フレッドウォード氏のアヒル/牛島慶子
260 :マロン名無しさん :04/04/11 18:33 ID:???
では『フレッドウォード氏のアヒル』
牛島慶子 1991〜1995年
角川ASUKA 全9巻
飛び飛びになるかと思いますが、やらせていただきます。
モノローグが多いのでうまくまとめられるか不安ですが…
【主要キャラ】
・エリオド・ナノク=ケビン・フレッドウォード(♂)…主人公。人気サスペンス作家。推定25〜30位(明記なし)
・ローズマリー(♀)…スーパー家政婦。年齢不詳。
・エスメラルダ(♀)…「世界の宝石」と称されるスーパーモデル。元名門貴族の娘で、気位が高く我が侭。2巻〜
・リチャード・G・ブラックウェル(♂)…ブラックウェル財団社長。2巻〜
・シェリル・リード(♀)…ケビンが避暑地で出会った高校生。バレエを習っている。3巻〜
・マーク・リバー(♂)…ケビンの旧友。3巻〜
・ニック・ギャラガーJr.(♂)…ケビンの旧友の忘れ形見。3巻〜
・グロリア・デンシャム(♀)…背が高く、男まさりで優秀な医師。3巻〜
ストーリーはまた夜に…

298 :フレッドウォード氏のアヒル 1 :04/04/12 00:08 ID:???
第1話 フレッドウォード氏のアヒル(前)
都会の喧騒を離れ、静かな田舎町に移り住んだサスペンス作家エリオド・ナノクの元に、依頼していた家政婦が訪れる。
ローズマリーと名乗るその家政婦は、なんと喋るアヒル。
荒れ放題の家を見たローズマリーに「試しに三日間私を雇ってみなさい」と言われたエリオドは、すっかりそのエキスパートぶりの虜に。
夕食時、ローズマリーに本名を聞かれたエリオドは、辛そうに「名前は捨てた」と語る。
二ヶ月前、7歳の少年がエリオドの著作を真似て級友を射殺する事件があった。
被害者の母親に「人殺し」と罵られ、「ペンの殺人鬼」と騒がれたエリオドは、逃げる様に田舎に移ったのだった。
辛いのは著作が殺人に使われた事ではなく、夜毎新しい殺人方法を考える自分の生活に嫌気がさしているのに、
人気と金を失うのが怖くて、そこから抜け出せないでいる己の弱さだ――と、眠れぬ夜を過ごした次の日。
ローズマリーが運んできた湯気のたちのぼる朝食を見て、エリオドは
「10年前なら、こんな朝食の為なら何だってやっただろうな」と過去を語る。

299 :フレッドウォード氏のアヒル 2 :04/04/12 00:10 ID:???
第1話 フレッドウォード氏のアヒル(後)
作家への夢を父親に反対されて家出をし、危ない橋を渡りながらも夢を叶えたが…
エリオド・ナノクとはCONAN・DOYLEの逆読み(悪魔のする不吉な事とされる)であり、
「お陰で本当に魅入られたみたいだね。
童話なんかも書いてみたかったんだけどさ、実際………
似合わねェだろ。俺になんか、似合うわけねェよな…」と悲し気なエリオド。
傷心のエリオドを何とか元気付けたいと思ったローズマリーは、彼を散歩に連れ出す。
動物達との出会いにエリオドは、忘れていた童話的な「暖かさ」を思い出す。
ある朝エリオドはローズマリーに、もうサスペンスは書かないと決心した事、
童話を書いて新しい出版社に本名で送った事を告げる。
「ケビン・フレッドウォード。これが俺の名前」
「なんて素敵な名前!!さっそくお祝いしなくちゃ!」
こうして、ケビンとローズマリーの生活が始まった。

303 :フレッドウォード氏のアヒル 3 :04/04/12 02:36 ID:???
第2話 神様 ぼくをお守り下さい
ある日町に出たケビンは、子供のリンチを目撃する。
昔そんな世界に身を置いていたケビンは、見慣れた事だとそのまま帰宅する。
翌日も町に出たケビンは、リンチされた少年・クリフを見かけ、気まぐれに昼食を奢る。
クリフは最近流れてきた娼婦の息子で、町で噂になっていた。
メニューを持ったままのクリフにケビンは、彼が読み書きが出来ない事を知る。
自分を慕って家まで訪ねて来たクリフの瞳が、子供の頃、自分がやはり気まぐれに拾った仔猫
(飼う事が出来ず、拾った日に捨てた)と同じだと思ったケビンは
クリフの為に綴り方の本を用意しながらも渡せず、冷たくあたるが、彼は毎日通って来る。
ある日、やっとの想いで脱稿した原稿に落書きをされたケビンはカッとなり、クリフに「出て行け。二度と来るな」と言ってしまう。
泣きながらクリフが去った後、ローズマリーが、明日の始発で母親とクリフがこの町を出る事を告げる。
遣りきれず部屋に戻ったケビンは、原稿の落書きが「KEVIN」 なのを発見し、
「自分のを覚える前に俺のスペルを覚えたのか」と愕然とする。
翌朝ケビンは、ランチボックスと綴り方の本を持ってクリフの見送りに行き、列車の窓から手渡す。
本を握り絞めて「オレ、あんたの事大っ嫌いだ!!」と叫ぶクリフの額に、ケビンは優しくキスを返す。
「さよなら、クリフ」動き出す列車。
モノローグ「神様 彼をお守りください。神様 ぼくをお守りください」

309 :フレッドウォード氏のアヒル 4 :04/04/12 18:36 ID:???
第3話 カーニバルの少女
初秋。喫煙が過ぎるとローズマリーに散歩を勧められたケビンは、沼のほとりで踊る一人の少女に出会う。
彼女はサリーと名乗り、ジプシーのダンサーで、カーニバルの間だけ町に居ると言う。
何度か会う内にケビンはサリーに惹かれていくが、彼女の姿はケビンにしか見えない。
二人で沼のボートに乗っていると、サリーは
「昔、ジプシーのダンサーに叶わぬ恋をして、この沼に身を投げた修道女がいたの」
と語り、ボートから忽然と姿を消す。
昔、沼のほとりには修道院が建っており、実はサリーこそが
その修道女であったと知り、自室でもの思いに耽るケビンにサリーの声が届く。
「ごめんね、ケビン。あたし ダメだったの。
たとえ世界中の人があたしを愛してくれても
彼から愛されなきゃ、ダメだったのよ…
でも ひとりはさびしくて さびしくて さびしくて…」
モノローグ「彼女はこれからも ひとりで踊りつづけるのだろうか
さざ波のように 寄せては返す 後悔に身をまかせながら…」
 
第4話 コンパニオン・アニマル
クリスマス・シーズン。
サスペンスを書かなくなってから収入が途絶えていたケビンに、出版社から嬉しい報せが届く。
ローズマリーを題材にした短編が認められ、一冊分の原稿を求められたのだ。
少しずつ癒されていく様子を見せるケビンに、喜ばしい変化だ、とローズマリーも微笑む。
クリスマスも近付いたある日、買い物に出かけた町で、ケビンは偶然、隣家の住人・ホフマンと、その孫娘・ピア(冬休みで遊びに来ている)に出会う。
ホフマンの飼い犬・バスター(Gレトリバー)が子供を産んだので見にこないかとの誘いを受け、ケビンはホフマン宅を訪問する。
5匹を里子に出し、ホフマンが1匹だけ手元に残した子犬をピアが欲しがるが、子犬はケビンに懐いてしまい、離れようとしない。
それを見たホフマンは、クリスマス・プレゼントだと言って、子犬をケビンに託す。

312 :フレッドウォード氏のアヒル 5 :04/04/12 19:54 ID:???
悪戯盛りの子犬を持て余し、ホフマンに返してしまおうかと考えるケビン。
ある時、躾の為に叩こうとした自分を見て身を縮めた子犬の姿に、
クリフ(>>303)の姿を重ねたケビンは手を下ろし、子犬にクリフと名付ける。
ローズマリーが私用で出掛けた雪深い日、ピアが一人で訪ねて来る。
「この犬を私に頂戴」と言われるが、ケビンは即答を避ける。
ピアをホフマン宅まで送ると、留守番をしていた筈のクリフが雪の中をついてきていた。
体が冷えたのか、その夜、クリフは肺炎を起こす。
ケビンがクリフを抱いてホフマン宅に駆け込むと、いつもは吠えないバスターに激しく吠えられる。
クリフをホフマンに預け、薬を取りに家へ戻ったケビンは、灯りを背に、自分の影が死神の形になった幻を見る。
帰宅したローズマリーに「影が黒い」と言われたケビンは、この地に伝わる魔除けのまじないを教わる。
「悪魔よ去れ!」と唱えると、軋む様にドアが開き、勢いよく閉まる。
ローズマリー「昔から、病弱な子供と子犬を一緒に寝かせると、
子犬がその子の病を持って逝ってくれると言います。
死神が狙っていたのは、本当はあなたの方だったのかもしれませんね」
ケビンが再びホフマン宅を訪ね、意識の無いクリフに触れると、小さく反応を示し、尾を振る。
もう大丈夫、とクリフを連れて帰ろうとすると、ピアが泣きながら止めるが、ケビンは決然と
「ごめん、ピア。クリフを君にあげるわけにはいかないんだ」と告げる。
「でもピア―俺は小さくて、とても大切なものを失わずにすんだ。ありがとう…君のおかげだ」
こうして、フレッドウォード家に家族が増えた。
 
この回はオカルトっぽくて、解りにくいかと思います。

334 :フレッドウォード氏のアヒル 6 :04/04/13 09:54 ID:???
第5話 危険な女神
冬の朝、ケビンは不思議な夢を見る。
自分は小さな子供の姿になっていて、目の前には10歳の頃に亡くなった祖母が「彼は、まだこない。彼は、まだいかない。」と語る…
 
田舎町に暮らして1年。町にも馴染みができて、ケビン名義の童話『ローズマリー・ガーデン』も出版された。
馴染みのカフェで、本を持った娘達にサインを求められるケビン。
そんな彼を見ている、ぴったりした黒いスーツに、帽子を被った女。
「昔はマスコミをも騒がせた超一級サスペンス作家が、今じゃ田舎娘にしか相手にされないなんて、情けない話ね」
そう言いながら帽子を取ると、うねる様な豊かな金髪、エメラルドの瞳の美しい顔が現れる。
二年前までケビンの恋人だった、「世界の宝石」トップモデルのエスメラルダ――はた迷惑なくらい我が侭で、正直な、悪魔の様な女。
ケビンに童話は似合わない、都会に戻ってこい、アヒルの家政婦なんて居ないと言うエスメラルダを、ケビンは家に連れて行く。
ローズマリーを見たエスメラルダは感激し、ケビン宅への滞在を勝手に決めてしまう。
夜のお茶の席で、やはり黒いロングドレスで現れたエスメラルダに
ケビンが、黒い服ばかりだと言うと、彼女は喪服だ、と答える。
驚くケビンに、すぐ冗談だと返すエスメラルダ。
ローズマリーとクリフも交えて、暖炉の前で他愛ない時を過ごし、まるで家族の団欒の様だな…
とケビンが思っていた矢先、エスメラルダは弾かれた様に洗面所へ立つ。
ただならぬ様子にローズマリーが、妊娠しているのかと問う。
「まだ3ヶ月にならないわ。相手は…あなたの知らない人よ、ケビン」
相手はエスメラルダの妊娠を知らず、「いくら愛してもムダな人」なのだという。
ケビンは多くを聞かず、考える時間が必要だろう、とエスメラルダを気遣う。
部屋に戻ったケビンは、自分がまたエスメラルダを愛し始めているのに気付き、苦し紛れに酒をあおるのだった…

339 :フレッドウォード氏のアヒル 7 :04/04/13 11:09 ID:???
翌朝、起きてこないエスメラルダの部屋にケビンは朝食を運ぶ。
無邪気に恋人時代を懐かしむエスメラルダに苛立つケビン。唐突に、
「もしあたしが死んだら、泣く?」と聞かれたケビンは言葉に詰まる。
そんな時、ケビン宛てにブラックウェルという財団から電話がかかる。
心当たりが無いといぶかるケビンに、エスメラルダは
彼の本が財団の創設するゴールデン・プレス賞(児童文学界のアカデミー賞級)を取ったのだと言う。
財団の有力人物に知り合いがいるから、間違いない、と。
電話で明後日が受賞式だと知り、その日の内に、ケビンは都心へと出掛ける。
ホテルの部屋へ到着すると、「明日の朝食をご一緒に」と
財団社長、リチャード・G・ブラックウェルからのメッセージが残されていた。
ローズマリーに電話したケビンは、エスメラルダが「主人公が病死するメロドラマを見ていて、急に泣きだした」と伝えられる。
ケビンは今朝の事を思い出し、エスメラルダが何かの病気ではないかと心配する。
翌朝、リチャードと会ったケビンは、エスメラルダの相手が彼であり、彼こそが不治の病である事を知る。
4日前にその事を知った彼女は、リチャードの前から姿を消し、ケビンの住む町へ来たのだった。
「彼女の事も、生きる事も諦めないつもりです」と言うリチャードに、
「あなたから賞を受けるより、俺はしなければならない事がある」とケビンは席を立ち、急ぎ家に戻る。
「リチャードが死んでゆくのが怖い」と泣き崩れるエスメラルダに、彼女のリチャードへの激しい愛を感じたケビンは、
祖母の夢を思い出し「彼はまだ逝かない!」と、勇気づけ、エスメラルダを駅まで送る。
ターミナルで「お願い。あたしを、このままどこかへ…」というエスメラルダの言葉を、ケビンは遮る。
「君はついてこないよ。仮にそうしたとしても、君は一生、俺を許さないだろう。
俺も自分が許せなくなる。そしてもし、君がついてきたなら俺は――“お前”を憎む様になる」
歩き出すケビンの背に、エスメラルダは届かない小さな声で「ごめんなさい」と呟き、列車へと急ぐのだった。

360 :フレッドウォード氏のアヒル 8 :04/04/14 00:18 ID:???
第6話 金色の子犬
季節は暖かい春に移りつつあったが、エスメラルダを失ったケビンは落ち込み、纏わりつくクリフに八当たり。
動物は人間と違って、ただ好きだから、見返りを求めず傍にいてくれるのだ、と考えたケビンは、気分直しにクリフと散歩に出る。
途中で出会った教会の牧師に、独り暮らしの老人に家庭料理を運ぶボランティア(週2回・1ヶ月間)を依頼される。
ローズマリーが用意したシチューを携え、クリフと共に訪れたのは、森の外れの広大な屋敷に住むピーター・ウィリンガム。
「教授」というあだ名のウィリンガムは気難しい老人で、ローズマリーのシチューにケチをつけ、ケビンを追い返す。
ケビンは義務感で料理を運ぶが、その度に料理ごとつっ返される。
趣向を変えてクリーム・パイを持って行った日、どうやら甘い物好きらしい教授にお茶に誘われたケビンは、彼が元貿易商だったと聞く。
次の配達日、いつも連いてきていたクリフが屋敷内で迷子になる。
二人でクリフを探す内、美しい女性の巨大な肖像画に出くわす。
女性の名はエディスといい、亡くなった教授の妻であった。
家の事は妻に任せたきりにして貿易の仕事で飛び回り、
晩年、事業が傾き、金策に走っている間に妻は死に、子供達も離れていき、
残ったのは、一人で住むには広過ぎるこの屋敷だけ――と教授は後悔を語る。
日々は過ぎ、ケビンのボランティア期間が終了。
ローズマリーに、何故教授を慰めてあげなかったのか、と問われたケビンは、、友人でもない自分が無責任な事は言えない、と答える。
そんな折、一匹だけで散歩に出ていたクリフが町の雑貨屋の子供達と一緒に帰ってくる。
彼等は週1で教授宅に配達に行っており、 その帰りだと言う。
ケビンは子供達から、教授が彼等に喋った、「天使に会い、少し心が軽くなった。その天使は金色の子犬(=クリフ)を連れていた」という話を聞く。
教授宅へ行くと言うケビンに、ローズマリーは「ケーキでも焼きましょうか?」と聞くが、
ケビンは笑って「いいんだ!何もいらないんだ!少し遊びに行くだけだから!」と答え、コートをはおるのだった。

363 :フレッドウォード氏のアヒル 9 :04/04/14 13:34 ID:???
第7話 海の声をききに
文学賞をとったはいいが、プレッシャーから創作に詰まったケビンは、教授から
「まだ若いんだから、金を遣って遊べ」と言われ、ローズマリーとクリフを伴い、海辺のリゾートへ。
金銭的にも自分を追い込む為、3ヶ月の契約で高級コテージを借りる。
レンタカーで町に出たケビンは、ストリート・ギャングの少年達に財布をスラれそうになるが、昔取った杵柄で、逆にやりこめる。
それを見ていた画家志望の青年に「あなた、すごいんですね」と声をかけられ、ドライブがてら、話し込む。
青年はケビンの借りたコテージのオーナー(資産家)の息子で、ケビンが著名な作家であると知っていた。「夢だけで暮らしていけるなんて羨ましい」
人並みに苦労はした、と言うケビンに、青年は「才能なんですよ!!」と返す。
青年は30になるが仕事をせず、1日中家で絵を描いている。
だが、画家になる為のコンクールに出展した事はなく、その理由を、友人の誘いや親の名声のせいだと話す。
呆れ気味のケビンに青年は「あなたは特別なんだ。プロのあなたに、アマチュアの僕の焦りや不安なんてわからない!!」と激昂する。
「俺は特別なわけじゃない。責任転嫁をしないだけだ」と言うケビンに青年は、“海の声”の話をする。
月の出た日、海を見ていると、月が自分に
「いいんですよ、このままで。このまま時を待っていれば、きっとあなたの夢は叶えられます」
と話しかけてくると言う。彼は既に、逃げる事を受け入れてしまっていたのだ…
満月の夜。海の声を聞こうと、ケビンはコテージのベランダで待つが、3時間待っても何も聞こえない。
ウトウトするケビンに「風邪をひきますよ」とローズマリーが優しく声をかける。
月を背に佇むローズマリーを、心から美しく、神聖だ、とケビンは思う。月も彼女も、甘えや驕りで人間と同じ位置に引きずり下ろしてはならないのだ、と。
ローズマリーはワインを注いだグラスに満月を映し、ケビンに勧める。
ケビンが杯を干すと「今、あなたの中にツキ(運)が入ったんですよ」と言う。
「あなたは これからも
辛い目に遭うでしょう
苦しい事も多いでしょう
上手くいかない事もある筈です
でも あなたが立ち向かって行く限り
全てはうまく行くのです」

367 :フレッドウォード氏のアヒル 10 :04/04/14 17:21 ID:???
第8話 Shining sea
リゾートの島に滞在するケビンは、高校生バイトのガイド、シェリルと出会う。
彼女は両親と都会に暮らしているが、元々この島の出身で、ロイヤルバレエのプリマだった叔母に付いてバレエをやっていた。
夏休みの間、今は引退してバレエ・スクールをしている叔母の家に、レッスンを兼ねて滞在している。
都会には同じ年のBF、ロイが居て、彼は「バレリーナなんて、ひと握りの“特別な”人間がやる事だ」と、シェリルのバレエを快く思っていない。
騒がしい町に出たケビンは、シェリルから、もうすぐ島をあげての祭りがあり、バレエの舞台もあるのだと聞く。
シェリルは叔母に“ジゼル”のソロを頼まれているが、下手だからと踊らないらしい。
ロイにもデートの時間が少ないと文句を言われるし、自分は“特別”ではないと思うから、
今回の帰省で、叔母にはバレエを辞めると告げに来たのだ、と語るシェリル。
翌日―シェリルが自分自身を殺してしまおうとしている、と感じたケビンは、
彼女の叔母を訪ね、シェリルに「バレエを辞める前に、踊って見せてくれないか」と提案する。
ジゼルを踊るシェリルに、バレエを心から楽しんでいる様子を見てとったケビンは、彼女を外に連れだし、話をする。
「俺は学校もろくに出てないのに、今は小説家をしてる。
知らない人が聞いたら作り話だと思うかもね。
でも、俺は努力したよ。“奇跡”の入りこむ隙もないほどに…
(モノ:そう…ローズマリーに会うまでは)
踊ることが好きなのか分からなくなったなら、大嫌いになるまで踊ってごらん。きっと君にも奇跡は起きるよ」
家に戻ったシェリルは、毎日心待ちにしていたロイの手紙を握り潰し、驚く叔母に苦しい心の内を語る。

368 :フレッドウォード氏のアヒル 11 :04/04/14 17:39 ID:???
「ロイじゃダメなの。彼じゃあたしの生き方が解らない。
彼は自分の解らない事は全て否定してしまう。
世の中には、自分とは別の生き方をする人がいる事を知らない――考えようともしない。
彼じゃ私を支えられない…だってロイはまだ子供なんだもの!
…私、ケビンが好き…!
でも、私じゃあの人を支えきれない…」
叔母に泣きながらとりすがり、踊ることを無くせば生きてはいけないと、シェリルはバレエを続ける事を決意する。
祭りの当日。急に大人びた様子のシェリルは、ケビンに一輪の白百合を渡し、
「あなたの為に踊るわ」と舞台に立つ。
見事なジゼルを踊りきったシェリルは、長い長いカーテンコールを浴びるのだった…
 
ここで登場したシェリルは、後にかなり重要な役割で出てきます。
4巻までは一話完結の話で、レスをかなり消費してしまいますが
連載の展開になるとストーリーが繋がって短くまとめられると思いますので、今暫くご容赦下さい。

395 :フレッドウォード氏のアヒル 12 :04/04/15 12:31 ID:???
第9話 見果てぬ夢のむこう
コテージを引きはらい、田舎町の家に帰る日。
ケビンは消しても消しても大音量で聞こえ続けるラジオの夢を見る。
昔から、この夢を見ると、現実で対人関係に煩わされてきたケビンは、嫌な予感を覚えつつも、田舎町へ帰る。
段ボールに溜った郵便物の中に一通の手紙を見付けたケビンは、町から雑誌を買って帰ってきた後、
ローズマリーに仕事の用事で数日留守にすると告げ、都会へと発つ。
家事を済ませたローズマリーは、庭でお茶を楽しむが、近所の人間に見られそうになって、慌てて隠れる。
ローズマリー モノ「こんな時、私がもし人間だったら、と思う。
そしたら、こんな日和、誰の目を憚る事なく、堂々と午後のお茶と楽しめるのに。
本当は…アヒルがティーカップでお茶を飲んでも、驚かれる事のない世界を夢見ているのだけれど…」
友達アヒルに旅行土産を渡そうと出掛けたローズマリーは、独り暮らしのハンナ婆さんの家の前を通りかかる。
旅行前、門の近くの檻には、ハンナの息子が番犬用に連れてきたボクサー犬・ハービーが飼われていたが、檻は空だった。
友達アヒルに会ったローズマリーがハービーの事を訪ねると、処分されたのだという。
独居老人宅で散歩もなく、ペットではなく番犬だから、と愛されず閉じ込められていたハービーは、
予防接種の為に檻を開けたハンナ婆さんに喜んでじゃれつき、彼女を転倒させてしまった。
幸いハンナは軽い怪我で済んだが、ハービーは毒餌で殺されてしまったのだ。
友達アヒルは、人間の日常の残虐性が怖いと言い、ローズマリーに「あんたよく人間なんかと一緒に住めるわねぇ」と言う。
そんな人間ばかりではないと溜め息をつきつつアヒル達と別れ、帰路についたローズマリーは、子供達が盲導犬に群がっているのを見掛ける。
盲目の飼い主と犬が困っているのを見かねて、ローズマリーは自分に注意を引き付け、彼等を逃がすが、今度は自分が子供達に囲まれてしまう。
「今日のエモノはこのアヒルだ!血祭りにあげようぜ!」

396 :フレッドウォード氏のアヒル 13 :04/04/15 13:00 ID:???
ボロボロになりながらも何とか逃げ出し、帰宅したローズマリーは、クリフに寄りかかり、恐ろしさに身震いする。
モノ「怖かった…人間が怖かった…
人間とはなんて強い生き物だろう。
なんとこの世を見事に支配して行くのだろう。
この世界は この地球は
あのハービーのためにも、回っていた筈なのに――
彼はあの檻の中で、どんな夢を見ていただろう」
もの思いに沈むローズマリーにケビンからの電話が入る。
「お前の声を聞くとほっとするよ」とのケビンの言葉に、ローズマリーは涙を流す。
モノ「今、ここに、私を必要としてくれる人がいる
だから私はここにいる
ここが私のいるべき場所なんだ
たとえ私達が、いつか別れる時がきても――」
「何か変わった事は?」と問うケビンにローズマリーは「何もありませんでした」と答える。
モノ「もし、あるとしたらそれは
見知らぬ近所の犬がいなくなったということ
どこかのアヒルが子供に追いかけられたということ
どれもみな
あなた方人間の暮らしを脅かすような事件は何も――
何も起きてはいないのです」
 
この回はほぼローズマリーのモノローグで構成されています。

398 :フレッドウォード氏のアヒル 14 :04/04/15 15:33 ID:???
第10話 天国に至る門
(前話と同じ時期の、こちらはケビンの話)
ケビンが手に取った一通の手紙。
「あなたの本を読みました。失礼ですが、もし私の名にご記憶があればご連絡を。 マーク・リバー」
差出人のマークは、ケビンのストリート・ギャング時代の仲間だった。
手紙の住所を訪ねてスラムにやって来たケビンは、昔を思い出す。
―ケビンの回想―
家出して十日目。ケビンは、ストリート・ギャングのボス、ニック・ギャラガーに拾われた。
ケビンはストリートの世界に馴染めず、反発しては、ニックに殴られていた。
ニックは「ケビンは特別」だと言う。ケビンにはその意味が解らなかった。
ある日ニックが、口をきかない5歳の少年、マークを新しい仲間として連れてくる。
「この子は、ホームにいた子で、無期だった」というニックの言葉に仲間達はどよめくが、またしてもケビンには意味が解らない。
ある日ニックに、集団スリの現場に連れて行かれたケビンは、罪の意識に逃げ出そうとするが、連れ戻される。
アジトに戻ったケビンは、ニックに「どうして働いて金を稼がないんだ?どうしてもっとマトモな仕事をしないんだ?
これじゃ施設にでも入ったほうがまだましじゃないか!」と叫ぶ。
その言葉にニックは怒り「施設(ホーム)だと?」と返し、マークを呼ぶ。
マークの肩を抱き、ニックは言う。
「いいか、この子はな、喋れないんじゃない。喋らないんだ。
この子が何故そうなったか、わかるか?
マークがこのまま弱って死んでしまったとしても、
次の日にはこいつの番号だった席に新しい子供が座ってる。
ホームってのはな、そういう所なんだ!
何も知らねえくせに、きいたふうな事を言うな!」
怒ったニックに、ケビンは酷く殴られる。
床に転がりながらも「いつかお前を殺してやる」と言うケビンに「楽しみにしてるぜ!」とニックは笑う。
ケビンの襟首を掴み「痛みに慣れろ。強くなれ。
大勢に襲われたら、その中で一番デカくて強い奴に殴りかかれ!
そしてそいつを一発で倒せ!でないとお前がやられる!
それがここのルールだ!」と、ニックはケビンを蹴り倒す。
その夜、出て行こうとしたケビンはマークに服を掴まれる。

399 :フレッドウォード氏のアヒル 14 :04/04/15 16:58 ID:???
ケビンはマークを放っておけず、彼が寝つくまで傍にいてやる事にする。
毛布をかけ、軽くポンポンと叩いてやると、たったそれだけの事に感激したマークが初めて口を開く。
マークの言葉から、ケビンは「ホームで無期」とは、誰にも望まれず、孤児院施設にずっと居る子供の事であると知り、
同時にニックが言った「ケビンは特別」の意味を悟る。
それは、「普通の家庭に育ち、自分の意志で家出したケビンは、
ならざるを得ずしてストリート・ギャングになった俺達とは違う」という意味であったのだ…
翌日。
一人で他のギャング団の縄張りのゴミ箱を漁っていたケビンは、見付かってしまい、囲まれる。
ケビンはニックの言葉を思い出し、一番デカくて強そうな奴に殴りかかるが、逆に殴り飛ばされる。
通りかかったニックがケビンを助け、腹を減らしたケビンにホットドックを買ってくれる。
ニックは「お前は俺の言った事を守ったな」と笑い、ケビンを強いと言う。
「お前、ちゃんとしたいい家庭に育ったんだな。
ちゃんと愛情を受けて育った子ってさ、自分の意志を貫き通す強さがあるんだよな」
ニックも普通の家庭に育ったが、8歳で両親を亡くし、ホームに入っていたのだ。
ニックはケビンに、ストリートで生きる術を学び、自分の後継者になれと言う。
「こんな日がいつまでも続くわけがない。
いつか総てが自分の自由になる日まで、仲間は家族も同然だ。
何かあったらすぐに助けに行け。いいな?」
「うん、わかった。やってみるよ」
―現在―
モノローグ「やっぱり、あの夢は正夢だった。対人関係に煩わされる、あの夢。
ローズマリー、俺は君に出会って幸福だった。だから勘違いしかけてたんだ。
俺の家族はクリフとローズマリーだけで、ずっとそういうふうに
安らかに暮らしていけると信じかけていたんだ…
でも、それは間違いだ。
他人と関わらず生きるなんてできやしない。
他人と交わる事を恐れては、生きてはいけない」
そうして、手紙の住所に辿り着いたケビンの目の前には
『天国に至る門』(教会)が建っていた―――

412 :フレッドウォード氏のアヒル 15 :04/04/15 22:31 ID:???
第11話 虹をさがしに
ホームを兼ねた教会で、牧師になっていたマークに再会したケビンは、しばし旧交を暖める。
ケビンが抜けた後、ギャング団は警察に追われ、解散してしまったらしい。
「俺達二人が、今こうしてマトモに暮らしていけるのも、ニックのお陰なんだな。
俺達はニックの言う事だけは守った。随分悪い事もやったけど、麻薬にだけは手を出さなかった。
今頃、皆どうしてるだろうな」
と言うケビンに、マークは「ニックはここにいるよ」と告げる。
ケビンがマークに案内されたのは、教会の墓地であった。
「ニック、ケビンが会いに来てくれたぜ」
マークは2年前、慰問先の病院でニックを見つけたが、その時ニックは既に、重度のヘロイン中毒に陥っていた。
最後の言葉は「ああ疲れた。やっと休める」だった、とマークは言う。
ショックを受けたケビンは、ニックの墓の前に膝をつき、これを見せる為だけに自分を呼んだのかとマークをなじる。
マークは「知らなければ、それで幸せなのか!?」と怒る。
ニックには子供がおり、その為に金が必要で、麻薬の売人になり、中毒になったらしい。
マークは、手紙に書いた雑誌(>>395冒頭でケビンが買っていた雑誌)にニックの子供の写真が載っているという。
ケビンはしっかり見なかったから覚えていないと言い、マークの雑誌を今見るか、との問いに
「いや、見ない。俺は実際に会いに行きたい」と答える。
それを聞いたマークは「あんたの言う通り、ニックの事だけなら手紙は出さなかった。
世の中には、知らない方が幸せな事も随分あると思うし」と微笑む。
マークは、自分もニックの子供に会いに行きたいが、ホームの子供達を放っておけないから、と
子供が都会を離れて南部の田舎町に居るらしい事を話し、ケビンに託す。
ホテルの部屋で、ローズマリーに電話した後、ケビンは涙を流す。
――どうして人は、思うように幸せになれないんだろう
どうして弱い立場の人間ばかり、隅に押しやられるんだろう…
俺の大切な人ばかり、なぜ!?
虹を探したいよ、ローズマリー
虹を見たい…――

441 :フレッドウォード氏のアヒル 16 :04/04/16 14:31 ID:???
第12話 千の謌声
ケビンが家に帰り着くと、ローズマリーは低気圧。
仕事だと家を空けたのに、当の出版社から家に電話があり、ケビンの嘘はバレていた。
夕食の席、ケビンは、もの問いた気なローズマリーから視線を外し、
「ごめん、今は何も言えないんだ」と告げる。
夜。マークの言った雑誌を調べていたケビンは、慈善団体の広告に、ニックとよく似た男の子のモノクロ写真を見つける。
NICK GALLAGER Jr.(9years old)

慈善団体に電話したケビンは、
写真は、援助先の施設や学校から送られてきた物を適当に掲載しているので、ここでは判らない、と言われる。
時間はかかるが、援助先のリストを作って送ってもらう約束をし、ケビンは電話を切る。
一刻も早く、とケビンは独自に調査を開始。
朝は電話、昼は施設巡り、夜は仕事、とフル回転。
その間、あまり食事も取らず、ローズマリーを心配させる。
ホームを兼ねた、とある教会―
ケビンは、Jrが少年院や感化院にいる可能性を示唆される。
逆に、里親の元で幸せに暮らしている可能性もあるが…
どちらにしろ、そんな子供に会って、お前の父は麻薬で死んだと伝えるのか、
と牧師に問われたケビンは、答えに詰まる。
嵐の日。ローズマリーの制止を振りきり、傘もささず、ケビンは突然、教授を訪ねる。
ずぶ濡れで庭先に現れたケビンに、年寄りを驚かせて殺す気かと教授は怒る。
暖炉の前で悲し気なケビンに何かを察した教授は、自分の過去になぞらえ、ケビンを諭す。
「わしは若い頃、重大な過ちを犯してな…
愛する者達に、自分個人の事で心配をかけるのは
とても悪い事だと思っとったんだ。」
教授は、困難を独りで克服しようとして、親しい者を闇雲に心配させる事こそが罪だ、と話し、
愛する者には総てを話して安心させてやれ、と傘を持たせ、ケビンを帰す。
その帰路―
ケビンを心配して迎えに出ていたローズマリーとクリフを見たケビンは、
彼等を抱き締め、暖かな我が家へと帰るのだった。

442 :フレッドウォード氏のアヒル 17 :04/04/16 16:08 ID:???
第13話 真夜中の目覚め
ケビンはローズマリーに総てを話した。
Jrの捜索は一向に進展しないまま、2ヶ月が過ぎようとしていた。
ふと町の辻占に立ち寄ったケビンは、女難の相が出ている、と言われる。
「あんたは既に、答えの鍵を握ってるよ。
再会、出逢い、別れ――
女はお前を惑わし、おし包む…女達に助けを求めるがいい――」
 
ケビンの著作『ローズマリー・ガーデン』は11ケ国語に翻訳され、シリーズ化が決まった。
マークの教会への寄付と、Jrの捜索の為、金の入るアテが出来たケビンは喜ぶが、
先日の牧師の言葉を思い出し、眠れぬ夜を過ごす。
翌朝、慈善団体からぶ厚いリストが送られてくる。
リストを調べたケビンは、慈善団体の活動が施設だけでなく、
病院や奨学金制度のある寄宿学校にも及んでいる事を知る。
Jrがいる南部の寄宿学校は一つだけだった。
喜ぶケビンに、ローズマリーは疑問を口にする。
「どうしてマーク牧師にお聞きにならないのですか?」
ケビンは、マークがJrの居場所をはっきりと言わなかった事こそ意味がある、と考えていた。
ストリート時代、地下のアジトで真夜中に目を覚まし、皆でドアを見上げている事があった。
皆、何かを待っていた。
「だから、正面から言ってやりたいんだ。“君を捜したよ、ニックJr”って」
翌日。南部の寄宿学校を訪ねたケビンは校長に会い、Jrが在籍していたと知る。
しかし、Jrは2ヶ月前に退校になっていた。
ケビンの必死な様子に、校長は心を動かされるが、自分の一存では
肉親でもない者にJrの行き先は教えられない、と言う。
ケビンは、上の人間にあたってみるから、と理事長の名前を聞く。
理事長の名は、ジェラルド・G・ブラックウェル。
ケビンの元恋人、エスメラルダの現夫、リチャードの父だった。

459 :フレッドウォード氏のアヒル 18 :04/04/16 23:28 ID:???
仕方なくエスメラルダに電話したケビンは、Jrの事を調べてくれる様、頼む。
「あなたが2ヶ月かけて出来なかった事を5分でやってあげる。
でもケビン、覚えておいて。この貸しは返してもらうわよ。」
 
第14話 ぼくはここにいる
ケビンはエスメラルダからJrの住所を聞く。
そこには何があるのかと尋ねると、エスメラルダは暫く黙った後、
自分で確かめろ、と急に怒って電話を切ってしまう。
住所はケビンの家から車で1時間程の小さな町。
ケビンが辿り着いたのは病院だった。
受付でJrの名を出すと、感染症科へ回される。
Jrは検査中で面会出来ないので、主治医と話をするように、とケビンは、Dr.デンシャムの部屋に通される。
部屋のあまりの散らかり様に、熊のようなむさい男かとケビンは予想するが、
現れたのは眼鏡をかけた、黒いひっつめ髪の、背の高い女医。
ケビンは拡大コピーしたJrの写真を見せ「この子について伺いたい」と来意を告げる。
ケビンをマスコミの人間かと疑うデンシャムに、Jrの父の友人だ、と言うと、
彼女は冷たくケビンを見据え「じゃああなた、ギャングなの?」と聞く。
「窃盗・恐喝・スリ。諸々の犯罪を重ね、数年前、麻薬に手を出し、慈善病院で中毒死。
“そういう方”とお友達なんですか?」
怒りを抑え、書類だけでは判らない、自分は彼に命を救われたとケビンは話す。
Jrは4歳でニックと別れ、父親の記憶は殆んど無い。
担当医としてJrの体と精神を安定させる義務があるデンシャムは、今はケビンの面会を許可出来ないと言う。
せめて病名を教えてほしいと言うケビンに患者のプライバシーは教えられない、とデンシャムは背を向ける。
慌ててデンシャムの腕をつかんだケビンは、そのまま倒れてしまう。
ケビンが目覚めたのは翌朝だった。軽い栄養失調と、過労による貧血。
病室を訪れたデンシャムは、体調管理が出来ないのは子供と一緒だ、と言う。
「君には関係無い事だ」と言うケビンにデンシャムは、「そんな事では病気のJrの支えにはなれないわ」と返す。

464 :フレッドウォード氏のアヒル 19 :04/04/17 00:57 ID:???
医局へ行きがてら、デンシャムはケビンと病院内を歩く。
この病院はホスピスで、末期の告知患者が集まる所だった。
病院の特性上、亡くなる患者が殆んどで、苛立っていたデンシャムは、昨日のは八当たりだった、とケビンに謝る。
「この病院はね、さる財閥の御曹司がやっぱり重い病で、その治療の為に、その父親が建てたんですって。
彼、最近結婚したのよね。何ていったかしら、相手は派手な芸能人で――」
ここは、リチャードの為の病院だったのだ。
デンシャムはケビンに医局で入院費を払う様、一泊でも高いから驚かない様に、と言う。
そう聞いたケビンはJrの入院費は誰が払っているのかと尋ねる。
「あの子の医療費一切は国が出してるわ」
「まさか!国が全額支給する病気なんて―」
「あるわ。ヨーロッパでも先がけて、我が国はそれを実施している。
でも今や、世界中がこの病気の撲滅の為に動いてるわ。
あの子の病名は、HIV感染症…つまり、AIDS――」
 
第15話 聖母マリアの夕べの祈り
「どうかしたの?顔色が悪いわ。」デンシャムは煙草に火を着ける。
「あなた、さっきニックの病名を知って、一瞬、怯んだわね」
Jrの病室へとケビンを案内しながら、デンシャムは言う。
「ニックJrはまだ発病してはいないけど、
彼の前で動揺してうろたえて見せたり、差別しない自信がありますか?」
 
病室の前の階段の踊り場で、デンシャムは、Jrに父親の事を話さないでくれ、と言う。
「前にも言った通り、Jrは彼の事を殆んど覚えていない。それに、話したがらないわ。
Jrは父親が2年前に亡くなった事を知らされてないの。
そして半年前、母親があの子と同じ病気で亡くなっている事も知らされていない。」
ここに来てやっと安定してきたから、今はそっとしておいてくれ、
と言うデンシャムに何も答えず、ケビンは階段を上る。
ドアを叩こうとする手が一瞬止まる。
部屋の中、ベッドに上半身を起こし、本を読んでいたJrにノックの音が届く。

467 :フレッドウォード氏のアヒル 20 :04/04/17 10:57 ID:???
ニックJrはニックと同じ金髪に緑の瞳の、9歳にしては体の小さな少年だ。
自己紹介をし、握手を求めたケビンは、「僕はあなたを知らない」と拒否される。
友達は作らない、と言うJr。
「誰かと心を分かち合う喜びを覚えると、独りきりの寂しさに耐えられなくなるからね」
と過去の経験を交えて話すケビンに、何故それを知っているのかとJrは驚く。
「ずっと君を捜したよ…!」とケビンはJrを抱きしめる。
翌日の午前中からケビンは、クロスワードパズルを持って病院へ。Jrは段々とケビンにうちとけてくる。
同じ頃、病院の玄関には、リチャードの子ジョシュアを抱いたエスメラルダが到着していた。
 
第16話 総てを支配する
ケビンは病院のカフェテリアで昼を済ませ、午後もJrを見舞う。
施設や寄宿学校を転々としたJrは、その時の寂しさや、苦しさを語る。
ケビンはJrの頬をそっと撫で、「大丈夫。これからは俺がついてる」と言う。
その言葉に、小さい頃、喘息の発作で苦しんでいた時の記憶が甦るJr。
「もう大丈夫だぞ!そう言って――あれは…パパ!」
急に体を折り、発作を起こし、苦しむJr。
ケビンはナースコールで、医師を呼び、治療中、外に出される。
ショックで落ち込むケビンを、デンシャムが慰める。今日は帰った方がいい、とデンシャムは言い、2人は院内を歩く。
「もしあなたに、誰か幸せにしたい人がいるなら、まずあなたが元気にならなきゃダメよ」
と言うデンシャムに、ケビンは彼女のファースト・ネーム(グロリア)を聞き、食事に誘う。
談笑する2人を偶然に目撃したエスメラルダは、ケビンに声をかける。
エスメラルダは、中指に指輪を填めた左手をケビンの腕に絡ませる。
「お久し振り、あなた。この美しい方を私に紹介してくださる?」
 
 
アヒル書き:これで約半分位です。
モノローグや回想による心理描写が多い漫画なので、
私の主観(解釈)で書いている部分もあります事をご了承ください。

497 :フレッドウォード氏のアヒル 21 :04/04/18 11:31 ID:???
第17話 サマー・タイム
芸能ニュースに疎いグロリアは、エスメラルダが病院創設者の係累であると気付かない。
ケビンにベタベタするエスメラルダを見て気分を害したグロリアは、ケビンとの食事の約束を断り、去る。
ケビン宅への訪問を決めたエスメラルダは、忘れ物をした、とケビンを待たせ、グロリアを追いかけ、話をする。
過去の恋人であるケビンの事は自分が一番よく知っている、彼はグロリアには扱えない、
と言うエスメラルダにグロリアは「あなたになら扱えるの?」と返し、ケビンは物じゃない、と言い残し、仕事に戻る。
ケビン宅に着いたエスメラルダは、リチャードの入院の為、友人のコテージに滞在しており、この近くに屋敷を探してしると言う。
元々結婚に反対だったリチャードの父親に、ブラックウェルの跡継ぎとして育てるから子供を渡せ、と言われたエスメラルダは、
ジョシュアを守る為、子供の父親はケビンだと嘘をついた、と語り、ケビンを驚かせる。
呆然とするケビンに、迷惑はかけない、と言って、エスメラルダは去る。
翌日。
Jrを診ていたグロリアは、Jrのケビンへの想いを知る。
「僕の髪と瞳の色は、パパと同じなんだって。でも…あの人(ケビン)の瞳は青だよね」
ケビンとニックの関係を知らないJrは、ケビンの来訪に疑問を抱いているが、
その答えを知れば、ケビンは自分から去ってしまうのではないか、と悩んでいた。
オフィスに戻ったグロリアを、ケビンが待っていた。
ケビンはエスメラルダとの事は誤解で、彼女はリチャードの妻だ、と説明する。
グロリアは、エスメラルダが左手の中指に指輪をしていたのを思い出し、挙式はしたが入籍はしていないのではないか、と言う。
その事に思い至ったケビンは、エスメラルダに会いに行こうとするが、グロリアに止められる。
「ニックJrはどうするつもり?
あんなに懐かせておいて、他に用ができたら、さっさと放り出すわけ?
こんないい加減な男を、あの子は、父親だったら、と願うくらい慕っているというのに!
ニックは犬や猫の子ではないのよ!少しは自分の行動に責任を持ったらどう!?」

502 :フレッドウォード氏のアヒル 22 :04/04/19 00:07 ID:???
第18話 釣りに行こう
Jrの病室。
「こんにちわ!今日は遅かったね」
「ドクターの所に寄ってたからね」
Jrに誠実でありたいと願うケビンは、悩んだ末に、ストリート・ギャングであった過去と、ニックとの関係を明かす。
ニックの死を告げるケビンを、Jrは泣きながら、なじる。
「僕やママが、パパはもう死んじゃったかもしれない、って言うのは構わない。
でもそれを…どうして赤の他人のあなたが言うのさ!
出てって!!あんたなんか大嫌いだ!!」
 
帰宅したケビンは、ローズマリーから、今朝、エスメラルダが「近くに越せる家が見付かった」と連絡してきたと聞く。
 
その頃、病院では、Jrがある決心をしていた。
「あの人はここに、僕に会いに来たのではなく、死んだパパに会いに来てたんだ…
パパが死んじゃったんなら、ママには僕だけだ。
きっと寂しがってる。ママを捜しに行かなくちゃ」
 
Jrが消えた病院では大騒ぎになる。
グロリアは、まさかと思い、ケビンに電話するが、留守の為、直接ケビンの家に向かう。
その時ケビンは、ローズマリーと買い物に出ており、教授への植木を選んでいた。
 
パジャマとスリッパのまま外を歩いていたJrは、自身の入院の為に病院へ向かっていたリチャードに発見される。
走って逃げようとして発作を起こしたJrを、リチャードは病院へ運ぶ。
 
ケビン逹が帰宅するとグロリアが待っていて、Jrが行方不明だと告げる。
病院へ電話してJrの無事を確認し、二人は安心する。
ローズマリーに会って腰を抜かしたグロリアをソファで休ませ、ケビンは植木を届ける為、教授に電話。
風邪で寝込んでいると言う教授宅に、ケビンはグロリアを引っ張っていく。
風邪はたいした事はなかったが、教授はもう会えないかの様に、ケビンに「世話になったな」と言う。
「この家を手放そうかと思ってな…」
教授の指差す先には、エスメラルダの弁護士の名刺があった。

503 :フレッドウォード氏のアヒル 23 :04/04/19 01:20 ID:???
家を売った後は、紹介された老人ホームに入ると教授は言う。
意見を求められ、「教授の好きなように…」と言うケビンを、グロリアは廊下へ連れ出す。
老人ホームに入れば本当に弱ってしまう、言って欲しがっている言葉をかけてやってくれ、
と言われたケビンは部屋へ戻り、「売るなよじーさん!」と叫ぶ。
「俺がこんな事言うのは筋違いかもしれないけど……
この屋敷は教授自身なんだよ。あんたの血と肉と骨で建ってるんだよ。
自分の誇りを、歴史を、そんな簡単に他人に売り渡しちゃ駄目だ!」
「――馬鹿者が…“売る”とは言ってない。“売ろうか”と言ったんじゃ」と、教授は笑う。
「今度、お前と釣りにでも行くか。そちらのレディもお誘いして」
Jrも誘って皆でくり出そう、と楽しい約束をして、二人は教授の家を出る。
帰路、教授にもJrにも家族が必要だと言うグロリアに、ケビンは何事かを決心し「よし…」と呟く。
何だと聞くグロリアに、ケビンは、じきに分かるよ、と、答える。
「多分、君の手助けが必要になるから。
君だけじゃない、ローズマリーや、きっと沢山の人の、手助けが必要になるだろう――」
 
「あれがあなたの家の明かりね!
夕食のいい香りがする。何を作ってるのかしら?」
「昔を思い出すなぁ。子供の頃、兄弟逹とよく、匂いで夕食のおかずの当てっこしたんだ」
「あら!私も弟とやってたわ。そして、家に入るなりこう言うの!」
『今日の晩ごはん何〜っ?』


アヒル書き注:ここまでで判っている事(推測含)
・舞台は英国(多分)
・ケビンは10歳で祖母が他界した後家出し、17年経っている(27〜28)。
人物紹介を書いた時は気付きませんでしたm(_ _)m
・Jrは9歳。4歳で父と別れ(蒸発?)母といつ別れたかは不明。
他界を知らず、施設を転々とした描写等から、少なくとも2年以上は会っていなさそう。
・エスメラルダは既にモデルを引退している。(書いてないけど描写有り)

9 :フレッドウォード氏のアヒル 24 :04/04/21 02:27 ID:???
第19話 紙の冠の王様
午前中、ケビンとローズマリーがお茶を楽しんでいると、教授の屋敷がケビンのせいで買えなかったと、引っ越し荷物と共にエスメラルダが押しかけてくる。
Jrの調査の事で貸しがある、と言われたケビンは言い返せず、同居を認める。
病院に出掛けるのを見送るローズマリーにケビンは、「病院に行くのはこれで最後にしたい」と言う。
病室にJrは不在で、ケビンは最上階の特別室―リチャードの病室に通される。
Jrはケビンに、その時していたゲームのボードを投げつけて出て行ってしまう。
角で頬を切り、血を流すケビンに、リチャードは「綺麗な血だ。我々のとは違う」と言う。
病気の辛さは本人にしか解らないが、思い遣りを持って接する事は出来る、と語るリチャード。
エスメラルダとの事に話が及び、健康になって、必ず彼女を守る、と言う。
ケビンが特別室を去った後、Jrがやってくる。
Jrは「(ケビンを無くして)無くなって悲しいものはもうないから、ここを出て行く」と言う。
 
その日の夜。病院の柵の下に掘った穴から脱出したJrは「いい晩だね」とケビンに声をかけられ、驚く。
「お前の父親の為かもしれない、その償いかも――でも、これだけは伝えておきたかったんだ。
お前の事を思っている者がいるという事を。お前がひとりではない事を――
一緒に暮らそう、ニックJr。もう二度と、お前を病院に見舞うつもりはないよ。
だから、一緒に暮らそう」
ごめんなさい、と泣きじゃくるJrを、ケビンは家へ連れ帰る。
翌朝Jrを連れ戻す為にやってきたグロリアに、エスメラルダが、ブラックウェル夫人の立場を利用して、手続き全てをもみ消す、と宣言。
Jrに何かあった時は連絡する、とグロリアの住所を聞き出したエスメラルダは、昼の内に彼女の家具をケビン宅へ搬入。
夜、慌ててやって来たグロリアとエスメラルダが大喧嘩になり、仕方なくケビンは庭で仕事をする。
そこへJrがやって来て、「ケビンはここの王様だね」と紙で作った冠を被せるが、ケビンは深い溜め息をつくのだった…

13 :フレッドウォード氏のアヒル 25 :04/04/21 13:12 ID:???
第20話 スリー・ドッグ・ナイト
前夜、ケビンと共に庭にいたJrは高熱を出し、寝込む。
出勤したグロリアは院長から呼び出され、今回の件は彼女の責任問題だと糾弾され、昇進の話が見送られたと告げられる。
帰り際、病院の事務員に住所変更の手続きを頼まれたグロリアは、すぐ元の住所に戻るから、と断る。
夕食時、ワゴンに乗った夕食をエスメラルダがJrの部屋に運ぶ。
ジョシュアを抱いたエスメラルダに、Jrが「2階へは行かない様にする」と言うと、彼女は「子供が変な気を回すな」と怒る。
興奮して更にJrの熱が上がり、怒るケビンにエスメラルダは、Jrが出会った頃の、父親の陰に怯えるリチャードに似ていて苛立つ、と話す。
それを聞いたケビンは、ゲームの駒の様に人を動かすエスメラルダにそんな事を言う資格はない、と彼女を責める。
グロリアを巻き込んだ事を怒るケビンに、エスメラルダは、グロリアがケビンを愛し始めていると告げる。
帰宅してJrを診たグロリアに、Jrが新しい環境で緊張していると言われたケビンは、
クリフとローズマリーを連れてJrの部屋を訪れ、一緒に眠る事にする。
翌朝、Jrの熱は下がる。
Jrの容態が落ち着いたので、自分のアパートへ帰ると言うグロリアを、ケビンはひき止める。
「もう少し君にここに居てほしい」

14 :フレッドウォード氏のアヒル 26 :04/04/21 13:28 ID:???
第21話 誰かが道をやってくる
互いの気持ちがはっきりするまでケビンの家で暮らそうと、グロリアは住所変更の手続きをする。
Jrは環境に慣れ始め、少しずつ元気に、明るくなってきたいた。
ケビンはJrを学校に入れ、様々な経験をさせてやりたいと思い、グロリアと共に小学校を訪ねる。
JrのAIDSが母子間ではなく、生活感染であるとグロリアから説明を受けた校長は、
小さな子供は怪我が日常茶飯事であり、感染を拡大する恐れがある、とJrの編入を断る。
「主のお恵みと共に」と送り出された帰り道、怒りを抑えきれずケビンは「神なんかいるもんか!」と荒れる。
その様子を見たグロリアは「神はいるわ」と冷たく言い放つ。
「人間の生まれる時間、死ぬ時間。神はそれら全てを支配し賜う。
そして、定められた死の時を狂わすのが、私逹、医者の仕事…」
俺が君を支える、とケビンに肩を抱かれ、グロリアは彼への気持ちを自覚する。
グロリアモノ「支えてくれる手を必要としていたのは、彼ではなく、私の方だったのかもしれない。
精一杯無理をして、気を張って、心を奮い立たせて――
私は…ケビンの事が、好きなんだわ……」
 
クリスマスも近くなった、ある日の帰り道。
グロリアは女の子のヒッチハイカーを拾う。
ケビンの家へ向かうと言う彼女は、夏の島のジゼル――シェリルだった。
「彼のお陰で、自分で閉じかけてた夢がまた、少しずつ、少しずつ、動き出して…
今日、思い切って、列車乗り継いで、彼に告白しに来たんです!
あたし、ケビンの事が大好きなんです!」

15 :フレッドウォード氏のアヒル 27 :04/04/21 15:16 ID:???
第22話 魔女の集会
Jrと雪道を散歩しながら、ケビンは都会へ戻り、Jrを受け入れてくれる学校を探そうかと考えていた。
気掛かりはローズマリーの事――彼女は、生まれ故郷のここを捨ててまで、連いて来てくれるだろうか?
そんな折、シェリルを連れたグロリアが帰宅。
居間で再会を懐かしむ中、シェリルはあの夏からの事を語る。
彼女は猛レッスンの末、ロイヤル・バレエ・スクールに合格し、ケビンに告白しにきた、と言う。
その時、グロリアに視線を走らせたケビンに、シェリルは二人の関係を察知する。
気まずい雰囲気をローズマリーが取り為し、何となく皆は部屋に戻る。
シャワーを浴びたグロリアの部屋にエスメラルダが待っており、「あんな小娘に負けたら怨むわよ」と言って去る。
荷ほどきをするシェリルの部屋にはJrが訪れ、エスメラルダやグロリアとは違う、女の子らしい雰囲気に惹かれてゆく。
夜、Jrを診て部屋を出たグロリアを、シェリルが待っていた。
ケビンをどう思っているのかを聞かれたグロリアは、「彼が好きよ」と告げる。
シェリルは「私、負けませんから!」と走り去るのだった。
 
第23話 氷の貴婦人
Jrはシェリルに懐き、よく遊んでいた。
それを見たエスメラルダは、「子供の相手は子供にしか務まらないって事ね」とグロリアに言う。
グロリアは、シェリルは大人の女性だと言い、どちらを選ぶかはケビン次第だ、と沈んだ様子を見せる。
外から帰り、仕事場に押しかけてきたシェリルに、ケビンはうんざりして、俺がバレエを辞めろと言ったらどうするか、と聞く。
シェリルはまさかと思いつつ、ケビンの真剣な顔に出会い、「あなたの為なら辞められます」と答えるが、
ケビンは、人に流されるシェリルには、本当の意志が見えない、と言う。
病院ではグロリアが新人医の研修をこなし、「鋼鉄のデンシャム」と陰口を叩かれていた。
ふとシェリルの事を思い出し、あの子はこんなあだ名で呼ばれる事は一生ないだろう、と考えていたグロリアに、外線電話がかかる。

33 :フレッドウォード氏のアヒル 28 :04/04/23 03:53 ID:???
電話は母親からで、いつも結婚しろとうるさかったのに「もう何も言わないわ」というものだった。
 
ケビン宅。レッスンするシェリルを見たエスメラルダは、オルゴールの人形の様だと言う。
ムッとするシェリルにエスメラルダは、自分も4歳からロイヤル・バレエの講師に個人教授を受けていた事、技術だけでは金は取れない、と語る。
エスメラルダから『氷の貴婦人』(後述)の話を聞いたシェリルは、女王の気持ちが理解できず、好きな人の為なら自分が死ぬ、と言う。
「それじゃ村娘Aは踊れても、氷の貴婦人は演じられないわね」
夜、居間でシェリルが落ちこんでいると、グロリアがケーキを買って帰ってくる。
バレリーナ志望でダイエット中の自分に気を遣え、とシェリルが八当たりして居間を出ようとした時、グロリアにぶつかり、ケーキは床に落ちてグチャグチャになってしまう。
シェリルは謝りかけるが、グロリアに対して素直になれず、そのまま居間を後にする。
暫くして、やはり謝ろうとグロリアの部屋を訪ねたシェリルは、ケビンとグロリアの話を立ち聞きする。
グロリアは、シェリルは一所懸命で純粋で羨ましい、と言う。
そして、ケビンに母親からの電話の話をし、仕事の辛さを語る。
「私、今の仕事、嫌いじゃないわ。自分の望んだ仕事に就けたんですもの。でも、時々ふと…不安になるのも本当よ。
仕事に慣れるにつれて、技術が上がるにつれて、どんどん女らしさや素直さ、人間らしさを失っていく気がして…
私すっかり忘れてたんだけど…今日、誕生日だったのよ…」
優しくグロリアの肩を抱くケビンを見て、ドアの前に立ちつくすシェリル。
クリフを連れて探しにきたJrに声をかけられたシェリルは、吹雪の外へ飛び出して行ってしまう。
 
[民話:氷の貴婦人]
雪の女王は狩人の若者に恋するが、婚約者が居る若者は彼女になびかない。
我慢ならない女王は、若者を冬の森で凍死させてしまう。
自分で殺しておきながら、女王は若者の亡骸に取り縋り、泣き続ける。やがて涙は雪となり、吹雪となる。
今でも酷い吹雪の時は「女王が泣いている」といわれる。

34 :フレッドウォード氏のアヒル 29 :04/04/23 08:22 ID:???
第24話 死にたい奴はいるか
一緒に行くと言うグロリアを家に待たせ、ケビンは二人を探しに出る。
シェリルを追うJrとクリフは、サリーが死んだ沼に出る。
シェリルは凍った沼を滑り、死んでしまおうか、と呟く。
それを聞いたJrは、死ぬのなら付き合う、と自分の境遇を語る。
「もう疲れたんだ。誰かが自分を望んでくれるのを待つのも、病気が治るのを待つのも。」
そこへ、通りすがりの町の男達にシェリル達の行方を聞いたケビンが辿りつく。
ケビンの姿を見たシェリルは、「あたしの事を見てくれないケビンなんて大嫌い!!」と、氷の薄い沼の中央へ向かう。
氷は割れ、シェリルは沼に落ちてしまう。
ケビンはシェリルを追って沼へ潜る。
家では、胸騒ぎがする、とグロリアがケビン達を探しに出る。
ケビンに来るなと言われたJrは、走って助けを呼びに行こうとするが発作を起こし、クリフを走らせる。
何とかシェリルを助け上げたケビンは力尽き、沼へ沈んでしまう。
先刻の男達とグロリアが行き合い、シェリル達の事を聞いている場に、クリフがただならぬ様子で走ってくる。
男達と一緒に沼へ急いだグロリアは、倒れているJrと、氷の上に横たわるシェリルを見つける。
 
第25話 Watermark
ケビンの姿が見えず、グロリアは恐慌状態になるが、男達に諭され、落ち着きを取り戻す。
男達がボートで氷を割りながら沼を進む。
医師である自分は、助かる可能性が高い人間を優先させなければ、とシェリルを先に助けるグロリア。
人工呼吸でシェリルが息を吹き返した頃、ケビンが助け上げられる。
心停止状態のケビンに、グロリアは必死の心臓マッサージを施す。

286 :フレッドウォード氏のアヒル 30 :04/04/28 00:30 ID:???
三日後、昏睡状態だったケビンは目を覚ます。
丁度部屋へ来ていたエスメラルダから、Jrとシェリルも無事であると聞き、ケビンは安心する。
エスメラルダはケビンが気付いたとグロリアに言いに行くが、疲れきっているグロリアを気遣い、そのまま休ませる。
場面は変わって、ケビンを見舞うJr。
「僕はずっと、死ねる場所を探してたんだ。
知ってたんだ、小さい頃から、自分が病弱で育ちも不幸な事。
死んだって、僕を知って少しの人は悲しむだろうけど、だからって、世の中が変わる訳じゃない。
だから僕みたいな人間にとって、死ぬって事は、病気の痛みと苦しみが終わる、ただそれだけの事だったんだ」
沼での出来事に想いを馳せるJr。
「あの時――心底、腹が立った。生まれて初めて、病気が憎かったんだ!!
あの時、助けを呼びに行くのは、僕でありたかった。僕がケビンを助けたかったんだ!!」
ケビンはベッドの上、体を引きずるように、Jrに手を伸ばす。
「数日、高熱が続いただけでこんなに辛いなんて、今、身をもってお前の辛さが解ったよ。
ニック、俺もお前に死なれちゃ嫌だぜ。」
「大好きだよ。ケビン…」
 
ケビンはローズマリーに手伝ってもらい、眠るシェリルの部屋を訪ねる。
「ねぇローズマリー。シェリルには俺が必要なんだろうか?
そんなに俺が付いていないとダメなんだろうか。
こんな無茶をやらかして…少しでも目を離したら、今度はどんな無理をするか。
一生、俺が側で見守ってやらないと、この子はダメな子なんだろうか?」
その場面を偶然に目撃したグロリアは、声をかける事が出来ず、立ちつくす。
ジョシュアに食事をさせるエスメラルダを見ながら、グロリアは、自分も今頃は母親だったかもしれない、と過去を語る。
「8年前ね、婚約者がいたの。
私達は医者になりたての大学院生で、同じ臨床医を目指してた」
負け知らずで常にトップだったグロリアは、婚約者の「彼女に対する焦り」に気付かなかった。
婚約は解消され、相手はひと月も経たない内に、十代の女性と結婚した。
シェリルのような、可愛い女性と…
《続く》

287 :フレッドウォード氏のアヒル 31 :04/04/28 01:18 ID:???
「男って…どうして…人の心に二度と消せない程、強く自分の面影を焼き付けておいて、平気で去っていけるのかしら…」
その言葉にエスメラルダは、グロリアが昔の傷を癒せぬまま生きている事を知る。
「私はまた今度も、あの時と同じ想いを味わわされるのかしら…」
そう言ってグロリアは、独りで考えたいから暫く病院に泊まる、と言う。
「ケビンに伝えておいて。暫くここには帰らない」
 
目を覚ましたシェリルの横にはJrが待っていた。
ドクターが助けてくれた、とのJrの言葉に、シェリルは「ドクターはどうしてあたしの邪魔ばかりするの!」と怒るが、Jrは冷静に、助かって良かった、と言う。
「ちっとも良くないわ!何も分かってないくせに余計な口きかないで!子供のくせに!」
「僕は、僕とシェリルが助かって良かった、なんて言ってない!僕は、ケビンが助かって良かった、って言ってるんだよ!」
ハッとするシェリルにJrは更に続ける。
「ねぇシェリル、僕は君が大好きだよ…でも、ケビンは違うんだ。
好きとか嫌いとか、そんな問題じゃない。そんな気持ちを越えちゃってる。
例え彼が過去にどんな過ちを犯したとしても、例え未来にどんな罪を犯すとしても、総てを許せる…そんな存在なんだ。
だから――彼にもしもの事があったら、僕は君を一生許さない!!
僕はケビンが目覚めるまでそんな事ばかり考えてたんだ。君を、憎まなくちゃいけないんじゃないか、君を、大嫌いにならなきゃいけないんじゃないかって!」
シェリルは愕然とする。
「あたし、もう少しで人を殺すところだったのね――」
―ドクターがいなければ、あたしはこの手で、最愛の人を死なせるところだったんだ!!―
「あたしは自分の事しか頭になくて、身勝手で、取り返しのつかない事を…」
シェリルはベッドに突っ臥し、誰にともなく、ごめんなさい、と泣きながら謝り続ける。
 
翌朝、嫌々ながら朝食を運んできたエスメラルダに、シェリルは告げる。
「駅までタクシーを呼んでいただけませんか?あたし、学校へ戻ります」

288 :フレッドウォード氏のアヒル 32 :04/04/28 02:13 ID:???
第27話 バイバイ ブラックバード
ケビンに会わず、黙って行ってしまった方がいい、と言うシェリルに、エスメラルダは、後悔するから、とケビンに別れを告げる事を勧める。
「あなたはまた、他の誰かと出会って、新しい恋をするのだから。
辛くても、今はケビンにさよならを言わなければ…」
もう二度と恋はしない、何も出来ない、と泣くシェリルに、エスメラルダは言う。
「バレリーナになりたいんでしょう!?だったら、意地を見せてごらんなさい。
自分の力で幕を引いてごらんなさい。あなたに拍手を贈るわ…」
 
夜。グロリアの帰宅が遅い、と心配するケビンに、エスメラルダはグロリアの伝言を告げる。
「ケビン、あなた、シェリルとグロリア、どちらを選ぶの?
あなたの何も言わない優しさが、二人の女を傷付けてるわ。
このままじゃ、グロリアはあなたの元を去って行くでしょうね」
翌朝。気落ちするシェリルを慰めようと、Jrは庭の薔薇を大量に彼女のベッドへ運ぶ。
シェリルはJr礼を言い、この家を出ると告げる。
嫌がって、バレエを辞めてしまえと言うJr。
「あたしには沢山の勉強と、更に多くの経験が必要なの。
バレエを辞めたら、あたしがあたしでいられなくなるもの」
シェリルは着替え、ケビンの部屋を訪ねる。
杖をついて歩行訓練をするケビンに、すまなそうな表情を見せるシェリル。
「最後に一つだけ答えて下さい。
もし、ケビンがグロリアさんに出会う前に、あたしがここへ来ていたら、あたしを選んでくれましたか?」
「……いいや。多分、俺は――」
シェリルはケビンの言葉の途中で膝を引き、バレエの幕引きのポーズをとり、走り去る。
―踊り子の唇は、微かに震えた。あの時、さよなら、と―
コートを着込み、トランクを手に家を出たシェリルを、エスメラルダが車の前で待っており、拍手を贈る。
駅に着いても沈んだ様子のシェリルにエスメラルダは過去を語る。
貴族の娘に生まれながらも、父親と折り合いが悪く、パリでモデルになろうと、エスメラルダは家を出たのだった。
《続く》

289 :フレッドウォード氏のアヒル 33 :04/04/28 02:51 ID:???
「ポケットには片道分のチケットと、執事から借金した紙幣が3枚。
見送ってくれる人なんか誰もいなくて、手足は凍えて…
道行く人の顔さお見上げられず、恐ろしくて、狂いそうだった。
そんな時たった一人だけ、見送りに来てくれた人がいたの。あたしの、バレエの先生」
「うちの学校の?」
「有名なダンサーだったから、あなたも名前だけなら知ってると思うわ」
エスメラルダは持っていた袋から箱を取り出す。
「先生がね、この箱を取り出して、こう言ったの。
―これを受取りなさい。モデルもダンサーも、役者だって同じです。
普通の人間が普通の人間を感動させる為に、どれ程の苦労と努力を重ねなければならないか、思い知りなさい。
そして怯まず進みなさい。未知の世界を恐れる者は、自分の影を怯えるものです―」
列車に乗り込んだシェリルに、エスメラルダはその箱を渡す。
「あげるわ。今度はあなたが持つ番なのよ」
 
列車の中、箱を開けたシェリルが見た物は、丁寧に包まれたトウ・シューズ。
シェリルは、シューズの横に名前が書いてあるのを見つける。
ジェニファ・アシュトン――それは、シェリルの叔母の名だった。
―時は流れて行く。
この列車の様に、前へ、先へ、未来へ―
 
ケビンは外出着に着替え、ローズマリーの前に杖を置き、決然と告げる。
「グロリアを連れ戻してくる。力ずくでもね」

335 :フレッドウォード氏のアヒル 34 :04/04/29 12:02 ID:???
第28話 永遠(とわ)につかまえて
ケビンは病院へ車を走らせる。
―彼女がYESと言うかNOと言うか、正直それは分からない。ただひとつだけ確かなのは、このまま黙って彼女を諦めれば、俺は一生、悔いる事になる―
病院でのグロリアは、仕事に身が入らず、新人看護婦に注意される始末。
そんな時、小児科の医師、クレモンズに食事に誘われる。
彼のオフィスに通されたグロリアは、やっと自分がナンパされたと気付く。
クレモンズはグロリアの雰囲気が柔らかくなり、綺麗になったと言う。
「アベルと読んで下さい。僕から何を感じますか?」と手を握るクレモンズに、グロリアは何も感じる事が出来ず、
ケビンを強く求める気持ちを自覚し、手を振りほどくと、自分のオフィスへと走り戻る。
自分の軽率さと弱さを悔いていると、オフィスのドアをノックする音。
クレモンズが追いかけてきたと思ったグロリアは、ドアを押さえる。
「ごめんなさい!今夜はどうかしてたの!私、他に好きな人がいるの!!」
「……俺以外に?」
それはケビンの声だった。グロリアはドアを開ける。
「どうして何も言わずに行ってしまったんだ?自分に自信が無かったから?それとも、俺の事が信用出来ない?…エスメラルダから聞いたよ、婚約してたって男の話」
「違うのよ。私はシェリルの様に、好きな人の為に自分の生き方を変える事が出来ないのよ!!」―8年前も今も―
「そんな必要はない」ケビンは静かに答える。
「君はシェリルじゃない。俺は君の昔の婚約者じゃない。どうして、こんな簡単な事が解らない?
人は皆、別々の人生と、それぞれの道を歩んでる。だから、本人の意思に反して、ねじ曲げる様な事をしちゃいけないんだ。
君は俺の為に、自分の能力を抑える必要なんてない」
立ちつくすグロリア。
「グロリア、俺の事、好き?俺は君の事が好きだけど、支えたいけど、君が力を与えてくれなければ、俺は君を守る事さえ出来ない。
……だから、聞かせてくれないか?」
グロリアはケビンに歩み寄り、彼の首に腕を回す。
「好き…」オフィスの窓から差し込む月灯り下、二人はキスを交す。
――幾千の昼と幾万の夜、ずっと君を捜し続けて来た気がする。君と巡り逢って来た気がする。
生まれる前世(マエ)と死んで来世(ノチ)、君を再びこの腕に抱くのであろう真実を――

382 :フレッドウォード氏のアヒル 35 :04/05/01 00:16 ID:???
第29話 夏の雨
グロリアを連れて帰って来たその夜、酷い嵐となる。
薬を飲んで眠ったJrのベッドからクリフは抜け出し、何事か気遣う様にローズマリーに付き添い、彼女の部屋で眠る。
真夜中。
激しい雷雨の音で目覚めたJrは、クリフもおらず、怖くなってケビンの部屋へ行くが、彼は居なかった。
嵐の去った翌朝、ダイニングに集まった皆の前で、ケビンはJrに「昨日は誰のベッドに潜り込んだのさっ!」と暴露され、非常に気まずい空気が流れる。
取りなそうとしたローズマリーの動きが止まり、彼女は急に意識を失ってしまう。
絹のシーツを張ったベッドにローズマリーを運び、獣医を呼んだケビン達は、ストレスが原因との説明を受ける。
外傷は無く、数日の安静で元気になるとの事で、ケビン達は安心するが、獣医は言う。
「喋れない動物にとっても、倒れるなんてのは異常事態です。
必ず反応が遅くなったり、すぐにしゃがみこんだり、何かの危険信号を出していた筈だ。
絹のシーツに寝かせる程大切なペットなら、どうしてもっと気を配って見てやらなかったんです?
あなたは、このアヒルの何を見ていたんですか?」
獣医が帰った後、ケビンは、ローズマリーに甘え過ぎていたと反省し、もっと強くならなければ、と心に誓う。
――俺がしっかりしなければ、ニックをローズマリーを、そしてグロリアを支える事なんて出来ない。
リチャードも言っていた。健康になって、強くなって、エスメラルダと息子を守る、と。
俺にも、守るものが出来たんだ――
 
しかし、当面の問題は家事である。
家事経験が殆んど無いエスメラルダには期待出来ず、家電製品を触れば壊す。
ケビンには締め切りが4つ、グロリアはあまり仕事を休めない。
かくして――
フレッドウォード邸は、恐怖の生ゴミ屋敷へと変わろうとしていた…

384 :フレッドウォード氏のアヒル 36 :04/05/01 01:07 ID:???
第30話 夜の音
過労とストレスでローズマリーが倒れてまる二日。
エスメラルダはオーブンとレンジ、洗濯機と掃除機、花瓶と皿5枚、カップ1つと窓ガラスを破壊。
ケビンとグロリアのシャツをアイロンで黒こげにした。
これ以上何かを壊されるよりは、と家事を引き受けたケビンだが、エスメラルダから食事にケチをつけられ、キレる。
果敢にジョシュアの離乳食作りにチャレンジしたエスメラルダ。
苦心して作った食事をジョシュアが食べてくれず、怒るエスメラルダに、ケビンが言う。
「これで解ったろう。自分が折角作ったものを、まずいとか嫌いだとか、一言の元につっ返されるのがどんなに嫌な気持ちか!
このまま甘やかし続けたらな、今にこの子は、お前の様に他人を思い遣る心を持たない、誰からも嫌われる、貧相で惨めな最低の人間になるぞ。
子供を連れてさっさと街へ帰れ!」
一念発起したエスメラルダは家事に頑張るが、うまくいかない。
様子を見ていたグロリアに、化粧が禿げ、髪も爪も荒れて、このままではリチャードに嫌われる、とエスメラルダは愚痴る。
リチャードは現在無菌室に入っており、吐気が続き、痩せ細っているという。
それを聞いたグロリアは、無菌室に入るのは強化療法が出来る程に体力がついたのだ、と元気 付ける。
「それに、子供はね、お母さんから甘いお菓子の香りや、お料理や石鹸のいい匂いがするの、好きよ」
ケビンはJrとその様子を見ていた。
――あんな酷い事を言っても、ちゃんとグロリアがエスメラルダを庇ってくれてる。これが家族というものだろうか?――
Jrはこのまま時が止まればいい、と言う。「ずーっと皆で一緒にいたいね…」
 
ローズマリーが目覚め、ケビン達は皆で彼女に謝る。
休んでいろ、と家事をするケビン達の様子を見て、ローズマリーは
「ここでの私の仕事も、そろそろ無くなってきているのかもしれませんね…」
と呟くのだった。

419 :フレッドウォード氏のアヒル :04/05/11 02:14 ID:???
『リトル・クリスマス』
Jrがケビンの家に来て二度目のクリスマス。Jrには微熱が続いていた。
忙しくクリスマスの準備をする中、ケビンはJrを部屋に見舞い、話をする。
熱がひいたら好きな所へ連れて行くと言うケビンに、Jrは「パパについて教えて」と言う。
「今すぐでなくてもいいから、本当の事を。」
それを聞いたケビンは、部屋でエリオド・ナノクとしての処女作『ブラッディ・ダンス』を手に考え込む。
それは、ストリート・ギャング時代の実体験を綴り、ベストセラーとなった本であった。
翌晩、Jrはグロリアの診察を受け、偽の体温計を渡し「熱はひいた」と言う。
発熱の間隔が短くなってきているにも関わらず、元気過ぎるJrをグロリアは不審に思い、病院での検査をした方がいいのでは、と考える。
クリスマス当日。聖書の登場人物に扮した皆は大騒ぎ。宴が済んで居間に雑魚寝状態となる。
眠り込んだJrをベッドに運び、自室に戻ったケビンを、グロリアが追ってくる。
急ぎの仕事か、と尋ねる彼女にケビンは「Jrに読ませる為に出版しない話を書いている」と言う。
『ブラッディ・ダンス』に目を止めたグロリアに、ケビンは自分が「ペンの殺人鬼エリオド・ナノク」であった過去を明かす。
「まだ頭の中が子供だったからね。力まかせに書いた。でも今なら…
ローズマリーと暮らし、ニックと出会い、君を知った今なら…別の話が書けると思うんだ」
その想いを肯定する様に、優しく寄り添うグロリアに、ケビンは「Jrを養子にしたい」と言う。
独身者では養子を取れないので、事実上のプロポーズだったが、グロリアは取り乱す。
「嫌よ!私は聖母マリヤじゃないわ!弱い人間――ただの女よ!」
その頃、Jrは目を覚まし、異常に汗をかき、苦しむ。
だが、それを抑えてケビンの部屋を訪ね、悟られぬ様、毅然と言い放つ。
「ケビン、約束したよね。熱が引いたら好きな所に連れてってくれる、って。
僕は元気だよ。だから、パパに会いに連れてって」

420 :フレッドウォード氏のアヒル :04/05/11 03:26 ID:???
『遠い楽園』
グロリアは医師の立場で反対するが、帰ってきたらどんな検査でも受けるから、と懇願するJrにほだされ、許可を出す。
年が開け、いよいよ街に出発するその日。
Jrは門の前でケビンを呼び止め「ここ、僕んちだよね!」と叫ぶ。
「当たり前の事を聞くなよ」とケビンは答える。名残惜しそうに、Jrは家を見つめる。
家では、朝食の席でエスメラルダがグロリアに絡んでいた。
「最近やけにケビンに冷たいじゃない。さては、ケンカしたな?」
グロリアはエスメラルダを睨み、そして落ち込む。「私達、もうダメかもしれない」。
その日の昼、ケビン達は列車内で食事を取っていた。食欲が無さそうなJrにケビンは具合いが悪いのかと聞くが、Jrは胸がいっぱいなのだと答え、トイレに駆け込む。
床にしゃがみ込み、腹を押さえ、苦しみに耐えるJr。――しっかりしろ!パパに会いに行くんだ――
翌朝、二人はマークの教会を訪れる。マークは、お父さんには世話になった、とJrを抱きしめる。
以前のマークとの再会の時から、教会に毎月寄付をしていたケビンは、ホームの子供達に熱烈な歓迎を受ける。
マークはJrを子供達と食堂に残し、ケビンを自室を連れて行く。
食事に手を付けないJrに子供達は「お坊っちゃまにはお気に召さない」と言うが、Jrはお腹の調子が悪いのだと反論する。
険悪な雰囲気になるが、Jrも孤児であると知り、子供達は騒ぎ出す。
彼等は、ケビンがこの中から誰かを養子にするのではないかと考えていたのだ。
それを聞いたJrは、ケビンは誰も養子にはしないと思う、と言う。
努力して今の地位を築いたケビンは甘くない、厳しい人だから、と。
同じ頃、ケビンはマークから、Jrの母が無縁墓地に埋葬されてしまい、遺骨も判らない状態だ、と聞く。
「俺達に何か出来る事は?」
「無縁仏はただ土に埋められるだけだからね。墓石が建てられればいいね…」
《続く》

421 :フレッドウォード氏のアヒル :04/05/11 04:01 ID:???
話終わった二人はJrを呼び、ニックの墓を訪ねる。
「やぁパパ、会いに来たよ」Jrは墓の前に佇む。
「不思議だね……
僕はずっと、ここに来れば何かが変わるんじゃないかと思ってた。
ホッとしたり、幸せになったり、大泣きしたり、腹が立ったり…
でも、何も感じない」Jrは泣き崩れ、ニックの墓にすがる。
「だって僕、パパの顔さえ思い出せないんだもの」
暫くその様子を眺めていたケビンは、自分のコートをJrに着せかけ、助け起こす。
「クリスマスの朝、お前パパに会いたいって言ったな。俺じゃダメか?」
Jrは立ち上がると、ケビンを見つめ「ケビンの子供にはならないよ」と言う。
「……ありがとう。僕、本当は、ケビンがそう言ってくれるのをずっと待ってた。
でも――僕があなたの子になったら、ニック・フレッドウォードは生まれるけど、ニック・ギャラガーJrが居なくなっちゃうでしょ?
ケビン、大好きだよ。今のままでも十分幸せを与えてくれてる。だから、どうか怒らないで。
僕があなたからの申し出を断った今、初めて、パパとママの子である事に誇りが持てたんだよ。
僕のパパは、ニック・ギャラガー一人なんだ」
ケビンは「ニックは大した息子を持ったもんだ」と微笑む。
教会へ戻ったケビンは、ダブルでフラれた、とマークに愚痴る。
グロリアの話を知るマークは、無理もないと言う。
「調べてないのか?養父母の条件。
まず、お金にゆとりがある事。ケビンの場合、これは問題ない。
次に庭付きの大きな家である事。これも大丈夫。
最後に、養母が無職である事。母親が働いてベビー・シッターに預ける家に、国は孤児を託さないよ」
クリスマスのグロリアの態度に思い当たったケビンは、自分が彼女を女性としても、プロとしても傷付けたのだと知る。
その時、Jrが倒れた。

422 :フレッドウォード氏のアヒル :04/05/11 05:04 ID:???
『ローズマリー・ガーデン』
スラムで救急車が来ないと言われ、ケビンはマークと共にJrを病院へと運ぶ。
家を発つ時、グロリアから持たされた紹介状とカルテを見た街の病院の医師・シルツ(グロリアの知り合いでもある)は、Jrが発症している、と告げる。
フレッドウォード家では、ケビンからの連絡でJrの発症を知ったグロリアが、近くに居ながら異変を見抜けなかった自分に責任を感じていた。
街の病院では、ケビン達がDrシルツからの説明を受けていた。
今回は2〜3日で元気になるが、孤児でもあり、免疫不全でケアをしなければいけない為、この病院で預かるという。
――そうだ、ここはブラックウェルの病院じゃない。書類のもみ消しは出来ない。あの家に、ニックを連れて帰れないんだ――
マークと別れホテルへ戻る途中、ケビンは郊外の小さな売家に足を止める。
勤務を終えたグロリアは、やはりケビンと離れる事は出来ない、と夜行で街へ向かう。
シルツと会ったグロリアは、冷静で的確な仕事をしている、自分を責めるな、と励まされる。
シルツは、グロリアが田舎に埋もれているのは勿体ないと、彼女を街の病院へと誘う。
返事を保留し、病院を出たグロリアは、偶然ケビンと出会い、仲直りをする。
明日まで居られると言うグロリアを街に残し、ケビンは日帰りで家に向かう。
出迎えるローズマリーに、ケビンは告げる。
「街の郊外にね、小さな家を見付けたよ。この家に比べればまるでドール・ハウスみたいだけど
裏庭が広くてね、隅には池もある。きっとまた、ステキな君の庭が作れると思うよ。
…この屋敷を手放す事にした。街へ越すんだ。君も一緒に、ついて来てくれるね?」
答えずに食事の支度をするローズマリー。
「今夜の夜行でとんぼ帰りでしょう?だったら何か、精のつくものをね」
「ローズマリー!」
「…とうに…わかっていたんですよ。さよならの時が来ている事を」

423 :フレッドウォード氏のアヒル :04/05/11 05:38 ID:???
最終話『そして さよなら…』
――YES YES YES
俺は心の中で彼女がそう答えてくれる事を祈っていた。
なのに、打ち消しても打ち消しても、真実の声はそっと耳うちする。
別れの時が来たのだと――
「あなたには守るものが出来、支えあえる大切な人が出来た。
そして、ここでの私の役目は、とうに終わっていたのです」
「そんな事はない!君だって大切な家族だ!置いて行くなんて出来ない!」
ローズマリーは優しく微笑む。
「長い間、お世話になりました。おいとまさせて頂きます」
――とけかかった魔法…何となく、わかってはいたのだ。この日が来る事を…
誰にも束縛されず、君はこの地で、いつも自由に生きて行くのだと――

街の病院で目を覚ましたJrのベッドの横には、グロリアがついていた。
謝るグロリアにJrは、体温計に細工をしていたと明かし、彼女の責任ではない、と告げる。
どうしても父に会いたかった、来て良かった、とJrは語る。
「残念なのは、もう二度とケビンの家に帰れない、って事。
ここはリチャードの病院じゃないもんね。エスメラルダにもケビンにも、どうにもならない。
ずっとここに居るんだね…でも、良かったんだ、きっと。
これで、心の中のあの家を壊す事は、誰にも出来なくなった。永遠に…
二度と帰れない、でも本当に存在した場所――ローズマリー・ガーデン……
でも、もう一度、クリフには会いたかったな〜」

街の駅でグロリアと待ち合わせたケビンは、彼女を連れて郊外の家へ。
ケビンの指示で、リボンのかかったポストを開けると、一輪のバラの花と、カードが入っていた。
カードには『For You』の文字。
「ケビン、まさか、この家…」
「買ったんだよ。君と二人で暮らす為に。急だったんで指輪はまだなんだけど」
呆気に取られるグロリアに、ケビンはキスする。
「結婚しないか?」
《続く》

425 :フレッドウォード氏のアヒル :04/05/11 06:24 ID:???
「ずっとこうしててくれる?」寄りかかるグロリアを、ケビンが抱き止める。
「ああ…(この世が終わりを告げるまで)」

春めいた風の吹くある日。それぞれの荷造りも終わり、庭で最後のお茶会。
ローズマリーは今日、ケビンとグロリアは一週間後、屋敷を出る。
このまま別れるのは嫌だと、エスメラルダは屋敷を買うと言う。
ケビンは、教授を気にかける事を条件に、承諾する。
「そろそろ参りましょうか」と言うローズマリーを、ケビンは送っていく。
「新居に手紙を出します」
「君への返事はどこへ出せばいい?」
「あなたの本を読みます。お返事は、それでいいんです」
ゆっくりと歩き、彼等は大きな木の下で別れる。
「それでは、この辺りで…」
「さようなら」「さようなら」
――彼女は一度振り返ったきり道を逸れ、あの、白く小さな姿は、青い空と、柔らかな春草に包まれて、やがて、消えてしまった……
まるで…まるで何事も無かったかのように――

木にもたれ、ケビンがもの思いに沈んでいると、クリフとグロリアがやって来る。
「ねぇケビン。ローズマリーと出会う前、あなた、たった独りで住む為に、どうしてあんなに広い屋敷を買ったの?」
ケビンは、ただただ疲れていて眠りたかった、大きな棺の様なものだった、と答える。
「ローズマリーは言ったよ。人間の友達を作りなさい、と」
――そして、君に出会った。君となら、探しても見付かる筈のない、虹さえ見付けられる気がしたんだよ――
「伝えましょう。ローズマリーがどんな風にして、あなたの閉ざされた心を開いたか。
どんなに私達の心を温めてくれたか。
ニックに、そして私達の子供に、あなたの本を読んでくれる人々に、彼女のくれた贈り物を伝えてゆきましょう…」

426 :フレッドウォード氏のアヒル :04/05/11 06:45 ID:???
街の病院。
Jrはシルツから、来月には退院出来ると告げられる。
丁度見舞いにきたマークに、退院しても行く所が無い、とJrは訴える。
「ああ、その話ね。君を僕達の教会の孤児院で預かる事に決まったんだよ」
孤児院、と聞いて沈むJrに、マークは耳うちする。
「と、言うのは表向きで、退院したらケビンの新しい家で暮らすんだよ」
「えっ!?いいの?僕…また…ケビンと住めるの?」
「窓の外に、君の友達が来てるよ」マークはJrを抱き上げる。そこには、ケビンとクリフの姿があった。
感激で、泣きじゃくるJr。
「また一緒に暮らせるんだね。僕、元気になるから!絶対!!絶対、元気になるから!……なるからね!」

ケビンは、新居への道を歩く。
――冬には気付かなかったけど、新しい家に通じる一本道は、桜並木だったんだな…
この家に通じる道を、俺は歩き続けていたのかもしれない。君(グロリア)と出会い……
ローズマリー、俺は行くよ。君と初めて出会った、この同じ季節に。
人は出会い、別れ、そしてまた出会う。
それぞれのドアを開き…こんにちわ、さようなら。
そして
そして さよなら……【完】