天使の顔写真(短編集)/森脇真末味
443 :天使の顔写真より「天使の顔写真」 :04/04/16 18:56 ID:???
森脇真末味・作品集「天使の顔写真」 ハヤカワ文庫
 シュールで奇天烈・飄々とした作風が魅力。
 あらすじだけでは伝わりにくいと思いますが、興味持たれたら是非お読み下さい

まずは一本目・表題作の「天使の顔写真」↓
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端砂(はたさご)は大手レコード会社に勤める男。
恋人がいるが、実は資産家の娘とも交際中で逆タマを狙っていた。
ある日、同僚がスカウトしてきたバンドのメンバー「ペプシ」が端砂の目を引く。
バンドはデビュー、順調に売り上げを伸ばす。

それからと言うものの、資産家の娘に恋人の存在をチクられたり
バナナの皮で滑って転んだり、気付いたら1週間無断欠勤していたりと
端砂にはろくなことがない。全てペプシの仕業なのはわかっていた。

端砂は決着をつけるためにペプシに会いに行く。
ペプシの正体は、端砂が幼い頃に拾ってペプシの看板の下に埋めた小さな天使の像だった。
天使像の顔の部分が壊れていたので、
端砂の父が自分の証明写真を天使の顔に貼ってくれた像だ。
だから、端砂の前に現れたペプシの顔は25才の若さで死んだ端砂の父と同じ顔をしていた。
ペプシは端砂が会社でのし上がるために無理をしていることを指摘する。
父の顔で説教するペプシを拒否しようとする端砂。
酔って風呂で眠り込んで溺れ死んだ父。世間からバカにされた父。
そんな父みたいにはなりたくない一心で端砂は必死に働いてきたのだ。
だが彼はペプシの前に陥落する。「僕は父親が好きだった」

心の中の何かが溶けた端砂は、恋人の家に行き彼女を抱きしめるのだった。

444 :天使の顔写真より「空色冷蔵庫」 :04/04/16 18:59 ID:???
元カレで突然社長に抜擢されたというマクセルに誘われて就職したアリスは
ハンサムで無口な社長秘書・クリスに一目惚れ。
クリスは前の社長秘書・クリスティーンの兄で、
既に重役室の太ったのお局・レベッカという恋人がいた。

夜遅く、アリスが社長室に行くと
そこには酔って寝込んだマクセルと、クリスにそっくりな裸の女・クリスティーンが居た。
色気に負けた、と資料室で落ち込むアリス。そこにクリスが現れてアリスを抱きしめてきた。

翌朝社長室に呼ばれたアリスは、
マクセルからクリスがアリス結婚したがっていることを告げられる。
驚くアリス。アリスは「何故奴と寝たんだ、夜9時にもう一度来い」とマクセルから責められる。

約束の夜9時。謎の小さなクーラーボックスを抱えたマクセルは、
アリスを連れたままヘリと車で何かから逃げ回るかのように町を走り回る。
クーラーボックスにはクリスティーン=クリスが入っているのだという。
クリスティーンは願いを叶えてくれる「ランプの魔神」だったが
レベッカに惚れたクリスティーンはマクセルを裏切って男性=「クリス」になってしまったのだ。
最初にクリスティーンを拾ったという山中の崖まで辿り着いた二人。
マクセルは、冷蔵庫にクリス=クリスティーンを入れると、
泣きながら冷蔵庫を崖から突き落とす。

それから数日。マクセルは社長をクビになり行方をくらませ、アリスも再び失業。
アリスの部屋に空色の冷蔵庫が届く。
「外気に触れると一分で孵化します」とのカード付き。
冷蔵庫の中からは、クリスの奇妙な歌声が聞こえてきた。

445 :天使の顔写真「トライアングル」 :04/04/16 19:04 ID:???
おしゃべりな妻の過剰な愛と束縛に辟易したサラリーマンのテツローは
旧友のマクセルに妻の蒸発を依頼。
依頼を受けたマクセルが連れてきたのはスコッチ大佐という男。
大佐は手にしたカバンを叩いて「すべてはこの中にある」と笑う。

決行の日は満月の夜。
テツローは、妻とマクセルと大佐とともに家で最後の晩餐を済ませる。
3人は妻を薬で眠らせると、隣の空き家のプールへと妻を運ぶ。
プールサイドで大佐がカバンをあけると、そこには「バミューダパンツ」が3着入っていた。
着替えろと促されて訝しむテツローに、自信満々の大佐がにっこり笑って一言。

「バミューダ・パンツ・トライアングル」

怒り出したテツローだが、バミュータパンツ姿の3人がプールを囲んで三角形を作ると
突然プールから巨大な帆船がせり上がってきた。
「さあ彼女を放り込め!」との声も耳に入らず、呆然とするテツロー。
船はプールに沈み消えていった。
おまえは結局口だけ男だ、身分相応に生きろ、と言うとマクセルと大佐は去っていく。
「勇気が足りなかったわけじゃない、妻を愛してたからできなかったんだ」
と妻を抱きしめて叫ぶテツローなのであった。

449 :天使の顔写真 「サカナカナ」 :04/04/16 22:56 ID:???
青年・魚谷(ととや)はバイト先の店長とともに海釣りに行き、奇妙な魚を釣り上げた。
手足が生えて言葉を喋るその魚は「俺は元人間だった」と言う。
1年前までは超プレイボーイだったその魚は、
ある日魔女をこっぴどく振って呪われ、魚にされたというのだ。
魔女は、その魚を釣り上げた人間が「最初に思ったことの反対」を口にすれば
呪いがとけると言って去っていったのだという。
魚谷は魚に向かって「かわいい」「美しい」「上品だ」など色々と口にしてみるが
魚が人間に戻る気配はない。

魚谷は、元プレイボーイの魚に恋の相談をする。
ナンパしても飄々とした毒舌のせいで女性から総スカンをくらう魚谷だが、
本当に惚れているタバコ屋の店番の女性にだけは話しかけることすらできない。

センチメンタルな気分で海辺にやってきた魚谷と魚。
海辺で飴玉を食べていて「思ったことの反対」の意味がやっとわかった魚谷は
魚に向かって「最初に思ったことの反対」を叫ぶ。
ぼぼぼぼぼぼ、と魚から光と煙が立ち上り、人間の姿が現れる。

後日、魚のアドバイス通りにタバコ屋の店番の女性に思い切って話しかける魚谷。
「あの………明日、選挙行きますか?」

当然うさんくさい目で見られてしまい、落ち込む魚谷。
隣では、頭だけ魚のままの男が「早く完全な呪文を言ってくれ」と泣きついている。
飴玉を口に入れたまま叫んだので、呪文が完全ではなかったのだ。

450 :天使の顔写真より :04/04/16 22:58 ID:???
「週に一度のお食事を」(原作:新井素子)

女子大生・元子は地下鉄で中年男に首筋を噛まれてからというものの
生活はすっかり夜型に、食欲も喪失。
学校も休んでばかりで単位が危ないので、
彼氏の阿来(あらい)の下宿にノートを写させてもらいに行く。
しかし阿来を目にした途端に食欲が蘇り、元子は思わず彼の首筋に噛みついていた。
元子はようやく自分が吸血鬼になっていたことに気付いたのだった。

そのうち、テレビニュースでも吸血鬼現象が取り上げられるようになり、
元子は吸血鬼が自分たちだけでなかったことを知る。
半年後、病人や老いたくない若者達がこぞって不死の吸血鬼になりたがったのもあり、
日本では人口の一割弱が吸血鬼となっていた。

吸血鬼グループに入って調べものをしていた阿来は、
吸血鬼とは「太陽の光を浴びてチリになる」という特性を利用して
某国が作り出した大量殺人兵器だった、という事実を探り当てる。
研究者の一人が裏切り、吸血鬼にならないための抗体を作らずに
支配者層を吸血鬼にして失踪。世界中に吸血鬼が広がってしまったのだった。

阿来たちは、その研究者を某国よりも先に見つけだし
一人でも多く吸血鬼を増やして吸血鬼の生きる権利を勝ち取る計画をたてる。
元子は阿来たちと共に海外に旅立つ決心をする。

吸血鬼としての人生の始まりだった地下鉄の駅で
日本での生活との別れ惜しむ元子に駅員が話しかけてくる。
「人類は既に食物連鎖を離れました。あとは共食いのみです。
 全ての人間が吸血鬼になったあと、あなたがたは安らかな眠りにつくでしょう…」

451 :天使の顔写真 「錆色ロボット」 :04/04/16 23:00 ID:???
未来。多くの幸運な人々は人工衛星に移り住み、
地上にはクジにはずれた貧乏で不運な連中が住んでいた。
そんな中、肉体リサイクル工場のリサイクルBが何者かに爆破される事件が起きる。

田舎の自動車リサイクル工場の工員で内気なゲイリーは、
ある夜大きなロボット・レナードと女性・アーシェラを拾い、家に連れ帰る。
その夜、アーシェラはゲイリーを誘う。
内気で女の子とは縁のなかったゲイリーは驚くが、彼女を受け入れる。
そうして3人の同居生活が始まった。
レナードは無口だったが、同僚に殴られるゲイリーを助けて同僚を投げ飛ばしたり、
ゲイリーの身体をうらやましがったりすることがあった。まるで人間みたいだ、とゲイリーは思う。
アーシェラは毎晩のようにゲイリーを求めたが、眠る時はいつも必ずレナードの傍だった。
レナードは「アーシェラは子供が欲しいんだ」と言う。レナードに嫉妬をおぼえるゲイリー。

一方、爆破されたリサイクル・Bでは爆破にまぎれて盗難が起こっていたことが判明。
盗まれたのは、蘇生不能とされた超一級の殺し屋・レナードの身体だった。
酒場で見たテレビニュースでレナードの盗難事件と
その犯人がレナードの生前の恋人・アーシェラだと知ったゲイリーは慌てて家へ走ったが、
既に二人の姿はなく、「さよなら 追わないで」というメッセージが残されていた。

アーシェラは、最初はゲイリーを利用して彼の家に隠れ、
月への逃亡ルートを確保したらゲイリーを殺してレナードと二人で月へ逃げるつもりだった。
だが、レナードに止められ結局ゲイリーを殺せずに家を出たのだった。
二人が迎えの宇宙船を待っているとゲイリーが二人を追ってきた。
ところが、仕返しにやってきたゲイリーの同僚が3人を狙撃。
アーシェラをかばったレナードは倒れ、アーシェラは同僚を撃ち殺す。
幸い、レナードの本体に収納されている脳は無事だった。
レナードの脳は月でもっといい機械の身体に移せばいい、とアーシェラ。
アーシェラは「私が一番愛してるのはレナードだけど、それでも私たちと行く?」
とゲイリーを誘う。ゲイリーは頷いた。

452 :天使の顔写真より :04/04/16 23:03 ID:???
「鏡の前のポダルゲー」

売れっ子作家ハリーの妻エリザベスが運転する車が崖から海へ転落。
妻の葬式の後、ライターを落したことに気付いたハリーが墓場に探しに行くと、
エリザベスの墓石の上に、顔と胸は人間の女、身体は鳥の「ハーピー」がいた。
ハリーは、エリザベスと同じ色の瞳を持つハーピーを連れ帰る。
お喋りだったエリザベスと違ってグェグワとしか鳴かず、生肉をつるつると食べるハーピー。
締め切り破りの常連だったハリーは静かな環境で調子よく原稿を仕上げ、
編集部には「妻の死後一週間でもう新しい女が出来たのでは」との噂が広がる。

その夜、エリザベスの幼なじみで編集部員のデイブがハリーの家に忍び込む。
こそこそとエリザベスの鏡台を漁るデイブにハーピーが襲いかかる。
物音に気付いてハリーがやってくると
錯乱したデイブは「俺が車に細工をしてエリザベスを殺した」と口走り、ハリーに銃を向ける。
デイブは詐欺師で、詐欺に使うために作った恋文や偽造証書を沢山作っていた。
ハリーが仕事ばかりで振り向いてくれないのに業を煮やしたエリザベスは
デイブが作った恋文を勝手に持ち出し、家のあちこちに置いてハリーにヤキモチを焼かせようとした。
ところが鈍感なハリーは全然気付かない。
そこでエリザベスはデイブの家から更に沢山の恋文を持ち出したのだが、
そこには偽造証書や偽造手形が混ざっていたのだ。
慌てたデイブはエリザベスを殺して偽造文書を取り戻そうとしたのだった。

全てを話してしまったデイブはハリーも撃ち殺そうとするが、
ハーピーが襲いかかってハリーを救う。重傷を負ったデイブは逮捕された。
警察に事情を聴取されたハリーは、エリザベスが生きていることを知らされる。
死んだのはたまたまヒッチハイクで車に乗り合わせた女性で、
エリザベスはヨットに助け上げられ今朝昏睡から醒めたのだ。喜ぶハリーだったが、
では一週間一緒に暮らした「ハーピー」は一体何者か?
振り返ると、庭木にハーピーが留まっている。
「迎えに来て、ハリー!」
その時、ハリーはエリザベスの声を聞いた気がした。
ハーピーはニヤリと謎めいた笑みを浮かべると、夜明けの空に飛び去った。

453 :天使の顔写真より :04/04/16 23:05 ID:???
「山羊の頭のSOUP」

映画監督を夢見る売れない青年脚本家トム・ギャレットは今日も仕事がない。
海岸で出会った若い女性に「分不相応な夢を叶えてやろう」と言われ
契約書として赤ん坊を渡される。驚くトムの前で女性の頭部が山羊の頭に変化する。
トムは彼女が悪魔であることに気付いたが、男性に女性にと姿を変える悪魔はイゴリーと名乗り
「魂はとらない、タダでお前のために運を調達してきてやる」と言う。
ただ一つの条件は「誰かに"愛している"と言わないこと」。
トムはその条件に同意し、トムの脚本は大ヒットする。

鳴く子も黙る売れっ子になったトム。しかしトムの親戚が病気で次々と倒れる。
トムは、イゴリーがトムのために親戚から「運を調達」していることに気付く。
これ以上の成功はもう病気では済まない、誰かが死ぬと悟ったトムは
もうやめてくれとイゴリーに頼むが、イゴリーに聞く耳はない。
一度決まった契約を遂行するのみというイゴリーにトムは何故、と問う。
俺は世界の終わりまで生きるが、目的はないんだ、と答えるイゴリー。

次は一番近い肉親が死ぬと聞かされたトムは、契約を終わらせるために
死んでも惜しくない、好きでもない女優と結婚式をあげ「愛してる」と叫んだ。
そのまま慌ててイゴリーの元にとって返したトムだったが、
イゴリーとの契約書である赤ん坊に反応はない。
感情抜きの言葉だけではダメだ、次は花嫁が死ぬ、とイゴリーは予言する。
トムは泣き出し、助けてくれとイゴリーにすがる。
「おねがいだ助けてくれ、愛しているから−」
思わぬ愛の告白にイゴリーは動揺し、黙れと恫喝するがトムの告白は止まらない。

 世界の終わりまで目的もなく生きると言ったおまえを抱きしめて泣きたくなった、
 世界の終わりまでおまえを抱いていてやりたかった、
 イゴリー 愛している…

嘘偽りのない愛の告白で契約は破棄される。
「うまく逃げたな」と笑ってイゴリーは消えた。

454 :天使の顔写真より :04/04/16 23:07 ID:???
「ナビゲーターから一言」(文庫版の書き下ろし)

毎年40秒間だけ決まった場所に姿を現すその男は
時空旅行者であり、未来から来た男だった。
8年前突如として現れた彼は不明瞭な言葉を話し、
ハカセにタイム・ナビゲーターという小さな機械を渡した。
その機械は未来の様々な危機を予知したが、人類にはそれを回避できなかった。

8年分の彼の言葉をまとめると、
人類を救う方法を今年教えてくれる、ということらしいのだ。
集まった科学者たちの前に、とうとうその男が姿を現した!

(…6ページの短編なので、オチを書くのはやめておきます。)