ディアマイン/高尾滋
450 :ディア マイン :04/05/12 01:36 ID:???
【一話】
倉田咲十子(さとこ)は17才。
父は会社経営をしていたが、咲十子が8才の時に倒産、そして父他界。
それから家事全般を受け持ち、母と二人暮らしをしていた。
ある日、咲十子が中庭で友達とお弁当を食べていると、
犬に追われて一人の男の子がフェンスを乗り越えやってきた。
咲十子が作って来た弁当を分けてやると、男の子は大変じゃないのかと問う。
咲十子は美味しいって言ってもらえれば嬉しいと話す。
端から見ると苦労してると思われるが、咲十子自身はちっとも苦に感じていなかった。
それは母がいつでも「幸せになろうね」と笑ってくれていたからだった。
そして片思いだけど恋もしている咲十子は幸せを満喫していた。
放課後、咲十子は公園で犬に襲われそうな子供たちを見つける。
夢中で子供たちを庇う咲十子を助けてくれたのは、昼間逢った男の子だった。
ほっとする咲十子達、しかしひょんなことから咲十子のネックレスがどぶ川に落ちてしまう。
父の形見の指輪をつけていたもので、涙を見せる咲十子に、
男の子は迷わず飛び込み見付けてくれた。
嬉し泣きをする咲十子に
「礼がしたいなら笑え!」と言うと、咲十子は嬉しそうに笑い、それを見た男の子もふわりと笑った。
家に帰ると、母の姿はなく、引っ越したと告げられる。
驚く咲十子に、迎えの者が現れ事情を説明してくれた。
母が友達の連帯保証人になっていた為、借金が出来、
それを和久寺産業グループ(所謂財閥)が肩代わりしてくれたという。
そして、その当主とは親同士が決めた婚約者だと告げられる。
現れた当主、和久寺風茉(ふうま)は、なんとあの男の子だった。


451 :ディア マイン :04/05/12 01:40 ID:???
【二話】

混乱する咲十子に、風茉は早速花嫁修行の準備をさせる。
慣れないことにへとへとな咲十子。
ふと思い立ちお弁当作りに勤しむ。
片思いの彼に渡すつもりだった。
風茉はそれを目ざとく見付け、「現実逃避などするな」と釘を刺す。
次の日、寝過ごした咲十子は、母の為に朝食を作ろうと急いで食堂へと走っていた。
「咲十子のご飯じゃなきゃ目が覚めない」
母の口癖を思い返しながら扉を開けると、母は、既に起きていたどころか朝食も終え寛いでいた。
言い知れぬショックを感じる咲十子。
「お金なんかなくても二人で暮らしてる時の方がよかった…」

学校で片思いの彼に逢い、お弁当を渡そうとする咲十子。
しかし、彼の口から彼女がいたことを聞かされ、無駄になってしまったお弁当を抱え一人涙していた。
そこにどこから入り込んだのか風茉が現れた。
「今朝お前が母親に食わせそこなった分も俺が全部食ってやる」
風茉はそう言うと無駄になったお弁当を食べ出した。
「バカなやつら。こんな美味いモン食いそこなうなんて」
ぶっきらぼうに慰めてくれる風茉に救われた思いの咲十子だった。


452 :ディア マイン :04/05/12 01:47 ID:???
【三話】

風茉には、もの心ついた頃から母の姿を見た記憶は少なかった。
「風茉、母さん弱い子は嫌いよ」
お前は和久寺の跡継ぎ、何も恥じることはない−

10才の風茉には敵が多い。
先代の遺言とはいえ、子供にグループを仕切られるのに皆面白くない。
風茉はそれを知りながら日々努力していた。
咲十子はそんな風茉の様子を見て心配になる。

ある日、咲十子は屋敷で男の子を見つけ、風茉に逢わせる。
すると普段の風茉からは想像出来ない、子供のような笑顔になった。
その子は寿千代(ひさちよ)と言い、風茉の弟だった。
しばらくして風茉が過労で倒れた。
咲十子は、風茉の秘書、鋼から風茉の母について聞かされる。
風茉の母は、庶民の出だった為に親族中から疎まれていた。
そして今でも、風茉の若さと母を理由に反発する者が多いという。
風茉は、家柄や年齢が中傷の対象になることが、
どんなに馬鹿らしく意味の無いものかを証明したくて頑張っているのだと聞かされた。
咲十子は風茉の看病に行き、優しく撫でてやる。

鋼モノ『(風茉の)母上様の葬儀のあの時、何よりも強く、
けれど何よりも弱く風茉様が見えた時、思った。
今度は母上様のように突き放す愛情ではなく、
包み込むような愛情を与えてくれるような人が、あの人に現れるといいって』


453 :ディア マイン :04/05/12 01:50 ID:???
【四話】

「咲十子の一番好きな色は?」
そう聞かれピンクと答えた咲十子に、風茉は寿千代に、ラジコンの色は黒だと断言した。
嫌われてる…と落ち込む咲十子だったが風茉は「お前のほうだろ」と呟く。
嫌いじゃない。
だけど色んなことがありすぎて思考が定まらない。
どうすれば皆が上手くいくんだろうと悩む咲十子。
風茉は、咲十子の母から、咲十子はレースとリボンが好きだったと聞くと、早速取り寄せる。
けれど咲十子に「こうゆうお金の使い方ってよくない」と諭されてしまう。
喜ぶと思っていた風茉は大ショック。
そんな中、咲十子と母の話しを立ち聞きしてしまう。
咲十子が嫌なら婚約破棄していいと告げる母。
働いて返していくから、咲十子は気にするなと。
「風茉くんはまだ子供だし、8年の間に風茉君の方が嫌だって思うかもしれない。
そんなのわかんない。だからママが無理する必要ない」
そう話す咲十子に風茉は怒りをぶつける。
「お前はどうしたいんだよ。誰も傷付けたくないってお前の優しさかもしれないけどかえって卑怯だ!」

風茉の言葉にショックを受ける咲十子は一生懸命考える。
その時、空を見上げるとピンクのラジコンが飛んで来た。
咲十子モノ『失恋して自分の気持ちの行き場を失って、
それでも用意された居場所があったからわたしが甘えてたの。
風茉君の真っすぐな気持ちに甘えてたの』

風茉を探し、咲十子は満面の笑顔で抱きつく。
「よ、よかった…笑ってくんなきゃ涙をのんでピンクにした意味がないとこだった」
風茉がそう言うと、咲十子は笑って告げる。
「あのね、最初よりずっと、一緒にいたくなってるよ」

486 :ディア マイン :04/05/13 13:14 ID:???
>453より

【五話】
咲十子親子が和久寺の屋敷で暮らし始めてから4ヶ月が経ち、季節は夏を迎えていた。
夏休み恒例の家族旅行に咲十子は風茉を誘う。
照れながらぶっきらぼうに「考えとく」という風茉。
そんな風茉を見て咲十子ママは、考え無しに仲良くするのは風茉に気の毒だと、やんわり咲十子に釘を刺す。
ママに言われたことを考えながら歩いていた咲十子は、風茉の前で階段を踏み外してしまう。
気絶した咲十子を運ぼうとするが、10才の風茉には難しい。
それをひょいとやってのける鋼を見て、風茉は落ち込んでしまう。
咲十子の足は軽い捻挫だった。
そこへ、ママがカメラを見付けたとやってくるが、
風茉は写真なんて嫌いだと部屋を出ていってしまう。
不思議がる咲十子に、風茉は昔、一度だけ写真を撮ったことがあると鋼は話し始めた。
風茉と母と母の部下の三人で撮った時、誰かが言った。
「真ん中で写真に写ると魂をぬかれる」
迷信だ。
しかし、数日後、真ん中に写っていた風茉の母は死んだ…
それを聞いた咲十子は、メイドと共に風茉の部屋を訪れる。
ドアが開いた瞬間、風茉と咲十子を真ん中に4人の写真を撮った。
「真ん中2人。魂ぬかれたって半分ずっこ」
そう言う咲十子に、風茉はばかと叫んで怒ってしまう。
次の日、無神経だったかなと反省する咲十子。
ふと空を見上げると虹が出ていた。
風茉が虹を見たがっていたのを思い出し、知らせる為風茉の部屋を訪れる。
部屋には誰もいなかったが、咲十子はあるモノを発見する。
風茉が買ったのであろう、旅行雑誌に荷造り済みのバック、
そしてあの時撮った写真が写真立てに飾られているのを…。

『「子供だから」を言い訳にしたくない。
お嫁さんになるかは、まだわからないけど、もっともっと沢山の風茉君を、今は知ってゆきたい。』


487 :ディア マイン :04/05/13 13:17 ID:???
【六話】
咲十子が、うたた寝から目覚めると、目の前に自分の日記を広げている風茉がいた。
プライバシーの侵害だと怒る咲十子。
けれどママは風茉君がそんなことするかなーとイマイチ信じてくれない。
そこへ鋼の双子の兄、九鉄(こてつ)が、一美(かずみ)という可愛い女の子と共に屋敷に現れる。
一美は10才、風茉のイトコで祖母が決めた二番目の許嫁だと自己紹介する。
風茉いじめをこよなく愛する一美だったが、風茉が咲十子の日記を盗み見た疑惑については否定する。

ママも一美も同じことを言う。自分が一番風茉を知らないのかと思い始める咲十子。
次の日、風茉は旅行の足にヘリを手配する。
咲十子は、空から見る夜景に思わず綺麗と喜んでしまう。
謝るくらいなら悪かったと思った分、喜ばそうとするのが風茉だと思い出した咲十子。(ラジコン参照)
そして、風茉は高所恐怖症で、盗み読みは誤解だと九鉄から聞かされる。
許してやれと、事の真相を話す九鉄。
風茉は、寝ていた咲十子のほっぺにチュウをして、落ちた日記を拾っただけだった…

488 :ディア マイン :04/05/13 13:20 ID:???
【七話】
前回の続き、山口に着いた咲十子達。
風茉は、ほっぺチュウがバレて気まずい中、咲十子に「気にしてない」と追い打ちをかけられる。
意識されてないことに、わかってた事とはいえ傷つく風茉。
元気のない風茉を心配し、咲十子は、アイスを買いに行く。
溶けないように走ってきてくれた咲十子にじーんとする風茉だったが、
皆の分もあると言われてしまう。
咲十子は皆の為に。俺は咲十子の為に…
気持ちの差に少し悲しげな表情を見せる風茉。

そこに突然、風茉の祖母が訪ねてきて、咲十子に風茉と別れろと告げる。
「あなたの為に、皆の為にお別れしなさい」
風茉は、目を閉じて咲十子の言葉を待った。
咲十子はいつも皆の為に考える。今回も承諾するのだろうと思いながら。
しかし、周囲の予想を裏切って「嫌です」と笑う咲十子。
風茉は、その言葉に目を見開き、そして祖母に言う。
「俺…っ、咲十子が好きなんだ…!好きなんだ。好きなんだ。好きなんだよっ」

『男として意識されてなくても、いまだ何とも思われてなくても。
そんなことわかってる。けどでも、それでも今の言葉は俺達の為だけに言ってくれた』


489 :ディア マイン :04/05/13 13:23 ID:???
【八話】
「いずれまた改めて伺いましょう」
そう言い、祖母は帰っていった。

やっとこさ観光に繰り出す咲十子達。
一美が風茉いじめを楽しんでる様子を見て、
咲十子は、一美が風茉を好きなのではと思い始める。
風茉に聞くが、「見てれば分かる」と返された。
鋼の前では、一人の可愛い女の子でいる一美に咲十子は納得する。
「そこまで自分をよく見せたいのかね」
借りてきたネコのように大人しい一美を見ながら風茉は呟く。
「そうゆうものよ」
咲十子は優しく微笑んだ。

「実は俺、気が気じゃなかった」
唐突に話し始める風茉。
祖母の言ったことや、一美が辛い思いするなら別れると言い出すんじゃないかと思っていたという。
「言わないよ。風茉君には自分が向き合ってゆくって決めたもの」
咲十子の言葉は、風茉の期待していた言葉とは違っていたが、
以前を思いおこし、大きな進歩だと受け止める風茉。
「風茉君が一美ちゃんと許嫁でいるのは、一美ちゃんが少しでも多く鋼さんに会えるように?」

照れて否定する風茉だったが、咲十子は笑って続ける。
「そうゆうの風茉君のいいところだよね」
「…そのいいところって好きなとこか?嫌いなとこか?」
「…すき…」
咲十子の口から強引ながらも『好き』の言葉を引き出し、満足な風茉だった。

325 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 19:49 ID:???
【九話】
小学生時代の親友、晃子の誕生日を祝いに、咲十子は屋敷を出て行く。
父の海外赴任により、晃子がNYへ行ってから、二人は文通を続けていた。
咲十子が、現在一人暮し中の晃子のアパートに着くと、晃子の彼はまだ来ていなかった。
晃子の彼は国見浩志、23才。あだ名は「おじさん」
一週間前に晃子が日射病で倒れた時、会社を休んで看病してくれるような優しい人。

チャイムが鳴りおじさんがやってきた。
しかし、開口一番「ごめん、休めなかった」との言葉に晃子は激怒。
おじさんは、何も言い訳せずに帰って行った。
程なくして、おじさんが落として行った携帯が鳴る。
「おじさんはいません!」
泣きながら出ると、相手は会社の同僚だった。
「もしかして国見の姪御さん?」
昼休みに抜け出して誕生日会の詫びを言いに行ったんだな、と納得する相手。
本当なら今日、休みの申請をしてたが、先週の看病の為に休みを変更してもらったのだと言う。
「だから責めないであげてね」そう言い電話は切れた。
晃子は、ショックを受ける。
「どうして姪っ子なんて言うのかな?わけも話してくれないのは、あたしが子供だからかな…」
涙する晃子に、咲十子は、一緒にお弁当を作っておじさんに渡そうと励ます。
アパートを出ると、おじさんが花束を抱えて待っていた。
咲十子は、今度は二人で私の家にもきて、と笑いかけて帰って行った。

晃子は、おじさんに弁当を渡して言う。
「美味しくできてたら もう子供扱いしないでね」
「…子供扱いなんかしたことないよ」
そう言って笑った恋人に、晃子は涙した。


326 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 19:59 ID:???
【十話】
一ヶ月が経ち、晃子とおじさんを屋敷に迎えることに。
二人を迎えに咲十子と風茉はバス停へ。
いい天気だから公園でお弁当食べようと皆で歩き出す。
風茉の態度から咲十子が好きな事を見てとると、晃子は風茉をからかう。
「早く大きくなんなくちゃね」
しかし、風茉は反論する。
「年齢や姿は関係なく想いは返してもらえるって、俺が信じてなかったら絶対叶わない」

生意気な態度の風茉に晃子はカンカン。咲十子に愚痴るが、逆に諭される。
「晃ちゃんにはわかってほしい。ちゃんと紹介したいから」

ベンチに誰かの忘れ物だろうグローブを見付け、おじさんは風茉に声をかける。
「キャッチボールやる?スッキリするよ」
おじさんがボールを投げたが、風茉はグローブを嵌めてない方の手でキャッチしてしまう。
慌ててジュースで冷やす風茉。その時、咲十子がバランスを崩して柵から落ちてしまう。
受け止めようとする風茉。しかし、おじさんに跳ね退けられ、助ける役を奪われてしまう。
「カッコ悪ィ…」
呟く風茉を、咲十子は抱きしめて泣いた。

屋敷に戻った四人。
風茉が和久寺の統帥だと知り、驚く二人。
「ただの風茉君を見て欲しかったの。手紙に書こうと思ったんだけど上手く伝わらない気がして」
その時、晃子の脳裏には、咲十子を受け止めようと出された風茉の手が浮かんだ。
「伝わったわよ。ごめんね風茉君…」

「どうしても晃ちゃんには風茉君を気に入ってもらいたかったの」
どうして?と聞いたのは風茉だった。
「実は風茉君は親同士の決めた婚約者なの」

『さらりといってのけた咲十子が、少し照れているように見えたのは、勘違いだったろうか』


327 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 20:08 ID:???
【十一話】
キャッチボールのボールを素手で取ってしまった風茉を思いだし、咲十子は思う。
風茉はひょっとして遊び方を知らないのではないか。
鋼は、当たり前のように頷く。幼い頃から英才教育に追われてそんな暇はなかったろうと。
咲十子は、子供らしく遊ぶ時間も必要だと考える。

鋼の誕生日プレゼントを買いに風茉と咲十子は、九鉄と共に店へ出かける。
何が欲しいと問う風茉に、鋼は毎年こう答えると言う。
「太陽から生まれるものなーんだ?ヒントはフランス」
ちっとも分からない咲十子に、風茉は解説する。
日から生まれる、星。フランス語でエトワール。
つまり、自分が和久寺の「新星」になることが一番のプレゼントだと言いたいのだろうと。
それでは、鋼にとって一番大事なのは風茉ではなく、
『優秀な跡継ぎの風茉』ということみたいで咲十子は悲しくなる。
買い物帰りに咲十子は、グローブを買おうと誘うが、
子供扱いするなと怒りを買ってしまい、咲十子は一人走って行った。
風茉は九鉄に「出来ないのが嫌なんだろう」と図星を指される。
「お前は賢いし、プライドが高いから自分の間違いを疑わないだろ。
鋼十郎の出したなぞなぞの答えが間違ってるかもって考えたことあるか?」

風茉は急いで屋敷へ帰った。
ルイ14世の通称は「太陽王」、先代のあだ名。太陽から生まれるもの…
「俺か?」
問い掛けた風茉に、鋼は優しく「はい」と笑いかけた。
そんな二人を見て、咲十子は安心する。
風茉は、咲十子にグローブのことを謝り、今度買いに行こうと言ってくれた。
けれど、既に買っていた咲十子だった。


328 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 20:10 ID:???
【十二話】
キャッチボールをしている風茉と鋼。
「上手くなりましたね」
「反省したからな」
好きな子には、いい所だけ見せていたいんだろって九鉄に図星を指され、
同じ台詞で人を非難したことがあると話す(一美のこと)
「言葉って自分に還ってくるんだな」
結局出来ないのも格好悪いけど、見せたくないと隠しておくのもやっぱり格好悪いんだ。
そう話す風茉に、脈絡なく「ホントに咲十子様が好きなんですね」と直球をぶつける鋼。
真っ赤になりながらウンと頷く風茉。それを聞いてしまう咲十子。
咲十子は、「日曜、文化祭があるから遊びにおいでよ」と風茉を誘った。

そして当日。
一美と一緒に来た風茉は、男子と制服をとっかえっこしている咲十子に嫉妬する。
咲十子もまた、お似合いに見える風茉と一美に嫉妬してる自分に気付く。
やきもちを焼いてしまった自分が恥ずかしくなって、急に走り出す咲十子。
風茉が心配して追って来た。
誰もいない階段の所で息を切らす二人。
「急にそんな気持ちになると思わなくて」
唐突にそんなことを言われて、風茉にはさっぱり意味が分からない。
「何かよく分かんないけど。俺、一美ひろってもう帰るよ」
「だめっ!まだ一緒にいて…お願い」
思わず風茉の手を握り、頼む咲十子だった。


329 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 20:12 ID:???
【十三話】
一緒に来ていた鋼と寿千代は、一美を見付け車で待つことに。

嫉妬したという事実にうろたえた咲十子は、顔も手も熱く、繋いだ手に汗をかいてきて恥ずかしがる。
風茉はずっと黙って座っていた。落ち着き払って余裕みたいで益々焦ってしまう。

「咲十子って基本的に理性的だから、あんなふうに感情的になって
甘えたりなんかしたことなかったじゃないか」
どういう意味か分かりかねる咲十子に「嬉しかったんだよ、ばか」と風茉は照れる。
『べとべとする手から伝わる気がする。見透かされてる気がする。
ばかなの。やきもちやいたの』

「風茉君を好きになったのって言ったらどうする…?」
咲十子の問いに風茉は傷ついた顔をする。
「もし本当にそうなったとしたら その言い方はずるくない?
俺の答えなんて聞かなくたってわかってるじゃないか
質問なんて狡いぞ そんな時まで俺に言わす気かよ」
風茉の言葉に逃げ出してしまう咲十子。

教室に戻り、着替えると、いくらか気持ちも落ち着いてきた。
風茉の元へ戻ると、待ちくたびれたのか、座ったまま眠っていた。
ふと、自分の寝顔にキスされたことを思い出す。
『気にしてないよ』
どうしてあんなことが言えたのだろう。
咲十子は、どきどきしながら、風茉に口づけたい衝動に駆られるが、ほっぺを触るのが精一杯。
狸寝入りしていた風茉は「ちっ」と舌打ちして咲十子を抱きしめる。
「さっき言ったことホントかなぁと思って」
「しっしらないっ」
真っ赤になって涙を零す咲十子を見て、風茉は嬉しそうに笑った。


330 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 20:14 ID:???
【十四話】
12月の昼下がり。ツリーの飾りづけをしていた所、一美が訪ねて来る。
パパに約束をドタキャンされたらしく、ご立腹だ。
一美の父は、風茉にとっては叔父で今は副社長を務めている。
風茉が跡取り息子としていられるのは、叔父と祖母が後見人になってくれてるからだという。

一美を迎えにやってきた父に、しばらく顔も見たくないと告げる一美。
仕方なし、一足早いクリスマスプレゼントだと、一美に靴を差し出し、帰っていった。

小憎たらしい位ジャストサイズの靴。
一美は、父は嘘つきだけど、自分と母のことはホントに好きでいてくれるから結局許してしまうと微笑む。
咲十子は、ママの受け売りだが、恋人の靴と指輪のサイズを知ってるのがイイ男なんだと教える。
そして二人は、愛のお返しをしようと計画を立てた。
クリスマスプレゼントに愛を込めて手編みのセーターを父にプレゼントした一美。
しかしそこには『愛ひとすじに…一美命』の文字が。
引き攣る顔の父だが、愛する娘の為、年始のパーティーに着て出る事を約束した。
風茉は大爆笑。咲十子は風茉にそっと耳打ちする。
「ホントはね、恋人の靴と指輪のサイズを知ってるのは、イイ男か よほどぬけめのない男なんだって」

咲十子は侮れない、改めて思う風茉だった。


331 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 20:17 ID:???
【十五話】
白いドレスに身を包んだ咲十子。手製で三ヶ月の苦心作だ。
これから風茉と共にお年始のパーティーに出掛けるのだが、風茉は心なしか元気がない。
ママがチューのひとつでもあげなさいとおどけるので、咲十子は投げキッスを。
それをお守りだと笑う風茉に咲十子は気付く。
風茉は親族に快く思われていないと言っていた。だから気が進まないのだろう。

会場で、咲十子は、皆が自分を見て笑っているように感じていた。
風茉は、挨拶まわりに離れて行き、咲十子は寿千代と二人で待つことに。

そこへ、一人の少女がやってきて咲十子に質問する。
「およめさん しょみん?はずかしいひとなの?」

自分が庶民の出だということを軽蔑され、
手づくりのドレスも笑われていたのだ。
その時、寿千代が食べ零した口で少女にタックル。少女のワンピースが染みになってしまう。
泣いてしまった少女を慰めながら染み抜きしてあげる咲十子は、気付いた。
風茉の元気がなかった訳は、自分の身を心配してくれていたからだと。

少女は、泣いてしまった咲十子を見て謝る。「なんで?」って聞いたから困ったの?と。
咲十子は、違うの、と微笑んで、染み抜きした所に自分作ったコサージュをつけてあげた。
嬉しそうに笑う少女だが、「これっててづくり?」の問いに、咲十子は答えられなかった。

『泣いたのは、あの家で優しく守られていただけの私が
「風茉君にとっての恥ずかしい人」になってしまうことにどうしようと思ったから』

パーティー会場に入れず、寿千代を抱きしめ泣いている咲十子に、一人晩酌をしていた女が声をかけてきた。


332 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 20:24 ID:???
【十六話】
女は、一美の母だった。上流社会なんて大嫌いだという彼女は、
ぶっきらぼうだが、優しく咲十子を慰めてくれた。

その頃、パーティー会場では、風茉が、少女の胸に飾られたコサージュに目敏く気が付き事情を聞いていた。
全てを聞き終えた風茉は、静かに怒りをあらわにする。
「その花も手づくりだ。恥ずかしいなんて思ってみろ 殺してやる…!」
更に、咲十子が泣いていたと聞き、風茉は怒りの余りワイングラスを握り潰す。
「いたい!」
少女が血だらけの手を見て叫ぶと、風茉は「傷付けられりゃ誰だって痛ぇよ」と怒る。
それは咲十子を傷付けてしまった自分への怒りだった。

咲十子を見付け、風茉は有無を言わさず帰ると腕をとる。
一美の母は、風茉に「うろたえるくらいならこんな所に連れてくるな」と釘をさす。
こうなることくらいわかってたと風茉は言う。
でも、咲十子が現実を見て、それでも負けないでいてくれたらと思ったのだ。
「それでも傷付けられると分かって咲十子が怯えたら、知って俺といられないと思ったら…
そう考えたら何も言えなかった。怖かったんだよっ」
泣きそうになる風茉を咲十子は抱きしめた。
怪我した手を心配し、優しく微笑む。
「私にもわけてね?つらいことも楽しいことも。一緒にいたいの」


333 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 20:43 ID:???
【十七話】
2月14日、風茉宛てにチョコが届いた。新年会で会ったあの少女からだった。
タイミング悪く、咲十子に見られてしまう。

『今年は正月からいいことがない。咲十子にだ。
いい思いなど一つもしなかったに違いないのに、咲十子はいつも笑っていた。』
年始会の後、風茉の包帯替えをしてくれたのは咲十子だった。
「ぎゅって握ったら駄目だよ。何か大事なものでも手の平に貼っとこうかしら」
「それなら咲十子だ」
そう言う風茉に、咲十子は、そっと自分の手を重ねた。
「握っちゃだめだよ」
『握り締めたかった。傷口なんか全部開いたっていい。痛くていい。
強く、強く、握り締めたかった』
「包帯替え、全部私がやるから他の人に触らせないでね?」
『俺ばっかり嬉しい。俺はいいことばっかりで、咲十子はいいことがなくて、咲十子ばっかり辛い。
俺だって何かしてやりたい。心から笑わせたい。喜ばせたい。』

その頃、咲十子は怒りながら晃子や一美にチョコ作りを教えていた。
咲十子が落とした指輪に、晃子は「シンデレラの指輪」と呟く。
亡くなった父に買ってもらった指輪をチェーンに通したものだ。
咲十子は覚えてないが、咲十子がそう言ってたと言われる。

仕事を終え、一人椅子に座りぼーっとしている風茉の頭上から、チョコの嵐が降って来た。
何でこんなに沢山?驚く風茉。
「他の人のチョコの味なんて忘れて欲しいもん」
「食わねーよ!咲十子がくれた以外のチョコなんて…」
風茉の言葉に顔を赤くする咲十子。
「どんどん我が儘になってくの。でも悪くないって思ってるの」
「悪い事じゃないよ。我が儘言ってくれよ」
更に赤くなった咲十子を見て、喜ばせられたかも、と風茉はほっとする。


334 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 21:02 ID:???
【十八話】
風茉が九日間の海外出張に出掛け、NYでは、一美が風茉の部屋を訪ねていた。
「九鉄に咲十子を誘惑しろと命令した」
一美の言葉に不安と怒りをぶつける風茉。
「好きな人に好きと言われてるあんたが何を不安がるの」
そういう問題じゃない、と言いかけ、風茉はあることに気付いてしまう。
好きだって言われたことが一度もないと。

一方、咲十子は気付いていた。一美は、自分が淋しい思いをしているだろうと、
気を紛らわせる為に九鉄を来させたのだと。
鋼秘蔵の風茉アルバムを二人で見ていると、咲十子は、一枚の写真に見覚えがあると言う。
南庭の温室。しかしそこは、三年前火事で焼失している。

夜、風茉は、咲十子に電話を入れる。
「俺、咲十子が好きだ」
しかし、咲十子からの言葉は期待したものではなかった。

次の日、咲十子は、九鉄と温室のあった所にきていた。
温室は、万里の趣味のバラ園だった。
亡くなった後、彼女を思い出すのが辛いと先代が火をつけたという噂があると九鉄は語る。
「風茉と一美のお守り役を決めた時、万里さんの側にいたくないから風茉は嫌だって言ったんだ」
万里を好きだったから。
「でも万里さんが事故で亡くなった時思った。側にいれば俺にも何かできたかもしれなかったって。
大事に育ててた花も守ってあげられたのかもしれない…」
辛そうな九鉄を見て咲十子は言う。
「今度は、守れるといいね。それで、幸せにしてもらえるといいよね」
咲十子の言葉に九鉄は笑い、こつんと咲十子の肩に頭を乗せた。
「あんた、いい子だね」


335 名前:ディアマイン[sage] 投稿日:04/06/02 21:06 ID:???
【十九話】
ふと、目をやると、庭先に、NYにいるはずの風茉の姿があった。
咲十子は、無邪気に喜ぶが、風茉は、ひどく傷付いた顔をして逃げ出した。
慌てて追う咲十子だけれど、表に待たせていた車に乗って、風茉は、どこかへ行ってしまう。
鋼に連絡をし、祖母の屋敷に行った事を知ると、急いで向かう。
早く謝らなくちゃと咲十子がおろおろしていると、ママは言う。
「悪いことなんてしてないのに謝ったって、謝るようなことしたのかって返されるだけよ」
どうしたら安心させてあげられるかを考えたら?
ママの言葉に咲十子は頷き、屋敷の中へ。
しかし、風茉は、咲十子を振り切ってどんどん逃げる。

『私が不安になる時はいつも、手を差し延べてくれた。側にいて、声をかけ、笑いかけ、見つめていてくれた。
風茉君の気持ちが私を追い掛けてきてくれたから』

突き当たりの部屋までやってくると、襖を閉められてしまう。

ごめんね、とやっぱり謝ってしまう咲十子に、ママの言うように、謝るようなことしたのかと返される。
そうじゃない、咲十子は、泣きながら言う。

「すき」
「風茉君すき」
「風茉君がすき」
「風茉君が好きなの」

泣きながら、言う咲十子に風茉も涙を見せた。

393 名前:ディアマイン 投稿日:04/06/06 02:27 ID:???
>335
【二十話】
出張から帰って一週間、風茉は熱を出して寝込んでいる。
「来週の誕生日プレゼント何か欲しいものある?」
咲十子が、様子見がてらやってきて聞くと、風茉は指を触ってもいいかと聞く。
「そんなの、了解なんかとらなくたって、風茉君にはもう許されてることじゃない」
言った咲十子も、言われた風茉も真っ赤になって俯いた。

その頃、一美が、長年の想いを鋼に打ち明ける為、九鉄に送ってもらって屋敷に来ていた。
九鉄は、そっと見守る。

咲十子は、晃子を誘ってプレゼント選びに出かける。
シンデレラの指輪の話になり、晃子から詳しく聞く。
「お城に落としたパパの形見の指輪を王子様が届けに来てくれた」
幼い頃の咲十子はそう言っていたらしいが、心当たりはない。
ママに確かめると、和久寺には二度程来たことがあると教えられる。
風茉に頼まれて黙っていたらしい。

一方の一美。
涙を溜めた一美を九鉄は優しく抱きしめる。
「子供だからって言わなかった。だからいいの」
何年も同じ顔が側にいるのに、一美は九鉄を一度も身代わりにしなかった。
「鋼十郎って呼んでもいいよ」
優しく微笑むが、一美はまだ諦めないと、九鉄の胸で泣いた。

咲十子は、風茉に事情を聞きに行く。どうして黙ってろなんて頼んだのか。
風茉は、王子様を知ってるといい、当時10才だった咲十子はそいつを好きだったと話す。
忘れてるならわざわざライバルなんて作りたくなかったから黙っててもらったと。
「ホントは。この位になってから咲十子と再会するつもりだった。ずっと待ってたんだ。
了解なんか取らずにどこまで許されてる?
俺、どこまでなら近づいてもいい…」


394 名前:ディアマイン 投稿日:04/06/06 02:29 ID:???
【最終話】
(前回の続き)
風茉は、熱を振り返し倒れてしまう。
〜風茉の夢〜
まだ二歳の風茉は、風邪を引いていた。
外は雪。そこに傘をさした母子を見つける。
女の子は、自分の傘を庭先に咲いていたひとつのチューリップに立て掛けてあげ、母と帰って行った。
風茉は、傘を拾い、チューリップを植木鉢に移して枕元に置いて眠った。
『あの子が暖かそうに見えたから』

目を覚ました風茉は、咲十子に過去の話を聞かせる。
自分は、気後れして上手く咲十子と話せなかった。
鋼と遊んでいる咲十子を遠巻きに見ていたと。

〜風茉の記憶〜
温室で風茉は、ふてくされて、いつの間にかうたた寝してたらしい。
目が覚めると、自分の服を風茉にかけ、一緒に寝ている咲十子がいた…
『やっぱり暖かい』

また眠りについた風茉を見届け、咲十子は部屋を出る。
鋼は、咲十子に話の続きを話してくれた。
七年前、咲十子に指輪を届けに行ったのは自分だった。
その時、風茉は言ったという。
「鋼が届けた方が、きっと喜ぶから」
温室のバラの中、手を刺で傷だらけにして見つけてくれたのは、風茉だったのに。


396 名前:ディアマイン 投稿日:04/06/06 02:30 ID:???
風茉の様子を見に行くと、ちょうど起きた風茉。
咲十子は気になっていたことを聞く。
「この位になってからって、もっと大きくなってから会いにくるつもりだったの?」
アクシデントさえなければそうだったと答える風茉。
「ずっと見守っていた。困ってることはないか、辛いことはないか」
咲十子は、鋼の言葉を思い出す。
『指輪を届ける時、もうひとつ風茉様から言えと言われた言葉が。“君を守るから”』

いつも、どこにいても守っていてくれた。咲十子の目には涙が浮かんでいた。

「熱、下がったね」

風茉の額と自分のをくっつけて確認すると、そっと口づけた。

〜風茉の記憶の前の出来事〜
温室で眠ってしまった風茉。ママが迎えに来てくれるが、咲十子は風茉が起きるまで待って帰ると言う。
「二年前、風茉君がチューリップ掘り出してお部屋に入れてくれたんだって。
雪の中でかわいそうだったの。でもね、本当はわたしみたいって思ったの。
だから、風茉君がお花に優しくしてくれたのが、自分にしてもらったみたいで すごく嬉しかったの。
だから、ずっと会ってみたくてね。
そしたら何か王子様みたいだから、照れちゃってまだお礼も言えてないや…」

『優しくしてくれたの嬉しかったの。会えて嬉しいの』

終わり