くだんからの伝言/柳原望
540 名前:くだんからの伝言 1/4[sage] 投稿日:2005/09/26(月) 11:55:02 ID:???
人口20万人 タマネギが特産の大杜市のラジオ局『FMオニオン』。
テレビや大きなラジオ局では扱えない地域情報を中心に放送している。
直枝結(21歳。DJ)と松家なつえ(31歳。DJ)と蛯名晋也(26歳。ディレクター)の三人が中心。
言葉を崩しがちな結を蛯名が叱り、松家がそれをなだめる、という感じの関係だ。

結がラジオを聞きつつ情報集めに街に繰り出していると、ラジオから悲鳴が飛び込んできた。
『放送切らないで。切ったら刺します。本気です』
牛のマスクで顔を隠した謎の少年に、放送中の松家が包丁をつきつけられたのだ。
『僕はくだんです。くだんは予言をする妖怪です。最初の予言…雨、降ります』
つい先ほど今日は天気だと報道されたのに、予言に合わせたかのように雨が降り出した。

結が急いで局へ戻ると、無事な様子の松家が外に出されていた。
蛯名は人質は一人で十分だろうと松家を外に出したのだという。
手錠で逃げられないようにされた蛯名は、包丁をつきつけられまた放送を入れる。
『次の予言……します。堤防…崩れます。西野川…工事してたところ』
自分のラジオ局から流れた情報が正しいかどうか確かめるのは当然だと、
蛯名はすぐに西野川に向かえと携帯で結に言う。堤防には男子中学生がいた。
当たるかどうかはわからないが危険だと中学生を引っ張った途端、堤防が崩れた。
爆弾などの人為的な物ではなく、自然な崩れ方だったと蛯名に報告する。
くだんは携帯での連絡を止める事はしなかった。お前は何がしたいんだと怒鳴る蛯名。
「…僕は祭りがしたい」くだんは牛のマスクの中に手を突っ込み涙をぬぐった。
まだ予言はあり、これから起こる事に誰かが巻き込まれ危険な目にあうかもしれない。
予言を聞く事によりそれを回避できるかもしれないらしい。予言を聞き出すため、
蛯名はやってきた警官たちに包丁で脅されているからビルに上ってくるなと告げた。
『次の…予言です。スーパー旭 あの大きな看板…落ちます。だから…近寄らないで』
地元民ですら聞く者の少ないFMオニオンに、事件を聞いた皆が周波数を合わせた。

541 名前:くだんからの伝言 2/4[sage] 投稿日:2005/09/26(月) 11:59:08 ID:???
当たれば大事だが、外れても局が恥をかくだけだ。また確認のためスーパー旭に向かう結。
さきほど堤防にいた中学生もついてくる。彼はラジオネーム『帰宅部の中学生』として
FMオニオンに何度か投稿している常連だ(というか彼以外に投稿者がいない)。
本名は鈴木真人。
「くだん…僕知ってます…くだんは、僕の弟の理人かもしれない…!」
看板にはヒビが出来ており、そのままにしていれば確かに落下の可能性があった。
今は業者により撤去作業中だ。雨も上がり、作業は順調に進んでいる。
周りにはラジオを聞きつけた野次馬が大量にいた。突然、ミスで看板が落下した。
野次馬は整理されていたため怪我人は出なかった。しかし、予言は当たってしまったのだ。

真人の弟の理人は病気で生まれた時から入退院を繰り返していた。
学校にもたまに行くだけ。母によれば来週からはまた行けるらしいが。
理人は毎日、真人から学校の話を聞くのを楽しみにしている。
しかし真人は時々、そんな理人をうっとおしく思い
優しくする事が出来なくて罪悪感を感じる。
ある日FMオニオンで、結の声を聞いた。結には長く入院している姪がいるという。
『僕も病気の弟がいます。ずっとベッドの中です。
 弟は病気なのに時々僕は優しく出来ません。どうすればいいでしょう』
真人がそうFAXで送ると、結は「そんな事で悩む君は十分優しい」と励ましてくれた。
それから真人の生活はラジオ中心になった。理人とは自然に距離ができた。
いつしか理人は真人になにも聞かないようになった。
その代わりのように、妙な事を言うようになった。「くだんの夢を見るんだ」

結を通じ、ラジオに放送されないように真人はくだんに連絡する。
真人が思った通り、くだんは理人だった。理人は泣きながら言う。
「ごめんね真人くん。ごめんねいつも迷惑かけて。
 僕 祭りがしたかったんだ。そしたら来週学校行くのが怖くなくなる。
 大丈夫だよ僕一人でできるよ。真人くんの手借りなくても一人で。
 だって僕 くだんになったんだから」

542 名前:くだんからの伝言 3/4[sage] 投稿日:2005/09/26(月) 12:02:05 ID:???
理人は窓からいつも空を見ているせいで天気予報が得意だった。
スーパーも堤防も病院への通り道だ。危ないのは知っていたのかもしれない。
お前がしているのは予言ではなく予測だと真人は言う。
「違うよ。だって僕にはわかるんだ。あ―――…びょーいんがばくはつする」

病院が爆発すると理人は放送もした。街は混乱に陥る。
その様子を局の窓から眺めて理人は笑う「祭りだぁ…」

入院患者の家族や野次馬で道は混雑していたが、結はなんとか病院にたどり着く。
未処理のヘアスプレーが焼却炉に捨てられており、それが爆発を引き起こした。
怪我人はいなかったが、通路のすぐ横なため予言がなかったら危なかった。
姪のまなみが不安がっていないかと結は向かうが、姪は笑顔だ。
「人がいっぱいでお祭りみたい。明日も明後日もこのお話ができるね。
 毎日同じ。看護婦さんともおしゃべりする事なくなって寂しかったから」
看護婦たちが話をしていた。新人看護婦が以前からヘアスプレーを捨てており、
何度注意しても直らないと。恐らく理人はその事を知っていて予言したのだろう。
そこへ、真人たちの母がやってくる。くだんが理人であるはずがないと言う。
「だってあの子、もうそんなに動けるはずないもの! あの子、もう長くないって…」
来週学校に行けると言ったのは、そう言えば元気が出るかもと思ってだった。

地元でさえ無名だったFMオニオンに今や全国が注目し、記者が殺到している。
犯人は放送以外なにも要求しない。局が宣伝のためにやっているのではと警察は疑い始めた。
警察は犯人がいるという証拠を出せと電話で迫る。理人は電話に出た。
「僕がくだんです。僕がラジオ局を占拠しました。たくさん迷惑かけてごめんなさい」
そう言うと、理人は倒れた。蛯名は機転を利かし、犯人が結だけを入れろと要求したと嘘をつく。
結は一人では怖いと嘘をつき真人と共にビルを上った。
倒れた理人に真人の制服を着せ、真人を荷物入れの中に隠す。
そして、窓から犯人は逃げたと結たちは偽りの証言をし警察の目をそらした。
その隙に理人を車に乗せ病院へと連れて行こうとしたが、理人は既に息をしていなかった。
「ごめんね理人…双子なのにわかってあげれなくて。理人……!」
真人は自分と同じ顔をした理人を抱きしめた。

543 名前:くだんからの伝言 4/4[sage] 投稿日:2005/09/26(月) 12:05:29 ID:???
あれは去年の体育祭の後。理人は久しぶりに出席した。しかし違和感はなかった。
真人から学校生活を逐一教えられていた理人は、誰の会話にも混ざれた。
年号を全て暗記して歴史のテストに挑んだように自信満々だった。あの瞬間までは。

「暑かったよなあ」「水道の水が旨かったぁ」「Tシャツ汗でぐっちゃぐちゃ」「痛いんだよねえ太陽って」
クラスメートたちが語る体育祭の時の思い出。
空調の効いた部屋にいつもいた理人には、その感覚はけして知り得なかった。
「お母さん!学校行きたい!毎日行きたい!」
帰ってきた理人はそう泣き叫び発作を起こし、また入院した。
真人もまた、理人の学校に行けない寂しさを共有する事が出来なかった。
理人はただ、一つの大きな『祭り』を皆で語り共有したかったのだった。


犯人不明のまま事件は終わり、リスナーは少し増えた。真人は局に出入りするようになった。
今でもわからない事はたくさんある。弱っていたはずの理人が何故あそこまで動けたのか。
天気も看板も堤防も爆発も、予測できない事ではないが何故あそこまでタイミングよく起こったのか。
理人が「くだん」の事を口に出すようになった頃、真人は図書館でくだんの事を調べた事がある。
『くだんは半人半牛の想像上の生き物。予言はかならず的中する。数日しか生きない』








まなみは看護婦に言う。「もうすぐ彼氏ができるよーいいなあ」
看護婦はまなみの書いた絵を不思議がる。
牛の体にまなみの顔がついた奇妙な生物が書かれている。
「あれ? この絵は?」 
「くだんの夢を見たの」
終わり