アリスにお願い/岩館真理子
197 名前:未解決リスト 投稿日:04/06/28 16:02 ID:???
『アリスにお願い』 岩館真理子 著
集英社YOUNG YOU
1990年度作品 全3話
1996年 文庫化
同時収録作品
『白いサテンのリボン』『眠るテレフォン』

200 名前:アリスにお願い(1) 投稿日:04/06/29 01:01 ID:???
美名子は田舎町で暮らす高校生。
五年前、両親とドライブ中に事故に遇い、一人だけ軽傷だった美名子は、親戚の村上家に預けられた。
村上家には、実家を離れ東京の大学へ通う信と、地元の大学生である克利の兄弟がいる。
そしてもう一人、江利子という妹がいた。
五年前の雨の日。
江利子と仲間の子供達は、遊び場にしていた川沿いの斜面に建つ小屋で土砂崩れに遇った。
他の子供達の遺体は見付かったが、川に流されたのか、江利子だけが行方不明のままだ。
小屋には外から鍵がかけられていた。
両親が亡くなった美名子は、女の子のいなくなった村上家の養女となり、幸せに暮らしていた。
だが、町が開発される事になり変わってしまう前にと帰省した信が、事件の真相を探り始める。
信が疑っているのは、当時の子供達のリーダー格だった混血の美少女、佐川アリス。
信と克利と三人で川沿いへドライブに出た美名子は、事件の記憶をたぐり始める…
当時、よそ者で村上家の居候だった美名子はいじめられていた。
小屋の鍵は、アリスが持っていた。
あの雨の日、小学校からの帰り道、小屋へ急いでいた美名子は、前を歩くアリスを見つけた。
集合時間に遅れると、三時間も小屋に閉じ込められる“罰”が待っていた。
美名子はなーんだ、アリスも遅れたんじゃない。今日の罰は私とアリスだと思った。
何と無く声をかけずに後を歩き、小屋に着いた美名子は、アリスが鍵をかけて立ち去るのを見た。
その時、土砂崩れが起き、小屋は飲み込まれていった…
それ以来、いじめっ子だったアリスは優しくなり、今では美名子の親友だ。
あの日の記憶は、美名子の忘れたい記憶をも呼び醒ます。
――あれは事故。誰もあんな事になるなんて思わなかった。
そして私はこの家に…でも、江利子ちゃん程の大切な存在にはなれない。
私のお願いなんて、神様はいつも聞いてくれない――
知ってる?美名子ちゃんの事。
美名子ちゃんのお父さんとお母さんて、すごく仲が悪くて喧嘩ばかりしてるんだよ。
今度の事故だって、ただの事故じゃなくて、無理心中なんじゃないか、って言ってたよ、うちの親
何も知らないのに勝手な事言わないで!あれは事故よ!
――勝手な事言わないで、江利子ちゃん――
続く

202 名前:アリスにお願い(2) 投稿日:04/06/29 02:35 ID:???
小屋を建てた老人は既に亡くなっていたが、信はその娘から、小屋には扉以外の出口があったかもしれない、と聞く。
信は抜け道の途中に江利子の遺体があるのではと考えるが、美名子もアリスも、他の出口は知らないと言う。
ある日、風邪で休んだアリスを見舞った美名子は、外に連れ出される。
美名子、あなたが江利子ちゃんが死ぬのを望んでいたから、だから、私がそうしてあげたのよ。
あなたのお願いを、私が聞いてあげたのよ。わかってる?
何も頼んでいないと叫ぶ美名子に、アリスは冗談だと言う。
忘れたの?あの子は誰かに突き落とされたのよ、川へ。そうでしょう?江利子ちゃんの体は、私がどこかへ隠した
アリスは頭がおかしいのよ!普通じゃない!私は何にも知らない!土砂で小屋が崩れるのを見ただけよ!

江利子の命日。花束を持って川に出かけた美名子は、川べりで座り込み、事件を思い出していた。
あの日、美名子はアリスの鞄から落ちた鍵を拾い、わざと遅れて小屋に行き、鍵をかけた。
中から開けてよ〜と声がしたが、開けなかった。
その時、土砂崩れが起こった。驚く美名子の後ろに、江利子がいた。
人、呼んでこなくちゃ!
駆け出した江利子を、美名子は追いかけた。振り向いた江利子は咎めるような目をしていた。
どうして鍵をかけたの?鍵かけなかったら、みんな逃げられたかもしれないのに
――みんなには言わないで。言ったら私はどうなるの?
あの家にいられなくなるの?そうしたら、どこへ行けばいいの?――

今、私が後ろから押したら、美名子は川に落ちちゃうわね
いつのまにか、美名子の後ろにアリスが立っていた。
こうやってアリスは美名子の肩に手をかける。
右手だけで簡単に、美名子は江利子ちゃんを川に落としたの。
…どうして?

小屋には、アリスだけが知る秘密の出口があった。
事件の日、小屋の中にいたアリスは抜け道を通って難を逃れた。
裏の横穴から出た時、二人が見えた。江利子ちゃんが川へ落ちていくのを見た。
ねぇ美名子、私はあの日から、何度も何度も同じ現実を見続けているの。
少しずつ、お人形のようになっていく江利子ちゃんを…
続く

204 名前:アリスにお願い(3) 投稿日:04/06/29 03:46 ID:???
美名子が去った後、アリスは流されてゆく江利子を追いかけたのだった。
江利子ちゃんは私を試すように川を流れていくの。
美名子は何の罪も無い顔をして、自分の殺した女の子の家族の中で、愛されて、同情されて。
あの家族の中でそんなふうに暮らせるなんて、美名子は何て残酷な子なんだろう。
全て私がやったように思わせて、私の事を好きなふりをして暮らしていけるなんて…
信さん達に本当の事を知られるぐらいなら、死んだ方がいい。アリスが私を殺せばいいわ
美名子が私を殺せばいいのよ言いながら、アリスは川へ入って行く。
本当はあの時、私も死んでしまえばよかったって思っているんでしょう?
そうよ…アリスなんて死んじゃえばよかったのよ!
みんな…私も、江利子ちゃんも、みんな…アリスの事、嫌ってたわ!
言いながら、美名子の心に不思議な感情が湧き上がる。
――アリスのようになりたかった。綺麗で、我が儘で、幸せで、残酷な、何でもできる、特別な女の子
アリスは私の、特別な女の子――
美名子はアリスの背中に抱きつき、謝る。
ごめんなさい、アリス。私、罰を受けるから…
背中に美名子の涙を感じながら、アリスは呟く。
私は美名子のこと、好きだったわ。一番仲良くなりたかった
振り向いたアリスは泣いていた。
こんな大切な秘密を人に言う気なんて無いわ。私と美名子の、二人だけの秘密だもの。
私達の罰は、誰にも言えない秘密を共有する事。大人になってもずっと…二人だけの秘密を持ち続ける事…
瞬きもせず、真っ直ぐな瞳でアリスは美名子を見つめる。
翌朝。普通に挨拶を交し、二人は登校する。
同じ日の昼、美名子達のもう一つの遊び場だった廃遊園地が開発のため、取り壊される。
回転木馬の下の地面から、江利子の遺体が発見され、その晩、アリスは川で死んだ。
秘密は、永遠に鍵をかけられたのだった。
終わり

201 名前:マロン名無しさん 投稿日:04/06/29 02:16 ID:???
>一人だけ軽傷だった
両親は死んだってこと?

203 名前:マロン名無しさん 投稿日:04/06/29 02:39 ID:???
>201
事故の時点では美名子の両親は重症で、その後亡くなったのです。