鋼の錬金術師/荒川弘
666 名前:鋼の錬金術師外伝 「師匠物語」[sage] 投稿日:2006/01/12(木) 21:24:22 ID:???
イズミ・ハートネット18歳、彼女は北のブリッグス山を訪れていた。
凄腕錬金術師シルバ・スタイナーの元で修行するために。

山小屋の暖炉の側で本を読む老人。イズミが話しかけても耳が遠く会話にならない。
「弟子入り!」彼女が叫ぶと、老人は言った「一ヶ月」
老人はイズミに一本のナイフを投げてよこした。
「そのナイフ一本で一ヶ月、ブリッグス山で生き延びてみな」
「そうしたら本弟子にしてやるよ」
イズミはそれが錬金術とどう関係があるのだろうと疑問を抱きながらも
高名な錬金術師の言うこと、深い思慮あってのことだろうと山に入った。

寒さに凍える生活が始まった。時にはブリッグス要塞の山岳警備隊に出会い、
イズミはその装備を奪うことで食料を得た。しかし、やがてイズミにも限界が近づき、
大自然の中で自分の存在があまりに小さいことを痛感する…

…自分が死んでも何もなかったかのように、日はまた昇る。
世の中の流れは強く早く、残酷だ。この世は大きな力に従って流れる。
しかし、その流れの元は自分のような小さな存在。
小さな存在なくして、大きな流れは存在しない。
大きな力の流れを知りその力を利用する小さな存在、それが錬金術師。
基本はすなわち「一は全、全は一なり!!」
そう気がついた時、イズミは熊をも投げ飛ばしていた。

一ヶ月が過ぎ、イズミは熊を肩に担ぎ山小屋に帰った。
熊を老人の前に投げ落とすとイズミは再び弟子入りを求めた。
「あー?」老人は耳に手をあて声を出す。
「あー、れんきんじゅつ。だったら弟のことじゃな」
「わしの名はゴルド・スタイナー。シルバの兄で格闘家じゃよ。」
「弟はとっくの昔に死んだ。我が弟子となり、共に修羅の道を歩もう…」
ドガッ。 ゴンッ。
老人が言い終わるや、鈍い音が響き渡った。
山小屋には床に倒れる老人だけが残され、彼女の姿は既になかった。

615 名前:盲目の錬金術師1[sage] 投稿日:2006/06/18(日) 23:41:06 ID:???
「鋼の錬金術師 盲目の錬金術師」
半年経ってるようなので、書いてみました。

【前提】
エドとアルの兄弟は死んだ母親を蘇らせる為、人体錬成を行い、失敗。
その代償として兄のエドは右腕と左足、弟のアルは身体を全て失った
(現在は からっぽの鎧に魂を定着)
二人は元の身体を取り戻す方法を探して、旅を続けている。

【ストーリー】
エドとアルは、人体錬成に成功したという噂のジュドウ氏に会いに行く。
彼が仕えているハンベルガング家には夫人と一人娘ロザリーがいた。
ロザリーは全身鎧のアルに興味を示し、一緒に遊ぶと言い出した為
アルはロザリーと、エドはジュドウ・夫人に分かれて話をすることになった。

エドは自分も人体錬成したことを話し、ジュドウに噂の真実を尋ねた。
答えはYes。
ジュドウは両方の目を失った代わりに、人体錬成したのが
先ほど目にしたロザリーだと告げた。
                                     続く

616 名前:盲目の錬金術師2[sage] 投稿日:2006/06/18(日) 23:42:52 ID:???
その頃、ロザリーと遊んでいたアルは勢い余って頭部が取れ、
鎧の中身がからっぽがあることがバレてしまう。
ロザリーを怖がらせまいと慌てるアルだが、逆にロザリーは
興味津々で鎧の中をのぞき込んでくる。
「驚かないの?」
「ちょっとびっくりしたけど、もっとすごいの見てるから」
と、彼を「秘密の場所」へ連れて行く。

三年前に錬成したロザリーは、明るく元気に過ごしているという。
弟を元に戻せる希望を見つけたエドは懸命に錬成方法を尋ねるが、
夫人から「外部に秘術は教えられない」と はねのけられた。
主の意向である以上、ジュドウもそれ以上は口にできない。
夫人はエドを連れてその場を離れた。
「人体錬成はおやめなさい」という夫人に、なお食い下がるエド。
「聞いても無駄なのです」と、エドを「ある場所」へ連れて行く。

「秘密の場所」についたアルとロザリー。
「『ロザリー』、お客様よ」
部屋の中には、たくさんのぬいぐるみや本。
その中心にかわいらしい洋服をきた『ロザリー』が椅子に座っていた。
「これが、ジュドウが錬成した『ロザリー』よ」
−ただし、その姿は半ばミイラのようであったが。
                                  続く

617 名前:盲目の錬金術師3[sage] 投稿日:2006/06/18(日) 23:50:21 ID:???
ロザリーは本名はエミといい、本物のロザリーに姿が似ている為、
孤児院から引き取られ、ロザリーの振りをしているのだという。
『ロザリー』は生きてはいるものの、以前の愛らしい姿はなく
震える程度にしか動くことができない。
それ以前にこの身体の中にいるのが、本当のロザリーなのかも分からない。
「本物だよ……きっと」
励まそうとするアルの言葉に、エミは寂しげに笑う。
「うん……だから私はこの家の本当の子にはなれない」
辛そうに見つめるアル。その背後には夫人とエドがいた。

ジュドウとハンベルガング一家は家族のような存在だった。
それ故に3年前ロザリーを亡くした時、夫妻の落胆する姿を見かねて
彼は人体錬成を行ってしまった。
両目を失い激痛に苦しみながらも、ロザリーが無事か尋ねるジュドウに
夫妻は真実を告げられず嘘をついた。
「娘は帰ってきた。元の姿のままに……」
その足下には『ロザリー』の姿があった。
                                  続く

618 名前:盲目の錬金術師4[sage] 投稿日:2006/06/18(日) 23:53:24 ID:???
エミと執事が兄弟を見送る。
使用人達もジュドウと一家の絆の深さを知っている。
だから彼らも皆 ジュドウをだましていた。そしてこれからも。
「それでみんながいつも通りならば、それでいいのです」

門の外に出て振り返ると、エミが笑って手を振っていた。
ゆっくりと門が閉まっていく中、エミと執事は手をつなぎ家へと戻っていく。
「みんないい人だね」と言うアルに、うなづくエド。
しかし、暗く閉ざされた門の向こうでエドがつぶやく


「だけど、みんな救われねぇ」

                               〈終〉