岩明均
93 名前:ヒストリエ 1/3[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 16:58:39 ID:???
紀元前343年、ペルシア帝国西端のトロイア遺跡。
世に名の知られた哲学者アリストテレスはそこから海を渡りヨーロッパへ渡ろうとしていた。
と言うのも、スパイ容疑で帝国から追われていたからである。
そこで、アリストテレス一行は一人の青年と出会う。
バルバロイ(蛮人)のような格好をしていながら、知性あふれる不思議な青年。
その青年に助けられてアリストテレス一行はなんとかヨーロッパに逃げることに成功した。
青年の名はエウメネス。後にアレキサンダー大王の書記官になる男である。
アリストテレス一行と別れ、故郷の地カルディアに戻ったエウメネス。
かつて自分が住んでいた家は焼き跡以外何にも残っていない廃墟となっていた。
そこで一人エウメネスは、自分が故郷の街を追われることになった少年時代を思い返していた。

カルディアの街の名士ヒエロニュモス。エウメネスはその息子であった。
活発な兄と違い、エウメネスはいつも図書室にこもっては、書物に広がる世界に想いを馳せていた。
そんなある日。一人のスキタイ人奴隷との出会いがエウメネスの人生を変えることになる。
高利貸しテオゲイトンの奴隷トラクスはいつも主人から虐待を受けていた。
だが、遊牧民族スキタイは世界で最も勇猛で誇り高く、そして残忍である。
奴隷であるトラクスもその例外ではなかった。

94 名前:ヒストリエ 2/3[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 17:00:15 ID:???
ある日剣を手に入れたトラクスはその場でテオゲイトン一家を皆殺しにする。
さあ帰ろう。トラクスはそのまま単身街の門を破って外に出ようとする。
その強さはまるで鬼神の如く。一人で衛兵を次々と惨殺していく。
その姿を見て何故か郷愁を覚えるエウメネス。
多勢に無勢で、さすがのトラクスも一旦退いて街の路地へと姿を消した。
何かに導かれるように逃げたトラクスの跡を追うエウメネス。
路地には多くの衛兵の死体が。そして、体中を切り刻まれ、瀕死のトラクスが倒れていた。
エウメネスは家に戻り、父ヒエロニュモスの片腕ヘカタイオスにトラクスの居場所を教え、そのまま眠りにつく。
しかし妙な胸騒ぎがして、起きて庭に出てみる。
そこには何故かトラクスの死体が。そして隣には父の死体が。
傍にいたヘカタイオスは、瀕死のトラクスがエウメネスの後を付け、ヒエロニュモスを殺したのだと言う。
だがエウメネスはその話が信じられない。
路地に倒れていたトラクスはあの時、瀕死の状態でとてもじゃないが立ち上がることなんかできそうになかった。
誰かがトラクスの死体を庭に運び、誰かが父を殺したんだ。
そしてそれは父の片腕ヘカタイオス。

95 名前:ヒストリエ 3/3[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 17:01:41 ID:???
エウメネスはヘカタイオスを査問会で告発することに。
しかし、ヘカタイオスはその会で衝撃的な告白をする。
エウメネスはヒエロニュモスの息子ではない。それどころか、カルディア市民ですらない。
遊牧民族スキタイ人の子供なのだと。
十年前。奴隷集めのため、スキタイ人の集落をヒエロニュモスが襲った際に
両親が目の前で斬り殺されても泣きもしなかった子供、それがエウメネス。
そのことに感激したヒエロニュモスは、エウメネスを英雄の子だとして養子にしたのである。
カルディア市民ではないことを査問会で暴露されたエウメネスは
市民権を剥奪され奴隷の身分に身を落とす。
そしてそのままオルビアの地に奴隷として売らてれしまったのである。
いつかまたカルディアに戻ってくることを胸に誓いながら。

エウメネスを乗せた奴隷船アルゴ号。だがアルゴ号はボスポロス海峡を抜けた辺りで嵐に遭い沈没する。
パフラゴニアにある辺境の村ボアに流れ着いたエウメネス。
そこで持ち前の機転と知識と知恵を用いて村の人々に取り入ることに成功する。
こうしてエウメネスはボアの村で生活することに。
そして数年後――。
すっかり村にとけ込んだエウメネスは、ボアの村が協定を結んでいるティオス市に使いに出ることに。
そこでエウメネスは、長い人生の中で初陣とも言える“ある仕事”をすることになる…。

以下続刊