七色いんこ/手塚治虫
868 :七色いんこ-1 :04/02/19 11:12 ID:???
「七色いんこ」いつもマスクとカツラで素顔を隠し、変装の名人でもある彼の顔を見た者は誰もいない。
表向きの仕事は出演料をもらわない代役専門の舞台役者、しかし正体は舞台の幕間に観客から金品を盗む怪盗だった。
七色いんこを追うのは刑事の千里万里子。元スケバンで運動神経抜群だが鳥を見るとジンマシンをおこして体がちぢみ、
子どものようになってしまう。

1話完結で千里刑事やパントマイムの得意なオカマ犬の玉サブローと世界を飛び回り、各話ごとに有名な演劇をモチーフにした
事件が起きるのが基本的なストーリー。(各話のタイトルも「ハムレット」「ピーターパン」のように演劇から取っている)
そんな中、隠された設定が断片的に明らかになっていく。

「じゃじゃ馬ならし」では千里刑事が父親の紹介で男谷マモルという人物と見合いをすることになり、いんこの尾行を
口実に逃げるが、ラストシーンでいんこが実は男谷マモルだとわかる。
さらにひき逃げ事件を起こす謎の青い車を追う「青い鳥」では、その車に乗っていた男谷マモル(実は人形)が
第1話「ハムレット」に登場した大財閥の鍬方隆介の家出した息子、鍬方陽介と判明。
そして最終回「終幕」で全ての謎が明らかになる。

869 :七色いんこ-2 :04/02/19 11:13 ID:???
いんこのアジトを突き止めた千里刑事はそこで一冊の日記を見つける。それにはいんこの半生が綴られていた。
大財閥の鍬方隆介の息子として生まれた鍬方陽介は幼い頃に母親を亡くしてしまう。
金の亡者でウソつきの父親と冷たい母親の間で育った陽介にとって唯一の楽しみは、ある空家に隠された衣装と化粧道具で
他人を演じる事だった。ある時は不良少年になったり、老人に変装して父の運転手に道を聞いたりと演技力を磨いていく。
そして自分をいじめた同級生に少女の格好で近づき、喧嘩して自殺したように見せかけてショックを与え、唯一の友達だった
インコを殺し、隠してた衣装を焼いたサディストの女家庭教師に対しては車に家庭教師のムチを引っ張らせて追い出す。

相変わらず孤独なまま中学生になった陽介は一人の少女に出会う。朝霞モモ子というその子と演劇の話で打ち解けあい恋をする。
しかし新聞記者である彼女の父親は、陽介の父の悪事を暴こうとしていた。父親の手下にモモ子たちの命が狙われたところを
陽介は助け、モモ子は家族と車で逃げる途中トンビの大群に襲われ崖から転落、海に消える。
それを知った陽介は父を問い詰めるが、無理矢理アメリカへ留学させられる。アメリカに着いた陽介は一文無しで逃走、
ニューヨークのハーレムで凍死しかけたところをピエロの格好をした芸人のトミーに助けられる。
トミーの天才的な芸を見た陽介は彼に弟子入り、演技の指導を受け相棒として成長してゆく。

870 :七色いんこ-3 :04/02/19 11:15 ID:???
それまでNYの小さな劇場でしか公演しなかったトミーは、突然シカゴの大劇場で公演をする事を決める。
「復讐だ」というトミーはそこで新作のベトナム戦争の風刺劇をする。
かつて軍事企業の開発した新兵器で女子供まで殺し、良心の呵責とベトナム人の組織に狙われ、素顔を隠し生きる事になったトミー。
しかし軍事企業のトップは兵器を売って得た金でぬくぬくと暮しているのだ。
鬼気せまるパントマイムで観客に訴えるトミーは、ラストに劇場のオーナーで軍事企業の社長でもある男に向かいワイヤーで
宙を飛び、銃を向ける。恐怖におびえるオーナーに対して引き金をひくと空砲と共に花びらが飛び出し、客席に舞ってゆく。
拍手とブラボーの歓声の中舞台は幕を閉じるが、トミーは陽介を連れて劇場から逃げる。
なぜ堂々と告発しないのかを聞く陽介にトミーは「役者には役者のやり方がある」といい、その時オーナーが雇った
殺し屋のトラックがふたりの乗る車を襲撃、河に落ちたトミーはカツラとメイクが取れてしまう。
素顔がばれ、ベトナム人の組織に捕まり殺される直前にトミーは陽介に言い残す。
「時によって芝居は武器になるんだ 小説家がペンで悪事をあばくように役者はステージの上で戦うんだ」
トミーは死に、トミーのカツラと舞台で使ったマスクで素顔を隠し「七色いんこ」と名乗った陽介は、世界中に変装道具を
置いた隠れ家を作り、鍬方隆介への復讐のため金持ちから金品を盗む怪盗になる。

日本に帰ったいんこを待っていたのはモモ子があの事故からただ一人生き残っていた事実だった。
素顔のままモモ子の叔父で養父になった人物に会うが、本名を明かせないいんこは男谷マモルと名乗る。
モモ子が記憶喪失になった事を聞き、いんこは変装して彼女と再会する、彼女は高校に入ってスケバンになり、
事故の恐怖で鳥を見ると当時の体型に戻ってしまうようになっていた。
事故を思い出させないために彼女は養父の千里刑事部長から新しい名前を付けられていた。その名は「万里子」

871 :七色いんこ-終わり :04/02/19 11:17 ID:???
いんこと自分の正体にショックを受ける万里子。そこにいんこが現れ、真実を知るため万里子はいんこと車で
事故の現場に向かう。事故を再現するためにトンビの大群を呼び、万里子は恐怖の中で記憶を取り戻すのだった。
カツラとマスクを取って素顔をみせるいんこに抱きつき名前を呼ぶ。「陽介くん!」

いんこは近くにすむ鷹匠の老人を脅し、金をもらってトンビに車を襲わせた事を聞き出す。
変装した顔をみせるいんこ「そいつはこんな顔だったか?」「そ、その顔だ。あんただ」
その顔-鍬方隆介の秘書-は新聞を持ち慌てて鍬方隆介に行く。
新聞には今日の演劇の広告が載っており、内容は「新聞記者を殺した鍬方隆介の今までの悪事を暴く」と言うものだった。
七色いんこの正体が自分の息子と知らない隆介は、秘書にどんな手を使っても阻止するよう命じる。

トミーの衣装を着て舞台の袖に立ついんこに、万里子は劇場に刑事を張り込ませていて何が起きても大丈夫だと告げる。
泣きながら見送る万里子を残し満員の拍手の中へ歩き出すいんこ。いんこ自身による最初で最後の舞台が幕をあけたのだ。