マップス/長谷川裕一
242 :マップス 登場人物紹介(1) :04/04/11 02:35 ID:???
十鬼島ゲン
主人公。平凡な高校生…と見せかけて、伝説の宇宙放浪民族「さまよえる星人(ほしびと)」の子孫。
秘宝をめぐるごたごたに巻き込まれたのがきっかけで、銀河をまたにかけた冒険に飛び出す。

リプミラ・グァイス
宇宙海賊にして、宇宙船リプミラ号の頭脳である合成人間(ビメイダー)。宇宙船のコンディションや
周辺環境を、自分の五感として知覚することができる。

君塚星見
ゲンのクラスメートでガールフレンド。ゲンといっしょにさらわれたのが縁になって
彼と一緒に冒険の旅に出ることになる。

ニュウ・エイブ
惑星オロロ出身。秘密結社スペース・パトロール所属の超能力者。秘宝探索の任務を負っていたが
ゲンとリプミラに敗れて船を失い、リプミラ号のコックとして拾われることになる。妻子持ち。

ガッハ・カラカラ
億単位の子会社を抱える「ガッハ商会」の社長。被差別民族である珪素生命体「カミオ人」の商人。
強欲でケチだが、無償の施しは受けないなど、商人としてのプライドは非常に高い。

ガタリオン
銀河の影の支配者「伝承族」の幼生体にして、伝承学者を名乗る男。
伝承族評議会のエージェントとして活動しつつ、その裏には何やらたくらみが…?

243 :マップス :04/04/11 02:36 ID:???
「十鬼島ゲン……マップマン……“宇宙海賊カリオン”の名において、おまえをいただきにきた」
1986年某日、少年十鬼島ゲンの前に現れた美女がこの台詞を発したとき、彼の平凡な人生は終わった。
伝説の民族“さまよえる星人”の秘宝をめぐる抗争。“星人”の末裔で、秘宝への道を示す地図になるという
ゲンの身柄をめぐっての戦闘は、美貌の女海賊リプミラの勝利で決着する。
“星人”の秘宝とは、半径6億光年の星間知図を記したデータプレートだった。
実は合成人間であり、今は亡き自分の所有者の目的だった秘宝探索を惰性で続けていたに過ぎないリプミラ。
目的を達成して虚脱してしまった彼女の所有権を、ゲンは彼女の合意の上で譲り受け、宇宙へ飛び出す。
直径10万光年、20億の星間国家を抱える銀河へと……!
宇宙商人として旅をしながら、ゲンは持ち前の正義感でさまざまな事件に関わり、成長していく。
ギドロの牢獄星では、高重力生物ツキメを仲間に加え、ベニュアス王国とイスナ共和国の開戦危機では
リプミラの宿敵、宇宙豪商ガッハと一線を交え、開戦を阻止する。
だが、そんな彼らの前に立ちはだかる影があった。銀河を影から支配する“究極の進化者”伝承族。
全長1万5千km。惑星サイズの巨体が生む重力と、その超巨大脳から発する念動力を武器とする超越者。
惑星ザナインで、リプミラの怨敵、伝承族ギルディオを倒し、さらにギドロの牢獄星では
人間サイズの“幼生体”ガタリオンに、秘宝の伝説にまつわる真相を突きつけられる。
「秘宝“風まく光”とは星図を指すものではない。それは人物、つまり君を指すのだ、ゲン。
 お前は伝承族に敵対し、銀河を孵すといわれる“伝説の勇者”ダイナックなのだ!」

244 :マップス :04/04/11 02:36 ID:???
惑星パドズマで、ゲンは再びガッハと対決する。ガッハはこの惑星で、対伝承族用の兵器
“生贄砲”の開発をしていた。全ての生物に共通する「死の苦痛」のみを増幅し、伝承族を上回る念動波として
放つ兵器。「弾」として殺した生き物の数に応じて比例的に威力を増す悪魔の兵器である。
この戦いでゲンは、惑星ドドーにコネを得る。そこで彼はさらなる知識を得た。
銀河全体を包む巨大なサイコバリアー“銀河障壁”の存在、そして「3つの星図」を集めよと告げる伝説。
ゲンが所有する星図が一つ。そしてもう一つの星図はガッハが所有していた。
三つ目の星図を求めて、ゲンはリプミラをドドーに残し、人跡未踏の“はぐれ星”リングロドに挑む。
リプミラを置いていったのは、先の戦いで彼女が傷ついていたからというだけでなく
伝承族の精神攻撃や“銀河障壁”を“さまよえる星人”の末裔たる自分が無効化できるという推測ゆえでもあった。
だが、リングロドへ向かうゲンの前に、そしてドドーで療養中のリプミラの前に、リングロドを警護する
伝承族の刺客“五人の幽霊船”が襲い掛かってきた。──リプミラによく似た、天使型の船体を持つ5隻の船が。
幽霊船の攻撃によってリングロドへ墜ちたゲンは、リングロドが星ではなく、伝承族であることを知る。
しかも、“彼”は狂っていた。自分が知り、銀河に伝えようとした真実の重さゆえに。
「銀河は“弾そう”なのだ!伝承族は、他星雲に住む敵対種族を殲滅するために
 50億年かけて銀河に生命を頒布し、そしてそのすべてを“生贄砲”の弾にしようとしている!」
リングロドからその事実を伝えられ、驚愕するゲン。そこへ、彼を追ってガタリオンが現れる。
ガタリオンは、ゲンがここで“銀河生贄砲”の存在を知ることも、伝承族の計画通りだと知った上で
ミスを装ってゲンを抹殺しようとする。
ゲンを追いかけてきたリプミラの目の前で、“幽霊船”のひとり、ラドウの攻撃がゲンを貫き
彼はリングロドと共に爆散した───

306 :マップス 登場人物紹介(2) :04/04/12 12:19 ID:???
ツキメ
秘密結社ギドロの牢獄星でリプミラ号の一員になった高重力生物。1Gの重力下では怪力を誇る。
カモノハシのような小動物に見えるが、実は惑星ジャンパ出身の“人類”で同星の王子。

ザザーン・クロマミス
銀河でも有力な惑星国家ドドーの軍人。前線での戦いを好む武人堅気の豪快な女性。
男女比率1:792を誇るドドー出身のせいか、筋金入りのレズビアンで漁色家。

リプラドウ
“五人の幽霊船”の一人。最年長のリーダー格で、重力攻撃を得意とするが、その実力には謎が多い。

リプダイン
“五人の幽霊船”の一人。外見がリプミラそっくりだが、性格はかなり陰湿。

リプレイン
“五人の幽霊船”の一人。儚げなお嬢様風。透明な液体金属の船体を持ち、光線兵器を透過してしまう。

リプシアン
“五人の幽霊船”の一人。生真面目な武人。あらゆる光線兵器を反射する能力を持つ。

リプリム
“五人の幽霊船”の一人。最年少だが潜在能力は大きい。リングロドでゲンとともに爆散するが…


307 :マップス :04/04/12 12:20 ID:???
リングロドから辛うじて帰還はしたものの、リプミラはただ呆然とするのみであった。
銀河の秘密を託されたところで、主を失った人形である自分に何が残っているというのか…。
だが、そこへ「惑星カミオが“幽霊船”の攻撃を受け壊滅しかかっている」との報が飛び込んだ。
被差別種族であるカミオ人の援軍にかけつける国家はない。だが、復讐に燃え上がったリプミラが
そして、彼女を追うザザーンとエイブの部隊が、カミオへと駆けつける。
“幽霊船”から同族の子供たちをかばって追い詰められたガッハを助ける形になったリプミラに
ガッハは、その返礼としてひとつの情報を提示する。
「リングロドから星図は出ねえ。俺の持つカミオの星図が“リングロドの星図”だからだ」
生贄砲に関する知識も、リプミラを“幽霊船”の縁者として憎むのも、リングロドの情報によるものだったのだ。
驚くリプミラの前に、ラドウが現れ、彼女たち「リープ・タイプ」の船に関する秘密を告げる。
リープ・タイプは、船体と頭脳体が互いのバックアップになることで生まれ変わる。片方が破壊されても
もう一方が壊された方を再生、改良するのだ。ただし、頭脳体の記憶を持ち越すことはできない。
リプミラの正体は、失われた6番目の“幽霊船”ミラーの生まれ変わりだ。こちらの味方に付くべきだ、と。
だがその時、ラドウに操作されていたはずのリムの船体が突如動き出し、ラドウを撃つ。
呆然とする一同の前に現れたのは、リングロドで爆死したはずのリムと……ゲンの姿だった!
二人は、脳を損壊し記憶の一部を失うことで正気を取り戻したリングロドによって救出されていたのだ。
リムの帰還、そして、味方を切り捨てるラドウに愛想を尽かしたシアンの離反にもかかわらず
ラドウは周囲の全員を相手取って1歩も引かず暴れ狂う。だが、ラドウに操られていたレインが
リプミラに託した惑星破壊兵器「星の涙」によって、ついにラドウは吹き飛ばされた。
かつて、恋人を失った際に再生機能を放棄したというレインが亡くなる前に、リプミラは彼女から
元来“ミラー”の装備だった「星の涙」と、かつての主カリオンの模造人格からのメッセージを託される。
元・伝承族の協力者だったカリオンは、伝承族の銀河生贄砲計画を阻止するために
海賊を名乗って銀河の秘宝を追う男だったのだ…。

308 :マップス :04/04/12 12:22 ID:???
“勇者”ダイナック・ゲンの帰還により、銀河の各惑星国家は大いに沸きかえる。
勇者の元に全銀河が集い、伝承族に立ち向かうときが来たのだと。だが、ゲンはある事実を伏せていた。
「ダイナック伝説もまた、伝承族の“銀河生贄砲”計画の一部である」という真実を。
予言されているダイナック伝説の終末は、勇者の死と全銀河の破壊。ダイナック伝説とはすなわち
生贄砲のために、全銀河に完全なる死の苦痛と絶望を演出するための計画なのだ。
だが、ゲンはそれを知った上で、勇者として立った。いかなる形であれ銀河が統一されなければ
伝承族とは戦えない。ダイナックによる銀河統一の上で、未来予知の不確定性に賭けるしかないのだ。
だが、ささいなすれ違いによって、この事実はドドー政府に漏れてしまう。
ドドー政府はダイナック同盟の破棄を目論むが、動き出した各星政府を説得して回るのはほぼ不可能。
ゆえに、ドドーは非情の決断を下す。
「ダイナック・ゲンを殺せ!彼の死をもってダイナック伝説の成就を止め、対伝承族戦のための時間を稼ぐ!」
ゲンは勇者を詐称する宇宙海賊として、高額の賞金をかけられてしまう。
もちろん、ゲンは殺されてやるつもりはない。リプミラ、リム、そしてシアンと合流し
3つ目の星図を求めて、未確認宙域へと飛び出す。
「海賊と呼ぶならそれもよかろう。だが、えものはでかいぞ!この銀河を
 銀河の全てをつかむと決めたのだから!」

387 :マップス :04/04/15 01:43 ID:???
星図を捜して立ち寄った辺境の星で、ゲンは彼を追って来たガッハの攻撃を受ける。
カミオ星への援助の返礼として自分の星図を渡した上で、人質としてリムと、リプミラ号ら三体の宇宙船を奪い
人工衛星の中に立て篭もるガッハ。その回りくどい行動は、商人としての貸借をすべて清算した上で
戦士としての決闘を挑むものであった。
銀河中から向けられる差別に、ただひとりで戦いつづけていたガッハ。
かつて、リングロド探検に捨て駒として送り込まれたカミオ人が、命と引き換えにもたらした星図。
その重い民族のプライドゆえに、ガッハはゲンの慈悲を受け入れることはできず、戦いを持って応えたのだ。
太陽に面した灼熱の人工衛星の中で繰り広げられるゲンとガッハの死闘、それはゲンの勝利で終わる。
敗れたガッハは、自分の部下ロジュルと、ゲンを追ってこの場に忍び込んでいた星見を道連れにして
人工衛星の外へと飛び出した。
仲間である星見を助けようとすれば、巨体のカミオ人二人は見殺しにするほかない。
しょせん、いざとなれば大事なのは同族、異種族に慈悲をかける事はない。そんなエゴを浮き彫りにしてやることが
ガッハのささやかな復讐であった。
だが、ゲンの行動はガッハの予想を上回っていた。彼は星見を助けた後、さらに飛び降りて
ガッハとロジュルを両手で受け止めた上で、口で壁面の鉄パイプに噛み付き、3人分の体重を支えたのだ!
己の歯が全て砕けるまで、文字通り食い下がってガッハたちを助け、力尽きて転落するゲン。
その彼に、思わず手を差し伸べてしまったとき、ガッハはおのれの完敗を悟った。
「おれの負けだよ……根性の入ったバカには、勝てねえやな」
救助の礼として「預けられた」ふたつの星図を手に、ゲンとリプミラはさらなる探索の旅を続けるのだった。

388 :マップス :04/04/15 01:45 ID:???
旅の途中で、ゲンたち一行はザザーン大佐と再会する。
リプミラに惚れ込んでいた彼女は、自分の部下と共にドドーを離反、宇宙海賊としてリプミラを追っていたのだ。
だが、彼女がここに来た理由が「“翼を広げた悪魔”型の宇宙船の噂を聞いたから」だと知らされて
なぜか、リプミラは不安げな様子を示す。
ザザーンが基地にしていた無人星に着いてからも、ひとりパトロールを続けるリプミラの前に現れた影。
かつて、その高度な科学力ゆえに堕落し、退廃に満ちた「ライ族」が、リプミラを模して作った船、
純粋な兵器であると同時に「宇宙船をつがいにする」というジョークのためだけに「男性」として作られた船。
船体は漆黒の竜、それを駆る頭脳体は黒い鎧を纏った狂戦士…ダード・ライ・ラグン。
「星の涙」すらその顎で受け止めてのける彼に、リプミラは抗しきれず捕らえられてしまう。
ダードは、捕らえたリプミラを自分の本拠地──自然発生人に抵抗するビメイダー反乱軍の都市に連行する。
だが、拘束されていたリプミラはわずかな隙を突いて脱出。それに気付いたダードは、それを予想していたかのように
嬉々としてリプミラと戦い始めた。
一方、リプミラが捕らえられたことを知ったゲンは、単身ビメイダーの都市へ忍び込む。
しかし、場所が敵地である上に、異文明圏のビメイダーとは言葉が通じず、リプミラを追いかけるのも一苦労。
頭を抱えるゲンの元へ、シアン率いる救出部隊が駆けつけてきた。大気圏外で待っているザザーンたちと共に
ゲンとリプミラを救出し、脱出する計画である。
だが、通信でゲンの救出を伝えるシアンに、ザザーンは悲痛な返事を返してきた。
「事情が変わった。銀河全体の命運がかかっている。一分一秒を争うんだ!
 ……リプミラ救出は断念しなければならない!!」

追記:ビメイダーについて
「造られし者(ビメイダー)」は、本作を含む長谷川裕一作品中で頻繁に使われる語である。
ロボットや人工知能といった人造生命体を包括する用語であり、その「意識」が人造物である場合
例えボディが有機体や、人間のクローンであったとしても「ビメイダー」と呼ばれる。
対義語は「自然発生人(ナチュラリアン)」である。


413 :マップス :04/04/15 22:54 ID:???
銀河の情勢は急速に動きつつあった。伝承族の長“神帝”ブゥアーによる“銀河生贄砲”使用宣言が成されたのだ。
「一年後に、われらは銀河を生贄砲として使用する!」それは、あまりにも一方的な殲滅宣言。
これを受けて、銀河は二つに割れる。ダイナック伝説の真相を知り、阻止せんとする“テュリオム通商圏連合”と
伝説の真相を知らぬまま、勇者を奉じんと動く“未確認宙域軍”。
伝承族の宣言に反応して彼らが向かうは、伝説でダイナックとその仲間が集うという“青き円卓”──地球。
一方は伝説を破壊するため、もう一方は伝説を守るため。衝突すれば、二大勢力は互いに潰し合う事になる。
ゲンたちが今いる辺境から、地球へ先回りするためには、一時間以内にワープを決行しなければならない。
勇者として立つなら──銀河を守ろうとするなら、リプミラを見捨てて地球へ急ぐしかないのだ。
だが、ゲンは残った。ただひとり、リプミラを救うために。
リプミラを助けあげるゲンの前に、怒り狂うダードが立ちはだかる。彼は満足していない。
240年ぶりに戦ったリプミラから、彼が望んでいたような手応えを引き出せなかったために。
「人間よ、お前がリプミラを弱くした!きさまらと共にありたいと思う意識が、彼女におのれの身を案じさせる!
 それが、リプミラの兵器としての精度を落とすのだ!」
創造者であるライ族をその手で滅ぼしながら、彼らに植え付けられた兵器としての本能に突き動かされるダード。
だが、リプミラの考えは違っていた。造られし者として、己の身を考えず戦うだけでは得られぬ強さ。
「私は人間の方が強いと思った。恐怖を知ってなお、乗り越えられるから。だから……今は私も乗り越えられる。
 リプミラ・グァイスは、無敵になれる!」
ダードが、おのれの切り札、体内に呑んだ十の中性子星で、重力を歪めながら突撃する。
リプミラが、彼女の最大の兵器「星の涙」をその胸に抱いて突撃する。
リプミラが放った「星の涙」を、ダードが顎で受け止め……次の瞬間、リプミラが全身全霊をかけた全兵装一斉発射で
「星の涙」のもう一端を撃った。てこの原理で、大きく弧を描いた「星の涙」がダードの顎を割り、翼を砕く。
兵器ではないものが、兵器の強さを上回った瞬間だった。

414 :マップス :04/04/15 22:56 ID:???
ダード・ライ・ラグンに勝利したリプミラ。だが、もはや彼女とゲンは、銀河分け目の戦争に間に合わない。
その時ダードが、自らの保持していた中性子星を開放し始めた。
リプミラを倒すための悪あがき……ではない。打ち出された中性子星同士が衝突し、ブラックホールになる。
ブラックホールを連続して造りだし、その空間の歪みを利用して、ワープに匹敵する長遠距離移動を成し遂げる。
“ブラックホール・ハイウェイ”…それが、ダードが勝者に送る特典であった。
だが、リプミラの旅立ちを見届けようと自分もブラックホールに飛び込んだダードは、負傷した体ゆえに
その重力に耐えられず、空間の歪みの中に消える。
彼との別れを悼みながら、ゲンとリプミラはブラックホールハイウェイを抜け、地球を目指す。
その途中で、ゲンはリプミラに成りすましたダインの奇襲を受けた。
だが、ダインがいかにリプミラに変装しても、ゲンは一瞬で彼女がダインだと気付いてしまうのだ。
リプミラと同じ容姿を持ち、常に彼女に対するコンプレックスを持ち続けていたダインにとって、それは
予想外の苦痛であった。
だが、ダインが知らない事実が存在した。密かに生き残り、彼女をけしかけていたラドウが
実は、彼女の勝利に期待していなかったこと。ラドウがダインに期待していたのはただ一つ
リプミラがダインに共感することで彼女を殺しづらくなり──彼女の“盾”としての価値が上がること。
そして、ついにガタリオン率いる“伝承族反乱軍”が、ラドウを連れて決起する。
かつて10万機存在したリープタイプ機の中でも最強の機体であるラドウに、ガタリオンは
伝承族の遺伝子を移植することで、伝承族と同等の強大な念動力を与えていた。
二大軍が睨み合う“青き円卓”地球に、いま最大の災厄が迫る!


460 :マップス :04/04/17 00:13 ID:???
西暦1999年7月、地球はいきなり200億隻近い宇宙戦艦に包囲された。
テュリオム通商圏連合軍と未確認宙域軍の艦隊は、戦力が拮抗しているためうかつに動けない。
先手を取って地球にたどり着いたザザーンたちも、勇者を欠いているため打つ手が無い。
今にも全面戦争が勃発しようかというその時、ついにリプミラ号が到着し──突如として
何も無いはずの虚空を攻撃し始めた。そこに出現したのは、惑星サイズの巨大な仮面。
伝承族反乱軍に与する“機械学者”アマニ・オーダックと、その仮面は名乗る。
彼が繰り出す、数十億年分の兵器コレクションが、両軍に襲い掛かる。さらにその間隙を縫って
ラドウとダインが、地球を破壊するために地球へと降下していく。
「星の涙」でアマニのコレクションをなぎ払い、ラドウを追うリプミラとリム、追撃を阻んで立つシアン。
二手に分かれて、リープタイプの三姉妹は、それぞれの敵に立ち向かう。
この好機を逃さず、ザザーンはすべての艦隊に向かって呼びかける。
「勇者が今戦っている!心ある者よ、手を取り合え!伝承族に立ち向かえ!!」
反ダイナックの立場をとるテュリオム軍とて、ここで伝承族に潰される気は無い。
銀河に類を見ない、一大同盟軍がここに成立した。
そのころ地球では、リプミラがラドウを攻めあぐねていた。ラドウはダインの船体の自由を奪い
彼女を自分の盾とする。ダインを殺さなければ、ラドウを撃つことはできない。
反撃できぬままに潰されるかに見えたリプミラだが、次の瞬間、眼下の海に向けてビームを乱射した。
ビームは海の波に反射し、ダインの背後に隠れていたラドウを焼く。計算に裏打ちされたリプミラの奇襲であった。
怒りくるったラドウは、おのれの持つ惑星破壊兵器「光の輪」を放つ。ラドウ機から放たれたこの光線が
地球を一周したとき、地球はその輪によって真っ二つに切断されるのだ。
だが、輪を完成するために守りが甘くなった一瞬をついてリプミラはラドウに特攻。
己の翼で「輪」を受け止め、阻みながら、ラドウ機の中枢にある「輪」の破壊装置を撃ちぬく!

461 :マップス :04/04/17 00:14 ID:???
同じころシアンは、アマニに一騎打ちを挑んでいた。
アマニの表皮を破壊して体内に潜り込むも、彼が脳内に蓄えていた(比喩ではない)兵器群に阻まれ
奥へ進むすらままならない。外皮を砕かれながら、ようやく敵の中枢へたどり着くが
触手状の舌に絡めとられて身動きを封じられる。あと一手、援護が必要なのに…。
その時、突如として星系外からアマニを攻撃する者が出現する。二つの軍と、一つの惑星規模艦。
それは“提督”ニュウ・エイブの元に馳せ参じたスペースパトロール艦隊と、ガッハ商会の私設軍隊
そして、今や惑星サイズのサイボーグとして復活を遂げたリングロドであった。
この一瞬のチャンスに、シアンは反撃に出る。彼女が自ら外皮を爆破すると、その中から
新たな機体が出現する。彼女の機体は二重構造になっていたのだ。
砕け散った破片は、刃の雨となり、外部からの援護と共にアマニを打ち据えた。
アマニが倒れ、ラドウも「輪」を失い、趨勢は決した……はずであった。だがしかし
ラドウは新たな武器を使う。彼女が放った牽引ビームが、動けないアマニを地球へ向けて引きずり出した。
アマニを「弾」として、ラドウが内蔵する生贄砲に使い、伝承族評議会を狙撃する──それが反乱軍の真の計画。
あと数分で、アマニと地球が激突する。全艦隊の火力を持ってしても、これは止められない。
歓喜の中で、ラドウは自分が“勝者”たるガタリオンの傀儡であることを誇る。
「銀河はガタリオン様のものだ!銀河の生命体全ては我々のものだ!そして死ぬ!
 われらの生贄砲の弾丸として。けっきょくは全て死ぬのだ!」
そのとき、ラドウの背後からダインが飛び掛った。自爆覚悟で自らをオーバーヒートさせてラドウを打つダイン。
予想外のダメージに、さしものラドウも傷つき、牽引ビームが止まる。わずか数秒の…だが唯一の勝機!

462 :マップス :04/04/17 00:14 ID:???
ダインの特攻にひるんだラドウに、リプミラが追撃をかける。船体から頭脳体へエネルギーを流し込み
頭脳体を赤熱させてその体自体を破壊兵器とする──ダードの得意技だった「エナジー・フォール・ダウン」。
さらに、リムの持つ「時空振動エンジン」が、自分に向けられるラドウの攻撃を純エネルギーとして蓄え
リプミラに送り込む。今やラドウは、自らの放つ巨大なエネルギーによって焼かれていた。
反撃しようとするラドウを、リプミラは徹底的に攻撃する。ラドウに再生のチャンスを与えぬように。
そしてついにラドウは、その船体もろとも焼け焦げ、消滅した。
時を同じくして、連合軍はついにアマニを粉砕した。ここに「円卓会戦」は銀河連合軍の勝利で終わったのだ。
ダインを助けることは遂にかなわなかったが、伝承族反乱軍の暗躍は退けられ
銀河を救うための同盟が(いささかなし崩しにではあるが)完成した。
そしてもう一つ得たものが……ラドウの装備していた生贄砲の中にあった照準装置。
あの激闘の中、ゲンはそれを抜き取り、持ちかえっていた。かつてガッハが生贄砲を研究していたころ
生贄砲の照準装置に「リングロドの星図」を使っていたことを知っていたから。
彼の予想通り、ラドウの照準装置の中には星図があった。──ゲンの星図、ガッハの星図に続く三つ目の星図。
予言が成就する。勇者ダイナックは三つの星図を手に入れ、青き円卓へと降り立った。
伝説では、彼に従う「十の魔物」と「七つの軍団」がここに集まると言う。
そう、膨大な犠牲の元に得たこの勝利も、ただの始まりでしかないのだ……。


487 :マップス 登場人物紹介(3) :04/04/18 00:26 ID:???
ガドリジン・ローム・ラム・ヘクススキー
“未確認宙域”軍総司令官にして、銀河最大の学府“マド学院”の大校長を勤める。
全長数十メートルの爬虫類型人類。興味深いメカを見ると理性が吹っ飛ぶ。

シスター・プテリス
“未確認宙域”軍の幹部。“自然の調整者”を名乗る植物型人類。
他の生物と融合する能力を持つ。また、伝承学に長けた賢人でもある。

キャプテン・ヒイ
伝承族アマニに捕らえられていた、40億年前の銀河先住民族の生き残り。
自分は現在の銀河にとって第三者でしかないと自嘲し、自らを「he(彼)」の名で呼ぶ。

メタル・ビーチ(リングロド)
銀河生贄砲の詳細を銀河住人に伝えようとした伝承族の離反者。ゲンの体術の師匠。
惑星規模サイボーグとして蘇り、銀河同盟軍の母港となる。

ダード・ライ・ラグン
リプミラを模して造られた、船体と頭脳体を複合させた船。戦闘目的で設計された分
戦闘性能はリープタイプよりも高い。銀河伝承には予言されていない「最強のイレギュラー」。
ブラックホール・ハイウェイにて死んだと思われていたが……?

488 :マップス :04/04/18 00:27 ID:???
“勇者ダイナック”ゲンは、リプミラ号の乗組員と共に地球入りする。幸いというべきか
かつてリプミラが秘宝を探して地球に降り立ったときの騒動から、地球の各国は宇宙文明を視野に入れた
地球連邦の樹立に至っていたため、比較的楽に地球側の協力を得ることができた。
その際、地球側から一人の少女が引き渡される。東京湾で発見されたと言う、地球人でない少女。
それが、あの乱戦の中で生れ落ちていた、ラドウの新頭脳体であることを知ったリプミラは
彼女が元のラドウの記憶を引き継いでいないことを確認した上で、彼女を引き取る。
そして、銀河中の人々が注目する中、南極の“さまよえる星人”の遺跡において
勇者が主催する「銀河統一会議」が開かれる。会場の中心には11の席を持つ円卓が用意され
                        マップス
勇者の元に集う「十の魔物」又の名を「地図たち」と呼ばれる闘士が集う用意がされていた。
だが、最初に席に着いたゲンは、他の10席が空席のまま会議の開催を宣言し、そのまま沈黙する。
なぜ勇者は誰も選ばないのか?参加者一同が困惑する中、ふと、表情をかえた者たちがいた。
一番最初にリプミラが、次にツキメと星見が、続いてガッハとザザーンが。
未確認宙域軍からはへクススキー教授とシスター・プテリスが。そしてキャプテン・ヒイが。
リングロド改めメタル・ビーチ(の立体映像)が席に着き、一番最後に、遅刻してきたエイブが席に着いた。
「マップス」の条件としてゲンが求めたものは「自分の意思」。
“伝承”を否定し“運命”に立ち向かうため、自発的に円卓の座を欲する者を、彼は求めたのだ。
だが、その会議の場に、突如として伝承族反乱軍の刺客が現れる。
ギャダと名乗る、その伝承族幼生体は、皆が見守る中で「成体」へと脱皮、急成長し始める。
膨れ上がる自らの体で、勇者を飲み込もうというのだ。
駆けつけたリプミラ、シアン、リムの3隻によって、ギャダは倒される。だが、リプミラは奇妙なものを目撃した。
戦いの際、ギャダの援護に入った「スガラ・リップ」と名乗るビメイダー。彼女の発するパルスは
リープタイプのそれと同じだったのだ。“幽霊船”以外のリープタイプは、五万年も前に廃棄されたはずなのに…。

489 :マップス :04/04/18 00:28 ID:???
地球に集う各文明圏の代表者たちによって、対伝承族のための作戦が練られる。
集められた三つの星図から、銀河障壁外にあるという伝承族の本拠地を割り出し、攻撃する。
キャプテン・ヒイがその所在を知る“光破船団”なら、銀河障壁の突破が可能だというのだ。
また、先のギャダ戦から、伝承族の弱点も明らかになった。あまりに巨大な脳を持つ彼らは
脳波の伝達に時間が掛かる。そのため、伝承族はこちらの動きに対応するのが遅れる。
彼らが銀河生贄砲の用意に集中している今なら、奇襲をかけることができる…!
だが、ゲンは不思議に思わずにいられない。伝承族とはいったい何なのか。
「究極の進化者」を名乗る伝承族が、なぜそんな不自然な進化を遂げたのか。
彼らがそうしてまで求めるものはいったい何なのか。脳を損傷し記憶を欠落させたメタル・ビーチには
その質問に答える術が無く、ただ「伝承族に負ければ、この宇宙は消えてしまう」という恐怖だけが残る。
また、この作戦会議で、リプミラが目撃した謎のビメイダーに関する情報も得られた。
伝承族アマニの所有物にされていたヒイいわく、アマニは「ニードル・コレクション」なる特殊兵器を所蔵していた。
「暗殺」を旨とするその兵器とは、きわめて特異な進化を遂げたリープ・タイプなのだと。

そのころ、とある惑星に、五隻の「ニードル・コレクション」が集っていた。
地球での戦闘に参加していたスガラと、その他の4隻。彼女たちは、上司である伝承族ギツアートに告げる。
「ブラックホール・ハイウェイ内より、ダード・ライ・ラグンの回収に成功いたしました」

10 :マップス :04/04/21 08:39 ID:???
旅立ちの日が来た。勇者ダイナック・ゲンとリプミラを中心に、ツキメ・ザザーン・ガッハ・へクススキー教授・
プテリス・エイブの各人が率いる軍団に、キャプテン・ヒイがその存在を知る「光破船団」を計算に入れた
「七つの軍団」を中心とする計二億隻の大艦隊。留守番役となった星見とメタル・ビーチを後に残し
艦隊は一路、銀河の果てにあるという伝承族の本拠地を目指す。
大旗艦が作り出す大型ワープホールに全艦隊を吸い込ませ、艦隊を一つの超巨大艦としてワープさせる
「エントランス・アウトメイカー」によって、全艦は足並みをそろえ超空間を進む。
その彼らの前に、伝承族反乱軍が操る3万隻強の艦隊が現れた。
反乱軍の狙いは、銀河同盟軍をブゥアーと相打ちさせること、この艦隊も挑発に過ぎないと読んだ一同は
軽い前哨戦のつもりでこの敵艦隊に相対する。
ところが、敵艦隊のしんがりに控えていたニードル・コレクションが、突如、味方のはずのこの艦隊を撃ち
その爆炎を目くらましに、銀河同盟軍の真っ只中に飛び込んできた。
同士討ちを恐れて各艦が動けずにいる中、ニードル・コレクションのうちの2隻
「船体がゴムのように柔軟に変形する」ソフティカ・リップと、「飛び道具を一切持たず、超硬質の船体による
体当たりで攻撃する」ハーザン・リップが大旗艦のエンジンに迫る。
艦隊全艦を支えている大旗艦のエンジンを爆破し、全艦隊をまとめて葬り去ろうというのだ。
「なぜだ!?奴らは我々とブゥアーの同士討ちを狙っていたのではないのか?
 全滅させる気なら“円卓”でもできたはず。なぜ、遠征に出させてからたたくのだ?」
大旗艦はエンジンの切り離しを図るが、すでにニードル・コレクションが遠隔操作回路を破壊してしまっていた。
リプミラ・シアン・リムの3隻と、キャプテン・ヒイの船が協力して、エンジンを艦隊から突き放すが
その直後、エンジンは爆発。エンジンの最も近くにいた4隻はそのエネルギーの波にさらされ消失する。
やがて、通常空間に放り出されたリプミラ号。艦隊も、シアンやリムの姿も近くには無い。
現在位置を確かめようとした彼女の目に飛び込んできたのは、彼方にある銀河の姿……
そう、驚くべきことにリプミラ号は、銀河障壁を超えて外宇宙へと飛び出していたのだった。

11 :マップス :04/04/21 08:40 ID:???
亜空間での爆発に巻き込まれ、本隊を見失ったシアンは、キャプテン・ヒイに助けられる。
彼女はヒイと共に、本来の目的であった「光破船団」を求め、とある赤色巨星にたどり着いた。
そこでシアンは、ヒイの言う銀河先住民族が、恒星の中に生きるエネルギー生命体であると知る。
エネルギーの中にいる限り、老いることなく何十億年でも行きつづけられる代わりに
物理的な衝撃には弱い──ヒイの正体は、そんなエネルギー生命体の性質に限界を感じ
己の意識を物質生命の体に移植した、元エネルギー生命体の長“始まりの者”であった。
だが、ヒイの弟である“終りの者”は、戦いを恐れるあまり、伝承族に恭順していた。
深く封印された光破船団を目覚めさせようとするヒイとシアンの前に、伝承族の使者を名乗って
“終りの者”を味方につけたソフティカとハーザンが立ちふさがる。
傷ついてなお前に進もうとするヒイに、シアンは敬意と恋愛感情……そして劣等感を抱く。
自分が、心身ともに強いヒイの荷物にしかなっていないのではないかと。
だが、そんなシアンの迷いをヒイは静かに正す。アマニのコレクションとして、生きながら朽ちつつあった彼を
目覚めさせてくれたのは、間違い無くシアンの信念だったのだから。
外の守りをシアンに託し、光破船団の再起動スイッチを入れたヒイは、“終りの者”と向かい合う。
“終りの者”は、兄であるヒイの余命がもはや数分しか残っていないと見抜くが、ヒイが足を止めることは無い。
「弟よ、わがままばかり言ってすまなかった。……これが最後のわがままだ。
 残りの数十秒は──“始まりの者”としてではなく、キャプテン・ヒイとして生きさせてくれ」
その言葉通り、苦戦していたシアンのの援護に入ったヒイは、余命僅かな己の身と引き換えにハーザンを撃破。
残されたシアンは、自分の身を砕き、その破片にビームを乱反射させて、卓越した回避力を持つソフティカを仕留めた。
息を引き取ったヒイにすがり泣くシアンの前に、“終りの者”が現れ、自分に「ヒイ」を継がせてほしいと申し出る。
シアンはそれを了承。“終りの者”は自らの意識を「ヒイ」の体に移植し、新たなヒイとして
銀河同盟軍への参戦を宣言する。敬愛すべき“彼”が銀河に放った希望──光破船団を見上げながら
シアンはひとり涙を流すのだった。

12 :マップス :04/04/21 08:41 ID:???
一方、シアン同様に本隊からはぐれたリムは、船に同乗していたへクススキー教授、そして
教授の預かりとなっていたリトル・ラドウとともに、無人の惑星に漂着していた。
海上で修理を続けていたリムを、突如謎の攻撃が襲う。彼女を追ってきたニードル・コレクション
「流体を自由に操る」力を持つバオン・リップが、周囲の水を使って船体を締め上げたのだ。
辛うじてバオンの船体に接近し、頭脳体どうしの格闘戦に持ちこむリムとラドウ。
深海での戦闘にも耐えるほどの防御力を持つバオンはリムを圧倒するが
危機的状況にあって、ラドウは念動による重力攻撃の能力に覚醒。不意打ちを食らったバオンは
切り札として与えられていたあるアイテムを使う間もなく敗れ、その「アイテム」を奪われてしまう。
バオンを倒して油断するリムとラドウ。だがその時、海を割って巨大な黒龍が現れた。
ダード・ライ・ラグン。伝承族反乱軍に回収され、彼らに従うよう洗脳を施された彼が
戦力テストのためにバオンに同行していたのだった。
リプミラですら苦戦するダードに、勝てるはずもなく追い詰められるリム。だがそのとき
ラドウが膨大な量のエネルギーを発し始めた。彼女の周囲の水が急速に原子分解し、再構成される。
一瞬にして、彼女はゼロから自分の船体を「再生」し、ダードと戦い始めた。
自分に拮抗するほどの戦闘力を持つラドウを相手に、楽しげに哄笑するダード。
戦闘経験の差でラドウを圧倒した彼は、ラドウの船体を破壊し、彼女を捕らえる。
「来るがよい、ラドウ。光はお前に似合わぬ。闇と破壊のみがお前に安息を与えよう。
 ──この私と、同じように!」
かつての戦いよりさらに強くなったダードに、リムは反撃すらかなわず、ラドウを奪われてしまった。
自分のふがいなさを痛感し、リムは泣く。そして、自分をより進化させ、ラドウを助け出せるような
強さを得ることを誓う。
そんなリムの成長をサポートしながら、へクススキー教授はある事実に気付く。
ラドウの機体再生速度の異常な速さと、地球での戦闘データを分析した結果、彼は伝承族の真意を知った。
「彼らの目的は……我らの目を地球からそらすことだ!ラドウの再生頭脳体は、一体だけではなかった!」

27 :マップス :04/04/22 09:13 ID:???
銀河障壁外へ飛び出してしまったリプミラ号。ゲンとリプミラの二人に加え、事故のときに
たまたま同乗していたプテリスと、リプミラ号の最新装備「オプション」の頭脳体である
簡易ビメイダー「レニー」「デニー」を道連れに、銀河への帰路をたどる。
その途中で出くわした1隻の宇宙船──それは、他の島宇宙から銀河へやってきた探検船だった。
その船を見て、ゲンは以前から考えていた懸案に思い至る。
銀河同盟の勝利を確実なものにするため必要な戦力──伝承に無い「第八の軍団」。
銀河外から来た彼らが、第八軍になってくれるのではないかと期待したのである。
紆余曲折を経て、探検船乗組員と話し合いの場を得たゲンは、そこで思わぬ顔と再会した。
ダードが根城にしていたビメイダーの星で、参謀を務めていた女性型ビメイダー、オルシス女史である。
彼女たちビメイダー反乱軍は銀河外への脱出を目論み、銀河外文明との接触を試みていたのだ。
オルシスの通訳と、プテリスのテレパシーによって会談は進む。探検船の船長“片キバ”は
ゲンの友好を受け入れるが、彼らには銀河の戦いに加わる動機も余力も無かった。
また、会談に同席したオルシスの態度も冷ややかなものだった。銀河の現状においてビメイダーは
「物」として扱われる。この認識が変わらぬ限り、たとえ伝承族に勝ったところで
ビメイダーにとっては、備品としての耐用年数が延びるだけの違いでしかないのだ。
交渉が難航する中、ニードル・コレクションが探検船を襲い、リプミラが迎撃に飛び出す。
「二つの頭脳体を持ち、船体を分離できる」ゼルルゼ・リップを難なく降したリプミラの前に
ニードル・コレクションのリーダー、スガラが立ちはだかる。彼女の能力は「相手の船体をコピーする」こと。
同等の戦力、同等の射程で、確実に相打ちに持ちこむのがスガラの戦術。
相手の攻撃パターンの読み合いの末、辛勝したリプミラ。だがスガラは不敵な笑みを浮かべる。
「“おとり”は私の方だったのだ…そして、ダイナックは“最強のビメイダー”の手によって死ぬ」
次の瞬間、背後から忍び寄ったゼルルゼ・リップの攻撃がリプミラを襲う。
強力な電磁波で、ビメイダーの…機械の記憶を破壊する「デンジャーノイズ」!

28 :マップス :04/04/22 09:14 ID:???
リプミラとニードル・コレクションの戦闘で負傷し、“片キバ”船長の船に収容されたゲン。
リプミラの帰還を待つ彼の前に、ゲンを敵と呼ぶリプミラが現れた。ニードル・コレクションによって
記憶を失い、海賊時代に戻ってしまったリプミラは、ゲンが伝承族の手先だと吹き込まれ
彼に敵対すべく武器を向けてきたのである。
ゲンは、人間の記憶喪失のようにショックで記憶が戻らないかと考えるが、オルシスはそれを否定する。
「ビメイダーが記憶を失うというのは、コンピュータのメモリーが消えたということだ。消えたものは戻らない。
 “ない”ものを戻すことはできない──人間とビメイダーの決定的な違いだ」
辛うじてリプミラを退けるゲン。リプミラはそのまま、ニードル・コレクションと共に宙域を離脱していった。
リプミラが敵に回ったことで、事情を知らない“片キバ”の態度も硬化する。交換条件として
補給物資を必要としていた彼らにゲンの星図のデータを提供することになったが
データを分析した“片キバ”は、物資補給のため伝承族の本拠に乗り込むことを決める。
その合間に、回収されたリプミラ号の破片を調べていたゲンは、デニーとレニーを発見する。
なぜか動かない二体を調べたゲンは、簡易ビメイダーのはずの二体が、リープタイプ並のハードを備えて
いることに気付く。デニーとレニーは、今は亡きリプミラの姉妹、ダインとレインの人格データの断片から成る
擬似リープタイプだったのだ。そして、デンジャーノイズで記憶を消されそうになった瞬間に
リプミラはこの二体に自分の記憶を移していたのである。
一方その頃、リプミラはニードル・コレクションに連れられて、彼女たちの本拠地「湾曲空間」へ入る。
銀河同盟軍が伝承族の本拠地として目指していたその場所は、実は伝承族の「刑務所」であった。
ニードル・コレクションをも信用していないリプミラは、この地を預かる伝承族ギツアートに挑みかかるが
彼のそばに控えていたダードとラドウによって、逆に捕らえられてしまう。
ギツアートはリプミラを取り押え洗脳しようとするが、そこへ“片キバ”船長の船が割って入る。
焦ったギツアートは、洗脳の代わりにリプミラに偽の記憶を刷込んだ。
「お前の主カリオンを殺したのは、ダイナック・ゲンだ!ゲンを殺せ!」

127 :マップス :04/04/24 23:39 ID:???
“片キバ”船長の船と共に、湾曲空間内へ攻めこんだゲン。デニーとレニーが保持していた
リプミラの記憶を込めた特殊弾は2発のみ。これをリプミラに当てる以外、記憶を戻す方法は無い。
だが、伝承族の暗示によってゲンを憎むよう仕向けられたリプミラには隙が無い。戦っているうちに
ゲンとリプミラは惑星の深部へと転がり落ちていった。
そこで二人が見たものは、地底の谷を埋め尽くす無数のリープタイプ船。
5万年前に処分されたはずのリープタイプ…だが“彼女たち”はまだ生きていた。生贄砲のために
時間をかけて苦しめられながら、処分され続けていたのだった。
これこそがニードル・コレクションの行動原理。孤高を気取るかのような彼女たは
姉妹船の自由を勝ち取るために、あえて暗殺者に身を落としていたのだ。
この処刑場から抜け出すため、共闘を余儀なくされるリプミラ。だが、ゲンと二人で戦っていくうち
リプミラは違和感を覚える。ゲンの行動は、リプミラに対してあまりに無防備だった。
リプミラを無条件に信頼するゲンの振舞いと、自分の中の“記憶”の矛盾に苦しむリプミラ。
ゲンを殺さず立ち去ろうとするリプミラに、ゲンは記憶弾を装填した銃を向ける。
「信じてくれ、リプミラ。この中にあるのは間違い無くほんとうのお前の記憶だ!」
「その記憶とやらのほうが作り事でないとどうして言える?私は…誰も信じてはいない」
地底の洞窟に銃声が響く。
やがて、地底処刑場の最奥部、全てのリープタイプの母“ファースト・ボーン”の眠る広間で待つ
ニードル・コレクションの前に、ゲンを引きずったリプミラが姿を現した。スガラは勝利を確信する。
だが、彼女たちが気を許した瞬間、リプミラと、死んだふりをしていたゲンは反撃に移る。
ゲンの説得は成功していたのだ。
時を同じくして、シアンとリムが、光破船団の力で銀河障壁を突破し、この星に駆けつけてきた。
そして、もう二人…リープタイプの工場でもある“ファースト・ボーン”を介して生まれた
ダインとレインの記憶を受け継ぐリープタイプ「デニー」と「レニー」が戦列に加わる。
“5人の幽霊船”姉妹VSニードル・コレクション。いま、決着の戦いが幕を開ける。

128 :マップス :04/04/24 23:41 ID:???
ニードル・コレクションは、非常時の切り札として、伝承族の遺伝子入りカプセルを与えられていた。
ラドウのように綿密に調整されていない以上、そんなものを投与すれば暴走して自壊する。
しかし、自壊するまでの短時間、攻撃能力は格段に跳ね上がるという最強最悪の武器。
だが、彼女たちは自ら遺伝子カプセルを放棄する。彼女たちの目的はあくまでリープタイプの開放。
リプミラがそれを任せるに足るものか、見極めようというのがこの戦いの目的なのだ。
だが、決着は意外にあっさりと着いた。リプミラたちの圧勝である。ゲンとリプミラの固い絆を目の前にして
己の信念を揺らがされていたニードル・コレクションに勝機は無かった。
リプミラとニードル・コレクションは、そのまま共闘してリープ・タイプの救出に動く。
今やギツアートは、自分が追い詰められた事を知った。この大乱闘が、伝承族評議会に気付かれぬはずは無い。
反乱軍に肩入れしていたことがばれて、粛清されるのは時間の問題だ。
なりふり構わず襲い掛かるギツアートだが、リムがその攻撃を反転させてたたき返し、リプミラがそこへ切りこむ。
敗れたギツアートは、湾曲空間と共に消滅し、そして…リープタイプは開放された。
開放を喜ぶ10万機の翼と、その奇跡を成し遂げたゲンとリプミラの絆を間近に見て、オルシスは一つの決断を下す。
すなわち、自分たちビメイダー反乱軍が「第八の軍団」を名乗って銀河同盟軍に加わること。
たとえ、今すぐに人間とビメイダーの和が成らずとも、そのための時間を作ることに意味はあるのだ。
参戦宣言の中で、オルシスは銀河中のビメイダーに呼びかける。
「自然発生人が、我らを“見えぬ”と言うなら、この戦いでまぶたに焼き付けてやろう。
 我らに“心”があることを──賭ける“命”があることを、教えてやろうではないか!」
今まで備品扱いされ、総じて士気の低かったビメイダーたちは、この言葉に歓喜した。
各軍に、自然発生人の3倍は配備されているビメイダーがこうして奮起することで生まれる誤差が
一軍団の加勢に勝る戦力増強であることに気付いた者はまだ……少なかった。

129 :マップス :04/04/24 23:42 ID:???
伝承族から開放されたリープタイプは、銀河同盟軍の戦列に加わることになった。
だが、リープタイプの母である“ファースト・ボーン”は、長い幽閉にもかかわらず伝承族への忠誠を示し
「伝承族の真の目的は、銀河全ての命より尊いものだ」というメッセージを残して自爆する。
その直前、ファースト・ボーンから与えられた情報によって、ゲンは“さまよえる星人”の真相を知った。
“星人”は一つの民族ではなく、旅を愛し宇宙を放浪する、雑多な民族の集団だったのだ。
ではなぜ、“星人”や、その子孫であるゲンには銀河障壁が効かないのか?考えた末に
リプミラがひとつの解答を見出す。“星人”の真の力とは「自由な心」そのものに他ならないと。
常に旅に身を置き、全てを己が心でありのまま捉えるがゆえに、“星人”は、固定観念への暗示である
銀河障壁を無視できる。その自由さゆえに、“星人”は境を越え、どこへでも行けるのだ。
自分に与えられた無限の旅路を知った上で、しかしゲンは、今は“片キバ”船長と、銀河外宇宙に別れを告げ
銀河を救うために戻ることをあらためて決意する。
そして、一行は銀河同盟軍と合流を果たし、地球へ帰還する。伝承族の開戦予告日の三日前。
だが、ゲンの目の前で、突然現れた大きな手が、地球を掴みあげた。
伝承族の長“神帝”ブゥアーが、己の予告を早めて攻撃を開始したのだ。
そのころ地球では、ゲンの帰りを待っていた星見の前に、伝承族反乱軍のガタリオンが姿を現していた。
彼の背後に控えるのは、無数の“ラドウ”…先の会戦で敗れたかに見えたラドウは、その崩壊の間際に
大量のコピーを地球上にばらまいていた。ガタリオンたち伝承族反乱軍も、最初から地球に潜んでいた。
生贄砲発動の瞬間に、もっともブゥアーに接近できる場所である、この地球で!
惑星を手玉に取るほど巨大なブゥアー、無数のラドウを戦力として擁するガタリオン。
数百億の艦隊すら霞むこれらの敵を倒さない限り、銀河はきょう消滅することになる。
───ついに、最終決戦のときが来た!

162 :マップス :04/04/25 15:19 ID:???
地球を体内に取り込んだブゥアーの次の行動は、自らの“拡大”だった。
体を構成する原子の間隔を開くことで、ほかの物質と衝突することなく自らを巨大化させ
直径10万光年…あたかも銀河障壁を卵殻とした雛のごとく、銀河一杯に広がったのだ。
真っ先にブゥアーの中に飛び込んだリプミラを始めとする突撃隊は、ブゥアーに巻き込まれる形で
共に“拡大”されたが、他の部隊は原子間隔が異なりすぎるブゥアーへの干渉手段を失ってしまった。
それでも地球を追いかけるリプミラたちの前に、ガタリオンが擁するクローン・ラドウの群れと
もう一つの反乱軍の切り札、量産型ダードの艦隊が襲い掛かる。
だが反乱軍に与するはずの量産型ダードは、同型機やラドウへも攻撃を仕掛け始める。
それは、オリジナルであるダードの仕業だった。彼が量産機の頭脳を破壊し、同士討ちを演出していた。
反乱軍のミスである。戦艦たるダードに、輸送機であるリープタイプと同レベルの洗脳を施していたのだ。
ダードはとうに自我を取り戻し、己のパートナーとしたリトル・ラドウと共に反旗を翻していた。
「ガタリオン、お前がそう呼んだではないか…私はもっとも危険なイレギュラー。龍を御すことなどできぬのだよ!」
数万の同型機を倒すという、まさに「自分との戦い」を経て進化したダードは、伝承族すら圧倒する。
その彼の前に、反乱軍の最終兵器が現れた。クローン・ラドウの指揮艦、“終末(The End)”の名を持つ者…ジェンド・ラドウ。
その頭脳体がダードを、そして船体が地球に接近するリプミラを迎え撃つ。
リプミラは、ジェンド・ラドウが地球を巻き込まぬよう動くと判断し、地球側から回り込んで攻撃しようとする。
しかし、ジェンド・ラドウはそれを読んでいた。彼女は一瞬でリプミラとの間合いを詰め、攻撃しようとしたリプミラを
船体、頭脳体ともに完膚なきまで粉砕してしまう。
そして、リプミラの最期に思わず目を奪われたダードも、ジェンド・ラドウの攻撃で深い傷を負ってしまう。
なおも戦おうとするダードに対し、ジェンド・ラドウは彼自身を撃つのではなく、リトル・ラドウを狙った。
、とっさにラドウを庇ってしまったダードは、致命傷を受け機能を停止する。
そして、ダードの守ろうとしたラドウも、ジェンド・ラドウの手に落ちる。…ここに、銀河の戦士たちは敗北した。

163 :マップス :04/04/25 15:19 ID:???
大破したリプミラ号から放り出されたゲンを救ったのは、へクススキー教授だった。
彼は、先のバオンとの戦いで入手した「伝承族遺伝子」を自らの体に移植することで
各種超能力と、伝承族の肉体に関する知識を獲得していた。
だが、教授は同時に己の危機も気付いていた。伝承族遺伝子には、その被移植者を侵食し
体だけでなく精神も伝承族へ変えていく特性が含まれていたのである。
教授が己の身と引き換えに託した逆転のプラン、その最初の一手は、ダードの協力を得ることだった。
満身創痍となり、クローン・ラドウによる分解処理を待つばかりの状態でありながら
なおも動こうとするダード。彼は、連れ去られたラドウの身を案じていた。
以前に“兵器で無くなった”リプミラに敗れた彼は、自分と同じく兵器としての本能に悩むラドウを
己がパートナーとすることで、リプミラの強さに迫ろうとしていた。そして今、彼を突き動かすものこそ
彼が望んでいた新たな強さに他ならなかった。
ゲンに助けられ、クローン・ラドウを退けたダードは「ジェンド・ラドウの左目を狙え」という言葉を残して
その機能を停止した。
ダードの機体に乗りこんだゲンは、教授のテレポートによって、ブゥアーの中枢神経へと特攻する。
そのころ地球上に、東京へ向かうエイブとツキメの姿があった。ジェンド・ラドウにリプミラが倒された瞬間
エイブは、超能力でリプミラの頭脳核だけを抜き取り、保護していたのだ。
リプミラの指示で東京にたどり着いた二人が見たのは、新宿都庁地下の秘密基地に隠された
リプミラ号の船体だった。銀河文明から地球への技術供与として、リプミラ号の複製が建造されていたのである。
地球製のボディを得て、今リプミラは復活した。
敗北を超え、ゲンとリプミラは、それぞれの機体でブゥアーの中枢…この戦いの真髄へと突き進んでいく。
銀河消滅まで、あと24時間!

175 :マップス :04/04/25 23:46 ID:???
ダードの機体を受け継いだゲンは、クローン・ラドウの猛攻を退けつつ
ブゥアーの最深部、生贄砲発動の瞬間だけ開く脳中枢へ入り込む。
そこで彼が見たのは、ブゥアーから流出する膨大な宇宙の記憶と
肉体を捨て、ブゥアーの頭脳内に打込まれた意識だけの存在となったガタリオンたちだった。
唖然とするゲンに、ガタリオンは得意げに自分たちの勝利を宣言する。
ブゥアーの正体、それは、遥かな昔にある宇宙の住人が作り上げた「記録装置」だ。
避けられぬ滅びに至った宇宙の全てを記憶し、他の宇宙へと移動していく。
そして、移動先の宇宙をも記録し、次の宇宙へ…ブゥアーがある限り、宇宙は「記録」として残りつづける。
エントロピーに逆らい、宇宙を永遠とする試み……だが、記録された宇宙が兆を超えるにいたり
ブゥアーは肥大した自分を維持するエネルギーを得られなくなり、遂にある悪魔的発想を抱いた。
自分の膨大なデータ蓄積があれば、宇宙の終りまでを律儀に記録する必要はない。
初期のデータさえあれば、宇宙の終りまでを自分の中でシミュレートすることはできるのだから。
だから、データ収集が終わった時点で宇宙を破壊し、純エネルギーとして“食べて”しまおう。
永遠たるブゥアーの記録と維持は、有限なる宇宙の存続に優先するのだから!
これが、ブゥアーの「生贄砲計画」の真相。そして伝承族は、その計画のために作られた遺伝子。
彼らが異常に大きな脳を持つのは、最後にその脳を、ブゥアーの記憶素子として使いまわすため。
──伝承族反乱軍は、それを知ってしまった伝承族幼生体たちの結社。彼らはその情報収集により
成体となった伝承族が、進んでブゥアーに己を差し出すほどの「遺伝子の奴隷」と化すことを知った。
そして彼らが立てた計画は、自分たちの意志を失う前に、その自我をブゥアーの脳に刻むこと。
ブゥアーの支配者となることで己を守るだけでなく、ブゥアーが記録として蓄えた宇宙を自在に閲覧し
改変することすらできる“神”の座を得ることだったのだ。
だが、全てを知ってなお、ゲンは彼らの行動を認められなかった。今こうして生きている宇宙を否定し
データをもてあそぶブゥアーもガタリオンも、彼の目には醜悪なものとして映る。
「ふざけるな!俺は認めない!貴様らの記録と生きてる宇宙の違いを、俺が証明してやる!」

176 :マップス :04/04/25 23:47 ID:???
怒りと共に戦うゲンを、ガタリオンは悠然と見下ろす。今やブゥアーとひとつになった彼は
ブゥアーの演算能力を介して、あらゆる現象を予知する力を得たからだ。
ゲンの行動を予測し、なぶるようにジェンド・ラドウに攻撃させるガタリオン。だが、最後にジェンド・ラドウが
必殺のつもりで放った攻撃を、ゲンは渾身の力を振り絞って回避してしまう。
同じ頃、銀河同盟軍と戦っていたブゥアー自身も、予知を超えたダメージを受けつつあった。
メタル・ビーチの念動力を介した次元転移装置により、ついにブゥアー内部に援軍が到達したのである。
さらに、切り札のクローン・ラドウ群も、洗脳して取り込んだはずのリトル・ラドウの妨害によって
ネットワークを乱され、壊滅に向かっていた。
「ありえん!銀河軍の動きは全て“見えて”いたはず!奇跡でも起きん限り誤差さえ予測内のはずだ!」
「奇跡じゃねぇよ…奇跡を呼ぶ力なんか、俺にも、誰にもありゃしない!今、銀河中の生き物が
 生き延びるためにしている努力が…ほんの小さな誤差が積み重なって、ブゥアーの計算を上回ってるんだ!」
勝利を掴んだはずのガタリオンは、今や完全にゲンの勢いに呑まれていた。焦るガタリオンは
ジェンド・ラドウにゲンの排除を命ずるが、そこへリプミラが、仲間と共に駆けつけて来た。
まったく予想外の反撃に、ついにジェンド・ラドウも、後退を余儀なくされる。
リプミラと合流したゲンは、パニックを起こして暴走していたリトル・ラドウを説得にかかった。
兵器の本能のままに、周囲の同型機もろとも破壊の限りを尽くしていたラドウは
リムの説得で我に返るが、今度は本能を押さえられなかった自分を恥じ、自爆しようとする。
そんなラドウをすんでのところで取り押えたのはリプミラだった。ラドウをしっかり抱きしめ、親愛の情を伝えた
リプミラとリムによって、ようやくラドウは沈静化する。
そして、一堂に会した仲間たちに、ゲンはへクススキー教授から託された最後の計画を明かした。
「ブゥアーの打倒はもう決定的だ…その前に俺とリプミラは、ブゥアーを銀河から引き剥がしにかかる!」


177 :マップス :04/04/25 23:48 ID:???
打倒ブゥアーの最終計画、それは、ブゥアーを銀河から引き離し、自壊させること。
ブゥアーがいかに大きかろうと、脳の構造は変わらない。宇宙船のビームを使って脳細胞を刺激すれば
ブゥアーに「銀河から去れ、そして自滅せよ」という命令を打込むことができる。
他の仲間たちに、地球の奪還と脱出の先導を任せ、ゲンとリプミラは最後の戦場に向かう。
ブゥアーの脳内で、自殺命令を打込もうとする二人に、ブゥアーの意識と一体化したガタリオンが襲い掛かる。
彼が使ってきた武器、それはブゥアーの記憶そのものだった。圧縮された記憶を衝撃波として放ち
機械であるリプミラの頭脳を焼き切る──追い詰められた“ブゥアー”の捨て身の戦術。
いかなる攻撃兵器とも異なるこの攻撃は、通常ののバリアーでは防げない。だがその時
ゲンがかざしたある物が、ブゥアーの記憶を受け止めた。彼らが保有する、最大密度のデータ。
すなわち……“三つの星図”!
星図に蓄えられたデータと引き換えにその身を守りきったリプミラは、ついに最後の命令を打込む。
自己保存の力を失い、崩れゆくブゥアーの脳と共に消滅するガタリオン。それは同時に
最強の者の傀儡であることを誇りとしてきた、ジェンド・ラドウのアイデンティティの死でもあった。
狂乱のジェンド・ラドウがリプミラに襲い掛かる。──最高性能のリープタイプである自分を差し置いて
最強の男に愛された妹に。
リプミラ号の船首から相手の船首へ飛び込み、頭脳体同士で交錯するリプミラ。そして倒れたのは
ジェンド・ラドウであった。先のダードとの戦いで、ダードが命と引き換えに着けた傷が
ジェンド・ラドウの頭脳核に付けていた傷を、リプミラが貫いたのだった。
全ては終わった。銀河中が見守る中、ブゥアーは銀河を離れ、銀河から5000万光年の空間で
自爆し……銀河障壁は消滅した。銀河は、五十億年に及ぶ伝承族の支配から開放されたのだ。
それは同時に、ブゥアーが目論んでいた醜悪なる“永遠”の終りでもあった。

178 :マップス :04/04/25 23:49 ID:???
あの戦いから一年、銀河の復興は軌道に乗りつつあった。もちろん、犠牲は少なくなかった。
メタル・ビーチは、艦隊をブゥアー内に送り込むための転移装置に全力をつぎ込み、己が脳を焼き切って死亡。
自分の体で伝承族遺伝子を実験したへクススキー教授は、肉体を爆破し、自我を電子頭脳に移して生き延びた。
ニードル・コレクション5人のうちスガラとソフティカは、ブゥアーからの撤退の際にしんがりを務め、戦場に消えた。
オルシスたち第八軍の独立は結局認められず、彼女たちはまた流浪の民として去っていった。
……そして、勇者ゲンとリプミラもまた行方不明となった。戦勝イベントに当の勇者が不在だったことで
結果として、銀河の人々はこの勝利が自分たちの努力の賜物だったと気付き、大きな自信を得ていた。
「勇者なんて要らないんだ」と常々語っていた彼の意思は、皮肉な形で実現したのである。
だが、彼らの帰還を望む者たちもいた。「いなくなった者のことは早く忘れるべきだ」と、商人らしいリアリズムで
語るガッハに、今もゲンを待つ星見は語る。「たとえあと1000年掛かっても、私は待ちつづける」と。
星見に別れを告げて帰るガッハは、帰り際に、風を乗せて飛ぶ白い翼を、雲の上に見たような気がした。
一陣の風が星見の部屋を吹き抜け……そして、星見の部屋には、もう誰も残っていなかった。



────その日、銀河は風にそよいでいた。



勇者ダイナックの伝承はこれにて終わる。幾つかの記録には、彼と彼の翼が、その後も無数の冒険に挑んだと
伝えるものもある。曰く、未来の銀河に到達してしまった彼らが、元の時代に戻るべくさまよったとか
あるいは異世界に迷い込んだ彼らが「巨大な剣に変じる緑の巨人」や「髑髏を掲げた白い機動戦士」と共に
神と戦いこれを倒した物語だとか。
………だが、それはまた別の物語である。

179 :マップス担当者 :04/04/25 23:58 ID:???
……終わった。ムチャクチャ疲れた。何が疲れたって
長くなりすぎるとアレなので、好きなシーンやら台詞やら外伝的ストーリーやらを
どう削ぎ落としていくか考えるのが辛かった。
これで興味を持った人がいたら、ぜひ本物を読んで下さい。メディアファクトリー文庫で
全十巻(一冊650円。なお本編は9巻まで出、10巻は外伝集です)で出版されています。
 
なお、最後の文章のネタは分かる人なら分かるわけですが。、分からない人のために言うと
本編終了後に執筆された「マップス外伝(文庫10巻に収録)」および
作者長谷川氏による同人誌「ひとりスーパーロボット大戦 大外伝(現在入手困難)」ネタです。


180 :マロン名無しさん :04/04/26 00:17 ID:???
巨大な剣に変じる緑の巨人=ダイソード
髑髏を掲げた白い機動戦士=クロスボーンガンダムかな?

181 :マロン名無しさん :04/04/26 00:24 ID:???
ビメイダーPってのはマップスとは関係なしですか?

>>180
あとダンクーガBURNも出るんだよね。


182 :マップス担当者 :04/04/26 00:52 ID:???

>180
はい、その通りです。
 
>181
「ビメイダーP」は、マップスの連載開始とほぼ同時期の作品です。
マップスと直接の関係は無く、ビメイダーの概念(この『ビメイダー』という単語自体長谷川先生の造語のようですが)
と、主人公のクラブ顧問が「狩尾 理文(カリオ・リフミ)」というどっかで見たような女教師だというくらいですねw