陽の末裔/市川ジュン市川ジュン
251 名前:陽の末裔 1 投稿日:04/07/03 18:04 ID:???
 大正八年。東北の没落旧家の末娘の南部咲久子(12)と貧農の娘・石上卯乃(13)は親友。
貧しさ故に進学もできない二人は、社員を募集しにやって来た村木に連れられ東京へ行く。
一緒にやって来た おひで(17)に村木が乱暴したのを咲久子は見てしまう。
「おれあ、おめえを一番楽しみにしてるんだぜ。早く娘になりな」村木はそう言って笑った。
村木の部屋から出てきた ひで は憎そうな目をして泣いていたのに、
次の日には村木を見て愛しそうに頬を染めていた。咲久子にはその理由がわからなかった。

 仕事場の工場につき、咲久子達は驚く。工場も寄宿舎も文化的で清潔だと聞いたのに、ひどく暗く湿っぽかったのだ。
翌日三人は織布の仕事で大汗をかく。従順な卯乃と違い、咲久子は先輩達に対しても
物事をキッパリと言い、反感を買っていた。そんな咲久子にも、先輩の米(よね)は優しくしてくれた。
米は以前、この工場よりも設備の整った近代的な職場にいたのだという。
何故そこを離れてこんな所に来たのかと咲久子は聞くが、米はただ優しく笑うだけだった。

 ひでが村木と接吻しているのを咲久子は見る。働き手が仕事を嫌がり逃げないように、
深い仲になり引き止めるのも募集人の役目なのだと村木は言う。
米がこの工場にいるのも、他の募集人と恋仲になっているためだった。
村木は咲久子を気に入ってると言う。それを影で見ていた ひでは涙を流した。
ひでは工場を抜け出した。すぐに工場の者が追ったが、ひではとうとう帰ってこなかった。

 ある日工場長が視察にやって来た。咲久子の小悪魔的な笑みに、工場長は目を奪われる。
直後、咲久子に初潮が訪れる。初潮を知らない卯乃は怪我をしたのかとあせるが、
生理痛で布団についた咲久子を見ているうちに、卯乃も初潮を迎えた。

 大正九年。咲久子は高島森と出会う。彼は工場長の息子で、咲久子達を子供扱いせず対等に話してくれた。
ある日、卯乃の母から手紙がくる。咲久子の母が死んだのだ。元々体の弱かった母は、
咲久子が手元を去った事の心痛で更に体を痛めていったのだった。
せめて葬式に出たいと、工場を一時的にでも出させろと咲久子は言うが、
保護者の印を押した当の父が何も言ってこないのに帰すわけにはいかないと言われた。


50 名前:陽の末裔 2 投稿日:04/08/27 05:25 ID:???
工場長は咲久子を養女にしたいと言う。望むままに暮らさせようと言う工場長に、
咲久子は笑顔で承諾する。南部の姓を捨てる事は拒み、籍は入れなかった。
初対面の時の咲久子の小悪魔的な笑みに惹かれた工場長は、
咲久子を妻として育て上げる気だった。工場長は咲久子と卯乃の借金を払い、
二人は自由の身となった。尊大な咲久子はすぐにお嬢様としての生活に慣れた。
そして、工場長の自分への気持ちにすぐ気づいていながら軽々しく男と寝た。
男は結婚を申し込もうとするが、咲久子はあっさり断る。
工場長は咲子のふしだらに怒り、押し倒す。
しかし咲久子は冷酷に工場長を見返すだけだった。
咲久子はそれからも不義の恋を交わしては男を捨てていった。

工場を出た卯乃は、森に見せられた与謝野晶子の詩に感動する。
『元始 女性は実に太陽であった 今女性は地に頼って光る月であるという
 でも はるか古代すべてのはじまりのころ 女性は自ら輝く太陽であった』
実家や工場で虐げられている女性を見てきた卯乃には衝撃的な言葉だった。
16歳となった卯乃は当時珍しい断髪をし、職業婦人として新聞社に勤めるようになった。
森に恋心を抱くようになった卯乃は、森が工場長の実子ではないと知り驚く。
「僕の体に流れているのはブルジョワジーの血ではない。革命家の血なんだ!」
卯乃と同じ新聞社に勤める夏目草平は思想家として憲兵に目をつけられている。
森も彼と同じ思想を持っていたのだ。咲久子もその話を人づてに聞いた。

大正12年9月1日。咲久子がその事を森に訊ねていると、突然に激しい地震が襲った。
森に抱きかかえられ家を出て怪我をせずすんだが、家は半壊していた。
家に残された工場長は大怪我を負う。咲久子は森の実父について訊く。
「死んだ男だ13年も前に。名前は言えない。革命家で、反逆罪で処刑された」
森は廃嫡してくれとの手紙を残して失踪した。工場長は咲久子に言う。
「君は誰よりも美しい。これから先どれほど磨かれていくのだろう。掘り出したのは私だ!
 体の中が壊れていくのがわかる。君を抱きもしないうちに。
 せめてその肌を私に見せてくれ!森は籍から抜かせた。私の相続人はただ君一人だけだ!」
咲久子は南部の姓を捨て、相続人になると誓い、服を脱いだ。工場長は死んだ。

続く

636 名前:陽の末裔 投稿日:04/11/23 15:50:57 ID:???
男尊女卑の時代に、職業婦人として女性の地位の向上に努めた卯乃と、
自分の知能と肉体を武器にのし上った女実業家の咲久子の話。