IS〜男でも女でもない性〜/六花チヨ
825 名前:IS〜男でも女でもない性〜 春編[sage] 投稿日:2006/02/12(日) 00:12:27 ID:???
幸せいっぱいの若夫婦に生まれた子供は男でも女でもないインターセクシャルと呼ばれる存在だった。
女の子とするなら大きすぎるクリトリスと未熟な膣、
男の子とするなら小さすぎるペニスと存在しないはずの膣を持って産まれた。
卵巣と子宮があり、どちらかというと女の子に近い。
性器の形成手術をするかと問われるが、子供の体にメスを入れたくないからと断る。
それに将来的に子供の精神的な性が男女どちらになるかはわからない。
男の子でも女の子でもない、インターセクシャルとして育てる事にした。
名前は春

生後10ヶ月の春は突然のヘルニアにより手術を受ける。
その際、今まで発見されなかった精巣が腸の奥から発見された。
精巣が腸に絡みつき、このままでは手術が困難だ。
精巣を残したままでは手術が危うい。精巣が切除される事になった。

母は二人目を妊娠した。もしもまたISだったら堕胎という道もあると医師はいう。
悩むが、男でも女でもISでも産もうと決意。
二人だけじゃ春を守り切れないかもしれない。春の兄弟をいっぱいつくろうと決意。
数年後、そこには四兄弟が。妹二人は夏と秋、末の弟は冬。
春夏秋冬で四つそろって一巡する季節のように4人で一つ力を合わせて生きてほしいという願いをこめて。

幼稚園に入園した春は、性器が皆と違う事でわがまま少年レオンにからかわれる。
色々あってレオンと仲良くなる。両親は、日に日に男の子らしくなる春を心配していた。精巣をなんとしてでも残すべきだったかと。
春は春で、男でも女でもない自分は小学校に入ったら何色のランドセルを使えばいいんだと悩んでいた。
レオンは特注したというランドセルを見せびらかしにくる。
なんと虎柄。「春は好きなの買っていいんだからな赤でも黒でも」
春はシマウマ柄のランドセルを買った。

小学校に入学してから、春は少年サッカーで活躍し楽しい日々を送る。
五年生のある日、初潮が訪れるまでは。
それまでは普通に使っていた男子トイレが使えない。女子トイレにも入るわけにはいかない。
雨の降る中、離れの人気のない男女共用トイレを使用する。
雨に濡れて浮き出た春の体はまぎれもなく女のものへと変わっていっていた。

826 名前:IS〜男でも女でもない性〜 春編[sage] 投稿日:2006/02/12(日) 00:14:47 ID:???
春は性ホルモン不足からくる貧血により倒れた。
ISは性ホルモンが不足しやすく思春期以降体力が低下する傾向にある。
今まで通りサッカーもできないかもしれない。
「将来の事を考えて女性ホルモンの投与を開始したいと思います」
医師の言葉に春はショックを受ける。自分は男だからと拒絶した。
それでも仲間たちは、女っぽくなってきた春の体に動揺しよそよそしい。
落ち込んで部屋に引き篭る春を母は説得する。もう一度仲間たちと向き合う事にした。
「俺の体変わってきてて とても男に見えないかもしれないけど
 だけど俺を避けるの体の事だったらやめてほしい。
 体はどんどん変わるけど気持ちはなにも変わらないから」
春の言葉に皆は、無視していた事を謝り今まで通りにやると言ってくれた。


中学で生理はほとんどなくなり、春は学生服を着て男子生徒として登校していた。
卒業後の進学先は食物調理科。パン職人の父のようになりたいからだ。
だけど、高校では男として扱う事は出来ないと言われた。
中学校と高校では規模が違う。950名の生徒全てにISを理解させるのは難しい。
体は女に近く、戸籍上も女。春は苦悩しながらも女子生徒として通うことにした。
学校では誰も春を男などと疑わなかった。どこからどう見ても女にしか見えない自分の姿が嫌になる。
みんなにわかってもらおうとISの資料をわざわざ持ってきたが、結局誰にも渡せなかった。
女友達として仲良くしている友人に鞄の中にいれていた資料を見られる。
動揺するが、彼女は春がISである事を受け入れてくれた。
他の二人の友人にも春は自分がISである事を告げた。

春は中学に入ってからサッカーをやめた。ホルモン不足からくる過度の眩暈と貧血のために。
戸籍上は女の春には、女性ホルモンの投与をすすめる医師しかいなかったのだ。
ある日母は、性同一性障害者としてカウンセリングを受ければ男性ホルモンの投与を
認める医師を見つけてきた。男性ホルモンを打てばサッカーができる。
男にしか見えないような体になれば、学校側も男子として通う事を認めてくれるかもしれない…
胸踊らせる春に、久しぶりの生理が訪れた。

827 名前:IS〜男でも女でもない性〜 春編[sage] 投稿日:2006/02/12(日) 00:17:23 ID:???
春はサッカーカードを通して普通科の男子生徒・伊吹と知り合った。
スカートの下にジャージをはき、男らしい言動をする春を女に見えないと伊吹は言う。
そう言われた事が嬉しかった。伊吹宅に言った春は、伊吹と姉らしき少女の映った写真を見る。
伊吹は何故かそれを必死な様子で隠した。気を取り直し、伊吹はチャーハンをふるまおうとする。
誤ってこぼしてしまい、それが春の服に流れ落ちる。春はあわてて服を脱ぎかける。
伊吹は春を女として感じ、触れようとする。すぐに伊吹は我に返ったが春はショックだった。
伊吹が謝りすぐに仲直りする。

気づくとすぐに伊吹を目で追ってしまう春。
中学に入ったあたりから女性化は止まっていたのに、
生理が規則的に2ヶ月連続できて、体もまた女性化しだした。
体も心もなにかが大きく変わろうとしている事を予感した。
春は、伊吹に恋心を抱いている事を自覚した。自分は男なのに…
男性ホルモン投与のためのカウンセリングの日。
ISには男と女の間をいったりきたりする「ゆらぎ」の時期があるという。
ある時期は自分を男だと思ったり、またある時期は女側に傾いたりと。
体内で分泌されるホルモンの影響なのかもしれない。
春は今その「ゆらぎ」の時期にあるのかもしれない。
男性ホルモンの投与の事は後回しにし、医師はまずカウンセリングを行うことにした。

伊吹は春に彼女になってくれと告白した。春はそれを受け入れ、二人はキスをした。
電車内で他校に進学したレオンに会う。レオンにさわってみるが別にドキドキしなかった。
ちゃんと男同士として会話ができる。春は伊吹といるだけ女になってしまうようだ。
医師に、女の体に違和感を感じるが、男に恋をしていると告げる。
医師はISの自助グループを紹介する。同じISが迷いの答えを教えてくれるかもしれないと。

840 名前:IS〜男でも女でもない性〜 春編[sage] 投稿日:2006/02/14(火) 02:59:24 ID:???
ISの自助グループ『しずくの会』についた春。代表の乾しず江はとても綺麗な人だ。
彼女はネット上に公開している自分のプロフィールを見せる。
男性として産まれ育ったが、声変わりがなかなか訪れず、
それどころか胸が膨らんできた。今では女性として暮らしているという。
システム担当の熊さんのプロフィールも見せられる。顎鬚のあるダンディな人だ。
男として生きてきたが子供がなかなかできず、病院ではじめてISだとわかったという。
その他にも様々なプロフィールを見せられ、春は涙を流す。
周りの人はISを受け入れ、母はいつも無理解な人々にも根気よく理解を求めてくれた。
だから「どうしてISなんかに生まれたんだろう」などと誰にも言う事は出来なかった。
「わかるよ俺も。なんで俺だけって考えるもの」熊さんはそう言う。
自分と同じように悩んでる人たちがここにいる。来てよかったと春は思う。
『しずくの会』の名の由来は、涙のしずくを流しながらでも前進しようという意味だという。
そこに、小柄な美少女が現れた。彼女の名は美和子だという。
突然、伊吹からメールが届いた。虹があったからと写真つき。
そこに映ってるのと同じ景色が窓の外にあった。同じ町にいるようだ。
慌てて飛び出し、伊吹と会う。伊吹は何故この町にいたのかを明かさない。
だが言えないのは春も同じ。二人は手を繋ぐ。

母は医師のもとを訪れていた。ゆらぎがどれほどの物かはわからないが、
あれほど女性化を拒絶していた春が、自分を女だと認識するのは難しいと医師は言う。
「自分が男だ 女だと感じる心は 自分の意思では決して変わりません
 なのに反対の性を演じることは春くんにとってとてつもなく大きな苦痛となるでしょう」

春はしずくの会に財布を忘れて行っていた。それを拾った美和子は、
中に生理ナプキンが入っている事に気づく。財布を渡しに春を探すが、
春が伊吹と仲良さげに歩く姿をを見、美和子は引き帰した。

『俺たちは同じIS でも一人一人違う人間だと この時俺は気づかずにいた』

しずくの会の家族会に、春は両親や弟妹たちと共に行く。
そこに、美和子からメールがきた。渡したいものがあるから外に来てくれと。
なんで中に入ってこないんだろう? 疑問に思いながら外に出て行く。

841 名前:IS〜男でも女でもない性〜 春編[sage] 投稿日:2006/02/14(火) 03:01:59 ID:???
しず江は母に言う。どうして春があんなに明るいかわかった気がすると。
「ご家族全員が春くんのISをとてもオープンにとらえてくださってます。
 ……美和子のお家もそうだといいのに」
美和子は春と同じく高校生で、記憶にないほど幼いころに手術を受けた。
だが両親はいまだにその事実を伝えず、美和子が何度聞いても答えない。
真実を言わない両親が信じられず、人間不信になり、学校も休みがちになっている。
だが、大抵の家庭はそうなのだ。IS本人と同じように悩み苦しみ隠している。

美和子は春に財布を渡す。伊吹にISの事を伝えていないという春に、当たり前だよと美和子は言う。
美和子は、プロフィールに最寄駅まで書かない方がいいという。
「春くんはわかってないのよ 理解ある家族…友達に囲まれて恵まれてるから
 だからわからない 世間がISをどんなふうに見るかって」
そこについてきていた冬が現れる。冬の顔を見て、美和子は
「ほらね春くんは恵まれてるからわからないのよ」と言い、走り逃げていった。
その追い詰められたような顔に、美和子のプロフィールを思い出す。

美和子は幼い頃に手術を受けたらしい。だが親はなにも話さない。
思春期になり、美和子は知らされずにホルモン剤を飲ませられた。
そのため家族の中で美和子だけ異様に背が低い。
両親は性ホルモンが骨の伸びを止めさせるという事さえ知らずに薬を飲ませたのだ。
美和子を女らしい体にするために。美和子の過去を消すために。
『なにも知らない なにも教えてくれない あの人たちは 本当の私を好きではないんだ』

すぐに春は美和子に追いついた。ISの事を知っても差別する人間ばかりじゃない、
むしろ理解してくれる人のほうが多い。だから俺はみんなにISだという事を知って欲しい。
知られたら終わってしまう恋だから、伊吹にだけは言えないが…そう春は言う。
つらそうな顔でうつむく美和子の小さな手を握り、春は駅まで送った。
低い身長、小さすぎる手。そうまでして隠したい家族。
ISな自分は伊吹といつまでもいられないのだと、春は美和子を見て悟った。
それでもより長く伊吹といたい。春は翌日から、ブラジャーをつけて登校した。
女物の下着に心がひどく軋んだが、少しでも女に近づかなければとそう思った。

4 名前:IS〜男でも女でもない性〜 春編[sage] 投稿日:2006/02/15(水) 21:19:18 ID:???
レオンは、春を友人として今まで見てきたが、
すっかり女子高生らしくなった春に恋愛感情を抱き始めていた。
春を覗き見る。伊吹と歩く春は、どこか辛そうな顔をしていた。
ISの事を言えないから、女のふりをしているから辛いのだろうか。
昔の春のように元気になってほしいと、幼い頃よく行った祭に誘う。
笑顔を取り戻す春。帰り道、二人乗りの自転車が転倒した。
その勢いで春の柔らかい体に触れてしまい、レオンは告白しかけるが、やめた。
「俺お前の恋応援してる でもISの事黙ってるのは春らしくないんじゃない?
 俺ならきっと気にしないと思う 本気で好きになった相手ならISなんて」
お前と友達で良かったと泣きながら、春はレオンにもたれる。
『俺はお前の笑顔を守るんだ 好きだから悲しませたりしない』
春は伊吹と距離を置くと言う。女のふりをするのはやっぱりつらいから。
翌日、駅でレオンは美和子に話しかけられる。美和子は前からレオンを見ていたという。
春もいいけどこの子もいい。レオンはすぐに美和子と仲良くなった。
『バカだった 春の笑顔を守るはずだったのに 俺は今でも後悔しているんだ
 俺はどうして美和子さんに すべてを話してしまったんだろう』

ブラジャーをつけないでいると、今度は布にこすれて胸が痛くてしょうがない。
ここ最近大きくなったようで目立つ。また女性化していると実感して落ち込む。
春は父の勤める洋菓子店でアルバイトをする事になった。伊吹に距離を置くと宣言する。
「いつか伊吹に隠してる事全部言うから それまでは…」
春は友人たちに、自分がISである事を全校生徒に知ってもらいたいと言う。
でもいきなり全員に言うのは危ない。まずは信頼のおける子から。
美和子はその頃、レオンに中学時代の写真を見せてもらった。
学生服のレオンと、春。美和子は春を見ながらかっこいいねと頬を染めた。

胸が目立たないように春はシャツを何枚も着る。だが夏の日差しは日々厳しくなり、そろそろ限界だ。
春は宇佐美はじめという女子生徒と知り合う。成績優秀で1年にして陸上部のエース。
まるで男のような言動をする、元気すぎるぐらい元気あふれる人だ。

5 名前:IS〜男でも女でもない性〜 春編[sage] 投稿日:2006/02/15(水) 21:21:47 ID:???
宇佐美は前から、ブラをつけず時々一人称が俺になる春を気にしていたらし。
春を無理矢理トイレにひっぱり、いきなり服を脱いだ。
プロスポーツ用のブラらしくないブラを着用した彼女は
「こんなブラならどうかな?」と言ってくる。春は貧血で倒れた。
目覚めた春。宇佐美はブラに抵抗感があり、ずいぶんブラをつけていなかったという。
しかし「おとこおんな」とからかわれるのも嫌だった。そんな頃の自分と春が重なるのだという。

春は宇佐美が彼氏といるところを目撃する。彼氏は宇佐美の体を求めてくるらしい。
「昔からずっと好きだった だからしたくないんだ」
宇佐美も彼氏も今は何もかもが中途半端。そんな事をしたらすぐに夢中になってしまう。
「きっとなんにも見えなくなる 半人前同士がもたれあってもろくな事にならない
 そう思うからだ それにやりたい時は私から言う そう決めてんだ」
男女ワクからはみ出てしまう互いを重ね、春はISの事を全て話した。
宇佐美が体を許したくないと思うのは、当然だ、俺もそう思うと春は言う。
「俺の場合はしようと思ってもできるかどうかが問題なんだけど…
 本当ゆうと他人に自分の身体見せるの怖い もしも見て拒絶されたら…」
宇佐美は泣き出す。「じいめられたら言えよ 仕返ししてやる」
ガキじゃないんだからと笑いながらも、春も涙をこぼしていた。
宇佐美は春にブラを半ば無理矢理渡す。「そのブラならプロスポーツ用でブラらしくないでしょ」
嫌悪感がないと言えば嘘になるが、重ね着よりはマシだった。

バイト中の春の前に、美和子が現れた。美和子はレオンにナンパされたと報告する。
あんまりしつこいので話す仲になった。ISの事がばれたくないから言わないでねと美和子は言う。
そこに友人たちがやって来る。警戒心の強い美和子はすぐに逃げ出した。
春は追いかけて、自分の計量したケーキを美和子にプレゼントした。
そのお礼のメールが春に届く。まるで恋文のような言葉に春はドキドキする。

美和子の両親はしずくの会をよく思っていなかった。
あの子は女の子だ、しずくの会なんかに騙されているんだと憤る。
「もう一度病院へ行くよう話します 最終的な外性器手術を受けさせなきゃ」

117 名前:IS〜男でも女でもない性〜 春編[sage] 投稿日:2006/03/14(火) 04:22:53 ID:???
春はどんなに女性化が進んでも、伊吹と知り合っても自分を女だとは思えない。
でも最近は、水泳部の男子の体を見ると、あれは自分とは違うものの体なのだと思える。

母は貧血の検査だと偽っては美和子を病院に行かせようとしていた。
拒絶する美和子に母は突然、フランス料理店でアンケートに答えてアクセサリをもらったと語り出した。
「そこにも…あったわ。性別記入欄が。どうしてあるんだろうね?料理店なのにね?
 男か女か…世の中全部そうなってるのよね?」母は昔医師に聞いた事を語る。
大人になってペニスが7cm以上になりそうにない子は、女の子にする。
女の子としては大きすぎるその部分を切る。だから世の中には男と女しかいない。
「7センチ…ちゃーんと境界線が決まってるんだもの
 ISはいない ねえ美和子ちゃんあなたは女の子なのよ」
美和子は母の手を振り払い、春のもとに走ってきた。
両親は本当の自分を殺す気だ、思うように造り変えるつもりだと叫ぶ。
「ねえ春くん一緒に逃げよう だって誰もわかってくれない 私達のことわかってくれない!」
泣き叫ぶ美和子をなだめながら、そんな事はないよと春は言う。
「だったらなんで春くんはスカートはいてるの? 春くんだって思ってるんでしょ?
 ISは理解してくれるかもしれない だけど愛してはもらえない」
美和子は春に抱きつき、でも自分と春ならわかりあえるとささやきかける。
自分から壁をつくったら本当に誰も理解してくれないと言う春に、美和子は号泣する。
『どうして彼女はこんなにも自分を傷つけるんだろう 闇のなかへ閉じこもってしまうんだろう』

春は伊吹のもとへ行き、肩を寄せる。距離を置くとはいったが今だけはそばにいたい。
傷ついた美和子の吐き出す言葉は、春の心をも切り刻んだ。
伊吹はなにも聞かずに寄り添い、いつか互いの秘密を言い合えるといいなと言った。

『下を向いちゃいけないと思った 俺にはたくさんの支えてくれる人がいる
 もしも美和子さんに支えが必要なら 俺が支えてやろう そう思った
 だけど追い詰められた彼女の悲しみは深くて 俺の想像をはるかに超えていたんだ』