花田少年史/一色まこと
411 名前:花田少年史1/5 投稿日:04/07/22 23:19 ID:???
風呂は釜焚き、トイレは汲み取り、カラーTVがあこがれだった頃。
近所でも有名な悪ガキ、花田一路(はなだいちろ)が三輪トラックと衝突した。
幸い命は助かったが、頭に九針の傷を負った一路は丸坊主に。 おまけに目覚めて以来、一路に助けを求める女性・ユキの幻が見えるようになってしまう。

「オバケが出たんだ!」周りにユキの事を話しても、日頃の行いのせいか誰にも相手にしてもらえない一路。 そればかりか近所の犬・チロがいなくなった件で濡れ衣をきせられる。
「ユキのせいで嘘つきよばわりされる…オイラおばけなんか大嫌いだ!」
そんな一路の前に、行方不明だったチロが現れた。チロは一路を河原へ連れていく。 そこには車に跳ねられた身重のチロの身体があった。一路をつれてきたチロは霊だったのだ。
「……ドジ。」

リヤカーでチロを病院に運ぶ一路。助かったのはお腹にいたチロの子供だけだった。無邪気に頬を舐めてくるチロの霊を一路は根性なしと責める。
落ち込む一路の前に現れ、助けを求めるユキ。 
「オイラには何もできないよ。チロも助からなかったじゃないか。」
「助けたじゃない、新しい命を。お願い、時間がないの。」 そして一路は、おばけのユキの願いを聞くことになる。

ユキの願いは男との思い出の品を、四十九日までに埋めてほしいというものだった。 一路はユキの好きな男・チンピラの青司に会いに行く。
二人の関係は、身体の弱いユキを気紛れで青司が連れ出し縁日を見て帰った、ただそれだけ。
その1日が病院の中で育ったユキにとっては何よりも幸せな記憶として残っているのだ。
一方青司にとっては、それがきっかけでユキが体調を崩し亡くなったことが、心の傷になっていた。
イタズラかと疑う青司に凄まれ脅されながら、必死にユキの言葉を伝える一路。 折れた青司は半信半疑ながらも、ユキに買ってやったブローチを2人が会った病院の庭に埋めた。
「今度はちゃんと産んでもらえよ」呟く青司の眼に、ユキの幻が見える。
「そしたらまたあなたに会える?」
「…今度はどこに行きたい」「どこにでも行く」
微笑むユキ。彼女は一路にお礼を言って消えていった。 「ありがとう一路。あなたに困ったことがあれば、すぐに助けに来るわ。あなたは私の恩人だから」


413 名前:花田少年史2/5 投稿日:04/07/24 14:30 ID:???
ユキの成仏を手助けして以来、一路の元には悩みを持ったオバケが表れるようになった。
一路は本当はオバケの悩みなんか聞きたくない。でもオバケ達はミイラや骸骨…とにかく恐ろしい姿になって助けろと脅すのだ。
チロの子供・二路(ジロ)を育ててくれ、という近所のおばあさん。
妻に見つかったら恐いからと、ラブレターの処分を頼みにくる全裸のジジイ。
女性のおっぱいに顔を埋めてみたかったという学生…オバケの未練もいろいろ、小学生には分らない悩みも多い。
一路は手に入れた霊能力と生来の悪ガキっぷりを発揮し(嫌々ながらも)オバケ達の未練を昇華させていくのだった。

そんなある日一路の前に、りん子という古い野良着の少女が表れる。 彼女もやはり、初対面の一路に頼みがあるのだと言う。
最初はオバケかと思って断った一路だが、親戚だと言うりん子は家族や友達とも普通に接し、いつの間にか馴染んでいる。
「一路のお嫁さんになってあげる」と屈託なく笑う少女に一路もまんざらでもなく、願いを聞くのだった。
りん子の頼みは、地震で地割れが起こって以来立ち入り禁止の裏山、その谷に落ちた小さな地蔵を引き上げること。
小さい地蔵とはいえ子供には大変な作業だが、一路はりん子に励まされ毎日少しずつ地蔵を抱えて谷を登る。

毎夜こっそり地蔵を運ぶ一路。顔色は悪くなり頬はこけ、その様子は尋常ではない。
その行動を知った山の坊主は物の怪に憑かれていると指摘するが、一路はお腹にサラダ(サナダ)虫がいるのだと言って譲らない。
坊主は地蔵が対の母子地蔵であると教え、その作られた由来について話す。
昔、貧しさに遊廓に売られた娘が、初の客を取る夜山に逃げ、崖から足を滑らせ死んでしまった。
それを知った母も悔やみ悲しみ、後を追って山で亡くなる。
二人を哀れに思った村人達は、あの世で親子離れることがないように2つの地蔵を作ったが、子の地蔵が地震で谷に落ちてしまったのだ。
「それがりん子だって言うのか?違う、りん子はオバケじゃない!」
信じようとしない一路はなおも地蔵を谷から引き上げようとするが、あと一歩、という所で足を滑らせてしまう。
落ちていく一路と、遊廓の男達に追われ足を滑らせる少女の姿が重なる。
「お母ちゃん!」と叫びながら落ちていった少女の顔は、やはりりん子だった。

414 名前:花田少年史3/5 投稿日:04/07/24 14:32 ID:???
「りん子はオバケなんだろ。どうしてオイラに嘘をついたんだ」
途中の岩棚で目覚めた一路はりん子を責める。りん子は、一路が最初に「オバケの言う事は聞かない」と言ったからだと答える。
「オバケの言うことは聞かないけど、りん子の言うことならなんでも聞いたのに!…お嫁になるって言ったのも嘘だったのか?」
拗ねる一路に、りん子は目に涙を浮かべて首を振った。
「女の子は好きな人のお嫁さんになるのが一番だって、お母ちゃんが言ってた。だから、あたしは一路のお嫁さんだよ」
りん子は一路をあの世につれていって、お嫁さんになるつもりだったのだ。
「…ダメ?」と恐る恐る聞く姿に、一路はため息をつく。
「ダメじゃないけどさぁ、りん子って大胆だなぁ…オイラも負けたぜ」

地蔵を母地蔵の隣に戻し、りん子と共に行こうと霊体になった一路。
そこに帰ってこない息子を心配して一路の母が迎えにくる。 
「敵が来た!早くいこうぜりん子!」
すでに魂のない一路の身体を見て何があったのかと取り乱し、泣き出す一路の母。
それを見て自分の母との別れを思い出したりん子は、一路にキスをし抱き締める。
「大好きだからお嫁さんになりたかったけど、もっと大好きだから置いていく」
「なんで?」「一路やおばさんに、あたしやお母ちゃんみたいな思いはさせない」
大好き、と言い残し1人で消えてしまうりん子。
取り残された一路は、無事でよかったと抱く母をクソババと罵り、泣きながらりん子の名前を呼ぶのだった。

(続く)

415 名前:花田少年史 投稿日:04/07/24 14:37 ID:???
途中オムニバスなので省略してます。
それでも長くなってしまいましたが…次で多分終わりです。

482 名前:花田少年史4/5 投稿日:04/07/30 19:47 ID:???
りん子が消えてしまうのに合わせて、一路以外の皆はりん子のことを忘れてしまった。
長いこと地蔵に留まっていたりん子の魂はまだ地上にあるが、母親以外の人間を好きになった事でそう遠くなく成仏するだろうという。
子供地蔵をまた倒せばまた会えるかもしれないと誘惑する霊に、
一路は、このままがりん子は幸せなのだと、母子地蔵の前にカタクリの花を埋める。
りん子との別れを過ぎて、一路は少し大人になった。

しかし大人になることは霊力を失うということ、一路の身に危険が迫ってくることでもあった。
霊力のあるうちに自分達だけでも助けてもらおうと、今迄とは比べ物にならないぐらい沢山のオバケがおしよせてきたのだ。
不眠不休で死者達に引き摺り回され、悩みを解決しなければならなくなった一路。
このまま連日霊に連れ回されるのは、小学生の体力が持たない。
ユキやチロ、一路に恩のある霊達は密かに集まり、恩人を救おうとオバケ避けのお守りを一路に託した。
しかしそのお守りは、守ろうとするユキ達をも一路から遠ざけてしまう。
ただでさえ一路は事故・事件などの危険に近い。
それは元々の無鉄砲な性格に加え、霊と接してきたことがあの世とこの世の境界を一路に感じさせなくしているからだ。
このままでは不慮の事故の時に一路を守れない。悩んだユキ達は犬のジロに、いざという時にはお守りを外すように頼むのだった。

そしてついにその日が来た。
友達にふざけてお守りを投げ捨てられた一路は大量のオバケに襲われ、
お守りを取りかえそうとしたところを高架から落ちてしまう。下には迫るトラック。
ジロはとっさに高架から飛び出しお守りを奪い、後ろ足で一路を突き飛ばす。
お守りが外れた隙に力を放ち衝撃を和らげようとするユキ達。しかし完全に止めることはできず一路は地面に叩きつけられる。
病院に運ばれる中、自分を庇いトラックに衝突したジロを探す一路。
祖父は大丈夫だとジロを抱いてみせるが、一路の目にはすでに霊となったジロとチロの姿が見えていた。
「ごめんな…でもお母ちゃんと一緒だし…オイラもすぐに行くからカンベンしてくれるよね…」
親や友達に、あっちの世界にも仲間がたくさんいるから心配するなと言い残し、一路は意識を失う。
ユキ達はまだこっちにくる時ではないと、必死で一路を励まし力を送った。


483 名前:花田少年史5/5 投稿日:04/07/30 19:56 ID:???
一路は手術から三日目に意識を取り戻し、二ヶ月後に退院した。
霊と接触する力も、霊達との記憶も、事故を境に無くしてしまった。
だからジロが空から見守っている事も、りん子が一面のカタクリの花に見守られて成仏した事も、今の一路には分らない。
しかしたとえ本人がオバケを否定しても、一路は関わった霊達みんなの誇りなのだ。


さらに十数年(?)後。近所でも有名な悪ガキがいた。名前は花田千路(せんろ)。
ファミコンを買ってくれとごねて建築現場の柱に登り、足を滑らせて落ちてしまう。
幸い命は助かったが、頭に傷を負った千路は丸坊主に。
「花田家の長男はみんな一度坊主になるのね」お父さん、おじいちゃんもそうだったと笑うおばあちゃん。
しかし千路には笑い事じゃない。目覚めてから千路には変なオバケが見えるように…。

(おわり)