った日、D・Dはトマスから、豚に変身するというのは嘘で、
D・Dをからかっただけだと、豚のぬいぐるみを見せられる。
しかしD・Dは、あの夜酒に眠り薬が入れられていたこと、意識を失いきる前、
豚がD・Dの喉元にナイフを振り下ろそうとしては止め、床に放り出しては拾いに行き、
という動作をを繰り返していたことを覚えていた。
それを告げられたトマスは、やはり殺しておけばよかった、と呟く。
彼はD・Dを殺して沼に沈め、時折訪ねて、(死んだ)D・Dを話し相手にしようと
考えていたのだ。

D・Dがトマスを訪ねてきて3週間。1/4の月の夜がやってきた。
パブで飲んでいたロビンスは、酒を盗んでトマスの店をクビになったリチャードから
レストランの酒倉で豚を見たと聞かされる。
リチャードはクビにされた腹いせに嘘をついたのだが、ロビンスは怒り狂い、
スザンナを連れて「ムーン・ライティング」を襲撃する。
このとき、D・Dはやっとトマスからロビンスとの関わりを聞く。
トマスは豚に変身したショックで弱気になっていたため、仲間を探してロビンスの
養豚場に入り込んでしまったことがあり、そのとき背中にロビンスの養豚場の
烙印を押されていたのだ。
D・Dは変身したトマスを連れて車で逃げるが、車はリチャードに細工されていて、
ブレーキが利かず谷底へ転落。トマスがD・Dを連れて車から飛び出すが、
迷路のように入り組んだ洞穴に突っ込んでしまった。
変身したトマスの体は、鞠のように弾みやすく、非常に強靭らしい。
トマスがクッションになってD・Dは無事だった。

291 名前:ムーン・ライティング 3[sage] 投稿日:04/06/01 18:07 ID:???
出口を見つけられないまま数日が経過。
コウモリと鍾乳洞のたまり水で飢えをしのいでいた2人だが、トマスは再び豚に変身。
いじけて、思いつく限りの豚肉料理を挙げはじめる。
堪りかねたD・Dが殴ると、トマスは壁にぶつかってはね返り、拗ねと嫌がらせで
そのまま滅茶苦茶に跳ね回って、しまいには天井を突き破ってしまう。

脱出したトマスは、豚になって外出したときに使う隠れ家へ行き、電話で情報収集。
事件の噂は広まっていて、D・Dは死んだと思われ、リチャードはいつの間にか
姿を消していた。
トマスはD・Dの母を巻き込んでアリバイ工作(D・Dの母はトマスに甘い)。
彼は休養旅行に出かけてD・Dの両親を訪ねていたことにして、D・Dの母は
息子から「酒倉に豚が投げ込まれたけど、どうしよう」と電話があったと証言。
D・Dを亡くしたことに対する同情のおかげで、トマスもD・Dの母も余計な詮索を
受けることなく、豚を投げ込んだのも盗んだのもリチャードということで解決。
そしてD・Dの母は、謝りにきたロビンスを慰め、スザンナを譲ってくれるように頼む。
ロビンスは二つ返事で承諾。トマスは邪魔者を追い払って、万々歳。

その間、D・Dは洞穴に取り残されたまま。
やっと救出された頃には、とうに休暇が終わっていて、バイトをクビに。
ショックを受けるD・Dをよそに、母とトマスは遊びに出かけていく
(トマスは彼女を慰めるため仕事を休んで付き添っていることになっている)。
「結局、オレは何だったのだろう。」
トマスのため、もうしばらく隠れ家に潜んでいなければならないD・D。
不貞寝して空想にふけることにする。


「ムーン・ライティング」終わり。
この後に3話続きますが、それは後ほど。

366 名前:ムーンライティング 4〜「お月様の贈り物」 投稿日:04/06/04 18:33 ID:???
その日は月齢3.5。トマスが豚に変身する日だった。
豚にならなければならない頃のトマスは、いつもひどく苛立って、D・Dがいくら
励まそうと無駄なのだが、今日はやたらと機嫌がいい。かわりにD・Dの機嫌が悪い。
トマスは嬉しそうに言う。
「本当にさ!君の忠告には感謝してるんだ!
 今迄ボクは"豚"ということにこだわり過ぎていた!
 たかが見てくれが悪いだけだし、イメージが悪いだけだ
 変身中に他人に見つかったとしても・・・一生研究所で実験動物として飼育されるか
 ・・・食卓に並べられて食われるか・・・たかがそんなものだ!
 だから!僕が君に輸血した結果君が豚になったとしても ボクは罪悪感なんか
 持つべきじゃなく・・・むしろ君の命を救えた事を喜ぶべきなんだ!
 な!ディー」

D・Dは3日前に拳銃で撃たれ、トマスの血を輸血されてしまっていた。
撃たれた傷は既に跡形もなく、D・Dは自分も化け物になるのだろうかと考える。
トマスの手を火のついた油の鍋に突っ込んで、ろくに火傷もしないことを確かめると、
D・Dは不機嫌な顔で、スパイダーマンの話を始めた。
「オレは・・・好きで一時その手のばかり見てたんだ
 スーパーマンとかキャプテン・アメリカ、バットマン!
 みんな派手なコスチュームつけて悪者と闘うんだけどな・・・
 ある日 頁をめくるとスパイダーマンが自分でコスチュームを洗濯してたんだ
 浴槽でバシャバシャと・・・
 考えてみれば当然なんだけどな・・・
 マスクまでして正体を隠してるのに・・・まさかクリーニング屋には出せないし」
「なんでそいつらは普通の服を着ないんだ?」

367 名前:ムーンライティング 5〜「お月様の贈り物」 投稿日:04/06/04 18:36 ID:???
呆れ顔のトマスに、D・Dは、普段着で格闘していたら付近の住民や警官には
どちらが悪者か分からない、だからどんなに悪趣味でも識別されやすい格好を
しなければならないのだと説明。
「とにかく!あのシーン見た時 何か・・・ひどく可哀相な気がして・・・それで」
D・Dはまともに怪我もしない身で、それでも、特性を活かして"正義の味方"など
やらなくていい理由が欲しい(らしい)のだが、端からそんなことを考えもしない
トマスには通じない。

月の出後。
D・Dには狼の尻尾が生えていた。
トマスはD・Dの様子を見に行き、彼が豚にならなかった上に、トマスのなりたかった
狼男と同じ尻尾が生えていることに、ショックを受ける。
しかもD・Dはその尻尾を無意味で無様だとぼやいていた。

ドアが開く音にD・Dが振り返ると、そこには巨大なダイナマイトで玉乗りをする
トマス(豚)がいた。
「すまなかったディー・・・ボクの勝手な都合で君を苦しめて
 これ?君を死なせてやるためだよ!
 丁度ボクも君を殺しちまってもいいと思ってるし
 だって君はボクを侮辱したじゃないか!
 "たかが豚"と君が言ったのはたかがボクだけの事の頃だけだ
 それに君はただの一度も"ありがとう"とは言ってくれなかったじゃないか!
 だから!今度こそ気に入ってもらわなきゃ ボクは友人として立つ瀬がないんだ」
トマスはD・Dに向けてダイナマイトを蹴り出した。

368 名前:ムーンライティング 6〜「お月様の贈り物」 投稿日:04/06/04 18:37 ID:???
悲鳴を上げて飛び起きるD・D。
そこは病院。撃たれて3日間、ずっと眠っていたのだ。
「3日目?」
D・Dはびくっとして、おそるおそる布団の中に手を差し入れる。
D・Dの担当のドクターは、回復が早過ぎるから、異常に気付かれる前に病院を
出た方がいいと言う。
トマスはドクターに正体を明かした上で、ドクターが病院内で証拠を隠滅するかわりに、
彼の趣味に付き合って研究材料になる、という取り決めをしていたのだ。
ドクターからそれを聞いたD・Dは、感染させてやるから自分の血で研究しろ、と
彼の手を噛み、白衣を奪ってトマスのもとへ向かった。
「トマスはまだダイナマイトを転がしちゃいない」
夢の警告に従い、トマスに会ってまずお礼を言うD・D。
何かいい考えが浮かぶまで、問題は先送りにするつもりだったのだが。

トマスはD・Dの留守中に届いた手紙を取りに行こうとして、すれ違いざま、あることに気付く。
「ディー それは一体何なんだい?」
青ざめるD・D。
「ホラ!これ!!」
白衣から覗く尻尾を、おたま(シチューを煮込み中だった)で叩くトマス。
D・Dには、振り向いてトマスの顔を見る度胸はなかった・・・。


「お月様の贈り物」終わり。
この次の話で、D・Dが撃たれることになった事件が語られます。

488 名前:ムーン・ライティング 7 投稿日:04/06/10 18:28 ID:???
「僕がすわっている場所」

すみません。長いです。


新月の3日後のこと、トマスがレストランを閉めてD・Dを訪ねてきた。
トマスは他人の為に料理することに飽きたと言うが、D・Dの遠慮のない言葉に怒って行ってしまう。
そして翌日。トマスの宿泊するヴェゼイ・ホテルで事件は起こった。
その日、トマスの部屋の下の階で家具のオークションが行われることになっていたのだが、家具に隠されて
麻薬が運び込まれているという情報があり、早朝から麻薬犬と豚を投入して捜査が行われた。
麻薬の在処が確認された後、警備を委託されているジョン&オーツセキュリティーサービスの副社長ヘンリー・オズボーンは
午後の捕り物の前にひと眠りしようと考え、自社のボディガードを3人連れてホテルの外へ。
直後、彼は永遠の眠りについた。

その朝、D・Dのボスのアンソニーは全員を集め、神妙な顔で、オズボーンが不慮の事故で他界したと告げる。
D・Dのバイト先は中規模のコンピューターのソフトウェア会社で、ジョン&オーツ社に警備を依頼したり、彼らの顧客に
推薦してもらうなど付き合いが深い。
しかし、オズボーンを悼む者はおらず、一人がにやにやしながら聞いた。
「・・・誰に殺られたんです?」
「豚にだ」
オズボーンがホテルを出た直後、彼の上に豚が落ちてきて、即死したという。
皆が大笑いする中、D・Dだけは違った。"豚"に心当たりがあったので・・・。
「お前だ!!」アンソニーはD・Dを指差す。
「我々は遺族の前で笑わずにいれる人物を必要としている!」

オズボーンの家へ連れて行かれたD・Dは、人手が必要だろうからとその場に残される。
家政婦から、トマスの下の階の客がオズボーンの死の直前に豚を目撃していたと聞いて、
あせってトマスに電話をかけるが彼は出ない。
D・Dは通りかかったオズボーンの娘サリー・アンとオズボーンの部下で彼女の婚約者でもあるロイに、
豚がどうなったか尋ねる。
豚は行方不明だった。豚の性別まで聞くD・Dに彼らは不審を抱く。

489 名前:ムーン・ライティング 8 投稿日:04/06/10 18:29 ID:???
その夜、D・Dはトマス(豚に変身中)を訪ね、ホテルの外に散歩に出て、人を潰した覚えはないかと聞く。
ずっとホテルにいたし、人間には指一本かすめてさえいない、という答えにほっとするD・D。
奢るから食事に行こうと誘う。そこへD・Dの後を尾けてきたサリー・アンとロイが現れ、
D・Dはトマスを浴槽に放り込んでドアを開けた。
おろおろするD・Dだが、人間に戻ったトマスが話をつける。
面倒をかけられたものの、湯の中では変身中の軋みも痙攣も軽かったため、トマスは機嫌を直していた。

ホテルのレストランで、D・Dはトマスから店を閉めた本当の理由を聞かされた。
トマスは意中の女性アイリーンの誕生パーティーに呼ばれたのだが、客として招かれたのだと思っていたら
料理長としてだったという、振られたも同然の扱いを受け、レストランを続けるのが嫌になったのだ。
だから、D・Dが失業したら雇ってやるという約束を果たせなくなったことを報告に来たという。
D・Dは思い出して会社に報告の電話をかけ、その日ホテルで麻薬取引がある筈だったのに
裏をかかれて犯人に逃げられたということを聞く。
トマスに今日のは殺人事件かもしれないと話すと、トマスは「あれはただの事故だ」とあっさり言う。
麻薬捜査に使われた雌豚がテラスにいて、トマスの匂いを嗅ぎ付けてうるさかったので、
黙らせる為ひとっ跳びして突き落としたら、その下にちょうどオズボーンが歩いてきた、
というのが真相だった。
D・Dは罪悪感のかけらもないトマスに、スープの皿を投げつけて帰った。

葬儀からの帰り際、D・Dは駐車場で同僚のリッキーがオズボーンの上役を引き止めて、豚に潰された
作家の名前を尋ねているのを見かける。
家政婦を送ってオズボーンの家に戻ると、オズボーンの部下達が会社関係の書類を全て持ち出そうとしていた。
ロイは机の引き出しの取っ手をはね上げながら、豚を落とした犯人をを捕まえるため、
手掛かりを探しに来ているのだと言う。横柄な態度に、D・Dは不快感を覚える。

その頃、トマスは窓の下を見降ろしながら、ある思い付きをして陰険な笑みを浮かべていた。

490 名前:ムーン・ライティング 9 投稿日:04/06/10 18:30 ID:???
会社に戻ると、受付嬢のケリーの無駄話に付き合わされる。
ケリーは行方不明の豚が見つかったときには頭を残して食い尽くされていたこと、警察が何度試しても
誰かが豚を突き落とした後で警備員に見つからずに逃げるのは無理だったことを話す。
D・Dは帰ってきたリッキーを指差して、「豚ならリッキーが詳しい」と言う。
葬儀の最中にする話題ではないと怒っているD・Dに、リッキーは、あれは小説の中の話で、
例の上役の自室の書棚には、その小説家の全集が並んでいるのだと話す。
しかし、D・Dはその意味に気付かなかった。

満月の翌日、出張から帰ったD・Dは、トマスに「奢る」と言っておきながら皿をぶつけて
帰ったことを思い出して謝りに行く。
しかし、トマスが今度豚になったら気晴らしに人間潰しの散歩に行く、と言うのでまた喧嘩に。
それから毎日、遊びにゲーム、音楽、クイズなどを勧めて、トマスの気を紛らそうとするが効果なし。

D・Dはリッキーの持っているランダム・ドット・ステレオグラム(左右の視差を利用して立体画像を見せる点画)の
本をトマスに貸そうとリッキーを訪ねる。
適当に本棚を物色して選んだ一冊を見て、リッキーは何か言いかけるが、思い直して貸すことにする。
そして、オズボーンの死はジョン&オーツ社の仕業だと言った。
オズボーンはジョン&オーツ社が急成長するにあたって、汚い仕事を一手に引き受けていたのだが、
会社が力をつけた後では邪魔になり、かといって暴露されては困るためクビにもできなかったのだと。
D・Dは殺すならもっとうまくやるだろうと否定する。リッキーは一応納得してこう言った。
「だがもしオレの身に何かが起きたなら その時は事故じゃなく連中の仕業だからな!」
そして、オズボーンと金銭面で共犯だったと告白。

オズボーンは警備先に、コンピュータシステムの監査もやったほうがいいとD・Dの会社を推薦していた。
リッキーは不正が仕組まれていないかを探って報告するが、不正があった場合、大抵の会社は内密に
犯人を処分する。内部の人間が考えた手口は大抵うまくその会社の弱点を捕らえているため、
事が表沙汰にならない限り、発覚の糸口になった箇所を修正し、金の流れる先を自分たちに
変えるだけでいい。オズボーンは金を使って自社を雇わせるための裏工作をしていた・・・。

491 名前:ムーン・ライティング 10 投稿日:04/06/10 18:31 ID:???
D・Dは暗にボスのアンソニーに話すことを勧めて帰る。

建物を出たところで、D・Dはサリー・アンに呼び止められた。
彼女は父の日記に「リッキーが非協力的」「裏切るかもしれない」「リッキーは危険だ」などと
書かれていたのを見て、リッキーが父を殺したのではないかと疑っていた。
彼女はジョン&オーツ社の社員でボディガードもやっている。
「私は殺される前に殺すわ」と言って、D・Dの話は聞かずに立ち去ってしまう。

D・Dはランダム・ドット・ステレオグラムの見方を説明するが、トマスは興味を示さず、終いには灰皿を投げつけられる。
翌日、D・Dはリッキーが新規に受注した仕事の担当を引き受けたことを知る。
ケリーが言うには、この仕事が成功すれば、D・Dのボスが次期副社長の線は確実らしい。
ボスに報告しないつもりかと問い詰めようとするが、リッキーは打ち合わせがあるからと行ってしまう。

その夜、再びリッキーのアパートを訪ねたD・Dは、何かが落ちるような物音を聞く。
リッキーの部屋の鍵は開いていた。テレビがつけっぱなしになっているのに、リッキーの姿はない。
D・Dは机の引き出しの取っ手がはね上げられているのに気付く。
ロイの癖を思い出し、部屋の外へ駆け出すD・D。リッキーは階段の下に倒れていた。
彼はD・Dに「19日になればまた金が振り込まれる、その前にあれを消してくれ」と頼むと意識を失う。

D・Dは、リッキーの離婚したばかりの妻シシィから、ロイがD・Dより先に訪ねていたことを認めて、
リッキーが泥酔していたためすぐ帰ったと話していること、警察もリッキーが酔って階段を踏み外したと
見ていることを聞かされる。
しかし、リッキーは肝臓を悪くして以来、酒をやめていた。
D・Dはオズボーン家に怒鳴り込むが、サリー・アンは何も知らなかった。
話を引き継いだロイはオズボーンの子飼のチンピラがやったと仄めかすが、D・Dが19日に振り込まれる
金のことを聞くと、眉間に皺を寄せる。
D・Dはリッキーの部屋から盗ったものを返せと詰め寄るが、埒があかず、ロイを殴ってしまう。

47 名前:ムーン・ライティング 11 投稿日:04/06/14 12:38 ID:???
(前スレ491続き)

D・Dは自分を引き取りにきたアンソニーと話し、彼がリッキーの不正を承知していたことを知る。
アンソニーはリッキーの回復を待つしかないと言うが、リッキーが脳に損傷を受け、元通りに回復する
見込みのないことは2人とも知っていた。
ジョン&オーツ社と揉め事を起こすなと命令され、D・Dはやりきれない思いで車を降りる。

D・Dが急に姿を見せなくなったことを気にして、トマスが訪ねて来るが、D・Dはリッキーの頼みが
気になって上の空。喧嘩別れした後、シシィから電話で呼ばれる。
シシィの話から、D・Dはリッキーがアンソニーを副社長にするためにオズボーンに協力していたことを知る。
アンソニーが副社長になれば、リッキーがプログラマーを退くとき次の席を用意してもらえる約束だったのだ。
シシィはリッキーに届いた速達を渡すよう、娘のメイを盾に電話で脅されていた。
速達はリッキーに怪我をさせる以前に発送したものらしい。
D・Dは跡を残さないよう開封し、中に入っていたリストを書き写した後で、指定先に送るように言った。

翌日、D・Dは会社を休んでリストを調べ、それが最近死んだ年金受給者とその年金番号のリストだと知る。
死亡者を引っ越したものとして処理し、年金を不正に受け取っていたのだ。

夜中にD・Dがアパートに戻ると、同僚のマイクとダンが来ていた。
2人は勝手に休んだためボスが怒っていると話し、一旦リッキーの事は忘れるようにと忠告するが、
D・Dは、マイクが以前壊した部屋の鍵を早く直すよう言い捨てて出かけた。
トマスを訪ねると、彼はちょうど変身し終わるところだった。トイレを貸してくれと部屋に入ったD・Dは
特注の巨大な手錠のようなものでトマスの首と便器を繋ぐと、彼に寄りかかって眠ってしまう。

ロイはオズボーンの部屋で、リストを取り返したと報告を受けていた。
念のためD・Dを見張るように言ったところへ、家政婦が掃除に入って来る。
家政婦は、旦那様の部屋に無断で入ってはならない、あなたはまだ旦那様の後継者ではない、と
言ってロイを追い出した。

トマスは結局、人間潰しの散歩には出なかった。
月が沈む頃、D・Dを殴って起こし、鎖を引きちぎってみせる。
「見せたくて待ってたが待ちきれなくて起こした」

48 名前:ムーン・ライティング 12 投稿日:04/06/14 12:39 ID:???
トマスに何か困ったことになっているのかと聞かれ、D・Dは言う。
「オレは何にもしがみつきたくない!
 オレは・・・“もうおまえはいらない”と言われたらさっさと退きたい!
 その時どこに座っていようとも・・・」
D・Dはトマスに、ブラマンジュという菓子を知っているか、と聞いた。
「人間の脳ミソの柔らかさとか密度とかが・・・似てるんだってサ!
 その・・・ブラマンジュだかに・・・」

D・Dはリストの人物の移転先(年金の受取先)を調べようとするが、収穫はなかった。
トマスとともにアパートに戻ると、鍵が取り替えられていて部屋に入れず、マイクから鍵をもらうため会社へ。
会社では、ジョン&オーツ社の差し金で、リッキーの担当していたゴルフ場の仕事が他社に取られそうになり
会議が行われていた。
D・Dはそのゴルフ場に不正が仕組まれているのだと気付く。
ジョン&オーツ社は脅しのためと、横領が見付かった場合は無関係だと主張するため、
監査会社を変えるよう勧めたのだ。
D・Dはアンソニーに、また誰かを差し出して馴れ合うのか、そこまでして副社長になりたいのか、と
言って殴られる。
そこへ、シシィからリッキーの容態が悪化したと連絡が入り、D・Dはトマスをアパートで待たせて病院へ行く。
シシィはまだリッキーを愛していた。
意識障害でもいい、リッキーを助けて、と泣く彼女に付き添ってD・Dは病院に泊り込む。
その間、トマスはD・Dのゴミ溜めのような部屋を掃除。

リッキーが持ち直した日。トマスは病院にいるD・Dにブラマンジュを差し入れた。
D・Dはトマスに、時々周囲が現実感を失っていって、自分自身を遠い存在に感じることがあると話す。
一旦そんな非現実感につきまとわれだすと、今まで熱中していた筈のものや、好きだった筈のものが
本当にそうだったのか分からなくなる、と。
「君は寝不足だ」と言い切るトマス。D・Dは、シシィが戻ったら交替する、と言う。

49 名前:ムーン・ライティング 13 投稿日:04/06/14 12:40 ID:???
シシィは病院に戻ると、リッキーは貴方に渡すつもりだったと思う、と言ってクイズの書かれた紙を渡す。
帰ったらやってみると言うD・Dに、トマスは(スピード違反のため)先に警察に行ったほうがいいと言う。
傍にいた男はそれを聞いてロイに電話。
何か紙きれを渡されて警察に行くと言っている、と聞いたロイは、警察へなど絶対に行かせるな、
と命令する。

D・Dとトマスが病院の外に出ると、リッキーの担当医(「お月様の贈り物」のドクター)に会う。
車が故障中なので送ってほしいと頼まれ、D・D は2人を待たせて自分の車を取りにいく。
そこへ車が突っ込んできて、D・Dをはねた。トマスは立つなと叫ぶが、D・Dは非現実感につきまとわれて
立ち上がってしまい、車の中から拳銃で撃たれる。

ロイはサリー・アンに、D・Dを襲わせたのは本当に貴方ではないのかと問い詰められ、
部下の下手なやり口に苛ついていていた。
家政婦から、オズボーン宛に届いた小包を開封してみるよう言われたロイは、サリー・アンをおいて
オズボーンの部屋に入り鍵をかけた。
そこで、豚に話しかけられる。
ロイの悲鳴に驚くサリー・アン。家政婦は、殺さない約束だから放っておくようにと言って、
彼女に、ロイがオズボーンの部屋でしていた電話の録音を聞かせる。

ロイは豚に変身中のトマスにいびられていた。
トマスはD・Dを殺そうとした仕返しに、一年以内にこの町で殺すとロイを脅す。
トマスが去った後、サリー・アンがロイに何を企んでいるのかと聞きに来るが、放心状態だったロイは
悲鳴を上げて逃げ出してしまう。

トマスはマイクとダンに運ばれてD・Dのアパートに戻った。
マイクはすっかり片付いた部屋を見て、戻ってこれないことを予感して身辺整理をしたのでは、と漏らす。
2人が帰った後、D・Dの母から電話がかかってくる。
「D・Dは相変わらず(頭も顔も悪い)」と聞いて、D・Dがこのまま死んでしまうのではと心配になるトマス。
そこへ能天気な顔でD・Dがやって来た。

70 名前:ムーン・ライティング 14 投稿日:04/06/15 18:13 ID:N6P9TspC

しばらく後。D・Dはリッキーに借りたランダム・ドット・ステレオグラムの本を見ていた。
1つだけ余計なドットの入った絵があるのだ。しかも、浮かんでくるS字の図形に見覚えがある。
トマスに絵を描いて説明すると、「君の会社の受付の壁に掛かっていた」と言われる。
本を借りた時のリッキーの様子から考えて、偶然のはずがない。

人間に戻ったD・Dは、トマスが止めるのも聞かず会社へと急いだ。
会社ののマークの裏には、埃をかぶったテープ(この作品が描かれた当時の記録媒体)が貼り付けてあった。
テープの内容を確認して、エレベーターを降りると、サリー・アンが待っていた。
彼女はロイのしたことを謝罪し、今後2度と手出しさせないと約束して立ち去る。

D・Dはテープをアンソニーに渡した。
ボスの処理の仕方によってはテープのコピーをマスコミに渡すと言うD・Dに、アンソニーはリッキーの仕組んだトリックを
始末するスタッフに加わることを要求。
トマスはD・Dの消極的な解決法が気に入らないが、D・Dは「オレは首尾一貫して事勿れ主義だ」と言う。
トマスは「臆病者」と言って立ち去る。

迎えに来たマイクとともに、プログラム処理に向かうD・D。また、自分を遠く感じる。
一方、トマスはドクターを訪ね、D・Dがトマスを実験材料にすることを断って、彼の手を噛んで行ったことを知る。
「ボクは吸血鬼じゃありませんよ」と言うトマス。
「狼男は噛んでもうつらないのかね?映画の『狼男アメリカン』では確か・・・」
ドクターは噛まれた手を見て、やっぱりトマスを調べてみることにする。

D・Dは作業を終え、酔い潰れていた。
トマスが電話すると、電話に出たD・Dは異様な呻き声を上げる。
トマスはジョン&オーツ社に何かされたか、あるいは自分の血のせいか、と心配して、タクシーで駆けつけるが、
D・Dは舌がつっただけだった。

71 名前:ムーン・ライティング 15 投稿日:04/06/15 18:15 ID:N6P9TspC
その後、トマスはD・Dのアパートに居候。オズボーン家の家政婦とマイクとダンを招いてご馳走する。
家政婦はサリー・アンがスイスの特殊ボディガード養成学校に入ったと話す。ロイは遁走したきりだった。
彼らが帰った後、アイリーンが訪ねてくる。D・Dが連絡したのだ。
トマスは、こんなことをしたって帰らないからな、と言うが、D・Dは2人を部屋に残して出かける。

『翌日トマスはいなくなっていた―オレに朝食さえ置いてゆかず―
 余りに冷たく振られたので淋しくオレは出社した
 以後毎日出勤している』

ドクターと脳の機能について話すD・D。
「つまり・・・まだ脳のことはろくすっぽ分かっちゃいないんだ!ね?
 だったらリッキーの脳も・・・勝手に自己修復を始めることがないとは断言できないんだ」
説明しようとするドクターを遮って、そう考えることに決めた、と言うD・D。
彼には尻尾が生えていた。
一方ドクターの耳は豚耳に変化していた。
D・Dは耳付きの帽子をかぶり、狼の前脚形の手袋をはめて、ドクターを自室に残して出勤。
アンソニーは呆れ、いつも通りD・Dを叱り付ける。

『出勤しだす前にオレはボスがオレを煙たがるのではないか・・・と少々心配していた・・・が!
 最近は少し位は遠慮して欲しいと思っている

 それでもトマスにはオレの尻尾は皆に暖かく迎えられたと報告しようと思う
 そうでなければせっかく血を分けてくれたトマスと歴代の狼男たちに』

ケリーにケーキを見せられ、お手をするD・D。


「僕がすわっている場所」終わり

148 名前:ムーン・ライティング 16〜「ウィリアムの伝説」 投稿日:04/06/21 18:38 ID:ncli/GNe
D・D、トマス、ドクターの3人は「将来馬鹿げた行き違いを起こさない為の協定」を結ぶため、
トマスの隠れ家に来ていた。
ドクターから変身したトマスを初めて見た時拒絶反応はなかったかと聞かれたD・Dは、
化け物が実在するという考えに慣れていたと話す。

D・Dのずっと年長のいとこのウィリアムは、D・Dの故郷の村では伝説的な人物だった。
彼は嵐の日に乗っていたセスナが炎上して湖に堕ち、ただ一人生き残った。
その話は語られるたびに尾ひれがつき、救助隊がいかに苦労して湖に到着したかという点が
強調されるのだが、なぜか湖に着いてからは判で押したように同じになる。
幼い頃、D・Dはウィリアムが化け物だと信じていた。
ある日テレビで、吸血鬼が女性の血を吸って女性がみるみるひからびていくシーンを見たD・Dは、
ウィリアムが人の精気を吸う化け物だと思い込んでしまう。

「血が欲しい」
D・Dとトマスは、体が変化する前と後に採血させてやっていたのだが、ドクターは、
化け物は朝日に弱いというし、朝日が昇ったから採血したいと言う。
採血後、いずれ骨髄穿刺もやりたいと言い出し、2人が抗議しようとすると、
「さらなる変化があった場合は他2名への報告を義務づける」という協定を拡大解釈してみせる。
トマスは協定を結ぼうと言い出したD・Dにあたる。
そこへドクターが、月が雲に隠れたからと声をかけ、トマスは「黙れ!!この吸血鬼野郎!!」と怒鳴る。

D・D回想。
D・Dは、子や孫の嫁の精気を吸って生きている、と陰口をたたかれているフォルナーの婆さんに、
ウィリアムに精気を吸われないで済む方法を聞きに行った。
フォルナーの婆さんはD・Dの母エレのように頭ごなしに否定せず、D・Dの話を聞いてくれた。
帰ろうとしたD・Dは、ふと思いついて、なぜ精気を吸うのか聞いた。
婆さんは、絶対百迄生きるのだと答えた。

149 名前:ムーン・ライティング 17〜「ウィリアムの伝説」 投稿日:04/06/21 18:39 ID:ncli/GNe
「それで化け物になったんだな。
 お母ちゃんは化け物なんていねェって言うけど、でもいるよなあ!
 森の中にも悪いのがいて、女の子にその女の子の赤ン坊の首絞めさせたり・・・するよなあ?」
フォルナーの婆さんはD・Dを呼び戻し、D・Dが実の母(エレの娘)に首を絞められたことを
覚えていると知ると、秘密を守るように約束させて言った。
「誰にも言っちゃなンねェぞ!ワシが本当は化け物だって事は!」

D・Dはかぼちゃのスープをよそいながら、ドクターに話す。
「そういう意味ではボクには化け物という存在が必要だったのかも知れませんがね
 幼い実の母親に殺されかけた記憶を持ってて・・・でも自分を傷つけずにおくために!
 多分フォルナーの婆さんもそう考えたんでしょうね」
トマスはすっかり機嫌を損ねて木の上にいた。
D・Dがトマスを呼びに行って戻ると、ドクターが皿に盛った分を残して、スープを全部食べてしまっていた。
「ボクが23マイルも跳びはねて畑から盗ってきたかぼちゃだ!!」
トマスは協定の条項を1つ増やした。

「ボクは・・・本当は化け物じゃないと途中で気付いて・・・でも婆ちゃんを好きだった!
 だけどあんた達はどれ程はっきりと“仲間”だと分かっててもそれでも大嫌いだ!」
D・Dはそう言って出て行ってしまう。
ドクター「あれじゃないのかね?よくあるだろう?
   “不憫な子”だとか言って女共が矢鱈とかばっては ちやほや面倒みてやったり
   御機嫌取ってやった為に 自力では困難に立ち向かえなくなったり
   最後迄自分で責任を取るという事を覚えられなかったりというパターン!・・・彼も多分」
トマス「貴方もしや“不憫な子”に恨みでも?」
ドクター「うん!ある!!」

150 名前:ムーン・ライティング 18〜「ウィリアムの伝説」 投稿日:04/06/21 18:40 ID:ncli/GNe
D・Dは町でかぼちゃを分けてもらい、もう一度スープを作った。
トマスは満足して、5年も修行すりゃうちでコック見習い位にはしてやってもいい、と言う。

ドクターはD・Dに、今でもウィリアムは化け物だと思っているかと尋ねる。首を振るD・D。
「違うでしょうね。ウィリアムは多分人間なんだ。」

月が沈み、人間に戻ったところで、最後の採血を済ませ解散。
ドクターはD・Dに、ウィリアムは化け物だと思っていると言う。
「ウィリアムは大人だったろう?他の人々と大人らしい付き合い方をしていただろう?
 そして多分君の気持ちはその時から殆ど成長していないんだろう?
 結局はウィリアムは上手くやったんだ!だから私は君を大目に見る
 私の言わんとする所は分かるだろうね?えっ?。」
トマス「気にするな!君のほうが あいつよりは まだましだ!」
言いたいことを言って、さっさと行ってしまう2人。
トマスはドクターに追いつき、他の不憫な子への恨みをD・Dではらさないように言う。
ドクター「言い方がきつすぎたかね?
    で・・・彼は?お母ちゃんと婆ちゃんの世界かね?」

D・Dは思う。
「遅くとも25歳までには化け物に頼らない普通の大人になるんだと・・・決めてたのに
 その前に自分が化け物になっちまって しかもあんな仲間しかいなくて・・・」
「婆ちゃあん!!」と叫ぶD・D。
「バカ野郎!!裏切り者!!絶交だ!!」トマスはドクターを乗せ、D・Dの車を運転して行ってしまう。
とり残されるD・D。

(完)

151 名前:ムーン・ライティング 投稿日:04/06/21 18:40 ID:ncli/GNe
以上です。
続編に「Sons」というのがあります。
D・Dとトマスの少年時代の話です。
D・Dの出生については、こちらに詳しく描かれています。

「X Day」にもダドリー・デビッド・トレヴァーなる人物が登場しますが、綴り1文字違う別人です。
その辺りの理由は「ムーン・ライティング」のコミックス(全2巻)と文庫(全1巻)あとがきに書かれています。

ちなみに、「X Day」の関連作には、「Die Energie5.2☆11.8」「踊りたいのに」
「かくれちゃったの だぁれだ」(絵本)があります。