エビアンワンダー/おがきちか
269 名前:エビアンワンダー_1[sage] 投稿日:2005/08/22(月) 13:28:05 ID:???
金髪の美女フレデリカ。彼女は弟のハウリィと共に、奇数羽(いちまいばね)の妖魔
ヨーヨーを連れて旅をしていた。フレデリカは、信心深い人々から『忌まわしき者』と
疎まれる『銀符(ぎんぷ)』である。銀符というのは、悪魔に願いを叶えてもらう代償に、
地獄のエネルギーとなる悪人の魂を集める契約を結んだ者の呼び名だ。
フレデリカは胸に鷹のタトゥーを持ち、それを発動させる事で魂を地獄へと送る。
通称『炎の鷹(ネイズー)』と呼ばれる銀符だった。一方、弟のハウリィは銀符の護衛
『侍符(カラムス)』として彼女の身を護り、彼女が悪人の魂を狩る手伝いをしていた。
世の中には悪がはびこっており、フレデリカが獲物に困る事はない。
だが悪人の魂を狩っても狩っても、彼女の悪魔に対する負債は一向に減る気配を見せなかった。
なぜならばフレデリカの負債は途方もなく大きなものだったからだ。
彼女が悪魔と契約した望みは『家族を得る事』だった。幼い頃、両親に雪山へ
捨てられたフレデリカは、家族の愛情に絶望し、目の前に現れた悪魔ペイシェントに
『自分を捨てない家族が欲しい』と望む。
「ひとりだけでいいの! 大人はもういらない、私よりちいさいのでいいの。
それなら私を見捨てたりしないでしょ!?」
その言葉に、ペイシェントは雪山で死んだ子供の骨を取り出して男の子を作った。
名前をつけてあげてね、と言い残して。それがハウリィだったのだ。
フレデリカはそうして望んだ家族を得たが、命を望む事は悪魔に対して
果てしない負債を負う事を意味していた。
もしも生きている間に負債を返せなければ、死んでからも負債を返さなくてはならない。
それが悪魔との契約だ。その場合、死んだ銀符は『前任(フェル・フェザー)』として
自分の後を継いだ銀符を育てる。フレデリカもまた、同じようにして負債を残したまま
死んだ前任、エレクトラに育てられたのだった。
旅を続けるフレデリカはある時奇妙な僧侶、フェイ・イと出会い、以来たびたび後を
追われる事になる。彼は神の道を説き、フレデリカを改心させるとうそぶいていたが
何やら別の目的を持っているようにフレデリカには思えた。彼はなぜか、フレデリカの
過去を知っており、時折謎めいた一面を見せるのだった。

270 名前:エビアンワンダー_2[sage] 投稿日:2005/08/22(月) 13:30:22 ID:???
フレデリカの持つ『炎の鷹』。それは所有者の、悪への怒りでできている。
だがフレデリカはその事を知らない。悪を前にすれば鷹は飛ぶと思っており、悪を犯した相手に
悲しみや同情を少しでも感じてしまえば鷹が飛ばなくなるとは、フレデリカには思いもよらなかった。
そのためハウリィを得た代償として、鷹を飛ばして悪を狩る事に何の疑問も抱くことはなかった。
彼女自身、悪を心から憎んでいたからだ。そして強くなろうとしていた。
弱さは悪を生むと思っているからだ。そして魂を狩る旅の中、出合った人々はそんなフレデリカに言う。
(あなたは私と同じねお嬢さん、ここは籠の中。怒りと復讐という名の籠よ)
(フレデリカ、あんた子供みたいな目をする……のね)
大人は裏切る。弱いものを利用して。棄てる。子供だった私のように。
フレデリカの悪への怒りの源はその思いだった。
ある時、その思いが暴走して街を一つ滅ぼしてしまう。そしてその街で、フレデリカは
天と契約した七錘(なのすい)のセスと出会った。彼はフレデリカに君の事は良く分かる、
僕らは兄弟みたいなものだから、と前置きして彼女に言った。
銀符や七錘は孤独でいなくてはならない、と。
フレデリカにはハウリィがいる。だが、自分が街を一つ滅ぼしたにも関わらず、少しも
自分に対しておびえも、怒りも見せないハウリィを前にフレデリカは思った。
ハウリィは私を見捨てない。でもそれはハウリィがそういう風に作られたからだ……。
おまけにハウリィはある年齢を境に成長を止めてしまっていた。ハウリィは普通の人間ではないのか?
フレデリカはその事を不安に感じて悪魔ペイシェントを問いただす。するとペイシェントは笑いながら答えた。
「成長するなんて言ってないわ。まあ、ずっと弟なんだからいいじゃない。あれはあなたのもの、お好きなように」
「私のものじゃない。ハウリィは――将来を夢見たり、いつかは恋をして――家庭をもったりするべき」
「いいえ、ありえない。契約したでしょうフレデリカ。『私を見捨てない、私より小さな――』」

271 名前:エビアンワンダー_3[sage] 投稿日:2005/08/22(月) 13:32:12 ID:???
うなされて目が覚めたフレデリカは自分が死んだ後の事を考えていた。
もし自分がいなくなればハウリィやヨーヨーはどうなるのだろうか。
その時ハウリィはといえば、フレデリカが負債を完済し、銀符を辞めた時の事を考えて、
武術の試験を受けていた。斗仙にまで昇れば生活には困らない身分が手に入る。
自分がフレデリカを養わなければ、とはりきっていたのだ。

フレデリカは段々北へと向かっていく。なぜなら北に、自分を捨てた両親をいるからだ。
両親を狩るつもりだが、自分とハウリィは本当の姉弟ではないので、子供を雪山に捨てるような親は
ハウリィの両親ではない。だからこのことは気にしなくてもいいのだ、とフレデリカはハウリィに伝える。
だがハウリィはきょとんとして答えた。
「姉弟って本当と偽物があるの? ……あのさ、気にしないでいいんじゃないかな。
どうせ、フレデリカと俺だけの家族なんだから」
ハウリィはフレデリカの事を姉として本当に慕っていた。彼女がいなくなってしまえば
どうすればいいのか分からなくなってしまうほど。だがフレデリカは、ペイシェントの
契約という呪縛からハウリィを解き放ちたかった。
だからそのためにもある雪の日、山に立ち寄ったフレデリカはハウリィをそこに置いていく。
そして妖魔のヨーヨーだけを連れ、一人旅立った。フェイ・イはそれを追いかけ、フレデリカと
共にいるか、いないかはハウリィに選ばせるべきだと諭す。
そしてハウリィに本当の事を伝えるべきだと言った。
すなわち、ハウリィはフレデリカが悪魔と契約し、得た弟なのだと。

(続く)

272 名前:エビアンワンダー投下者[sage] 投稿日:2005/08/22(月) 13:39:03 ID:???
単行本が『エビアンワンダー@、A』、『エビアンワンダーREACT@』と
出ていてその出ているところまでのストーリーです。REACTは続編に当たってるので、
エビアンワンダー@、A読んでからじゃないと分かりづらい所があります。

>>269が大体エビアンワンダーの内容。>>270-271はREACTの方です(混じってますが)。
ちなみにREACTは今現在、コミックゼロサム増刊 "WARD" にて連載されてたはず。

すごく独特の雰囲気がある漫画です。あらすじだけだとその雰囲気が出せないので
是非読んでみてください。面白いっすよ〜。