メイプル戦記/川原泉
84 :メイプル戦記1 :04/04/04 18:31 ID:???
この作品は「甲子園の空に笑え」の続編。(キャラかぶり)
札幌ドームを本拠地とする、日本初の女子プロ野球チーム「スイート・メイプルス」が、男ばかりのプロ野球チームを相手にペナントレースを戦う。
監督は「甲子園〜」の監督広岡真理子。
ヘッドコーチはかつての高校野球ライバル北斗高校の監督高柳。
選手は 外国人2名(ノエル・スコット、パトリシア・エドワーズ)、浮気性の夫を持ち愛想をつかし家を出る仁科紘子、広岡の母校の生徒4つ子の相本姉妹、ミカエルの生徒2名(若生薫子、芹沢桜子)、メイプルのエース神尾聡史(源氏名・瑠璃子)、女子大出身俊足の里見笑子
1軍は以上精鋭11名から成る。
この中で、異色の神尾はかつて甲子園で活躍した北斗高校の剛速球投手。
ドラフト1位指名を受けながらそれを捨て、オカマバーに勤めていた。
彼がなぜオカマになったかというと、甲子園でのかつての相棒として同じように活躍したキャッチャーの小早川秀明に恋をしていた事に気づいたからである。
今までの自分を捨てオカマバーで働いていたが、メイプルスの球団設立による選手募集の広告を見た職場の先輩がもと甲子園球児ならどうかと薦めた為であった。
体は男でもハートは女だと断言した神尾を監督の広岡は採用した。
チームメイトは神尾のこの恋を、職場の元先輩たちのおせっかい?で知る事となる。
相手の小早川はリーグは違うが、ゴールデンルーキーとして活躍、注目されていた。
また、同じチームメイトの仁科紘子の夫は、ライバルとなる東京タイタンズのエースとして活躍していた。
しかし夫の浮気癖に愛想が尽き、離婚届に判を押し家を出た。
その道すがらメイプルス選手の募集を見つけ応募し入団した。
彼女は草野球のヒッターとして活躍し、野球の研究をするほどで、チームの中でトップの打率を誇る腕をもっていた。
野球が好きなのに女という事でプロにはなれないと諦めていた人たちが集まり、こうしてメイプルスが出来上がった。



85 :メイプル戦記2 :04/04/04 18:32 ID:???
世間、特に他の球団の選手は「相手にもならない」と最初メイプルスを見くびっていたが、実際対戦すると強くなかなか勝てないので本気を出し始めてくる。
そんな中、開幕直前神尾は偶然小早川と出会ってしまう。
動揺する神尾だったが、小早川は「もう一度野球の世界に戻ってきてくれて嬉しい」と言った。
そして、「(リーグは違うけど)対戦できるのを楽しみにしている」という小早川は神尾に、「日本シリーズがあるだろ?最高の剛速球を投げてくれ。俺がホームランを打つから」と神尾を激励する。
感激した神尾は小早川のことがますます好きになるのだった。
一方、仁科紘子の方は、妻がプロ野球選手になったことがばかばかしいと「帰ってこい」と寮まで夫が迎えにくる。
「女相手に本気でできるか」といわれカチンときて、夫にケンカを売る紘子。
「勝負はマウンドの上で」ということで2人はケンカを野球の勝負で決めることに。
このやりとりを聞いていた新聞記者に新聞の1面に大きく載せられ、勝負は世間の皆にも知られる事となる。
いよいよプロ野球も開幕し、メイプルスは勝ちも多く順調に試合をしていた。
他球団との乱闘や投手芹沢の魔球開発もあったりした。
それまでタイタンズは1位にいたが、メイプルスは18連勝と日本タイ記録を打ち出しついに1位にたった。
そんな順調の中、小早川と神尾の仲が良いのを小早川のチームメイトが懸念していた。
それは神尾がオカマだということが原因していた。
小早川はチームのスター選手で変なスキャンダルが起こると困るので、「これ以上関わってほしくない」とチームメイトが神尾に直に言いにきた。
落ち込む神尾。さらに追いうちをかけるかのように、週刊誌に「小早川お見合いか?!」の記事が。
ショックを受け、神尾は自分の自慢の長い髪をばっさりと切り、化粧も止めて退団届を出した。
「心が女」という事で入団したが、もう女にはなれないとの為だった。
そして神尾は姿を消し、監督やチームメイトにも衝撃が走った。
大黒柱の神尾がいなくなり、チームのムードは暗くなる。


86 :メイプル戦記3 :04/04/04 18:36 ID:???
その日の試合でなんとか勝ってチームのムードを変えたいと、エドワーズは無理をしてホームベースへ走り、キャッチャーと激突する。
その事でエドワーズは肋骨を折る大怪我をする。そして19連勝という日本新記録を目前に試合は負けた。
エースの神尾の失踪、4番打者のエドワーズの故障により監督広岡も追い込まれる。
2軍メンバーを何とかいれて補強するがそれも及ばず、チームは連敗していき、ついには23連敗という日本新記録を作ってしまいチームはガタガタ。
そんな様子をテレビでみつめている神尾がいた。
彼はバーテンダーとしてある店で男として働いていた。メイプルスの事が気がかりだったがどうしようもできなかった。
しかし神尾のいるこの店に来たお客が、かつて神尾が勤めていたオカマバーにいき「メイプルスの神尾」に似た人に会ったという事で事態は急変する。
神尾の失踪をきかされていたオカマバーのママは、神尾の説得に小早川を行かせる。
小早川と再会した神尾は逃げようとするが、「神尾が瑠璃子であろうと、本当はどちらでもいい」といって、神尾にかつてかれのトレードマークだった帽子に付ける大きいリボンをプレゼントする。
神尾はそれをつけて決心をした。
また、チームの連敗を病院のベッドの上で悔しく思っていたエドワーズは病院を自主退院(脱走)をする。
次の試合の日、またチームは負けそうな怪しい雰囲気になっていたとき、神尾がチームベンチに現れる。
広岡は何も聞かず彼をマウンドに送り込む。
予想外の神尾の登場に相手選手も観客も驚き、ブランクを感じさせない良いピッチングをしピンチを乗り切る。
そしてムードもメイプルスに有利になり、勝ち越しのチャンスのバッターを送ろうと思った時、病院を抜け出したエドワーズが登場し、監督もびっくりするが彼女を代打にたたせて見事ホームランを打ち、チームは久しぶりの勝利を手にする。
それからというもの、メイプルスは順位を一番下から2位まで上げる。
皆が一丸となって勝利し、疲れや愚痴を口にせず「まだ頑張れる」と口を揃えて監督に言う。
しかし今の時点ですべての試合に勝っても自力優勝は苦しくなっていた。それでも皆は「頑張る」という。
広岡監督は笑顔で「そうか」というが、選手のいない所で「つらくてぼろぼろなのに」と泣くのだった。


87 :メイプル戦記4 :04/04/04 18:38 ID:???
そんな健気なメイプルスの選手の姿をみた他球団が「俗に言う首位いじめ」をやって、メイプルスを何とか勝たせてやりたいと、東京タイタンズ戦に勝利していく。
タイタンズはあと1勝というところで優勝だが、なかなか勝たせてもらえない。
そしてついにタイタンズ対メイプルスとなり、この試合の勝った方どちらかが優勝という所まで来た。
この試合のピッチャーは仁科の夫。
試合運びはお互い攻守とも譲らず、0対0のまま。
しかしついにタイタンズが1点先取する。
メイプルスも何とか走者を出し、逆転のチャンス。
そこでバッターは仁科紘子。夫対妻の対決となり皆がさらに注目した。
今まで2人は何度か対戦してきたがそれまで夫が勝ち、紘子は一時期スランプにまで落ち込んだ。
仁科(夫)は心の中で思う。「今さら謝ってもどうにもならないけど・・・、でもこの球精一杯投げるから、打つなり何なりしてくれ」
夫がなげた球に紘子は渾身の思いでバットを振った。
その球は大きな弧を描きホームランとなり、逆転さよならで勝利し優勝まで導いた。
仁科夫は何も言わず、ベースを走る妻の姿を見つめていた。
広岡監督はチームの皆に胴上げされ感激する。

次の日選手の寮にある人が花束を持って訪ねてくる。
その人は仁科の夫だった。
紘子はびっくりするが、夫は「優勝おめでとう」とある封筒を紘子に渡した。
それは紘子が置いてきた離婚届の書類だった。
夫は「俺の所に署名した・・・だけどおまえが出してきてくれ・・・俺には、ちょっと・・・」とうつむいて言う。
しかし紘子はその封筒を破いたのだった。
「一人の人間として、選手として見てくれてありがとう」紘子はそう言って、2人は握手した。


また、同じように花束を抱えて訪れる人がいた。
それは小早川だった。
神尾に「優勝おめでとう」と「日本シリーズで会えるのを楽しみにしている」と伝言だった。(小早川のチームはいち早く優勝を決めている)
その主は神尾に迷惑をかけた小早川のチームメイトと球団の人からだった。
小早川は「悪い人じゃないんだ」というと、神尾もにっこりと笑って「うん」といった。
それぞれのわだかまりが消えてこれから日本シリーズに突入するので、気持ちを新たにする広岡監督だった。  (終わり)