紫堂恭子
辺境警備/紫堂恭子
308 :辺境警備 :04/05/08 02:10 ID:???
「辺境警備」紫堂恭子
初出・小学館プチフラワ-コミックス/現在は角川書店アスカコミックスDX
(角川版は各巻に描き下ろし短編あり)

物語の舞台はルウム王国北西部、西の辺境(ルーマカール)。
牧草地や小麦畑、葡萄畑が広がるのどかな田舎。

登場人物
●サウル・カダフ(以下、隊長さん)
女性問題が原因で都から国境近くの西の辺境に飛ばされてきた軍人。
無類の女好きで、酒と賭け事が大好きな不良中年。
年齢より老けて見える。都では2000〜3000人の兵を指揮し
50人の直属の部下を持つ軍団長だった。

●ジェニアス・ローサイ(以下、神官さん)
都から任命された西(ル−マ)カール地方の若き神官。
隊長さんと違って飛ばされてきたわけではない。
長く伸ばした銀髪が特徴で、よく女性と間違えられる。
生真面目で頑固な性格だが、お酒に目がない。そして酒癖は悪い。
西カールの人々から大変慕われている。

●兵隊さん
隊長さんの部下。誰もやってこない国境の守備を任されている
9人の地元の若者達。当然ながら軍事経験は無く、軍事訓練を受けた事も無い。
腰に下げた武器も、のこぎり・枝打ち・フォーク・出刃包丁(柄には栓抜き)と
実に実用的。兵営での仕事のほかに神殿の仕事もよく手伝っている。
田舎らしい素朴で純情な性格。作中のマスコット的存在。


309 :辺境警備 :04/05/08 02:11 ID:???
北の国境付近には一千年以上も前に築かれた石の壁が連なり
その向こうには美枝森(ファグルリミ)と呼ばれる深い森が広がっている。
人はほとんど住んでおらず、国境を行き交う旅人は皆無に等しい。
…故に、国境守備隊といっても、警備としての仕事は無い。
(ぶっちゃけ、隊長さん一人で事足りる)

……そんなへんぴな田舎に飛ばされてきて気落ちしている隊長さんを
励まそうと、兵隊さん達は神官さんに相談するが、女たらしでぐーたらな
隊長さんの態度に今一つ乗り気ではない神官さん。
「街道の旅籠屋からぶどう酒を仕入れますよ!」
「のった!」(即答)

数日後、神殿にやってきた兵隊さん達は神官さんに『隊長さんを励ます会』の相談をする。
「隊長さんはいつか帰る人だども ここを好きになってくれたらええのにね」
その言葉に、神官さんはある事を思い付き、暦をめくる。
「やっぱりそうだ。隊長さんは運がいい」

その夜、歓迎会が行われる森の中へ案内された隊長さんは
兵隊さん達が険しい岩根から摘んできた、一年に一夜しか咲かないという
銀青草の花でもてなされる。
森の木々の枝に掲げられた銀青草は水に映った火のように花を咲かせる。
その幻想的な光景を、隊長さんは都の灯りよりも美しく感じた。
「い〜〜とこじゃないか!気に入った!」
「よかったよかった。したらば一生ここで暮らすとええべ!」

……隊長、深く落ち込む。

351 :辺境警備 :04/05/09 02:11 ID:???

兵営の仕事は主に、近隣の農家から預かった家畜の世話や
村の馬市の手伝い、逃げた牛の捕獲。
たまに兵営から4リーグ(約19.3Km)離れた街に出て
公共物の修理をしたり、地図をつくったり神殿の掃除を手伝ったり…。

一見地味でのどかで、なんの変哲もなければ刺激のない日々。
──と、思いきや。
以前の部下・軍団兵のアーヴィンが隊長さんのミスで除隊処分に
なってしまい、その間未払いになった半年分の給料を取り立てに来て
兵隊さんや神官さんも巻き込んで、街の宿屋でアルバイトしたり
地元の欲深い鉄商人・ゴンザロの娘を孕ませたと疑われ
(無理矢理結婚させられそうになった娘の狂言だった)
収拾をつけるため都の商業権を融通することで方をつけたり
都から来た堅物の監査官に(((((;゚Д゚)))))ガクガクブルブルしたり
太古の生き物、神聖獣や悪霊(エヴィル・スピリッツ)に遭遇したり
隊長さんの昔なじみで悪友のゴンファノン将軍に
今とは随分かけはなれた若かりし頃の肖像画(かなりの美男)を暴露されたりと
田舎のぬるま湯生活の中でも、結構色々な騒動が繰り広げられる。

都に帰りたいとぼやきながら、辺境の地になじんでいく隊長さん。
村人達とも早々に打ち解け、神官さんにぐーたらぶりを説教されつつも
信頼関係を築いていく。そんな中、出来た村の標語が
『隊長に 見せちゃおしまい 娘と酒』

352 :辺境警備 :04/05/09 02:13 ID:???
人物紹介
●ゴンファノン
都の将軍。軍の幼年学校時代から一緒だった、隊長さんの一番の親友。
若い頃、都一とうたわれた美女を巡って隊長さんと恋の鞘当てをした事も。
隊長さんに頼まれて都の商業権を苦労して手に入れてくれた。
その仕返しとして隊長さんの凛々しい頃の肖像画を暴露。オトナゲナイ。

●アーヴィン
隊長さん直属の元部下。まだ女の子とつきあったこともない
ウブな若者。軍人らしからぬ穏やかで楽天的な性格。ちょっと抜けてる。
神官さんを女性と間違えて怒りを買う。

用語解説
●悪霊(エヴィル・スピリッツ)
神話の時代から存在する、不思議な力を持った生き物。
人間の何倍も純粋なため、接する人間によっては可愛くもなれば
狂暴にもなる。見た目も種類も様々だが、言葉を話すものや
人間そっくりな姿を持つものもいる。

●神聖獣
神によって造られた聖なる獣。悪霊と同じく太古の生き物だが種類は違う。
人の吐く息に弱く、仲間と離れては生きられない為、滅多な事では人前に姿を見せない。

●まじない師
恋占いをしたり熱を下げるおまじないをしたり、雨乞いをしたりする人々のこと。

●黒呪術師(ドラティア)
人に害をなす呪いや死の祈祷を行う呪術師。薬草や毒草にも詳しく
悪霊を使い魔として操り、意のままに動かすことができる。
黒呪術は神殿で厳しく禁じられており、穢れたものとして人々から
忌み嫌われているが、彼等の力を頼る者は少なくない。


353 :辺境警備 :04/05/09 02:15 ID:???
そんなこんなで季節が巡り、冬を越えてやってきた春。
隊長さんは引き続き田舎勤務の辞令を受け取った──そんな、春。

そのうさばらしに、神官さんに西カール最大の都市、レナンディに
一緒に遊びに行こうと誘う。花街巡りが目的の隊長さんに一人で行けばいいのにと
渋るが、冬の国境で危ういところを助けてもらった恩を持ち出され、結局同行する事に。
兵隊さんや村人達に温かく送りだされ、片道一週間かけてレナンディへ向う。

久々の都会に隊長さんは大いに浮かれる。
路地裏でカイルという若い黒呪術師に出会った神官さんは
彼を改心させようと説得するが相手にされず、逆に軽くあしらわれてしまう。

翌朝。
隊長さんに振り回され、カイルには馬鹿にされ、普段は温厚で優しい神官さんも
とうとうキレる。カイルの呪術道具一式を取り上げ、追いかけてきたカイルに
文句があるなら西の神殿に来い、と言い放ち隊長さんを置いて
一人馬で走り去っていった。

73 :辺境警備 :04/05/17 02:04 ID:???
前スレ353からの続き

人物紹介
●カイル
流れ者の黒呪術師(ドラティア)。
15の時に亡くなった黒呪術師の祖父を深く尊敬し、誇りにしている。
意地っ張りで天の邪鬼だが、仕事に関しては真摯で真面目。
祖父の一番強大な使い魔、焼けた鉄のような爪を持つ妖魔を封じ込めた卵を
肌身離さず持っている。

辺境へ戻る道中、術具を返せと迫るカイルと、断固拒否する神官さんの押し問答が続き
いたたまれない雰囲気の中、二人の間に入ろうとする隊長さんだが
逆に普段の行いがたたってやぶ蛇をつつく結果に。
神官さんの挑発的な言動に業を煮やしたカイルは、呪術をかけるも失敗。
邪霊に憑かれないため、身を清めにいったカイルがなかなか戻ってこないのを心配し
様子を見に行った神官さんは、そこでカイルの身体に幾筋もの大きな傷跡がついてるのを目にする。

縄張り争いで怪我を負わされた祖父の仇を討とうと、怒りに駆られたカイルは
「力量以上の使い魔に手を出してはならない」という祖父の厳しい教えに背き
祖父の一番強大な使い魔を解き放ってしまう。
戻ってきた使い魔に襲われるカイルを助けようと、祖父は使い魔を
封じ直し、力を使い果たしてしまった…。

呪術師はやめない、というカイルにどうして…と尋ねる。
「俺はそんなふうに生まれついている──わからないのか?
 生きてあんたと同じ大気を呼吸してても、立っている世界は違う──」


74 :辺境警備 :04/05/17 02:04 ID:???
カイルと向かい合い、理解したい。
その思いから神官さんはカイルに呪術道具を返す。
迎えに来た兵隊さん達に、「大変偉い呪術の先生(マスタ-)」として
カイルを紹介し、辺境に客人として招く。
「さぁ、家までもう少しです。行きましょう」
「ふざけんなゴルァ!(#゚Д゚)」

なんだかんだで結局不本意ながらも辺境で過ごす事になったカイル。
国境の北の美枝森は薬草の宝庫で、しかも人気がないのが気に入った模様。
──しかし、何度近付くなと言っても、森の庵に兵隊さん達が掃除をしにきたり
差し入れを持ってきたりするが。

ある日、カイルに死の国は日も星も花も無い、不毛の地だと聞き
兵隊さん達は落ち込んでしまう。隊長に死の国がそんなだったらどうするだ?と
聞いても、死んだ半分は女だから全然かまわない、と言う。
話にならん、と神官さんの元へ向った兵隊さん達は
死の国は人によって違っていて、よく知っていたものなら
死の国にもあると聞き、ほっと息を付く。
深く知る、という事の意味。しかしひどく難しいことではない。
あなたがたならきっとできますよ…と神官さんは語った。

いろんないいものをいっぱい知りたい。宵の明星を見上げ、しばし見とれる。
「死んでも見られるように、ここんとこ(胸の中)にしまっておくべぇ」
「んだんだ」

兵隊さんを心配して様子を見に来たら、兵営ではカイルと隊長さんが
イカサマバクチに興じていた。そこに兵隊さん達が帰ってきて
──開いた扉から星の光が九つ、転がるように飛び込んできた。
兵隊さんは私などよりずっといろんな事を知っているのかも知れない──
宵の明星の光を手に入れた兵隊さんを、神官さんはやさしく見つめた。

208 名前:辺境警備[sage] 投稿日:04/05/29 02:25 ID:???
>74から続き

●創世神話
はるか昔、この世は九つの星々によって創造された。
その力強い創世の光の中で、天や地や、様々な生き物が生み出されていった。
しかしある時、闇を司る創造星の一つが天空から地の底深くに堕ちてしまい
創造の力の調和が崩れてしまう。
地に堕ちた闇の星は、闇の王「冥王」を生み出す。

●冥王
不死身の悪霊。目に多くの手が生えた姿で表わされる。
一千年前、東の岩砂漠の国・イドラグールに玉座を構え、世界を闇に飲み込もうとした。
「大暗黒」と呼ばれる時代である。獣虫と呼ばれる神聖獣を悪に染め人々を襲わせ、
地上に多くの災禍をもたらしたが、二人の英雄によって滅ぼされた。

●獣虫
元は神聖獣の一種で、森林に生息していた。
脚などが昆虫に似ていたり、虫のような羽を持っている。
禍々しい姿をしているが、その鳴き声はえもいわれぬ美しさである。
蜘蛛型、蜻蛉型、地蝗型など色んな種類がいる。
大暗黒時代にその多くが冥王に操られ、利用されたが
冥王とともに一千年前に滅んだ。

●神殿について
神殿はいくつかの種類に別れており、天文学や数学を専門的に学ぶ「星径神殿」
太古の獣や精霊について学ぶ「神聖獣神殿」などがある。
神官さんは星径神殿の正神官。


209 名前:辺境警備[sage] 投稿日:04/05/29 02:26 ID:???
ルウム復活歴九九七年初秋──。

神学生エリアンの誘いで、ベルソル山の神聖獣神殿を訪れた神官さんと隊長さん。
しかし、何か不吉なことが起きたらしく、人々はよそよそしい。
神官長から、神罰を受けた不心得者が出たと説明されるが、この現代に神罰なんて…?と
疑問に思うも、話は一方的に打ち切られ、その上エリアンとの面会も許されず
明朝に引き取るように言い渡されてしまう。

泊まり部屋に通された二人は、湯殿へ向う。
その途中、創世神話が描かれた壁画や神聖獣、獣虫の彫像を見学する。
湯殿で神殿内の像を彫っているという老人から、神罰を受けたのがエリアンだと知らされる。
「かわいそうに…ありゃぁもうだめじゃ。もう二十年もこんなことはなかったのに…!」
そう言って、老人は走り去っていった。

胸騒ぎを覚えた神官さんは、隊長さんと共にエリアンを探し歩いていたら
ある部屋からひどく衰弱した老人が、神官さんにすがりついてきた。
病気なのか、焙られたように縮んだ皮膚。その左手には見覚えのあるお守りが。
彼の身を案じた、彼の妹が自身の髪を編んで作ったお守りの腕輪──。
「エリア…ン…?」
あまりにも変わり果てたエリアンの姿に、神官さんは涙を流す。
そこへ神官長たちに見つかり、二人は捕らえられる。


210 名前:辺境警備[sage] 投稿日:04/05/29 02:28 ID:???
エリアンの事を問いただすと、あれこそが神罰だと神官長は告げる。
神殿になじめず、修養を怠ったため神の怒りに触れたと。
一晩で急速に身体が老い衰え、今日で十日目だという。
逆に神官さんたちは、神罰のことを嗅ぎ付けて調べに来た間者ではないのかと疑われ
拷問にかけられそうになるが、隊長さんの機転でなんとか場をしのぐ。

エリアンを助けるべく、隊長さんのぁゃιぃ計略で脱出するが、エリアンはすでに
どこかへ移されていた。湯殿で会った彫り師の老人に
エリアンは地下の大聖堂にいる、つれだしてほしいと頼まれる。
一緒に出よう、という神官さんに、老人は神罰がこわいと首を振る。
二十年前に神罰を受けたのは、この老人だったのだ。
「わしはこれでも35じゃよ…」
そうしてるうちに間近にまで追っ手が迫り、慌てて逃げようとするが
隊長さんは建物の外に落下、神官さんは再び捕まってしまう。

エリアンのいる地下洞へ連れてこられ、神罰が人為的なものだったと
確信する神官さんに、その目で確かめるがよかろう、と神官長は神官さんを閉じ込める。
その中でエリアンを見つけるが、すでに息絶えていた。
その時、奥からなにか大きなものが動く音がした。
岩影から姿を表わしたのは、巨大な獣──一千年前に滅んだはずの獣虫だった。
エリアンもこの獣に襲われたのか…?肩口を噛みつかれ、神官さんは意識を失った──。

469 名前:辺境警備 投稿日:04/06/09 01:50 ID:???

腕を折ったものの、隊長さんは無事だった。
助けを求める美女でもいたらいいのにとぶつくさ言いながら
神殿に戻ると内部の様子は一変、ねばつく糸が建物内に張り巡らされ
神殿内の人々が囚われていた。
その中から助け出した彫り師の老人(以下、芸術家(本人談))から
「蜘蛛型の獣虫に襲われた」と聞く。
一方、目を覚ました神官さんは、獣虫が地下洞の壁を崩して外へ出たのに気付く。

上の階に戻った神官さんは獣虫に襲われる隊長さん達と再会する。
追い詰められる三人。狙いをつけられた神官さんは、神殿内に設けられた
鉄格子で獣虫を串刺しにし、なんとか動きを封じる事に成功する。
それでもなお暴れる獣虫。鉄格子を引きちぎるのは時間の問題だ。
急ごうという隊長さんに、他の人を助けなければ、と神官さん。
その時、「──行け あれは人間の手には負えん…」
糸に捕われた神官長が自分達にかまわず逃げろとうながす。
「放っておいてくれ。少しでも我らを哀れと思うならな……」


470 名前:辺境警備 投稿日:04/06/09 01:51 ID:???
三百年前この地に神殿を立てた時、地下深くに眠っていた
獣虫を目覚めさせてしまった。それ以来歴代の神官長たちは
飢えにたえかねて外に出ようとする獣虫に、神罰と称して
神殿の中で一番若い者を薬で眠らせ、餌として与えていたのだ。
しかし、三日もすると眠りについていたのに、今回ばかりは何日たっても眠らない。
神官さんが年をとったように見えないことから、外へ出る力をためていたのでは…。
不死身の獣虫を倒す術は無い。獣虫を倒す伝説の剣も勇者もとっくに墓の中。
獣虫が本当に目を覚ませば、この国一つ滅んでしまう。
「──他に、どうすれば良かったのだね?」

獣虫の咆哮がこだまする。
手を差し伸べる神官さんをなおも拒み、神官長は隊長さんからパイプを
受け取り、獣虫は傷が癒えるまであと何十年か眠るだろうと話す。

ふもとの村へと逃げる三人の背中が不意に照らされる。
振り返ると、そこには炎に包まれた神殿が…。
「──パイプで、服に火をつけたんだ」

隊長たちが行き倒れてるという連絡を受けて、兵隊さんとカイルがふもとの村へと迎えに来た。
二人(+芸術家)は五日も眠っていたらしい。カイルは神官さんの肩の傷が黒く穢れていて
呪術的な清めをしないと傷口が腐ってしまうと忠告する。
カイルの焚いた香に包まれながら、長い一夜が明けたと息を付いた…。

471 名前:辺境警備 投稿日:04/06/09 01:52 ID:???
獣虫に負わされた傷も癒え、秋も深まってきた辺境に辻音楽師の親娘がやってくる。
娘のミスティーンは神官さんを見るなり、抱き着いてきた。
グーゴル・プレックスと名乗る父親から、神官さんは娘の母親に生き写しなのだと言う。
音楽師の噂を聞き付け、隊長さんが街にやってくるが、親娘の姿を見て驚く。
どうやら彼等は顔見知りのようだが、ただならぬ様子に神官さんは口を挟めなかった。
その様子を察してか、隊長さんから口を開く。
彼の本当の名前はジョン・オースティン、都の王立学会の数学者だった。
二年前、彼の細君を取っちまった──。
それだけ言って隊長さんは場を後にする。
一体どんな事情で、そのあと奥さんはどうなったのか…
とても信じられない神官さんはオースティンに会いに行き、隊長さんも交えて
改めて話を聞く。

二年前の夏の夜に開かれた王立学会の祝宴でオースティンの妻、クリスティーンが
王立学会の名誉会長の目に止まり、それを察したガワー将軍が部下である隊長さんに
連れてくるように命じる。

妻を差し出せという理不尽な要求に、当然ながらオースティンは断るが
相手は元貴族院の議長で、王立学会の名誉会長。権力に逆らえば一家はどうなるかと
隊長さんは説得する。家の周りは既に隊長さんの部下が取り囲んでいる。
それでも妻は渡さない、と言うオースティンにしょうがない、とため息を漏らす。
あんたたちの決めることなんだから…と。
外では部下達が船で逃げる手配をしていた。結局隊長さんは親子の逃亡の手助けをする。

しかしその三日後、追っ手がかかりクリスティーンは自害してしまう……。


472 名前:辺境警備 投稿日:04/06/09 01:53 ID:???
こんな酷いことはない、今からでも訴えでてはと憤る神官さんだが
張本人の元議長は大きな汚職に関わり、都から追放されたという。
事件はもう終わっているのだ……すべて。

このまますべて終わってしまうのは、あまりに辛すぎる。
神官さんは「精霊の映し玉」と呼ばれる結晶玉を水盤に沈め
オースティンに奥さんの姿を強く心に浮かべて下さい、とうながす。
すると、空中にクリスティーンの姿が浮かび上がった。
月の夜にきれいな水に沈めると同じ姿を見ることができる。
かえって辛いだけかもしれない…けれど…もし…。
オースティンは受け取る。神官さんはミスティーンの首にかけてあげた。
三日後、辻音楽師の親子は旅立っていった。

「隊長さん。笑わないで下さいね。…でも不思議で仕方がないのです。
 なぜ人は、望むように幸せになれないのでしょう──」


172 名前:辺境警備[sage] 投稿日:2005/04/09(土) 01:14:19 ID:???
ずっと辺境で過ごすつもりでいた神官さんの元に、都への赴任が言い渡される。
戸惑いを隠せない神官さん及び村人達。都には辛い思い出があったが、従うほかなかった。
きっと戻ってくると言い残し、辺境を後にする。

都の慌ただしい生活を送る神官さんの前に、一人の男が現われる。
──ヘリウス・ヴォルグ。
五年前、名家ヘルム家の財産を狙い当主のエルフレードを殺害した張本人。
その策略に神官さんも巻き込まれ、心に深い傷を負った。
エルフレードは神官さんの一番の親友だったのだ。
都を追放されたはずなのに何故、と神官さんは激しく動揺する。

ヴォルグの策略はすんでの所で阻止された。その復讐と、神官さん自身も知らなかった
神官さんに残された遺産を狙ってヴォルグは再び神官さんに近付いてきたのだ。
けして言いなりにはならないと突っぱねるが、ヴォルグは呪術の力で
無理矢理神官さんを支配してしまう。強力な呪術の力に為す術も無い神官さん。
だが、辺境で過ごした暖かい日々や兵隊さんの神官さんを思う心、
神官さんの危機を知った人々の助けによって呪術が解け、窮地を脱する。
ヴォルグの罪も明らかになり、長い悪夢からようやく解放される。

そして二年後、神官さんは辺境に戻ってきた。
それと入れ代わるように、今度は隊長さんが
極秘任務で国境に赴く事になり、辺境を後にする。

いつかきっと、また会いましょうと神官さん達は隊長さんを見送った。
(終)