フロイト1/2/川原泉
676 名前:フロイト1/2 1[sage] 投稿日:2006/07/04(火) 13:01:56 ID:???
小田原で偶然に知り合った小学生の梨生(りお)と登山家大学生の弓彦(ゆみひこ)は、
「風呂糸屋」という怪しい外国人の提灯売りから、彼が作ったという2つで1つのペアの提灯を
5円ずつ出し合い、二人で分け合った。

怪しい提灯売りの正体は、精神分析学・深層心理学の創始者、ジークムント・フロイト(1939年没) の魂。
初めは「ひとつの夢を二人で分け合うのは…」とぶつぶつ言って難色を示していた風呂糸屋だが、
これも何かの縁と二人に提灯を分けて売った。

8歳になる梨生は少しぼーっとした少女。
母親に先立たれ、実の父は梨生の母を捨て一流商社の重役の娘と結婚しており、叔母夫婦の元で育てられていた。

弓彦は父が冬の雪山で帰らぬ人となり、母一人に育てられてきたが、次の登山を最後の冬山と決める。
そのためにバイトをしたりプランを立てたりしつつ、夜は死んだように眠って夢も見なかった。

小田原で提灯を買った後に別れた二人だが、梨生は夢の中で弓彦の姿を見るようになる。
しかし夢の中で梨生が弓彦に呼びかけても無反応。

そして弓彦はあの時に買った提灯を持って、友人の八木沢と冬山へと登るが、
猛吹雪で遭難してしまう。
気が遠くなりそうな弓彦に見えたのは提灯を持って「こっちだよ」と言う梨生の姿。
弓彦は助かり、そして10年が過ぎた。

18歳になり、高校卒業間近で、短大合格も決まっていた梨生は、
ゲーム好きの従弟の薦めで、ゲーム会社「パニックス」のアルバイトの面接を受けに行くことになる。
なんと、そこの会社の社長は弓彦だった。
弓彦と共に会社を経営している八木沢の口添えもあり、あっさり採用された梨生。
だが弓彦の態度は事務的なものだった。

677 名前:フロイト1/2 2[sage] 投稿日:2006/07/04(火) 13:02:50 ID:???
弓彦の会社はまだ中小企業だが、ヒット作を何作も出していた。
しかし、営業担当をライバル社の大企業に引き抜かれたばかりで弓彦はくさっており、
新しい営業を見つけたところだった。優秀なその営業マンが来れば、もっと儲けられるとほくそえむ弓彦。

その夜、弓彦は梨生と出会う夢を見る。
二人とも「自分の夢だ」と主張するが、雪山でのこともあり、弓彦は提灯が怪しいと目星をつける。
そこで、明日提灯を持って出社してお互いの目と目が合ったら自分の提灯を広げて合図しよう、と夢の中で約束する。

翌日、新しい営業担当の滝杷(たきえ)とアルバイトの梨生がパニックスに出社する。
しかし、偶然に滝杷を見た梨生の叔父は驚く。滝杷は梨生の実の父だったのだ。

梨生が仕事中に弓彦にお茶を持っていく際、二人は同時に提灯を広げる。
「本当だった!」と興奮する梨生だったが、弓彦は不機嫌になるばかりだった。
弓彦は、梨生を採用したのは「冬山で助けてもらった借りがあるから」とそっけなく告げる。

アルバイトにも段々慣れてきた梨生は、発売予定の新作ゲームのテストプレーを任される。
それは「怒るミカエル」というファミコンのRPGで、
大天使ミカエルが宿敵ルシファーに「天使の輪っか」を盗み出され、ルシファーを倒すために立ち上がるという内容。
RPG好きな梨生は喜んでプレイする。
その様子を、滝杷が優しげに見守っており、二人は次第に打ち解ける。

相変わらず夢の中以外では梨生に厳しい弓彦だったが、ある時、滝杷と梨生の叔父の会話を立ち聞きしてしまい、
頭脳明晰で優秀な滝杷とボンヤリした梨生が親子だと知ってしまう。
滝杷は前の会社で左遷され、重役の娘だった奥さんに離婚され、パニックスに来たのだった。
梨生の叔父は、滝杷に「梨生には何も話すな」と釘を刺す。

その夜も弓彦は夢の中で梨生と会う。
夢の中で、幼い姿の梨生は「お母さんがほしい」と言う。
「お父さんはいらないのか?」と弓彦が問うと、梨生は「お父さんはちゃんといるからいいんだ」と答え、
弓彦は梨生が滝杷のことを知っていると感づく。

678 名前:フロイト1/2 3[sage] 投稿日:2006/07/04(火) 13:03:30 ID:???
夢のおかげで安眠できない弓彦。以前はどんな夢を見ていたのか思い出そうとするが、
この10年間は一度も夢を見ておらず、梨生と再会してから変な夢を見始めるようになったことに気づく。

また、弓彦には銀行筋の娘との縁談話があった。
銀行の娘との疲れるデートの後、夢の中で小さい梨生と遊ぶ弓彦。
夢の中の弓彦は梨生に優しいが、夢でも金稼ぎのことを忘れない弓彦を梨生は寂しげに見る。
仕事でも更に新しい企画を出し、儲けることしか考えてない弓彦と、
弓彦を心配する八木沢は喧嘩をし、翌日から八木沢は会社に来なくなってしまう。

夢の中で弓彦は梨生に説明する。
10年前、冬山で遭難した弓彦と八木沢は、助かったはいいが、大がかりな捜索救助隊が展開されており、
とんでもない額の費用を突きつけられた。
しかし弓彦の母は、「母さんに任せときなさい」と一人で死んだ父の遺した工場を引き継ぎ守ってきたが、
連鎖倒産の煽りや従業員に金を持ち逃げされたりと工場は人手に渡り、一千万の借金が残った。
弓彦は大学を退学しようと思ったものの、それでも弓彦の母は一人でがむしゃらに働き、死んでしまった。
弓彦は意地でも学校を辞めず、借金も返そうと、学校とバイトの往復をし、金のことばかり考えていたと語る。
幼い姿の梨生はその話を聞き、「弓彦君はお金が好きだけど嫌いなんだね。かわいそーだね」と寂しげに言う。

目覚めた弓彦のイライラは募るばかりだった。
そして、会社で梨生を呼び出した弓彦は、梨生の目の前で自分の提灯を焼き捨てた。
梨生は何も言えず、自分が弓彦にとって邪魔だったのだ、と、うなだれるだけだった。

会社では、弓彦と八木沢と喧嘩したことが知られ、弓彦は社員たちから白い目で見られていた。
友人の八木沢、うなだれる梨生、生前の母の姿を思い、心がズキズキとする弓彦。

679 名前:フロイト1/2 4[sage] 投稿日:2006/07/04(火) 13:04:13 ID:???
弓彦は真っ暗な闇の中に一人いた。
誰かいないか呼ぶ弓彦。そこに現れたのは、小田原の提灯売りだった。提灯売りの風呂糸屋は言う。
「これはあんたが望んだこと。夢の砂漠。乾いた心が見る夢じゃ。
 心が動揺しそうになってあわてて提灯に火をつけた」と。
梨生もこんな寂しい所にいるのか、と弓彦は梨生が見てる夢を知ることを望む。
梨生が見ていた夢は、幼い頃に私生児だと言われ除け者にされていたところを、
弓彦に出会って親切にしてもらった思い出だった。
そうして親切にしてくれた弓彦のことをいつまでも忘れず、今はもう来ない人を待っている。
風呂糸屋は去り、弓彦はまた一人になった。
目覚めた弓彦は「一人ぼっちはいやだ。許して下さい」と涙を流す。

その日は日曜日で「怒るミカエル」の発売日だった。
フラフラと出かけた弓彦は、ソフトを買おうとして行列に並んでいたが結局買えなかった梨生に出会う。
滝杷もリサーチのために商品の売れ行きを観察していた。
弓彦は梨生に「いつ滝杷さんが父親だとわかった」と聞く。
梨生は高校に入学する時に戸籍謄本を見ていたのだ。
戸籍では梨生は「庶子」になっており、
梨生は、父親が自分のことを認めてくれたのだ、なんていい人なんだろうと思ったのだった。
その話を聞いた弓彦は、その足で八木沢の元に仲直りをしに行き、八木沢は会社に復帰する。
銀行の娘との縁談は断った。

弓彦は、滝杷と梨生の叔父を呼び出し、梨生が滝杷を父親だと知っていると告げる。
そして晴れて滝杷と梨生は親子として暮らすことになった。

梨生は「怒るミカエル」のクリア目前で「天使の輪っか」を見つけ、
弓彦の指示を受けながらボス戦に挑む。
ゲームをクリアしたら、次の日曜日に小田原に行くのだ。

――1989年、この年フロイト没後50周年に当たる。
                                      おわり

682 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/07/05(水) 08:25:16 ID:???
ちなみに銀行屋のお嬢さんは他の川原作品にもちょくちょく顔を出す

683 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/07/05(水) 16:02:33 ID:???
>>682
どの作品でも、主役級の男性の見合い相手として
登場し、全部でフられているw