赤ちゃんと僕/羅川真里茂
178 名前:赤ちゃんと僕1 投稿日:04/12/23 04:37:31 ID:???
羅川真里茂(らがわ・まりも) 花とゆめコミックス『赤ちゃんと僕』 全18巻(文庫版全10巻)

<主な登場人物>
榎木拓也 榎木家長男。小学生。亡くなった母に代わり、家事に育児に奮闘する。
榎木実 榎木家次男。保育園児。泣き虫。ワガママ。拓也をとても慕っている。
榎木春美 拓也と実の父。システムエンジニア。由加子とは学生結婚。
榎木由加子 拓也と実の母。交通事故により若くして他界。

後藤正 通称ゴンちゃん。拓也の同級生で親友。明るく楽しいナイス・ガイ。実と年の近い妹がいる。
藤井昭広 拓也の同級生。クール。大家族。実と年の近い弟と妹がいる。本人は6人兄弟の4番目。


榎木拓也は小学5年生。母を交通事故で亡くし、保育園児の弟・実の世話に家事に忙殺される日々。
小学校には実と同じくらいの年の弟や妹を持つ友達もいて何かと力になってくれるけど、人一倍
甘えん坊で泣き虫の実に拓也や父春美(はるみ)も手を焼いている現状だ。
拓也は思う。友達は皆自由に遊んだり習い事をしたりできるのになぜ僕だけこんな窮屈でツライ思いを
しなくちゃいけないんだろう。実は可愛いけど時々疎ましいよ。実は僕の、君主じゃないんだぞ──。

ある日、実は母親に甘える友達をぶってしまう。拓也は亡き母を悪く言われ悔しくて思わず実に当たる。
しかし拓也はふと気がつく。実は母が恋しいんだと。「そうだ。実はママに甘えたことがないんだ…」

拓也は友人の玉館からクリスマスパーティーに招待される。泣いてすがる実を振り切って来たものの
なぜか少しもパーティーが楽しくない。頭の中では実の泣き顔がグルグル回り、胸がチクチク痛む。
結局パーティーを早退してしまう拓也。「なんか…分かんないけど…、違うカンジがする」


179 名前:赤ちゃんと僕2 投稿日:04/12/23 04:38:33 ID:???
拓也は声変わりが始まる。喉の違和感とともに少しずつ大人になる自分に気恥ずかしさを覚える。
一方、実は拓也の手を借りずにひとりで着替えができるようになる。みんなどんどん変わっていく。
実の成長が嬉しくもあり、少し寂しくもあり。「実にはさあ、きっともう僕なんか必要なくなるんだよね」

実ご贔屓の『洗濯戦隊シャボンファイブ』がデパート屋上でショーをするらしい。ヒーローに会える
喜びと期待に胸躍らせる実。ところがなんとシャボンファイブには中の人が……!!衝撃の事実と
受け入れられない現実に実は落ち込む。拓也はそんな実を励まそうとシャボンファイブの人形を作る。
「お兄ちゃんはシャボンファイブいると思うよ」

榎木家の向かいに住む木村家に一人息子の成一が帰ってくる。6年前に高校を中退して家出したきり
姿を見せなかった問題児がきちんと職を得て妻子を連れてきたのだ。はじめは、過去のわだかまりが
あったものの無事仲直り。「クリスマスの夜に嫁と孫が一緒にできるなんて、こんな嬉しいことはないよ」

榎木家に成一が息子の太一を連れてやってくる。いつもは独占できる兄拓也と父春美を取れられて
ご機嫌斜めの実。しかしみんなに「おにいちゃん」と呼ばれ気分は一気に有頂天。それまでのやきもちも
吹っ飛び、甲斐甲斐しく太一の面倒をみる。僕は太一のおにいちゃん。その素晴らしい響きに照れる実。

おたふくかぜをひいてしまう拓也。なんとか忙しい仕事の合間をぬって看病を続ける春美だが、実も
順番にうつされてしまい、疲労とストレスはピークになる。精力剤を大量に買い込み、危機を乗りきる
春美。「こんな時…母親の存在の大きさを痛感するよ…。父親なんて…」


180 名前:赤ちゃんと僕3 投稿日:04/12/23 04:39:22 ID:???
ある日、デパートで食事をする榎木一家。ふと気づくと周囲から注目されている実の食事マナー。
「見てよあの子、何なのあんな汚い食べ方、母親は何をしてるのかしらね」拓也はショックを受ける。
その一件以来どうしても実の食べ方が気になって仕方がない拓也。いつも通りの食べ方がなんとなく
汚く思えてしまう。実は突然厳しく躾けるようになった拓也に戸惑う。家族の団欒の場は一気に暗くなり
空気が張り詰める。そして今日もまたオカズをこぼす実を拓也は叱る。いきなり拓也の手に噛みつく実。
それは言葉がまだ上手に操れない実の精一杯の抗議。加えて拓也の期待に応えられない不甲斐ない
自分への苛立ちでもあった。拓也はあまりに神経過敏になり過ぎて実を追い詰めていたことを悟る。

実は春美に電動ミニ自動車を買ってもらいとってもご機嫌。ところがイヤイヤ貸した太一に大事な車を
壊され、実は大ショック。拓也は「お兄ちゃんなんだから我慢しろ」と言いつつも、奥歯をかみ締めて
こらえる実の姿に過去の自分をダブらせる。

両親が離婚し、父親と二人暮らしの宮前は同じく母親のいない拓也に友達になろうと誘いかける。
拓也は快く承諾するが「仲間意識が持てる」という宮前に何か言いようのない嫌悪感を覚える。
宮前と話すたび、その言葉の端々に自分への侮蔑が含まれているような気がして、気が滅入る拓也。
「お前のがずっと可哀相だよなー」
そんな折、拓也は塾講師の寛野と会う。拓也から相談を受けた寛野はまるでふたりのやりとりを
その場で見ていたかのように語り出す。友人関係にもメリットが必要なのだと。
「人間関係は案外些細な事で支え合っているのかもしれないよ」


181 名前:赤ちゃんと僕4 投稿日:04/12/23 04:40:21 ID:???
宮前は突然振りかかった不幸から逃げるように自分と同じ、むしろ自分より可哀相な人間として拓也を
見ることで安心感を得るようになる。逆に、宮前に会うたびに精神的に苦痛を感じていた拓也はとうとう
耐え切れなくなり、極度のストレスと人間関係に対する不安感から倒れてしまう。
胃炎のため自宅で静養する拓也に寛野は手紙でアドバイスする。一方、宮前はどんなに自分と拓也を
比べても何処となく空虚で何かすっきりしない思いをもてあます。そんなとき藤井に心の弱さを指摘され
今まで避けてきた現実を見つめなおした宮前は、ようやく本物の安らぎを感じるようになる。
その日の夜これまでの非礼を詫びようと拓也の家をめざして駆ける宮前の姿があった。
「心の辛さを打ち明けるのと、言ってしまってカドが立つことは違うんだよ」

花見の席で偶然顔を合わせる拓也、ゴン、藤井、熊出、中西亜由子、深谷しな子、槍溝愛の男女7人。
女子3人の共通点は好きな人がみんな一緒だということ。既知のゴンと気づく藤井と気づかない拓也。
ゴンと藤井の会話をなんとなく盗み聞きし、思わぬ事実を知った熊出は嫉妬するあまり当事者たちの
目の前でその秘密を暴露してしまう。ここにいる女は皆――。
花見の一件以来、モヤモヤした気分がどうにも拭えない拓也。その最大の理由は初恋の相手だった
槍溝にふられた親友のゴンが真実を知っていながら、今まで通り自分に接していてくれたことにあった。
さらにゴンは槍溝の口から直接好きな人として自分の名前を告げられたのだと知ると、拓也の困惑は
槍溝への八つ当たりという形で現れてしまう。無神経だと槍溝を責める拓也にその場にいた深谷が
反論する。拓也が怒るのはただ自分が困っているからにすぎない、女の子の気持ちもわかってほしいと。
心の底を見透かされたようなその言葉を上手く受け止めきれない拓也は投げやりな言葉を残してその場
から逃げ出すことしかできない。「――僕…今は女の子の事なんて考えられない。面倒くさいよ!!」

182 名前:赤ちゃんと僕5 投稿日:04/12/23 04:41:05 ID:???
お気に入りのクマのプリント服を汚くなったからと捨てられ、グズる実。翌日春美がクマの描かれた
新品を買ってくるが、成一に「女の子用の服だ」とからかわれ実は目に涙を溜める。実のいちばん好きな
クマさんを買おうと出かける拓也と実だが、なかなかいいものが見つからない。不機嫌になった実は遂に
泣き出してしまう。実は拓也がいくら宥めすかしても泣き止もうとせず、とうとう雑踏の中で立ち止まって
しまった。泣き声の音量はどんどん増すばかり。周囲から漏れるクスクス笑い。拓也はうんざりする。
結局嫌な思いをするのはいつだって自分。いいかげん実のワガママにつき合わされるのは御免だよ。
「じゃあ裸でそこにいれば?ばいばい、実なんか大っ嫌いだからねっ」
拓也は泣き喚く実を背にしてすたすたと先を歩く。拓也は知っていた。自分が怒ると実は一生懸命追い
かけてくることを。放っておいたって実はきっとついてくる…。
そのとき「ドンッ!」という嫌な音が背後から聞こえる。「子どもが轢かれた、救急車を呼んで」
そう叫び声が飛ぶ。恐る恐る近づく拓也は人込みの中に血だまりを見つけ、目の前が真っ白になる。
涙を流しながら横たわり動かないままのちいさな子ども――実の姿をそこに観止めたから。

病院に搬送された実は緊急手術を受ける。一報を聞き駆けつけた春美に拓也は抱きつき泣きながら謝る。
春美は泣き崩れる拓也を気遣いながら過去に思いを馳せる。5時間32分。手術に要した時間は長かった。
拓也は泣きすぎて頭が痛くなり安静室を与えられる。実の夢を見る。必死に自分の後を追う可愛い弟の姿。
手を伸ばしても決して届かない。実と距離が縮まらない。実が僕の名前を呼んでいるのに。どうして?
ねぇ、僕は実に最後なんて言った?「じゃあ裸でそこにいれば?ばいばい、実なんか大っ嫌いだからねっ」
ダイッキライダカラネ……

183 名前:赤ちゃんと僕6 投稿日:04/12/23 04:42:05 ID:???
病院に成一夫妻が来る。成一は自分の軽はずみな一言が兄弟の喧嘩の発端になったのだと告げる。
春美は言う。「成一。こういう状態になると大抵の人が考えるんだ。どうしてあんな事を言ったんだろうと、
もっと色んなことをしてあげたかったと、もっともっと語り合えたはずだと」
病院の待合席で座り込む春美に担当の医師(春美の大学以来の友人)が話しかける。春美ははじめて
心の内を吐露する。「両親と妻を奪った交通事故が今度は愛息を奪おうとしている。なんでなんだ…!」
運命なのか……と口にする春美に医師は力強く語る。俺が信じるのは人間である運命なんだと。
人の生き死ににもし運命があるのならそれに関わっている医療は全ての運命の流れに抵抗している
ことになるんだよ。最後まで望みを捨てるな。俺はいつも思っている。生という思いにしがみ付いてくれ。
生きたいのなら最後の最後まで抗ってくれと。最後まで生きたいのなら抗って、抗って、闘って──。

手術から3日目、実の容態が悪化する。拓也はICUの外のソファに座りながらバタバタと慌しく走り回る
看護士らをまるで他人事のように感じる。実の顔や仕草をひとつひとつ思い起こそうとする。そんなとき
ふいに母の幻が浮かぶ。それは実が生まれたときの幸せな映像。病院の屋上にいる春美は亡き両親と
妻の幻影を見る。幻の父はなんとも穏やかな表情をしている。

ベッドの上で昏睡状態の実もまた母と会う。写真でしか見たことのない瞼の母。とてもとても優しい顔で
微笑んで、こっちよと手招きしている。「一緒にいるから元来た道に戻りましょう」

184 名前:赤ちゃんと僕7 投稿日:04/12/23 04:42:57 ID:???
一方、現実世界では手術が佳境を向かえる。実の心拍が止まり、医師が家族を呼ぶようにと伝えたとき、
奇跡的に実の心拍が再び動き出す。手術が終了し、ICUの扉が開く。拓也と春美の前には目を開けて
拓也の名前を呼びながら泣いている実がいた……。
最後まで生きたいのなら抗って、抗って、闘って。忘れないで、自分の為と、そして待っている人の為に。

季節は巡り、新しい春がやって来る。実は事故の後遺症もなく元気だ。最近ちょっぴり大人になって
またすこしワガママに磨きがかかった。今日は拓也の中学校の入学式。真新しい制服に身を包む拓也。
慌しく出かける3人に天国の母からいってらっしゃいと声がきこえる。
                                              <了>

<おまけ>
本編中で削った主なエピソード。(順不同)
・クラス対抗野球大会。修学旅行。バレンタイン・デー。
・父春美と母由加子の馴れ初め秘話。春美のお見合い。
・大家族藤井家の行事(花火大会、クリスマス、大晦日、誕生日)。
・痴呆老人との交流。捨て犬コロ。育児ノイローゼの若妻。サラ金。銀行強盗。