銀の勇者/渡辺祥智
494 名前:銀の勇者 〜1話〜 投稿日:04/06/10 22:23 ID:???
勇者制度。
トティア王国に伝わる冒険者階級制度で、一般に魔物と呼ばれる人に害をなす生き物を殺すことにより国から懸賞金をもらえる制度
殺した魔物の頭数や強さにあわせレベルがあがっていき、勇者は最高の勇者の証である「金の勇者」の称号を狙っている。

トティアにある小さな村で生まれた少年、ビートも金の勇者を目指す一人だった。
「10年後、俺は金の勇者になる、お前は強い魔術師になって俺とパーティを組んで魔王を倒すんだ」
幼いビートは、トティアの首都にある魔法学校に通うために村を出る
美しい青銀の髪の少年、親友のリチェルカーレ(通称リチェ)との約束を交わす。

それから、約束の10年後。ビートの現在の勇者称号は「銀」であった。
親友との再会を果たすために首都に赴いたビートは、リチェに関する不穏な噂を耳にする。
魔物生息区域「カタンツ」において、魔物を狩ろうとする勇者を妨害する魔術師がいる。
その魔術師は青銀の髪色をしていたと。
リチェが魔物を守るはずがない…!これは魔王に操られている!きっとそうだ!魔王を倒してリチェを取り戻す!!
ビートは独自論で暴走し単身カタンツへと向かう。

カタンツで襲い掛かってくる魔物と対峙していると、青銀の髪の青年、リチェが現れる。
久しぶりの再開を喜ぶこともなく、魔物を守ろうとするリチェにビートは声を荒げる。
「魔物は人間を襲う!だから悪だ!悪を悪と感じなくなったお前も悪者ってことだ!」
激昂しそう告げるとビートはリチェを残しもと来た道を引き換えしていく。

495 名前:銀の勇者 〜1話〜 投稿日:04/06/10 22:25 ID:???
しかし王都に戻ろうと歩いている間にビートの心はリチェのいい分を全く聞こうとしなかった自分への罪悪感に襲われる。
悶々としていると、一人の子供がビートの前に現れる。
赤い髪に金の瞳の、人間にも見えるが頭に角の生えた魔物はビートに微笑みかける。
「おにぃさんどうかしたんですかぁ?」「おにぃさんがピリピリ怒ってるとみんな(魔物)もピリピリになっちゃいますぅ」
間の抜けた言葉に神経を逆撫でされたビートは、角の生えた少年を罵倒する。
「じゃあ俺が優しい気持ちでいたら、お前らみたいな醜い化け物でも優しくなれるっていうのか?」
角の生えた少年は、睨みつけられても物怖じせず満面の笑みで告げる。
「僕ら魔物は人間の気持ちに敏感なんです、人間が僕らを襲おうと考えてたら僕らも人間を襲おうと思っちゃうんです」
「人間は誰かに優しくされたら、優しくしてくれた人に優しくしてあげたいと思わないのですか?」
「僕ら魔物はいつもそう思ってます、だから人間がピリピリしていたらピリピリで返しちゃうんです」

ビートにも思い当たる節は会った、リチェは魔物を従えていたが敵意を全く見せていないリチェには襲い掛かろうとしなかったことだ。
もしこの魔物の子供の言うことが本当なのなら、人間と魔物は争わず共存できるのではないか?
そしてリチェはそれに気づきいてこんなことをしているのか…と思い至る。
真相は彼自身の口から聞くまで分からないが、何も言わずに一方的にまくし立ててきたことは自分が悪い。
素直に謝りに行こう、ビートが重い腰を上げた瞬間、角のある子供が囁いた。
「空気がピリピリで痛いです、魔物たちが怒ってます…リチェになにかあったんです…」

リチェはその頃、ある勇者のパーティと対峙していた。
斬り付けられても魔物の前から一向に退こうとしないリチェにパーティの一人が言う。
「この子の珍しい髪の色…それに魔物もこの子を守ってるわ、この子はもしかしたら魔王なんじゃない?」
「それじゃあコイツを殺したら一気に金の勇者に格上げってこともあるかもな」
笑いながら言う2人に対して、リチェは冷静に告げる。
「俺は魔王じゃないけど…もしかしたら裏切り者で賞金くらいかけられているかもね」

496 名前:銀の勇者 〜1話〜 投稿日:04/06/10 22:26 ID:???
魔物を守る代償として自らの首を差し出そうとするリチェは走馬灯のように自分の過去を思い出していた。
魔法学校の実習でカタンツで魔物を退治していた時を
殺されて動かない血まみれの仲間によりそってか弱い声で鳴く魔物の、涙の溜まった瞳が真っ直ぐに自分を見ていたことを

ねぇビート、魔物も仲間を思って泣くんだよ…

その涙を見たときから、リチェは魔物をむやみに殺すことに違和感を覚え、魔物を守る側にとついたのだった。
首筋に刃物を当てられながら、遺言のようなことを考えていると遠くからビートが叫び、走ってきた。
「お前ら何をしてやがる!おい!魔物どもも見てるだけじゃなく、そういう奴らは死なない程度に痛めつけてやれ!」
リチェに守られているだけだった魔物たちが、その言葉で我に返り、あっという間に勇者パーティを全滅させる。
まさか自分を助けに帰ってくると思わず、困惑するリチェにビートは素直に自分の行いを謝る。
「俺も魔物使役できちゃったし、勇者の妨害もしたからお尋ね者だな…」
そう苦笑交じりに言うビートにリチェは微笑み、それなら一緒に魔物を守っていかないかと言う。
「魔王も、ビートといつの間にか仲良くなってたみたいだし、それでもいいよね?」
そう言うリチェの視線の先には先刻の角の生えた子供。
これが、魔王――?ゴツイ親父を思い浮かべていたビートは現実とのギャップに脱力する。
そんなビートを差し置いてまた、満面の笑みで「これでも500年は生きてますぅ♪」という魔王。
しかしこれで謎も解けたとビートは思う、今まで誰にも倒されたことの無い魔王という存在は
誰にも負けないほど強いのではなく、もしこんな子供を殺せる奴がいるなら、それこそが本当の魔王なんだろうと。
ビートにじゃれる魔王を見つめながらリチェは一人思っていた。
勇者とは魔物を倒す存在じゃない、人に勇気を与える者、ということを。

金よりも眩しくないけれど確かに輝き、真っ直ぐな銀色の光を放つ勇者を眩しく見つめていた。