花ぶらんこゆれて…/太刃掛秀子
282 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:05/02/12 10:15:59 ID:???
リク未着手『花ぶらんこゆれて…』
太刃掛秀子:作 1978〜1980年 りぼん
現在は集英社文庫(全2巻)で新刊入手可能。

国際結婚がまだまだ珍しかったこの時代、ハーフとして生まれた「るり」
(ハーフなのに金髪碧眼〉の苦悩と、父の再婚による継母、継子との確執。
そこに恋愛や父の過去などが絡み、物語は昔のドラマ『赤いシリーズ』の様なノリで進んでいきます。
ツッコミ所は多々あれど、妙な迫力を持った作品です。

283 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/12 11:08:51 ID:???
用語:花ぶらんこ:太い植物の蔓で編んだぶらんこ。
花の季節には上部に花が咲き、ぶらんこを漕ぐと花が降り注ぐ。
るりの家の先住者が作ったものらしい。
【本編】
貿易会社を営む茂とフランス人のソニアは結婚し、ソニアによく似た「るり」と云う女の子に恵まれる。
しかしソニアは慣れない日本での暮らしに疲れ、赤ん坊のるりを残して帰国してしまう。
周囲の手を借りて、茂は何とかるりを育てていた。
るりが3歳の時、庭の花ぶらんこで遊んでいると、
彼女より少し年上の男の子がやってきて、ぶらんこを押してくれる。
舞い散る花びらに喜ぶるり。途中、彼の母親が迎えに来て、
その姿を見送ったるりは、自分に母親が居ない事を不思議に思う。
そんなるりを見て、やはり母親が必要だろうと、茂は夫と死別した女性・杪(こずえ)と子連れ再婚。
梢の連れ子でるりの義兄となる真幸(まさき)も優しい男の子で、
髪や目の色は違えど、本当の兄妹の様に二人は仲良くなる。
幼稚園に入園し、周囲と違う容姿の自分を自覚したるりは、帰宅して泣きじゃくる。
茂は「こんな時、ソニアが居てくれたら…」と感じ、るりを哀れに思う。
その哀れみは杪に間違って伝わり、掃除をしている時に
ソニアの写真を見てしまった彼女は、茂がまだソニアを忘れていないのだ、と思い込む。
意識するまいと思っていても、杪はソニアそっくりに成長するるりに複雑な感情を抱く。
そんな時、梢は茂の子を妊娠し、この子が家族の礎になってくれれば、と思う。
やがてその娘・唯が生まれる。
産院から帰宅した唯を見たるりは、やはり自分とは違う、と更に孤独感を強める。
「本当の家族となれる筈だったのに」と苦悩する茂は、その夜中、
ソニアの夢を見て「何故だ!ソニア!」と叫んで飛び起きる。
それを聞いた杪はショックを受け、自分が茂に望まれたのではなく、
るりの母親になってくれる女なら誰でも良かったのだと、
益々るり(=ソニア)への憎悪を強め、その行き場の無い気持ちは唯に傾いてゆく。

284 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/12 12:17:22 ID:???
るりは小学校に上がる。
最初こそ皆との容姿の違いに戸惑うが、友達も出来、先に入学していた真幸の助けもあり、穏やかな時を過ごす。
ある日、るりが唯を花ぶらんこで遊ばせていると、唯は突然苦しみだす。
それを見た杪は話も聞かずにるりを殴り、「唯に何をしたの!」と逆上する。
苦しむ唯を抱え、タクシーで病院へ向かう杪を追った真幸は
車中で「るりは何もしてない」と弁護するが、杪は聞く耳を持たない。
庭に一人残されたるりの所に、いつかの男の子がやって来る。
男の子は母親が死んでしまった、と喪服を着て、泣きながら花ぶらんこを漕ぐ。
彼の母はこの花ぶらんこを知っていて、最期まで乗りたい、と言っていたらしい。
男の子は母親の代わりに乗りにきたんだ、と少し微笑んで、泣いているるりを花ぶらんこに乗せてあげる。
「忘れないで。悲しい時は、花ぶらんこ漕ぐんだよ。花びらの散った分だけ、心が軽くなるよ…」
男の子が去り、花ぶらんこで眠っていたるりは、一人帰宅した真幸に起こされる。
唯を心配するるりに、真幸は衝撃の事実を告げる。
「るり…唯ね、怪我じゃないんだ。唯の病気ね、心臓なんだって」
唯はそのまま入院する事になる。
入院生活は3年に渡り、手術も2回に及んだ。
その間、るりと真幸は唯につきっきりの杪に代わって家事をこなす。
唯の退院の日。
唯の為に庭の花を抱えて現れたるりにソニアの面影を見、杪は素直になれず、冷たくあたってしまう。
るりは杪に嫌われているのかと真幸に相談するが、彼に母の苦悩が解る筈もなく、
「きっと、唯の事で精一杯なんだよ」と慰めるが、彼も釈然としないものを感じてはいた。
唯が学齢になり、真幸は中学生。
るりと唯は同じ小学校に初登校を果たした唯は、帰宅すると、無邪気に杪にるりの自慢をする。
「お姉ちゃま、お姫様みたいに綺麗だから、みんなが振り返って見るの。
唯、一緒に歩いてて、得意になっちゃった」
杪の脳裏にはソニアの面影が浮かび、それが許せず、感情を爆発させる。
「おやめ、唯!
みんながるりを振り返るのは、綺麗だからじゃなくて、珍しいからよ!
その金髪と青い目が!」 るりはショックを受け、庭に走り出る。


285 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/12 13:05:33 ID:???
唯も幼いながらに母の豹変にショックを受け、杪を責める。
真幸は唯をなだめ、るりを追う。
花ぶらんこに乗って呆然とするるりを慰め、一体何が優しかった母をあんなにしたのか、と真幸も悩む。
「きっと何か訳があるんだ。だって、るりを傷付けた後、ママはとても苦しそうなんだ。
今だってママ、泣きそうな顔してた。るりが嫌いな訳じゃないんだよ…」

るりは中学校に入学。二つ上の真幸と一年だけ同じ学校だ。
そのの頃るりは、幼い時から慰めてくれた真幸に、兄以上の思慕を抱く様になっていた。
そんな折、唯の心臓にまた異変が現れ、再び長期入院する事に。
同じ頃、父の書斎で調べ物をしていた真幸は、偶然ソニアの写真を見つけ、あまりにもるりと似たその容姿に愕然とする。
その時、廊下を通りかかった杪は真幸の手から写真を奪い、破り捨てる。
母の青冷めた顔に、真幸は彼女の苦悩を理解する。
翌日から真幸は、るりの顔を見ても笑えなくなり、やがて家から逃げる様に、全寮制の高校に入学してしまう。
父の茂は仕事で不在が多く、唯も真幸も居ない家で杪は冷たく、るりは図書館の閉館まで粘って帰宅する毎日。
想いが募り、るりは電車で2時間の真幸の高校へ出かけるが、
GFらしき女性と歩く彼を見て、声をかける事も出来ず帰宅する。
落ち込んで帰ると、急に退院した唯がいっぱいの笑顔で迎えてくれた。
杪のあたりも柔らかくなり、るりはホッとする。
翌日からるりは唯と一緒に(途中まで)登校するが、唯は早退を繰り返し、やがて学校に行くのを嫌がるようになる。
体の不調ではなく、入院で学年遅れになった事が嫌だと言う唯。
るりは「人と違う気持ちは誰よりわかる」と唯を慰め、その事から逃げずに頑張ろう、
と自分も頼ってばかりいた真幸への想いを裁ち切ろうと決心する。


286 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/12 14:17:17 ID:???
夏休みになって帰省してきた真幸は背も高くなり、すっかり青年になっていた。
やはり憧れの様な気持ちはあるが、以前の様な苦しさを感じる事もなく、るりは安心する。
真幸の帰省荷物に、街で売りつけられたと云う童話の同人誌を見つけ、るりはそれを貰う。
ウキウキと読んでいると『花ぶらんこの魔法』と云う一編が目に止まる。
「四季折々の花が咲き乱れるその庭には、花ぶらんこがあって…
花びらの散った分だけ、心が軽くなるのです…」
あの男の子が書いたものに違いない、と暖かな記憶にるりは喜ぶ。
るりは高校に入学。
唯は頻繁に熱を出す様になり、外出もままならない。
真幸は帰省の度に美しくなるるりを愛しく思う様になるが、
それが兄としての感情なのか、男としてのものか自分でも判らず、苦しんでいた。
しかし、逃げ出した自分に彼女を幸せにする資格は無い、と受験勉強に没頭する。
その甲斐あって、今の高校に近い、難関のK大学に合格し、一人暮らしを送る事になる。
杪は学校に行けない唯の為に家庭教師を募集し、真幸と同じ大学の
安積惣一郎(あづみ・そういちろう)がやってくる。
眼鏡をかけた優し気な容姿の彼に、杪もるりも好感を持つ。
惣一郎の履歴書を見た茂は「安積」という名字に妙なひっかかりを感じるが、
本人は好青年であるし「遠いけれど、是非」と乗り気で、彼は篠原家(るりの名字は篠原)に出入りする様になる。
12歳になった唯も惣一郎に懐き、やがてその想いは恋となっていった。
しかし、惣一郎にとって唯は可愛い生徒で、妹の様な存在でしかなかった。
彼はるりに惹かれてゆくが、唯の気持ちに気付いたるりは
クラブ活動などで遅い帰宅を心がけ、なるべく惣一郎と顔を会わせない様にしていた。
そんなある日、7時を過ぎて帰宅したるりを惣一郎が待っていた。
勉強中に唯が発作を起こし、自分も容態が気になったので、杪の帰宅を待っているのだと言う。
惣一郎はるりに連絡を頼み、唯への見舞いだと帰り際にハンカチに包んだ花びらを渡す。
るりは惣一郎があの男の子ではないかと思うが、唯の机にあった同人誌を見て、納得。
やはり優しい人だと思い、るりは暖かい気持ちになる。


287 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/12 15:14:48 ID:???
るりは昔、同人誌の発行サークルに『花ぶらんこの魔法』の作者について問い合わせをしたが、
作品だけが送られてきたもので、REIKO・ASAKAと名があるだけだったと云う。
その頃から、違うと解っていても、いつもあの男の子の事を思い出しては、同人誌を読んでいた。
唯は長期入院が決まり、惣一郎は引き続き、るりの家庭教師として雇われる事になる。
ある日、唯の病院から帰宅した杪は、迎えに出たるりにいきなり怒りだす。
「ばら色の頬をして!何だってそんなに幸せそうな顔をしているの?
唯が…!唯が!ゆ…」
そのまま玄関で倒れてしまった杪を惣一郎がベッドへ運び、
るりは唯に何かあったのかと病院に電話をするが、変わった事は何も無かった。
だが杪は、唯の検査結果が悪く、もう一度大きな発作を起こせば命が危ない、と聞いていたのだ。
思い詰めた杪は惣一郎にその事を話し、唯の恋人になってほしいと頼む。
好きなフリをしてくれるだけでいい、と言う杪に一度は断る惣一郎。
しかし杪は彼にとりすがり「残された日々を幸せだけで埋めてやりたいんです!
あなたでなければ駄目なんです!どうか、お願いです…」と頭を下げる。
惣一郎は無下に断る事も出来ず、時間をくれと篠原家を出る。
廊下で話を聞いていたるりもショックを受け、惣一郎に唯を愛してやってほしいと頼む。
幾日か後。
高校の門前で惣一郎はるりを待ち、唯の事で話をしたいと二人は喫茶店へ。
るりは家族の事情に惣一郎を巻き込んでしまった事を謝り、やっぱり無茶な事だから、と断ろうとする。
惣一郎は、そんな事は気にするなと言い、唯が望む様には愛せないと前置きした上で続ける。
「この気持ちのくい違いが、いつかあの子を傷付ける事になってしまうかもしれない。

けれど、本当に…僕に今出来る事と言ったら、ただ唯ちゃんのそばにいて…
見守る事だけなんだよ。それでも…それだけでも構わないなら…」
希望に顔を上げたるりは、真剣な表情で自分を見つめる惣一郎に躊躇するが、唯の為に頷く。
「…わかった。そうしよう」


288 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/12 16:04:32 ID:???
翌日から早速惣一郎は病院に出かけ、「また一緒に勉強をしようね」と唯を見舞う。
唯は目に見えて明るくなり、惣一郎と時間をずらして見舞うるりに彼の話をあれこれとする。
大学では写真部で、子供好きな事。入院中の他の子供達とも仲良しな事…
そんな話を聞きながら、るりも和むが、喫茶店での彼の表情を思いだし、沈んだ気持ちになる。
秋になり、夏中教習所に通って帰省しなかった真幸がひょっこり帰ってくる。
この頃には真幸も惣一郎と顔見知りになっていて、大学でも挨拶を交わす仲になっていた。
真幸は惣一郎の気持ちに気付いており「あいつになら、るりを任せられる」と信頼していた。
ラフな格好で家を切盛りするるりを「たまにはお洒落しろよ」と着飾らせ、
童心に返って、二人は花ぶらんこに乗ってはしゃぐ。
そんなるりを、木陰から狙うカメラがあった…
続いて真幸は唯を見舞い、「な〜んだ、惣先生じゃないのか」とがっかりされる。
今週は惣一郎が来ないと知って、唯は落ち込んでいるのだ。
真幸が「今週は大学祭だから、あいつも忙しいんだよ」と言うと、唯は行きたがる。
結局杪も粘り負けし、唯に付き添って大学祭に行く事になる。
同じ頃、高校の友人から誘われたるりも大学祭へ。
当日。友達とはぐれたるりは、何とはなしに写真部の展示に向かう。
そこには、この前真幸と遊んだ日のるりの写真が飾られていた。
惣一郎は隠し撮りを謝るが、るりは「これ以上、るりの中に入ってこないで!」と展示室を後にする。
ごったがえす大学の中庭に出て沈んでいたるりは、唯達が写真部の展示に入ろうとするのを見て慌てる。
だが気付いた時には、既に写真は唯の目に止まっていた。
事情を知らない真幸は杪達に「あいつがるりの写真が撮りたいって言うから、
隠し撮りさせてやったんだ」と言い、写真部員は
「被写体への愛情が伝わってくる、いい写真でしょ」と解説する。
惣一郎の気持ちを知った唯は、杪にすがり「病院に帰る!」と泣き出してしまう。


289 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/12 17:04:37 ID:???
まずい事をしたと気付いた真幸は、惣一郎を探しに出る。
人気の無い駐車場の裏手に来た真幸は、惣一郎がコート姿のやつれた男と話しているのを見つける。
コートの男は「あの写真が篠原の娘か…あの娘を使って篠原を…」と物騒な事を言う。
惣一郎は何も答えず、青ざめた顔をして「部に戻らなきゃ」と男に背を向ける。
男はその背中に「10年前、篠原茂のためにどんな思いをしたか忘れたのか!」と叫ぶ。
「俺はあいつに、俺と同じ思いを味わわせてやりたいんだ」
一人帰宅したるりは、知らぬ事とは言え、唯を傷付けた事を気に病む。
そこへ真幸が帰宅し、「人の気持ちはままらないものだから」と慰める。
続いて唯を病院に送ってきた杪も帰宅し、写真の事を謝るるりと真幸に
無かった事だと言い、惣一郎には今まで通り唯のそばに居てもらう、と告げる。
たとえ偽りでも、唯の幸せの為だけに。
それからも惣一郎は相変わらず唯の病室を訪れるが、るりとは疎遠になっていった。
真幸は惣一郎のるりへの想いは真摯なものだと思えたし、彼にコートの男の事を聞けないでいた。
冬休みに入り、夜に帰省した真幸は家の近くの角で息を切らせて走ってきたるりとぶつかる。
近付く唯の誕生日にカーディガンを編んでいたるりは毛糸が足りなくなり、買い物に出た帰りに何者かにつけられたのだ。
真幸が反対側の角を見ると、いつかのコートの男が逃げていくところだった。
放っておくわけにもいかず、真幸は惣一郎の身辺調査を始める。
唯の誕生日。
るりは編み上がったカーディガンやケーキを持って、唯を見舞う。
「今日は惣先生が来る日だし、二人でパーティしなよ」とグッズを置いてゆくるり。
長い入院で自分の誕生日も忘れていた唯は感激し、礼を言いながらるりに抱きついて泣きじゃくる。
自分の存在が、惹かれ合う惣一郎とるりの障害となっている事に、幼い唯も心を痛めていたのだった。


292 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/13 12:01:13 ID:???
程無く唯は、杪に「家に帰りたい」と訴え、主治医に許可される。
るりは喜ぶが、それは、唯の死期が近付いていると云う事でもあった。
惣一郎も交えた退院祝の席で忙しく立ち働くるり。
杪はキッチンでグラスの用意をするるりに「わかってるわね?後は私がやるわ」と釘を刺し、退席させる。
一方、大学の事務局で惣一郎の学籍簿を調べた真幸は、彼の名字の読み方が「あさか」である事を知る。
茂の会社に出向いた真幸は「安積商事」について尋ね、父と安積家の因縁を知る。(後述)
自宅療養中の唯は、杪に編み物を習い始め、セーターを編む。
それを見たるりは、きっと惣一郎に送るのだろう、と応援する。
唯はセーターが編み上がったら、惣一郎を諦めようと決心していたのだが、
いざとなると、なかなか編み進められないでいた。
そんな冬の、雪が降り積もった日。
花ぶらんこに雪が積もっているのを見た唯は「花が咲いてるみたい」とるりに付き添われて庭に出る。
ぶらんこを軽く押すと、積もった雪がはらはらと舞い落ちて、まるで花びらの様だった。
唯は喜び、座部の雪をはらうと、ゆっくりとぶらんこを漕ぐ。
「お姉ちゃま、今までありがとう」
唯は「ママも惣先生も、一人占めしてた」とるりに謝り、ぶらんこを漕ぐ手に力をこめる。
「発作の度に、今にも心臓が止まっちゃいそうで、とても怖かったの。
ひとりぼっちで…とても寒かった。
惣先生の手は、いつもあったかで、唯、離したくなかったの…
惣先生がお姉ちゃまの事好きでも、そばにいられるだけで…」
それが死に急ぐ人の言葉の様に思えて、るりは唯を止めようとする。
唯は益々早くぶらんこを漕ぐ。
篠塚家に向かっていた惣一郎はコートの男とすれ違い、悪い予感に急ぐ。
彼が篠原家に着いたその時、ぶらんこを吊り下げてある太い木の枝に亀裂が入り、唯は振り落とされる。
るりはとっさに唯を突き飛ばし、花ぶらんこは折れた枝ごと、るりの頭に落下し、彼女は意識を失う。

病院のベッドで目覚めたるりの傍には、青い顔をした惣一郎が付き添っていた。
痛む頭で唯の安否を気遣うるり。
惣一郎は頭を垂れ「急な発作だったんだ」と言う。
病院へ向かう車の、惣一郎の腕の中で、唯は冷たくなっていったのだ、と…


293 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/13 12:55:35 ID:???
るりと杪が自失の内に唯の葬儀は終了し、杪は伏せってしまう。
るりは気丈に家事をこなすが、頭を打った後遺症なのか、度々の立ちくらみに苦しむ。
起きられる様になった杪は家に惣一郎を呼び、今までの礼を言う。
唯の部屋から形見分けの品を持っていってほしいと言われた惣一郎は、何も持たずに家を出る。
庭に居たるりに「唯の形見を貰う資格はない」と惣一郎は別れを告げる。
結局は「愛せなかった事」で唯を傷付けただけだと、彼も自分を責めていた。
暫くは真幸も家から大学に通う事にし、唯の居ない生活が始まった。
春になり、月命日に唯の眠る霊園に出かけたるりと真幸は、
併設の公園で子供達と野球をしていた惣一郎と偶然に再会する。
懐かしさに笑顔を見せるるりに、真幸は「その男に近付くな」と止める。
良くしてもらったのに、と不審に思うるりに、真幸は惣一郎の過去を告げる。
惣一郎はかつて茂のライバル会社だった安積商事の社長の息子で、茂との競合に敗れ、会社と家を失った。
家は元々、安積の妻・玲子の生家であった。
そして、茂自身も知らなかった事だが、今の篠原の家が、他ならぬその家だったのだ。
安積(父)の憎しみは10年前に玲子が死んだ時から茂へと向かい、今も復讐の機会を待っていた。
結果的には惣一郎を使って唯を傷付け、彼は復讐を果たしたのだ…と。
父の事とはいえ、自分も名前を隠して篠原家に入り込んだ事に言及された惣一郎は何も言えず、ただうつむいていた。
るりは足元が崩れる様な衝撃を受け、お参りも出来ないまま、真幸と帰宅する。
真幸は「あそこまで言う気はなかった」と反省しつつも、惣一郎に向けられたるりの笑顔を一人占めしたいと思った気持ちを自覚する。
今更だが、今だからこそ、自分がるりを守ってみせる、と。
家での杪のるりに対する態度は相変わらずだったが、少しずつ柔らかくなっていた。
あの雪の日の前夜、唯は杪の手を握り「お姉ちゃまにも、唯にするみたいに優しくしてあげて」と言ったのだ。
小さな手と交わした約束が、杪の心を締め付ける。


294 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/13 13:53:35 ID:???
四月。
傷心の惣一郎はフランスへの短期留学を決め、旅立つ。
るりは立ちくらみが続き、ついには失明してしまう。
花ぶらんこの落下による衝撃で脳内出血を起こしていたるりは手術を受けるが、病巣が取り除かれた後も、光は戻らなかった。
心因性のものかもしれないと言う医者の見立てに、杪と真幸はそれぞれ思い当たり、るりに優しくなる。
るりは暫く入院して様子を見る事になる。
そんなある日、るりの失明を知らない惣一郎からの手紙が届く。
真幸はそれを誰にも知らせず隠匿する。
二ヶ月が過ぎてもるりに光は戻らず、るりは盲学校へ通い始める。
杪は一階の唯の部屋をるりに使わせ、るりは遠慮しながらも喜ぶ。
「今夜はいい夢を見られそうだな」と部屋に来た真幸に、るりは「唯のおかげだ」と微笑む。
「唯が天国で花ぶらんこを揺らしてくれてるんだ」と聞いた真幸は、
るりがまだ惣一郎に気持ちを残していると感じ「過去は忘れろ」と声を荒げる。
気持ちが抑えきれず、真幸はるりを抱きしめ「好きだったんだ、ずっと…!」と告白する。
るりは恐慌し「ここに居るのは私のお兄さんじゃない」と激しく拒絶する。
真幸は自責の念にかられ、それぞれが、眠れぬ夜を過ごす。
一方、フランスの惣一郎はるりからの返事を待ち続け、留学期間を過ぎても帰国出来ずにいた。
そんな折、町の図書館でるりに似た少女・リュティシア(リュー)を見かける。
懐かしさに彼女に声をかけた惣一郎は、田舎で牧場とホテルを経営しているというリューの祖父の家に滞在する事になる。
リューは唯と同じ年、男の子に混じってサッカーをしたりする、明るくお転婆な少女だ。
外見は似ていても、寂し気なるりとは違うリューと接していると、惣一郎は穏やかな気持ちになる。
リューの13歳の誕生パーティに招かれた惣一郎は彼女に告白されるが、彼女にるりの面影を追う自分に気付き、断る。
リューに「そんなに好きなのに、こんな所で何をしているの?」と言われた惣一郎は帰国を決意する。
帰国荷物をまとめているとリューがやってきて、偶然見つけたるりの写真を「そっくりだから、祖父に見せる」と持って行ってしまう。
写真を見たリューの祖父は驚き、惣一郎に確認を取る。
リューは、ソニアが帰国後再婚して産んだ、るりの異父妹だったのだ。


295 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/13 14:49:23 ID:???
夏の日本。
真幸は深夜、るりの部屋を訪ね、眠っているるりの枕元に惣一郎の手紙を置く。
実は寝たふりをして息を詰めていたるりは、手に触れた手紙の差し出し人に思い当たる。
周囲の人間は皆、るりの失明を知っている。最近没交渉なのは、惣一郎だけだ。
杪に読んでもらおうか…しかし…と悩む内、病院に定期検査に出かけたるりは、
慰問に来ていた大学の児童研究サークルの連中から惣一郎の噂を聞く。
「あいつ、フランスで金髪の女の子とくっついちまって…」
そう聞いたるりは、きっと別れの手紙だろうと、内容を確かめずに破り捨てる。

季節が移り、惣一郎は帰国し、るりの失明を知る。
盲学校の帰りにるりを待ち伏せした惣一郎は「手紙は読みませんでした…もう、そっとしておいて」と言われる。
「ごめん…君の心をかき乱すつもりじゃなかった。
ただ…父の事も謝っておきたかったんだ。父が何と言おうと、
僕はこの家の人達が好きだったよ。それだけは信じてほしい…」
そう言ったものの、目の見えないるりが気にかかり、
喉を痛めているからと声を出さず、善意の第三者として、惣一郎は何くれとなくるりを助ける。
告白の夜から、真幸はおかしな態度をとる事もなく、良き兄としてるりに接する様にしていた。
しかし、日々想いは募り、気付いた杪に釘をさされる。
「義理の兄妹なんだから、変な噂が立たない様、男のあなたが気をつけてあげないと…」
真幸はカッとなり
「そうだよ、血は繋がってない!だから、僕がるりを好きになってもいいんだ!」と言ってしまう。
冬の朝、るりを車で学校まで送ろうと一緒に家を出た真幸は、彼女を人気の無い海岸へ連れ出す。
思い詰めた真幸は、るりと無理心中をするつもりだった。
真幸は車のキーを海に投げ捨て、「キーを失くしたから帰れない」とるりの手を引く。
冬の海は豪々と荒れ、強い潮風が打ちつける。
「怖くないか?」と聞かれたるりは「お兄ちゃんと一緒だから、怖くない」
と答え、真幸はその全幅の信頼にハッとする。
自分には、その信頼だけで充分だ…そう思った真幸は立ち止まり、るりの手を離す。
そして、重いものを吐き出す様に言う。
「惣一郎の手紙は…四月の初めに着いたんだ」


296 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/13 15:33:36 ID:???
「渡せなかったんだ…ずっと持ってた。そして…読んだんだ。
“全てのわだかまりを捨てて、会える日が来るのなら、返事を下さい。
君が好きです”…あの手紙には、そう書いてあった。
るりをあいつに渡したくなくて、手紙を隠した。そのまま、忘れてしまえたら…と思ってた。
でも…読んでしまったら…隠しておけなくなった。
すまない…どれ程たくさんのものを、君から奪ってしまったことか…」
「いいの…手紙を破り捨てたのはるりだもの。
いつもいつも、待ってるばかりで、何もしなかったのは、るりだもの…」
真幸は町へ向かうトラックに便乗し、夜遅くるりを乗せて帰宅する。
顔色を失くした杪は、真幸の頬を打つ。真幸には何も言えなかった。
惣一郎のもとにはリューとその祖父が訪れ、篠原家に行くつもりだという。
一人でホテルを抜け出したリューは篠原家に向かい、惣一郎もあとを追う。
同じ頃。早く帰宅した茂は、るりと話す機会を得、問われるままにソニアの話をする。
ソニアを憎んだ事は無かったのか、と聞かれた茂は「るりがみんなとは違う、と泣きながら帰ってきた日にね」と答える。
「ママを追わなかった事、後悔しなかった?」
「後悔してないよ。だって今は、かけがえのない家庭があるからね」
愛しくてたまらない、という表情を浮かべ、茂は続ける。
「杪に初めて会った時、他の誰でもない、この人とならやり直せる、と思ったよ。
幸せだと思ってる…」
お茶を運んできた杪は中に入る事が出来ず、廊下で立ちつくしていた。
自分は、一人で誤解して、るりを傷付けた。
茂の愛情を疑い、るりを通してソニアを憎み…
自責の念に駆られた杪はふらふらと台所に戻り、発作的にガス自殺を図る。
書斎ではまだ、るりと茂の話が続いていた。
ソニアは既に病没しているが、その家族がるりに会いたがっていると伝えた茂は、
会いたいと言うるりの意思を確認し、リュー達に連絡しようと階下へ。
充満するガス臭に台所に入ると、自失した杪が床に座りこんでいた。
「何をしてるんだ!」急いで杪を立たせようとする茂。
テーブルの足にひっかかり、ふらつく二人。
衝撃で何かのコンセントが抜け、ガスに発火する。


297 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/13 16:35:55 ID:???
発火直前、リューと惣一郎、そして帰宅してきた真幸は門前で鉢合わせする。
「話があるんだ」と真幸が門を開けようとした瞬間、台所付近が爆発し、篠原家は炎に包まれる。
二階の書斎に居たるりは、盲目ゆえに何が起きたのか解らず、爆発の衝撃に転ぶ。
「何…?誰か…!」瞬く間に炎は広がり、るりは煙に包まれる。
茂は火傷を負いながらも杪を連れて自力で脱出する。
るりが中に居ると聞いた惣一郎は水に浸したコートを羽織り、中へ突入する。
るりは、このまま誰にも会わずに死んでしまうのか、と叫ぶ。
心に浮かんだのは惣一郎だった。
「助けて!惣先生!」惣一郎はその声を聞きつけ、書斎へ向かう。
自分を呼ぶ声に走り出するり。その姿を認めた惣一郎の頭上で、梁が焼け落ちる―――

白い天井。
「惣…先生…?」病院のベッドで目覚めたるりは、傍らで椅子に座ったまま眠る、惣一郎を見た。
「ああ…気が付いたんだね」惣一郎も目を覚まし、るりを見る。
「るりちゃん…目が…!?」るりには久しぶりの光、そして、惣一郎の姿。
二人は抱き合い、互いの無事を喜ぶ。
あの時、惣一郎のあとを追ってきた真幸が二人を突き飛ばし、二人は助かったのだ。
杪、茂とも重体ではあるが、命は取り止めた。
彼等の病室には、真幸が詰めていた(書き人の呟き:何で助かってるんだろう…?)
杪は横たわったままるりを呼び、今までの事を詫びる。
生きる気力を失くしてしまいそうな告白に、るりは杪の手を握る。
それを同室のベッドで聞いていた茂は無理に体を起こし、杪のもとに這って行く。
「逝ってしまわないでくれ。お前にそんな想いをさせたのは私だ。
これからの生涯をかけて、償わせてくれないか…杪、お前が必要なんだ…」
一人で病室を出た真幸を、るりが追ってくる。
「見えるようになったんだね…」真幸に言われ、るりは微笑む。
自分にはるりの目を治してやる事は出来なかった、と心の中でひっそりと、真幸はるりに決別する。
病院にはリューと祖父が見舞いに訪れる。
リューの祖父は茂に「かつては恨んだが、惣一郎の写真のるりを見て、
愛らしい娘に育ててくれた」と、わだかまり無く話す。
リュー祖父は、軽傷で退院したるりと真幸を、仮住まいにと自分達の宿泊するホテルに滞在させる。


298 名前:花ぶらんこゆれて…[sage] 投稿日:05/02/13 17:10:58 ID:???
リューとるり達は親交を深め、3週間後、二人はフランスへ帰国した。
そして、真幸も。
リュー祖父は真幸を「経済をやっているなら、是非ヨーロッパへいらっしゃい」
と誘い、彼は一通の手紙をるりに残し、リュー達とフランスへ発った。
今度会う時は兄として…るりを忘れる為の、長い旅になりそうだった。
時が過ぎ、春。
茂と杪もすっかり元気になり、新居も完成する。
荷物を整理しながら、杪は唯が編んでいたセーターを編み上げ、るりに渡す。
「たまたま真幸が持ち出していて、無事だったのよ」
惣一郎に渡すべきだと言うるりに、杪は「女物よ」と笑う。
唯は、るりにセーターを編んでいたのだ。
「解っていたけど、“唯の惣先生”でいてほしくて、今まで渡せなかったのよ…
あの子は、心を残して逝ったのじゃないわ。
ありがとう、って唯は言ったの。それが…最期の言葉だったのよ」
るりと両親は引っ越し前に唯の墓参りに出かける。
るりは墓石に膝まづき、唯に「幸せよ」と話しかける。
篠原一行を影から見送り、同じ霊園に眠る玲子の墓に参った安積は、玲子の
「お家に花ぶらんこが無くても、ママには惣ちゃんとパパが居てくれるもの」
との言葉を思い出し、憎しみが風化してゆくのを感じる。
篠原の新居には惣一郎が、いっぱいに咲いた花の鉢植えを持って待っていた。
「花ぶらんこの花だよ」
唯の死後、うち捨てられていた木を拾い、惣一郎が今まで育てていたのだという。
惣一郎が腕を伸ばし、鉢を振ると、るりの頭上から花びらが舞い落ちる。

花びらがこぼれすぎて…
幸せがあふれすぎて…
心に幸せが舞い落ちる…
終わり