ひいなの埋葬/山岸凉子
381 :ひいなの埋葬 1 :04/04/14 23:29 ID:???
川島 弥生(かわしま やよい)は、遠縁の梨本(なしもと)家で開かれる雛の節句に招待される。
元華族という由緒正しい梨本家の古い屋敷には、当主である老婆、その孫の静音(しずね)、
主治医の青年 影尾 雪(かげお きよし)が住んでいた。
静音は弥生と同じ16歳、和服の似合う楚々とした美人である。
夜、トイレに起きた弥生は広い屋敷の中で迷ってしまい、大きく、立派な段飾りの雛人形を見つけた。
彼女はそこでシズオと名乗る静音にそっくりな少年に出会う。
だが彼は、「自分に会った事は言わない方がいい」と不可解なことを言って去って行った。
翌日、家政婦に聞いてみるが、「そのような子はいない」と取り付く島もない。
その夜、弥生は再びシズオに会う。 問い質すがシズオは冗談めかした事を言い、弥生の言及を避けるのだった。
そしてその時右手に怪我をしたシズオは目まいを起こし、「梨本家の血を見るのが嫌なのだ」と苦しそうに告げた。
3月3日、弥生が軽い気持ちで「雛人形が動いたり笛を吹いたりする夢を見た」と言うと、当主は血相を変えて怒り出す。
『雛人形が歌ったり歩いたりする時は梨本家の最後』という言い伝えがあったのだ。
そう説明した静音が立ち上がった時、その右手に包帯が巻かれているのを見た弥生は驚き戸惑う。
「シズオなの?」と問い詰める弥生に、静音は節句のあとで話すと約束した。
賑わう節句の席、そこで静音と雪の婚約が発表された。 静音は女、ではシズオは?と困惑する弥生。
宴会後現れたシズオは、自分が静音と同一人物であることを明かし、全てを話した。
静音は血友病患者であり、それゆえの女系だったのだ。
これ以上男の死亡者を出したくなかった当主は、世を欺くため生まれた静音を女と偽り育てたのである。
やがて話をする静音の様子がおかしくなり、服に血が滲み出して、静音は気を失ってしまった。   

383 :ひいなの埋葬 2 :04/04/14 23:53 ID:???
自殺を図った静音のために雪は血液を取りに町へ向かい、残った者達は静音を囲んで夜を迎えた。
深夜、静音の傍で居眠りをしていた弥生は彼に起こされる。
桃の花が見たいから枝を一本取ってきて欲しいと頼まれ、弥生は屋敷からかなり離れた敷地の端へ向かった。
その時、遠くからお囃子のような音が聞こえ、恐る恐る振り返った弥生は「あっ!」と声をあげた。
一瞬、朱の空に舞う雛人形達を見たのだ。 幻…しかしまだ空は朱い。
それは火事の明るさだった。
弥生は慌てて屋敷へ戻るが、その古い家は成す術もなく業火に飲み込まれていった。
家の事しか考えない当主に育てられた静音は、本来の姿では生きられず、病気に苦しめられてきた。
旧家を疎み、その血を呪った彼は、自らの手で血筋を絶ったのだ。
帰る間際、弥生は雪から自分が呼ばれた本当の理由を聞いた。
当主は弥生を養女にして静音との子を産ませ、静音と雪の子として育てるつもりでいたのだった。
それから1ヵ月後、影尾 雪は梨本家の墓前で命を絶ち、静音の後を追っていった。