奇子/手塚治虫
158 :奇子1/2 :04/01/09 00:51 ID:???
第二次世界大戦終戦後、戦地から復員した天外仁朗(てんげじろう)。
出征中に天外家に奇子(あやこ)という少女が生まれたらしいが、
それは両親の娘では無く、仁朗の父が仁朗の兄の市朗の嫁である「すえ」
に手を出して産ませた子だった。仁朗は天外家の腐りきった人間関係に
驚愕する。
実はGHQの工作員でもあった仁朗。その事が奇子と天外家の使用人の娘
お涼にばれそうになり、事の露見を恐れた仁朗はお涼を殺害。
仁朗は警察の追手から逃亡、証拠を握る奇子は天外家の名を守る為にと
死亡届を出され、蔵に幽閉される。
閉鎖された環境の中で少女から女として育った奇子は、好意を抱いた男性とは
情交するものだという認識を持つようになり、実の兄である伺朗と関係してしまう。
いっぽう、仁朗は金城という男と手を組み、朝鮮戦争の混乱に乗じて裏社会のボスに成長し、
名前を祐天寺富夫と改名。奇子に祐天寺富夫名義で月に数十万単位の金額を送っていた。

だいたいここまでが話の前半部分、続きはまた後で。

159 :奇子書いた人 :04/01/09 01:11 ID:???
スマソ、ちょっと言葉足らずな部分をハケーンしたので補足。次からもっとちゃんと推敲しよう……。

>天外家の使用人の娘お涼
これはお涼が天外家の使用人という意味では無く、お涼の両親が天外家の使用人なのです。
ちなみに知的障碍児。

>奇子は、好意を抱いた男性とは情交するものだという認識を持つ
これだけ見ると結構普通ですが、彼女は男性に対する情愛と家族愛と友愛との区別がつかなく
なり、少しでも好きだと感じた男性には、例えそれが恋愛感情で無くとも関係を迫るようになるのです。

160 :マロン名無しさん :04/01/09 01:17 ID:???
確か食べ物とかと一緒に蔵の中に放り込んでた婦人雑誌の影響だっけか

216 :奇子2/4(←増えた…) :04/01/14 05:18 ID:???
 真面目な性格の伺朗は、天外家の犠牲になった奇子に同情しながら、実の妹である奇子と
関係した事に罪悪感を抱いていたが、近親相姦や不倫などで血脈を広げて行った
天外家の歴史を知り、やがて開き直り、何度も奇子と情交するようになる。

 そんななか、仁朗や奇子達の父親でもある、天外一族の長が死んでしまう。
土地こそ田舎であるものの、かなりの財産を持っている天外家。
それを自分が相続するために妻のすえを父親に差し出した市朗だが、遺書には
『遺産の八割は奇子の生みの母親に譲る』と書かれていた。
(ちなみに一族の人間は一部を除き奇子の母親はすえではなく、仁朗達と同じ母親であると認識している)
市朗はすえに財産をよこせと詰め寄るがすえはそれを拒み、財産を持って奇子とともに天外家を離れると言う。
財産を得るため市朗はすえを殺し、他の者にバレないよう死体を肥溜めに棄てた。
 
 数年経ち、公共事業のための土地の買収で奇子が幽閉されている蔵も取り壊される事となる。
伺朗は大きな行李の中に奇子を隠し、他の荷物とともに運び出す事で奇子をこっそり蔵から脱出させる事に成功。
その頃には祐天寺(仁朗の偽名)が毎月奇子宛に送った仕送りも四、五千万に達しており、
この金で奇子に良い暮らしをさせてやれると伺朗は喜ぶが、長い間蔵で過ごしていた奇子は
外の世界を恐れ、これまでいた蔵に戻りたいと言い行李の中に閉じこもってしまった。
 伺朗はそんな奇子を哀れむとともに彼女の人生をゆがめた天外一族の人間達に憎悪を抱く。

217 :奇子3/4 :04/01/14 05:21 ID:???
その翌朝、奇子の姿がどこにも無い。里じゅうを捜しまわったが見つからなかった。
その頃奇子は運送屋の荷物に紛れ、仕送りの住所を頼りに東京にいる祐天寺富夫(仁朗)
のもとへ向かっていた。二十数年ぶりに奇子と再会した祐天寺は奇子をここで養う事にする。
祐天寺の正体が分らない奇子は彼の優しい態度に戸惑うが、やがて彼に心を開いていく。

 ある日祐天寺邸を抜け出し外を散策していた奇子は、検察官の青年の下田波奈夫(げた はなお)
と出逢い、誠実な性格の波奈夫を『好きになった』奇子は出逢ったその日に波奈夫と関係する。
何回かデートを重ね、奇子の不幸な境遇を知った波奈夫は“きっと幸福にしてみせる”と言い、
奇子と同棲する事を祐天寺に直接願い出る。
祐天寺は自分が自由に出入りできる事などを条件に、二人に別荘を貸し与え同棲する事を許可した。

 数日後祐天寺は二人の様子を視察しに行った帰りに、乗っていた車を銃撃され重傷を追う。
生死の境を彷徨いながらもなんとか回復した祐天寺。しかし事件の犯人はなんと朝鮮戦争の時に祐天寺と
手を組み、今は彼の部下である金城だった。金城も実はGHQの工作員で、祐天寺が過去に任務として
関った事件の後始末の為に、当時の関係者である祐天寺を消すつもりだったのだ。
祐天寺は金城に組織の目的を問い質そうとするが殺してしまい、殺人容疑で指名手配される。

 祐天寺は故郷の天外家に逃亡、市朗達は彼を一族の隠れ場所へ匿い、伺朗は隠れ場所に物資を運ぶ
トラックの運転中に、祐天寺を自首させるために追って来た奇子と波奈夫に遭遇。
二人も隠れ場所に行く事となる。

218 :奇子4/4 :04/01/14 05:23 ID:???
 隠れ場所は山中にある貯蔵庫として使っている洞窟であった。逃げ出したはずの奇子と再会し驚く一族達。
波奈夫は、一族に祐天寺を匿う事を止めるよう説得するも、世間体を気にした一族はそれを拒む。
それを聞いた伺朗は二十数年前に天外家を守るために一族が奇子を犠牲にした事を話にあげ、
祐天寺(仁朗)がお涼を殺した事、市朗が妻のすえを殺した事も問い質す。
そして自分もその立場であると認めた上で伺朗は一族に、これまで虐げて来た事に対しての謝罪を奇子にしろと要求する。しかし皆、自分本意で(伺朗や波奈夫以外に)奇子の事を省みる者はいなかった。

 怒った伺朗は隠し持っていたダイナマイトで洞窟の入り口を爆破。
発破で土砂が崩れ、入り口が塞がれてしまう。そして伺朗も土砂の生き埋めとなり、
「発破音は外には聞こえない。奇子に謝りさえすればこうするつもりはなかった」
「実の兄貴だが、お前(奇子)が愛しかった。闇はお前の世界だ生き延びろよ」と言い残し絶命。

 生き残った他の者は穴を掘って脱出を試みるが、どこを掘ってもすぐに土砂が崩れ穴が塞がれてしまう。
「フフ…フフフフ…アハハハ…ハーハハハ…」
脱出不可能と言う絶望的状況の中、何故かただひとり奇子だけが声をあげて嬉しそうに笑う。
「奇子……こわくない。ここ好きよ。奇子の部屋とおんなじだもの」
「あの土蔵の下か」
「奇子の笑ってるわけがわかりますよ。奇子は復讐してるんだ。ニ十何年もの閉ざされた恐怖を……
いまのみんなが味わっているんで奇子には満足なんだ、それで笑うんですよ。」

 警察や村民達による奇子達の捜索は夜に日を次いで行われたが、数週間経っても見つからない。
ある日ついに偶然の発掘でみんなは発見されたが、殆どが虫の息か死亡したいた。
が、しかし奇子だけは幽かに微笑みさえ浮かべながら、死体の群れのそばで生き残っていた…。

 その後、奇子は(洞窟に行かず生き残った)天外一族に引き取られたが、間もなく失踪。
そしてその後の奇子の伝聞はぷっつりと途絶え、消息不明である。
                                      《了》