MONSTER/浦沢直樹
190 名前:MONSTER[sage] 投稿日:05/02/04 08:25:43 ID:???
浦沢直樹(うらさわ・なおき) 小学館 『MONSTER』 全18巻

ドイツ・アイスラー記念病院の天才脳外科医天馬賢三。9年前、彼がその命を救った少年ヨハンは怪物
(モンスター)という名の殺人鬼だった。ひとりでも多くの尊い命を守るため、テンマは逃亡を続けながら、
ヨハンを追跡する。ドイツ・ハイデルベルク大学の学生ニナ・フォルトナーは、20歳の誕生日に養父母を
殺害され、ある失った記憶を取り戻す。彼女もまた、行方不明の双子の兄ヨハンを追跡する旅に出る。

テンマは、ヨハンを追う過程である極右組織の存在を知る。彼らは祖国東ドイツの復活を願い、ヨハンを
絶対的な指導者として迎えようとしていた。計画は用意周到に組まれ着実な進行を見せていたが、突如
その歯車が狂い出す。ヨハンの闇は深すぎた。暴走を止める術もなく、組織の人間や彼に関わった者は
次々と葬られていく。一方、ニナはヨハンの足跡を辿りながら徐々に溢れ出すおぞましい記憶に苦しむ。

怪物ヨハンのルーツは、フランツ・ボナパルタという人物にあった。彼は計画の首謀者だった。彼の著作、
彼の邸宅、彼の行動、彼の本当の願い…一連の悲劇の終焉を迎えるべく、ヨハンは彼の故郷を目指す。

怪物ボナパルタの故郷で、遂にテンマはヨハンを発見し、銃口を向ける。テンマが選ぶのは、生か死か。
対峙するふたりの間に一閃が駆け抜け、ヨハンは頭を撃ち抜かれる。惨劇は幕を下ろし、テンマは再び
ヨハンの命を救う。……病室のベッドから忽然と消えたヨハンは、今いずこ。        <了>

32 名前:MONSTER chapter1[sage] 投稿日:05/01/27 08:29:26 ID:???
浦沢直樹(うらさわ・なおき) 小学館 『MONSTER』 全18巻

ドイツ・アイスラー記念病院に勤務する日本人医師天馬賢三(てんま・けんぞう 以下テンマと表記)。
天才脳外科医として名を馳せる彼は、ハイネマン院長の身勝手な振る舞いや院内での派閥争いに
辟易しながらも、院長の愛娘エヴァと婚約し、出世魚のごとく順風満帆な人生を送っていた。

ある日、テンマは、頭部に銃弾を撃ち込まれ、瀕死の重傷を負った少年ヨハン・リーベルトの命を救う。
しかし、ほぼ同時刻に搬送された市長の手術執刀という院長命令に背き、ヨハンの手術を優先させた
彼は、市長の死の責任を問われ、政治的に窮地に立たされる。エヴァとの婚約を破棄され、院内での
立場をも失うテンマ。しかし、院長ら上層部の怪死により、計らずも外科部長に昇進する。

BKA(ドイツ連邦捜査局)の敏腕警部ルンゲは、事件の犯人として真っ先にテンマを疑う。犯行手口、
状況証拠、はては動機に至るまで、列挙された事柄はあまりにテンマに不利だった。

9年後、テンマの前に成長したヨハンが現れる。事件当夜、喧騒に包まれた病院から妹アンナを連れて
失踪していた彼は、院長らを殺害したのは自分だと告白。さらに、過去2年間に起こった4件の中年夫婦
連続殺人事件への関与もほのめかせたヨハンは、その事件の重要参考人である男をテンマの目の前で
射殺する。「私は、モンスターを蘇らせてしまった」テンマは、無実の罪で追われながらヨハンを追跡する。

33 名前:MONSTER chapter2[sage] 投稿日:05/01/27 08:30:10 ID:???
ドイツ・ハイデルベルク大学の学生ニナ・フォルトナー。聡明で快活な彼女だが実は10歳以前の記憶を
失くしていた。ある日、ニナは「もうすぐ迎えに行く」という差出人不明のメールを受ける。ロマンチックな
文を紡ぐその人物に白馬の王子様を重ねるニナだが学内で見覚えのある男(=ヨハン)を見て卒倒して
以来、気味が悪くなる。数日後、新たにメールが舞い込む。「誕生日の夜、ハイデルベルク城で会おう」

一方、テンマは独自にヨハンの足跡を辿っていた。ヨハンは過去に殺害された中年夫婦らの養子となり、
名前を変えながら各地を転々としていた。テンマはただひとりヨハンを覚えていた盲目の老人の証言から
ヨハンが現在ハイデルベルクにいると突き止める。また過去の新聞記事から、9年前ハイデルベルクに
住むフォルトナー夫妻が、行方不明になった双子の兄の捜索願を出していたことを知る。

誕生日当日。ハイデルベルク城でメールの差出人を待つニナの元に駆けつけたテンマは、男に襲われる。
二ナに助けられたテンマは、彼女を乗せて一路フォルトナー家へ車を走らせる。しかし、既に夫妻は殺害
され、その凄惨な現場を見たニナは「あの時あたしがお兄ちゃん殺したのに!!」と口走る。やはりニナは
アンナだった。ふたりは現れた刑事に保護されるが、テンマは、彼らが夫妻殺しの犯人だと気づき、ニナと
ともに逃走する。ニナは記憶を少し取り戻し、9年前、養父母のリーベルト夫妻を殺害した兄ヨハンの頭を
撃ったと告白。テンマは警察に赴くが、そこに夫妻を殺害した刑事がいたためやむなく引き返す。ヨハンは
警察内部とも通じていた。ニナはひとりヨハンを求めて旅立つ。生き返った兄を再びこの手で殺すために。

一方、ハイデルベルク城でテンマを襲った男も何者かに殺害されていた。現場で発見されたタイをテンマの
ものだと証言する元婚約者のエヴァ。彼女は3回目の結婚にも失敗しテンマをその元凶と考え憎んでいた。
警察はテンマを重要参考人として確保せんとするが、既にテンマは、辞表を提出し病院から姿を消していた。

34 名前:MONSTER chapter3[sage] 投稿日:05/01/27 08:30:50 ID:???
5ヶ月後、指名手配中のテンマは、新たに発生した中年夫婦殺人事件の現場に行きそこで空き巣を働く男
ヘッケルと会う。彼はテンマにこの事件の真犯人を教える代わりにもぐりの医者にならないかと持ちかける。
案内された安アパートに住む男は、夫婦殺害はヨハンの依頼だった、現場にヨハンからメッセージがあると
言い残して自殺する。現場に戻ったテンマは、壁に大きく書かれたメッセージを発見し、身体を震わせる。
「僕を見て!僕を見て!僕の中のモンスターがこんなに大きくなったよ、Dr.テンマ」

9年前、双子が暮らしていた旧東ドイツのリーベルト邸を訪れたテンマは、あの双子が孤児院育ちだと知る。
兄ヨハンが育った孤児院「511キンダーハイム」の元関係者ハルトマンは、ヨハンに心酔し、孤児院が閉鎖
された後も第2のヨハンを創造しようとしていた。テンマは彼に虐待されていた少年ディーターを連れ出す。

テンマは、妹アンナがいた別の孤児院で「511キンダーハイム」の実態を知る。そこは、親が罪を問われた
ために引き離されて孤児となった子どもらが、非人道的な扱いを受け育った場所だった。旧東ドイツ政府は
完全な兵士育成を目論み、孤児らに様々な実験を課していた。やがて彼らは、徒党を組んで憎み合い争い
合い、冷徹な戦士となっていった。しかしある日、院長の変死から始まった「革命」は、教官や孤児を含めた
全メンバーが殺し合い、全員が死亡するという形で幕を下ろす。この狂騒劇を扇動したのはヨハンだった。

35 名前:MONSTER chapter4[sage] 投稿日:05/01/27 08:32:49 ID:???
テンマはニナの養父母だったフォルトナー夫妻を殺害した刑事のひとりメスナーに接触する。彼は警察を
辞職し、「赤ん坊」という極右の大物の元にいた。薬物の禁断症状に侵されていた彼は「赤ん坊」に頼まれ
ニナと引き合わせたと話す。彼女を救うべく、巨大極右組織に乗り込んだテンマは、そこでヴォルフ将軍と
面会する。彼は、チェコの国境近くを飢えて彷徨っていた双子の兄妹を保護し「なまえのない」兄にヨハンと
名付けた人物だった。旧東ドイツ時代、ヨハンの才能をいち早く見出したヴォルフは、彼を「511キンダー
ハイム」に送り込み、崩壊寸前の国を支える優秀な人材として、また第2のヒトラーのような指導者とすべく
育て上げようとした。しかし、やがてヨハンの内に潜む計り知れぬ闇に気づいた彼は、恐怖で老衰した顔で
テンマにヨハンを殺して欲しいと依頼する。

一方、「赤ん坊」を通じ、組織でヴォルフと双璧をなすゲーデリック教授と対面したニナは、いつのまにか
教授含め、屋敷中の人間が殺されていることに気づく。現場にはヨハンからメッセージが残されていた。
テンマもまた、メッセージを受けて指定された場所へと向かう。ニナと行き違いになりながら彼はヨハンの
心の叫びを見る。「助けて!僕の中のモンスターが破裂しそうだ!」

36 名前:MONSTER chapter5[sage] 投稿日:05/01/27 08:33:45 ID:???
テンマは、大学の同期で現在は犯罪心理学の権威として活躍するDr.ギーレンを訪ねる。彼は、ヨハンが
書き残したメッセージを見せ意見を求めるが、ギーレンはテンマの話を信用せず、警察に通報する。しかし
自ら調査中のある殺人事件の現場でそれと酷似した文面の手紙を発見、一転ヨハンの存在を信じ始める。
ギーレンは、分析医としてテンマにある見解を示す。ヨハンは、殺人者を見分け、彼らの孤独に入り込み、
操ることが出来る。彼は理想の家族を探し求め、様々な養父母に寄生し、いらなくなった時点で殺害する。
己の過去を知る者を処分するために。テンマはギーレンの協力で張り込んだ警察から逃れ、ヨハンを追う。

ニナの養父母を殺害したもうひとりの刑事ミハエルは、多額の報酬を手に入れ、警察を辞め、家族とともに
悠々自適に暮らしていた。しかし、悪夢にうなされるミハエルは、探偵を雇い事件の関係者の追跡調査を、
またボディガードを雇い身辺警護を依頼していた。ある日、探偵が殺害され、ニナが現れる。ミハエル邸の
隣の空き家に潜み、しばらく監視を続けていた彼女は、ボディガードのロベルトが探偵を殺したと言い放ち、
探偵が収集した資料を持ち出す。しかし、ミハエルの家族を人質に取られたニナは取引に応じ、ロベルトは
奪った資料を手に彼女に告げる。ヨハンは今、ミュンヘンで理想的な家族とともに幸せに暮らしていると。

37 名前:MONSTER chapter6[sage] 投稿日:05/01/27 08:34:33 ID:???
院長邸宅を焼き払い、テンマを追い続けるエヴァの元にロベルトが現れる。彼女はヨハンを知りすぎていた。
テンマとヨハンが9年ぶりに再会したあの雨の夜、耳にした3発の銃声と青年ヨハンの顔、そして翌日、その
現場で発見された射殺体。エヴァは直感した。ヨハンがこれら一連の事件の背後にいる。エヴァはテンマの
無実を知る証人でありながら、彼に対する執着と愛憎から口を固く閉ざしていた。ロベルトはヨハンの過去を
知る者として彼女を殺そうとするが、そこにテンマが現れ、エヴァは一命を取り留める。

「バイエルンの吸血鬼」との異名を持つ財界の重鎮シューバルト。彼の屋敷でアルバイトをして働く大学生
カールは、かつてシューバルトと愛人の娼婦の間に出来た子どもだったが、当の本人は息子と名乗り出る
つもりはない。ある日、シューバルトの前に彼の息子を騙る青年が現れる。カールは、男の正体を暴こうと
友人ロッテとともに男の家に乗り込むが、彼は既に自殺していた。翌日、なにか釈然としない思いを抱える
ふたりにヨハンが接触する。既に屋敷に出入りしていた彼は、カールを利用してシューバルトに近づこうと
画策する。そしてヨハンの計らいにより、シューバルトとカールは親子の対面を果たす。

61 名前:MONSTER chapter7[sage] 投稿日:05/01/28 08:26:11 ID:???
元刑事で現在、探偵業を営むリヒァルトは、シューバルトの依頼で息子の死亡調査をしていたが、彼が
偽者だったためにそれも立ち消えになる。しかし、リヒァルトはその死を他殺だと見抜き背後にヨハンの
存在を確信したため、彼によって殺害される。

精神科医Dr.ライヒワインはリヒァルトの知人だった。彼は、リヒァルトの死(飲酒運転による転落死)に
疑問を持ち、生前彼が語っていた「ヨハン」について調べ始める。そんなライヒワインの元を、教え子の
ギーレンが訪ね「ヨハン」の存在はより明らかになる。ある日、真相に迫るライヒワインはロベルトに命を
狙われたところをテンマによって助けられる。テンマはリヒァルトの記事を見てそこにヨハンの影を感じ、
ライヒワインの身辺を張っていた。ライヒワインらは、証拠を揃えヨハンを警察に突き出すことでテンマの
無実を証明しようとするが、テンマの目的はただひとつ、自らが蘇らせてしまったモンスターを殺すこと
だった。テンマは、ディーターをライヒワインの元に預け、ひとりヨハンを追跡すべく旅立つ。

62 名前:MONSTER chapter8[sage] 投稿日:05/01/28 08:27:20 ID:???
ニナは、ロベルトの言葉を頼りにミュンヘンを訪れてロッテと知り合う。ロッテは、ニナにヨハンを重ねる。
シューバルトは、屋敷内に保管してあった大量の蔵書を大学図書館に寄贈すると決める。全ては息子
カールの一件以来、片腕として働くヨハンのプログラム通りに進行する。図書館にて寄贈セレモニーが
行われることとなり、その下見に訪れたヨハンは、チェコ語で書かれたある絵本を見て卒倒する。

63 名前:MONSTER chapter9[sage] 投稿日:05/01/28 08:28:38 ID:???
セレモニー当日。シューバルトの動向を探っていたテンマは、狙撃銃を手に入れ、予め館内に忍び込み
その機会を窺う。しかし、ヨハンに狙いを定めたテンマの背後にロベルトが現れふたりは揉み合いになる。

一方、ニナはロッテからヨハンがチェコ語の絵本『なまえのないかいぶつ』を見て卒倒したと聞く。問題の
絵本を読み、言いようのない懐かしさを覚えたニナは、銃を片手に図書館へと急ぐ。

会場は、ヨハンの仲間が火を放ち、業火の海となる。式典に参列した多くの人々が出入り口を求めて
逃げ惑う様を見つめながら、ヨハンは満足そうにシューバルトに告白する。「僕はおとぎの国のような
街で生まれた。たくさんの人が死んで…世界に僕ら二人だけみたいだった。僕らには名前がなかった」
そこにロベルトを退けたテンマが駆けつけ、ヨハンに向けて銃を構える。時同じくして駆けつけたニナも
またヨハンに銃を向けるが、ヨハンは火と煙の中に消える。図書館から脱出したニナは、ライヒワインや
ギーレンの元で記憶の断片をまた少し取り戻し、彼女はそれを手がかりにディーターとプラハに立つ。

一方、テンマもシューバルトの証言(「双子の母親はプラハで生きている」)から単身プラハに向かう。

64 名前:MONSTER extra1[sage] 投稿日:05/01/28 08:30:02 ID:???
『なまえのないかいぶつ』 著:エミル・シェーベ(=フランツ・ボナパルタ変名)

むかしむかしあるところに、なまえのないかいぶつがいました。
かいぶつは、なまえがほしくてほしくてしかたありませんでした。
そこでかいぶつはたびにでて、なまえをさがすことにしました。
でもせかいはひろいので、かいぶつはふたつにわかれてたびにでました。
いっぴきはひがしへ、もういっぴきはにしへ。
ひがしへいったかいぶつは、むらをみつけました。
「かじやのおじさん、ぼくにあなたのなまえをください」
「なまえなんて、あげられるものか」
「なまえをくれたら、おれいにおじさんのなかにはいって、ちからをつよくしてあげるよ」
「ほんとうか、ちからがつよくなるなら、なまえをあげよう」
かいぶつはかじやのなかにはいっていきました。
かいぶつはかじやのオットーになりました。
オットーは、むらいちばんのちからもち。でも、あるひ、
「ぼくをみて ぼくをみて、ぼくのなかのかいぶつがこんなにおおきくなったよ」
バリバリグシャグシャバキバキゴクン。
おなかのすいたかいぶつは、オットーをなかからたべてしまいました。
かいぶつは、また、なまえのないかいぶつにぎゃくもどり。
くつやのハンスのなかにはいっても、バリバリグシャグシャバキバキゴクン。
また、なまえのないかいぶつにぎゃくもどり。
かりうどのトマスのなかにはいっても、バリバリグシャグシャバキバキゴクン。
やっぱり、なまえのないかいぶつにぎゃくもどり。

65 名前:MONSTER extra2[sage] 投稿日:05/01/28 08:31:06 ID:???
かいぶつは、おしろのなかにすてきななまえをさがしにいきました。
「きみのなまえをくれたら、つよくしてあげるよ」
「びょうきがなおってつよくなるなら、なまえをあげる」
かいぶつはおとこのこのなかにはいりました。
おとこのこは、とてもげんきになりました。
おうさまはおおよろこび。
「おうじがげんきになった。おうじがげんきになった」
かいぶつは、おとこのこのなまえがきにいりました。
おしろのくらしもきにいりました。
だから、おなかがすいてもがまんしました。
まいにちまいにち、おなかがぺこぺこでもがまんしました。
でもあまりおなかがすいてしまったので、
「ぼくをみて ぼくをみて、ぼくのなかのかいぶつがこんなにおおきくなったよ」
おとこのこは、おうさまもけらいもみんなたべてしまいました。
バリバリグシャグシャバキバキゴクン。
あるひおとこのこは、にしへいったかいぶつにであいました。
「なまえがついたよ。すてきななまえなんだ」
にしへいったかいぶつはいいました。
「なまえなんていらないわ。なまえなんてなくてもしあわせよ」
「わたしたちは、なまえのないかいぶつですもの」
おとこのこは、にしへいったかいぶつをたべてしまいました。
せっかくなまえがついたのに、だれもなまえをよんでくれるひとはいなくなりました。
ヨハン、すてきななまえなのに。

163 名前:MONSTER chapter10[sage] 投稿日:05/02/01 07:29:39 ID:???
プラハ行きの列車内で偽造パスポートを見破られたテンマは、ジャーナリストを名乗る男グリマーにより
助けられる。テンマと別れ、プラハに着いたグリマーは、かつて(ヨハンが現れる以前に)「511キンダー
ハイム」の院長だった老人と接触するが、彼は何者かによって殺害される。絶命寸前、彼は貸し金庫の
存在をグリマーに伝える。そこには、孤児院で行われたという数々の実験の記録とそこを破滅に導いた
怪物ヨハンの声を収めたテープが保管されているという。この事件には、多くの目撃者がいた。彼らは、
口を揃えて証言する。院長殺害の実行犯は、長い金髪を風になびかせた若く美しい女だったと。

事情聴取のため警察を訪れたグリマーは、その帰り道に男らに襲われる。彼らは先ほど署内で会った
ゼーマン警部の仲間で、ヨハンの声を録音したテープを極右組織に売却し、一儲けしようと企んでいた。
遅れてきたゼーマンも仲間に加わり、グリマーは、ひどい拷問を受けてやがて意識を手放す。薄れゆく
意識の中で彼は、銃を構えた金髪の少女の残像を見る。ふと目を覚ました彼の前に転がる3つの死体。
ひとりは銃殺、残りのふたりは撲殺。血に汚れボロボロになった両手を見つめながらグリマーは呟いた。
「超人シュタイナーか……また、やっちゃった……」

プラハ署の新米刑事スークは、生前世話になった先輩ゼーマンを思い、ひどく落ち込んでいた。そんな
彼の前に金髪の美女が現れ、スークは密かに恋心を募らせる。

一時は弔い合戦に燃えたスークだったが、ゼーマンが旧チェコスロバキアの秘密警察と通じていたこと、
さらには署内にいまだ元秘密警察のスパイが潜んでいることを突き止め愕然とする。極右組織と繋がる
彼らの目的は、旧東ドイツ時代、闇に存在したといわれる特別孤児院の現存資料と、少年ヨハンの肉声
テープ。「何も信じられなくなった……」孤独と失望に揺れるスークが女にそうもらした夜、署内では殺人
事件が発生、署長以下上層部3名が殺害された。死亡した彼らはスークによりその黒い関係を暴かれた
スパイだった。刑事生活初の大手柄は一転、疑惑の目を向けられたスークは暗雲に飲み込まれる。

164 名前:MONSTER chapter11[sage] 投稿日:05/02/01 07:30:49 ID:???
スークは、その後もたびたび金髪の美女と会い、請われるままに事件の詳細や内部情報を話していた。
そして一連の事件の原因である貸し金庫の存在を明かした夜、彼女は、初めてスークに名前を名乗る。
「アンナ・リーベルト」──金髪美女アンナの正体は女装したヨハン。しかし誰もその事実に気づかない。

スークとグリマーは貸し金庫のテープを再生する。薬物投与されたヨハンが、核心について語り始めると
突然グリマーは、激しい吐き気を催してテープを止める。

警察内部に諜報員、さらには署内での殺人事件という二重の失態から、上層部を一新し、特別チームを
組織したプラハ署は、スークとグリマーを監視する。部屋から殺人事件の重要証拠があがったスークは、
連行されかけるが、ふと目を離した隙に担当刑事が射殺され、彼は無実の罪で追われる身となる。

一方、テンマは新聞記事でスーク事件を知り、いくつかの重要なキーワードが自分の追われている事件と
似ていることから、ヨハンの関与を疑う。彼は、スークの母と話し潜伏先のヒントを得てその場に急行する。

スークは記録とテープを母の元へ送りグリマーと廃ビルに潜むが、元秘密警察の追っ手がすぐ近くに迫り、
スークは銃撃される。瀕死の彼の側でグリマーは超人シュタイナーに変身する。一足遅れてテンマが乗り
込むと、息も絶え絶えに這う男らと呆然と佇むグリマーがいた。テンマの問いに彼は答える。これは、もう
ひとりの自分がやった、俺は「511キンダーハイム」の出身、当時の記憶は断片しかない、奇妙な授業の
せいでみんな忘れてしまったと。(超人シュタイナーとは少年グリマーが観ていたアニメの無敵のヒーロー)

テンマとグリマーは、搬送先の病院から連れ去られたスークを探して旧チェコスロバキア秘密警察の大物
カレル・ランケ大佐と会合、そこで取引を成立させる。スークの無事を確認後、3人はテープを再生させる。
「……僕が、一番怖いもの……アンナを、忘れてしまうこと。アンナを忘れさせないで…世界には、アンナと
僕、二人だけなんだ……」ここで少年ヨハンの言葉は途絶え、現在のヨハンが話し出す。テープは、上書き
録音されていた。「僕がどこへ行くべきか……やっとわかったよ、Dr.テンマ」

165 名前:MONSTER chapter12[sage] 投稿日:05/02/01 07:31:49 ID:???
長期休暇中のルンゲは、プラハ警察署に知人を訪ねる。彼は『なまえのないかいぶつ』という絵本の
一節にヨハンのメッセージとの類似点を発見していた。スーク事件に揺れる署はルンゲに意見を請い、
彼は事件の特徴が共通することからテンマを思い描く。行方不明になったスークを心配する友人らは、
ルンゲに対し、最近、彼に「アンナ・リーベルト」という彼女が出来たと証言する。

ルンゲは、出版社に立ち寄り、そこで絵本の著者エミル・シェーベが、いくつかのペンネームを使い分けて
いたことを知る。さらに美しい妊婦と双子の兄妹が描かれた大量のラフスケッチを発見した彼は、いくつか
あるペンネームのひとつ「フランツ・ボナパルタ」を調べるうちにランケに辿りつく。彼は旧チェコスロバキア
秘密警察の人間だった。ルンゲは、ランケからボナパルタの邸宅「赤いバラの屋敷」とそこで起こったある
惨劇を聞く。ルンゲは、屋敷内に忍び込み、閉ざされた扉をこじ開け、そこに一枚の肖像画を見る。それは
あのラフスケッチ画の女性、若き日の双子の母親の姿だった。

一方、グリマーはスークに掛かる全ての嫌疑を被って逃亡すると決意し、テンマと別れる。テンマは一路
「赤いバラの屋敷」を目指すが、市民の通報を受けて駆けつけた警察によって拘束される。

166 名前:MONSTER chapter13[sage] 投稿日:05/02/01 07:32:56 ID:???
「赤いバラの屋敷」を再度訪れたルンゲは、肖像画の裏にドイツ語で殴り書きされた手紙を見つける。
「怪物から美女への恋文 君のことをずっと見ていた 君のすべてを食い尽くすために見ていた だが
逆に君のすべてが私を侵食した……」

ライヒワインの元にアルコール依存症を訴えやってきたエヴァは、そこでテンマ拘束を知る。テンマの
無実を訴えるライヒワインら友人や元患者たちは、法曹界の寵児ヴァーデマンに彼の弁護を依頼する。

テンマは、ドイツに強制送還された後も黙秘を続けていたが、ある日、弁護士ヴァーデマンの相棒と
してロベルトが面会に現れ、エヴァ殺害をほのめかす。ロベルトは、火の海と化した図書館からうまく
逃げ遂せていた。エヴァの危機を救うべく、脱獄王ミルヒと脱走を図ったテンマは、その足でエヴァの
宿泊するホテルの部屋に駆けつけるが、既にそこは空だった。

一方、ルンゲは弁護士ヴァーデマンを訪ね、絵本の著者ボナパルタとヴァーデマンの亡き父が「赤い
バラの屋敷」で密会していたと話し始めると、ヴァーデマンはひどく動揺した素振りを見せる。

181 名前:MONSTER chapter14[sage] 投稿日:05/02/02 07:26:08 ID:???
冤罪立証の名弁護士ヴァーデマン。彼が法曹界で頭角を現せた原動力は父に掛けられたスパイ容疑(死後
冤罪確定)にあった。しかしある日彼は父が本物のスパイだったという証拠を発見する。ボナパルタとの密会
記録を記した手帳。テンマはロベルトの本当の目的に気づき、手帳を持って「赤いバラの屋敷」へ向かう。

一方、ニナは断片的な記憶を頼りにして、遂に「赤いバラの屋敷」に辿りつく。屋敷内に侵入したニナは、
不気味な扉の向こう側に多くの折り重なる死体を見て卒倒し、そこを人形使いのリプスキーに救われる。
彼は創作イメージを得ようと頻繁に屋敷を訪れていた。彼の部屋は大量の絵本で埋まり、ボナパルタの
著作もあった。リプスキーは回想する。かつてあの屋敷で定期的に開かれていた朗読会のことを。彼が
ボナパルタの絵本を朗読し始めると、ニナはあの惨劇を蘇らせる。──1986年、雨の降る夜。アンナ・
リーベルトは養父母を殺害した兄の頭を撃った。ヨハンは言った。「怪物がやってきたんだ……大丈夫…
僕が死んでも……君は僕で……僕は君……」ヨハンの言う「怪物」は誰?あの日、誰か訪問者がいた?

その頃、「赤いバラの屋敷」をひとり訪れたヨハンは、母の肖像画の前でマッチに火を点した。

全焼した屋敷を前にしたテンマは、再びヴォルフの元に案内される。衰弱した彼は、自分を取り巻く人間が
次々とヨハンによって葬られたと話す。自分の名前を知る者は全て消え失せた。私は誰だ?私はヨハンに
名前を奪われた。これが、彼の言う名前のない世界か。焼失した屋敷跡から大量の白骨体が発見された。
彼らもまたヨハンにその名前を奪われた者たちだ。どんなに身元を調査してもそれは徒労に終わるだろう。
彼らが白日の下に晒されたとき、既に彼らを知る者はこの世に存在しないのだから。エヴァは組織のある
人物がヨハンに通じる大事な駒として保護しているという。彼らは、ヴォルフの及ばぬところで暴走を始め
ヨハンの恐怖にまだ気づかない。彼らが気づいたとき、それは彼らの命がヨハンの手の中にあるとき。

ニナは屋敷の残骸を見る。多くの白骨体。折り重なり倒れる人々。彼女の見た幻影は間違いなく本物
だった。ニナと入れ替わるようにリプスキーを訪ねるひとりの男。ルンゲはボナパルタの息子に辿りつく。

182 名前:MONSTER chapter15[sage] 投稿日:05/02/02 07:27:18 ID:???
「赤いバラの屋敷」で行われた朗読会の参加者ペトル・チャペックと特別孤児院「511キンダーハイム」
出身の青年クリストフ・ジーヴァーニッヒ。組織の統率者4人のうち、ヴォルフとゲーデリックは既に死に
彼らふたりが残った。彼らはヴォルフの話した暴走する組織の幹部だった。エヴァに与えられた仕事は、
ヨハンと彼らの橋渡しをすること。何度目かのパーティでその役目を果たし終えた彼女は死を覚悟する。
しかし、彼女を護衛していた男マルティンは、組織を裏切り、その命と引き換えにエヴァを逃がす。

ニナは、プラハに残って記憶の糸を手繰っていたが、屋敷を取り囲むバラの棘を指に刺した瞬間から、
フラッシュバックが始まる。溢れる記憶に苦しむニナを見て、ディーターは耐え切れず、ライヒワインの
元に帰ろうと諭す。一度は戻ったニナだったがライヒワインに宛てたテンマの手紙を読んで彼の悲壮な
決意を知り、やはり全てを取り戻そうと再度ギーレンに協力を仰ぐ。そして、彼女は記憶の扉を開いた。

幼いニナは、母とヨハンとともにプラハの狭い路地裏で息を潜めて暮らしていた。父は組織に抹殺され、
母は双子を連れて逃亡した。彼女はヨハンに女装をさせ、美しい双子は完璧に同一視された。全ては、
組織の陰謀から逃れるための手段。しかし、ある日その隠れ家にボナパルタとチャペックがやってくる。
「実験だ」母は両脇にしがみつく幼い双子を見比べ、ヨハンを差し出し、ニナを残した。母と兄は組織に
連行され、妹はひとり取り残された。……でもこの記憶は……。ニナは闇に沈んだ真実を認めテンマを
救うべく、彼のいるフランクフルトに旅立つ。

183 名前:MONSTER chapter16[sage] 投稿日:05/02/02 07:28:16 ID:???
「赤ん坊」が殺害された。腹心の部下を失い、ふいにチャペックは周囲の異変を感じ取る。ヨハンの行動が
読めない。闇が迫ってくる。全てプログラム通りのはずなのに。暴走しているのは誰だ?私か?ヨハンか?
我々とヨハンは常に同価値だと思っていた。…本当に対等に渡り合えると思っていたのか?あの怪物と?
チャペックはようやくヨハンの闇に気づいた。迫りくる危機に身の安全を考えた彼は、組織の者が知らない
何人も不可侵の山荘を目指す。しかし、到着した彼を出迎えたのはヨハンだった。ヨハンは、ボナパルタの
所在を問う。──フランツ・ボナパルタ。一連の惨劇の引き金を引いた男。『なまえのないかいぶつ』はじめ
何冊もの絵本を描き、その異様な世界観で洗脳教育を施したプログラムの首謀者。──1986年、雨降る
夜。リーベルト夫妻殺害のあの日、彼は双子の元を訪れていた。ヨハンの言う「怪物」は、ボナパルタ。

一方、ニナは、チャペックから出生に関する衝撃の事実を聞く。彼らの計画は、実に綿密に練られていた。
優秀な遺伝子同士の結合。父と母の出会いも全て仕組まれたものだった。全ては祖国東ドイツの発展の
ため、有能な人材の育成のため、ボナパルタの計画を完璧に遂行するため……。ふたりは極右組織から
逃亡を図り、失敗し、引き離された。既に懐妊していた母は、毎日のように面会に来てはラフ画を描いて
いくボナパルタに、呪いの言葉を吐き続けた。「私は……あなたを決して許さない……私が死んでも……
この私の中で、どんどん大きくなっていくこの子達が……必ずあなたに復讐する」……双子が復讐する。
チャペックの精神は既に崩壊を始め、ニナはヨハンの元へと向かう。彼の知らない真実を伝えるために。

テンマがジーヴァーニッヒからヨハンの居所を聞き出し向かうその頃、遂にニナは、ヨハンと対峙する。

187 名前:MONSTER chapter17[sage] 投稿日:05/02/04 07:28:40 ID:???
時を経て向かい合う双子の兄妹。ニナが「赤いバラの屋敷」での凄惨な体験は自分の記憶だと話すと
ヨハンはそのまま姿を消した。「夢からさめたんだ……」彼は、怪物ボナパルタに会いに行く。

駆けつけたテンマは、側頭部に銃口を押し当て放心するニナを見る。彼女は青ざめた表情で告白する。
あの日、屋敷で起こった悪夢から逃げるように帰った幼いニナは、ひとり帰りを待っていたヨハンにその
一部始終を話した。毎日毎日。来る日も来る日も。ヨハンはその話に耳を傾けていただけ……。ニナは
苦しむ。ヨハンに話さえしなかったら、ヨハンが共鳴を感じさえしなかったら、あるいはこの一連の悲劇を
防げたかもしれない。……ヨハンが破滅する。きっと全てを終わりにする。あたしのせいで。

幼いヨハンは隠れ家に火を放ち、屋敷から戻った妹と逃げ出した。組織も父も母もいない兄妹ふたりきり。
チェコ国境を彷徨う姿をヴォルフに発見されるそのときまで、世界はまるでヨハンとアンナふたりきり……。

一方、ボナパルタの行方を追いかけるルンゲとグリマーは、南ドイツの山間にある町ルーエンハイムで
遂に彼を発見する。町では、既にロベルトを中心としたヨハンの心酔者たちが武装して暴れ始めていた。
大雨が降り出し、交通は遮断され、陸の孤島となった町は銃声と悲鳴と血に染まっていく。

「君をルーエンハイムで待っている」というヨハンのメールを読み、ニナはその地へ向かう。ライヒワイン、
ディーター、エヴァ、シューバルト、カール、そしてロッテ……ヨハンを知る者たちに避難を指示して。

188 名前:MONSTER chapter18[sage] 投稿日:05/02/04 07:40:31 ID:???
恐怖と疑心暗鬼の町。侵入者が大量の銃をばら撒き、人々は殺し合う。かつての惨劇を繰り返すように。
ルンゲは、テンマにこれまでの執拗な追跡を詫び、テンマは、ボナパルタに手紙を読み聞かせながら問う。
「怪物から美女への恋文 君のことをずっと見ていた …… 君は美しい宝物を残してくれた あの永遠の
生命のような双子 一番罪なことは、人の名前を奪い去ること 君に名前を返そう 君の名はアンナ 今は
ただ悲しい…」ボナパルタは答える。双子の母に恋したと。考えを改めた彼はその残酷なプログラムを一切
消去すべく計画を知る全ての人間を「赤いバラの屋敷」で毒殺し、愛する彼女と双子の幸せと安穏の日々を
祈った。しかし、ボナパルタの世界に魅入られた者は多く、彼らは、国を動かす偉大な指導者としてヨハンを
崇拝し、暴走を止める術を持たない彼は故郷ルーエンハイムでひっそりと裁きが来るそのときを待っていた。

グリマーが死に、ルンゲも撃たれた。ロベルトが息を引き取り、ボナパルタの意識はない。遂に、ヨハンは
テンマと対峙する。「あなたにとって、命は平等……僕は生き返った……でも……誰にも平等なのは……
死だけだ」ニナの叫びは空しく響きヨハンは俯く。「だめだよ……テンマは僕を撃つんだ」彼は子どもに銃を
向けテンマに問う。「そうでしょ?」ヨハンは頭を撃ち抜かれた。撃ったのはテンマではなく子どもの父親。

惨劇は終わった。テンマは再びヨハンの命を救い、双子の母親を訪ねた。彼女は夫と我が子を実験と称した
プログラムに奪われた悲しみから精神を病んでいた。テンマは徐々に彼女の心を開いていく。天気のいい日。
母は、双子につけた名前を思い出したとテンマに告げる。テンマは病室で眠るヨハンを見舞い、覚醒した彼を
見る。ヨハンは、テンマに問う。「あの怪物が僕の前に現れた……母さんは僕を助けようとしたの?……僕と
妹を間違えたの?いらなかったのはどっち……?」──それは幻覚。エヴァはキッチン・コーディネーターに
グリマーの嫌疑はヴァーデマンに晴らされ、ルンゲは警察大学校教授となった。テンマは国境なき医師団で
活動中、ニナは大学を卒業し弁護士を目指す。……ベッドから消えたヨハンは、今いずこ。     <了>